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はじめに
手術や麻酔などの侵襲に対する生体反応を理解することが,術後の管理を考えるうえできわめて重要であることは論を待たない.よく知られるように,Mooreは手術侵襲に対する生体反応の経過を,第1相(障害相),第2相(転換相),第3相(同化相),第4相(脂肪蓄積相)に分類した.第1相の障害相は術直後から2〜5日続き,生体反応が最も激しいときであり,通常,手術侵襲とはこの時期を指している.術後1週間の患者管理とは,すなわち手術侵襲に対する生体反応の極期における患者管理に他ならず,適切な管理が行われないと患者は重篤な病態に陥ってしまう.
甲状腺癌の手術後で特に注意を要する点は,(1)反回神経麻痺と喉頭浮腫,(2)上皮小体機能低下症によるテタニー,(3)術後出血,(4)胸管損傷による乳糜漏,および(5)美容的に不適切な手術痕の排除であるが,いずれも基本的にはこのような事態に陥らないように手術時に細心の注意を払うべきものである.これらの予防と対策が術後管理の要点となる.やや長期的には,甲状腺ホルモン剤の投与も問題となる.
バセドウ病の治療には,手術療法のほかに抗甲状腺剤治療,アイソトープ治療がある.われわれは,バセドウ病手術の適応を「合併症のない若年者」に限定している.手術に対しリスクの高い症例は手術以外の治療法を選んでいる.バセドウ病手術は,術前に抗甲状腺剤を使用し,甲状腺機能を正常にして行う.他の甲状腺疾患の手術と同様の術後管理で何ら支障はない.強いていえば,バセドウ病甲状腺腫は血行に富むため,術後出血の可能性が他の甲状腺疾患手術におけるよりも高い.頸部はデッドスペースが少ないため術後出血は呼吸困難をきたし,早急の処置が必要となる.また,バセドウ病では骨飢餓の状態にあるものが多いため,手術を契機として血中カルシウムの骨吸着が促進し,一過性テタニーと呼ばれる低カルシウム血症の発生をみることがある.われわれは,巨大な甲状腺腫例,小児例などを除き,局所麻酔下に手術を行っている.手術時間も1時間前後であり,手術侵襲も少ない.手術は午後から行うので一晩はベッド上安静とするが,第1病日早期から歩行可とし経口摂取を始めている.
原発性上皮小体機能亢進症の術後管理では,術前の個々の患者の臨床病型を把握し,術後の急激なカルシウム,リン代謝の変動に対処していく必要がある,特に最近は種々の骨代謝マーカーが開発されており,従来の臨床病型の再評価と新しい分析を行っていく必要がある.二次性上皮小体機能亢進症では,慢性腎不全の管理を理解したうえで高度なhungry boneに対する術後の多量のカルシウム補充療法について熟知しておく必要がある.上皮小体機能亢進症の病態は最近の知見により解明されてきており,カルシウム,リン代謝およびその各調節ホルモンの作用について理解しておくことが,術後管理を理論的に行ううえで重要である.
乳癌に対する乳房切除術(腋窩郭清を伴った)の術後管理について述べる.乳房切除術の術後管理として重要なのは創自体とドレーンの管理,つまり局所管理および術後のリハビリテーションであり,特に術後1週間以内の早期の管理が重要といえる.局所管理の善し悪しにより創傷治癒が左右されるといえる.創感染や皮弁壊死を広範囲に起こした場合,創の緊張が増しリハビリテーションにも影響を与えることを念頭におき処置を行うべきである.また,術後早期からリハビリテーションを始めることにより,上肢および肩関節の運動制限を最小限にすることが可能であり,患者自身の社会復帰を早めることができる.
乳房温存手術は,術後に温存乳房内再発のリスクが若干存在することを承知のうえで患者自身が選択する術式ではあるが,外科医はそのリスクを最少に減少させ,しかも手術に伴う不快,危険,のちの術後障害の可能性をも最少とする義務を負う.したがって,本手術は全身的なリスクが比較的少ない手術ではあるが,それだけ全身的または局所的な合併症の可能性は神経質に排除する必要があり,手術自体の思想・手技,術後1週間の管理はいずれも非常に重要である.
乳房再建の術後管理は,基本的には乳房切除後の管理と同様に行っている.乳房切除後の管理との相違点としては,(1)手術時問が長く(平均7〜8時間),術後は腹部に疼痛があるため術後の喀痰の排出などの呼吸管理に注意する,(2)総出血量が乳房切除単独の場合と比べて増加するため(平均400〜500ml),術後の循環動態に注意する,(3)術後の疼痛が腹直筋採取部に特に強いため,鎮痛剤の投与や場合によっては術後硬膜外麻酔などによる疼痛対策を十分に考慮する,(4)術後の再建に伴う合併症(腹部・胸部の血腫,セローマ,皮弁壊死など)の予防・早期発見に努める,などが挙げられる.
肺部分切除は種々の疾患が対象となる.開胸術のなかでは,肺葉切除,肺全摘に比べ手術侵襲が少なく,術後管理も比較的容易である.なぜなら,肺部分切除では呼吸に関与していた肺組織の切除量が少ないため術後の呼吸・循環系への影響が少ないからである.しかし,疾患により術前・術中・術後管理の仕方が異なっており,種々の合併症を考慮した術後患者の観察,管理,治療が必要である.まず,術前・術中の患者管理のポイントについて述べ,術後管理は術後疼痛の対策,手術創・胸腔ドレーンの管理,呼吸系・循環系の治療法および全身管理などについて具体的に述べる.
肺全摘術では術後片肺となるため,肺葉切除とは術後管理に差がある.肺換気能の低下のみならず,肺循環機能の急激な変化が術直後より起こる.高齢者では特に肺血管の伸展性が少なくなり,術後肺高血圧,右心負荷をきたし右心不全となる可能性もあり,注意する必要がある.術後の喀痰貯留による無気肺,肺炎は呼吸不全に移行しやすいので十分に注意する必要がある.肺全摘後には患側胸腔は死腔となる.肺葉切除後の死腔は残存肺の膨張により減少するが,肺全摘術では,通常は術後短期には液体貯留により残存胸腔は満たされることになる.肺全摘術後でドレーンを留置する場合には,持続吸引圧は−5 cm H2O程度の弱い陰圧をかける.肺全摘術後には不整脈も起こりやすい.低酸素血症が原因となっていることも多いが,急激な縦隔変位もその一因となりえる.
肺葉切除術の対象となる疾患の大部分は肺癌であり,通常の肺癌の手術には肺門・縦隔リンパ節郭清を伴う.肺癌手術の対象は高齢者,低肺機能患者や基礎疾患を合併する症例も少なくない.また,近年では気管支形成術を伴う肺葉切除術も増加している.このような状況下では,適応の選択,術前管理,術中の慎重な管理も重要である.術後管理に際しては,(1)胸腔ドレナージの管理(排液,排気,出血)を適切に施行し残存肺の完全な再膨張を得ること,(2)術後疼痛の制卸(3)呼吸管理,(4)循環系の管理の4点が特に重要であり,これらを熟知する必要がある1).本稿では,気管支形成術も含む肺癌に対する肺葉切除術における実践的術後管理法を中心にその基本を述べる.
気道確保の方法は色々あるが,特に長期的な呼吸補助が必要と予想される状態では気管内挿管(経口的,経鼻的)が第一選択として行われるのが一般的である.したがって,気管切開術は基礎疾患の長期間の呼吸管理中に行われる二次的な気道確保の手術操作となることがほとんどで重篤例に多い.気管切開術後の管理は基礎疾患の治療に依存し,呼吸・循環管理を引き続き良好に安定維持することに集約できる.したがって,本稿では詳しい呼吸・循環管理,輸液栄養管理は他項にゆずり,気管切開術に関連する重要な合併症から術後管理のポイントについて述べた.
頸部食道癌の術後管理で最も重要なのは声帯機能を含めた呼吸管理であるが,想定し得る術式が多様なため術式別のきめの細かな配慮が必要である.喉摘術の有無,喉頭温存の場合の反回神経麻痺の有無,胸骨縦切開や右開胸などによる縦隔郭清の有無,胸部食道切除の有無,特殊例ではGrilloの手術となる場合,それぞれに注意すべき要点は少しずつ異なっている.そのほかにも,合併切除による甲状腺,副甲状腺の術後機能低下や血管吻合を伴う腸管遊離移植を行った場合の移植片血流への配慮など,各条件に応じた合併症予防策,探知対策がとられなければならない.胸部食道癌手術症例ほどではないが,近年増加傾向にある肺動脈血栓症にも注意が必要である.
