雑誌文献を検索します。書籍を検索する際には「書籍検索」を選択してください。
すべて タイトル 著者 特集名 キーワード 検索
書誌情報 このジャーナル すべてのジャーナル 詳細検索 by 医中誌
Clinical Engineering CLINICAL CALCIUM 細胞工学(一部の論文のみ) 臨床栄養 化学療法の領域 薬局 Medical Technology 検査と技術 臨床検査 CANCER BOARD of the BREAST Cancer Board Square 胆膵Oncology Forum Pharma Medica 医学のあゆみ 医薬ジャーナル 診断と治療 生体の科学 総合診療 JIM 感染制御と予防衛生 感染対策ICTジャーナル 公衆衛生 BeyondER medicina 臨床雑誌内科 治療 J. of Clinical Rehabilitation The Japanese Journal ofRehabilitation Medicine 作業療法 作業療法ジャーナル 総合リハビリテーション 地域リハビリテーション 理学療法ジャーナル 理学療法と作業療法 感染と抗菌薬 アレルギー・免疫 JSES 内視鏡外科 関節外科 基礎と臨床 整形・災害外科 臨床雑誌整形外科 臨床整形外科 呼吸器ジャーナル Heart View 循環器ジャーナル 呼吸と循環 血液フロンティア INTESTINE THE GI FOREFRONT 胃と腸 消化器内視鏡 臨牀消化器内科 臨床泌尿器科 腎と骨代謝 腎と透析 臨牀透析 HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY 糖尿病診療マスター Brain and Nerve 脳と神経 神経研究の進歩 BRAIN and NERVE MD Frontier 脊椎脊髄ジャーナル Neurological Surgery 脳神経外科 言語聴覚研究 精神医学 Frontiers in Alcoholism 臨床放射線 画像診断 肝胆膵画像 消化器画像 臨床画像 JOHNS 形成外科 胸部外科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 手術 小児外科 日本内視鏡外科学会雑誌 臨床外科 臨床雑誌外科 LiSA LiSA別冊 麻酔 別冊整形外科 Fetal & Neonatal Medicine 産科と婦人科 産婦人科の実際 臨床婦人科産科 周産期医学 皮膚科の臨床 皮膚病診療 臨床皮膚科 臨床皮膚泌尿器科 チャイルドヘルス 小児科 小児科診療 小児内科 耳鼻咽喉科 Frontiers in Dry Eye Frontiers in Glaucoma 眼科 臨床眼科 Hospitalist 病院 INTENSIVIST エキスパートナース がん看護 コミュニティケア 看護学雑誌 看護管理 看護教育 看護研究 助産雑誌 助産婦雑誌 精神看護 日本看護協会機関誌「看護」 保健師ジャーナル 保健婦雑誌 訪問看護と介護 社会保険旬報 --------------------- 日本がん看護学会誌 日本看護医療学会雑誌 日本看護科学会誌 日本看護診断学会誌(看護診断) 日本看護倫理学会誌 日本災害看護学会誌 日本腎不全看護学会誌 日本糖尿病教育・看護学会誌 日本母子看護学会誌 日本老年看護学会誌(老年看護学) 検索
フリーワード 詳細検索 by 医中誌
内視鏡観察に必要な咽頭(pharynx)および喉頭(larynx)の解剖学用語について説明する.各部位の定義は「頭頸部癌取扱い規約第5版」1)に従いつつ,若干の補足を加えて記載する.
定義
1.食道の肉眼的解剖
食道は食道入口部から食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)までを言い,頸部食道,胸部食道,腹部食道に分類される(シェーマ1).それぞれの定義は以下の通りである1).
頸部食道:食道入口部(輪状軟骨下縁)から胸骨上縁までを指す.
1.一般的事項
1)形状と位置と肉眼解剖学的名称
胃(stomach)は,消化管のうち,食道と十二指腸との間を成すJ字形の袋状器官である.機能的には嚥下物を一時的に貯めて,その間,塩酸やペプシンなどを含む胃液により半液状食物(び粥)とし,これを少量ずつ十二指腸に送り出している.胃は,腹腔の左上部に位置し,左上後の胃底(穹窿部)から胃体そして幽門部(前庭部)へと右下前方へ進むにつれ狭くなり,その形と拡がりは内容量,体位,胃壁の緊張などによって変化する.成人胃の解剖学名称は,解剖学者と臨床家の間で用いる術語が多少異なる.これには,本質的な見解の相違もあろうし,古くからの慣習の違いもあろう.事実,胃幽門部は,幽門洞とも前庭部とも呼称されている.なお,「胃癌取扱い規約第14版」1)では,小彎・大彎をそれぞれ三等分し,胃上部(U),胃中部(M),胃下部(L)とする三領域を提唱しているが,これらはあくまで区分であって解剖学的名称ではない.本稿では,読者の便宜をはかり,X線または内視鏡診断の際に頻用される術語を優先的に採用した(Fig. 1).前壁と後壁が小彎と大彎で連続し,内腔を囲み,噴門で食道と,幽門で十二指腸と連絡している.通常,胃の前壁の右上部は肝臓に,左上部は横隔膜に,また,後壁は膵臓に,下縁すなわち大彎は横行結腸に,胃底は脾臓に接している.
小腸の解剖1)2)
1.小腸の全体
消化管の胃幽門輪の肛門側から始まり,回盲弁(Bauhin弁)の口側に終わる部分が小腸である.その全長は,5〜7m,平均で約6mとされている.小腸は口側より十二指腸,空腸,回腸の3部位に分けられる.十二指腸と空腸の明瞭な境界は組織学的には存在しないが,解剖学的には十二指腸空腸曲(Treitz靱帯付着部)より口側を十二指腸,肛門側を空腸とされる.空腸と回腸の明瞭な境界は解剖学的にも組織学的にも存在しないが,慣習的には十二指腸を除いた小腸の口側40%を空腸,肛門側60%が回腸とされる.
解剖
大腸は全長約1.5mの管腔臓器で結腸と直腸に大別され,結腸は口側から盲腸(C),上行結腸(A),横行結腸(T),下行結腸(D),S状結腸(S)の区分から成り,直腸(R)は直腸S状部(RS),上部直腸(Ra),下部直腸(Rb)に区分される(シェーマ).上行結腸と横行結腸の移行部は右結腸曲(肝彎曲),横行結腸と下行結腸の移行部は左結腸曲(脾彎曲)と呼ばれる.「大腸癌取扱い規約 第8版」は,それぞれの区分を以下のように定義している.
肛門(anus)は,消化管の終末部であり,糞便の排出口として認識されている.視診の際に確認できる外口(anal orifice)と肛門周囲の皮膚との境界,つまり外口の縁である肛門縁(anal verge)から成るものを一般的に肛門と呼ぶが,その範囲の規定はいまだ不明瞭である.肛門縁より1.5〜2.0cmほど奥に歯状線(rental line)が存在し,これが肛門と直腸の接合部,すなわち発生学的には外胚葉と内胚葉の接合部になる.歯状線は隆起を形成する肛門乳頭(anal papilla)と陥凹を形成する肛門陰窩(anal crypt)から形成される.肛門陰窩には肛門導管(anal duct)が開口しており,肛門腺(anal gland)へと続く1).
肛門管(anal canal)の定義もさまざまで,肛門縁から歯状線までが解剖学的肛門管(anatomical anal canal),肛門縁から恥骨直腸筋付着部上縁までが外科的肛門管(surgical anal canal),内肛門括約筋の上下縁で囲まれる部分を組織学的肛門管(pathological anal canal)と呼ばれている2).内肛門括約筋は,直腸固有筋層の内輪筋に連続した平滑筋であり,肛門縁上部まで伸びていることから,外科的肛門管と組織学的肛門管はほぼ近しい部分を指していると考えることもできる(シェーマ).
GA(glycogenic acanthosis)は上皮層肥厚,特に細胞質内にグリコーゲン顆粒を有する有棘細胞の肥厚である.通常内視鏡観察では,数mm〜1cm程度の類円形で表面平滑な限局性白色隆起を呈し,多発して存在することが多く,高齢者男性の食道でよく観察される(Fig. 1).NBI観察では周囲より血管密度が低いことを反映して白色調を呈し,ヨード染色では濃染する(Fig. 2).GAに近接すると,その表面に程度の差はあるが白濁した微細な点状〜棘状隆起が伸び出している所見を観察できる(Fig. 3).同部はヨード染色像で点状に抜け,皮膚の脂腺開口部に類似して見える(Fig. 4).
泡沫細胞,すなわち黄色腫細胞の集簇による病変である.胃ではよく認められるが内視鏡検査による食道での頻度は0.46%とまれである1).病理組織学的に黄色腫細胞は扁平上皮間結合組織乳頭部に嵌り込むように存在するため2),この所見が内視鏡像にも反映される.すなわち,典型例では多数で点状の黄白色小顆粒の集簇として観察される(Fig. 1a).拡大観察では乳頭の配列に一致して黄白色顆粒がみられ,このなかに縮れて走行する微細血管が観察され特徴的である2)(Fig. 1b).黄色腫細胞の量が多く充満した場合は顆粒結節状となることもある.
通常,異所性皮脂腺は外胚葉起源臓器の口唇,口腔,唾液腺,包皮,陰唇などにみられるが,食道は内胚葉由来であり,発生臓器としてはまれである.浜本ら1)の本邦報告例32例の集計では,男女比は26:6で男性に多く,平均年齢は56.8歳で,約70%と多くが多発例である.本庶ら2)の内視鏡検査による発見頻度は,4,581件のうち7例(0.15%)であった.内視鏡的には小黄白色結節が散在するものや,結節や小顆粒が混在して多発するものなどさまざまな分布がみられる.典型的なものは5mm以下のやや混濁した黄白色調の小扁平隆起や顆粒状を呈し,個々の形態は花弁状から偽足状を示す(Fig. 1a).表面の観察では,皮脂腺導管部分が円型の微細血管で囲まれた白色の小突起として認められる3)(Fig. 1b).
一般に“孤立性静脈瘤”,“孤在性静脈瘤”とも呼ばれるが,消化器内視鏡用語集では“孤立性静脈拡張(solitary venous dilatation)”と称され,“食道の上・中部に認められる孤在性の青色小隆起で,限局性に拡張した粘膜下静脈の他に食道腺の貯留囊胞などがある”とされている1).血管腫に含まれるともされるが,その厳密な区別は臨床的・病理学的に明確にされていない.成因は不明で,門脈圧亢進症に伴い下部食道に発生する静脈瘤や,上大静脈圧の上昇に起因し,主に上部食道に発生する“downhill varices”2)とは異なった疾患と考えられている.
異所性胃粘膜は“胃粘膜の組織学的特徴が胃の境界の外側に異所性に認められるもの”と定義され,主細胞や副細胞を持つ胃底腺粘膜から成り立つことが多く,全消化管に生じうる.
食道では円柱上皮から重層扁平上皮への置換が胎生5〜6週ころに食道中部から始まり,口側および肛門側へ進展するとされているが,その過程で円柱上皮の遺残したものが食道異所性胃粘膜と考えられている1).
重層扁平上皮に覆われた食道粘膜は,通常は灰白色調の光沢のある粘膜として観察される.これは,食道の基底層にメラノサイトがごく少数(2〜8%)しか存在せず,メラニン顆粒を認めないからである.基底層のメラニン顆粒が著しく増加することにより,食道粘膜が黒色調を呈するものをメラノーシスと言う(Fig. 1,2).内視鏡検査による一般人の頻度は約0.1%程度とされているが,扁平上皮癌周囲では30%程度に認められる1).
基底層のメラノサイトから発生する腫瘍が悪性黒色腫である(Fig. 3,4).食道原発悪性黒色腫の頻度は少なく,本邦の食道悪性腫瘍の0.1〜0.9%とされる.中下部食道に80%と多く,ほとんどが隆起性腫瘍を形成し,有茎性あるいは亜有茎性のポリープ状隆起が約1/3を占める.腫瘍細胞の産生するメラニン色素の量により腫瘍の色調は異なり,黒色から褐色調,灰色調などさまざまである(melanotic type)が,10%程度に無色素性の腫瘍(amelanotic type)もみられる.
