検査と技術 21巻5号 (1993年4月)

増刊号 臨床化学実践マニュアル

I.緊急検査への対応

1.電解質 中井 利昭
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はじめに

 われわれの体の大部分を占める体液は水はもちろんのこと,電解質が重要な成分になっており,この水・電解質が一定レベルに保たれており,はじめて生体のホメオスターシスは維持され続ける.すなわち,体の調節系のセンサ→シグナル→効果発現(主として腎で)という一連の機能連関によって,水・電解質の恒常性が保たれている.本稿では,電解質異常としてナトリウム(Na),カリウム(K),カルシウム(Ca)を取り上げるが,正しい検査,診断へのアプローチを立てるには,水・電解質代謝の病態生理の理解なくしては不可能である.

2.血液ガス 奥山 五朗 , 毛利 昌史
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 施設による相違はあるが,血液ガス分析は以下の場合,ほぼ例外なく行われる.

 (1)呼吸困難や胸痛を訴える場合.(2)術前,術後(心,肺のみならず腹部外科手術でも必要).(3)重症例(呼吸不全以外の症例も含む),もしくは酸素吸入を行っている場合.(4)呼吸管理を行っている場合.血液ガス分析以外に電解質やヘモグロビンの測定も同時測定できる機種が最近は普及しつつあるため,緊急検査としての血液ガス分析の頻度は,施設によっては血算,生化学を凌駕しているかもしれない.したがって,血液ガス測定に関する基礎的知識,異常データの認識と出現時の対応は臨床検査技師にとって極めて重要である.

3.浸透圧 越川 昭三
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■血清浸透圧測定の意義

 1.浸透圧の生理的意義

 血清浸透圧が生体において果たしている役割は,細胞内外の水の移動を調節することである.膜を隔てて2つの溶液が存在するとき,水は浸透圧の高い液のほうに移動する.生体では細胞膜を境にして細胞内液と細胞外液が存在する.細胞外液の浸透圧が高くなると,水は細胞内から細胞外に移動し,逆に細胞外液の浸透圧が低くなると,水は細胞外から細胞内に移動する.

 赤血球を生理食塩水液に入れると何の変化も起こらないが,濃い食塩液に入れると縮小して金平糖のようになり,薄い食塩液に入れると膨れ上がって溶血する.生体内では,細胞容積がこれほど大きく変化することはないが,細胞容積の変化は細胞機能に影響を及ぼす.それが端的に臨床症状となって現れるのが中枢神経系である.

4.蛋白 狩野 有作 , 大谷 英樹
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はじめに

 蛋白の異常を調べるための緊急検査としては,血清総蛋白量およびアルブミン値の測定が広く用いられている.そのほかに感染症,特に新生児感染症やその敗血症を見いだすためにC反応性蛋白(C-reactive protein;CRP)の測定が利用されている.

 なお,凝固系の蛋白として,アンチトロンビンIIIやフィブリノゲンの測定が緊急検査として用いられることが少なくないが,それらは別項で取り扱われているので参照されたい.

5.糖 島 健二
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 パニック値とは“患者の生命が危機に瀕しているため,直ちに治療を開始しなければならない検査値”と定義することができる.しかし,具体的にいくら以上,以下の値をパニック値とするかは検査項目の種類によっても,また得られた検査値を評価する人の立場によっても異なる.例えば,検査値を利用する臨床医にアンケート調査した際の成績をみても,専門診療科により,また臨床経験年数によって,血糖値のパニック値に対し,上限,下限が微妙に異なっている(表1).すなわち,内科系の医師は外科系に比べ,下限値はより低く,上限値はより高く設定する傾向があり,また,臨床経験の豊富な医師は経験の浅い医師に比べ,パニック値を正常値からよりはずれた値に設定している.

 緊急検査室においてパニック値がどのような頻度で出現するか,これも病院の種類によって異なる.

6.含窒素 折田 義正
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■尿素窒素1〜3)

 1.生成と排泄

 尿素は肝臓において尿素サイクルにより生成され,腎糸球体より排泄される.排泄された尿素の一部は主として髄質内尿細管で再吸収され,糸球体濾過量の約60%が尿中に排泄される.したがって血中尿素窒素値は主に腎性因子に左右されるが,生成に関する腎前性因子にも左右される.

7.ビリルビン 鈴木 優治
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■ビリルビンの生成

 血清ビリルビンは主に赤血球の破壊により生じるヘムに由来する.ヘムは脾,肝,骨髄などの網内系細胞においてポルフィリン環の開環を受け,ビリベルジンが生成される.次いで,ビリベルジンはビリベルジン還元酵素により還元され,ビリルビンが生成される1,2).ヒトのビリルビンはビリルビンⅨαであり,肝において処理される.

 網内系細胞において生成されたビリルビンは非抱合型ビリルビンと呼ばれ,水に不溶である.そのため,大部分は血清アルブミンと結合し,血液を介し肝に輸送される.肝細胞類洞膜に達したビリルビンはここでアルブミンから離れ,肝細胞に取り込まれる.この際ビリルビンは肝細胞内に存在する移送蛋白であるY蛋白(リガンディン,分子量48〜49kd)あるいはZ蛋白(分子量11kd)と結合し,ミクロソームまで移送される.ここでビリルビンは主にビリルビンUDP-グルクロニルトランスフェラーゼ(bilirubin uridine 5'-diphosphate-glucuronyltransferase)によりグルクロン酸抱合を受ける.

8.酵素 大久保 昭行
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■緊急検査で測定される血清酵素

 1.血清酵素値変動の病態生理

 血清酵素値は,障害を受けた組織から酵素が血液中に逸脱するために上昇する.血清酵素値は,障害の範囲と程度が大きいほど,高くなる傾向がみられる.しかし,障害部を灌流している血管が閉塞している場合や,組織全体が荒廃している場合には,血中の酵素値はそれほど高くならない.

 血清酵素値と障害との間には次のような変動要因がある.

9.血液凝固 櫻川 信男
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■凝血機構と止血マーカー

 先天性あるいは後天性に凝血障害を示して臨床的に出血症状あるいは血栓形成を惹起する血栓止血機構が,分子生物学的に解明され,図1のごとく血管系,血小板系,凝固系,線溶系および阻害系の要因から構築されて,多くの分子マーカーが存在することがわかった.出血性素因はこれらの要因が単一あるいは複合して形成される.一方では加齢とともに動脈硬化による血管系障害や凝固亢進と線溶低下がみられ,また他方では凝固線溶系活性化物質を排除する網内系機能や免疫機能の低下によって癌腫や重症感染に罹患しやすくなり,そしてこれらの疾患に特有な凝固活性化「引き金物質」により凝固亢進がもたらされて血栓症が招来される.この際,血小板や凝固因子が消費され,線溶系亢進を惹起するとともに出血症状を示して,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation;DIC)となる.

II.日常検査における異常値への対応 1.電解質・無機成分

(1)Na,K,Cl 野上 清信
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 患者検査データが異常値を示す原因は,一般的に患者自身の病的変化,検体の不適切な取り扱い,測定上の問題に分類することができる.ここでは,電解質(Na,K,Cl)を例に後2者が原因で異常値データを生ずる場合について述べる.