胸部食道癌手術では開胸開腹という大侵襲が加えられるので,手術成績を向上させるためには無駄のない合理的な手術操作とともに周術期の管理が適切に行われることが要求される.なかでも教室では,呼吸・循環・栄養管理を食道癌術後管理の三本柱と考え特に重要視している.呼吸管理では,術後の遷延性低酸素血症を乗り切るために機械的呼吸補助を行う.循環管理では,術後早期の循環血液量の減少と術後腎機能低下を予防するために術直後から第1病日までは十分量の輸液を行い,refilling期の第2〜第3病日に輸液量を制限し,第4病日以後は維持量を投与する.栄養管理では,蛋白代謝が同化相へ移行する第4病日にfull strengthになるように,第1病日から中心静脈栄養を開始する.
わが国における食道抜去術の適応は,表層拡大型早期癌や多数の病巣を有する多発早期癌である.本術式は開胸術を施行しないため呼吸・循環系に及ぼす侵襲が少なく,右開胸開腹下に施行される食道癌根治手術と比べて術後管理上の問題となる事項はほとんどない.しかし,手術侵襲の小さいことから本術式は高齢者やpoor risk例に施行される頻度が高く,このような患者の術後管理には注意を要する.本手術は食道周囲を盲目的に剥離するため,気道系にかかる負担は決して少なくなく,また反回神経が損傷されたり,挙上胃管の血流障害など思わぬ合併症を併発することもあり,術後の病態を十分に把握する必要がある.特に重要なポイントは,術直後から第1病日にかけての呼吸・循環管理であり,この時期の管理に習熟する必要がある.
食道静脈瘤に対する治療として内視鏡的硬化療法(EIS)が普及し,その治療成績も向上がみられる.しかし,EISの治療難治例も認められ,直達手術を依頼される場合も多い.本症の大半は肝硬変症が基礎疾患であり,手術に際してはリスク判定のため術前の肝機能評価を行う.Child A,Bであれば直達手術はまず安全である.肝硬変症など肝障害例の手術後に絶対避けなければならないのは低酸素血症であり,肝血流量の減少である.手術後は合併症を起こさないように管理することに心掛けるべきであり,ここでは門脈圧亢進症に対する直達手術後の患者管理の要点を簡潔に述べた.
幽門側胃切除術後の管理について概説した.この手術は合併症が少なく安全な手術として確立しているため油断しがちになる.術後の合併症は手術適応,術前・術中・術後管理,そして手術そのものの結果であることを銘記すべきである.術後1週間の患者管理はいわゆる早期合併症を考慮して行うわけであるが,1週間以降の合併症と比較して重篤化することが多いので,より細心の注意が必要である.本文でも述べるように全身状態の把握(脈拍,血圧,発熱,呼吸状態など)が最も重要であり,異常を早く検知し合併症の検索を行い対応することで,合併症の重篤化を回避することができる.治療法の選択にも全身状態の把握が必須である.
胃全摘術は胃癌による胃切除症例の約1/5を占める.進行癌症例では膵臓や脾臓,横隔膜など重要臓器の合併切除,広範なリンパ節郭清が併せて行われるので,周術期には輸液管理をはじめ厳重な全身管理が要求される.特に術後1週間以内に認められる合併症のなかには入院期間の長期化につながる重大なものも含まれており,早期の診断と治療が肝要である.自動吻合器の使用により,手縫い吻合が主流であった頃のような食道空腸吻合部の縫合不全のリスクは低下した,しかし,最近では高齢者などのリスクの高い症例が増加しており,周術期の管理はその特殊性を配慮した輸液や呼吸管理,せん妄の予防など慎重な対応が求められる.
現在では胃部分切除術は早期胃癌に対する縮小手術の一環として行われることが多く,対象症例は高齢者や心肺に合併症を有するpoor risk症例が多い.このような症例では,術後2〜3日に心肺の合併症を誘発する危険性が高いため,同期間はアラーム機能を備えたパルスオキシメーター,A-lineによる動脈圧測定,ECGによる24時間の監視システム下で患者を管理することが望ましい.このような呼吸・循環器系の連続モニターを用い,心肺の異常の早期発見に努めるべきと考える.
消化性潰瘍のなかでも主に十二指腸潰瘍に対し選択される迷走神経切離術は,迷切の範囲により(1)全幹迷走神経切離術,(2)選択的胃迷走神経切離術,(3)選択的近位迷走神経切離術に大別され,単独術式として成り立つのは(3)の術式のみである.これらの術式には,幽門形成術や幽門洞切除術(胃半切除術)が加えられることがある.術式自体の侵襲度は低く,注意すべき点としては迷切術自体もしくは付加される術式による症状の認識であり,第二点としては合併症潰瘍に対し,特に緊急手術として選択される場合に術後合併症の発生率,死亡率が高くなるためにより積極的な全身管理を必要とすることである.
大腸は主に水分と電解質を吸収する臓器であるので,全摘により排泄される糞便の内容は水様性となり,したがって術後1週間の管理は主に水分・電解質の補給を適正に行って脱水や電解質不足が生じないようにすることが主眼となる.手術時にdiverting ileostomyが設置されているので,その排液や尿の量や電解質含量が補給の目安となる.通常,第4病日前後に経口食が開始されるので,中心静脈栄養などの特別な栄養補給は必要としない.また,ステロイド投与を受けているか受けていた症例が多いので,術中・術後の副腎皮質機能不全にも十分留意する必要がある.
成人における小腸大量切除の対象疾患は,上腸間膜動静脈血栓症,絞扼性イレウス,外傷性腸挫傷,Crohn病,腸管癒着など1)であるが,術後1週間の患者管理という観点からみた場合,上腸間膜動静脈血栓症,あるいは絞扼性イレウスを想定して話を進める.前述の疾患では術前よりsepsisの状態にあることが多いので,術後管理の要点は感染・呼吸・循環の管理,そして血栓症の場合の再血栓予防である.循環管理を厳重に行い,心拍出量と末梢循環の改善をはかり,腎機能の庇護のもとに呼吸管理に注意を払い,MOFへの移行を防ぐことが重要である.腸管壊死,縫合不全,腹膜炎に対しては,その兆候を認めれば迅速に再開腹を含めた最適の処置をとる必要がある.
結腸切除後1週間の患者管理の要点は,全身的合併症の予防,縫合不全と創感染の防止ならびに早期社会復帰への用意である.術直後から術後回復期までは他の腹部手術と大差はなく,呼吸・循環動態の管理,疼痛対策と全身的合併症に対する適切な対策が主体となる.経口摂取が開始される術後回復期から安定期では,縫合不全と創感染予防が重要である.術後合併症は複雑な要因が関与し発生するので,術後の病態生理学的知見を理解することが術後管理において重要である.
直腸切断術においても,基本的には他の大腸切除術と管理方法は類似している.しかし,決定的に異なるのは,この手術を受けることによって本来の肛門は切除され人工肛門になることと,合併症として排尿障害が起こることに対して特別な管理を要するということである.人工肛門は,壊死,脱落や周囲皮膚の糜爛が起こりうるが,ET(enterostomal therapist)ともよく連絡をとって適切なストーマケアを行うように心掛ける.排尿障害には,排尿訓練や自己導尿が必要になる場合がある.いずれにせよ,診療にあたる医師はこれらの障害が患者に与える精神的,肉体的負担を考慮して,十分に理解を得ながら管理を行っていく必要がある.
低位前方切除術は器械吻合の導入などによりその適応が拡大され,最近では術後の排尿・性機能の保存を目的に神経温存など様々な工夫がなされている.術後1週間の管理は通常の消化管手術と変わるものではないが,縫合不全,吻合部出血,骨盤自律神経切除に起因する排尿障害,あるいは直腸切除による排便障害などが本術式に特徴的な問題と考える.これらに対しては,適切なドレナージとその管理,感染対策,膀胱訓練,食餌療法などが中心となる.不幸にして合併症を併発した場合はいち早くその病態を把握し,diverting stoma造設など適切な処置を行わなければならない.
創傷管理は,(1)治癒を促進し,(2)合併症発生因子を除去し,(3)合併症の早期発見ができる管理を行うことが原則であるが,特にストーマ造設術では(2)が重要である.ストーマ創は,傷つきやすい脆弱な粘膜で構成され,そこから排泄される便は強力な汚染源である.したがって,ストーマ創は多様な合併症発生の危険をはらんでいる.また,主手術創もストーマ創からの感染の危険にさらされており,ストーマ創そのものが治癒遅延因子である.したがって,管理にあたって手術創と便流を遮断するために「パウチング」というドレッシングの一技法を用いた創傷管理が行われる.ストーマ造設術後管理は,単なるストーマの排泄管理ではないことを銘記する必要がある.
