検査と技術 33巻11号 (2005年10月)

増刊号 一線診療のための臨床検査

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はじめに

 臨床検査の外注化が恐ろしいほどの速度で進んでいる.このまま検査の外注化が進めば日本の病院から臨床検査室が消滅する日も近いと思われる.はたしてこれでよいのであろうか.

 2001年(平成13年)の厚生労働省の「医療法の一部を改正する法律等の施行について」では,必置施設の緩和の項で,「臨床検査施設について,検体検査の業務を委託する場合にあっては,当該施設に係わる施設を設けないことができることとするが,検体検査の業務を外部委託する場合にあっても,休日・夜間や救急時の体制確保されていること.」という条項が盛り込まれた1).これを契機に臨床検査の外注化が急速に進んだ.最近は厚生労働省の直轄病院であった旧国立病院において検査の外注化が目立つが,これも既定の路線に沿ったものであろう.検査の外注化の目的は何か.病院の検査収益の増収か,臨床検査技師(以下,検査技師)のリストラか,検査センターを儲けさせるためか,恐らくそのすべてであろう.当面は厚生労働省の役人の検査センターへの天下りを厳しく監視する必要がある.

 病院から検査室がなくなった場合,患者が不利益を蒙らないで済むのであろうか.迅速な検査は病院内に検査室があり,有能で献身的な検査技師がいて初めて可能になる.特に筆者の専門の感染症では患者情報があって初めて検査が成り立つため,医師と検査技師とのコミュニケーションが絶対必要であり.また微生物は生き物であるため検体は保存できないことから,感染症の病原体診断のための微生物検査は外注化できない検査である.

 しかし残念なことに検査の外注化に対する医師からの批判は予想されたほど多くない.これはこれまで病院検査室で行われてきた検査の品質が,検査センターでの検査の品質と大差ないことの証明とも思える.この点を真剣に反省することから再出発する必要がある.

第I章 総論―臨床編 1. 感染症の検査

1)呼吸器感染症 渡辺 彰
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はじめに

 呼吸器感染症に限らず,感染症は感染した病原微生物を排除する反応として起こる炎症である.起因微生物の特定が診断と治療とにおける最大の眼目であるが,従来の分離培養同定検査は日数を要する難点があった.臨床現場では他の臨床検査成績や臨床症状・所見を総合しながら起因微生物を推定し,見切り発車の形で抗菌薬を開始していたのが実情である.しかしながら近年,呼吸器感染症領域においても起因微生物を特定する種々の迅速検査法が実用化され,診断と初期治療との戦略を大幅に見直す必要が出てきた.

 本稿では臨床医の立場から,市中肺炎をモデルとして起因微生物迅速診断に限らず,呼吸器感染症の診断と治療とに臨床検査がどのように貢献できるのかを整理する.なお,表1は「序」の管野がまとめた外来で必要な迅速検査であるが,肺炎診療で必要な項目を強調した.

2)尿路感染症 佐藤 文哉 , 小野寺 昭一
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定義と分類

 尿路感染症(urinary tract infection,UTI)とは微生物,多くは細菌が尿路に感染している状態であり,腎実質,腎盂,尿管,膀胱,尿道あるいはこれらの複数の臓器に発生しうる.尿道炎,膀胱炎は表層性感染で粘膜内にとどまるが,腎盂腎炎は実質臓器の感染症である.臨床的には正しく採取された中間尿の定量培養で105/ml以上の細菌が存在するのが厳密な定義であるが,それ以下(103~104/ml)でも症状を有する患者では尿路感染症と判断することがある.また膀胱穿刺や清潔操作下で得られた導尿では103/mlでも有意の細菌尿である.

 尿路の基礎疾患(表1)の有無により複雑性尿路感染症(complicated UTI)と単純性尿路感染症(uncomplicated UTI)とに分類される.前者はさらにカテーテル留置の有無で分かれるが,慢性,反復性の経過をとりやすい.男性においては前立腺疾患の発症に伴い増加傾向となる.一方,後者は急性発症で,性活動期の女性に多く,男性に発症するのは極めて稀である.

3)消化管感染症 ⻆田 隆文
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はじめに

 消化管感染症は,下痢を主症状とする感染性腸炎のほかに,特殊なものとしてボツリヌス菌神経毒素による腸管麻痺や,最近の話題からはヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症がある.本来,虫垂炎や大腸憩室炎,消化管穿孔性腹膜炎なども感染症であるので,病原体としては外因性のものと内因性のもの,すなわち腸内細菌に分類される.本稿では外因性の病原体について述べる.

4)不明熱 舟田 久
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はじめに

 不明熱(fever of unknown origin,FUO)は,1961年にPetersdorfとBeeson1)により,①3週間以上続く,②数回の38.3℃(口腔温)以上,③1週間の入院検査で原因不明,の3項目を満たす発熱と定義された.自然治癒傾向の強い急性ウイルス感染症や微熱の続く本態性高体温はFUOから除かれ,FUOは臨床的意義のある診断困難な疾患群を指すことになった.最近,Durack2)は医療の現況(診断・治療法の進歩,疾病構造の変化,院内感染症の増加)と患者特性〔免疫不全患者の増加,HIV(human immunodeficiency virus,ヒト免疫不全ウイルス)感染症の流行〕とを考慮したFUOの新しい分類と定義を提案した(表1).古典的FUO(38.0℃以上)は従来のFUO(38.3℃以上)に対応し,診断法の進歩・普及を反映して入院での検査期間の設定が1週間から3日間に短縮され,外来の検査では2回と規定された.検査の入院から外来への移行は医療事情の反映と言える.ここでは古典的FUOを中心に,FUOの診断手順と検査法の選択を考える.

第I章 総論―臨床編 2. 代謝疾患の検査

1)糖尿病 富永 真琴
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診断のための検査

1 . 血糖(グルコース)

 糖尿病を最も特徴づけるのは「慢性高血糖」であり,血糖検査は糖尿病診断にとって最も大切である.血糖値を測定し糖尿病であるとする判断は表1に示す1999年の日本糖尿病学会(Japan Diabetes Society,JDS)の診断基準1)に従う.

 血糖値が空腹時なら126mg/dl以上,随時(食後)なら200mg/dl以上であることが複数回認められれば,糖尿病と診断してよい.なぜ,複数回かと言えば「慢性」の高血糖であることを確認するためである.たとえ無自覚・無症状であっても血糖検査のみで糖尿病と診断しうる.検診などを契機として糖尿病が発見されることも多いが,これは単に糖尿病というレッテルを張る行為ではない.なぜなら,多くの疫学的研究でこれらの血糖値を超えると網膜症や腎症などの有病率が増えることが確認されているからである.「健康日本21」でも,検診の事後指導が強調されているゆえんである.

2)甲状腺疾患 池田 斉
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 甲状腺疾患の診療において臨床検査の役割は非常に重要である.近年,多くの専門病院,大病院においては,甲状腺疾患の診療に「診察前検査」が行われるようになった.採血から1時間以内にその日の甲状腺ホルモン濃度(FT4,FT3)やTSH(甲状腺刺激ホルモン)の結果が出ることによって,患者の病態は的確に把握されるようになった.

 本稿では,「診察前検査」の実際を中心に,甲状腺疾患の一線診療について述べる.

3)高脂血症 小菅 清彦 , 齋藤 康
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はじめに

 高脂血症はリポ蛋白質の産生または異化異常を基盤に発症するが,その異常が糖尿病などの基礎疾患や薬剤投与によって現れる二次性高脂血症と,それ以外の原発性高脂血症に区分される.さまざまな表現型の原発性高脂血症の病因が遺伝子あるいは分子レベルで明らかにされてきたが(図),依然原因が不明の高脂血症も多い.基盤にある原因によりさまざまな表現型が生じるが,臨床の場では,血清総コレステロール値(T-CHO)が高い場合,血清トリグリセリド値が高い場合,両者が高い場合に大きく区分される.各々について,さらにその病態と治療を考えるうえでリポ蛋白質を考慮した鑑別診断が必要になる.

4)高尿酸血症 谷口 敦夫 , 鎌谷 直之
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はじめに

 尿酸はヒトにおけるプリン代謝の最終産物であり,主として尿中に排泄される.尿酸の体内プールは成人男性で約1,200mgであり,体内において通常1日700mgが産生され,同量が排泄されている.尿酸は主に腎臓から排泄され,約2/3が尿中に,残りが糞便に排泄される.臨床的に重要なのは腎からの排泄である.血液中の尿酸は糸球体でほぼ100%濾過され,尿細管で再度吸収あるいは分泌され,最終的に糸球体で濾過された尿酸の10%程度が尿中に排泄される.

 高尿酸血症は血清尿酸値が7.0mg/dlを超える場合と定義されている.上述の尿酸産生や排泄に関連する経路になんらかの異常が生じ,尿酸産生が過剰になったり排泄が低下すると高尿酸血症が起こる.高尿酸血症は原因別に一次性と二次性とに分けることができ,各々に尿酸産生過剰と排泄低下とに基づくものがある.したがって,高尿酸血症の成因は表1のように分類される.日常臨床で遭遇する高尿酸血症のほとんどは一次性特発性高尿酸血症である.

 高尿酸血症が長期間持続すると,尿酸・尿酸塩が一部の臓器で析出し,これによりいくつかの疾患が引き起こされる.その代表的な疾患が痛風である(表2).

 本稿では痛風関節炎の診断のための検査と,高尿酸血症の検査とについて述べる.

第I章 総論―臨床編 3. 循環器疾患の検査

1)狭心症・心筋梗塞 説田 浩一
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はじめに

 狭心症・心筋梗塞はともに虚血性心疾患,つまり心筋の酸素需要に対し供給が追いつかないために心筋が酸素不足に陥っている病態である.狭心症・心筋梗塞ともにその診断において,臨床検査の果たす役割は大きいが,両疾患,特に心筋梗塞においては迅速かつ確実な診断が求められ,他の疾患以上に臨床検査,特に“迅速検査”の重要性は高い.今回,狭心症・心筋梗塞における“迅速検査”の重要性を中心に概説する.

2)高血圧 岸 良示
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通常の高血圧

 高血圧は日本の成人において最も頻度が高く,日常の診療で最も多く遭遇する病気である.また,高血圧は心血管系疾患の基礎にある治療可能な主要リスクの一つであり,そのコントロールによって心血管系疾患の発症とそれによる死亡とを抑制できる多くの証拠が得られている.したがって,高血圧患者が適正に治療されることによる医学的,社会的な影響は多大である.一方で高血圧による自覚症状はないか,あるいはあっても乏しいことがほとんどで,高血圧患者の医療機関への初めての受診は,脳血管障害,虚血性心臓病など症状を伴う疾患を発症するか,大半は健康診断などで高血圧を指摘されることが契機となる.

 “高血圧治療ガイドライン2004”によれば軽症以上の高血圧の基準を140/90mmHg以上として,軽症,中等症,重症に分類(表1)されているが健康診断などで初診となった無症状の患者では初診時に血圧が高くても,通常は可能であれば自宅血圧の測定記録を行うよう指示し,日を変えて再度数回血圧を測定する.その間に,心電図検査,胸部X線検査,心エコー検査により左室負荷所見および弁膜症などの器質的心疾患の評価を,また,血液生化学検査など(表2)により臓器障害,高血圧以外の合併する危険因子(表3)の有無を検索,血圧のレベルを加味して患者総体としての心血管リスクを評価する(表4).その際に重要となるのは腎障害,糖尿病,高脂血症などの危険因子の有無に加えて,本態性高血圧か二次性高血圧かの診断,主には二次性高血圧の除外となる.

3)不整脈 岸 良示
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はじめに

 不整脈に関する「一線診療のための臨床検査」で初期診療において診療と並行する迅速検査ということになると標準12誘導心電図が中心となる.さらには不整脈の治療方針を決定するうえで基礎心疾患の有無が重要となってくることから,胸部X線検査,心エコー検査が必要となる.また,虚血性心疾患,高血圧に付随するものであれば血液生化学検査が関係してくるが,これについては別稿に詳細を譲るとして本稿では心電図検査を中心に述べていきたい.

第I章 総論―臨床編 4. 消化器疾患の検査

1)腹痛 中嶋 均 , 増田 剛太
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原因と病態

1 . 概 念

 腹痛は些細なものから命を脅かすものまで広い範疇の症状である.なかでも急性腹症(acute abdomen)は急激に起こる腹痛を主訴とする腹部疾患の総称で,短時間内に手術を含めた治療方針を決定する必要がある救急疾患として頻用される疾患名である.