ヨード液を食道内腔に撒布した際に,茶褐色に染色されず黄白色を示す部分をヨード不染帯と言う.ヨード染色は食道粘膜上皮の表層,および有棘細胞層内に蓄えられているグリコーゲンとヨウ素が反応する化学反応を利用したものである.したがって,グリコーゲンを産生する正常食道上皮が薄くなれば,染色性が低下し淡染帯となり,上皮が欠損したり,消失すれば不染帯となる.ヨード不染帯を示すものには,①病的な粘膜上皮〔上皮内癌(Fig. 1,2),粘膜癌,扁平上皮内腫瘍,hyperkeratosis,parakeratosis,食道炎などの炎症性変化〕,②粘膜上皮の欠損(びらん,潰瘍,癌組織の露出部,異所性胃粘膜),③正常粘膜(萎縮)などが挙げられる.ヨード染色は,食道癌のハイリスク群におけるスクリーニングとして必須とされてきた1)が,NBIが普及し,病変の拾い上げが比較的容易になった近年では,病変の範囲診断および癌と非癌との鑑別2)において,重要な役割を果たしている.
健常な食道粘膜にヨード染色を行うと,上皮内の有棘層に含まれるグリコーゲン顆粒とヨードが結合し,食道粘膜を茶褐色に染色する.しかし,グリコーゲンを産生する正常食道上皮が薄くなったり,消失したりすると,ヨードの染色性は低下し,不染帯となる.異型細胞が上皮の下層にとどまる場合は,上皮内にグリコーゲンがある程度保たれているため,ヨード淡染帯を示すが,上皮全層が異型細胞で置換されると,上皮内にグリコーゲンがなくなり,ヨード不染帯となる.このヨード不染帯が,数分後に本来の病変の色調であるピンク色を呈するようになる現象を,大森ら1)はPC sign(pink color sign)と命名した.PC signの原理については,いまだ不明な点も多いが,異型が高度になると上皮のバリア機構が障害され,染色後,早期にヨードが上皮内から消失し,本来の粘膜の色調であるピンク色を呈するという説2),また,PC signは病変の異型性ではなく,残存した正常上皮の厚さを反映しているのではないかとする意見もある.
顆粒細胞腫は,Schwann細胞由来の腫瘍とされ,全身のいかなる臓器にも発生する.好発部位は皮膚や舌で,5〜9%が消化管に発生し,その多くは食道にみられる.ややくすんだ黄白色調の粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)で,大きさ10mm以下のものでは半球状,丘状の非特異的な形態であるが,10mm以上の大きさになると「臼歯状所見」と表現される特徴的な形態を示し,内視鏡像のみでも比較的診断は容易である(Fig. 1a)1).
いわゆる食道粘膜剝離症の疾患概念における区別は明らかではないが,広義において,表層上皮が剝離する表層性食道粘膜剝離症と,粘膜下層より表層が剝離する食道粘膜剝離症に大別される.
volcano-like appearanceとは,境界明瞭で辺縁隆起がやや目立つ浅い潰瘍を呈する食道の内視鏡所見である(Fig. 1).ヘルペス食道炎に特徴的な所見で,volcano ulcersやvolcano lesionとも呼ばれている.1986年にAghaら1)によって報告され,ヘルペス食道炎患者の約75%に認められる.
大きさは数mm〜20mm程度とさまざまで,進行に伴い潰瘍は癒合し,帯状,地図状となり易出血性を示す(Fig. 2).
急性壊死性食道炎は1990年にGoldenbergら1)が初めて内視鏡的に診断したもので,上部消化管内視鏡検査で特徴的な食道粘膜の黒色変化を呈する疾患である.2014年までの本邦における報告例は30例と極めてまれな疾患で,通常,“黒色食道”と呼称されている(Fig. 1〜5).内視鏡所見の特徴は,びまん性,全周性の黒色変化であるが,Moretoら2)による診断基準では,①急性に生ずる食道粘膜全周性の黒色変化,②病変の主座が下部食道(遠位側1/3)に認められ,胃粘膜は正常で胃粘膜との境界が明瞭,③食道粘膜を損傷する他の要因がない,という3項目を満足することが挙げられている.なお,食道粘膜が黒変する原因としては,壊死組織内の血液が凝固あるいは胃酸の曝露により黒色化するものと推測されており,病理組織学的所見では壊死物質と肉芽組織の混在が特徴である.
胃噴門部の粘膜下層から食道の粘膜固有層に移行し,粘膜固有層で2〜3cm縦走し,食道の粘膜下層に至る静脈の存在が1966年De Carvalho1)により報告され,食道柵状血管と命名された.内視鏡的には,下部食道に縦走する血管群として認識される.食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)は病理組織学的に食道と胃の筋層境界と定義されており,胃噴門部筋層には斜走筋が存在するが,食道には存在しない.この斜走筋の上縁が理論上EGJの境界であるが,組織切片上であってもその同定は難しい.そこで,星原ら2)は下部食道柵状血管の下端をEGJの適切な指標として提唱し,現在本邦におけるEGJの診断に用いられている.また,病理学的には柵状血管は胃上部粘膜内血管より有意に血管径が太く(約100μm以上),この血管径の違いが食道と胃の指標になりうるとされている3).
畳目模様(tatamime sign)は“畳の目サイン”などとも呼ばれ,食道の内視鏡観察時にみられる輪状のひだのことを指す.あたかも畳の目のように細かな輪状ひだが横走することから,ニックネーム的に使用されている1).
brownish areaは画像強調イメージングのひとつであるNBI観察により,咽頭・食道領域で主に腫瘍性病変にみられる境界を有する茶褐色調領域と定義される1)(Fig. 1).NBI観察は白色光観察に比べて,咽頭・食道扁平上皮癌の検出率・診断精度が有意に優れており,癌拾い上げのための重要な所見である.brownish areaは血管の増生と血管間のbackground colorationによるものとされており,炎症(Fig. 2)や上皮の菲薄化(Fig. 3),さらに毛細血管の増生などでも茶褐色調を呈することもある.
metallic silver signは,ヨード撒布後の不染帯部分がピンク色に変化するPC(pink color)signを呈する部分がNBI観察では銀色に光る所見と定義される2)(Fig. 4).通常観察によるPC signに比べてコントラストが明瞭となり視認性がよいとされる.
本来,食道上皮は非角化重層扁平上皮から成る.食道epidermization(類表皮化)は,組織学的に扁平上皮表面に厚い角化層を有するのが特徴であり,皮膚の表皮に類似していることから,このように呼ばれている.しかし,食道epidermizationに関する報告例は少なく,慢性炎症がepidermizationの形成に関与している可能性も示唆されているが,真の成因や発生頻度,自然経過などについては不明である.内視鏡的には“鱗状”あるいは“毛羽立ちを有する”白色の角化上皮が,あたかも食道粘膜に付着しているかのように観察され,ヨード染色では不染を示す1)2).境界明瞭な白色隆起を示す病変として,parakeratosis(錯角化)やhyperkeratosis(過角化)なども挙げられるが,内視鏡所見のみで鑑別することは難しく,epidermizationの診断には病理組織所見が必要である.epidermizationの組織所見(Fig.4)の特徴は,重層扁平上皮の表層に厚い角化層を有し,その直下にはケラトヒアリン顆粒を有する顆粒層を伴う点である.
咽頭および食道の扁平上皮に存在するループ状の毛細血管である.扁平上皮では粘膜固有層が上皮内に乳頭状に突出する.その乳頭内を走るループ状の終末血管がIPCL(intra-epithelial papillary capillary loop)である1)(Fig. 1)(厳密には,上皮の境界を基底層と定義すると,IPCLは粘膜固有層の血管とも言える).IPCLは乳頭内で扁平上皮の基底層に近く存在し,上皮内癌では特徴的な変化(拡張・蛇行・口径不同・形状不均一)を来す2)(Fig. 2,シェーマ).通常光の拡大観察でも視認可能であるが,IEE(image-enhanced endoscopy)の併用拡大観察により,茶褐色のループ状血管としてよく観察される.
Barrett食道では,隣接する扁平上皮下に腸上皮化生(subsquamous intestinal metaplasia ; SSIM)の進展がしばしばみられる.その機序は酸などの刺激に対する治癒過程での扁平上皮再上皮化と考えられている.SSIMの内視鏡検査での診断は現時点では生検でのみ可能とされる.欧米ではSSIMはBarrett食道腺癌の発生と関連していると考えられている1).Barrett食道腺癌EMR標本の検討では98%にSSIMがみられた2).
一方,Barrett食道腺癌が扁平上皮と接している場合,正常の扁平上皮下に腺癌が進展していること(Barrett's cancer under the squamous epithelium ; BCUS)がある.このBCUS部では癌が表層に露出していないため,内視鏡検査による範囲診断が困難な場合がある3).Barrett食道腺癌を覆う扁平上皮が薄い場合は,扁平上皮下の腺癌部分が発赤調に透見されたり(Fig. 1),NBI観察で淡い茶色様変化(Fig. 2)を呈したりする場合がある.厚い扁平上皮に覆われると,それらの所見もみられなくなる.
食道運動機能異常症で認められる特徴的な食道内視鏡所見であり,胸部中部ないし下部食道における非蠕動性同期性収縮を反映している.
内視鏡的には,らせん状ないし多発輪状の異常収縮が観察される(Fig. 1).口側には,食物や唾液の停滞を伴っていることも多い.食道X線造影検査では,バリウムの通過障害とともに,コークスクリュー様,数珠玉状と表現される異常収縮が認められる(Fig. 2).
食道長軸方向に縦走する幅の狭いひび割れ状,亀裂様の溝である(Fig. 1〜3).好酸球性食道炎の約半数に出現し,最も出現頻度の高く,最も特異的な所見である1).好酸球性食道炎の診断基準(2015年)をTable 1に示す.
瀑状胃の定義
瀑状胃とは,噴門直下の高さで胃体部後壁が鋭角をなして屈曲し,胃穹窿部が主として左後方へ囊状に区切られている胃型である.立位で嚥下されたバリウムが胃穹窿部を盃状に満たした後に胃体下部にこぼれ落ちる型の変形胃の形態学的呼称とも言われている1)(Fig. 1,2).
牛角胃の定義
牛角胃とは,胃の形が牛の角のような形態を呈するものに対して用いられ,横胃とも呼ばれる(Fig. 3)3).比較的緊張度の高い胃の状態でみられ,肥満体型や筋肉質の男性に多い.
胃上中部が胃酸,ペプシンを含む消化液を分泌して食物の消化を行うのに対して,幽門前庭部などの下部は食物を腸に排出する機能を受け持つ.幽門狭窄とは幽門前庭部から球部の一部に狭窄を来して排出障害となり,胃内に食物が停滞した状態を表す用語である.左側臥位で内視鏡を挿入すると十分な絶食の後でも胃穹窿部から胃体部大彎にかけて食物残渣が残り,胃下部に狭小化所見が認められる.非腫瘍性としては良性潰瘍が反復した場合(Fig. 1)に認められることが多かったが,Crohn病の上部消化管病変や好酸性胃腸炎あるいは胃梅毒に伴って発生した報告もある.腫瘍性病変では進行胃癌(Fig. 2)で幽門狭窄を来すことが多いが,早期胃癌が幽門輪近傍に発生した場合にも起こりうる1).壁外からの圧排や腫瘍性病変の浸潤で狭窄を来す場合も認められる.
胃小区模様とは,胃粘膜表面に溝によって小さく区画されている模様を指す1).胃小区の大きさは切除胃固定標本で幽門腺領域では長径3〜6mm,短径2〜3mm,胃底腺領域では径2〜3mmとされている1)2).病理組織学的には,胃小区を囲っているのは樹枝状に分岐した大型の胃小溝である3).胃小区の形態分類は井田1)の分類がある.この分類はコントラスト法によって描出される胃小区を幽門腺粘膜と胃底腺粘膜に分けて,前者をP型,後者をF型としている.萎縮性変化の進行とともに小区間溝は広く深くなり,小区の形態も不整になり,その形態がP0〜P3,F0〜F3までに分類されている1).
胃X線造影所見で表される病的変形の名称である.小彎短縮とは,潰瘍などが原因で胃角から幽門輪の距離が短縮する現象.囊状胃とは,大彎の伸展は保たれたまま小彎短縮が高度となり前庭部小彎が消失し,胃角そのものが幽門小彎になり胃全体が袋状を呈した状態の胃.
ニッシェとは,開放性潰瘍を表現するX線造影所見である.ニッシェは,英語でniche,ドイツ語でNische,日本語では壁龕(へきがん)と訳されており,壁龕とは建物の壁に彫像や花瓶などを置くために設けられた装飾的なくぼみのことである(Fig. 1).