虫垂切除術後の合併症としては,術後出血,感染(腹腔内膿瘍,腹壁膿瘍など),イレウス,排尿障害,頭痛などが主なものである.術後出血は術当日,第1病日にみられるため,この間は出血を念頭において管理する.比較的頻度の高い腹腔内膿瘍,腹壁膿瘍は,術後遷延する発熱,CRP陽性,白血球増多などの血液生化学的所見に加え,腹部超音波検査,局所の発赤,腫脹に注意していれば診断は容易である.診断が確定したら早めに開創,ドレナージなどの処置をする.術後の麻痺性イレウスは,輸液など保存的治療にて改善することが多い.排尿障害に対しては術後早期からの離床を心掛ける.腰椎麻酔の結果生じる頭痛に対しては,臥床と輸液療法がよい.
肛門疾患(痔核・痔瘻)の手術は,全身状態に大きく影響しないゆえに気軽に行われてきた.しかし,種々の重篤な基礎疾患を持った患者に対しても適応が拡がっているので,術前・術後の管理は慎重に行う必要がある.全身管理に関しては,手術が腰椎麻酔で行われ,術当日から歩行や経口摂取が可能なので,それほど神経質になる必要はない.しかし,局所管理では創治癒がスムーズにいくように,ドレナージの形,排便コントロール,創の手入れなどきめ細かな配慮が必要である.特に術後出血は致命的な結果になる可能性を含んでいるので,その早期発見と予防対策は重要である.
肝葉切除1週間の術後管理の要点は,肝硬変症に特有な病態,肝切除,肝再生に伴う生理的変化を的確に判断し,(1)肝の機能容積の減少に伴う肝機能低下に対する補充療法,(2)適正な輸液管理,電解質管理,糖代謝管理,(3)腹水管理,利尿剤の使用,(4)感染症対策,(5)臓器灌流対策,肝庇護療法,(6)呼吸管理,(7)食道静脈瘤を含めた上部消化管対策,を行うことに集約される.肝切除量が機能予備能を超えると,特に感染症を契機として肝不全へと移行するので,その誘因,原因に対する対策,血漿交換を含めた早期の処置・対策が肝要である.
肝(亜)区域切除の対象となる疾患の大部分は原発性肝細胞癌である.系統的(亜)区域切除とは担癌門脈枝領域の切除を目指したもので,肝細胞癌の門脈親和性から考えて合理的な術式であり,その重要性はますます認識されるようになった1).肝細胞癌のほとんどが慢性肝炎や肝硬変を合併しているため,術後管理には十分な注意が必要である2).特に,大量の血漿製剤や利尿剤を用いるため水分・電解質の管理が重要となり,また肝離断面からは出血や胆汁の流出が認められることがあるので,ドレーンの管理には慎重でなければならない.
開腹による胆嚢摘出術,すなわちopen cholecystectomy(OC)自体の手術侵襲は大きなものではない.基礎疾患や術後の合併症がない場合,OC術後の経口摂取開始は第2病日夕〜第3病日,補液の必要期間は第5病日まで,退院は第8〜第13病日が普通である.しかし,腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)の定着以来,OCの適応はLC困難例や緊急手術例に限定され,術後出血,感染,胆管損傷,遺残結石,剥離操作に伴う消化管合併損傷などの合併症罹患率が従来より高くなると予想される.発熱や創部痛の遷延,肝機能異常などに注意して,合併症の早期診断・早期治療に努めることが術後管理の重点といえる.
拡大胆嚢摘出術とは胆嚢癌に対して肝床切除とともに所属リンパ節の郭清を行う術式を意味するが,肝床切除といっても肝切除範囲には様々なバリエーションがある.さらに,癌の進展状況によっては胆管切除・再建を併施する場合もあるが,一般的には早期の胆嚢癌が本術式の適応である.手術侵襲としてはあまり大きなものではないが,手術操作が肝実質,肝門部ならびに肝十二指腸間膜に及ぶため,出血,胆汁瘻,肝障害,肝動脈・門脈・胆管の損傷などの種々の合併症・副損傷をきたす危険性がある.術後は,全身管理とともにこのような局所的要因に起因する合併症にも留意して管理する必要がある.
総胆管切開術の手術そのものはそれほど難易度の高いものではない.適応は主に胆管結石症および胆管拡張例であるが,このような症例は通常の胆石症に比べると比較的高齢者が多く,呼吸器・循環器系の合併症をもつ頻度が高くなるため注意を要する.手術手技のポイントはTドレーンの適切な設置であり,術後管理上もTドレーンからの胆汁の流出の観察が重要である.閉塞性黄疸,胆道感染などが先行する場合には,PTBDなどの胆汁ドレナージを行って全身状態を改善したうえで開腹するのが原則である.その際には,肝予備能の低下を念頭においた術後管理が必要である.本術式施行時の術後管理の基本について述べる.
胆管空腸吻合術が単独で施行される疾患は比較的限られている.良性疾患では胆道拡張症,胆管狭窄などであり,悪性疾患では胆嚢癌,胆管癌などがある.この再建術式が一般消化管手術の術後管理と異なり特殊な配慮が必要となる点は,肝臓切除やHPDなどが一緒に行われたときである.術前より合併症がなく手術中も順調に経過した症例では,呼吸,補液,検査など特別な処置は必要がない.しかし,胆管空腸吻合術の際には,吻合部に経皮経肝的か空腸瘻としてドレナージチューブが挿入される.このドレナージチューブの管理を十分に知る必要がある.創傷治癒が完成する2週間後にチューブより造影し,吻合部の状態を観察する.この造影で吻合部の縫合不全や狭窄がない場合にはチューブのクランプを開始し,徐々にクランプの時間を増やしていく.自覚症状や肝機能検査で異常がなければ3週間後にチューブを抜去するが,炎症や狭窄がある場合には数か月もチューブを留置することがある.縫合不全や膿瘍を形成した際には,このチューブや腹腔内ドレーンからの造影とともに積極的にUS,CT検査を行い病態を把握し,必要に応じて経皮的にドレナージしなければならない.
膵頭十二指腸切除術の術後管理の注意点は,高カロリー輸液下の血糖値コントロールと,発見・処置の遅れにより多臓器不全につながる膵吻合部縫合不全をいかに取り扱うかである.糖とインスリンの量比を一定にした輸液ポンプ注入で,安定したカロリーの供給と血糖値のコントロールが容易となる.術後7日目,造影剤,色素の空腸内腔注入により縫合不全の早期発見に努める.その結果,サンプ式腹腔ドレナージによる洗浄・吸引,抗生物質投与など早期治療が可能になる.
幽門輪温存膵頭十二指腸切除術は大きな手術侵襲を伴うので,綿密な術後管理が必要である.胃液・胆汁・膵液の喪失,広範郭清による大量の滲出液,リンパ漏のため出現する脱水・電解質と酸・塩基バランスの異常,低蛋白血症に注意する.中心静脈栄養を行うが術後は糖代謝異常が出現しやすく,インスリン投与により血糖値をコントロールする.膵胃(膵空腸)吻合部縫合不全は最も注意すべき合併症であり,膵管チューブ,腹腔内ドレーンの管理を含めた厳重な予防と対策が必要である.また,長期間の胃内容停滞に留意する.
慢性膵炎症例に対する膵(管)消化管吻合術の術後早期の管理について要点を述べた.本手術後の管理の要点は,縫合不全対策,術後膵炎の防止,糖管理に集約される.特に縫合不全に対しては膵液量の減少に注意し,腹腔ドレーンの性状をこまめにチェックすることが肝要である.膵液の腹腔内への漏出は,二次的合併症を招来する危険性があり,迅速な対応が望まれる.慢性膵炎に伴う糖尿病状態では,一度重篤な病態に追い込まれると致死的となることもあり,ドレーンからの瘻孔造影やCTによる腹腔内膿瘍の検索,さらには出血に対する緊急動脈造影などを行って,重篤な病態への移行を未然に食い止めることが重要である.
近年,画像診断の進歩により膵頭部の小病変が発見されるようになり,胃・幽門輪のみならず全十二指腸を温存しつつ膵頭部のみを切除する膵頭部切除術が施行されている.膵頭部切除術の適応は,初期には慢性膵炎,膵頭部嚢胞性病変などの膵頭部良性疾患に対して施行されてきたが,現在ではlow-malignant potentialな悪性疾患にも施行されている.膵頭部切除術に特有な合併症としては,膵消化管吻合の縫合不全,術後肺炎,術後膵炎,温存した十二指腸の壊死,胆道穿孔などがある.したがって,術後には全身状態の管理と同様に局所管理も重要である.今回は,一般事項も含めた膵頭部切除術の術後1週間の管理の要点を述べた.