 生理的なこととしては神経線維には太さの順でA,B,Cの3種があり,さらにAはα,β,γ, δの4種類に分けられる.痛みの伝達は2種類の神経線維が担うとされており,痛み刺激を素早く伝達するA-δ線維とゆっくり伝達するC線維とがあり前者は鋭い痛みを,後者はマイルドで局在がはっきりしない痛みを知覚させる.腹痛は二つの神経線維によってそのインパルスが伝達され,一つはA-δ線維による伝達であり非常に迅速な伝わり方をするものでよく限局された痛みの感覚を伝える.もう一つはゆっくり伝わるCタイプ線維を介しての伝達でぼんやりとした部位のはっきりしない痛みを伝えるものである.ほとんどの内臓神経は機械的刺激(伸展,収縮)や化学的刺激(炎症,虚血)に反応するが,この伝達を行うのがCタイプ線維である.したがって,これらの臓器からの痛みというのは鈍く,じりじりするような痛みで局在がはっきりしない.壁側腹膜はAとCの両方の神経線維が分布しており,この部位で局在が明瞭で鋭い痛みとなるのはこの2種類の神経線維の作用によるからである1)

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I. 下 痢

原因と病態

1 . 定 義

 便通には個人差が大きいためその定義は難しいが,臨床的には個人の通常の回数を超えた排便回数または便が液状になることと受け止められており,米国では毎日の便重量が250gを超える場合を下痢とすることでコンセンサスが得られている.わが国では明確な規定がないため,ほぼこの定義を参考にすることになるが,便重量については人種・体格的な相違を考慮して少な目に考えておく.また,慢性下痢とは4週間以上にわたり症状が持続するものとされている1)

2 . 発生機序(表1)

1) 浸透圧性下痢

 浸透圧性下痢は,低吸収性あるいは非吸収性溶解物が過剰に存在し,そのために腸管腔内に水分の貯留が起こるために生ずる.量の増大した便は水と非吸収性溶解物とから成り立っている.

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はじめに

 消化器の出血性疾患は消化管(口腔から肛門まで)と肝・胆・膵に大別して考える.消化管出血に特徴的な症候は吐血1)や下血2)であり,肝・胆・膵疾患では腹腔内出血を伴うことがある.

 吐血は血液成分を含む嘔吐を指し,通常は十二指腸と空腸の境目〔トライツ靱帯(Treitz ligament)〕より口側(上部消化管)に出血源が存在することが多い.吐物中の血液は出血直後では新鮮血色であるが,時間の経過に伴い胃内で酸化されると褐色(コーヒー残渣様)を呈する.

 一方,下血は血液の混じった便の排出を指し,消化管のいずれの部位からの出血でもみられる症候である.便の色調や性状により鮮血便や粘血便,黒色(タール)便などと称される.出血の程度は大量出血によりショックに陥るものから慢性の貧血症状を伴い便潜血反応で初めて検出される程度のものまでさまざまである.頻度的には消化管出血が大半を占め,上部消化管では消化性潰瘍(胃潰瘍,十二指腸潰瘍)が最も多く,急性胃粘膜病変などがそれに続く.下部消化管では大腸癌,ポリープなどの頻度が高い.これに対し肝腫瘍の破裂,胆道出血や急性膵炎による出血などは比較的稀である(表1,図).そのほか血液疾患,膠原病など全身性の疾患に伴う消化管出血にも留意しなければならない.

 本稿では出血をきたす比較的頻度の高い消化器疾患を中心に第一線の診療に必要な疾患の概要と検査の組み立てについて述べる.

第I章 総論―臨床編 5. 肝・胆道疾患

1)ウイルス性疾患 横須賀 收 , 新井 誠人
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はじめに

 肝,胆道系疾患におけるウイルス性疾患としては,臨床的頻度,また,その重要性からウイルス性肝炎がほぼすべてといってよいと思われる.ウイルス性肝炎は肝臓を主とした全身性感染疾患で,ウイルス感染とそれによる宿主の免疫反応によって惹起される肝臓を主たる病変とする疾患である.ウイルス性肝炎は,日常臨床において比較的多くみかける疾患である.

 本稿では,ウイルス性肝炎症例の診療フローチャート(図)を示し,必要な検査,急性肝炎,慢性肝炎,また各種肝炎ウイルスの特徴について解説をする.

2)胆石症 真治 紀之
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はじめに

 日本人の胆石症の保有率は10~15%あるといわれており,食生活の欧米化により増加の傾向にある.女性,40歳代以上,肥満傾向にある人に多いとされており,年齢が高くなるほどその保有率も高くなる.

 胆石症の典型的な症状としては胆石発作といわれる上腹部に突然起こる激しい発作性の痛みがある.脂肪分の多い食事や卵黄など,胆嚢を急激に収縮させるような食物を食べてから数十分~数時間後に突然上腹部痛,右季肋部痛が出現するのが特徴である.痛みは右肩や右背部・肩甲骨間に放散したり,嘔気・嘔吐さらに黄疸を伴うこともある.胆石に伴う合併症としては,このような痛みのほかに,急性胆嚢炎,肝機能障害,急性胆管炎,急性膵炎などが挙げられる.

 黄疸,発熱や悪寒などを伴う際には胆嚢炎,胆管炎,膵炎などの合併を疑う.重症胆嚢炎,腹痛・発熱や黄疸などの症状をきたす総胆管結石や肝内結石症では早急な経皮経肝的,内視鏡的または外科的治療を要する.

 鑑別診断としては,胆嚢の疾患では胆嚢ポリープ,胆嚢癌,胆嚢腺筋症,胆道ジスキネジー(dyskinesia),胆石症以外の腹痛をきたす疾患として急性膵炎,慢性膵炎の増悪,尿路結石,憩室炎,腸閉塞などの急性腹症や胃・十二指腸潰瘍,急性胃腸炎などを考える必要がある.

 胆石を持っている人が必ずしもこのような症状が出現するというのではなく,無症状に経過し,検診などでの腹部超音波検査で偶然に胆石が発見される人も少なくない.

 ただし,今回は初期診療において迅速性を要求される一般検査がメインテーマであるので,自覚症状があって外来を受診する患者で胆石症を疑う場合の検査を主に述べる.

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はじめに

 臨床上重要な悪性の肝胆道系腫瘍としては,主なものとして原発性肝癌,転移性肝腫瘍,胆嚢癌,胆管癌が挙げられる.このほかには稀な腫瘍として,肝血管肉腫などの非上皮性腫瘍がある.

 本稿では臨床的に重要な肝胆道系腫瘍について比較して述べる(表1,2)1)

第I章 総論―臨床編 6. 腎・尿路疾患

1)腎不全 上田 志朗
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 腎不全は進行度を基準として大きく分けて慢性腎不全と急性腎不全とに分けられる.慢性腎不全は糖尿病性腎症,慢性腎炎,良性腎硬化症など日本において透析導入あるいは腎移植が必要になる疾患が大きな割合を占める.その進行は一般に緩慢で年余にわたる経過を経て腎死に至る.急性腎不全は慢性腎不全の急性増悪という形をとる場合と腎不全を発症させるなんらかの急性疾患・急性病態があり,時間単位・日単位で腎不全が進行する場合とがある.慢性腎不全が不可逆的に進行するのに比較し急性腎不全は原因となる疾患・病態を改善させると可逆的な場合も多く,刻一刻の検査データの把握による適切な治療が治癒に重要な働きを持ち,多くの急性疾患のうち迅速検査の必要性が最も大きな疾患の一つである.また,慢性腎不全の一般診療においていかに迅速検査が診療の質を担保するか言及する.

急性腎不全

 急性腎不全は急激な糸球体濾過量(glomerular filtration rate,GFR)の低下をきたす病態を総称した症候群である.多くの場合,乏尿や無尿を伴う.検査で高窒素血症の急速な進行をみる.通常血清クレアチニン(S-Cre)で0.5mg・dl-1・日-1,尿素窒素(BUN)で10mg・dl-1・日-1 以上の速度で数日間上昇する状態になる.原因により腎前性,腎性,および腎後性に分類される.高窒素血症が高度になると尿毒症の症状が出現する.同時に電解質・酸塩基平衡も大きく変動し生命予後に関与する.ここではまず急性腎不全を列挙し,その病態を述べたうえで,最後に第一線で必要になる検査とその総合的な所見の取りかたを述べ迅速検査の必須性に言及する.さらに急性腎不全の診断・治療と検査とのかかわりをフローチャートにして理解を深める.

2)血尿 伊藤 喜久
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血尿とは

 健常者では一日尿中に104~105個の赤血球が排泄されている.尿沈渣検査強拡大(×400)で毎視野3個以下が目安となる.血尿は赤血球が基準範囲を超えて存在する尿であり,通常毎視野5個以上が異常と判定される.観察所見からは肉眼的血尿と顕微鏡学的血尿に,自覚症状から症候性血尿と無症候性血尿に,経過からは持続的血尿と間欠的血尿に,解剖学的には糸球体性と非糸球体性に分類される.非糸球体性血尿は腎実質,上部・下部尿路,前立腺などからの出血であり,時に直腸,子宮などの骨盤内臓器疾患も加わる.出血,血液凝固異常など系統的疾患によるものもあり,種々の生理変化,先天性,後天性の病態異常,疾患により引き起こされる(表).

 病歴,理学的所見が重要で,これに尿観察,試験紙検査,尿沈渣検査,超音波検査など適宜選択組み合わせて血尿か否かを鑑別し,関連組織,部位,原因疾患,病態を解析しながら治療が行われる.

3)結石・腫瘍 菅野 治重
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 尿路の結石は背部や下腹部の痛みと血尿のみられる患者では可能性の高い疾患の一つである.尿路の腫瘍は血尿や排尿障害がみられる患者では疑う必要がある.いずれも肉眼的・顕微鏡的血尿が症状として重要であり,血尿が持続する例や,腎機能障害がみられない例では,これらの疾患を疑う必要がある.

 本稿では腎・尿路疾患の結石と腫瘍について解説する.

第I章 総論―臨床編 7. 血液疾患の検査

1)貧血 北村 聖
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 貧血は診断名ではなく,病態を示す名称にすぎない.したがって真の診断に至るにはより詳しい検査が必要である.まず,貧血の病態や臨床症状の理解には,(1)酸素運搬は赤血球が担っていること,(2)赤血球量の恒常性は赤血球の産生・供給と崩壊との動的平衡のうえに成り立っていること,この2点が理解されればよい.しかし,実際の貧血の鑑別は必ずしも容易ではなく,ここでは一般臨床医が貧血を診断するうえでの検査のポイントを概説する.貧血の診療は外来治療が一般的であるので,特に専門医にコンサルテーションするポイントも明らかにする.

検査前の情報収集

 医療面接,身体診察などにより検査前確率を高めておくことが検査項目の選択に重要である.

2)白血病 桑島 実
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はじめに

 白血病は骨髄の中で造血系細胞が腫瘍性に増殖する疾患であり,急性白血病と慢性白血病がある.急性白血病は未熟な段階の細胞(芽球,白血病細胞)が増加し,慢性白血病は造血幹細胞が成熟分化傾向を保ったまま正常と類似した細胞群が増加する.臨床症状も急性と慢性では異なり,急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia,AML)では,貧血,正常白血球減少に伴う各種感染症や発熱,血小板減少による出血傾向が主症状である.また,歯肉腫脹,肝脾腫,骨関節痛,稀に全身の腫瘤形成などもみられる.急性リンパ芽球性白血病では上記の症状に加え,リンパ節腫脹や脳・脊髄への白血病細胞浸潤による中枢神経症状を伴うことがある1).慢性白血病では肝脾腫やリンパ性の場合にリンパ節腫脹を伴うものの,進行したり,急性転化をきたさない限り,一般に自覚症状は乏しく,偶然,健康診断などで白血球増加を指摘され発見されることが多い.

3)DIC 片桐 尚子 , 川合 陽子
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はじめに

 播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,DIC)とは,微小血栓による臓器障害と凝固因子消費障害や線溶亢進による出血傾向という相反する症状が出現する症候群のことで,さまざまな基礎疾患に合併する複雑で致死的な病態である.DICでは,早期に診断し,早期に的確な治療を開始することが求められており,そのためには的確な検査を速やかに行い,DICの病態と臨床検査の有用性を十分理解することが最も大切である.