胃壁の一部が欠損した部分(開放性潰瘍)にバリウム造影剤が溜まって描出されるX線造影像が壁龕に似ていることから命名されており,本邦ではニッシェとして用いられている.ニッシェは,良性胃潰瘍だけでなく,潰瘍を合併する胃癌や腫瘍性病変などにもみられる1).正面ニッシェと側面ニッシェがあるが,正面ニッシェは,境界明瞭なバリウム造影剤の濃い溜まり像として正面に描出された像(Fig. 2),側面ニッシェは,胃の滑らかな辺縁から胃外側に突出した所見として側面に描出された像(Fig. 3)を言う.
胃角が開くということは,胃角部小彎,ないし,その付近に病変があって常態のように胃角をつくれないということである.胃角部が硬くなって(Fig. 1,2),胃壁が伸縮できない状態を言う.病変としては,潰瘍でも癌でもよい1).
彎入の定義
X線造影所見における用語である.胃を適度に伸展した状態で撮像した際に,辺縁にくびれが生じた所見を呈することを指す.生理的な場合にも認められるが,胃壁の病的な変化から出現する際の彎入は重大な所見である.
透亮像の定義
骨や肺気管支,血管のX線造影所見でも使用される用語である.胃X線検査で使用する際は,隆起性病変が正面像としてバリウムをはじいて現れている所見1)である.胃の場合には抜けている領域が空虚ではなく,粘膜像が存在する.
壁硬化像とは,胃癌の粘膜下層以深への浸潤,炎症や潰瘍に伴う線維化などによって,胃壁に器質的変化が生じ弾性が失われた結果,胃壁が硬く伸展性が悪くなった状態を描出した画像所見である(Fig. 1〜4).
X線造影検査では,胃壁は,本来,緩やかで平滑な曲線として描出されるが,壁の硬化がある部分では,緩やかな曲線が失われて直線化や不規則な凹凸などの所見を認める1).壁硬化が広範囲に拡がればバランスの悪い不自然な胃形として描出される.空気量を変えて胃壁の伸展度合いを変化させて描出すると,壁硬化の範囲,深さ,程度を知ることができる.
伸展不良とは,X線検査の充満像ではバリウムで,二重造影像では空気またはガス(発泡剤)で,胃を膨らませて胃壁を伸展させるも,胃壁の硬化などによって伸展が悪くなった状態を表現する用語である(Fig. 1,2).胃壁の伸展が不良な場合,胃体部のひだ間の伸展不良を認めたり(Fig. 3),正常な胃と比較して胃形のバランスが悪い場合には(Fig. 4),胃壁のびまん性硬化があると判定する.その場合,癌が粘膜下層以深へ浸潤したスキルス胃癌を疑うが(Fig. 3,4),スキルス胃癌であれば,通常,原発巣となる陥凹性変化があり,生検で未分化型癌が認められる.ただし,原発巣が不明瞭で生検で癌を認めない例もあり,注意が必要である.また,広範な線維化を来すような特殊な病態や漿膜側の炎症後の癒着や他臓器癌の漿膜浸潤,感染症など,伸展不良を来す疾患は多い1).
スキルス胃癌が進行した状態において胃が縮小硬化し,革袋状の形態を呈することをleather bottle like appearanceという1).
巨大皺襞には明確な定義はないが,X線学的には二重造影にて皺襞幅が10mm以上を呈し,内視鏡的には十分な送気によって腫大・屈曲蛇行したひだが認められ,ひだ間の溝は狭くなる.また,ひだの屈曲蛇行所見が強くなると,大脳回転様の像を呈することもある.巨大皺襞は良悪性にかかわらずさまざまな疾患で認められ,粘膜あるいは粘膜下以深の病理学的変化に伴って形成されるが,①胃腺の肥大や過形成によるびまん性の肥厚(肥厚性胃炎,Ménétrier病,Cronkhite-Canada症候群),②粘膜間質の浮腫や種々の細胞浸潤による粘膜・粘膜下層の肥厚(悪性リンパ腫),③粘膜下層や筋層の線維性組織増生を伴う収縮(スキルス型胃癌),④漿膜側からの炎症波及(急性膵炎など),に分類される1).
スキルス胃癌の線維性収縮が軽度〜中等度の場合,胃体部大彎の縦走するひだに交錯する横走する粘膜ひだを認め,ベルギーワッフル(Fig. 1)に類似していることから呼称されている1).胃底腺領域に原発巣が存在するスキルス胃癌では,原発巣以外の粘膜層には癌浸潤は認めないため粘膜層の伸展は良好であるのに対して,粘膜下層以深に浸潤している領域では,器質的変化が生じて弾性が消失し,長軸方向と短軸方向の両方向への短縮が認められ,縦走するひだに横走するひだが生じ交錯する形態を呈することがある(Fig. 2,3).
稜線状発赤は胃体部小彎や前庭部大彎を中心に,胃長軸方向に平行に縦走する,数条の帯状発赤である(Fig. 1〜3).発赤は胃皺襞の頂上部に一致して観察される.欧文表記はドイツ語のkammrötungであり,本来は畝に沿う発赤という語意であるが,kammを“櫛”と誤訳されたことで,櫛でこすってできたような内視鏡所見も相まって本邦では櫛状発赤と広まったようである.「消化器内視鏡用語集第3版」では櫛状発赤は稜線状発赤として改められている1).1956年にHenningが表層性胃炎の1所見として報告2)しているが,病理組織学的には細胞浸潤はみられず,発赤部における表層血管のうっ血が確認される3).一般に非萎縮粘膜の過酸・正酸例にみられることから,稜線状発赤の成因としては胃の蠕動収縮時に皺襞の尾根にうっ血が生じ,そこに接する胃酸が作用しているものと考えられる.
中心に小陥凹がある疣状の隆起をたこいぼ状隆起と呼び,たこの吸盤に似ていることからこの名がつけられた(Fig. 1,2).たこいぼびらん,疣状胃炎,隆起型びらん(raised erosion)とほぼ同義であり,updated Sydney systemの胃炎分類にも記載されている1).
ポリープ状,棍棒状,数珠状などの形態をとり,前庭部に好発するが胃体部に認めることもある.多発することが多いが,単発のこともある.中心の陥凹は発赤調で同心円状を呈し白苔を伴うこともあるが,蚕食像などの悪性所見を認めない(Fig. 3).病理組織学的には中心のびらんとその周辺の胃固有腺の過形成である.びらんが治癒すると半球状隆起として観察される.
McCormackら1)は門脈圧亢進症による消化管病変のなかに,食道・胃静脈瘤や急性胃炎,消化性潰瘍などと異なる,胃粘膜のうっ血により胃の粘膜固有層や粘膜下層における微小血管の拡張を来し,内視鏡的に特有な発赤所見を呈する病態を門脈圧亢進症性胃症(portal hypertensive gastropathy ; PHG)とし,PHGに伴う胃粘膜障害をcongestive gastropathyとして提唱した.PHGの内視鏡所見は胃体部を中心とした広範な発赤と浮腫,胃小区と腺窩の拡張像を認め,“いくら状胃炎”と表現される(Fig. 1).時に斑状のびまん性発赤や出血,びらんや浅い潰瘍を伴うこともある.
McCormackら1)はPHGの内視鏡所見を,①軽症:軽度の発赤,線状発赤(粘膜ひだ上のストライプ様発赤),浮腫状の発赤した粘膜が白色の網目状パターンで境界されたsnakeskin(mosaic)pattern(Fig. 2,3)と,②重症:高度の発赤斑としてcherry red spotおよび,びまん性発赤,とに分類している.豊永ら2)の臓器反射スペクトル法による重症度分類もある.
消化管粘膜が敷石状に見える所見は,Crohn病の消化管病変の特徴的な変化で,診断基準の一つになっている.縦走潰瘍に取り囲まれた浮腫を伴う非潰瘍粘膜が4〜7mmの半球状隆起の集合となり,丸い石を敷き詰めたように見える所見や,時に,炎症性ポリポーシスも敷石状粘膜に含まれる.最近,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI)を中心とした胃酸分泌抑制薬を長期使用する機会が増加し,これまでに経験したことのない胃粘膜変化を経験するようになった.敷石状胃粘膜もその一つで,胃体部に均一な小隆起が多発する変化で,粘膜がもこもこして見えることから,当初は,“もこもこ胃炎”と筆者らは呼んでいたが,組織学的には炎症は伴わないので,敷石状胃粘膜が形態学的にもふさわしい1)2).
敷石状胃粘膜は,正面に見える胃体下部前壁や大彎を見下ろしたとき,胃角部から反転で胃体部前壁を見上げたときによく観察できる.通常,粘膜ひだの増加を伴っており,胃体部粘膜の萎縮のない症例に多く認められるため3),多くは胃体下部小彎にも粘膜ひだが認められる.当初は,ひだの過形成変化と考えたが,よく観察すると,ひだの幅が太くなっていることは少なく,ひだの数の増加と蛇行,さらに,敷石状の変化が粘膜ひだにも認められることから,一見,Crohn病で認められる竹の節様に見えるが,節に見える部分はくぼんでおり,連なった蓮根様で,“lotus root sign”と名付けている(Fig. 1).
腸上皮化生はHelicobacter pylori(H. pylori)感染などにより胃粘膜上皮がびらんと再生を繰り返すことにより,腸管粘膜上皮の形態に変化した状態であり,胃癌発生の高危険群でもある.腸上皮化生には細胞組成から完全型と不完全型に分けられ,完全型では吸収上皮と杯細胞,Paneth細胞から成り,刷子縁様構造を伴い小腸粘膜と同じ形態と構造を持つ.不完全型はPaneth細胞を欠き,胃型と腸型の細胞が混在する胃腸混合型の腸上皮化生と考えられている.また,化生胃小区の形態より隆起型,平坦型,陥凹型に分けられる.
腸上皮化生は現感染のみではなく,H. pylori除菌後でも観察され,長期間にわたり残存する.除菌後の特徴的な所見として地図状発赤があるが,生検による組織検査では腸上皮化生の所見が得られることが多い.
村上ら1)は,組織欠損の深さをUl-I(粘膜のみ),Ul-II(粘膜下層まで),Ul-III(固有筋層まで),Ul-IV(漿膜層に達する)に分類した(シェーマ).これらの分類から,Ul-Iまでをびらんとし,Ul-II以上が潰瘍と定義される.
病変の形態が,円形(隆起性病変の場合は球状または半球状)ないし類円形の場合は整,それ以外の場合は不整と呼ばれている(シェーマ).これに対して不整形陥凹とは,病変の辺縁が内に向かって凸の形態を示す場合を指し,星芒形とも呼ばれる.不整形陥凹性病変を認めた場合,まず胃癌(Fig. 1,2)1)や悪性リンパ腫(Fig. 3,4)2)といった悪性病変の可能性を考慮しなければならないが,急性潰瘍や胃梅毒などの特殊型胃炎に伴う潰瘍も不整形を呈する場合がある.一方,消化性胃潰瘍の辺縁は通常,外に向かって凸で,円形ないし類円形の整の形態を示す.陥凹性病変を認めた場合は,まず辺縁の形状に注目して整か不整かを見極めることが,胃陥凹性病変の鑑別診断に重要である.
背景粘膜の色調と比較して,赤みが強く見える場合を“発赤”と言い,白色調に見える場合を“褪色”と表現する.背景粘膜の色調は,Helicobacter pylori(H. pylori)の感染状態(未感染,既感染,現感染)や胃粘膜萎縮の程度によって異なるため,“発赤”や“褪色”はかなり主観的な所見である.これらの所見は腫瘍性病変と非腫瘍性病変のいずれにも認められるが,本稿では腫瘍性病変における色調について述べる.
ひだ集中は,潰瘍あるいは潰瘍瘢痕に向かって周囲から粘膜ひだが集中する現象を指し,1921年,Eisler-Lenkによって初めて記載された.1926年,Hauserは大きさが1cm以上で筋層深くまで達していて,粘膜筋板と固有筋層との融合を伴う潰瘍には著明なひだ集中像を認め,潰瘍が大きくて深いほどひだ集中像は著明に現れると述べている.ひだ集中は潰瘍のほか潰瘍瘢痕を伴う胃癌などの腫瘍性病変でも認められるため,鑑別診断が必要となる.本邦では,胃体部大彎を中心に既存のひだの数本が1点または2点以上の中心点に向かって走行している状態をひだ集中(Fig. 1,2),もともとひだのない領域にみられる集中像を粘膜集中像(Fig. 3,)と分けて呼ぶ場合がある.ひだ集中の成因については,粘膜筋板と潰瘍底の瘢痕収縮によると考えられており,潰瘍の新旧や治癒傾向の判定,さらに良・悪性の鑑別にも利用される1).