膵体尾部切除術は,膵の門脈左外縁より尾側を切除するものをいう.切除範囲から考えると術後の膵内・外分泌機能は保たれると考えられるが,この術式を受ける症例のなかには糖尿病を合併するものが多く,また術後の膵の線維化を考えると,術前よりその対策を講じておく必要がある.術後合併症としては,膵炎,膵液瘻,膿瘍,出血が主なものであるが,消化管との吻合を伴わないため,膵の消化酵素が活性化されにくく,早期に対処されれば重篤にならずにすむ.当術式の術後管理の要点は,早期には血糖のコントロールと術後膵炎の予防的処置,膵液瘻の早期発見とドレーン管理であり,後期には糖尿病の管理と下痢発生の防止にある.
膵全摘術後は二次性糖尿病の管理が中心となる.ケトアシドーシス,低血糖,非ケトン性高浸透圧性利尿による脱水などの合併に注意しながら,血糖値を150mg/dlから200 mg/dlに管理する.ブドウ糖投与量は,手術当日150 g,第1病日250 g,第2病日350 gと漸増し,第3病日以降は450g/日で維持する.術後早期,合併症併発時などの血糖値が不安定なときには,デキストロメーターで頻回に血糖値を測定し補正する.経口摂取は14日目頃に開始し,経口摂取の増加とともにIVHからのブドウ糖投与量を漸減する.この移行期には,IVHから投与するブドウ糖に必要なレギュラーインスリンはIVHベース輸液に混入し,経口摂取するブドウ糖に対しては毎食前の血糖値と食事量に応じて食前に皮下注する方法で管理している.
背景に動脈硬化性変化という全身性疾患が存在し,虚血性心疾患の合併が高頻度にみられることに留意する.呼吸・循環管理では慎重な輸液管理に亜硝酸剤やCa拮抗剤を併用して対処する.腎機能低下例ではドパミンに利尿剤を併用して十分な利尿をはかる.術後せん妄に対しては発症直後から向精神薬を使用する.術後合併症としては,通常の開腹術に伴うものに十分に注意するとともに,術後出血,代用血管の早期閉塞,虚血性腸管障害が血行再建術の重篤な合併症であることを認識し,早期発見と十分な処置を行う.
深部静脈血栓症の急性期症例に対する血栓摘出術は,保存的治療に比べ有効な治療法である.術後管理では,頻度は低いとはいえ肺塞栓症に対する注意と対処が重要である.一方,血栓形成による再閉塞の防止が術後治療の中心となる.ヘパリン,ワーファリンなどによる抗凝固療法を徹底し,かつ残存血栓などの溶解を目的として線溶療法を加える.また,静脈血のうっ滞防止のため患側下肢の高挙,弾力ストッキングの装着,早期の歩行開始を指導する.下肢のmilkingや空気圧マッサージは残存血栓を押し出し,肺塞栓症の危惧もあり,術後早期には施行しないほうが無難である.
急性腸管膜血管閉塞症(表)が発生すると体液や血漿が腸管内へ漏出し,循環血液量の減少からショックとなり,代謝性アシドーシスが進む.やがて腸管内へ出血が起こり,腸管壁の透過性亢進や穿孔から腹膜炎が起こる.たとえ血行再建術や壊死腸管の切除が行われたとしても,治療が遅れれば活性酸素(フリーラジカル),血小板活性化因子(PAF),アラキドン酸代謝産物,エンドトキシンなどの炎症性メディエーターは,循環不全のみならず,心,肺,腎などの主要臓器へ影響を及ぼし続ける1,2).したがって,術後1週間の患者管理では,術前・術中から続く体液喪失,感染,多臓器不全に対する治療とともに,残存腸管虚血に対する術後の配慮が必要となる.
鼠径部ヘルニアの手術は,外科研修医になって初めて行う代表的な待機的手術であることから「簡単な手術」と考えられがちだが,鼠径部の解剖学的位置関係を完全に理解するのは意外に難しい.逆にそれがきちんと理解できれば,どの術式を選択するにせよ術後管理は自ずと容易になる.もともと手術侵襲は少ない手術であるので,リスクの高い患者でも待機的にヘルニア根治術を行うぶんには大きなトラブルは起こりにくい.しかし,全身の術前評価は決して疎かにはできず,慢性呼吸器疾患,大腸癌,前立腺肥大など,ヘルニアの発症誘因となる疾患が隠れていないかを常に念頭において患者を診ていく必要がある.また,嵌頓ヘルニアは原則として早期手術が望ましい.したがって,全身状態の不良な嵌頓ヘルニア患者に対しては術前・術後管理に細心の注意を払わなければならない.
鼠径ヘルニアは小児外科領域では最も卑近な疾患であり,最近ではデイサージャリーで手術を行っているところが増えたが,4〜5日から1週間の入院のところもある.今回は1泊2日の管理を考えた.手術時間は10〜20分のもので,全身的な影響は少ない手術であるので,手術法の違いによる管理の違いはほとんどなく麻酔によるところが大きい.したがって,帰室時の呼吸状況,覚醒状況の観察は気管内挿管の有無で異なる.これにより術後の電解質維持輸液の必要性や継続時間が違ってくるが,全覚醒までは注意深い管理が必要である.ついで,合併症に備え鼠径部,精巣の観察が大切である.帰室時の状態を記載しておくことは,これと違った状態を示したときの判断基準となる.通常,手術後60分以後は平常生活ができるが,食欲不振,発熱,創部痛を訴えることが約20〜30%にみられるので,デイサージャリーでは夜間の電話対応も考慮しておかねばならない.手術法,麻酔法の進歩により日帰り手術までできるので,簡単な手術と考えられがちであるが,熟練した者が取り扱うからできるものであることも念頭に置く必要がある.
発生後比較的短い期間の小さな腹壁瘢痕ヘルニアの術後管理は,術後1〜2日より食事・歩行開始とし創感染に注意する.発生後長く放置された腹壁瘢痕ヘルニアは,ヘルニア間も大きく腸管の通過障害を伴っている場合もある.また,巨大ヘルニアではメッシュを使用する手術も必要である.剥離面が大きいので,皮下ドレーンを挿入する場合は持続吸引ドレーンを置き早期(術後2〜4日)に抜去し,創感染に対しては抗生物質の使用などにいっそうの注意を払う.創の緊張が強い場合には,semireclining positionとし疼痛緩和をはかる.術後2〜3日より食事・歩行開始とする.また,subileus状態が続いていた患者では,腸管(小腸)切除または剥離術が行われることもあり,この場合は腸手術後と同じ術後処置を行い,食事も約1週間後とする.
脾摘出術の手術侵襲は決して大きくない.しかし,術後出血,拡張した脾静脈の遺残による脾静脈・門脈血栓症,膵尾部の損傷による膵瘻などの手術手技に直接起因する合併症だけでなく,肺合併症,脾摘後敗血症など様々な合併症が起こりうる.脾摘出術の対象疾患には(1)遊走脾の茎捻転,(2)脾破裂(特発性,外傷性),(3)門脈圧亢進症,(4)血液疾患(遺伝性球状赤血球症〈HS〉,自己免疫性溶血性貧血〈AIHA〉,特発性血小板減少性紫斑病〈ITP〉,再生不良性貧血など),(5)腫瘍性疾患(悪性リンパ腫,慢性白血病,転移性腫瘍など),(6)脾動静脈瘤,などがある.対象疾患の病態や脾摘後の血液,免疫学的状態を理解し,合併症の早期発見,治療に努めることが重要である.
腎摘出術といっても種々の摘出方法,皮膚切開,および到達法があるので,各症例によってその適応,選択が異なっている.術前検査では呼吸機能,循環器系の精査はもちろん,全尿路系の形態と機能に関しては十分な検索を行っておかなければならない.一般的には血清クレアチニン値,IVP,クレアチニン・クリアランスなどを検査し,少しでも問題がありそうな場合にはレノグラムまたは腎シンチフォトグラムなどの分腎機能検査や,場合によっては一時的な透析療法も考慮しておかなくてはならない.合併症のない安定した術後経過を期待するためには,十分な術前検査および術前検討,それにつづいて正確で注意深い手術を行うことが大切である.
副腎摘除術の対象は大部分がホルモン産生腫瘍である.産生されるホルモンの種類により病態が異なり,また手術方法も異なる.さらに,ホルモン過剰産生に対しては術前に固有の処置を要し,術後も通常の外科的管理に加えて疾患固有の管理が必要となる.特に褐色細胞腫は術前のα遮断剤投与と,術中・術後のα刺激剤投与,血糖管理,循環管理など症例により処置が異なる.クッシング症候群は感染に弱く,創治癒遷延や血栓症の危険性,ステロイド補充が必須であることなどに注意する.原発性アルドステロン症では特に術前の電解質管理が重要である.副腎手術一般に関し,早期離床に努める.ステロイド補充の要・不要は,疾患と術式により異なる.