第I章 総論―臨床編 8. 膠原病の検査

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SLEの病因病態と検査

 SLE(systemic lupus erythematosus,全身性エリテマトーデス)の病因はいまだに不明であるが,ある遺伝的因子を有するヒトになんらかの環境因子が作用し発症すると考えられる.遺伝病ではないが,家族での集積やHLAなどの検索(欧米ではDR2やDR3などが多い)が報告されている.日光暴露や妊娠分娩を契機に発症する症例も多く,紫外線・ホルモン・感染・寒冷・ストレスなどが環境因子として重要で,これらは発症後の疾患増悪因子でもある1).ヒドララジンやプロカインアミドなどの薬剤服用中の患者にSLE様の症状をきたすことがあり,薬剤性ループス様症候群と呼ばれる.

 SLEなどの自己免疫疾患では,自己抗体産生細胞や自己傷害性T細胞などの自己反応性リンパ球が病態形成に重要な役割を担っている(図1).これらの自己反応性リンパ球は正常では,除去されるか活性化されないようになっている(トレランス).さまざまな環境因子はトレランスを破綻させ,SLEでは自己反応性B細胞の活性化を誘導し,産生された抗DNA抗体はDNAと免疫複合体を形成し腎臓に沈着し,ループス腎炎を引き起こす(II型アレルギー).また,抗赤血球抗体は赤血球と反応し溶血性貧血をもたらす(III型アレルギー).このようにSLEの病態は,①免疫異常,②アレルギー反応や炎症,③その結果としての臓器障害の三つのステップより成る2)

2)関節リウマチ 熊谷 俊一 , 林 伸英
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関節リウマチ(rheumatoid arthritis,RA)早期診断の重要さと難しさ

 RAに対する治療の考えかたはここ何年かの間に大きな変貌を遂げつつある.メトトレキサート(methotrexate,MTX)の使用やDMARD(disease-modifying antirheumatic drug,疾患修飾性抗リウマチ剤)の多剤併用療法に加え,生物学的製剤(抗TNF-α薬)の導入などである.2002年,アメリカリウマチ学会(American College of Rheumatology,ACR)はRA患者治療(management)のガイドラインを改訂し,早期に診断し,DMARDを早期に開始し,積極的にMTXや生物学的製剤を使用することにより,関節障害を防ぎ関節機能を保持することの重要性を述べている1,2).しかしながらMTXや抗TNF-α薬は費用も高く,間質性肺炎や易感染性などの重篤な副作用もあることから,早期RA(あるいは疑いの)患者全員に使用すべきかどうかは結論が出ていない.これはRAを発症初期に診断を確定し,進行性を早期に判断することが困難なためである.

 発症からRA診断までの平均期間は36週とされており,早期診断の必要性がいわれているが,アメリカリウマチ学会のRA分類基準は発症初期の診断では感度が低いことが指摘されている3,4).このような背景から,早期診断と予後判定とを確実に行える新しい検査法が望まれ,MRIなどの画像診断とともに,いくつかの新しい血清学的検査も開発されている.

第I章 総論―臨床編 9. 中枢神経系疾患の検査

1)頭痛 益田 陽子 , 内山 真一郎
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頭痛の原因として大多数を占める慢性,良性の疾患のうちから,緊急治療を必要とする重篤な疾患を見逃さずに鑑別することが大切である.そのためには,注意深い問診により頭痛の発症様式,部位,性状,随伴症状を聞き出し,全身所見とともに眼底検査を含めた神経所見のチェックが重要である.warning sign(警告徴候)を認めた際には緊急CT(またはMRI)を施行し,必要ならば腰椎穿刺も行う.警告徴候として重要な所見は,初めて経験する激烈な頭痛,進行性頭痛,発熱,意識障害,髄膜刺激症状,局所神経徴候が挙げられる(図1).

 ‘初めての激烈な頭痛'は,40歳以上では片頭痛の初回発作の可能性は低いので,くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage,SAH)を念頭に置くべきである1).SAHの予後は不良で,32~67%が死亡するといわれている2).SAHのCT陽性率は12時間以内98%,24時間以内93%,24時間以降86%,2日76%,5日後58%である3).CTでSAHが確認されたら腰椎穿刺をする必要はないが,小出血やminor leakではCTで発見できない場合があり,後に生じる大出血の警告発作であることがしばしばあるので,CTで異常がなくてもSAHを否定しきれない場合は腰椎穿刺を施行するべきである1).早期のSAHを誤診した場合の73%はCTを施行しておらず,7%は,CTは施行したが腰椎穿刺を施行していなかったとする報告がある4)

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 意識障害をきたす疾患には脳血管障害,脳腫瘍,呼吸不全,循環障害,血糖値異常,血中アンモニア窒素上昇,急性アルコール中毒,薬物中毒,中枢神経系感染症,敗血症,出血など多数の疾患がある.意識障害がみられる患者の診療では症状,発症時の状況,患者の基礎疾患,治療歴,飲酒歴などを参考に上記の疾患の鑑別診断を進める必要がある.このため,頭部CTスキャン,胸部X線検査,心電図,血液ガス分析,血液検査(特に血算と生化学的検査),尿検査などが必要になる.画像検査,心電図,血液ガス分析,尿検査,血液検査(病院内に検査室を持つ医療機関)など,意識障害がみられる患者に必要なほとんどの検査は30分以内に結果が得られる.

 本稿では意識障害の原因として,血糖値,血液ガス,アンモニア,アルコールについて解説する.

第I章 総論―臨床編 10. 救急患者の検査

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はじめに

 救急室での医療活動の中心は,医師と看護師であるが,その初期診療には検査を欠かすことはできない.救急現場で優先順位が高い検査について解説する.

第I章 総論―臨床編 11. 手術に関連した検査

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 手術を大別すると,①局所麻酔による侵襲の少ない手術と,②全身麻酔による侵襲の大きな手術とに分けられる.各々の侵襲レベルにより術前検査も変わってくる.

 どちらにも必要な項目としては,感染症(B型肝炎,C型肝炎,HIVなど)であり,医療従事者の職業感染予防の意義が大きい.わが国では,術前検査として行われているが,欧米では,すべての患者を感染症として扱う標準予防策(Standard precaution)の考えから行われていない.患者さんの通常の全身状態が良好で,局所麻酔のみで済む手術であれば,通常は局所麻酔のアレルギーチェックのみでも十分である.ただし,高齢者では脳梗塞,心筋梗塞などの術前合併症により,種々の薬剤を投与されている方が多い.なかには自分自身でどのような薬を飲んでいるかわかっていない方も多い.このため術前に抗凝固剤の投与がされていたかどうかすべての患者さんのチェックができない可能性がある.抗凝固剤の中には1週間以上の休薬が必要なものもあり,これを見落とすと重大な術後出血を起こすこともある.このためにも,術前には出血,凝固系,輸血が必要となる場合を想定して血液型を調べる.

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1 . 局所麻酔による手術における術後検査

 局所麻酔による手術においては術創の理学的所見のチェックのみでほとんどの症例は問題がない.しかし,タニケットを使用した患者に対しては血栓が形成され,肺塞栓症の危険性があるために十分な問診,診察を行う.また,局所麻酔による手術といえども,出血が高度であれば術直後,術後数日間は赤血球数,ヘモグロビンなどのチェックは必要である.

2 . 全身麻酔による手術における術後検査

 一般的に全身麻酔の行われた手術の術後におけるチェック項目は,大別すると麻酔に関連する障害と手術に関連する術後障害とに分けられる.手術に関連するものは手術対象臓器によって大きく異なる.

第I章 総論―臨床編 12. 検査値の基準値と基準範囲

1)小児 大澤 進
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はじめに

 小児の基準値や基準範囲を新生児・乳幼児と小児に分けて記載した.新生児から乳幼児では国内外の報告値をまとめたが,いずれも測定例数が少なくNCCLS(National Committee for Clinical Laboratory Standards,米国臨床検査標準委員会)の基準範囲を求めるガイドラインの基準範囲外のデータであるため,一部の報告を除き正常値の名称を用いて記載した.特に新生児は成熟児と未熟児との対比,そして出生から1週間程度の正常値の変化についてもまとめた.

 一線診療では緊急検査などで新生児や小児の血液検査が提出された際に,参考となることを主眼に整理したが,最近の測定法による報告が少ないため,測定された方法も古い.現在の方法と大きく異なるデータについては表中に測定法を記載した.

2)高齢者 大澤 進
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高齢者の基準範囲は老化という生理的な変化と基準範囲を求める基準個体の定義が矛盾することもあり,成人の基準範囲に比べてその設定は複雑である1)

 高齢者の基準範囲は加齢とともに変化することが知られており,表1に示した各種変動成分が報告されている2).ここでは加齢の分類を51~60歳,61~70歳,71~80歳の3グループに分けて各種基準範囲をまとめた.既報のなかには年齢のさらに細かな分類がされている資料もあるが,ここでは50~80歳を10歳区分の中に分類して各種表にまとめた.

3)妊婦 大澤 進
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はじめに

 ここで取り上げた一般的な生化学,血液学,免疫化学の検査項目で妊婦に関する基準範囲をNCCLSの基準に従って求めた文献は見当たらない.また,妊娠に伴う変化について求めた報告値は従来の古い概念で求められた正常値であること,また,国内で求められた報告値ではすべての項目を提示することはできないことから,諸外国のデータも組み合わせて提示した.

 妊娠から出産までの週数により検査データは生理学的に変化する.ここでは非妊娠時と妊娠時とを大きく三つの週数で分類して比較した.第1期(初期:最終月経~13週6日),第2期(中期:14~27週6日),第3期(後期:28~41週6日)として検査データの変化を比較することにした.正常値を求めた例数は報告者により異なるため,それぞれの文献の出典や例数を明記した.

 妊婦患者が緊急検査で検査依頼された場合,妊娠中にどのような生理的な変化が起こり,その結果検査データがどのように変化するかを理解できることを主たる目的としてまとめた.

4)外国人 大澤 進
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 わが国に滞在もしくは就労する外国人は急増し,地方の小さな町でも見かけることが多くなった.一線診療では現実に外国人の患者が受診することや緊急患者として検査を行うことも,稀ではなくなった.

 多くの先進国では新しい検査法について基準範囲を求める報告がみられるが,日常検査で行っている一般的な検査についての基準範囲の報告は少ない.ここではできるかぎり,基準範囲の規定に従って求めた報告を主体にして,生化学検査,血液学検査についてまとめた.

第II章 各論―検査編 1. 微生物検査 1)顕微鏡検査

(1)細胞の検査 相原 雅典
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はじめに

 レーウェンフック(Leeuwenhoek)による顕微鏡の発明と微生物の発見は正に臨床検査の原点であり,近代医学の黎明期における感染症診断に果たした役割は計り知れないほど大きかったものと思われる.初めて顕微鏡で患者検体を観察した人は,まず正常と異常とを識別する必要に迫られたであろうし,そのため正常時の人体の構造や反応を把握する必要があったはずである.その時代の感染症研究者の関心は,標本中で見られるすべての事象を解明することに向けられ,どんな些細な現象をも見逃さず捉えようとしたのではなかっただろうか.その姿勢は,犯罪現場を這い回るように証拠探しをする刑事や,火災現場を検証する消防士のそれと同じであり,「顕微鏡による感染現場の検証」が疾患の原因解明の鍵となる情報をもたらすことを誰もが疑わなかったに違いない.遺伝子診断法を含むさまざまな検査法の開発により疾患の診断精度は格段に向上した今日においても,塗抹標本の顕微鏡検査は病的現場の検証作業として疾患原因の追及や病態把握になくてはならないことに変わりはない.

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はじめに

 感染症を引き起こす病原体には,ウイルス,細菌,真菌などさまざまな微生物が存在し,それらは大きさが異なる.そこで光学顕微鏡による検体の塗抹検査では,細菌や真菌とそれらより大きい原虫などの寄生虫を迅速に検出することができる.さらには培養検査では知ることのできない検体中の生体情報までも得ることができ,培養結果の解釈につながる.