蚕食像は陥凹型胃癌の辺縁にみられる微細な不整所見で,悪性診断の最も重要な指標のひとつである.ひだ集中の有無や深達度,組織型に関係なく認められる1).
蚕食像とは読んで字のごとく,蚕が食べた桑の葉の形態に似ていることに由来した名称である.虫食い像とも呼ばれ,海外ではmoth-eaten,encroachmentと訳されている.
インゼル(insel)はドイツ語で島という意味で,0-IIc型未分化型癌の陥凹内に島状に取り残された粘膜のことを称する(まれに分化型癌でもみられる)1).インゼルの表面に癌組織が認められる場合もあるが,実際には癌の浸潤が少ないことから,日本語では“島状粘膜残存”,“聖域”と呼ばれてきた.ただし,正常粘膜の取り残しなのか,再生粘膜なのかは文献上でも明らかでない.インゼルについて欧米の論文での記述はまれで,早期胃癌の診断学を完成させた本邦で生まれた用語である2).
胃隆起性病変の鑑別診断(アルゴリズム)1)において,“立ち上がり”の所見は重要である.山田分類(シェーマ)2)に従うと,I型とは“隆起の起始部が滑らかで,明確な境界線を形成しないもの”,II型とは“隆起の起始部に明確な境界線を認めるが,くびれはないもの”,III型とは“隆起の起始部に明らかなくびれを認めるが,茎はないもの”,IV型とは“明らかな茎を有するもの”と定義されている1).
食道裂孔ヘルニアは胃の一部が食道裂孔に嵌入した状態であり,横隔膜ヘルニアの中では最も頻度が高い.内視鏡検査では食道胃接合部と食道裂孔の位置のずれを同定することで診断できる.食道裂孔ヘルニアはX線造影検査における形態の違いから滑脱型,傍食道型,混合型に分類される.
噴門開大は食道裂孔の大きさを反映し,胃内で反転観察したときに食道裂孔部にみられるスコープ周囲の間隙として認識される.Hillら1)は,噴門開大の程度を内視鏡的に評価したGEFV(gastroesophageal flap valve)の分類を提唱している(Fig. 1).GEFV分類のGrade III以上ではほとんどの例で食道裂孔ヘルニアを合併しており,このGradeが高いほど逆流性食道炎を合併しやすいと考えられる.
正常な幽門は通常内視鏡観察時には開放しており,その輪郭は平滑である.しかし詳細にみると辺縁は決して正円ではなく,多くの場合小彎側が幽門輪内に突出している1)(Fig. 1).
幽門輪変形は,辺縁のひきつれや浮腫,発赤など軽度のものから,胃内容物の流出障害を来す狭窄までを指す.軽度の変形は,十二指腸潰瘍や幽門部びらんなど良性疾患によるものが多いが,伸展性の悪い変形や狭窄は,胃癌,十二指腸癌や他臓器癌の浸潤など悪性疾患によるものも多い.
解剖学的には固有胃腺は口側から噴門腺,胃底腺,幽門腺の領域に分類されるため,腺境界は噴門腺─胃底腺境界と胃底腺─幽門腺境界の2つが存在するが,一般に腺境界とは後者のことを指す.H. pylori感染をはじめとする慢性炎症により胃底腺の減少・消失が起こり,胃底腺粘膜が幽門腺類似の腺管へ変化し(偽幽門腺化生),境界が変動していくため萎縮境界とも呼ばれる.具体的には腺境界は前庭部から胃体部小彎側を中心に弧を描きながら口側に移動し,噴門を越えた後に,胃体部大彎側へ移動する.萎縮境界には非萎縮粘膜と萎縮粘膜が混在するため,厳密には萎縮のない胃底腺領域の肛門側限界線(F線),胃底腺が巣状に残存する中間帯,中間帯の肛門側限界線(f線)から成り,線というよりは幅をもって帯状に存在する1).
粘膜下層以深に病変の主座を置く隆起により周囲粘膜が引っ張り上げられて,隆起の周囲から隆起表面に向かい,橋が架かるように途絶せずなだらかに移行するひだのことをbridging fold(架橋ひだ)と定義される1).この所見を認めた場合,粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)や非上皮性腫瘍を第一に考える.ただし,癌でも粘膜表層でなく粘膜下層以深に腫瘍塊を形成した場合や,粘膜下層にリンパ組織増生(carcinoma with lymphoid stromaなど),線維化,粘液産生を伴う場合にも同様の所見を呈することがある.
delleとは,ドイツ語で凹窩・くぼみを意味する.内視鏡所見では0-IIc型病変や潰瘍性病変といった上皮性病変に用いられることは少なく,非腫瘍粘膜に被覆された粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)の粘膜面にできた小陥凹・小潰瘍を示す場合に用いられる(Fig. 1〜3).すなわち,間葉系腫瘍のうちGIST(gastrointestinal stromal tumor),筋原性腫瘍である平滑筋腫,神経原性腫瘍である神経鞘腫・顆粒細胞腫,脂肪腫,glomus腫瘍のほか,悪性リンパ腫,また上皮性腫瘍のなかでも基底膜由来のカルチノイドや他臓器癌の壁内転移などの病変に用いられる1).なお,異所性膵組織(迷入膵)の導管開口部にみられる陥凹については,臍窩と呼ぶ.
bull's eye appearanceは皮膚疾患や眼疾患などのさまざまな医学領域で使用されている用語である.胃においては血行性に転移した転移性腫瘍が粘膜下層や固有筋層で成長して半球状の形態を示す場合に用いられる1).周囲より明らかに隆起した類円形の限局性病変で,中央にdelleや潰瘍形成を伴う.隆起の立ち上がりは周囲粘膜と同様の性状を呈しているが,頂部に向かって次第に変化を来す場合が認められる.一方,頂部の一段低くなった領域に達するまで変わりない粘膜に覆われることがあり,その形態は転移してきた癌腫の細胞成分や線維成分の増殖の多寡により異なる(Fig. 1〜4).最初に悪性黒色腫転移例が報告された2)が,肺癌,膵癌,結腸癌,悪性リンパ腫の胃転移例でも同様の特徴を持つことがある.乳癌の胃転移はこの形態をとらず,スキルス胃癌に類似した形状が多く報告されている.
粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)は“粘膜よりも下方に存在する壁内病変により粘膜が挙上されて生じた隆起”である1).鑑別にあたり,まず通常観察で部位や腫瘍径,個数,色調,表面性状を観察する.続いて鉗子で押した際の変形・可動性により粘膜内病変の硬さを類推する.脂肪腫のような軟らかい病変であれば,鉗子で圧迫した際に,表面が下降し,圧迫を解除すると速やかに元の形態に戻る.これを“cushion sign”(Fig. 1,2)あるいは“pillow sign”という2).また,空気量や蠕動など外力による変形(squeeze sign)や,粘膜を生検鉗子で把持し,引っ張り上げた際にテントを張ったような形態(tenting sign)がみられれば,同様に軟らかな病変が予想される.
圧排像とは,胃に隣接する臓器(肝臓,脾臓,膵臓,小腸,大腸,食道,リンパ節,腹膜など)によって,胃壁の一部が圧迫される所見である.原因はさまざまで,隣接する臓器の病的腫大(炎症や腫瘍など),囊胞,腸管ガスなどがある.圧排像を認める部位より,原因臓器の推定がある程度可能である.例えば,胃上部前壁の圧排は肝臓(Fig. 1)や脾臓,胃体部後壁の圧排は膵臓(Fig. 2,3)1),胃体部大彎の圧排は腸管などが多い.
1898年にフランスのDieulafoy1)が,コイン大の比較的小さく浅い潰瘍から大量の吐血を来し失血死すると報告した潰瘍である.内視鏡検査では,潰瘍が浅く小さな割にアンバランスな太い露出血管がみられることが特徴的所見である(Fig. 1).胃体上部に好発し,潰瘍周囲には浮腫性の隆起や皺襞集中は通常認められない.明確な定義がないため,angiodysplasia,angioectasiaやAVM(arteriovenous malformation)などのさまざまな疾患と混同して報告されることもあった.
胃底腺の過形成と囊胞状拡張から成る胃底腺ポリープが,胃体部から胃穹窿部に多発するものを胃底腺ポリポーシスと呼び,個数には定義はなく,もともとは家族性大腸腺腫症に合併した胃病変として報告された1).その後,家族性大腸腺腫症に合併しない胃底腺ポリポーシスも指摘され2),胃底腺ポリープは,Helicobacter pylori(H. pylori)感染陰性の胃に発生することが多く3),H. pylori感染陰性者が増加しているため,最近では,家族性大腸腺腫症に合併しない胃底腺ポリポーシスの頻度が増えている.さらに,最近,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI)の長期投与で胃底腺ポリープが新たに発生し,既存のポリープが増加・増大し,胃底腺ポリポージスの形態を示すことがある4).PPIによるものは,薬剤の減量,H2受容体拮抗薬への変更,あるいは中止で改善する.
主にCrohn病(Crohn's disease ; CD)患者の胃に認められる画像所見である.胃噴門部から胃体部小彎にかけて2〜4条の腫大した皺襞と,それらを規則正しく横切る亀裂状の陥凹が縦に配列する所見を“竹の節状外観”とした(Fig. 1,2).また,皺襞の腫大が目立たず,軽微な浅い陥凹のみの所見も認められることがあり,縦走配列陥凹(longitudinally aligned furrows)とした1)2)(Fig. 3).
潰瘍形成を伴う消化管腫瘍において,潰瘍辺縁に認める不整所見のない健常粘膜に覆われた幅の狭い隆起部分を耳介様周堤と呼称している.その形状が耳介の耳輪に類似していることに由来する.
一般に,耳介様周堤は分化型癌ではみられず,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma ; DLBCL)などの高悪性度リンパ腫に特徴的な所見とされている(Fig. 1 1)〜3).しかし,低分化腺癌やリンパ球浸潤胃癌を含む未分化型癌でも,しばしば耳介様周堤を呈するので注意が必要である.このほか,腸管Behçet病または単純性潰瘍,サイトメガロウイルス感染性腸炎などでみられる打ち抜き様潰瘍でも,同様の周堤が観察されることがあるが,耳介様周堤の名称は,通常は腫瘍性病変に限定して使用される.
Helicobacter pylori(H. pylori)未感染の正常胃では胃底腺領域に集合細静脈が規則的に配列する像が観察される.その内視鏡像をRAC(regular arrangement of collecting venules)という1)2).遠景では“規則的な無数の点”として視認され,近接では“ヒトデ状の模様が整然と配列する像”として視認される1).このRAC像が胃体部全体に観察される場合,RAC陽性としてH. pylori未感染の正常胃と判定する1)2).RAC陽性の場合は95%の正診率でH. pylori未感染の正常胃である1)2).
シェーマ1は,胃体部腺粘膜の表面から腺窩(crypt)までの比較的表層の組織断面図である.なお,腺頸部から深部の構造は光が到達しないので省略している.胃体部の腺窩は,粘膜表面に対して垂直に凹んでいるのが特徴である.組織学的には,表面の被蓋上皮(surface epithelium)も腺窩の上皮(crypt epithelium)も同じ腺窩上皮(foveolar epithelium)から成るが,NBI併用拡大内視鏡で視覚化される像は異なる.したがって,表面上皮(surface epithelium)と腺窩のへり,すなわち腺窩辺縁上皮(marginal crypt epithelium ; MCE)に区別する.一般に,NBI併用拡大内視鏡において,表面上皮は視覚化されないので,腺窩辺縁上皮が表面微細構造の指標として拡大内視鏡診断に用いられる1).
シェーマ2に腺窩辺縁上皮が視覚化される機序を示している.垂直方向に配列した腺窩辺縁上皮に短波長の狭帯域光を投射すると,後方散乱が起こり,それが垂直方向に集積し,白色半透明の帯状の腺窩辺縁上皮として視覚化される1).