遊離植皮術の全身術後管理は,広範囲熱傷,重篤な基礎疾患や合併症のある場合を除いてあまり問題となることはない.植皮部と採皮部に対する局所管理が中心になる.遊離植皮を確実に生着させるために局所管理は大切であるが,植皮術は全身のあらゆる箇所に行われるので部位により若干特殊な術後局所管理が必要になる.特に局所安静を気にするあまり麻痺や褥瘡などの術後合併症を起こさぬように,あるいは植皮が順調な術後経過をとらない場合でも植皮の生着しない面積をできる限り少なくする観点からも術後局所管理は大切である.
早期胃癌に対する腹腔鏡下手術では,腹腔鏡下胃局所切除術ならびに腹腔鏡下胃内粘膜切除術ともに手術操作に問題がなければ,通常,術翌日〜3日目には経口摂取が開始でき,前者で術後5日目,後者で術後7日目前後の退院が可能である.これらの手術は手術侵襲が小さいことから術後管理が甘く考えられがちであるが,腹腔鏡下手術特有のピットフォールがあることにも留意すべきである.特に術直後の数時間では,無呼吸や高二酸化炭素血症に目を光らせるために頻回のチェックが必要である.また,腹腔鏡下手術で発生頻度が高いといわれている下肢深部静脈血栓症と続発する肺梗塞の防止のため,術中の予防策とともに術直後から下肢の運動の励行も必要と考える.
腹腔鏡下胆嚢摘出術は,全身麻酔下で,かつ腹腔内操作は開腹胆嚢摘出術に準じて行われるため,これに対応する術後管理が必要となる.ただし,腹腔鏡下の手技ではその低侵襲性のため,術後管理期間が大幅に短縮されるのが特徴である.術後1〜2日間を術後早期と考えて,呼吸・循環,補液などの全身管理を行い,術後4日目の退院に向けて早期に経口食を開始し離床を進める.鎮痛剤の投与は必要ないか,あっても短期間ですむことが多い.ただ,術後1週間前後までに生ずる可能性のある遅発性の胆管損傷や消化管穿孔の存在を十分認識して退院前後の管理にあたることが肝要である.
腹腔鏡下腸部分切除術は,小腸,結腸ならびに直腸領域における種々の腸疾患を対象として現在広く行われつつある.本法施行における術後管理においては,基本的には従来の開腹術後管理とほぼ同様の対応で問題はないが,炭酸ガス気腹による影響については十分留意して管理する必要がある.本稿では,このうち施行される頻度が最も多い腹会陰式術式を応用した腹腔鏡下S状結腸切除術を基本として,術後1週問の患者管理について概説する.
腹腔鏡下の鼠径ヘルニア修復術は硬膜外麻酔のみでも可能であるが,多くは気管内挿管による全身麻酔下に行われる.したがって,腰椎麻酔下で行われる従来法に比べ,術後の呼吸管理に注意を要する.また,炭酸ガスによる気腹が行われた場合は腹腔内圧上昇により静脈還流が阻害されるため,下肢の深部静脈血栓から肺梗塞を引き起こす可能性があるため,深部静脈血栓症の有無をチェックすることが重要である.メッシュ固定のステイプルによる神経損傷,腹壁およびヘルニア術後の死腔への血腫,漿液腫,皮下気腫の有無と消長に注意する.
自動吻合器などの手術器具の開発や胸腔鏡周辺機器の発達により,低侵襲の胸腔鏡手術が可能となった1-3).現在,胸腔鏡下肺部分切除術の対象としているのは,自然気胸のほかに高齢者や喘息などの重篤な合併症を有する肺癌症例,転移性肺腫瘍,気管支鏡などで診断のつかない腫瘤性病変などである.肺部分切除術も小範囲であれば手術に伴う合併症はほとんどないが,切除範囲が大きくなるとエアーリークや後出血などが起こることがある.また,高齢であったり,肺気腫・喘息などの合併症のある症例では,たとえ部分切除であっても呼吸器系や循環器系の合併症を高率に起こすので注意を要する.本稿では,胸腔鏡下肺部分切除術後の管理について留意している点を述べる.
食道静脈瘤患者は基礎疾患として肝硬変症を有する症例が大半であり,EIS,EVLなどの内視鏡的治療といえども術後の合併症として肝・腎・肺障害が少なからずみられ,術中の手技はもとより周術期の管理は治療の成否に大きな比重を占めるものと考えられる.術後は静脈瘤からの再出血,食道潰瘍出血,胃出血などの出血のコントロールはもとより,肝不全の予防が最も大切であり,呼吸器や腎の合併症の発生にも注意を要する.アルブミンや新鮮凍結血漿の投与による循環動態の安定,酸素投与,栄養状態の改善,肝性脳症の防止,腹水のコントロールなどを重点的に管理する必要がある.
ESTは胆管結石の治療のみならず,膵胆道疾患の治療と診断に重要な手技である.技術の向上と処置器具の開発により合併症率も低下している.しかし,内視鏡下の処置のなかでは侵襲の大きいものであるため,手術に準じた管理が必要である.入院治療を原則とし,翌日までベッド上安静,48時間は禁飲食とする.禁食中は輸液管理として術後2日までは抗生剤蛋白酵素阻害剤を投与する.術後5日目で自他覚に異常所見がなければ退院を可としている.早期の合併症は出血,膵炎,穿孔,胆管炎などがあり注意を要する.
胃瘻を用いた経腸栄養は,輸液による非経腸栄養と比べて生理的であり,正常な消化器機能をもつ患者にとってはきわめて有用な手段である.ところが,経口摂取のできない症例では開腹による胃瘻造設を行わねばならなかったため患者や家族の抵抗感も強く,高カロリー輸液に頼ったり経鼻胃管を挿入して行うことが多かった.このような背景のなか,1980年に内視鏡的胃瘻造設術が開発1)され,新たな経腸栄養の方法として広く受け入れられるとともに,その有用性が見直されるようになり,近年では在宅栄養管理など新たな概念も定着してきた.手技の詳細は成書2)に譲り,本稿では内視鏡的胃瘻造設術における術後管理の実際を紹介する.
糖尿病はインスリンの絶対的欠乏あるいは相対的な作用不全により血中ブドウ糖が生体内で有効に利用されず高血糖をきたす疾患であるとともに,全身の血管障害に基づく合併症を呈する疾患である.したがって,糖尿病合併手術症例に対しては血糖のコントロールのみならず,合併症の把握ならびにその管理が必要となる.本稿では,糖尿病患者の術前,術中,術後の血糖コントロールと合併症の管理のポイントについて述べる.
近年,手術対象の高齢化に伴い,心不全を有する一般外科症例が増加している.心不全を有すること自体が一般外科手術の禁忌とはなりえないが,手術予後を左右する問題であり,患者管理に際しては細心の注意を要する.
虚血性心疾患は狭心症と心筋梗塞に大別されるが,虚血性心疾患を併存する患者の管理において最も大切なことは,周術期に心筋梗塞を発症させないことであり,そのためには循環器専門医とのチームプレイが重要である.
術前のリスク評価
不整脈を有する患者の病態生理と手術との関連は,不整脈での循環動態に帰結する.術前の評価は当然このことを中心になされるべきで,各種不整脈の特性とそれを修飾する手術侵襲,周術期侵襲を併せ考えた対応が必要となる.
術前からある不整脈は,術中・術後に重症化し重大な結果を招来するものか否かの判断が大切である.診断には心電図,負荷心電図,ホルター心電図,ヒス束心電図などが必要で,不整脈の種類と程度および頻度に見当をつける.超音波検査,冠動脈造影,心臓カテーテル検査,さらに詳細な電気生理学的検査が付加的に意義がある.
高血圧症は日常診療において多い疾患であり,降圧剤を内服している患者が手術を受けることにしばしば遭遇する.高齢化社会を迎え,さらにその頻度は増加するものと考えられる.
高血圧症は本態性高血圧症と二次性高血圧症に分類されるが,大多数は本態性である.本態性高血圧の原因は不明であるが,全身の細動脈平滑筋の肥厚をきたし,各臓器の血流障害が併発する.また,太い動脈の脂肪沈着・動脈硬化を促し,脳血管障害・冠動脈硬化症・腎障害が引き起こされる.これに対し二次性高血圧は,本態性より比較的若年齢で発症することが多いことから,若年者の高血圧症例ではこの点にも注意が必要である.二次性のうちホルモン異常に起因する高血圧は甲状腺機能亢進症・原発性アルドステロン症・Cush-ing症候群・褐色細胞腫などがある.また,血管の異常によるものとして腎血管性高血圧が挙げられる.当然,術前の病歴の確認が重要である.
肝炎を合併する患者管理のポイントは,手術時期,手術法など手術の適応をいかに的確に行うかである,しかし,消化管穿孔,絞扼性イレウス,大量出血などでは手術のタイミングを逸すると致命的となり,たとえ肝炎の活動期にあっても手術に踏み切らなければならない.手術侵襲度,肝切除など肝臓に侵襲が加わる手術か否かも十分に配慮する、また,術前肝炎非合併患者に術後に肝炎類似の肝障害をみることがある.