 塗抹検査では炎症細胞の存在から感染症が起こっていることがわかり,そこから検出された細菌などは感染症への関与が考えられ,原因菌であるか否かの判定が容易になる.培養検査は塗抹検査に比べ多くの時間が必要であり,初期治療における診断や治療方針に役立つ検査情報とはなりえない.しかし経験的治療での初期治療において,病態の改善がみられないときには,抗菌薬を変更することになり,培養後に行う薬剤感受性試験の結果が役立つ情報となる.このように感染症の診断,および初期治療をする際,できるだけ多くの検査情報を迅速に報告することで,より適切な治療につながり,治癒への近道となるはずである.だからこそ迅速に原因微生物を推定あるいは同定することが感染症検査には求められるが,顕微鏡検査はこの要求に対応できる迅速検査である.

 ここでは一線診療ということを念頭に置き,臨床検体から直接的に細菌や真菌などを検出できる光学顕微鏡を用いた塗抹検査について,多くの検査室で取り入れられているグラム染色(Gram stain)について主に述べる.

(3)抗酸菌の検査 川村 千鶴子
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はじめに

 結核症患者を早期に診断治療することは,結核感染を拡散させないために重要である.現状では結核の診断は塗抹検査と培養検査とに大きく依存しており検査の迅速化と正確さが求められている.

 1994年にCDC(米国疾病管理予防センター)は結核菌検査を実施している施設に対して次の明確な目標(1)~(3)を設置し改革を迫った1)

 (1)抗酸菌染色塗抹の検鏡結果を24時間以内に臨床医に報告する.

 (2)結核菌の分離および同定結果を10日~14日以内に臨床医に報告する.

 (3)結核菌の薬剤感受性検査結果を15日~30日以内に報告する.

 わが国において(2)と(3)を満足させる施設は現在のところ極めて少ない.しかし,「新結核菌検査指針2000」2)では,NALK-NaOH(N-アセチル-L-シスチン-水酸化ナトリウム)処理による遠心集菌法によって結核菌塗抹検査の感度を高める努力をすること,将来的には,液体培地の使用や遺伝子検査法の採用による高感度迅速検査の実施に移行することを推奨している.CDC勧告の目標(1)はどこの検査室でもできる重要な検査法である.

 本稿ではその手技と結果の解釈の概略とポイントとを示す.

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原虫検査の基礎

 顕微鏡による原虫検査は生鮮標本や染色標本に見いだされた原虫の形態的特徴を基に,種の鑑別を行うことを基礎としている.顕微鏡検査で迅速診断が可能なヒト寄生の原虫としては,血液寄生のマラリア原虫類などの胞子虫類,トリパノソーマ類や腸管寄生のアメーバ類,鞭毛虫類,繊毛虫(大腸バランチジウム),眼の角膜炎の原因となるアカントアメーバそして泌尿器寄生の腟トリコモナスなどがある.そのうち,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(2004年改定)」により保健所に届出が必要な原虫症としてはマラリア(四類感染症),赤痢アメーバ症,ジアルジア症,クリプトスポリジウム症(五類感染症)がある.

試料の取り扱い

1 . 血液寄生原虫

1) マラリア原虫

 ヒトを固有宿主とするマラリア原虫には悪性で致命率が高い熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)をはじめ,三日熱マラリア原虫(P. vivax),四日熱マラリア原虫(P. malariae),卵形マラリア原虫(P. ovale)の4種が知られている.

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はじめに

 ヒトの体表から検出される寄生性の動物はダニの仲間のいくつかの種類とシラミ,それにニクバエやクロバエ,キンバエの幼虫そして特殊なハエの幼虫とノミなどである.

 それらの寄生によるヒトへの病害は,一つは直接の害で,例えば痛みや強いかゆみを感じることなどと,二つにはそれら節足動物がウイルス・リケッチア・細菌・原虫などの病原体を運ぶことにより感染症に罹るという被害である.

 ここでは人体表面に寄生するものと,吸血のために数日あるいはそれより長く皮膚に咬着するものとを取り上げた(表1).これらの節足動物は皮膚科をはじめとする臨床各科から検査室へ持ち込まれる可能性がある.実際には臨床医が病変を認識し,または虫を見つけることから始まり,節足動物の存在確認と同定とを検査室に依頼するということになる.多くの場合,肉眼的に病変を認め,肉眼的に虫を見つけることができる.

(6)虫卵の検査 伊瀬 恵子
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検査の基礎1,2)

1 . 試料の取り扱い

 虫卵の検査を行ううえで,検体の形状や患者背景を考慮して検査を進めることは重要である(図1).海外渡航歴や食習慣などを事前に知ることは最適な検査法を選択できて検出率を高めることにつながる.また,虫卵は1種類だけではなく,原虫などと複数種寄生している場合がある.下痢症などでは,赤痢アメーバやジアルジア(ランブル鞭毛虫)の栄養体の運動性を排便後30分から1時間以内に直接塗抹法で検鏡確認することが重要である.また,検出した寄生虫はホルマリン固定し,検査終了後の検体は感染性廃棄物として焼却処分することが必要である.

2 . 検査方法の概略とポイント(表1)

1) 直接塗抹法

 スライドガラスに生理食塩水を1滴落とし,糞便を少量採る.十分混和後,カバーガラスを載せ,200倍で検鏡する.

第II章 各論―検査編 1. 微生物検査 2)免疫学的検査

(1)抗原検査 岩沢 篤郎 , 中村 良子
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はじめに

 感染症起因菌の検査は病原体の検出(分離同定)が基本である.麻疹のように臨床症状・所見から診断可能な疾患は例外的であり,迅速な微生物検査は病初期における診断に有用である.しかし,感染症の原因となる病原微生物の分離には,時間や経費,設備,熟練を要し,検体採取時期,サンプリングの仕方,検体の保存または輸送方法なども結果に影響する.また,分離不可能あるいは困難な病原体も多く,病原体がpassenger pathogenか原因病原体かの判定は,抗体検査,臨床症状,臨床所見,理学的所見,他の臨床検査所見などから総合判断する必要がある.

 DPC(Diagnosis Procedure Combination,包括評価制度)時代を迎え,感染症の迅速診断は重要性を増している.培養によらない簡便な迅速検査と,その結果に基づいて開始される特異療法は,医療効率を上げ患者の苦痛を軽減するばかりでなく,救命医療や感染症対策の決定打となることもある.

 簡易迅速検査は,ベッドサイドテストとかnear-patient testingなどといわれていたが,1990年代に入りPOCT(診療,看護などの医療現場での臨床検査)に統一された.POCTの臨床検査に占める割合は,ますます拡大するといわれている.

 ここでは,分単位(数分間から1時間以内)で判定可能な免疫学的方法を中心に簡易迅速抗原検査について述べる1~3)

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はじめに

 ウイルス感染症や抗酸菌症などの微生物検査においては,培養に特殊な培地や細胞組織を用い病原体検出までに長時間を必要とするため,抗原抗体反応を用いた免疫学的検査法が迅速検査として活用されている.感染初期にはIgM抗体が早期に上昇するため,急性期症状を呈する患者診断にはIgM抗体の検出が有効である.一方,ウイルスアウトブレイク時の接触者検診(抗体保有の有無)や針刺し事故発生時などの暴露源の罹患歴確認検査にはIgG抗体測定が有効である.

 近年,経済効率を優先し検査の外注化が進んでいるが,ここで紹介する抗体検査法は結果報告の迅速性が,その後の院内感染対策に大きな影響を及ぼすことより院内実施が必須と考える.

第II章 各論―検査編 1. 微生物検査 3)培養検査

(1)分離培養 中村 文子
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はじめに

 従来の微生物検査は「最終報告まで数日かかる」ことが常とされてきた.特に培養検査は,菌の増殖と集落形成を要するため即日報告ができない.しかしこの数日の間に,分離菌に関する新しい情報が次々と積み上げられてゆく.これらのなかから感染症の診断と治療に有用な情報を,中間報告としてどのように臨床へ伝えるかは,臨床検査技師個人の技量によるところが大きい.

 本稿では一線診療に役立つ分離培養検査について述べる.

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はじめに

 従来の同定検査は,臨床医から「培養・同定」の検査依頼がある検体では,臨床症状や検体の質に関係なく複数の培地に分離培養され,発育した2~3菌種について同定検査が実施されているのが実状である.従来の診療保険制度が出来高払いであったことと,検査は医師の指示どおりに実施することが必要であるという概念に基づいて実施されている方法であるが,これらは感染症検査における多くの矛盾と問題とを抱えている.すなわち感染症の起炎性のない菌種に多くの同定費用と時間とを浪費し,臨床的には同定結果が役立っていない場合が多いことを意味する.

 本稿では,診療に役立ち,経済性を考慮した同定検査とはどのような方法であるのかを概説する.

(3)毒素・血清型などの検査 柄沢 利子
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はじめに

 腸管出血性大腸菌感染症の原因となるベロ毒素,抗菌薬関連下痢症や偽膜性腸炎を起こすClostridium difficileの毒素toxin A(腸管毒素)とtoxin B(細胞毒素)など,病原細菌の産生する毒素は症状の重症化やしばしばし患者を死に至らせることもある重要な病原因子の一つである.症状の重症化を防ぐには早期診断を行うことが第一であり,そのためには迅速に結果が得られる検査が必須である.毒素の検出には細菌学的方法,免疫学的方法や遺伝子学的方法が可能であるが,迅速診断検査として簡便で短時間に結果が得られる免疫学的方法が多く利用されている.

 血清型検査は病原菌種同定や病原因子の推察のために有用な検査法である.特に感染症法で二類・三類感染症の起炎菌である赤痢菌,チフス菌,パラチフスA菌,コレラ菌,腸管出血性大腸菌の生化学性状がこれら菌種に同定された場合などに用いられる.また,咽頭炎,扁桃炎,皮膚軟部組織感染症の原因菌であるStreptococcus pyogenes,および産道感染による敗血症,新生児化膿性髄膜炎の起因菌として重要なStreptococcus agalactiaeは適切な早期治療のために抗血清による迅速な群別決定が必要とされる.

 ここでは,免疫学的検査法を用いた毒素検査と血清型検査について述べる.

第II章 各論―検査編 1. 微生物検査 4)感受性検査

(1)希釈法 小松 方
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はじめに

 薬剤感受性検査は感染症の原因菌を分離し,その分離菌に対し抗菌薬を作用させ,治療上有効と思われる抗菌薬の探索を目的として行うものである.本法は別項で述べられるディスク拡散法と同様,検体提出から検査結果を報告するまでに最低でも2~3日の検査時間を必要とする.したがって,本誌の主テーマである「初期診療において診療と並行する検査」とは厳密な意味ではいえる方法ではない.しかし,本検査は感染症治療を施行するうえで必要不可欠な方法である.

 これまで大小の規模を問わず積み上げてきた抗菌薬感受性のデータベースは,初期診療において原因菌が推定された場合,最も確率の高い有効性を示す抗菌薬を選択するうえでの基礎データとなっている.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus,MRSA)やペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin resistant Streptococcus pneumoniae,PRSP)などのように,抗菌薬に耐性を示す多種多様な菌種が増加している今日,薬剤感受性のデータベースが感染症原因菌に対して,初期診療と並行して考慮されるデータになるといっても過言ではない.

 本稿では薬剤感受性試験のうち最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration,MIC)を算出可能な希釈法について,原理方法の解説と一線診療におけるデータの活用法について概説する.

(2)ディスク拡散法 島川 宏一
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はじめに

 薬剤感受性検査の目的は,感染症起因病原体に対する抗菌薬治療のための使用抗菌薬選定である.現在薬剤感受性検査に使用されている方法は,近年急速に進んだ自動機器の導入により,微量液体希釈法によるMIC測定が主流であるが,薬剤選択における自由度をもち,特に機器などの設備を必要としないディスク拡散法も小規模施設をはじめ自動機器のバックアップや追加薬剤などの薬剤感受性検査として多くの施設で使用されている.

 今回「一線診療のための臨床検査」を考慮してディスク拡散法について考察すると薬剤感受性検査自体,検査の特性上培養が必要であるため迅速検査として30分や1時間以内で検査結果を得ることはできないが,初期治療のための疫学的情報として使用することや治療法を確認する方法として重要である.この点を中心に以下に解説する.

