胃と腸 52巻4号 (2017年4月)

今月の主題 消化管内分泌細胞腫瘍の新知見

序説

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はじめに

 現在,本邦では,消化管(胃・大腸)の内分泌細胞腫瘍の組織分類と組織型名は,胃癌・大腸癌取扱い規約1)2)による日本の分類と,WHO分類3)が併用されている.本稿では,消化管内分泌細胞腫瘍の概念,日本の分類とWHO分類での病態の捉え方と組織分類の判定基準の違い,両分類の組織型名の内容の違いを明確にすることで序説としたい.

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要旨●内分泌細胞腫瘍は緩徐な発育を示すカルチノイドと急速な発育で予後不良な内分泌細胞癌の2種類の組織型に大別され,おのおの組織発生が異なっている.内分泌細胞腫瘍の組織像はいずれも比較的均一な細胞の胞巣状,充実性増殖から成る単調な構造を示すが,細胞の異型性や壊死などに注目すれば,比較的容易に組織由来を含めた組織診断が可能である.WHO分類では,膵および消化管のneuroendocrine neoplasmに対し,組織由来を考慮せず細胞増殖能によりNET(neuroendocrine tumor)G1,G2,NEC(neuroendocrine carcinoma)に分類している.分類発表時より細胞増殖能の高いカルチノイドと内分泌細胞癌という由来や性質の異なる腫瘍が同一分類されることについて問題視されており,最近では組織由来も含めた分類が模索されつつある.

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要旨●食道神経内分泌細胞癌はまれな特殊組織型腫瘍で,本邦での発生頻度は0.3%にすぎない.純粋型と他の癌腫成分との複合型があり,併存癌腫は扁平上皮癌が多い.小細胞型と非小細胞型(大細胞型)に分類されるが多くは小細胞型である.神経内分泌細胞への分化傾向を示すため,シナプトフィジン,クロモグラニンA,CD56(N-CAM)が免疫組織化学染色で陽性を示すことが診断基準であるが,内視鏡生検で組織診断できない場合もある.上皮基底層付近から発生し,粘膜下層以深に浸潤発育して上皮下発育傾向を示す.表在型では0-I型を示し,発育して1型または2型を呈することが多い.腫瘍の立ち上がりは急峻で辺縁は切り立って中央陥凹の辺縁まで非腫瘍性上皮に被覆され,扁平上皮癌の上皮内伸展を伴う場合もあることなどが内視鏡検査での形態学的特徴である.拡大内視鏡観察では不規則で細かい網状血管所見(Type R:reticular)を認めることがある.T1b症例ではESDや外科切除術を含めた集学的治療を選択する可能性もあるが,T2以深では極めて予後不良であることから現状では非外科治療を優先させることが望ましい.

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要旨●胃のNEC(neuroendocrine carcinoma)は,発生頻度が胃癌全体の0.6%とまれだが,急速な発育性質を持ち,高い転移率の高悪性度腫瘍である.そのため進行した状態で診断されることが多く,確立された治療方法もないため予後不良の疾患である.また術前生検組織診断の正診率が低く,確定診断に時間を要することもある.診断率をよくするためには内視鏡所見を元に鑑別診断として挙げ,積極的に免疫染色を行うことが重要である.NECの報告例は少なく,系統的診断の一助とするために,当院で経験した消化管内分泌細胞腫瘍24例について,内視鏡的特徴を検討した.NET(neuroendocrine tumor)は,NECと比較して腫瘍径が小さく,発赤調または同色調の隆起型を呈し,表面に拡張した血管を認めることが多い.NECは進行癌が多く,肉眼型は大部分が2型であった.表在型の場合は0-IIc型や0-IIa+IIc型といった陥凹性病変の占める割合が高く,病変辺縁部に粘膜下腫瘍様の立ち上がりを伴う症例が多かった.また表在型病変でも病理組織学的深達度は深く,リンパ節転移率も高かった.

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要旨●2001年〜2015年の間に,当院で経験した大腸内分泌細胞癌18例を臨床病理学的に検討した.筆者らが経験した症例は腫瘍の厚みがある2型もしくは3型の腫瘍で,内分泌細胞癌成分は腫瘍深部や潰瘍底に存在していた.生検で未分化成分を検出した症例が多いが,合併する腺癌の比率で,生検による術前診断は困難と考えられる症例も存在した.腫瘍内の内分泌細胞癌成分の量の違いは臨床病理学的特徴や予後を反映せず,内分泌細胞癌成分が少量であっても同様に予後不良であった.近年,集学的治療による予後改善が試みられており,治療方針を決定するうえで術前診断は重要である.深部浸潤傾向が強い症例や生検で未分化成分を伴う症例は本疾患も念頭に置いて検査を進める必要がある.