したがって,患者管理は術後のみならず術前から始まるわけで,ここでは周術期管理の要点について述べる.
肝硬変は慢性肝障害の終末像といわれ,蛋白合成能の低下,水・電解質異常,耐糖能低下,肝および全身循環の異常,細網内皮系機能の低下,凝固線溶系異常,呼吸機能低下などがみられる1).したがって,手術に際しては肝予備能の把握,適切な術式の選択,きめ細かな周術期管理が術後合併症の防止に必要である.
腎機能障害にはその進行度にさまざまな程度があり,その病態に応じて周術期対策が異なる.一般に腎障害に対する手術では易出血性,創傷治癒遅延,組織脆弱性という三大危険因子に,易感染性,不安定な循環動態などの不利な条件が加わる.また,原疾患によってはさらに高度の全身病変が存在することが多く,たとえば糖尿病,膠原病などによる腎障害の場合,インスリンやステロイドなどの常用による影響も含めていっそう綿密な術前・術後管理が必要となる.
本稿では,透析導入前の腎機能障害患者(主に慢性腎不全患者)の病態と管理について述べる.
周術期管理の目的
低肺機能合併患者(表1)の周術期管理は,(1)術中の致命的な低酸素血症と高炭酸ガス血症を避ける,(2)術中の肺原性低血圧を避ける,(3)術後肺合併症を最少にする,(4)術後,人工呼吸から速やかにウィーニングする,ことが主な目的である.
手術後1週ないしは10日以内といった術後短期間の間に発生する死亡の原因には,術後合併症が最も多いことが知られている.さらに,様々な術後合併症のうちでも,無気肺や術後肺炎などの術後の肺合併症は,胸郭内や上腹部の手術に最も高率に発症する1)とともに,これら術後肺合併症の発生率は,術前に実施する呼吸機能検査の障害の程度と有意に相関することも多数の報告によって明らかにされてきた2).したがって,間質性肺炎や肺線維症に基づく呼吸機能障害も,障害の程度が高度になればなるほど高率に術後肺合併症を合併することも予想できる.しかし,呼吸器疾患と術後合併症の関係に関する報告の大多数が,肺気腫症などの閉塞性換気障害としての呼吸機能障害を解析したものであり,間質性肺炎や肺線維症などに伴う拘束性換気障害の程度と術後肺合併症の関連はいまだ不明といわざるを得ない.
本稿は,間質性肺炎や肺線維症患者における呼吸機能障害と,術後肺合併症の関係を記述することを目的としている.しかし,ここでは本病態における呼吸機能障害の特徴を概説するとともに,呼吸機能障害と術後肺合併症の関係,術後肺合併症の予防につき述べていく.
問診にて既往に喘息発作があるかどうかの情報を得る.聴診にて発作時には喘鳴を聴取する.肺機能検査では,肺活量,1秒率,最大中間呼気流量,ピークフロー(PEFR)の測定が必要で,喘息患者では閉塞性障害が認められる.胸部X線写真,心電図も必要であるが,喘息に特徴的な所見はなく,これらは他疾患との鑑別に重要な検査である.血液ガス分析では,明らかな呼吸困難または喘鳴がなければ所見に大きな変化はない.さらに,白血球数と好酸球の分画,血清IgE値,アレルゲン皮膚テストなどが必要である1).
出血傾向は,血管,血小板,凝固因子,線溶因子の異常が単独あるいは複合して関与するもので,急性白血病,再生不良性貧血,薬物・放射線治療による血小板減少症,先天性凝固因子欠乏症,閉塞性黄疸,肝硬変による凝固因子異常,胆管炎,穿孔性腹膜炎などの重症感染症,消化管出血に伴うDICなどが背景となる病態である.したがって,出血傾向が認められるか,あるいは予測されるこれらの基礎疾患をもっているか,あるいはこれらの状態にある患者では,術前に十分なスクリーニング検査を行い,出血傾向があれば改善させたうえで手術を考慮しなければいけない.
近年,社会の高齢化に伴い高齢者の手術を行う機会が増加している.これら高齢者手術症例のなかには,脳動脈硬化などの原因により痴呆を合併している症例もあり,時にはこのような痴呆を有しているがために術後二次的な合併症を引き起こし,重篤となる症例を経験することもある.
本稿では,最初に精神障害(特に痴呆)を合併した高齢者の患者管理を取り上げ,つぎに痴呆以外の精神疾患を合併した患者管理について述べることにした.
甲状腺機能障害を有する患者に対して安全に手術を施行するためには,周術期の甲状腺機能をいかに正常に保つかがポイントとなる.
術前より機能障害に対して十分な治療が行われていれば,合併症はほとんど生じない.しかし,治療が行われていない場合には,クリーゼなどの重篤な合併症が生ずる可能性があり,迅速な対応が必要となる.
わが国の脳血管障害による死亡は,1970年代から急激に減少し,現在,原因別では第3位となっている.しかし,有病率は依然として高く,人口の高齢化に伴い潜在的な有病率は今後さらに高まるものと考えられている.したがって,一般外科に限らず,手術が必要な患者で脳血管障害を念頭に置かねばならない症例は,今後さらに増加するものと思われる.
ショックとは全身の末梢循環不全が急激に発生した病態であるが,原因は様々で画一的に治療を論じることは難しい.ショックの管理で重要なことは,ショックの原因検索と処置・治療を並行して手際よく行わなければならないことである.
脱水症は水分の欠乏のみでなく,電解質(特にNa,K)異常を合併していることが多い.脱水症を是正せずに手術侵襲を加えると術後循環不全を容易に生じたり,術後の水分,Na貯留傾向が遷延または増強し種々の合併症の原因となりやすい.
栄養状態の評価と手術適応
1.栄養状態評価のパラメーター
術前栄養状態の指標としては,血中アルブミン(Alb),コリンエステラーゼ(ChE),総コレステロール(T.Chol)などが一般的に使用されている.短期間の栄養投与の効果判定には,Albなどよりも血中半減期の短いプレアルブミン(PA),トランスフェリン(Tf),レチノール結合蛋白(RBP)などのrapid turnover proteinを用いたほうがより正確に評価できる.また,総リンパ球数(TLC),遅延型皮膚反応(PPD)などの免疫能も栄養状態を強く反映する.
血液データ以外では,体重・理想体重比(栄養指数,%IBW)あるいは体重・健常時体重比,上腕三頭筋部皮厚(TSR),経口摂取状態,体重減少の有無などが栄養状態の簡便かつ有用な指標である(表1).
副腎皮質ステロイド投与の対象症例
副腎皮質ステロイドは様々な疾患に使われ,その疾患の性質上,長期投与例が多い.そのような患者では副腎皮質の萎縮が予想されるため,手術などの侵襲が加わるときには副腎皮質機能に対する適切な検査と管理が必要である.
ステロイド剤が長期投与される疾患には,(1)膠原病,(2)腎疾患,(3)呼吸器疾患,(4)血液疾患,(5)消化器疾患,(6)神経疾患,(7)内分泌疾患などがある.それらのなかで,(1)膠原病には慢性関節リウマチ,全身性エリテマトーデス(SLE),(2)腎疾患にはネフローゼ症候群,(3)呼吸器疾患にはアジソン病,(4)血液疾患には白血病,血小板減少性紫斑病,(5)消化器疾患には肝硬変,潰瘍性大腸炎,(6)神経疾患には多発性神経炎,(7)内分泌疾患には副腎腫瘍による副腎全摘後の患者,などが代表例として挙げられる.
抗血液凝固剤は,心弁置換術,動脈バイパス術などの心臓血管外科手術後の患者や脳または冠動脈血栓症患者,血液透析のシャント患者などで使用されていることが多い.弁置換術後の患者においては術後に胆石発生が多いという報告1)もあり,このように長期に抗凝固剤を使用している患者においても一般外科手術を受ける機会が増えてきたと思われる2).
ここでは,一般的な全身麻酔下での手術に対するその術前評価と管理について述べる.
近年,透析医療の進歩により慢性透析患者にも比較的安全に手術が行われるようになった.しかし,透析患者は慢性腎不全というだけでなく,体液のアンバランス,心機能異常,電解質・酸塩基平衡異常,糖・脂質・蛋白・アミノ酸異常,内分泌異常など全身疾患としての特殊な病態を有するため,手術をするうえでのリスクは高く,種々の合併症を併発する危険性を常に秘めている.また,易感染性,創傷治癒の遅延,出血傾向,貧血など手術に不利な条件を兼ね備えていることが多い.よって,手術を施行するにあたっては,術前から十分な予防的処置が必要であり,術中・術後においても細心の注意と管理が要求される.