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 日常検査において,疾患以外に異常値が発生する原因としては,採血・保存・測定方法に分けて考えることができる.ここで取り上げる総カルシウム(Ca),無機リン(IP),マグネシウム(Mg)はスクリーニング検査として汎用される項目であり,イオン型カルシウム(Ca2+)はやや特殊な項目となるが,しかしその生理的重要性から測定している施設も多い.

(3)Fe,TIBC,UIBC 牧野 鉄男
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 臨床検査における血清鉄(血清Fe),総鉄結合能(TIBC),不飽和鉄結合能(UIBC)測定は,数多くある方法のうち現在除蛋白のいらない直接比色法(比色法),定電位クーロメトリー(クーロメトリー),そしてドライケミストリーが主流をなしている.一方,近年薬剤干渉など検体にまつわる問題が大きくクローズアップされてきている.そこで,本稿ではこれら異常値をもたらす要因について,上記3種類の測定法を解説する.

(4)Cu,Zn 堀田 正敏 , 前畑 英介
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はじめに

 日常検査において異常値が出現する場合,いくつかのケースがある.本稿では測定法(測定機器)に問題がなく,精度管理(QC)された状態にあって,検査する周辺環境が十分に整っていることを前提として,検体中の目的成分に妨害物質が混在したり,採血時の負荷などが起因となってデータ的に解離するケースを指摘してみたい.すなわち,異常値に対する考えかたは,①目的成分以外の共存物質の干渉,②生理的変動,③病態の変化によるものかであるが,①,②はサンプリングにまつわる事故を招きやすい.

 無機成分の銅(Cu)および亜鉛(Zn)は生体必須微量金属でFeを含め血中には100μg/dlほど存在する.その存在様式は,Cuの90%以上はセルロプラスミン(α2-グロブリン領域,以下Cp)と結合し,Znの60〜70%はアルブミンと結合している.両金属とも,通常の食事で生体に必要な量は摂取されるため欠乏症は少ない.代謝の面では,両金属とも金属酵素の活性中心の構成成分として多くの反応に関与しており,Cuは主に造血機能との関連が強く,Znは核酸,蛋白代謝に関与し成長との関連性が強い.

II.日常検査における異常値への対応 2.蛋白質成分

(1)血清蛋白 藤田 清貴
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 血清蛋白は,血清中に約8%の濃度で含まれ,構造,性状や機能の異なる100種類以上の成分から成る.一般に量的に多いアルブミンや免疫グロブリンの変動がない限り,血清総蛋白量は異常値を示さないので,蛋白分画を行い各成分の変動を調べることによって,病態の特徴を把握することが可能となる.したがって,血清蛋白の異常を分析するには,総蛋白,蛋白分画の検査は不可欠である.

(2)尿中蛋白 杉田 収
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■微量アルブミン

 1.出現のメカニズム

 血漿蛋白成分の腎糸球体基底膜の透過性はsize barrierで規定されている.分子量約6万ダルトン以下の低分子蛋白は容易に通過するが,分子量が6.6万であるアルブミン(albumin;ALB)は通過しにくい.また糸球体基底膜の透過性はcharge barrierによっても規定されている.すなわち糸球体基底膜は陰性に荷電しているので,陰性荷電の強いアルブミンはさらに通過しにくいはずである.したがって尿中にアルブミンが一定以上検出されたならば,糸球体基底膜の病変が想定される.

 微量アルブミン尿(microalbuminuria)とは,通常尿中に20〜200μg/分または30〜300mg/日のアルブミンの排泄のみられる場合をいう.この排泄量は試験紙法による蛋白定性は(-)〜(±)であるが,健常者より多いアルブミン量なのである.この状態の腎の病理所見は,糸球体基底膜の肥大,メサンギウムの拡大に対応している1)といわれる.

(3)FDP 鈴木 節子 , 風間 睦美
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はじめに

 FDP(fibrinogen/fibrin degradation products)はフィブリノゲン(fibrinogen;Fbg)またはフィブリン(fibrin;Fb)が蛋白分解酵素(主としてプラスミン)により分解されて生ずる分解初期から分解終末に至るさまざまな大きさの分解産物すべての総称である.FDP測定は,用手法,自動測定機械法ともに簡便迅速に対応できるラテックス凝集法が開発されてから凝固線溶亢進状態の指標として広く普及し,播種性血管内(血液)凝固(症候群)(disseminated intravascular coagulation;DIC)の診断基準の重要な指標の1つにもなっている.近年ではFDPの中のDダイマー,FDP-D,FDP-Eをそれぞれ測定する方法が開発された.FDP全体とその分画の1つであり,フィブリンから生ずるDダイマーの測定を組み合わせて行うことにより,一次線溶,二次線溶の鑑別あるいは凝固線溶亢進状態をよりいっそう詳細に把握することが可能となった.

 本稿ではラテックス凝集法によるFDP測定および,Dダイマー測定における検体採取,検体測定の留意点を表1〜4に示した.

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 体内の炎症反応の有無を推定したり,経過を観察したりするのに役立つ臨床検査が炎症マーカーである.一般に日常よく行われているこれらのマーカーの変動としては,赤沈値の亢進,白血球数の増加と質的変化,血漿蛋白の急性期蛋白の増加,血清鉄の減少,血清銅の増加などがあるといわれている.

 このうち,急性期蛋白の変動を総合的にスクリーニングできるのは血清蛋白分画で,アルブミン分画の減少,α1-グロブリン分画の増加とα2-グロブリン分画の増加が認められており,その特徴ある分画像は図1のごとくであり,日常検査でこのような分画像を観察することは重要である.

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 免疫グロブリンにはIgG,IgA,IgM,IgDとIgEの5種類のクラスがあり,それらは,1対のL鎖と1対のH鎖の4本のペプチドがS-S結合した基本構造を持っている.そして,さまざまな抗原に結合する抗体活性を持っているため,抗原と結合する部位のアミノ酸配列が少しずつ異なる不均一性(多クローン性)のある蛋白質の集団で,電気泳動ではβ位からγ位にかけて広く分布する.

 免疫グロブリンは,生体の体液性免疫を担う蛋白であり,その増減や単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の出現は免疫系の異常を反映するので,この測定は免疫異常を伴う疾患の診断に重要な検査である.

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はじめに

 人体を構成する蛋白質の30%を占めるといわれているコラーゲンは,線維として存在し,骨,軟骨,真皮,筋膜,腱,靱帯,血管壁,角膜,硝子体などの結合組織や,それらの豊富な臓器に多く存在することが知られている.コラーゲンは現在,アミノ酸配列の異なるポリペプチド鎖として20種類以上が見いだされ,分子種としても,I型からXII型まで報告されている1).主なコラーゲンの種類を表1に示す.

 今回は,これらの多くのコラーゲンの中2,3)でも,最近,肝の線維化の指標として注目され,保健適用(350点)となったIV型コラーゲンについて解説する.