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要旨●I型胃カルチノイド症例の長期予後について多施設後ろ向き検討を行った.腫瘍はすべて胃体部・胃穹窿部に存在し,腫瘍径は10mm以下が多く,ほとんどが粘膜・粘膜下層に限局していた.腫瘍径21mm以上では脈管侵襲の割合が高い傾向であった.治療については,近年になって,外科的切除が減少し,内視鏡的切除,特にESDによる切除の割合が増加していた.また欧米の報告と比べると,自己免疫性疾患としての特徴に乏しく,H. pylori感染など,発生に関与する他因子の存在が示唆された.一方,脈管侵襲・リンパ節転移はあっても肝転移など遠隔転移は存在せず,長期予後〔観察期間中央値7(0〜20)年〕についても,無病生存率97.6%(80/82),疾患特異的生存率は100%(82/82)と大変良好で,欧米の報告も同様であった.

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要旨●当院で内視鏡治療を施行した直腸NET病変を対象に,臨床病理学的特徴と長期成績を検討した.1997〜2011年に治療した90病変の腫瘍径中央値は5mmで,すべて粘膜下層にとどまるNET G1病変であった.内視鏡治療後,経過観察期間中央値76.1か月の間に1例も再発,転移を認めておらず,内視鏡治療の有効性が示唆された.これらの病変の脈管侵襲について,免疫組織化学染色・特殊染色で新たに再評価した結果,計42病変(46.7%)で陽性となった.固有筋層浸潤のない小さな直腸NET G1病変でも高い割合で脈管侵襲陽性がみられ,かついずれも再発・転移を来さなかったことより,このような病変における脈管侵襲陽性は追加外科的切除の絶対的条件にはならない可能性が考えられた.

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要旨●2015年に発行された膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン 第1版の消化管に関する内容の要約を行った.本ガイドラインは一般臨床医がNET患者に最新の知識に基づいた治療を行えることを目的に作成された.NETは希少疾患のためエビデンスに乏しく,推奨度の決定に関しては海外のガイドラインを参考にして日本の専門医の討議と多数決により決定されたものも含まれている.また国際的には標準診療となっているが本邦では未承認の治療法に関しても記載されている.今後,病理学的分類,診断や治療についての研究およびエビデンスの蓄積が進み,より成熟したものになっていくことが期待される.

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要旨●臨床検査の工程は preanalytic phase(固定や検体取り扱いなど),analytic phase(検査方法,分類など),post analytic phase(報告書など)に分類され,施設差の解消にはそのすべてが均てん化されている必要がある.筆者らは,第80回大腸癌研究会でのアンケートを中心に本邦の病理検査室におけるこれらの工程の現状を調査し,大腸内分泌細胞腫瘍の疫学と直腸カルチノイドのリンパ節転移危険因子を検討した.これらの包括的な情報を整理して提示することで,今後の内分泌細胞腫瘍の病理診断にとって望ましい組織固定や評価項目,分類法と適切な治療について考察する.

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要旨●患者は60歳代,男性.切歯から30cmの右壁に,発赤調の軟らかいSMT様隆起を認め,最表層は非腫瘍性上皮で覆われていた.NBI拡大観察にて血管はほとんど認識されず,EUSでは粘膜下層を主座とする軟らかいhyper-echoic lesionであった.生検にてNEC(neuroendocrine cell carcinoma)と診断された.CT,EUSにて明らかなリンパ節転移は認められず,T1b,N0,M0,Stage Iと診断し,ESD+化学放射線療法(CRT)が選択された.ESD当日の内視鏡検査にて,先端透明フードを押しつけて上皮を伸展させて拡大観察したところ,太い緑色の血管から分岐する細かな血管網を認め,WLI拡大にて粘膜固有層にAVA様の構造が観察された.

 最終診断はneuroendocrine carcinoma,T1b-SM2(2,000μm),ly1,v0,HM0,VM0,0-I type,10×10mmであった.ESD後に再度,造影CT検査を施行したところ,106 rec Rの腫大を認めエトポシド,シスプラチン療法と放射線照射の同時併用療法を施行した.4年経過し,CRが継続している.

 本例は食道NECの初期像を捉えたこと.NBI拡大内視鏡検査で特徴的な血管異形を認めたこと,R0のESDを組織学的に証明しえたこと,短期間にリンパ節転移を来したが,CRTにて長期生存が得られた,という臨床的意義があり,貴重な症例と考え報告した.

