コラム
性病大国日本
小野寺 昭一
1
1東京慈恵会医科大学感染制御部
pp.1041
発行日 2005年10月15日
Published Date 2005/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543100224
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性病(venereal disease,VD)はかつてわが国では花柳病と呼ばれていた.ヨーロッパでの呼称であるVDの意味はヴィーナスの病気であったことを考えれば,わが国における花柳病という呼びかたには,歓楽街で遊女や娼婦などと交渉があった特殊な人々が罹る病気とのニュアンスが感じられる.性病という呼称がみられるのは,1921年に当時の花柳病予防協会が性病予防協会(現在の「性の健康医学財団」)と改名されたころからのようである.そのころには既に性病は花柳界に関連した特別の病気ではなく,そこで罹患した男性によって持ち込まれ,一般家庭にも拡がっていく病気と認識されていたのであろう.かつての性病とは梅毒,淋疾,軟性下疳,鼠径リンパ肉芽腫(第4性病)の四つの疾患を指しており,いずれも感染初期には性器を中心に分泌物や潰瘍,硬結など明らかな病変を呈する疾患群であった.
一方,現在は性病に代わって性感染症(sexually transmitted diseases,STD あるいはsexually transmitted infections,STI)と呼ばれるようになり,20を超える疾患がその範疇に含まれるとされている.これらのSTDのなかには必ずしも性器に病変をつくらず,感染の初期にはほとんど無症状である疾患も多く存在する.diseaseには至らずinfectionのままで長い経過を示す疾患も多いことから,今後は世界的にもSTIという表現に変わっていくものと思われる.
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