(7)心筋(関連蛋白) 片山 善章
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はじめに

 急性心筋梗塞(acute myocardial infarction;AMI)時に血中に遊出する特異性の高い蛋白は,心筋細胞質に存在するCK-MB(分子量:約81 kd),AST(分子量:約90kd),LD1(分子量:約140kd)などの酵素蛋白とミオグロビン(myoglobin;Mb,分子量:17.5kd)および細胞質中に約6%が遊離形で存在しているトロポニンT(troponin T:TnT,分子量:37kd)が挙げられる.一方,心筋の筋収縮に関与する構造蛋白としてはミオシン軽鎖I(myosin L chain kinase I;Ms-L I,分子量:28kd)とTnTがある.特にAMI時の血中TnTは細胞質画分と構造蛋白の両者から遊出すると報告1)されている.その意味からMbは分子量が17.5kdであるためCK-MBよりも早期に血中に出現し,細胞質画分に存在するTnTも37kdであるからCK-MBよりも早期に出現する,筋収縮蛋白として機能しているTnTは構造蛋白から崩壊すると徐々に出現するのである.したがってAMI時の血中TnTは細胞質酵素蛋白のCKや構造蛋白のMs-L Iの両者の利点を持つと考えれば理解しやすい.Ms-L Iは分子量28kdであるが,構造蛋白であるので心筋蛋白のうち一番遅れて血中に出現するのである.

 本稿では心筋蛋白のMb,Ms-L I,TnTについて述べる.

II.日常検査における異常値への対応 3.含窒素成分

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■尿素窒素

 はじめに

 血中尿素窒素濃度が日常検査において異常値が認められた場合の対応のしかた(考えかた)について説明する.

 各種血中成分の異常値としては異常低値および異常高値の2とおりがあるが,血中尿素窒素濃度は摂取蛋白量,肝臓のurea cycleによる尿素合成量および腎臓糸球体からの排泄量から規定されるが,中でも1日約25gにも及ぶ腎臓の尿素排泄機能と密接に関係しており,腎臓疾患における異常高値が臨床上問題となる.

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■検体の取り扱い

 血清中のクレアチニン(Cr)は運動や食事には影響されないが,血清クレアチンは運動により変動がみられる.日内変動はクレアチニン,クレアチンともみられ,15〜19時ごろに最高になるが,この変動幅は10mg/l程度と小さい.

 血清クレアチニン,クレアチンは比較的安定で,室温でも4〜7日,また冷蔵では1週間は十分安定とされている.凍結(-20℃)ではともに数か月安定であり1),血清の取り扱いは容易である.

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 ビリルビンならびに胆汁酸の測定は極めて重要な肝機能検査であり,各種肝疾患の診断ならびに鑑別診断に用いられる1).ここでは血清での測定を中心に異常値が得られる原因(検体の取り扱い,測定方法による差,生理的・病的変動)について概説する.

(4)尿酸 信岡 学
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 プリン(purine;Pur),ピリミジンヌクレオチド(pyrimidine nucleotide)はDNA,RNAのモノマー前駆体として知られている.このうち,プリン塩基であるアデニン,グアニン,ヒポキサンチンおよびキサンチンの最終代謝産物として尿酸(uric acid)が生成される.

 尿酸はpH6.5よりアルカリ側で主として尿酸Na塩として存在し,一部はアルブミンにも結合している.尿酸Naの溶解度はpH7.4では約7.0mg/dlといわれ,これ以上の濃度では組織への沈着が起こりやすく,関節炎を伴う痛風が代表的な疾患である.

II.日常検査における異常値への対応 4.糖・糖関連成分,有機酸成分

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■糖:グルコース

 1.日常検査法(表1)

 1)GOD-POD法

 D-グルコースには光学異性体があり,α-D-グルコース(36%)とβ-D-グルコース(64%)の2種類が存在している.グルコースオキシダーゼ(GOD)はβ型への基質特異性が高く,α型へはほとんど作用しない.α型からβ型への変換には少し時間がかかるため,反応を短時間で行うには,ムタロターゼにより,α型からβ型への変換を行う必要がある.

 D-グルコースは,酸素(O2)存在下でGODによるD-グルコン酸と過酸化水素(H2O2)を生ずる.

(2)有機酸成分 平野 哲夫
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■ピルビン酸・乳酸・ケトン体の代謝の相互関係

 生体成分を分析するに当たっては,まず測定される項目の生体内での動態を把握しておく必要がある.これら有機酸の代謝の相互関係についてごく簡単に触れておく.

 ピルビン酸は多種にわたる代謝経路の交差点に位置している.細胞内では主にグルコースの嫌気的解糖によって生ずる中間代謝産物である.組織の酸素が十分でないと,ピルビン酸は乳酸脱水素酵素により還元され乳酸となり,NADH(nicotinamide adenine dinucleotide)が酸化されてNADとなる.乳酸は嫌気的解糖の終末代謝産物として,生体のあらゆる組織で産生され,大部分が肝と腎でTCAサイクルや糖新生の基質として再利用される.ケトン体は肝での遊離脂肪酸の代謝産物であり,アセト酢酸,ヒドロキシ酪酸およびアセトンの総称名である.図1にこれら3者の代謝の関連性を示した.ケトン体は肝で利用されず肝外組織により再びアセチルCoAとなり,TCAサイクルで再利用される.これら乳酸・ケトン体は陰イオン有機酸として血中に存在し,酸・塩基平衡に重大な役割を演じる.乳酸アシドーシスあるいは糖尿病性ケトアシドーシスは,しばしば臨床で経験される代謝性アシドーシスである.

II.日常検査における異常値への対応 5.脂質・脂質関連成分

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■総コレステロール

 1.測定法

 Abell法などの化学的測定法と,コレステロールエステラーゼ(CE)-コレステロールオキシダーゼ(CO)-ペルオキシダーゼ(POD)を用いた酵素的測定法とがあるが,現在は自動分析機を用いた酵素的測定法が主流となっている.

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■中性脂肪(トリグリセリド)

 食餌より摂取される脂肪の大半はトリグリセリド(TG)である.腸管で吸収され,主にカイロミクロンの形で,一部は小腸由来のVLDLとして,リポ蛋白の形で肝臓へ送られる.一方,TGは脂肪酸と糖質由来のα-グリセロリン酸によって肝で生合成され,VLDLの形で血中へ送られる.VLDLはいずれも,IDLを経てLDLとなる.この異化の過程で,TGの大部分はリポ蛋白リパーゼ,肝性TGリパーゼにより水解される.生じた脂肪酸は細胞に取り込まれ利用されるが,再び,α-グリセロリン酸と結合して,TGの形で脂肪組織に蓄えられる1)

(3)リポ蛋白分画 安部 彰
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■リポ蛋白

 水に不溶性の脂質は生体内では蛋白と結合して,リポ蛋白として溶存している.リポ蛋白は体内各部位への脂質の運搬とともに,細胞内におけるコレステロール,中性脂肪など脂質代謝を調節する重要な役割を担っている.

 浮上法に基づく超遠心法で分離できる主なリポ蛋白の種類と性状を表1に示す.Lp(a)はLDL様リポ蛋白のアポB100にアポ(a)がSS結合したリポ蛋白であり,比重はHDL2に相当する.