第II章 各論―検査編 1. 微生物検査 5)遺伝子検査

(1)特定菌検出―細菌 飯島 義雄
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はじめに

 遺伝子配列に基づいて,細菌を検出・同定する場合,細菌の量(濃度)が鍵を握る.①)純培養されたコロニーの場合,②高濃度に特定の細菌が含まれる場合,③便,尿,血液,穿刺液などに比較的少量の細菌が含まれる場合,などが考えられる.既に純培養された細菌や高濃度に特定の細菌が含まれる場合には,DNA-DNAハイブリダイゼーションなどの比較的感度の低い検出法が利用できる.抗酸菌やレジオネラなどの同定キットが市販され,菌種の同定に利用されている.また,サルモネラや黄色ブドウ球菌などのリボソームRNAをDNAプローブで確認するキットも市販されている.

 しかし,ここでは,臨床検査の現場で最も多く求められる,便,尿,血液,穿刺液などに少量含まれる細菌を検出する場合を対象として考える.しかも本号の序に記されているように,1時間以内での検出を可能にするためにはどのようなシステムを構築する必要があるか考えてみたい.

 現時点では,検出感度の限界からDNAまたはRNAを増幅させる必要がある.したがって,①検体から細菌遺伝子の抽出・精製,②遺伝子の増幅,③増幅産物の検出の3ステップが求められる.ただし,遺伝子の増幅と同時に,その増幅産物の検出が可能なリアルタイムPCRを使えば2ステップで完了する.

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はじめに

 現在の病院検査室におけるウイルス迅速検査はEIA(enzyme immunoassay,酵素免疫測定法)やPA(particle agglutination,粒子凝集)法によるHBs抗原/抗体,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus,HCV),ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus,HIV),ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus,HTLV)抗体の検出およびイムノクロマト法を原理とする市販キットを用いたインフルエンザウイルス,RSウイルス(respiratory syncytial virus,RSV),アデノウイルス,ロタウイルス抗原検出が主流である.その他のウイルス感染症の診断は,外注ラボでのウイルス分離やペア血清による抗体価の結果に依存しているため,検査そのものが一線診療1)には反映されていない.

 1990年代からPCR(polymerase chain reaction,ポリメラーゼ連鎖反応)をはじめとする遺伝子増幅による感染症の迅速診断技術は急速な進歩を遂げてきた.研究室や外注ラボではPCR法が普及したが,病院の微生物検査室では専用の機器・試薬を用いる抗酸菌群やクラミジア検出などを除き,遺伝子検査法は感染症診断に広く適用されていないのが実情である.翻って,米国の病院では,ウイルスの培養検査が日常一般的に実施されており,臨床ウイルス検査室やMolecular Clinical Microbiology Laboratoryなる独立した部門が存在する.最近,リアルタイムPCR法や自動核酸抽出装置・試薬2)が普及し始めたことから,ウイルス感染症の診断を培養法から遺伝子増幅法に置き換える施設が増加している.事実,毎年開催されるAmerican Society for Microbiology(ASM,アメリカ微生物学会)総会で併設の遺伝子検査に関するワークショップでは年々受講者が増加しており,遺伝子検査のノウハウや問題点が活発に議論されている.

 技術的には遺伝子検査が病院検査室で簡便に行われる可能性が高まってきたとはいえ,迅速検査の検査時間を1時間以内と規定1)された場合,遺伝子増幅法によるウイルス検査がこの要件を満たすまでには進化していない.しかし,検査に携わる者が「負け組」1)とならず「真の勝ち組」へ飛躍するためにも,遺伝子検査の潮流に乗りながら,臨床のニーズに合致したウイルス感染症の迅速診断をリアルタイムに行い,感染症検査部門としての機能を向上させることが望まれるであろう.

 本稿では病院検査室で迅速診断が必要とされる主なウイルス感染症の診療において,リアルタイムPCR法やマルチプレックスPCR法,そして今後の普及が期待される新しい遺伝子増幅法をどのように適用していくかを中心に概説する.

(3)同定検査 渡邊 正治
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はじめに

 現在,微生物の同定検査で遺伝子検査を用いる方法で市販されているものは,従来法の生化学的方法で同定するには長時間を要する抗酸菌や,菌種を同定するために生化学的性状の特徴が少ないレジオネラ属菌がある.菌が分離されてから使用する場合が多いため一線診療のために使われることは少ない.しかし,迅速に同定することにより治療方針が決定される場合があり有用となることもある.レジオネラ感染症については臨床症状や尿中抗原などによりある程度の治療方針が決定されるため同定検査は疫学的側面が強い.また,結核菌群やMycobacterium avium,M. intracellulareについては,検体からの直接遺伝子増幅法としてPCR(polymerase chain reaction,ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いたアンプリコア マイコバクテリウム(ロシュ)やRNA増幅法によるMTD法(富士レビオ)が用いられる.その他の抗酸菌については菌が分離されてから同定が行われ,特にM. abscessusなど迅速発育株では一般細菌検査で分離されることがあり有用な場合がある.ここでは抽出したDNAを種特異的なプローブとハイブリダイゼーションさせて同定する方法〔DDH(DNA-DNA hybridization)法〕のうち抗酸菌とレジオネラ菌について述べる.

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はじめに

 感染症領域における遺伝子型別(分子疫学的解析)は,主に食中毒や結核の集団発生時,病院感染発生時などに,原因微生物の特定や感染経路を調査するための疫学的解析に用いられている.このため,患者の初期治療に役立つ検査というより,むしろ後追いの検査であるため,必ずしも一線病院であっても院内で必須の検査項目ではなく,コスト面の問題はあるが,外注でも問題のない項目と思われる.しかし,日常診療において院内感染対策上,分子疫学的解析を必要とする場合がある.

 本稿では,最も分子疫学的解析に利用されているパルスフィールドゲル電気泳動法(pulse field gel electrophoresis,PFGE)と,最近使用され始めたrandomly amplified polymorphic DNA analysis(RAPD)法を中心に述べる.

第II章 各論―検査編 2. 生理検査

1)心電図 土居 忠文
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心電図検査の基礎

 心臓は活動電位により心筋が収縮と拡張とを繰り返している.心電図はその活動電位を記録するものである.心電図検査では一般に標準12誘導を用いる.標準12誘導は,標準肢誘導(I,II,III誘導),単極肢誘導(aVR,aVL,aVF誘導)と単極胸部誘導(V1,V2,V3,V4,V5,V6誘導)とがある.I誘導は左手と右手,II誘導は左足と右手,III誘導は左足と左手の間の電位差を表す.aVR誘導は右手を関電極,左手と左足とを不関電極とし,aVL誘導は左手を関電極,右手と左足とを不関電極とし,aVF誘導は左足を関電極,右手と左手とを不関電極としている.

 肢誘導と心臓との関係は図1に示すごとくであり,心筋梗塞の部位診断に役立つ.すなわち,誘導は左肩から右肩に向かって心臓の電気的変化を眺めており,心臓の側壁を見ることができる.誘導は左足から右肩に向かって心臓を眺め,誘導は左足から左肩に向かって心臓を眺めており,いずれも下壁を見ることができる.aVR誘導は右肩から心臓を眺めており,心室の特定部位を見ることができないが,心内膜を眺める誘導である.aVL誘導は左肩から心臓を眺めており,側壁を見ることができる.aVF誘導は左足から心臓を眺め,下壁を見ることができる.心筋梗塞の部位診断では,側壁梗塞は,aVL誘導に梗塞変化を認め,下壁梗塞はII,III,aVF誘導に梗塞変化を認める.

第II章 各論―検査編 3. 血液検査

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検査の基礎

 手技,測定法の概略とポイントを述べる.

1 . 試料の取り扱い

 患者を確認し,適切な部位からすばやく採血し,全血1mlに対し抗凝固剤はEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid,エチレンジアミン四酢酸)-2Kを1.5~2.2mgを混和する.撹拌は穏やかに転倒混和20回(1回/秒)を行う.測定は室温で6時間以内が望ましい.

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分類検査の意義

 白血球分類は自動分析装置の著しい進歩により短時間で大量のデータが処理されるようになり,大部分が機械分類で報告されるようになってきた.

 しかし,擬似的なデータを表示してしまう検体や異常細胞が出現している検体は目視分類による血液形態が必要である.すなわち自動分析装置の正確性や信頼性に疑問が生じた場合,これを検証するために,目視分類による血液形態の観察を行い,正確なデータを報告しなくてはならない.血液形態が診療支援の目的を達成するためには,各細胞の鑑別や形態異常を判読する能力が必要であり,正確な細胞分類を行うには良好な塗抹標本を作製し綺麗な染色を施すことが重要である.

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はじめに

 血液凝固は体をケガや出血から守るために,出血直後から反応が開始される.凝固反応経路には内因系と外因系との二つの経路があり,凝固因子は次々に活性化を進め,両者とも途中から共通経路となる(図1,表1).トロンビン(IIa)がフィブリノゲン(fibrinogen,以下fibg)の一部を分解してフィブリン(fibrin)にする.最終的にトロンビンにより因子が活性化され,不安定なフィブリンを架橋し強固な血栓にする.これらの過程が病的に起これば血栓症やDIC(disseminated intravascular coagulation,播種性血管内凝固)症候群が起こるのである.

 その後,不要になった血栓を溶かすのがプラスミンで,その分解産物がFDP(fibrinogen degradation product,FgDP:フィブリノゲン分解産物,fibrin degradation product,FbDP:フィブリン分解産物,Dダイマー)である.それらを測定することにより,体内で線溶亢進が起こっていることを間接的に証明するのである(図2).また,プラスミンによるフィブリノゲン分解を一次線溶,フィブリン分解を二次線溶と区別する.

 PT,APTT,FDP,Dダイマーは凝固線溶反応をスクリーニングしており(表1),一般に広く普及している.そして,病態の変化の速さから結果報告の迅速性と正確さを要求される.

第II章 各論―検査編 4. 生化学検査

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はじめに

 血液ガス測定は全科にわたる,あらゆる疾患において実施される.近年検査室に限らず,POCT(point-of-care testing)として救命救急センター,手術室,各科の集中治療室などでも頻繁に実施されている1).測定の目的は低酸素血症や高炭酸ガス血症などの呼吸状態の異常と酸塩基平衡の異常を判断することである.血液ガス測定装置は動脈血中のpH,pCO2(二酸化炭素分圧),pO2(酸素分圧)を直接測定し,さらにpH,pCO2により重炭酸イオン濃度(HCO3),過剰塩基(base excess,BE)が算出される.測定結果は,患者の状態およびそれに伴う酸素吸入や人工呼吸などの治療により時々刻々と変化するので,測定結果のみで評価することは困難である.したがって結果を評価する際には,患者の状態・検体の種類・酸素吸入の有無などを考慮しなければならず,臨床に近い場所(臨床現場)で検査されることが望ましいが,それが不可能な場合はすぐに臨床と連絡のとれる環境(体制)が必要である.また,血液ガス測定は測定前の誤差要因が多く,それが測定値に影響を与え,結果として治療方法にも影響を及ぼすおそれがあるということを十分理解しておく必要がある.

 最近の測定装置は,血液ガス項目に加え電解質や代謝項目などが同時に測定できるが,本項では,pH,pCO2,pO2,sO2に関して測定から報告,また結果の評価については一次的な急性変化を中心に解説する.

2)Na,K,Cl 大久保 滋夫 , 戸塚 実
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はじめに

 Na,K,Clの検査は緊急検査や迅速検査のうちでも依頼が多く,正確で再現性に優れた結果の報告が求められる.ここでは日常検査で多く用いられているイオン選択電極法での測定と簡易機器として用いられている多層フィルム法での測定とについて,そしてNa,K,Clの結果についての異常データのメカニズム,パニック値の取り扱い,さらに尿検体の取り扱いについて解説する.

3)TP 真々田 賢司 , 澤部 祐司 , 野村 文夫
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はじめに

 血漿中には100ml当たりg単位のものからμgやngといった微量のものまで,100種類以上もの蛋白質が存在する.それらの総和として測定されるのが血清総蛋白値(total protein,TP)である.しかし,TP値には量的に多く存在するアルブミンや免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)の増減が大きく関与する.そのため,実際のルーチン検査ではTPを単独で測ることは稀で,ほとんどの場合はアルブミンを同時に測定する.そして,TPとそれに含まれるアルブミン-グロブリン比(AG比)とを比較することで臨床的意義が向上する.