NBI拡大観察時,粘膜模様は白っぽい縁で認識される.その白っぽい縁がwhite zone1)2)である.血管を内包する粘膜模様の縁取りをするwhite zone(Fig. 1,黄矢印)や点状や円形に観察されるwhite zone(Fig. 1,白矢印)が存在する.前者は乳頭・顆粒状の粘膜模様で観察され,後者は小さな円形開口部などに観察される.
NBI拡大観察で真上から観察した場合,腺窩辺縁上皮に入るNBI光は血管に当たらず,散乱により白縁として観察される.この腺窩辺縁上皮がwhite zoneとして観察される(Fig. 2)2).しかし,斜めからNBI拡大観察した場合は窩間部から腺窩上皮に抜けるNBI光が血管に当たらず,散乱により白縁として観察される.すなわち,窩間部から腺窩上皮の部分がwhite zoneとなる(Fig. 3)2).このようにwhite zoneは基本的に上皮を表しているが,NBI光の方向によって表す上皮の解剖学的部位は異なる.
胃の腸上皮化生はH. pyloriの慢性感染によって,胃粘膜が腸の形質を持つ粘膜に変化する現象で,胃癌発生のリスクと密接に関連している.NBI併用拡大観察で腸上皮化生をみると,上皮の辺縁部(表面)に青白色調の光の線を認める(Fig. 1,2).これが,LBC(light blue crest)で“上皮の表層を縁取る青白い線”と定義されている1).病理組織学的腸上皮化生の診断に有用である(感度:89%,特異度:93%).
2002年に筆者ら1)は,拡大内視鏡を胃粘膜に応用し,世界に先駆けて早期胃癌に特徴的な微小血管構築像について報告し,従来の内視鏡で診断が困難な胃病変に対する癌・非癌の鑑別診断に有用であることを報告した.一方,正常胃粘膜においては観察されないが,毛細血管レベルまでの分解能を有する拡大内視鏡を用いても,慢性胃炎粘膜における腸上皮化生・腺腫・癌の表層に白色の物質が存在し,上皮下の血管が透見できない現象を発見した.しかしながら,当時は本物質の正体が不明であったので,白色不透明物質(white opaque substance ; WOS)と命名し,早期胃癌と胃腺腫を鑑別する新しい光学的マーカーとなりうる可能性について報告した1)(Fig. 1,2).長らく,WOSの正体は不明であったが,ついにその正体は,“上皮を含む腫瘍の表層部に集積した微小な脂肪滴であること”(Fig. 3)を明らかにした2).さらに,胃のみならず大腸のあらゆる上皮性病変についてもWOSが存在することとその臨床的意義について,報告した3).
Nakayoshiら1)は陥凹型早期胃癌の拡大内視鏡所見に着目し,メッシュ様のネットワークを形成する微小血管を“fine network(Fig. 1)”,孤立して無秩序に走行する微小血管を“corkscrew(Fig. 2)”と定義している.前者は分化型癌の66%(72/109)および未分化型癌の4%(2/56),後者は分化型癌の4%(4/109)および未分化型癌の86%(48/56)に認められ,それぞれ分化型癌および未分化型癌と関連する所見と考えられた.Sumieら2)はこれらの所見の,分化型癌と未分化型癌の鑑別に対する診断能を後向きに評価している.早期胃癌100病変の検討で,感度,特異度,正診率はそれぞれ62%,86%,79%であった2).
WGA(white globe appearance)とは,“NBI併用拡大内視鏡観察中に認める,上皮直下に存在する小さな(1mm以下の)白色球状外観”と定義されている.“上皮直下”とは上皮内の微小血管下に存在することを意味し,“球状”であることは中心から辺縁に向かって白さが乏しくなることから推測できる(Fig. 1)1).NBI併用拡大内視鏡の拡大倍率は問わないが,最大倍率のほうがWGAを判定しやすい.なお,頻度は不明であるが食道腺癌や大腸癌でも確認できる内視鏡所見である.
VEC(vessels within epithelial circle)pattern(円形上皮内血管パターン)とは,NBI併用拡大内視鏡観察において,正円形(circular)の腺窩辺縁上皮(marginal crypt epithelium ; MCE)で囲まれた円形の窩間部上皮下に血管が存在する所見である1)(Fig. 1,2).
NBI併用拡大内視鏡により視覚化される正円形の上皮は,組織学的に乳頭状すなわち指状の突起部を縁取る腺窩上皮に対応する(Fig. 3).また,内視鏡で捉えられた円形上皮内の血管は,組織学的に指状の突起部の上皮下の間質に増生した血管に対応する(シェーマ).
胃の拡大内視鏡観察において観察される胃粘膜構造の分類である.
foveolar type(腺窩型,Fig. 1).腺開口部が点状〜単線状の形態を表す粘膜構造を示す.胃底腺領域においてH. pylori未感染の正常粘膜,または萎縮や腸上皮化生の少ない胃底腺粘膜の模様はこのタイプである.病理組織学的に管状の腺管が“窩(あな)”状に開口する粘膜の表面構造を反映する.
Helicobacter pylori(H. pylori)慢性胃炎は炎症とともに粘膜萎縮を生ずる.拡大内視鏡的にその変化は胃底腺粘膜で著明である.幽門腺粘膜ではその変化は乏しい.H. pylori未感染の胃底腺粘膜の拡大内視鏡像をB-0,H. pylori未感染の幽門腺粘膜の拡大内視鏡像をA-0とし,H. pylori感染により生ずる拡大内視鏡像の変化を示したものがA-B分類である(Fig. 1)1)2).
“白色扁平隆起”は筆者ら1)が2007年に報告したもので,その通常内視鏡所見の特徴は,①白色,②扁平隆起,③多発性,④胃体部に認める,⑤周囲粘膜に萎縮がない,などである(Fig. 1,2).病理組織学的特徴は,①腺窩上皮の過形成,②胃底腺萎縮,③炎症細胞浸潤は軽度で,単核球主体などである(Fig. 3).
その後,春間ら2)が多数例を検討し,“多発性白色扁平隆起(春間・川口病変)”として報告している.
胃潰瘍は臨床経過により急性潰瘍と慢性潰瘍とに分類される.良性サイクルとは,後者の慢性潰瘍で観察される,治癒と再発を繰り返す病態を指す.急性潰瘍がストレスや薬剤など明らかな原因と考えられる要因を除去することで治癒に向かい,再発や難治化を来さないことと対照的である.病期的には,活動期,治癒過程期,瘢痕期に分類される1)(Table 1).Helicobacter pylori感染などの原因が除去されないと,A1→H1→S1→A2→H2→S2のように潰瘍が再発と治癒を繰り返す(Fig. 1〜6),すなわち良性サイクルが観察されることとなる2).再発性潰瘍では活動期でも皺襞集中を伴う(Fig. 4).
シェーマ1)に示すように,良性の消化性潰瘍は活動期(A1,A2),治癒過程期(H1,H2),瘢痕期(S1,S2)と変化し,再発すると瘢痕期から再び活動期に戻ることを“良性サイクル”と言う(崎田・三輪分類)1).また,陥凹型早期胃癌(0-IIc病変)の中に形成される潰瘍も同じような経過を示し,これを“悪性サイクル”と呼ぶ.すなわち,0-IIc病変内に潰瘍を形成すると,0-III病変(活動期に相当)または0-III+IIc病変(Fig. 1)ないし0-IIc+III病変(治癒過程期に相当)となり,潰瘍が瘢痕化すると0-IIc+Ul scar(瘢痕期に相当,Fig. 2,3)に肉眼型が変化する.さらに,潰瘍が再発すると0-III病変ないし0-III+IIc病変に戻る.しかし,胃癌と診断した時点で通常切除されるため,悪性サイクル全体を通して観察する機会は少ない.
胃粘膜萎縮は一般的に“組織学的な胃固有腺の減少・消失”と定義される.updated Sydney system1)では,“胃粘膜萎縮は腺組織の減少と定義される.萎縮は粘膜の菲薄化を導き,強い粘膜障害を起こすすべての病的状態の基準となる”と記載されている.
日本人に一般的にみられるHelicobacter pylori(H. pylori)感染胃炎の結果として発生する萎縮性胃炎の場合は,胃底腺が萎縮・消失する変化だけでなく,腸上皮化生,そして腺窩上皮の過形成を伴い複雑な形態をとるのが一般的である.
オリジナルは,十二指腸潰瘍症例の,不均一な発赤した十二指腸球部粘膜に観察される,小さな白苔が点々とみられる状態を意味し,集簇することが多く,所見が霜降り肉に似ていることから,大井1)によりカタカナ表記のシモフリ潰瘍と名付けられた.その後,シモフリ状態2)やシモフリ像3),しもふり潰瘍4)あるいは霜降り潰瘍と呼ばれ,表層の病変であることから,“しもふり”あるいは“霜降りびらん”とも呼ばれるようになっている(Fig. 1).
十二指腸潰瘍はしばしば多発傾向があるが,2つの十二指腸潰瘍(瘢痕)の間に形成される稜線状の変形をridgeと呼ぶ(Fig. 1).ridgeを形成すると十二指腸球部は偽憩室様の変形を来すことがあり,変形した部分を“タッシェ”(Fig. 2)という.ridgeは単発の十二指腸潰瘍では形成されず,2つの潰瘍の治癒過程で生じる線維化により,潰瘍がお互いに引き合うようにして形成される.
タッシェ(tasche)は,十二指腸球部の潰瘍または潰瘍瘢痕による潰瘍側の収縮とそれによる正常部分の憩室様膨隆を示すX線造影所見で,潰瘍と幽門輪との間に認められる(Fig. 1〜3).
十二指腸潰瘍のX線診断は,Akerlund(1921年),Berg(1926年)らによってほぼ確立された.タッシェは,1918年に,Hartにより初めて記載され,Schinzによって球部変形のX線所見は大彎側に多く認められることが報告された.その後,Stein(1964年),白壁(1965年)によって十二指腸球部変形の整理がなされた.白壁1)は,変形,狭窄の程度に線状潰瘍,多発潰瘍,さらに瘢痕化潰瘍の概念を加え診断図を示した.十二指腸球部変形は,十二指腸球部の大彎・小彎側の彎入,十二指腸球部の攣縮,タッシェ形成,十二指腸球部萎縮すなわち十二指腸球部癆などがある.辺縁の所見で,陥凹を示すもの(切れ込み,彎入,陥凹,牽引)と出っぱりを示すもの(タッシェ,ニッシェ),それに幽門の変化として幽門非対称,幽門狭窄などがある2).
Crohn病に合併する上部消化管病変は,Crohn病の診断基準の副所見のひとつとして取り上げられている(Table 1).その中でも胃・十二指腸病変に特徴的な所見は,胃病変である“竹の節状外観”と十二指腸病変の“ノッチ様陥凹”である.いずれもインジゴカルミン撒布によりわずかに認識できる程度のものから,通常観察でも明らかに認識できる高度なものまでさまざまである.
十二指腸の“ノッチ様陥凹”は球部から下行部のKerckring皺襞(輪状ひだ)に数本の切れ込みを呈する所見である1).輪状ひだ上の陥凹をノッチ(Fig. 1)と呼び,縦に配列した“ノッチ様陥凹”を呈し,さらに高度になると,ひきつれ所見を伴う(Fig. 2,3).
十二指腸に胃上皮化生が存在することは,1923年にNicholson1)によって初めて報告された.十二指腸粘膜に胃底腺組織と胃型被覆上皮の両者を有するものが異所性胃粘膜,これに対して胃底腺組織を伴わず胃型被覆上皮のみを有するものが胃上皮化生と定義されることが多い.
胃上皮化生は異所性胃粘膜と比較して萎縮性胃炎を合併する頻度が高く〔100%(16/16)vs. 16%(5/32)〕,Helicobacter pylori(H. pylori)陽性率も高い〔92%(12/13)vs. 9%(2/22)〕2).また,十二指腸潰瘍の生検組織の86%(38/44)に胃上皮化生が存在し,その大半にH. pyloriが存在することから,胃上皮化生へのH. pylori感染を十二指腸潰瘍の一因とする報告もある3).
広義には十二指腸に認められる異所性胃上皮全体を指すが,そのなかでも固有胃腺を伴ったものが狭義の異所性胃粘膜と呼ばれている.その成因は先天的な胃組織の迷入であるとされている.一方,固有胃腺を伴わない異所性胃上皮は胃上皮化生と呼ばれ,炎症などに伴ってみられる後天的な変化である.本項では狭義の異所性胃粘膜について述べる.