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はじめに

 酸素原子は8個の電子がK殼,L殼に配置されている(図1).酸素原子が2個結合して酸素分子を形成する際,P軌道の8個の電子のうち6個が新しい軌道を作る.残りのそれぞれ1個の電子が1番外側の反結合軌道(πχ,πу)に入る.この軌道には電子が1個しか入っていないので,この電子は不対電子と呼ばれ,外から電子を得て安定になろうとするため反応性が非常に高い.このような不対電子を持つ分子あるいは原子をフリーラジカルと呼ぶ.活性酸素とはフリーラジカルの中で中心に酸素を持つもので,O2-,H2O21O2,・OHの4種を指す.

 生体内では酵素反応や自動酸化により,O2-,H2O2を生じる.H2O2は金属イオンの存在下で・OHとなる.これらの活性酸素は生体内で常に産生されており,薬物の水酸化,生理活性物質の合成,殺菌作用などに利用されている.しかし過剰に生成されると細胞障害,DNAの不活化,酵素の失活,脂質の過酸化などが惹起される.

II.日常検査における異常値への対応 6.酵素成分

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■AST,ALT

 アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase;AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase;ALT)(慣用名:GOT,GPT)は,次の反応を触媒する酵素である.

 両酵素は各臓器に分布し,ASTは主として心筋,肝,骨格筋,腎などに多く,ALTでは肝に最も多く,次いで腎の順となっている.また血清ではこれらに比して,極微量存在しているが,各臓器の損傷によって血中に逸脱してくることから,臨床上有用となるわけである.両酵素の活性発現様式は,それ自身では活性を有しないアポ酵素に補酵素〔ピリドキサルリン酸(pyridoxal phosphate;PALP)〕が結合することによって初めて活性型のホロ酵素となる.次に,日常検査を実施するに当たって,データ解釈上2,3の留意点について以下に述べる.

(2)LD,LD iso 須藤 加代子
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 乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase;LD)は解糖系の最後に位置する酵素であり,H(B)とM(A)の2種のサブユニットより成る四量体で活性を示す.H4,H3M1,H2M2,H3M1,M4の5種のアイソザイム(isozyme;iso)が等間隔に泳動され,臓器によりisoパターンが異なることから臨床検査に広く応用されている.isoの種類により基質に対するKm値,阻害の態度などが異なる.このため試薬濃度を変化させるとデータに影響するので注意しなくてはならない.誌面の都合でここでは異常値の実例を挙げ,注意点,対処のしかたなどを述べることとする.

(3)CK,CK-MB,Ckiso 金光 房江
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 クレアチンキナーゼ(ATP:creatine N-phosphotransferase EC 2.7.3.2;CK)は1934年Lohmannにより発見された酵素で,以下の反応を触媒する.

 この反応は生体内では逆反応に傾いており,ATPを産生してエネルギー代謝に重要な役割を果たしている,1959年に進行性筋ジストロフィー症で,1969年には急性心筋梗塞で,初めて血清CK活性の上昇が報告され,現在では臨床検査として不可欠な酵素である.

(4)ALP,ALPiso,ACP 正路 喜代美
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■アルカリホスファターゼとそのアイソザイム

 血清アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase;ALP)総活性測定は,フェニルリン酸基質法(phenylphosphate;PP法)が約10%,他はドライケミストリー,簡易法,自動分析法であり,4-ニトロフェニルリン酸(4NPP)を基質としている.4NPP法は,JSCCが0.35mol/lMEG(N-メチルグルカミン),pH10.4の30℃緩衝液と1mol/lEAE(2-エチルアミノエタノール),pH9.9の30℃の緩衝液を検討し,後者を勧告した.IFCCは0.35mol/lAMP(2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール),pH10.4の30℃緩衝液を,GSCCは1mol/lDEA(ジエタノールアミン),pH9.8の25℃緩衝液を勧告し,これらの処方に準拠したという調製試薬が広く利用されていて,ほとんどの施設では37℃で測定している1)

 肝・骨・胎盤・小腸,その他の臓器や腫瘍細胞から血中に逸脱してくるALPをアイソザイムと称しており,これらは上記の各反応条件下で4NPPに対するKm値や比活性が異なっており,pHのシフトでも活性は変動する.緩衝液のpHは30℃で調整されるが,これら緩衝液のpHは37℃において約pH0.2酸性化し,各ALPの活性化も異なる(表1,なおGSCCは25℃で勧告したが,1mol/lDEAのpHは30℃で調整した).

(5)GGT,LAP,5'-NU 平子 隆夫
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はじめに

 γ-グルタミルトランスペプチダーゼ〔(5-glutamyl)-peptide:amino-acid 5-glutamyltransferase EC 2.3.2.2;GGT(=γ-GTP)〕,アリルアミダーゼ(microsomal α-aminoacyl-peptide hydrolase EC 3.4.11.2;LAP),5'-ヌクレオチダーゼ(5'-ribonucleotide phosphohydrolase EC 3.1.3.5;5'-NU)の3つの酵素は,いずれも胆道系の膜に豊富に存在する酵素で,臨床的には胆管,胆道の閉塞,炎症に際して血清中に上昇する.胆管の膜のほかに,腎尿細管にも局在するが,尿細管障害ではNAGを優先させるのであまり用いられなかった.尿中で測定されているアラニンアミノペプチダーゼは,このLAPと同じものと考えられている.最近では親和性の高い基質が開発されて,従来のように透析などの前処理なしに測定されるようになり,日常分析にNAGと同じような簡便さが保証されてきている.

 さて,この3つの酵素が異常を呈する場合は,以下の例であろう.

(6)コリンエステラーゼ 高橋 一郎
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 コリンエステラーゼ(cholinesterase;ChE)はコリンエステルをコリンと有機酸に加水分解する酵素で,動物のみにその存在を知られている.ヒトコリンエステラーゼには,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)と,いわゆるコリンエステラーゼ(ChE)の2種類のコリンエステラーゼが存在し,臨床検査で主に測定されるのは後者である(表1).

 血清ChEは肝細胞で合成され,その生理作用は明らかではないが,神経,筋肉系および脂質代謝に関係していると考えられる.

(7)AD,ALD 関 知次郎
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■AD

 ADはアデノシンデアミナーゼ(EC 3.5.4.4)のことで,アデノシンを加水分解してイノシンとアンモニアを生成する酵素でヒト組織に広く分布している.アデニンの生理活性から容易に推測できることだがADはリンパ系で特に活性が高い.すなわち胸腺,脾,扁桃腺やリンパ節,末梢血の成熟T細胞などで活性が高い.2種のアイソザイムの存在が知られており,組織由来のAD-1とリンパ球,特にT細胞に多いAD-2とに分かれる.エリスロ-9-(2-ヒドロオキシ-3-ノニル)アデノシン(EHNA)はAD-1の特異的阻害剤として知られており,これを用いて2種のアイソザイムを測り分けることが可能となっている.

