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はじめに
現在の病院検査室におけるウイルス迅速検査はEIA(enzyme immunoassay,酵素免疫測定法)やPA(particle agglutination,粒子凝集)法によるHBs抗原/抗体,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus,HCV),ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus,HIV),ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus,HTLV)抗体の検出およびイムノクロマト法を原理とする市販キットを用いたインフルエンザウイルス,RSウイルス(respiratory syncytial virus,RSV),アデノウイルス,ロタウイルス抗原検出が主流である.その他のウイルス感染症の診断は,外注ラボでのウイルス分離やペア血清による抗体価の結果に依存しているため,検査そのものが一線診療1)には反映されていない.
1990年代からPCR(polymerase chain reaction,ポリメラーゼ連鎖反応)をはじめとする遺伝子増幅による感染症の迅速診断技術は急速な進歩を遂げてきた.研究室や外注ラボではPCR法が普及したが,病院の微生物検査室では専用の機器・試薬を用いる抗酸菌群やクラミジア検出などを除き,遺伝子検査法は感染症診断に広く適用されていないのが実情である.翻って,米国の病院では,ウイルスの培養検査が日常一般的に実施されており,臨床ウイルス検査室やMolecular Clinical Microbiology Laboratoryなる独立した部門が存在する.最近,リアルタイムPCR法や自動核酸抽出装置・試薬2)が普及し始めたことから,ウイルス感染症の診断を培養法から遺伝子増幅法に置き換える施設が増加している.事実,毎年開催されるAmerican Society for Microbiology(ASM,アメリカ微生物学会)総会で併設の遺伝子検査に関するワークショップでは年々受講者が増加しており,遺伝子検査のノウハウや問題点が活発に議論されている.
技術的には遺伝子検査が病院検査室で簡便に行われる可能性が高まってきたとはいえ,迅速検査の検査時間を1時間以内と規定1)された場合,遺伝子増幅法によるウイルス検査がこの要件を満たすまでには進化していない.しかし,検査に携わる者が「負け組」1)とならず「真の勝ち組」へ飛躍するためにも,遺伝子検査の潮流に乗りながら,臨床のニーズに合致したウイルス感染症の迅速診断をリアルタイムに行い,感染症検査部門としての機能を向上させることが望まれるであろう.
本稿では病院検査室で迅速診断が必要とされる主なウイルス感染症の診療において,リアルタイムPCR法やマルチプレックスPCR法,そして今後の普及が期待される新しい遺伝子増幅法をどのように適用していくかを中心に概説する.
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