異所性胃粘膜の頻度は0.5〜2%と報告されている1)2).主として球部にみられる所見であり,典型的には,単発または多発の正色〜発赤調を呈する隆起性病変として認識される(Fig. 1,2).経時的に観察すると形態的変化は乏しいことが多い.異所性胃粘膜を母地とした発癌も報告されており,特に大きいものや形態が変化したものなどについては詳細な観察が必要である.
縦走潰瘍とは,厳密には腸管長軸方向に走行する4〜5cmを超える潰瘍と定義されるが,一般的には3cm程度の短い病変にも用いられている1).
輪状潰瘍は腸管の短軸方向に走行する潰瘍であり,幅が広くなったものを帯状潰瘍と言う.全周性でなくてもこの用語が用いられており,周在性に関する定義はない.ほぼ同様の意味で横走潰瘍という言葉が用いられることがある1).
アフタ(aphtha)およびアフタ様潰瘍(aphthoid ulcer)については,一般的には口腔粘膜のアフタに類似した病変が消化管粘膜に認められる場合に用いられるが,明確な定義はなく異なる見解が混在している1)〜3).本稿では「日本消化器内視鏡学会用語集第3版」と「胃と腸用語事典」の両見解を踏まえ,アフタ,アフタ様潰瘍はほぼ同じ病変を指し示すものとし,単なるびらんと区別するために紅暈を伴う小さな潰瘍もしくはびらんを“アフタ様病変”と定義して解説する.
“びまん性”とは“病変がはっきりと限定することができず広範囲に拡がっている状態”と定義され,“限局性”に対比する用語である.びまん性病変の所見は皺襞肥厚,皺襞消失,多発結節,顆粒状粘膜,およびこれらの組み合わせに分類される1).加えて種々の程度にびらんや潰瘍形成を伴う場合が多い.
炎症性ポリープは炎症によって形成される粘膜の隆起であり,炎症を背景に形成されるポリープと炎症自体が構成要素であるポリープがある.
前者は狭義の炎症性ポリープである.多発すれば炎症性ポリポーシスと呼ばれるが,数についての規定はない.発生機序から,①粘膜固有層や粘膜下層の炎症によって形成される隆起,②多発潰瘍の周囲,介在粘膜が相対的に隆起(厳密には偽ポリープ),③潰瘍修復の際に炎症性肉芽が隆起,④炎症に伴う線維化により狭窄した腸管で相対的に粘膜がたるんで形成される隆起,⑤潰瘍治癒過程で過剰に再生した粘膜によって形成される紐状あるいは複雑な形状の隆起に分けられる1).炎症性ポリープ(ポリポーシス)を形成する疾患としては潰瘍性大腸炎とCrohn病が代表的であるが,大腸憩室疾患でもみられる.感染性腸炎では主に腸結核とアメーバ性大腸炎であるが,腸結核にみられる炎症性ポリープは萎縮瘢痕帯を伴い小型半球状である.
cobblestone appearanceは敷石像,敷石様外観とも呼ばれ,Crohn病(Crohn's disease ; CD)の診断基準の主要所見のひとつに挙げられている.多発潰瘍の介在粘膜に玉石状の隆起が多発した状態であり,その呼称はあたかも大小の石を敷き詰めた歩道のようにみえることに由来する(Fig. 1,2)1).cobblestone appearanceは小腸・大腸の活動期CDの特徴とされるが,密在した炎症性ポリープもcobblestone appearanceと呼ばれる.しかし,この際は縦走潰瘍を伴わない.活動期CDでは,敷石像に一致して病理学的には粘膜下層の浮腫と高度の炎症細胞浸潤がみられる.通常,深部大腸にみられることが多く,小腸では典型的なcobblestone appearanceを呈する頻度は低い.しかし,他の小腸疾患でcobblestone appearanceを伴う疾患は少ないため,CDの小腸病変の診断において特異性の高い所見とも言える.高度のcobblestone appearanceは難治化の予測因子でもあり,高度もしくは広範囲のcobblestone appearanceを認める症例では,早期の抗TNFα抗体などの治療選択が必要と考えられる.
大腸の正常粘膜表面には腸管短軸方向にほぼ平行して走る無数の微細な溝があり,無名溝と呼ばれる.無名溝には時に交叉し,これによって囲まれるやや細長い“小区”があり,微細網目構造となっている.これは網目像(fine network pattern ; FNP)と呼ばれる.病変部分ではこの構造が消失し,組織学的な病変部分と一致している.
FNPは1965年にWilliams1)により“innominate grooves”として報告された.その後,1971年に狩谷,西澤ら2)は“innominate grooves”から形成される大腸粘膜の微細な模様を“網目像(FNP)”と名付けた.このFNPはX線造影像で再現可能な最小単位であり,大腸二重造影像の基本像となる(Fig. 1).
通常内視鏡観察時に,十二指腸あるいは小腸において,絨毛の外形に一致した白色化により粘膜面全体が均一に白色調を呈するものを白色絨毛,散在性に小さく明瞭な白点を示すものを撒布性白点(白斑)と呼称する.いずれの白色調変化も腸に吸収された食事性脂肪の転送障害あるいは遅延を反映しており,白色絨毛は吸収された脂肪の中心乳糜管への転送障害/遅延により脂肪が吸収上皮細胞内や粘膜固有層内に分布していることを,撒布性白点は中心乳糜管から中枢側への転送障害/遅延による中心乳糜管の拡張を反映しているとされる1).
白色絨毛と撒布性白点は必ずしも病的所見ではなく,健常者でも観察されることがある.食事性脂肪摂取量が多い場合や,胃運動能が低下している場合には,脂肪の吸収・転送が遅延する結果みられる.また,脂肪摂取から内視鏡検査までの時間が短い場合にも観察される.
緊満感とは,主に隆起型腫瘍で用いる用語で,腫瘍が深部で膨張性発育を呈するため,腫瘍表面で風船が膨らんだような張りや光沢1)を示す所見のことである(Fig. 1〜4).癌の場合,①粘膜内または粘膜下層に浸潤した癌量が多いこと2),②SM高度浸潤を来すことによってDR(desmoplastic reaction)が生じること,③粘液癌の併存,などがこの所見の出現する原因と考えられるが,単独あるいは合併も含めてNET(neuroendocrine tumor)などの非上皮性腫瘍でも認められることがある.
non-lifting signとは,Unoら1)に提唱された用語であり,腫瘍の粘膜下層(submucosa ; SM)に局所注射しても,腫瘍自体が盛り上がらず,SMに線維化を来している状態を示す.原因としては,SM以深への癌(腫瘍)の浸潤(Fig. 1,2)やUl-II以深への潰瘍合併,炎症や機械的刺激に伴う,間質反応や線維化があると考えられ,内視鏡的に判断できる所見である2).
大腸癌研究会より出されたガイドライン3)(2014年)によると,大腸癌の内視鏡治療の原則として,“癌が粘膜にとどまっている場合や,粘膜下層に浸潤していても,浸潤の程度がわずかで,転移の可能性が低いと判断される場合”とされている.
大腸内視鏡検査の際に,病変の周囲を取り囲むように白色調の点状所見を認めることがある(Fig. 1〜3).これを白斑(white spots)と呼んでいる.進行大腸癌やSM癌の際に,病変よりわずかに距離をおいた粘膜にみられることが多い.腺腫性ポリープ(adenoma)の周囲にも認めることがある.この病変を取り囲むように存在する白斑の正体はfoamy cell(マクロファージ)である.白斑は粘膜表面にのみ存在するのではなく,病変を取り囲む城壁のように粘膜深部まで存在することもある1).
白斑(foamy cell)の意味することは,malignant potentialの高い病変に対する,進展抑制と考えられている.病変よりわずかに距離をおいて存在することから,物理的な壁として進展抑制をしているようにも見受けられるが,シグナルを出して系統的に進展抑制をしていると考えられている1).進行大腸癌に関して言えば,白斑の存在する群と存在しない群では,白斑の存在する群のほうが有意にリンパ節転移が少なかった1).腺腫性ポリープにおいては,現時点はおとなしいがmalignant potentialが高い可能性が考えられる.
われわれは大腸平坦・陥凹型病変における陥凹を辺縁の性状から棘状,星芒状,面状不整に分類した1).棘状不整とは,陥凹が棘状を呈し,辺縁隆部との段差が明瞭でなく,なだらかに移行する状態である(Fig. 1).一方,星芒状不整は内側に凸であり,面状不整は凸部分が認められない陥凹で,いずれも局面を有する陥凹である.この陥凹辺縁の不整は病変の性質をよく示している(Fig. 2).de novo腫瘍である陥凹型腫瘍では,局面を有する陥凹,すなわち陥凹辺縁の面状もしくは星芒状不整を呈することが一般的である(Fig. 3).一方で明瞭な局面を有さない平坦型病変(いわゆるIIa+dep)では,棘状不整を呈する.
skip lesionとは,X線造影所見・内視鏡所見または肉眼的に消化管病変が正常粘膜像を介して離れて存在する状態の総称である(Fig. 1,2).診断基準改訂案1)にCrohn病にみられる所見として,“非連続性病変または区域性病変(skip lesion)”が明記されている.しかし,本症に特異的な所見ではない.潰瘍性大腸炎ではskip lesionの対義語である“連続性病変”が特徴とされ,skip lesionとともに両疾患を区別する重要な所見とされてきたが,必ずしも鑑別能は高くない.一方,Crohn病においてはskip lesionの介在正常粘膜においても本症の診断基準のひとつであるgranulomaが検出されることがある.
1977年に白壁ら1)の「大腸結核のX線診断」という論文により“潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯”という用語が初めて記載された.その後一般的な使用には冗長的であったため萎縮瘢痕帯という表現が慣用的に用いられ,現在に至る2).白壁らは手術を施行し総合的に腸結核と診断した47例の肉眼所見,X線造影所見,病理組織学的所見などを検討した.その結果,腸粘膜またはリンパ節に乾酪壊死がみられ結核と確定診断できた症例と,非乾酪性肉芽腫を認めた,あるいは肉芽腫を認めなかった症例において,共通した肉眼所見として萎縮瘢痕帯を見い出した.すなわち,乾酪壊死を認めなくても,萎縮瘢痕帯を認めた場合には腸結核と診断できる可能性が高いと述べた.また,萎縮瘢痕帯を示す結核以外の疾患はほぼないことも根拠とした.萎縮瘢痕帯とは炎症性ポリープの多発,潰瘍瘢痕の多発,萎縮した粘膜などで構成される区域性領域であり,治癒傾向の著明な腸結核病変を意味する3).
偽膜とは白色から黄白色の扁平または半球状の丈の低い隆起であり,組織学的には壊死物質が塊状に粘膜上に堆積したものでフィブリン,粘液,好中球,および上皮残渣で構成される.
偽膜を認める腸炎を偽膜性腸炎と総称するが,臨床現場では通常Clostridium difficile感染症(Clostridium difficile infection ; CDI)のことを指す.CDIに伴う偽膜は全大腸に認めるが,その分布は左側結腸に高度で直腸にもみられる1).偽膜の周辺粘膜は正常か軽度浮腫状であり,びらんや潰瘍を伴うことはまれである(Fig. 1).進行例や重症例では,偽膜は増大し癒合傾向を示す(Fig. 2).偽膜性腸炎の病理組織像は偽膜の形成とその直下の表層粘膜の凝固壊死が特徴である.
coiled-spring appearanceは腸重積に特徴的なX線造影像である(Fig. 1)1).腸重積の多くは腸管内の腫瘤性病変が先頭となって発症するが,重積部は3層の腸壁から成り,嵌入を受け入れる腸の部分を夾鞘部,嵌入する腸の部分を嵌入部,夾鞘部と嵌入部の間を受容部と呼称する.消化管X線造影検査において,腸重積の嵌入部と夾鞘部の間が緊密でない場合に夾鞘部と受容部の間隙に造影剤が進入し,夾鞘部のhaustraあるいはKerckring皺襞が密在して造影される.この像をcoiled-spring appearanceと呼ぶ1).また,嵌入部と夾鞘部の間が緊密で夾鞘部と受容部の間隙へ造影剤が進入しない場合,蟹爪像(concave pressure defect)と呼ばれるX線造影像を呈する1).