肥満とは,体内の脂肪組織量が正常範囲を越えて異常に増加した状態で,その成因により明らかな原因疾患の認められない単純性肥満と,内分泌疾患など何らかの疾患に随伴してみられる症候性肥満とに分けられる.ほとんどが単純性肥満であるが,症候性肥満の可能性がある場合は詳細な病歴,家族歴,薬剤服用歴の聴取や,血中の各種ホルモンを測定し,背景にある基礎疾患の十分な把握と術前のコントロールが必要である.
肥満の程度の判定には表に示すように種々の方法がある.理想的には体脂肪量を基準にすべきであるが,体脂肪量を直接測定するのは実際的ではないので,臨床的には身長と体重から体脂肪量を推定する.肥満患者の手術にあたっては,特に標準体重比が2.0を超える高度肥満患者morbid obesityの取り扱いが問題になる1).
70歳以上を高齢者として術後1週間の患者管理について,根治手術を行う際に開胸と開腹という高齢者にとって最も手術侵襲の大きい食道癌症例を中心に述べたいと思う.
妊娠中の手術の特殊性は,母体と胎児の両者に気を配らなければならない点にある.すなわち,妊婦の手術に当たり特に留意すべき事柄は,流産・早産の予防と,薬物・麻酔などの胎児への影響を最小限にすることである.したがって,妊娠中の外科手術は,母体や胎児に及ぼす影響を考慮して,術前検査や手術適応,手術時期などを決定しなければならない.
HIV感染者とは,HIV (human immunodefi-ciency virus:ヒト免疫不全ウイルス)に感染している患者をいう.近年,日本においても,HIV感染者の急速な増加に伴い,HIV感染者に対する手術例も必然的に増加してきている1).
本稿では,このHIV感染者という特殊な状態の患者の周術期の患者管理における注意点について簡単に述べる.
消化管出血に対しては失血に対する処置,出血源の診断と非観血的止血処置,手術時期の判断などが重要であるり,これらを中心に術前・術後管理について述べる.
イレウスの術前・術後管理にあたり,脱水,電解質・代謝異常,および腸管の循環障害に引き続き生じるbacterial translocation,エンドトキシン血症という病態を理解して対応することが重要である1).
手術適応および術前のリスク評価
潰瘍性大腸炎(以下,UC)の手術適応を表に示す1).このうち絶対的適応では緊急手術を要する例も多い.(1)の穿孔,またはその疑いのあるものでは可及的速やかに手術を行うべきであるが,(3)や(4)においても病状が進行するほど一般に手術予後が悪化し術式も限定され,患者のQOLを低下させることになる.
特に(3)では,拡張した横行結腸ガス像や発熱,頻脈などの中毒症状が特徴的であり,手術後DICなどの合併もあり重篤な病態である.また,待機手術においても,ステロイドの大量投与は縫合不全や急性副腎不全を発生させる危険があることをよく認識すべきである.
初診時の病態把握
1.胆石性胆嚢炎
急性胆嚢炎は胆石の頸部嵌頓,胆嚢管閉鎖などが誘因となって発症する胆石性急性胆嚢炎が最も多く(90%前後),胆石症の厄介な合併症として認識されている.臨床症状は類似していても術前リスクは多種多様であり,急性閉塞性胆管炎が先行している場合は重篤化する率が高い.起炎菌としてはE.coliやKlebsiellaなどのグラム陰性桿菌Enterococcus groupのグラム陽性菌が多いが,最近では嫌気性菌Bacteroides fragilis groupが増加している1).胆管炎の定義については議論の多いところであるが,胆管胆石や腫瘍などの胆道疾患に基因する胆汁うつ滞が発生し,黄疸(血清総ビリルビン値5mg/dl以上),高熱(白血球数9,000以上,胆汁中の細菌を証明),上腹部の自発痛を伴うなどの条件は一致している.いずれにせよ,胆道感染と総称されている急性胆嚢炎,急性胆管炎の術前リスク判定と術前管理は表に示す順序でチェックしていく.
これらの急性炎症症例は,基本的には手術適応と考えられているが,US下穿刺ドレナージ術(PTGBD,PTBD)や内視鏡下胆道ドレナージ術(EST,ERBD,ENBD)の技術が著しく進歩した今日では,大部分の症例は待機的手術が可能になり,最近では腹腔鏡下胆嚢摘出術も実施されるようになった.
幽門狭窄症の定義は,はっきり定まったものがあるわけではないが,一般には胃幽門前庭部から十二指腸にかけての癌,またはこの部の消化性潰瘍の瘢痕化により,消化管径が細くなり胃内容の十二指腸への通過が不良となった状態をいう.消化性潰瘍例が激減した現在,本章では癌による狭窄についてのみ述べる.
閉塞性黄疸は胆道閉塞による胆汁うっ滞という単純な機序によるが,肝のみならず腎,胃粘膜,血液凝固能など多臓器障害の準備状態にあるといっても過言ではない重篤な病態である.血清総ビリルビン値が10mg/dl以上の高度黄疸例では胆道ドレナージによる減黄をはかるべきであり,それにより肝を中心とした各種臓器機能の改善が期待される.一般的には胆道ドレナージ施行後4週間前後に根治手術が予定されることが多く,その間に各臓器機能の詳細な評価が必要とされる.
また,手術侵襲の大きさが異なるため,各種画像診断法を用いての良性または悪性閉塞性黄疸の鑑別,後者では胆管閉塞部位と範囲,脈管を含む周囲臓器への浸潤の有無・程度の判定が大切である.胆管の閉塞期間が長期に及ぶものは肝機能が不良なことが多いため,患者の病歴の詳細な聴取も大切である.
外科全般にいえることだが,対象症例が高齢化するに伴い術後合併症として急性心不全に遭遇する頻度が増加してきている.術後早期に心不全を惹起する原因としては,(1)心臓の機械的障害(弁膜症,先天性心疾患,心タンポナーデなど),(2)心筋障害(虚血性心疾患,心筋症,心筋炎,代謝異常など),(3)不整脈疾患,などがある.また,特殊なものとして開心術後の心不全が挙げられる.
術後早期に心不全に陥る症例は基礎疾患を有している場合が多い.術前に正確な既往症の聴取と理学所見,検査所見の把握をしておくことが重要である.心電図では不整脈,心筋虚血,心筋梗塞,心肥大の有無を確認し,胸部X線写真で心拡大,肺水腫の有無を確認する,心エコーを施行し左室機能評価,弁膜症,短絡疾患の有無を確認しておく.異常を認めた場合には,心臓カテーテル検査,血管造影検査を施行し病態を正確に把握しておくことが重要である.
術後急性腎不全は重要な合併症の1つである.その診断と治療は速やかな対処が必要であり,術後管理として出血,肺炎などとともに最も発生を避けるべき病態である.
近年の術後管理の進歩にもかかわらず,患者の高齢化や手術適応の拡大もあってか術後呼吸不全の発生頻度は減少していない.なおかつ,術後の呼吸器系合併症はいったん発症すると予後を著しく悪くするので予防と早期治療が重要である.術後の呼吸不全の大きな原因は,肺炎および肺水腫である.
10年ほど前まではDICといえば「死に至る」病態であった.現在では基礎疾患を完治できれば決して諦めたものでなく,救命できることも多い.基礎疾患の治療の進歩とDICの早期発見,早期治療によるものと考えられる.
全身的ストレスと消化管出血の関連で歴史的に有名なのは,重度の火傷に続発するCurling ulcer注1)と脳出血・脳外傷などの脳の器質的障害に続発するCushing ulcer注2)である.約20年前の日本では,脳外科手術後の患者が消化性潰瘍による出血・穿孔を起こし,消化器外科医が緊急手術に活躍するということはそれほど珍しいことではなかった.
当時すでに様々なストレスによって惹起される急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)の概念はほぼ定着しつつあったが,術後に胃管からマーロックスなどの制酸剤を定時的に注入したり,臨床使用が可能になったH2プロッカーを集中治療室収容の術後患者に予防的に使い出したのは70年代の後半から80年代の始めにかけてである.それ以後,手術後の消化性潰瘍による消化管出血の頻度は大幅に低下した.
肝切除術後に併発する肝障害は,腹水の貯留などの軽度のものから肝機能不全(以下,肝不全)に至る重篤な合併症まで様々で,術後管理に難渋することをしばしば経験する.本稿では,特に肝硬変併存肝癌切除術後に併発した肝不全の発生機序を示し,その対策と予防について述べる.
術後イレウスでは,麻痺性イレウス,単純性イレウス(主として癒着性イレウス),複雑性イレウス(絞扼性,腸重積,軸転不通症,内ヘルニア嵌頓など)のいずれもが発症しうるが,術後早期では癒着性イレウスが最も多くみられる.開腹術後には一時的に腸管運動の減弱,腸蠕動音の消失,排ガス停止がみられ腹部は膨満し,いわゆる生理的イレウスが出現する.術後の消化管運動の回復時期は臓器により異なるが,胃では術後3〜4時間,小腸で5〜7時間,右側結腸で24〜47時間,左側結腸で51〜59時間とされる1).