4)CRE,UN 森下 芳孝
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検査の基礎

1 . 試料の取り扱い

1) 血 清

 クレアチニン(creatinine,CRE),尿素窒素(urea nitrogen,UN)測定における採血は原則として早朝空腹時に行い,数時間以内に血清分離をし,分離後はなるべく速やかに測定する.特に,室温での長時間放置は血清中に遊離のアンモニアを生じさせ,Urease-GLDH法を用いたアンモニア未消去法におけるUN測定では正誤差を与える.CRE,UNともに4℃保存で1週間,-20℃~-30℃保存で約1か月間は安定である.

2) 尿

 尿中のCREやUNは高濃度に存在するので,あらかじめ精製水(イオン交換水,または生理食塩水)で10~20倍に希釈し,試料とする.

5)アンモニア 野口 美紀 , 篠原 克幸
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検査の基礎

1 . 試料の取り扱い

 アンモニアは生体内で腸内細菌が食物を分解する過程や,組織での蛋白質やアミノ酸の代謝過程で絶えず産生する.採血後も試料中のアンモニアはAMP(adenosin5′-monophosphate)デアミナーゼなどの作用により上昇1)するため,採血直後に除蛋白するか,抗凝固剤(ヘパリン,EDTA)を用いて採血し,ただちに氷冷し,できるだけ早く血漿分離し測定する必要がある.血液凝固の際のフィブリノゲン分解によってもアンモニアが生じるので,検体として血清は使用できない.図1に酵素サイクリング法で測定した検体の経時変化を示す.

2 . 測定法の概略とポイント

 表1に各測定法の概略と基準範囲とを示す.

6)総ビリルビン 飯塚 儀明 , 桑 克彦
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検査の基礎

1 . 試料の取り扱い

 総ビリルビン(total bilirubin,T-BIL)は,直接ビリルビン(抱合型ビリルビン)と間接ビリルビン(非抱合型ビリルビン)とから成る.このうち,特に間接ビリルビンは光に対して分解されやすく,酸化されやすいため不安定である.したがって採血後の分離操作は,なるべく光にさらされないように行い,長時間保存する場合は遮光して凍結する.

2 . 測定法の概略

 ビリルビン濃度測定に用いられている主な日常検査法は,①化学酸化法,②酵素法,③ジアゾ法である.

7)AST,ALT 松田 徳子 , 山本 慶和
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本題に入る前にAST,ALTについて概説する.

 AST,ALTいずれも体内のほとんどの組織に含まれているが,ASTは心筋,肝臓,骨格筋,腎臓に多く含まれ,特に赤血球には血清中の約40倍含まれている.ALTは肝臓での含有量が圧倒的に多く,次に腎臓に多い(表1).AST,ALTの遊出形式は逸脱型に分類され細胞障害により血中に遊出する.半減期はASTでは13時間,ALTでは31時間といわれ,肝炎の急性期はAST>ALTで極期を過ぎればAST<ALTとなる.慢性肝炎でAST<ALTとなるのも,AST,ALTの半減期の違いによる.

8)乳酸脱水素酵素(LD) 杉山 祝子
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検査の基礎

1 . 試料の取り扱い・測定上の留意点

 乳酸脱水素酵素(lactate dehydorogenase,LD)は赤血球中に血清の約200倍含まれているため,ごく微量の溶血でもプラスの影響を受ける.そのため「うっ血を避けて採血する」,「検体は乱暴に取り扱わない」など注意が必要である.また,不完全な血餅形成では,遠心分離時に血小板が破壊されることで,血小板からLDが放出されプラスの影響を与える.結果を判断する場合,肉眼での観察だけでなく自動分析装置の血清情報を利用するとよい.近年,採血管準備システムの普及に伴い採血管ラベルへ必要採血量が表示されるようになった結果,真空採血管への採血量が減り,管内の陰圧が残ることによって,肉眼で判断できない微小溶血が引き起こされることもある.

 LD4・5は冷蔵保存により徐々に低下するため,当日実施しないアイソエンザイム検査は,室温または-60℃以下に保存する必要がある.

9)CK,CK-MB 金光 房江
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はじめに

 クレアチンキナーゼ(ATP:creatine N-phosphotransferase,EC 2.7.3.2,CK)は細胞質とミトコンドリアに存在し,ATPとクレアチンリン酸(creatine phosphate,PCr)との間の高エネルギーリン酸化を触媒する酵素である.細胞質のCKは骨格筋型(muscle type,M)と脳型(brain type,B)との2種類のサブユニットから成る二量体で,MM,MB,BBの3種のアイソザイムが存在する.1959年に進行性筋ジストロフィーで,1969年には急性心筋梗塞で初めて血清中での上昇が報告された.現在では一線診療のための臨床検査として欠くことのできない酵素である.

10)ALP 石川 仁子 , 前川 真人
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検査の基礎

1 . 試料の取り扱い

 ALP測定では血清を測定用試料とする.迅速性を重んじ,血漿を測定用試料とする場合は抗凝固剤としてヘパリンを使用する.キレート作用による抗凝固剤であるEDTA塩やクエン酸塩を用いると,ALP活性に必要なカルシウムなどの金属イオンが失われるため,活性低下による誤判読の要因となる1)

2 . 測定法の概略とポイント

 現在,日本では約94%の施設(2004年度日本医師会臨床検査精度管理調査)で,日本臨床化学会標準化対応法2)が用いられている.これは4-ニトロフェニルリン酸を基質とし,2-エチルアミノエタノール(ethyl amino ethanol,EAE)を緩衝液とする測定系である.本法によるALPアイソザイムの比活性は肝型を100とすると,骨型90,胎盤型89,小腸型99,すなわち各アイソザイムをほぼ均等に測定できる.

11)AMY,P-AMY 今野 稔
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検査の基礎

1 . 試料の取り扱い

 アミラーゼ(amylase,AMY)は室温で1週間,4℃で数か月安定であるといわれている.しかし,電気泳動法によるアイソザイム分析では泳動パターンに変化が早期に生じることから,4℃保存は7日間程度とし,それ以上にわたる場合は-20℃以下で凍結保存する.

 唾液中には血清中よりも数百倍以上高い唾液腺型アミラーゼ(salivary amylase,S-AMY)が存在することから,血清や尿などの試料採取に当たっては唾液を混入させないように注意が必要である.ヘパリン以外の抗凝固剤(EDTA,クエン酸およびシュウ酸)は活性を阻害するので,それらを用いて採取した血漿は測定に使用しない.

12)GLU,HbA1c 中西 貴裕
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GLU(Glucose:グルコース,ブドウ糖)

検査の基礎

1 . 試料の取り扱い・測定上の留意点

 血中のGLU値は食事や運動などにより変化する.このため採血時には飲食物の摂取から採血までの経過時間を把握する必要がある.血漿試料には解糖阻止剤(NaFなど)が必須であり,かつ採血後は採血管をよく混和して解糖阻止剤を溶解させる.また,全血を試料とした場合,測定値はヘマトクリット値の影響を受ける.

2 . 測定法の概略

 日常検査法は酵素法(HK-G6PD法,GluD法,GOD法など)による自動分析法が一般的であり,なかでもHK-G6PD法は,日本臨床化学会の勧告法とされている.また,GOD法は電極法として専用装置に多く用いられている.

13)CRP 亀子 光明
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検査の基礎

1 . 試 料

 C反応性蛋白(CRP)の測定には血清を試料に用いるのが通常であるが,血漿を用いることもある.

2 . 測定法

 CRPの測定法は従来,比濁法(turbidimetric immunoassay,TIA)が一般的であったが,最近は,ラテックス凝集免疫法(latex agglutination immunoassay,LAIA)を採用する施設が多く,感度,精度ともに良好な測定が可能となっている.最近,冠動脈疾患のリスクファクターとして注目されている高感度CRP(high-sensitivity CRP,hs-CRP)の測定法とは,検出限界が0.02mg/dl,0.1mg/dlでの再現性がCV3.0%以下という条件を満足する測定法をいう1)

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はじめに

 コレステロールは脂質成分の一つであり,遊離型(30%)とエステル型(70%)とがあり,これらを合わせて総コレステロール(total cholesterol,以下,TCH)という.血中脂質成分は水に不溶性のため,水溶性であるアポ蛋白質と結合したリポ蛋白質として可溶化している.

 超遠心法によるリポ蛋白質分画では,大きく高比重リポ蛋白質(high density lipoprotein,HDL),低比重リポ蛋白質(low density lipoprotein,LDL),超低比重リポ蛋白質(very low density lipoprotein,VLDL),カイロミクロン(chylomicron,CM)の4つに分類され,この場合のLDL比重d=1.006~1.063を広義のLDLと言い,より詳細に分類したLDL d=1.019~1.063を狭義のLDL,その際のd=1.006~1.019を中間密度リポ蛋白質(intermediate density lipoprotein,IDL)という1).なお,LDL中に含まれるコレステロールをLDLコレステロール(以下,LDL-C),HDL中に含まれるコレステロールをHDLコレステロール(以下,HDL-C)という.

 TCH,LDL-C測定は冠動脈疾患などの指標として非常に重要であり,日常検査においても診察前検査など迅速検査として測定されている基本的な検査項目の一つである.

15)TG(中性脂肪) 越智 正昭
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検査の基礎

 トリグリセライド(triglyceride,TG)は正式にはトリアシルグリセロールと呼ばれ,3分子の脂肪酸と1分子のグリセロールとがエステル結合したものである.血清の中性脂肪(mono-,di-,tri-の各glycerideに分類)は90~95%以上がTGとして存在するので中性脂肪と同義語として扱われている.

1 . 試料の取り扱い

 血清TG濃度は食事の影響を強く受けるので空腹時採血が必須である.採血前日は高脂肪食やアルコールの摂取は避ける必要がある.4℃保存では2~4週間,-20℃保存では長期間にわたり測定可能である.凍結融解は避ける.

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検査の基礎

1 . 試料の取り扱い

 血清中ミオグロビン(myoglobin,MGB)は室温でも比較的安定であり,免疫クロマトグラフィの場合は全血を用い,それ以外の方法では血清および血漿(EDTA,ヘパリン)を試料とする.

 採血後8時間以内に測定できない場合は冷蔵保存(2~8℃以下)のほうがよく,冷蔵保存時には1週間安定,凍結保存(-20℃以下)では少なくとも3か月間は安定である.血清試料の凍結融解は1回のみで融解後は均一になるように攪拌してから測定する.血漿試料とする場合は凍結融解1回でも不純物の析出が生じる場合があるので分析時には注意を要する.

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はじめに

 薬物血中濃度の測定は主にTDM(therapeutic drug monitoring,治療薬物濃度モニタリング)として,重篤な中毒のある薬物,治療域と中毒域との間隔が狭い薬物,個人の体内動態に個人差のある薬物,血中の薬物濃度と薬効との間に相関が認められる薬物には必要不可欠な検査である1,2)

 TDMが必要とされている薬物にはテオフィリンなどの気管支拡張薬,フェノバルビタール,カルバマゼピン,バルプロ酸などの抗てんかん薬,ジゴキシンなどの強心剤,リドカインなどの抗不整脈薬,ゲンタマイシン,アミカシンなどの抗生物質,シクロスポリン,タクロリムスなどの免疫抑制剤,メトトレキサートなどの抗癌剤,アセトアミノフェンなどの解熱・鎮痛薬などがある.

 ここでは迅速検査として測定されることの多いジゴキシンとテオフィリンとについて紹介する.

第II章 各論―検査編 5. 尿検査

1)尿試験紙法 嶋田 勇
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検査の基礎

1 . 尿試験紙の使いかた

 尿試験紙で測定できる項目および測定原理は表1に示すとおりである.現在1枚の試験紙で最大10項目の検査が可能となっている.尿試験紙は一般に細長いプラスチック製のスティックを支持体として,その上に試薬を浸み込ませた濾紙片を貼り付けたものである.プラスチック製の支持体は疎水性であるため,尿は試薬部分のみに吸収され試薬の混じり合いを防いでいる.判定は色調表で目視によって比較判定する方法と,自動機器によって自動読み取りで判定する方法とがある.

2 . 尿試料

 尿試験紙による定性検査に用いられる尿は,一般に早朝尿か随時尿である.早朝尿は起床第一尿で,夜間多尿のある場合を除き,最も濃縮されて検査に適しており,入院患者の尿検査に用いられることが多い.随時尿は早朝尿以外の随時に採取される尿で,早朝尿に比べ希釈されている.著しく希釈された尿では微量の化学成分は見逃されることがある.外来患者の多くはこの随時尿である.