(8)AMY,AMYiso 佐々木 弘子
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はじめに

 ヒトのα-アミラーゼ(α-amylase EC 3.2.1.1;AMY)には,遺伝子支配の異なる膵型(P型)と唾液腺型(S型)の2種類のアイソザイムがあり,それぞれ主に膵臓・唾液腺で産生されるが,微量ながら他の臓器にも存在する.両アイソザイムの分子量は54,000〜64,000で,若干P型のほうが小さい.

 健常成人におけるアイソザイム比は,血中では若干S型優位(筆者らのP型AMYの正常値は25〜62%),尿中では逆に排泄率の違いからP型優位である.乳幼児では生理的に血清レベルが低く,血中・尿中ともにS型優位である1)

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 リパーゼ(triacylglycerol acylhydrolase;lipase;LP,EC 3.1.1.3),膵エラスターゼI(pancreatopeptidase E;elastase I:EI,EC 3.4.4.7),トリプシン(trypsin;TRY;EC 3.4.21.4)はいずれも膵の腺房細胞で生成され消化酵素として働く.LPは食物中のトリグリセリド(triglyceride;TG)を加水分解する酵素である.LPにはこのほかに,リポ蛋白中のTGを加水分解するリポ蛋白リパーゼ(lipoprotein lipase;LPL),肝LP(LPLの作用を受けた後のリポ蛋白中のTGに作用),ホルモン感受性LPがあるが,膵LPとは至適pH,分子量,熱安定性などが異なり,血清中のLPのほとんどは膵LPである1,2).EIは膵の腺房細胞にプロエラスターゼとして存在し,膵液として十二指腸に分泌され,TRYにより活性化されて消化酵素として利用される.セリンプロテアーゼの一種で動脈壁や腱などに存在するエラスチンを分解する唯一の蛋白分解酵素である.エラスターゼは膵のほか白血球,脾,動脈壁,皮膚などにも存在するが,免疫学的に膵と他の臓器のものは異なる.また,膵には分子量や酵素的性質,免疫学的交差性の異なる2種のエラスターゼI(EI)とII(EII)が存在するが,EIIの測定は一般化されていない.

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はじめに

 アンジオテンシンI変換酵素(ACE)は,アンジオテンシンIに作用してC末端のヒスチジン-ロイシンを離断することによりアンジオテンシンIIを生成する酵素である.ACEは同時にブラジキニンやカリジンを分解し不活化する作用も有し,キニナーゼIIとも呼ばれる.ACEは肺,小腸,前立腺など生体内に広く分布するが,特に肺をはじめとする血管内皮細胞に多く含まれる.健常者の血清ACE活性はこれら臓器からの逸脱を反映すると考えられている.

 血清中のACE活性の病態生理学的意義には不明な点が多いが,Liebermanがサルコイドーシス患者で血清ACE活性が上昇し,かつ治療に反応して低下することを報告1)して以来,種々の呼吸器疾患,肝,腎,甲状腺疾患および糖尿病などで変動することが知られるようになった.しかし,日常の臨床検査上,本酵素活性の測定は主にサルコイドーシスの補助診断や治療効果の判定に用いられている.

(11)LCAT 牧瀬 淳子
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 1935年,Sperry1)は,血清を放置するとコレステロールエステル〔ester cholesterol:EC(=CE)〕が増加する現象を見つけ,血漿中にコレステロール(free cholesterol;FC)をエステル化する酵素が存在することを示唆した.次いでGlomset2)は放射性同位元素を用いた研究により,レシチンのβ位脂肪酸をFCの3β-OH基に転移し,ECを生成するというレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(lecithin cholesterol acyltransferase;LCAT;EC 2.3.1.43)の存在を明らかにした.

 このLCATは肝臓で生成され,流血中でリポ蛋白に作用しFCのエステル化反応を触媒する酵素であり,血中および組織の脂質代謝に関与している.この反応の活性化にはアポAI蛋白が必要であり,アポAII蛋白はLCATを阻害すると考えられている.その生理的役割についてもしだいに明らかにされてきた.

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 N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(N-acetyl-β-D-glucosaminidase;NAG,EC 3.2.1.30),リゾチーム(lysozyme;Lyso,EC 3.2.1.17),グアナーゼ(guanine deaminase;GU,EC 3.5.4.3)は,いずれも加水分解酵素という共通点があるものの,生体における組織分布状態が違うため,これらの酵素活性を測定することの臨床的意義は異なる.また,NAGは尿,Lysoは尿,血清,涙液,GUは血清,のごとく被検試料も同じではない.これらを限られた誌面で紹介することは容易でないが,NAGは1992年に発行された本誌増刊号1)に要領よくまとめられており,またLysoとGUは実施している施設がかなり限定されているため,個々の酵素活性については簡単な紹介にとどめ,NAGの項では,特に尿中成分定量値の臨床的評価を高めるために行われているクレアチニン補正について述べる.

(13)ペプシノゲンI,II 三木 一正
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1.ペプシノゲンI,II測定用キット

 固相化抗ペプシノゲンI(またはII)モノクローナル抗体および標準抗ペプシノゲンI(またはII)モノクローナル抗体を使用したIステップのラジオイムノメトリックアッセイ(RIMA)であり,ペプシノゲンIおよびペプシノゲンII,両者ともに操作,反応時間(3時間),温度(室温)などすべて同じ条件で,25μlの検体血清(または血漿)を用いて,測定を行うことができる1).測定に要する時間が3時間余りの比較的簡便な方法である.現在,全国の主要臨床検査センターで測定を行っている.

II.日常検査における異常値への対応 7.ホルモン成分

ホルモン成分 内村 英正
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はじめに

 ホルモン検査における異常値を理解するためには,まず生体がホメオスターシス(homeostasis)を保つために,個々の内分泌器官の調節機序に他の器官も関係していることを知っておく必要がある.さらに,測定法についてもある程度理解していなければならない.例えば甲状腺の調節機序について例を挙げると,図1に示すごとく視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH),ソマトスタチンにより刺激性または抑制性の制御を受けている下垂体は甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌するが,このTSH産生細胞の機能は甲状腺ホルモン(T3,T4)により抑制を受ける.また,上位のTRHの分泌もT3,T4に抑制される.したがってある患者のT3,T4,TSHを測定した際に,いずれもが正常値以上の値を示した場合には,検体取り扱い上の手続きに間違いがなければ,測定法に問題があるか,新しい病態が考えられることになる.

 内分泌の病気の検査は,①血中,尿中のホルモンまたはその代謝産物を測定して正常値に比較して増加しているか減少しているかを調べる,②測定値の異常の原因を明らかにするための画像診断を行う.

II.日常検査における異常値への対応 8.ビタミン成分

ビタミン成分 安田 和人
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はじめに

 血液中のビタミン成分の測定は主としてビタミンの欠乏状態,代謝異常の判定を目的として行われる.しかし,そのほかに例えば白血病,肝炎の際に高ビタミンB12血症がみられるなど,それ自体は診断の決め手にはならないが,疾患時に一定の変動がみられる場合に測定が意味を持つことがある.