腸閉塞などにより拡張した小腸内で,Kerckring皺襞がピアノの鍵盤(keyboard)状に類似した像を呈する腹部超音波所見である(Fig. 1).一般にイレウスの超音波所見は拡張した腸管と本所見のほか,血行障害を伴わない単純性イレウスでは腸内容物の浮動(to and fro movement)を,血行障害を伴う絞扼性イレウスでは腸内容物の浮動や腸蠕動の減弱を早期から認め,時間経過とともに腸管壁肥厚(静脈閉塞)や壁菲薄化(動脈閉塞),Kerckring皺襞が不明瞭化して腹水が急速に増加する(Table 1).イレウスの診断における腹部超音波検査は感度,特異度ともに腹部単純X線検査よりも優れているが1),閉塞部位や原因,絞扼の有無などの診断はCT検査に劣り2),絞扼性イレウスの超音波診断は陽性的中率73%との報告がある3).よって,現状は造影剤アレルギーなどCT検査禁忌症例,妊娠症例や救急のベッドサイドで超音波検査が重用されている.
apple-core sign(アップルコアサイン)は小腸・大腸の2型進行癌のX線的特徴とされている(Fig. 1〜3).
カラーボタン様潰瘍は,主として重症潰瘍性大腸炎における下掘れ潰瘍のX線造影所見として用いられる.すなわち,潰瘍底部で側方に拡がった潰瘍がバリウム斑として描出された場合,その形態がカラーボタンに類似していることから名付けられた.潰瘍の深さはUl-IIにとどまるが,組織欠損が粘膜下層で水平方向に進展するため,潰瘍底部で幅の広い下掘れ状となり,そのためバリウム斑もカラーボタン状となる1).潰瘍性大腸炎では重症度の指標にとされているが2),潰瘍性大腸炎に限らず,Crohn病や腸管Behçet病(Fig. 1,2)3),腸管感染症の潰瘍でも同様の所見が認められる.
偽憩室形成は憩室様膨隆とも呼ばれ,全消化管で認められるが,特に十二指腸球部,小腸,大腸で高頻度に認められるX線造影・内視鏡所見である.
空気変形とは空気量を増減することにより観察される内視鏡所見である.病変部と正常部の伸展性の違いにより生じる所見であり,主に表面陥凹型の病変に対して使用される用語である.
当初は「管腔内の空気を減量することで“病変の辺縁の正常粘膜,過形成性粘膜”が膨隆し相対的に陥凹部が著明になり,逆に空気を増量することで平坦化する所見を陽性とする」1)とした.しかし,実際には病変周囲のみではなく病変自体もその病変の質,腫瘍量に応じて変化するため,“病変および周囲粘膜を含めた変化”とみるのが妥当である.
spiculaとは垂直という意味であり,ある病変や構造物に対し垂直方向に伸びる棘状突起のことを指す.胸部X線検査やCT検査では肺癌を,マンモグラフィでは乳癌を疑う所見である.一方,消化管領域では注腸X線造影検査で認められる所見であり,炎症性腸疾患や感染性腸炎などでみられる1)2).すなわち,spicula formationとは注腸X線造影検査で腸管の長軸方向に対し垂直方向に伸びる棘状突起が描出されたものであり,軽微な粘膜欠損に合致する所見と考えられている(Fig. 1〜4).腸管が鉛管状になると,腸管壁が直線化しspicula formationが強調される.
腸管壁内ガス像は,小腸あるいは大腸の粘膜下ないし漿膜下にガスが貯留した所見を言う.多くは多発し腸管囊胞様気腫症(あるいは腸管囊腫様気腫など)と呼称される1).腸管囊胞様気腫症は特発性と続発性に分類され,続発性の多くは,各種消化管疾患,慢性呼吸器疾患,膠原病,薬剤(αグルコシダーゼ阻害薬など)などとの関係が推察されている2).本症は特徴的な含気性の多発性囊胞であることから,腹部単純X線や腹部CTでは,腸管壁に沿った大小不同,類円形のブドウ房状・蜂巣状の透亮像を呈する(Fig. 1a).X線造影検査では,腸管壁に一致した表面平滑で軟らかい多発性の粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様の陰影欠損がみられる(Fig. 1b).内視鏡検査では,大小不同で半球状の軟らかい多発性SMT様隆起として認められる(Fig. 1c).生検を施行するとガスが排出され平坦化する.病理組織学的には気腫内腔を組織球や異物巨細胞が被覆する.漿膜下の気腫が腹腔内に破裂するとfree airとしてみられ,消化管穿孔との鑑別が必要になるが,腹膜刺激症状を伴わない.
S状結腸軸捻症は,S状結腸が腸間膜の長軸を中心として腸間膜根部で捻転したもので,360°以上捻転すると,S状結腸内腔は口側,肛門側共に閉塞し,馬蹄形に拡張する.結腸捻転症の中でS状結腸捻転が発生部位としては最多であり,360°の1回転がほとんどである.腹部単純X線像では,馬蹄形に拡張した腸管ガス像が特徴的であり(=coffee bean sign,Fig. 1),立位像では輸入・輸出両脚にそれぞれ鏡面像をみることもある.
注腸X線造影検査を行うと,注入したバリウムにより直腸は拡張するが,捻転を起こしている部より口側へはバリウムは進まない.内腔はこの盲端部に向かって先細り様に狭窄する.狭窄部より肛門側の直腸は拡張しており,この部が鳥の胴体のように見え,先細りの先端が嘴状に見える.そのため,狭窄部があたかも鳥の嘴のように見えることから,bird's beak sign(鳥の嘴像)と言われる(Fig. 2).
腸重積を示す注腸X線造影所見である.腸重積は腸管の一部が先進部となって腸蠕動とともに肛門側の腸管内腔に陥入し,腸管が重積状態となったもので,通過障害を来し絞扼性イレウスとなることが多い.重積の発生部位によって,①小腸─小腸型,②結腸─結腸型,③回腸─結腸型に分類されるが,頻度的には回腸─結腸型が最も多い1).
粘膜橋(mucosal bridge)とは消化管粘膜面の特異な形態に対する呼称であり,その病態は食道,胃,十二指腸,大腸にみることができる.大腸での報告が最も多く,形態上の特徴は消化管粘膜面から管腔方向にアーチ状に形成される橋梁構造であり,その橋桁に相当するband状の部分は浮腫状,不整形,平滑など種々の様相を呈するが,全周にわたって粘膜で覆われている.消化管内腔方向の面は本来の粘膜で,消化管壁方向の面は再生粘膜で覆われていることが多い(Fig. 1a,b)1).粘膜紐(mucosal tag)は,下掘れ潰瘍辺縁の粘膜がポリープ状に垂れ下がったものを指し,樹枝状,珊瑚状,ブドウの房状,鍾乳石状を呈するようになると粘膜橋に極めて近い状態となる(Fig. 1c)2).
本邦の医学辞書には消化管に関連した内反・翻転に該当する用語の記載は乏しく,inversion(ステッドマン医学大辞典 第6版)で調べても,“内方,逆方向など既存の向きと反対の方向に向きを変えること”という漠然とした和訳のみで,国語辞典(大辞林 第3版)では“ひっくり返すこと”と記載されている.したがって,これを消化管(腸)の画像所見(疾患)に当てはめてみると(筆者の推測であるが),“その組織が本来あるべき部位から何らかの要因で腸管内に向きを変えている病態”と言えよう.これに該当する腸の疾患としては,Meckel憩室内翻,大腸憩室反転,虫垂翻転(重積)などが挙げられる.なお,これらの疾患では内反と翻転以外にも,同義語として内翻,反転という用語が少なからず用いられているが,各用語の厳密な区別はなされていない.
“transverse ridging”は横に走るあぜ道を意味し,消化管画像所見においては腸管の長軸方向に垂直に走行するひだ所見を指す.Schwartzら1)が虚血性大腸病変でみられるX線造影所見のひとつとして報告したのが最初であり,主に注腸X線造影検査の画像所見として用いられる.
正常の大腸では十分な空気量で伸展させるとhaustra以外の皺襞は不明瞭となるため,本所見を認める場合には大腸壁の伸展不良が存在することが示唆される.成因としては腸管壁の浮腫性変化が主体と考えられているが,虚血性大腸炎の急性期にみられる拇指圧痕像とは異なり,浮腫に加えて線維化などによる区域性の伸展不良を伴うことにより,本所見が明瞭となる.
国語辞典を引くと,狭小とは狭くて小さいこと,狭窄とは狭くすぼまっていること,と記載されている.腸管においては,狭小は内視鏡が挿入可能であるが,狭窄では内視鏡が通過しないことである.すなわち,管状狭小は正常の部分に比べて病変部で腸管径の減少した領域が管状に見える所見である.管状狭小,狭窄の場合,全体像の把握には注腸X線造影検査が必要になることがある1)(Fig. 1〜3).
鋸歯状とは“のこぎりの歯”状の形態を指し,大腸において腺腔内にこのような構造を有する病変は鋸歯状病変と総称され,2010年のWHO分類ではHP(hyperplastic polyp),SSA/P(sessile serrated adenoma/polyp,Fig. 1),TSA(traditional serrated adenoma,Fig. 2)に大別されている.HPは長らく悪性化しえない非腫瘍性ポリープとして認識されていたが,近年の研究により,現在ではHPの一部はSSA/PもしくはTSAの初期病変と考えられており,さらにそれらが種々の遺伝子異常を背景として発癌するserrated pathwayが提唱された.特にSSA/PはBRAF変異,CIMP(CpG island methylator phenotype)といった遺伝子異常を高頻度に認め,孤発性MSI(microsatellite instability)陽性大腸癌の前駆病変として大変注目されている.
拇指圧痕像(thumb-printing)は,消化管X線造影検査の充盈像ないし二重造影像において,拇指で押した痕のように見える卵円形の丸みを帯びた陰影欠損を言い,辺縁に片側性ないし両側性に連なる像としてみられる.腸管の粘膜浮腫がX線造影の辺縁像に反映された所見であり,壁の伸展性は保たれているため,空気量の増減によりその像は変化しやすく,また蠕動亢進により強調される.同義語にpseudo tumors,scallopingなどがある1).
腸管が外部から圧迫されている状態である.原因は多岐にわたり周囲臓器,腫瘍,出血,浮腫などがある1).
収縮(contraction)とは,生理的,機能的な消化管の内径の減少であり,筋層の運動である蠕動運動や括約筋が閉じるために生じ,筋収縮と関連している.送気や圧力をかけることにより解除される1).大腸には7か所の生理的収縮を認める部位が知られている(シェーマ)2).注腸X線造影検査において,鎮痙剤を前投与した場合には,この生理的収縮はあまりみられないが,鎮痙剤を投与しない場合や,検査時間が長くなり鎮痙剤の効果が消失してしまった場合などに,しばしばみられる3).
攣縮(spasm)とは,非生理的,機能的な消化管の内腔の狭小化,急激な不随意の収縮であり,痛みと運動の歪みを伴う.攣縮状態のX線所見としては,小腸では通過時間の短縮,運動亢進所見としての粉雪像,分節像などがみられる.大腸では緊張亢進を反映するハウストラの不規則,痙攣性収縮による縦走レリーフ像,紐状陰影などがみられる1).
アフタ(aphtha)は同類の語にアフタ様病変,アフタ性びらん,アフタ性潰瘍などがあり,今日までに報告された各文献で紅暈の有無やびらんと潰瘍の区別などの定義が少しずつ異なっており,かなりあいまいな表現である.ここでは「胃と腸用語集2012」に則り1),アフタ様病変として,紅暈を伴う小さな潰瘍もしくはびらんと定義する.“口腔内アフタ”も,口内炎や口腔内粘膜障害などとはっきり区別せず混同していることが多い.実際多くの症例で患者は“口内炎ができた”と訴える.
“回盲弁”は回腸末端と盲腸との間に位置する弁状の構造物で,回腸末端の粘膜,粘膜下組織,および筋層が盲腸内腔へ入り込み,盲腸内で反転して上唇と下唇を形成し,結腸の内容物が回腸に逆流するのを防ぐ役割をしている1).その回盲弁が開大する代表的な疾患としては腸結核が挙げられる.腸結核は,感染の進展がリンパの流れに沿って起こり,感染に伴い粘膜表面に近いリンパ濾胞に結核結節が形成され濾胞外へと拡がる.最終的にそれが粘膜表面に露出し,潰瘍が形成される.そのため病変はリンパ装置の多い回盲部に好発する.腸結核に特徴的な画像所見としては,回腸末端から右側結腸にみられる多発性の不整形潰瘍,輪状・帯状潰瘍などの活動性病変と萎縮瘢痕帯や治癒過程の潰瘍病変との混在がみられる.それらが慢性的に繰り返され,粘膜のひきつれや変形が起こることで偽憩室を形成したり,回盲弁が開大したりすると考えられる2)(Fig. 1,2).