2)尿沈渣 今井 宣子
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 医療の質とサービスの向上を目指し,近年ますます検査室の24時間化が加速しており,普段は尿沈渣を観察する機会の少ない臨床検査技師が日直や宿直で尿沈渣の検鏡をしなければならない状況が急増している.尿沈渣検査も形態学一般にみられるように,検査結果が臨床検査技師の経験や技量に負うところが多いということもまた周知の事実である.筆者は基本的には臨床検査技師の国家免許を有する者はすべて尿沈渣検鏡ができるようになってほしいと考えている.形態学にゴールはない.形態学に百点満点はない.経験者であっても間違いはある.死ぬまで研鑽の日々だと思っている.したがって全臨床検査技師(以下,技師とする)に上級者レベルの仕事を期待してはいない.しかし,最低限度できなければならないことはある.

 ここではそういう観点から常時尿沈渣検査をしてない宿日直担当者あるいは配属したての新人を対象にし,大事な要点だけを抜き出して解説することにする.尿沈渣に関するさらなる詳細については現在多くのアトラスやテキストの類が出版されており入手も可能なのでそれらを参考にしていただきたい.

3)妊娠反応 芝 紀代子 , 金森 きよ子
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妊娠検査薬

 妊娠反応をみるには尿中のhCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン,human chorionic gonadotropin)を検出する.hCGは胎盤のジンチウム細胞から分泌されるホルモンで,α,βの二つのサブユニットから成り,これらが結合することによりホルモン活性を示すようになる(表1).妊娠検査薬ではhCGに特有な構造であるβ-サブユニットに反応する抗β-hCGのモノクローナル抗体を用いて測定するので,hCGに対してのみ反応する.

 原理は同じであるが,妊娠検査薬には医療用と一般用とがある.医療用は包装単位が大きく,感度も製品によって異なる.それに対して,一般用は1~2回用の包装単位で,一般の人が使えるように取り扱いに工夫が施されており,尿を直接検査薬にかける方式が採用されている.

第II章 各論―検査編 6. 便検査

1)潜血検査 岡田 茂治 , 野津 聡
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はじめに

 近年,免疫便ヘモグロビン検査(以下便Hb検査)は小型の自動分析定量機器(OC-センサーμ:栄研化学,QUICK RUN:和光純薬,ヘモテクトNS-Plus:アルフレッサファーマ)が普及し,一線診療検査として特異性が高く診断に直結できうる検査として,小数検体施設においても迅速に検査が実施できるようになった.

第II章 各論―検査編 7. 髄液検査

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 脳脊髄液(髄液)は中枢神経系組織に直接接して存在することからその病態をよく反映する.特に髄液一般検査における細胞の算定と分類とは早急な対応を必要とする髄膜炎・脳炎の診断や治療経過の観察に欠くことのできない検査とされている.

検査の基礎

 マイクロピペット法が一般的であり,サムソン液(Samson's solution)とフックス-ローゼンタール計算盤(Fucks-Rosentahl plate)を用いる.なお,細胞数の単位は/μlを用いる.

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検査の基礎1)

1 . 試料の取り扱い

 まず,髄液の肉眼的観察を行い,色調や混濁を調べる.採取時に末梢血液が混入した場合は,血清中の蛋白や糖が混入しているため,正確な髄液中の蛋白や糖を測定することは困難である.血液中のヘモグロビンは,蛋白の測定系に正誤差を与えるので測定前に遠心分離し血球を除去する必要がある(表1).また,細菌性髄膜炎などでは,細菌が増殖するとき嫌気性解糖作用により糖値が低下するため速やかに測定する必要がある.

2 . 測定法の概略とポイント

1) 蛋白の測定法

 次の方法はいずれも色素法であり,比濁法と比べて,蛋白種(アルブミンとグロブリンなどの蛋白)による反応性の差が小さく,分析必要量が少ないことが利点である.

第II章 各論―検査編 8 . 輸血検査

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はじめに

 輸血を目的とした検査には血液型検査,不規則抗体スクリーニング検査,交差適合試験などがある.これらの検査を実施するに当たり重要なことは,輸血をするまでにどのくらいの時間的猶予があるかを,臨床側から情報を得ることである.そのうえで,それぞれの状況に応じた最適の検査方法を選択し,迅速にかつ正確な結果を出し,適切な血液製剤を準備する必要がある.

2)交差適合試験 高橋 智哉
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はじめに

 適合血の選択には血液型・不規則抗体検査・交差適合試験などがセットで行われるのが常である.実際の教科書では,「免疫血液学的検査(輸血検査)」と題してABO式血液型,Rho(D)式血液型,不完全抗体の検出,そして交差適合試験となっている.

 今回,30分から1時間以内の緊急検査報告として緊急時の交差適合試験について述べることとなったが,緊急時の輸血検査では血液型検査が最も重要であることはいうまでもない.また,この検査時間内でこれらすべてを行うことは,常時輸血検査を担当している臨床検査技師にとっては無理のない検査時間であると思われるが,宿日直時間帯のみで輸血検査を担当している者にとってはこの30分~1時間という検査時間は微妙な長さである.また,最近は輸血検査も自動機器が登場し,誰が行っても客観的に結果が出るようになり,条件が整えば十分にこの時間内に結果を出すことができるようになってきた.しかし,自動機器は,すべての施設で使用することは困難であるので,今回は試験管法による緊急時の交差適合試験と不規則抗体スクリーニングを中心に述べたい.

コラム

尿中肺炎球菌抗原検査 芝 紀代子
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肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は莢膜を有するランセット型のグラム陽性双球菌であり,呼吸器疾患などの起因菌となる.尿中の肺炎球菌莢膜抗原を特異的に認識するポリクローナル抗体を利用したイムノクロマト法を原理とする検出試薬“BinaxNOW 肺炎球菌”がBinax社(アメリカ)で製造され,アスカ純薬(株)が輸入し,三共(株)から販売しており,わが国では2005年1月に保険適応となった.

 特徴:①尿を検体とするので,喀痰採取が困難な患者でも肺炎球菌の検出が可能である.②付属の綿棒を尿検体に浸しサンプリングしてから,約20分間で簡便な操作で肉眼判定ができる(図).1包装は12テストである.③抗菌薬投与後でも検出可能である.

性病大国日本 小野寺 昭一
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性病(venereal disease,VD)はかつてわが国では花柳病と呼ばれていた.ヨーロッパでの呼称であるVDの意味はヴィーナスの病気であったことを考えれば,わが国における花柳病という呼びかたには,歓楽街で遊女や娼婦などと交渉があった特殊な人々が罹る病気とのニュアンスが感じられる.性病という呼称がみられるのは,1921年に当時の花柳病予防協会が性病予防協会(現在の「性の健康医学財団」)と改名されたころからのようである.そのころには既に性病は花柳界に関連した特別の病気ではなく,そこで罹患した男性によって持ち込まれ,一般家庭にも拡がっていく病気と認識されていたのであろう.かつての性病とは梅毒,淋疾,軟性下疳,鼠径リンパ肉芽腫(第4性病)の四つの疾患を指しており,いずれも感染初期には性器を中心に分泌物や潰瘍,硬結など明らかな病変を呈する疾患群であった.

 一方,現在は性病に代わって性感染症(sexually transmitted diseases,STD あるいはsexually transmitted infections,STI)と呼ばれるようになり,20を超える疾患がその範疇に含まれるとされている.これらのSTDのなかには必ずしも性器に病変をつくらず,感染の初期にはほとんど無症状である疾患も多く存在する.diseaseには至らずinfectionのままで長い経過を示す疾患も多いことから,今後は世界的にもSTIという表現に変わっていくものと思われる.

ウエストナイル熱・脳炎 大西 健児
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ウエストナイル熱はウエストナイルウイルス(West Nile virus,WNV)の感染症で,WNVはフラビウイルス科フラビウイルス属に属するRNAウイルスである.ウエストナイル熱は現在,アフリカ,ヨーロッパ,中東,西アジア,中央アジア,北アメリカ,中米に分布しており,1999年からアメリカ合衆国で流行が始まったことから,わが国でも関心が持たれるようになった.

WNVは鳥と蚊の間で感染サイクルが成立しており,一般的にヒトはWNVを保有する蚊に刺されることで感染する.WNV感染者の約80%は無症状で約20%が発症する.ウエストナイル熱の潜伏期は2~14日で,突然に発熱が出現する.発熱以外に頭痛,筋肉痛,筋力低下,悪心などがみられる.さらに髄膜炎や脳炎を発症することもあり,これらウエストナイル髄膜炎やウエストナイル脳炎は感染者の約1%に出現し,さらに高齢者で発生しやすいとされている.髄膜炎では激しい頭痛や嘔吐,脳炎では意識障害や痙攣がみられる.ウエストナイル熱は1週間以内に回復する例が多い.死亡は重症患者の3~15%に起こるとされている.

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咽喉元過ぎれば熱さを忘れる…….2001年9月11日,米国世界貿易センターでのハイジャック航空機テロ,続く10月4日には炭疽菌テロ(白い粉事件)が発生したことを覚えているだろうか? 国内でも大阪のアメリカ領事館,関西空港郵便貨物便,新幹線などに白い粉が撒かれ一時は大騒ぎした.しかし,日本では,テロがあったことは覚えてはいるが,バイオテロ対策は全く講じていない病院が大部分ではないだろうか?

ところが,炭疽菌によるテロを実際に受けた米国は違う.バイオテロ対策として検査すべき微生物名,培養方法,測定薬剤およびそのブレイクポイントをClinical Laboratory Standards Institute:CLSIM100-S15(旧NCCLS)に掲載し,世界の感染症関連者にグローバルな警鐘を発している.具体的には,Bacillus anthracis(炭疽菌),Burkholderia mallei (鼻疽菌),Burkholderia pseudomallei (類鼻疽菌),Yersiniapestis (ペスト菌),Francisella tularensis(野兎病菌)の5菌種について明記されている.また,このほかにもコレラ菌,ボツリヌス毒素,天然痘ウイルス,天然痘ウイルスに他のエボラ遺伝子などを組み込んだ改変生物兵器や農作物を狙ったアグロテロも危惧されている.

関節液の結晶検査 武仲 善孝
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リウマチ診療を続けてはや30年.関節液の臨床研究も同じくらい続けてきたことになる.初めは一人で細々と進めていたが,途中から右下の文献の筆者,臨床検査技師の米田操先生と前田依子先生(以下Mさん)が真剣に取り組んでくれるようになった.おかげで診療のレベルは一段と高くなった.二人とも始めた当時は一般に行われる検査ではなかったので一歩踏み込むには勇気に近いものがあったに違いない.現在はMさんがここでの仕事を続けてくれている.

 リウマチ病の診療のなかで結晶誘発性関節炎の診断は非常に大切なのでここで改めて紹介しておきたい.81歳の男性が足を引きずりながら来院された.昨日から急に右膝が腫れて歩けなくなってきたという.膝は真っ赤に腫れ,熱感が強く,関節液の貯留が著しい.こんな膝を診たときにまず考えるのは化膿性関節炎,次に高齢であるのでピロリン酸カルシウムによる結晶誘発性関節炎,時に痛風による関節炎.いずれにしても激しい痛みが起こる.そこで「どんな水が貯まっているか調べてみましょう.」と関節を穿刺する.予想どおり黄濁した液が吸引される.すばやく看護師さんがシリンジのまま,隣の検査室のMさんの所に関節液を運ぶ.ここからがMさんの腕の見せどころだ.こちらで処置しているとMさんからメモが届く.“ピロリン酸カルシウム結晶多数”,“白血球の貪食像が見られる”.ここで診断がついたので抗炎症剤を注入する.そして,病態と2,3日でよくなることを説明して帰ってもらう.

耐性菌の奇々怪々 菅野 治重
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抗菌薬の耐性菌は感染症の治療において大きな脅威である.しかし最近は臨床的には耐性と考える必要がない“耐性菌”が多数登場し,臨床医を混乱させている.この混乱の原因の一つが検査室における無原則的な“耐性検査”である.“耐性”とは,その抗菌薬に感性を示し,治療が有効であったものが,獲得した耐性因子によってその抗菌薬に耐性化し,治療が困難になったものを指す.すなわち“獲得耐性”である.レンサ球菌におけるアミノ配糖体系薬など,元来その抗菌薬が無効な場合は“自然耐性”として区別している.