 水溶性ビタミンはビタミンそのもの,または代謝物質が尿中に排泄されるので,それらの24時間排泄量を測定することができるが,当日の食物からの摂取状況の影響を受けやすく,かつ変動幅が大きいため,血中濃度に比べて指標性が低い.しかしビタミンB6が欠乏するとその主要な尿中代謝物質である4-ピリドキシン酸(PIC)の排泄量が減少し,ニコチン酸欠乏ではN1-メチルニコチンアミド(MNA)の尿中排泄量が減少し,いずれも欠乏状態の指標として用いられる.またビタミンB12欠乏の際に尿中排泄量が増加するメチルマロン酸のように,通常は極めて微量しか排泄されないが,ビタミン欠乏の際に起こる代謝異常によって血液中に代謝物質が蓄積され,尿中に大量に排泄されるような場合には診断的価値が高い.葉酸欠乏における尿中ホルムイミノグルタミン酸(FIGlu)の増加も同様である.またビタミンB6欠乏の際に尿中にキサンツレン酸が増加することも知られている.

II.日常検査における異常値への対応 9.腫瘍マーカー

腫瘍マーカー 大倉 久直
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■免疫学的検査の問題点

 モノクローナル抗体にせよ,免疫抗体にせよ,抗原抗体反応で検出される物質が単一の物質でないことに留意する必要がある.つまり検査試薬に用いている抗体が認識する(結合できる)抗原決定基(エピトープ)構造を持っている分子であれば,残りの分子構造が違っても免疫学的には同じ抗原として認識される.hCGのβ鎖末端を認識する抗体は,hCG分子とhCGのβ鎖,β鎖のフラグメントの一部と反応するが,hCGのα鎖に対する抗体はhCGおよびプロラクチンと反応し,β鎖とは反応しない.

 また,CA19-9のモノクローナル抗体NS19-1は2-6シアリルルイスAの糖鎖抗原とだけ反応するが,この糖鎖はCA50,SPan-1,KM01,NCC-ST-272 CA195などのモノクローナル抗体でも検出される.そしてCA50とSPan-1のモノクローナル抗体は側鎖にフコースを持たない2-6シアリルラクトテトラオースとも反応し,CA195はシアル酸を欠いたルイスAとも反応し,KM01はCA19-9とほとんど同じ抗原糖鎖だけを認識する.

II.日常検査における異常値への対応 10.薬物

薬物 西原 カズヨ , 伊賀 立二
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はじめに

 薬物の血清中または全血中濃度測定における正常値の概念は,一般的な生化学検査値と異なる.生化学検査値は,ヒトが健康体を維持するために本来必要とされ保持している生体成分について,健常成人での平均的な値を正常値として用いている.

 一方,血中(血清中および全血中を含む)薬物濃度は本来生体中に存在しない薬物を患者に投与したときの血中濃度であり,その投与量は患者ごとに異なり,生体からの消失速度も個体差がある.そのため,生化学検査値の正常値に対応するものとしては効果と濃度との関係が得られている薬物としては治療血中濃度が,その他の薬物では常用量を投与したときの平均的な血中濃度になるであろう.

II.日常検査における異常値への対応 11.ホルモン以外の生理活性物質

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はじめに

 生理活性物質は,その名の示すとおり体内に存在し,種々の体内動態を誘導する活性を有する物質である.

 この種の物質には,例外なく精巧な生合成系と,代謝分解系が存在し,その両者の引き算の結果として存在する物質量が生体へ作用する.生合成,分解のサイクルは,秒単位のものから,日単位に至るまで種々であるが,短時間のターンオーバーを呈する物質ほど,検体の採取方法,保存方法,取り扱いかたによっては本来の体内濃度とは異なった測定結果となることは,容易に推察できよう.もちろん,薬剤や病態,運動,日内変動,年齢,性差など,測定値の変動をもたらす要因は,他の体内物質と同様である.

 生理活性物質の測定は,①バイオアッセイ,②種々の分画法を利用した定量,③特異的抗体を用いたラジオイムノアッセイや酵素抗体法,などに大別される.

II.日常検査における異常値への対応 12.血液ガス,浸透圧,粘度

(1)pH,Pco2,Po2 下村 弘治
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 血液ガス分析は救急医学の中で欠くことのできない検査の1つであり,また全科にわたるあらゆる疾患で実施される重要な検査である.主に呼吸,循環状態の把握および酸・塩基平衡異常の判定に必須の検査であるとともに,その検査結果が治療に即応する.これらの病態はしばしば致死的であることを検査する側では認識していなければならない.

 血液ガスの測定は採血法,検体の取り扱いかたなどによって結果が異なってくる.測定結果を判断するときは患者の状態,採血の状況,分析装置の状態などいくつかの要因を考えながら行う必要がある.

(2)浸透圧 関口 光夫
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はじめに

 臨床検査における浸透圧の測定は,生体の浸透圧調節系異常の鑑別診断,水・電解質バランスの把握あるいは輸液により外因性物質が血中に増加した場合などの識別に重要な意義を持っており,緊急性の高い検査の1つである.その測定は氷点降下法を原理とする浸透圧計により簡単に測ることができ,単位はmOsm/kgH2Oで表される.

 ここでは浸透圧の測定に際し,測定試料の取り扱い,計算浸透圧,オスモラルギャップ,測定値の取り扱いなどを中心に述べたい.

(3)粘度 内村 功
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はじめに

 粘度は物体の持つ粘り気に関する検査である.物が流れるとき,その流体は変形しなくてはならない.この変形をずりと呼んでいるが,このときかかる力をずり応力と呼ぶ1).時間に伴ってずりは増加するのでその割合をずり速度と呼び,このときのずり速度とずり応力の比を粘度と定義している.

 粘度の測定は主として血液について行われるが,時には胆汁や喀痰,涙液などにも応用される.血液の粘性は血液の流動特性を決定し,その増加はいろいろな疾患で血行障害を起こしている2).炎症による胆汁や喀痰の粘性上昇は排出困難を起こしやすくする.また血液粘度は血沈のように炎症状態のマーカーとしても使用しうる.本稿では血液粘度についてその異常値に対する対策を考えてみる.

II.日常検査における異常値への対応 13.その他の検査

(1)結石分析 鈴木 悦
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 生体の代謝,調節機構などの異常において結石が形成されることがある.これらの結石は胆嚢や胆道に認められる胆石,腎臓や尿管,膀胱に認められる尿路結石,耳下腺などの唾液腺に認められる唾石などに分類されている.

 結石の成分は種々であるが,形成される部位や成分,特に病的成分の同定は疾患の治療や経過,予後を解明するうえで重要である.

(2)アミノ酸分析 小島 洋子
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はじめに

 最近の臨床検査分析は機械化が進んできているが,もちろん機械に任せるだけというわけにはいかず,動かす人の注意力,観察力が要求される.アミノ酸分析についても同様である.

 アミノ酸分析は高速液体クロマトグラフィーなどとともに臨床化学の日常検査の中では比較的高度な技術が必要な検査で,分析の原理などを理解することも要求される.

III.感染予防と医療廃棄物の処理

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はじめに

 検査室で取り扱う検査材料の中には感染症患者由来のものが多数含まれている.また明確な感染症状を有さない患者の中にも潜伏期患者,不顕性感染あるいはcolonizationなどの病原微生物の保有者が多数存在する.時にこれらの患者由来の検査材料から医療従事者が感染を受ける場合がある.