腸間膜(mesentery)は腹部内臓を包み込む往復2葉の腹膜が合わさって生じる膜構造物を指し,狭義には空・回腸の間膜を腸間膜と呼ぶ.その根部〔腸間膜根(root of mesentery)〕は第二腰椎体の左方から右腸骨窩に約15cmの長さを持つ.腸間膜は消化管に出入りする脈管・神経の通路として重要である.
腸間膜付着側とは,空腸,回腸における小腸係蹄の内側を,付着対側とは小腸係蹄の外側を指す.内視鏡検査時に観察しやすい側がおおよそ腸間膜付着対側,斜向かいとなり見づらい部位が腸間膜付着側である.小腸疾患,特に炎症性疾患を診断する際,この腸間膜付着側・付着対側の概念は極めて重要である1).
haustra(結腸膨起)とは,結腸に特徴的に認められる,規則正しく配列する,結腸外側への隆起を指す.結腸には3か所の縦走筋層の発達した結腸紐を認めるため,その部位で収縮している.そのため結腸は全体として長軸方向にわずかに収縮しているが,結腸紐の間の部分では余った腸壁が手繰られて一定間隔をおいて区切るように外側に膨隆するhaustra(結腸膨起)と内腔の半月ひだが形成される.haustraは右側結腸でより目立つ1).
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の活動期内視鏡所見のひとつで,粘膜上の微細な黄味を帯びた点状斑と定義されている.主に軽症のUCの活動部,UCの活動部の境界付近,活動部位の口側に正常粘膜を介して島状に認められる.1960年代直達鏡での観察が行われていた時代に,田島1)により本疾患の初期像として見い出され,報告,命名された.当時は粟粒膿腫あるいは粟粒膿瘍(miliary abscess)とも称されている.厚生労働省研究班の活動期内視鏡所見の軽度に分類される小黄色点と同義である.微小な黄白色の点が密に散在性に存在するが,背景粘膜が発赤している場合,その発見は容易である(Fig. 1〜4).UCの活動性病変の最小単位と考えられている.現在の電子スコープでは黄色ではなく白色点として観察されるが,慣習的に小黄色斑の名称が使用されている.
リンパ濾胞増殖とは,消化管の粘膜固有層または粘膜下層に多発性・びまん性に増大したリンパ濾胞を認める状態を指すが,同組織所見が推察される上皮性変化を認めない類円形小隆起の多発した画像所見に対しても用いられる.
一般には,リンパ濾胞増殖という用語は良性疾患で用いられるが,悪性リンパ腫で類似した画像所見を呈する際に便宜上用いられる場合もある.また,炎症性腸疾患でみられるアフタ様病変もリンパ濾胞増殖とほぼ同義語として取り扱われる1).直腸を中心とした遠位大腸にリンパ濾胞増殖を認める場合,炎症性腸疾患の初期病変をはじめとした疾患の鑑別が必要である.
ダンベル(dumbbell)はウエイトトレーニング器具の一種である.dumbは“音が出ない”,bellは“教会の釣鐘”を意味し,中世欧州で,音が出ない状態にした教会の釣鐘をトレーニングに用いていた名残である.現在ではバーの両端に同じ大きさの重しがついた器具を指す.ダンベル型腫瘤とは,消化管の場合,管腔内と管腔外の両方向に同程度発育した腫瘤を言い1),GIST(gastrointestinal stromal tumor)の一型がそれに該当する.
GISTは,固有筋層内に存在するCajal介在細胞様の分化を呈し固有筋層に関連して発生するため,管腔内には粘膜下腫瘍(SMT)像を形成する2)(Fig. 1a)3).その発育形式から,管内型(intra-luminal),管外型(extra-luminal),壁内型(intra-mural)と混合型(管内管外型:dumbbell)の4型に分類されるが,胃では管内型が,小腸では管外型ないし混合型が多いとされる.混合型は固有筋層から粘膜下層側と漿膜下層側の双方向に同程度発育した場合を言い,ダンベル型を呈する.
憩室関連(憩室性)大腸炎は憩室を伴う大腸の憩室間粘膜にみられる慢性炎症の総称として用いられる疾患名であり,通常憩室自体の炎症ではない1)2).欧米では多数の報告があり,segmental colitis,crescentic fold disease,diverticular disease-associated(chronic)colitis,diverticular colitis,SCAD(segmental colitis associated with diverticula/diverticulosis),SACD syndromeなど多彩な名称で報告されている.頻度は大腸内視鏡検査症例の1%前後,憩室症例の数%とされている1).本邦における報告例は少ないが,実際はそれほどまれな疾患ではないと考えられる.下痢,血便,腹痛などの症状を契機に診断されることが多いが,本症による症状とは限らない.欧米ではS状結腸の病変がほとんどであるが,右側結腸憩室の頻度が高い本邦では上行結腸にもみられる.
もともと,憩室に伴う炎症性変化と潰瘍性大腸炎(UC)・Crohn病(CD)の合併を区別することを目的につくられた概念である.欧米では直腸粘膜が内視鏡的にも生検組織学的にも正常であることが診断の必須条件とされている.しかし極めて多彩な病態を含むあいまいな疾患概念であり,今後疾患概念の見直しが必要と考えられる.
“イクラ状粘膜”は,クラミジア直腸炎に特徴的な内視鏡所見(Fig. 1)である1)2).クラミジア直腸炎はChlamydia trachomatis感染による性行為感染症で比較的まれな疾患とされるが,通常の日常検査で遭遇する疾患のひとつである.特徴的な内視鏡所見を把握していなければ確定診断に至らない疾患である.
感染経路として,肛門性交により直接直腸粘膜に感染する場合や,感染した腟分泌物が直腸内へ流入する経路も考えられている.
target sign(標的像)は,1977年にWeissbergら1)が初めて使用した用語で腸重積時にみられる所見である.腸重積は,連続する腸管が嵌入することで発症する.重積部の横断面は,超音波検査で高エコー層と低エコー層が複数重なった類円形の腫瘤像として描出され,あたかも標的のように見えることからtarget signと命名されている(Fig. 1).別名multiple concentric ring signとも表現される2).CT検査においても,重積部は腫瘤像の内部に脂肪組織がリング状または三日月状に存在するように見えるため,同様にtarget signという用語が使用される(Fig. 2,シェーマ).なお,腸重積以外にも転移性肝癌が辺縁に低エコーを伴った高エコー性腫瘤として描出される際にtarget signが使用されることがある.
1976年にLindström1)が慢性下痢と腹痛を来し,注腸X線や直腸鏡では異常がなく,直腸粘膜生検で上皮基底膜直下に厚い膠原線維束がみられた女性患者をCC(collagenous colitis)として最初に報告した.最近では主に組織学的所見に基づいて診断が行われている2).CCの病理組織学的特徴は,①大腸の表層上皮直下の膠原線維束の肥厚(≧10μm),②粘膜固有層のリンパ球・形質細胞浸潤,③陰窩の正常配列であり,④表層上皮の剝離・平坦化,⑤上皮内リンパ球の増加もみられる.
病因に関して自己免疫,遺伝的素因,腸管感染,胆汁代謝異常,食物アレルギーなどさまざまな仮説があるが,本邦では薬剤に関連した症例がほとんどである2)3).発症に関与するとされている薬剤は,プロトンポンプ阻害薬(PPI),非ステロイド性消炎鎮痛薬,H2受容体拮抗薬,アカルボース,選択的セロトニン再取り込み阻害薬,チクロピジン,スタチン製剤などが代表的である.
粘膜固有層内に黄褐色色素顆粒(リポフスチン)を満たしたマクロファージが出現することにより,大腸粘膜が褐色から黒色調を呈した状態で,センナ,大黄,アロエなどのアントラキノン系大腸刺激性下剤を長期間内服することにより生じる.このマクロファージは時に粘膜下層にもみられることがある.
1829年,Cruveilhierが慢性の下痢を訴える患者の大腸が墨汁(チャイニーズ・インク)のようだったと記載したのがはじまりとされ,Virchowは剖検例で同様の症例を経験し,大腸メラノーシスという用語を初めて使用した1).
非特異性多発性小腸潰瘍症は,病理学的に肉芽腫など特異的な炎症所見のない潰瘍が小腸に多発する疾患である1)2).女性に好発し,持続的な潜出血による慢性の貧血と低蛋白血症を来し,難治性の経過をたどる.近年,プロスタグランジン輸送体をコードするSLCO2A1遺伝子の変異に起因する常染色体劣性遺伝病であることが明らかとなり,“CEAS(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene)”という呼称が新たに提唱された3).同遺伝子変異は肥厚性皮膚骨膜症の原因でもあり,本症においても消化管外徴候として,ばち指,皮膚肥厚や骨膜症などを認めることがある.副腎皮質ステロイドやチオプリン製剤などは無効であり,貧血と低栄養状態に対する鉄剤投与や栄養療法が治療の中心となる.
腸間膜静脈硬化症(mesenteric phlebosclerosis ; MP)は,1993年にIwashitaら1)が新しい疾患概念として提唱した.基本的な病態は,腸壁から腸間膜静脈における石灰化に伴う腸管循環不全による虚血と考えられており,右側結腸を中心に炎症反応を伴わない慢性虚血性変化とされている.近年,MPと漢方薬長期内服との関連性が報告されている.なかでも,漢方薬で頻用される生薬である山梔子は8割以上の症例で内服されており,強い関連が考えられる2).MPを疑う症例には,特に薬剤内服歴などの詳細な病歴聴取が必要である.
“憩室”とは消化管壁の一部または全層が壁外に囊状に突出した構造のことを言う.大腸憩室は憩室壁に固有筋層を欠く仮性憩室がほとんどを占める.欧米では30〜40%,本邦では10〜20%の頻度で認める1).欧米では9割以上がS状結腸に認められ,本邦では約7割が右側結腸に認められるが,加齢とともに左側大腸に認める割合が増加する1).大腸憩室の発生原因としては内圧の亢進が考えられており,憩室が起こる部位は大腸壁でも内圧の刺激に弱い血管筋層穿通部である結腸紐の両脇が多いとされている.そのため,初期の憩室の部位に太い静脈が観察されることが多い1)(Fig. 1).
大腸憩室の画像診断は注腸X線造影検査が最も適しており,特に腸管が長軸方向に短縮した多発憩室を認める症例では内視鏡検査による憩室の観察は困難であるが,注腸X線造影検査では描出が可能である(Fig. 2).画像上は腸管から突出するようなバリウムのたまりを認め,二重造影像では円形・涙滴様陰影を呈する(Fig. 3)が,変形を伴う場合は憩室炎の既往が疑われる.
X線造影検査における,辺縁像は平滑な曲線を描くが,適切な空気量で十分に伸展した状態で撮影をすると,病変部における壁の伸展性の差による二重造影側面像が現れる.これを側面変形という(Fig. 1,2).病理組織学的に,癌部の癌細胞量とそれに伴う線維化などの器質的変化が壁の伸展性と関係していると考えられている.撮影する角度を変え再現性を考慮し,最も変形が強い部分を最深部として深達度診断を行う.しかし,側面像だけでなく,正面像による形態的特徴と照合して診断を行うことで,より正確な深達度診断を得ることができる.
牛尾ら1)は,消化管癌の側面変形の型を,無変形,角状変形,弧状変形,台状変形の4つのパターンに分類し,主に大腸の深達度診断に用いた.無変形は粘膜層〜粘膜下層にわずか,角状変形は粘膜下層への中等度浸潤,弧状変形は粘膜下層に高度浸潤〜固有筋層にわずか,台状変形は固有筋層またはそれ以深に浸潤した進行癌と報告1)した(シェーマ1).
腸炎(小腸炎・大腸炎)は,その肉眼所見から,びまん性炎症を伴う腸炎とdiscrete ulcerから成る腸炎に分類される1).discrete ulcerとは,ほぼ正常にみえる粘膜(normal-