要旨●患者は60歳代,男性.切歯から30cmの右壁に,発赤調の軟らかいSMT様隆起を認め,最表層は非腫瘍性上皮で覆われていた.NBI拡大観察にて血管はほとんど認識されず,EUSでは粘膜下層を主座とする軟らかいhyper-echoic lesionであった.生検にてNEC(neuroendocrine cell carcinoma)と診断された.CT,EUSにて明らかなリンパ節転移は認められず,T1b,N0,M0,Stage Iと診断し,ESD+化学放射線療法(CRT)が選択された.ESD当日の内視鏡検査にて,先端透明フードを押しつけて上皮を伸展させて拡大観察したところ,太い緑色の血管から分岐する細かな血管網を認め,WLI拡大にて粘膜固有層にAVA様の構造が観察された.
最終診断はneuroendocrine carcinoma,T1b-SM2(2,000μm),ly1,v0,HM0,VM0,0-I type,10×10mmであった.ESD後に再度,造影CT検査を施行したところ,106 rec Rの腫大を認めエトポシド,シスプラチン療法と放射線照射の同時併用療法を施行した.4年経過し,CRが継続している.
本例は食道NECの初期像を捉えたこと.NBI拡大内視鏡検査で特徴的な血管異形を認めたこと,R0のESDを組織学的に証明しえたこと,短期間にリンパ節転移を来したが,CRTにて長期生存が得られた,という臨床的意義があり,貴重な症例と考え報告した.