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要旨●患者は60歳代,男性.内視鏡検査にて,下部直腸に中心陥凹を伴う粘膜下腫瘍を認め,腫瘍径13mm,深達度cT1と診断された.骨盤MRIで約10mmの側方リンパ節腫大を疑い,リンパ節郭清を伴う超低位前方切除術が施行された.術後診断はNET G1,pT1,深部リンパ管および静脈侵襲陽性,傍側方リンパ節1か所で陽性であった.18か月後のFDG-PETで肺に集積を認め,肺CTと気管支鏡下吸引細胞診の結果,両側肺転移と診断された.転帰は,緩和療法下のみで3年経過中である.NET G1の遠隔転移は稀少であるが,初回診断時の腫瘍径や深達度,同時性転移などの病期が関与するところが大きいと考えられる.

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要旨●患者は40歳代,男性.検診の上部消化管内視鏡検査で十二指腸粘膜下腫瘍を指摘され来院した.上部消化管X線・内視鏡検査では十二指腸球部前壁に20mm大の平滑な半球状粘膜下腫瘍様隆起を認めた.超音波内視鏡検査では,第3層を主体とする均一な低エコー性の腫瘤として描出された.生検では確定診断に至らず,幽門側胃切除を施行した.腫瘍は幽門輪に接し,粘膜下層内に限局した最大径12mmの腫瘍であり,クロモグラニンA陽性の小型円形細胞より構成され,核分裂像は1/50視野,Ki-67標識率は1.5%であった.以上より,組織Grade 1(G1)の消化管内分泌細胞腫瘍(NET)と診断した.本例では,幽門前庭部のリンパ節に転移を認めた.

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要旨●患者は70歳代,男性.食道癌内視鏡治療後の経過観察として行った上部消化管内視鏡検査で胃体上部前壁に周辺隆起を伴う陥凹性病変を認め,生検で高分化管状腺癌と診断された.拡大観察では陥凹辺縁部に明らかな境界を伴う不整な顆粒乳頭状構造を認め,高分化管状腺癌に矛盾しない所見であったが,陥凹部の大部分では無構造を呈し,低分化腺癌の混在が疑われた.EUSでSM2と診断し,外科的手術の適応と判断したが,患者の強い希望により相対的適応として内視鏡的に切除した.病理診断では,陥凹辺縁部は高分化管状腺癌が主体であったが,陥凹部の大部分は低分化腺癌で,病変深部では内分泌細胞癌への分化を伴いながらSMへ浸潤していた.

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要旨●患者は30歳代,女性.201X年2月下旬より右下腹部に違和感を自覚した.その後右下腹部痛,嘔気嘔吐,下痢も伴うようになり,発症から約3週後に当科を受診した.右下腹部に手拳大の有痛性腫瘤を触知し,造影CT検査では回盲部から上行結腸にかけて壁肥厚と周囲の脂肪織混濁所見を認めた.大腸内視鏡検査,注腸および小腸X線造影検査では回腸終末から回盲弁にかけて限局性の高度狭小化,盲腸から上行結腸に腸間膜付着側優位の壁伸展不良を認めた.通過障害のため腹腔鏡補助下回盲部切除術が施行された.病理組織学的所見では回腸終末腸間膜付着側に縦走潰瘍および裂溝,壁外膿瘍がみられ,盲腸部は膿瘍の波及による漿膜炎が主たる所見であった.虫垂を主として回腸壁にも非乾酪性肉芽腫を認め回盲部限局性のCrohn病と診断した.消化管の他部位に病変は指摘されず,2年経過した現在も無症状,無所見で経過観察中である.

早期胃癌研究会

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 2016年5月の早期胃癌研究会は2016年5月11日(水)にニューピアホールで開催された.司会は中村(東京女子医科大学消化器内視鏡科)と岩男(慶應義塾大学病院予防医療センター),病理は根本(東邦大学医療センター大森病院病理診断科)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは,江頭(大阪医科大学病理部)が「臨床医が知っておくべき病理 その2 非腫瘍性大腸ポリープ(鋸歯状病変を除く)」と題して行った.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 松田 圭二
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 食道から大腸まで全消化管における内分泌細胞腫瘍の新知見を述べてもらうというのが本号のテーマであった.読者にわかりやすいように,内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma ; NEC)とカルチノイド(neuroendocrine tumor ; NET)に分けて,各執筆者に依頼した.企画小委員の期待を上回る力作が集まっており,各執筆者のご尽力に心から感謝します.読者の皆様にとって本号がNEC患者,NET患者を診察した際にお役立ていただければ幸いである.

 文字数には限りがあるため,各論文の要約を述べるのは控えて,特にご覧いただきたい点を中心に述べる.各論文の詳細についてはぜひとも本文を熟読していただきたい.

基本情報

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胃と腸
52巻4号 (2017年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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