 感受性試験では,感受性測定培地への栄養素の添加,接種菌量の増加,培養時間の延長,培養温度の変更,などによって最小発育阻止濃度(MIC)は上昇する.このため現在のMueller-Hinton培地はその成分(アミノ酸の種類と量,Ca2+・Mg2+濃度,NaCl濃度,pHなど)が厳しく規制されている.これは多くの抗菌薬のMICが高精度に測定できるようにClinical Laboratory Standards Institute(CLSI)が約30年かけて改良を繰り返してきた結果である.

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2003年秋からアジアでH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスによる家禽の被害が相次ぎ,2004年には10か国に感染が拡大した.2005年6月までに処分された家禽は,数億羽にのぼる.タイ,ベトナムおよびカンボジアでは,計108人が感染し,58人が死亡した.H5N1ウイルスがヒトからヒトに感染した例はない.インフルエンザウイルスは渡りカモとその北方圏の営巣湖沼の間で存続している.したがって,自然界,家禽,ブタとヒトの疫学研究を展開すれば,ヒトにおける新型ウイルスの出現と抗原変異の予測が可能であり,対策がとれる.

 2002年11月に中国南部で発生・流行が始まったSARSは,2003年7月までに8,437人に感染,813人を死亡させた.自然宿主は不明のままである.ヒトにおける流行の終息と同時に,自然宿主動物特定の試みは終わってしまった.したがって,SARSが再び発生・流行する可能性は否定できない.SARSコロナウイルスの自然宿主動物を特定するための疫学調査は困難が予想されるが進めなければならない.

温泉とレジオネラ 小出 道夫
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欧米に比較すると,わが国のレジオネラ症は循環式温泉水(大規模温泉が多い)と循環式家庭風呂からの感染の比率が高いのが特徴である.

 温泉水から検出される菌種はLegionella pneumophila serogroup 5あるいはL. pneumophila serogroup 6が多く,L. pneumophila serogroup 1が検出される頻度はその次(第3位)であるが,実際の温泉由来レジオネラ肺炎患者からの分離菌種はL. pneumophila serogroup 1が多い.

尿中LH検査 芝 紀代子
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不妊症の治療および家族計画のために,排卵時期を正確に知ることは重要である.この排卵時期を知るために黄体形成ホルモン(luteining hormone,LH)を測定する.

 成熟した女性の典型的な基礎体温は図のように低温期,高温期の二相性を示し,排卵は低温期の最終日に起こることが多いといわれている.排卵は約1か月に1回起こる.卵子の寿命は約24時間,精子の寿命は2~3日なので,排卵日の3日前から排卵日の翌日までの5日間が最も妊娠しやすい時期である.これまでは排卵日を知るには基礎体温が一般的であった.排卵は低温相の最終日に起こることが多いといわれているが,基礎体温では次の高温相に移行してから排卵を確認するので,予測することは難しい.

蓄尿による臨床検査 松田 ふき子
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尿中成分の排泄量には変動があるため,尿定量検査では一般的に24時間蓄尿を行って尿中成分の1日総排泄量を求める.「朝の起床時に排尿をすませて膀胱を空にし,次の尿から翌朝の同時刻の排尿まですべての尿を溜める」ことが基本的な24時間蓄尿の方法である.しかし患者にとって蓄尿は容易なことではなく,ある調査では45%が不正確な蓄尿であったと報告している1).不正確となる理由は,蓄尿に対する患者の認識不足,ごまかし,うっかり忘れるなどである.大便のときにも採尿を忘れがちで,便器が異なる男性によくみられる.十分な説明が行われ,患者が蓄尿の意味を正しく理解していなければならない.

 たとえ正確に蓄尿が行われても,尿は格好の培地と言われるほど細菌が繁殖しやすく変質しやすいため,蓄尿を行う場合には特に注意が必要である.まず清潔な蓄尿容器を使用すること,尿は冷暗所に保管すること,そして防腐剤の使用も必要である.防腐剤を使用する場合は,検査結果に影響を及ぼさないものを選ばなければならない.10~25%チモール-エタノール液は検査結果への影響が認められず,約2mlを蓄尿容器に添加することで細菌の繁殖を抑える効果がある2).しかしプラスチック容器を変質させることがあるため,あらかじめ少し尿が入ったところへチモールを添加するなどの工夫が必要である.

ペットと感染症 宇賀 昭二
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かつてのペット(愛玩動物)が最近ではコンパニオンアニマル(伴侶動物)としての扱いを受けるようになっており,ヒトとの接触頻度が高まっている.代表的なイヌ,ネコを例に挙げれば,飼育頭数の増加(イヌで1,005万頭,ネコで772万頭)や室内飼育割合の増加(イヌで37%,ネコで47%)に加えて,動物の寿命延長(イヌで15年と20年前のほぼ2倍)などが顕著となり,濃密な関係が長く続くことになってきた.さらに最近では,イヌ,ネコ以外にも,多くの希少動物(エキゾチックアニマルと呼ばれる)が外国から輸入されるようになり,ペットブームに拍車がかかっている.このような状況に加えて,最近の高齢化社会を反映して飼育者が免疫機能の低下した老人である場合も多くなっており,ペットとの接触を通じてなんらかの健康上の被害も報告されている.

 われわれは,「ヒトと動物との間を行き来する疾病」を人畜共通感染症,そして「ヒトが動物から一方的に受ける疾病」を動物由来感染症と定義している.動物由来感染症のうちペットをその原因とする感染は,寄生虫類(イヌ・ネコ回虫症,エキノコックス症,クリプトスポリジウム症,ジアルジア症など)や細菌類(ネコひっかき病,野兎病,サルモネラ症など),あるいはそのほか(クリプトコッカス症,Q熱,オウム病など)を含めて200種以上が知られている.これら以外にも輸入動物を通じての感染が懸念されている狂犬病やペスト,さらには今までその存在が知られていなかった疾患(新興感染症)など,ペットから受ける感染症流行の可能性が懸念されている.1999年に施行された感染症法がわずか4年後に大幅に改正された理由は,現在世界的規模での流行が懸念されるこれら動物由来感染症への対策を充実するためであった.

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およそ45億年の地球史のなかで,生命は進化を遂げながら多様性を高め,相互に影響を与えながら共進化し,現在の生態系を形成するに至っている.ラブロックの提唱するGAIA仮説1)は生態系の営み自体が,土壌の組成,大気の成分に影響を与え,気候変動に対する緩衝剤としての役割を果たしていると指摘する.

 人類史上,太陽エネルギーが主なエネルギー源であった時代には,農業革命の後もヒトの個体数はせいぜい数億であったが,石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料の大量使用により産業革命を果たした後,ヒトは生態系の中で個体数を飛躍的に増加させて100億に至ろうとしている.この間の化石燃料の大量使用は,地球のエネルギーバランスを狂わせている.気候の変動は,生態系の活動である程度緩衝されるとはいえ,このような激変に耐えられるかが問題となる.すなわち,産業革命以後の化石燃料の大量燃焼により,森林による吸収量を超える炭酸ガスを排泄し,温室効果による気温の上昇を招いている.このことが現在指摘されている地球温暖化であり,その対策として化石燃料の節約が求められ,京都議定書の必要性の根拠となっている2).これらのことが感染症にどのような影響を与えるのであろうか.

病院感染対策を見直す 菅野 治重
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日本の病院感染対策は主に米国のCDCの指針を参考として行われてきた.しかし米国の入院患者に対する医療従事者の数は,日本に比べて,医師看護師は3~5倍,検査技師は10倍も多い.マンパワーが大きく異なる国の指針をそのまま日本に持ち込むことは元々無理がある.そろそろ日本の医療事情に適した病院感染対策を作り上げる時期にきている.

 耐性菌の検出率をみても,バンコマイシン耐性腸球菌やESBLs産生クレブシェラの欧米での検出率は日本に比べて圧倒的に高い.このように欧米の抗菌薬の使用法には大きな問題がある.しかし病院機能評価では院内感染管理の項に,「抗菌薬の適切な使用を促すシステムがある」との規定があり,これは欧米の抗菌薬使用ガイドラインなどを意味している.既に耐性菌対策で失敗したものをこれから輸入しようとする愚かさは呆れるばかりである.接触感染対策の基本は医療従事者の増員とベッドの間隔を英国並みに2m 以上に規制することである.

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日本臨床検査標準協議会JCCLS による尿沈渣検査法指針提案GP1-P3によると卵円形脂肪体(oval fat body)とは以下のように記載されている.

 「尿細管上皮細胞由来の脂肪顆粒細胞を特に卵円形脂肪体として区別している.本細胞はとくに重症ネフローゼ症候群患者尿に高率に認められ,有用な検査情報の一つに含まれている.ほかに重篤な糖尿病性腎症,Fabry病,Alport症候群などの患者尿にも出現する.」つまり脂肪顆粒を多く有する細胞(脂肪顆粒細胞)の中で尿細管上皮細胞由来と判断されるものを卵円形脂肪体としているわけだが,実際は形態学的所見では尿細管上皮細胞由来と判断できない場合も多い.一般的には尿蛋白質陽性例について卵円形脂肪体としているものと思われる.GP1-P3では脂肪顆粒細胞という分類はなく,分類不能細胞に属して脂肪顆粒を有するとういう所見を「脂肪顆粒細胞」とうい用語のコメントを付記するとしている.

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高齢者にみられる感染症は宿主条件などにより多様な病型をとるが,臨床的に対応するうえで,発症前の患者の生活機能と,感染症がそれに与えている影響,治療後回復が期待できる生活能力などを考えるべきだと思う.生命予後に及ぼす影響を考えることも,もちろん重要な課題ではあるが,単に延命のみを目標とした処置を行うことには問題がある例も少なくない.

 感染症対策上,最も重要なことは予防である.感染症の原因,悪化要因となっている高齢期特有の基礎疾患の治療が各種感染症の予防に重要である.すなわち,中枢神経疾患患者における誤嚥防止策,向精神薬による過鎮静の防止,前立腺肥大などの尿路系疾患の治療による尿路感染症の防止,寝たきり患者における褥瘡予防対策,糖尿病の治療などが重要である.また,インフルエンザや肺炎球菌性肺炎に対してはワクチン接種が推奨される.

鼻汁の好酸球検査 宿谷 賢一
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鼻汁中の好酸球は,アレルギー性鼻炎の約9割の患者に認められ,古くから診断に用いられてきた.鼻汁中好酸球は減感作療法,局所用ステロイド剤などの抗アレルギー剤の投与により減少することから,薬剤の効果判定のパラメーターとして重要である.

 鼻汁の採取は食品包装用ラップや薬包紙などの水分を吸収しないようなものを用いて鼻をかませる.鼻汁の数か所を採取し,綿棒などでスライドガラスの上に薄く引き伸ばすように塗抹する.染色方法として,一般的に血球染色であるライト・ギムザ染色,メイ・グリュンワルド・ギムザ染色,鼻汁中細胞染色法であるハンセル染色による鑑別で行われている.ベッドサイド検査として行うのであれば前者二つの染色法は不向きであり,後者のハンセル染色が有用である.しかしながら,いずれの染色方法においても塗抹標本作製の出来具合が重要であり,塗抹が厚すぎると細胞が萎縮し,濃染傾向があるために注意が必要である.

ビタミンCと尿検査 永峰 康孝
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ビタミンC は還元性を有する抗壊血病因子で,化学名も抗壊血病(anti-scorbutic)を基にアスコルビン酸(ascorbic acid,以下AsA)と名付けられた.ノーベル賞受賞者L. Pauling が風邪の予防や癌の発育抑制にAsA のグラム単位の大量投与(摂取)を推奨したのを機にAsA の大量投与がブームとなった.これらの説は明確なエビデンスが十分得られていないが,AsA は水溶性で過剰摂取による副作用がなく,安価なため,現在もブームは続いており,尿検査では高濃度のAsA を含む被検尿がつねに存在しうることを留意しておく必要がある.

 AsA はγ-ラクトン環に組み込まれて安定化したエンジオール基により強い還元力を有する.そのため,AsA が多量に存在すると,尿試験紙検査ではブドウ糖,潜血,亜硝酸塩,ビリルビンにおいて偽陰性となることがよく知られている.

基本情報

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検査と技術
33巻11号 (2005年10月)
電子版ISSN:1882-1375 印刷版ISSN:0301-2611 医学書院

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