 ここでは主に検査室内における感染(laboratory-associated infectionまたはlaboratory-aquired infection)を中心にその発生様式,原因となる微生物について述べる.

2.消毒法 小栗 豊子
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はじめに

 「消毒」と「滅菌」の用語は厳密には区別して定義づけられているが,微生物を不活化するために用いられる点では共通している.オートクレープによる高圧蒸気滅菌は滅菌法の1つであるが,「焼却」に次ぐ最も確実な消毒法とも表現できよう.このように実務的には滅菌法も広義の消毒法に含めて用いられていることから,ここでは「滅菌・消毒法」を単に「消毒法」と表現する.

 ほとんどすべての消毒法は一般細菌(芽胞ではなく,栄養型)に対して強い殺菌作用を示すが,結核菌,ウイルス,芽胞に対しては方法により差が認められる.また,各々の消毒法の用途も対象物件により向き不向きがあり,一様ではない.それゆえ,使用に際しては,「抗微生物スペクトル」と「対象物件」に適合した方法を選択することが大切である.

3.感染防御法 石山 尚子 , 菅野 治重
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はじめに

 臨床検査に提供される検体中には,B型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV),後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスであるHIV,梅毒トレポネーマなど,検査担当者に感染の危険がある微生物が含まれる可能性がある.検体は常に危険なものとして取り扱うべきではあるが,臨床検査室の構造は,感染実験室に比べ感染防止対策が十分でなく,また検査業務の忙しさから検体の感染の危険性に対する注意がおろそかになりがちである.本稿では感染防止の立場から,検体の取り扱いかたの要点と,検体を廃棄する際の注意点について解説する.

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はじめに

 本稿では,感染予防の視点から,臨床化学検査を行うに当たっての検査材料と使用器具の処理について現状と問題点について記述したい.

 病院から排出されるいわゆる医療廃棄物の処理について問題となるのは,感染性廃棄物と化学系廃棄物であるが,本稿では主に感染性廃棄物について述べることになる.

IV.標準化

1.基準の設定 桑 克彦
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はじめに

 臨床検査データが,どこで用いても同じ効果が発揮されるとき,臨床医はその恩恵を受ける.そのために行われる作業が標準化である.そしてこの標準化の作業の基本的なやりかたには,大別して2つある.1つはある一定の診療地域内を対象にして,その中で中核の機関を設定し,この機関と合わせていくものであり,1つは測定値の正確さを基礎にして,自らの正しい位置を知ったうえで,基準として設定されたものに合わせていくものである.このうち前者は正確さを考慮していないのではなく,基準が設定されるまでには時間がかかりすぎるため,それまで待つことへのデメリットを考慮していることになる.しかし,基準が設定された場合は,いずれも同じ考えかたによる作業となる.最終的には基準の測定値に近似させ,その距離を一定に保っていく方法が実践的内容となる.

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 日常,試料中の物質の濃度あるいは酵素活性値を求めるには,その迅速性および大量処理の必要性から,自動分析装置が多用される.

 現在の自動分析装置は精密さの追求はかなり進んでいるが,正確さにおいてはコスト・スピード・コンパクトさなどの理由で犠牲にされているのが現状である.しかし正確さが施設間差の是正において重要なファクターであるので,購入後ユーザーがその装置に正確さを付与する必要がある.その正確さは,「検量係数(Kファクター)」と「測定温度の正確さと制御能」で決定される.

3.正確さの把握 大貫 経一
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 日常検査法での測定値の正確さは,正確な表示値を持った実試料標準物質を測定することにより容易に把握できる.

 正確さの基準となる標準血清(認証標準血清)として電解質用(Na・K・Cl,Ca2+,Li1〜4),総コレステロール用5),グルコース用6),血液ガス用(pH,PCO2,PO27)などが頒布され((財)化学品検査協会で検定),これらを用いて正確さの評価および正確さの日常精度管理を行うことができる.

4.互換性の維持 飯塚 儀明
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 臨床検査データが,どこでも同等に効果を発揮するように,互換性の確保と維持が必要である.そのために行われる標準化の作業の基本的な考えかたには,大別して2つある.

 1つは,ある一定の診療区域内を対象にして,その中の中核病院を設定し,この病院との互換性を図っていくものであり,もう1つは,測定値の正確さを基盤にして,自らの正しい位置を知ったうえで基準として設定したものに合わせていく方法である.

V.分析基礎技術 1.試薬の調製

試薬の調製 中野 尚美 , 近浦 靖
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はじめに

 臨床化学分析のほぼ全過程の自動化およびシステム化が可能となった現在,検査技師の立場からすれば,測定技術を一見奪われたかに見えると同時に,測定に使用する試薬の調製も試薬メーカーに依存することを余儀なくさせられてしまった.しかし,検査室の主要な業務の1つは,検査項目ごとに,その施設に最も適した分析装置と試薬を数多い中から自らの判断で選ぶことであるので,たとえ用手法で患者の検体を直接測定しなくても,検査技師は自らの施設に適した分析手段を選定するに当たって,知識を駆使し,種々検討し評価したうえで判断しなければならない.また,いったん決めた日常分析法の内部精度管理を常に行うと同時に,外部精度管理に参加し,自らの判断を再評価する必要があろう.この評価をどのようにして行うかがこれまではあまり明確にされていなかったが,近年,検査の標準化が取り上げられ,より明確になったと思われる.

 標準化の一環として測定項目ごとに標準的測定法が,わが国では日本臨床化学会から勧告され始めた.アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)1),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)1),クレアチンキナーゼ(CK)2),アルカリ性ホスファターゼ(ALP)2),乳酸デヒドロゲナーゼ(LD)2)の酵素5項目,また,血清グルコース3)に対しても勧告法がすでに公表された.他の項目についてもいずれ公表されるであろう.

V.分析基礎技術 2.呈色化学反応

呈色化学反応 今井 利夫
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はじめに

 臨床化学検査における分析法は特異的な検出試薬の開発や分析装置の進歩に伴い測定法の正確度や再現性が向上するとともに,微量化,迅速化ならびに自動化などの努力が積み重ねられ今日に至っている.特に,呈色化学反応を用いた定性・定量分析は簡便,迅速かつ比較的鋭敏であるなどから古くから多くの方法が知られている.ここでは日常検査に用いられている呈色反応を,①キノンイミン色素の生成反応,②ジアゾニウム塩を用いる反応,③活性メチレンの反応,④フェニルヒドラジンを用いる反応,⑤α-ジケトンを用いる反応,⑥色素との反応および,⑦錯体形成反応に分類してその概要について触れる.

V.分析基礎技術 3.酵素活性測定法

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はじめに

 酵素活性を正しく測定するために定められている1つの要件が初速度測定を実施することである.初速度とは測定したい酵素が反応開始直後に示す反応速度のことである.ところが,測定方法によって,必ずしも反応開始直後に観察できる反応速度が,測定したい酵素の初速度とはならない.このため,古くは反応が直線的に進行する部分を見いだし,初速度を測定していた.しかし,このような方法では,正しい初速度測定ができない.正しく初速度の測定を行うためには,①測定したい酵素活性,②使用する共役酵素量,③反応開始後何分後に何分間測定したいのか,の3つの要素を明確にしたうえで,正しい初速度測定法を組み立てなければならない.