したがって,術後少なくとも第2〜第3病日までは術後の腸管麻痺,すなわち生理的なイレウスがあると考えてよい.その後,腸管運動が回復してくるが,72時間を超えてさらに腸管運動の停止が持続したり,一度回復した腸管運動が再び減弱する場合はイレウスの併発を考慮する.
概念・特徴および成因
肝・胆道系以外の疾患に対して行われた手術後,その影響が取りきれていない術後早期の期間に発症した急性胆嚢炎をいう.特に術後7〜10日目頃,ないし術後の経口摂取を再開した数日後に発症することが多く,大多数が胆石を伴わない無石胆嚢炎である.
本邦での発生頻度は全手術例の0.06%,開腹手術の0.09%と報告1)され,胃切除術・食道癌手術など上腹部手術後の例が多いが,下腹部手術後や心臓外科・整形外科など非開腹手術後でも発症することがある.術後という特殊な状況下で発症するため,胆嚢炎の症状が隠蔽されがちで診断が難しく,また経過が急速で胆嚢の壊死・穿孔など重篤化しやすく,診断・治療の遅れが予後不良につながることが多い.
術後急性膵炎は比較的稀な合併症であり,診断がつきにくいこと,重症例が多く死亡率が高いという特徴がある.White1)らの術後急性膵炎70例の検討によれば,発生頻度は膵損傷の可能性がある胆道手術では0.7%(30/4,482),胃切除術では0.8%(17/2,096),脾臓摘出術では0.8%(3/373)であり,死亡率は42%(30/70)であった.厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班が1988年に行った全国調査でも,術後重症膵炎は重症膵炎の5.4%(63/1,160)を占め,死亡率は49%(31/63)と高率であった2).
以下に,術後急性膵炎の診断,治療,予防について述べる.
重症患者の治療・管理を効果的に行う目的の集中治療部(室)Intensive Care Unit:ICUは,現在多くの医療施設に設置されている.しかし,CCUを主とするICU,重症の救急患者を主とするICU,術後の患者を主とするものなど,その運営形態や収容される患者は異なっている.このようなICUに収容されている患者に,不眠,不安,興奮,幻覚・妄想状態など種々様々な精神症状が認められ,Mckegneyにより“intensive care syndrome”1)と名付けられた.
その後,ICU Syndromeは「原因を問わず,ICUで出現する精神症状のすべて」「集中治療の場において,患者の要因,疾患や侵襲による要因,環境的な要因などが複雑に絡み合った結果生じた精神症状」「1つの独立した疾患単位であり,将来その成因も明確に規定される可能性がある精神症状」などと,かなりばらつきのある捉えられ方をされるに至っている.
術後せん妄の臨床的特徴
術後せん妄とは,手術を契機として出現する一過性の精神障害で,せん妄の診断基準に基づくものであり,つぎのような臨床的特徴を有する1).
(1)高齢者,男性に多い.(2)中等度以上の手術に多いが,全身状態・経過が必ずしも不良でない.(3)前駆症状として不眠や不安を訴えるものが多い.(4)手術直後から発症するまでの間にlucid interval(意識清明期)があるものが多い.(5)症状としては幻覚を主とするせん妄状態が主症状で,時に興奮を伴うことがある.(6)通常は2〜3日,長くとも1週間以内で消退する.(7)軽快したあと何ら後遺症は残さない.せん妄の期間のこともまったく覚えていないことも多い.ただし,長引く場合は縫合不全などの合併症を併発していたり,痴呆の悪化も考えられるので,その検索・対策を怠らないことが必要である.
頻度と成因
術後の深部静脈血栓症(deep vein thrombo-sis:DVT)は,DVTの誘因として約23%を占め最も頻度が高い1).成因として,(1)血管壁の変化,(2)血液性状の変化,(3)血流の変化(Virchow’s triad)が知られている.DVTはそれ自体生命予後は良好であるが,肺塞栓症(pulmonary embo-lism:PE)の成因となるため重視される.術後のPE発生率は約2%だが,早期発見を誤ると致命的となる.PEの成因は80%以上がDVTによるが,そのほかは悪性腫瘍(特に膵癌)や膠原病などに伴う血液凝固能異常に由来する.
なお,下肢のDVTは腸骨静脈圧迫症候群のため左側に発生しやすいが1),逆にPEは中枢で圧迫を受けない右側のDVTに起因する例が多い.
開腹手術後は胃管を留置するのがルーチンとなっている.胃管は術後のいろいろな情報を与えてくれるので,それらを見逃さずに対処することは,早く,安全な術後回復に重要である.本稿では,われわれが行っている方法を中心に胃管の管理について述べるが,胃全摘後の代用胃に留置するチューブは胃管に含めた.
目的と適応
持続的に尿を排除し,尿量の経時的な測定と性状の検査を目的とする.適応は(1)術中・術後の排尿管理,(2)尿路系,会陰部などの手術における創感染防止,(3)前立腺,尿道からの出血に対する止血,(4)意識混濁,ショック時の排尿管理,(5)高度の排尿困難,尿失禁などの排尿障害に対する対症療法,などが挙げられる.
ドレーンの管理は手術の延長線上にある基本的な手技の1つであり,慎重かつ詳細な観察と異常発生時の適切な対処が要求される.ここでは,消化器術後の腹部ドレーンについての要点を述べることにする.
各種栄養管理法の注意点と特徴について簡単に述べ,当科で行っている術後の栄養管理法について概説した.
周術期における輸液は水分・電解質管理が基本であり,一般の輸液管理と大きな違いはなく,臨床症状と検査データから水分・電解質の異常の補正を行うことを目的としている.術前に経口摂取に制限がある場合は,水分補給とともに栄養補給も普通同時に行う.術中の輸液は麻酔や手術操作による循環動態の変動を主にコントロールし,出血などによる体液・電解質喪失分を補充することを目的としており,専ら麻酔科医の管理下に行われる.術後は,創部やドレーンからの滲出液・排液,術中からの出血などによる細胞外液の喪失を補正するために行い,また経口的栄養摂取ができない場合は,同時に栄養補給のために糖質・アミノ酸・脂肪も投与する.
ここでは,特に消化器手術後の輸液の基本について述べる.
術直後からのベンチレーターの適応は?
大きく分けると,(1)適切な換気量を得るため,(2)酸素化を得るため,(3)肺を十分に拡張させ肺合併症を避けるため,(4)呼吸の仕事を軽減させるため,などの理由が考えられる.筋弛緩薬や麻薬などによる呼吸抑制,創痛による呼吸抑制などは(1)の理由で,過剰輸液・輸血,心不全などによる肺水腫,肺炎や肺の圧迫や肥満患者の術中体位による気道分泌物からの無気肺などは(2)の理由で,開心術や食道癌根治術などの長時間の侵襲の大きな開腹術の術後は(1)(2)(3)(4)のすべての理由のためにベンチレーターの使用が考えられる.使用期間であるが,それぞれの症例での使用の理由の原因が改善するまでと考える.
Weaningの方法
Weaningとは,(1)ventilatorc discontinuance:人工呼吸器を人工気道からはずし自発呼吸だけに耐えさせる(呼吸器からの離脱),(2)artificial airway withdrawal:人工気道を取り外す(抜管),の2つの過程を達することである1).急性呼吸不全例か慢性呼吸不全かによって呼吸器からの離脱,抜管の条件にも若干の違いはある.
本稿は,主として急性呼吸不全における人工呼吸器離脱と抜管の実際について述べる.
MRSAや多剤耐性緑膿菌,セフェム耐性大腸菌,肺炎桿菌などの出現により術後感染の起炎菌は近年著しく変貌している.この原因の1つは,術後の抗生剤の選択にあることが明瞭になってきている.そこで,術後感染の現状を踏まえ耐性菌を増加させないという観点も含め,術中・術後における抗生剤の使い方について述べてみたい.
周術期におけるMRSA感染対策に決定的なものはなく,MRSA感染発症までの段階に応じた細かな対策が望まれる1).ここでは,特に術後のMRSA感染症対策について述べる.
Aspergillus,Cryptococcus,Mucorなど本来自然界にいる真菌は,主に気道を介して生体内に入るため肺に始まる感染を起こすのが普通である.一方,Candidaは大腸菌や緑膿菌などと同様に腸管内で高頻度に常在する菌である.このため,生体側の低抗力が低下すると,細菌による日和見感染と同様な仕組みでCandidaによる内因性感染が起こりやすくなる.Compromised hostに対しても大きな手術侵襲を加える場合が多くなっているが,生体防御機構が低下したこのような症例では真菌感染にも注意しなければならない.