(2)反応パラメーター 小川 善資
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 反応パラメーターを決定するうえで大切なことは,アイソエンザイムに対する考えかたである.アイソエンザイムのすべてを極力同じ活性で測定しようという考えかたと,ただ1種のアイソエンザイムを測定すればよいという考えかたである.アルカリ性ホスファターゼ(ALP),乳酸脱水素酵素(LD),アミラーゼなどは前者のごとく考えられることが多い.一方,コリンエステラーゼは特異基質が入手しやすいことと臨床的意義から偽性コリンエステラーゼのみが測定される方法が主である.いずれにしても,どのように考えるかを決めることが,一番重要なことである.

 AST,ALTなどは現実問題として,ほとんど1種のアイソエンザイムしか血清中に存在しないため,この1種類のアイソエンザイムのみを対照として測定法を作成したとしても問題は生じないと思うが,ただ1種のアイソエンザイムのみを測定しようとする考えかたは現状ではあまり認められていない.このためすべてのアイソエンザイムを同一活性で求めたい場合を中心に記述したい.

(3)Km値の求めかた 中 甫
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 日常検査において酵素活性を測定する場合に,Kmを直接扱うことはない.しかし,酵素の性質を調べたり同定するなどの基礎研究,酵素活性測定法の設計,酵素を試薬として用いて基質濃度を測定するいわゆる酵素的測定法の設計などにおいて,実際にKmを測定することは,欠かすことのできない基本的手技の1つとなる.ここではKmの持つ意味および実際のKmの求めかたについて解説する.

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 酵素活性は反応温度に大きく依存しており,活性値を測定する際には反応温度の選択が重要な問題となる.現在の臨床化学分野における日常測定法では世界的に37℃での測定が主流となりつつあるが1),これまでに提示された酵素活性測定の各種勧告法では30℃と規定されている.現在は,日常測定法の反応温度に対する統一した合意への過渡期であり,このような状況下,反応温度を含めた測定条件の検討や活性値の温度換算を試みる必要に迫られることも少なくはなく,その際の参考データの1つとして「酵素の活性化エネルギー」が時々登場する.

 活性化エネルギー(Ea)については,多くの物理化学分野の専門書で解説されているが,熱力学的な知識を前提とした表現が多く,難解さだけが印象に残る.ここでは,活性化エネルギーの求めかたとその値の臨床化学分野での利用を念頭に具体例を紹介しながら説明してみたい.よって,熱力学と反応速度論に関する基礎的な解説はあえて後半で述べることとした.

(5)測定単位と検量 山舘 周恒
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 酵素活性の測定は,成分系の濃度測定で行われる標準物質を用いた相対分析とは異なり,反応速度を測定して酵素の触媒としての力を求め「単位」として表示するものである.酵素活性の測定が行われるようになった過去においては,各々の測定法を開発した研究者が独自に反応条件と活性値の表示方法を定めていた.単位の多くは,測定法の開発者の氏名に由来し,ASTのKarmen単位1),LDのWroblewski単位2),ALPのKing-Armstrong単位3)など,現在も使用されている.このような経緯に対して,酵素活性の測定に関する統一化の必要性が認識され,国際生化学連合(IUB)により国際単位(U)が定められた.

V.分析基礎技術 4.酵素的分析法

酵素的分析法 松本 宏治郎
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はじめに

 酵素を用いる分析法は,反応が緩和な条件で短時間に進行し特異的であることから,複雑な共存系である血清や尿試料を分析対象とする臨床化学検査では,免疫化学的分析法とともに,生物学的親和性を利用した分析法の代表として欠くことのできない分析法となっている.ほとんどの生体成分は,生体の物質代謝の産物,すなわち酵素反応の産物であるので,原理的には酵素反応の組み合わせにより,これらの測定が可能である.しかしながら,分析対象が広がるに従い,このような酵素的分析法に対する神話も,一部再考する必要が生じている.免疫化学的分析法では,抗体の交差反応性が問題となるのと同様に,酵素の基質特異性はそれほど厳密なものではなく,測定対象が微量になれば,非特異的反応が相対的に無視できなくなる.また,酵素試薬の純度や安定性には十分な考慮が必要である.

V.分析基礎技術 5.電気化学分析法

電気化学分析法 森下 芳孝
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 電極反応は電極と電解質溶液界面との間で生じる電荷移行反応である.電極界面での自発的な電気化学反応あるいは外部からの電圧の負荷などによる強制的な電気分解反応により電気化学的な活性な成分を定量することが可能である.

 臨床化学検査分野における電気化学分析法としては,A.イオン電極法,B.酵素電極法,C.電気量測定(クーロメトリー),D.電導度測定がある(表1).

V.分析基礎技術 6.免疫学的測定法

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はじめに

 ラジオイムノアッセイ(RIA)は,1958年にBersonとYalowによって確立された測定法である.この方法は特異的な抗原と抗体の結合を利用し,また放射性同位元素は簡単に微量でも測定できるという特徴を組み合わせたもので多くの研究者の注目を集めた.測定できる物質も,初期のころのペプチドホルモンから,現在では各種非ペプチドホルモンや薬剤,酵素,ウイルス抗原や抗体,腫瘍抗原,血清蛋白成分,微量生体成分まで広範囲にわたっている1)

 近年,モノクローナル抗体の作製方法が進歩・普及し,免疫放射定量測定法(immunoradiometric assay;IRMA法)が開発され,臨床的にもその有用性が高く評価されるに至っている.この方法は,従来の競合型のRIA法に比べ,利点も多く,時代の流れはIRMA法に移行していると思われるので,本稿ではIRMA法を主として取り上げることにした.

(2)EIA 市原 清志
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■測定原理

 エンザイムイムノアッセイ(enzyme immunoassay;EIA)とは,基本的には抗原または抗体の標識に酵素を用いたイムノアッセイを指すが,実際には,基質,補酵素または酵素活性阻害物質で標識し,検出段階で酵素を用いる場合も多い.一方,酵素を用いてはいるが,その基質に通常の呈色物質でなく,蛍光物質や化学発光物質を用いる場合も多く,それを蛍光イムノアッセイや化学発光イムノアッセイに含めるべきか,分類が難しい.本稿ではEIAを一番広義にとらえて,最終的に酵素活性を使って反応を定量化しているものをすべて含めて解説する.

V.分析基礎技術 7.蛍光および発光分析法

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■蛍光分析法

 1.蛍光とは

 物質にある波長の光を照射するとき,光の吸収に伴って光を放射する現象を蛍光という(図1).この場合,光の照射を止めるとすぐに光も出なくなる.ところが硫化バリウムの粉末に紫外線を照射すると,黄色に光り紫外線の照射を止めてもしばらくの間光っている.このような現象をリン光という.一般に蛍光もリン光も照射した光の波長に比べて放射される光の波長は長い.

 図2に分子のエネルギー状態を模式的に示す.光が照射されていないときは,分子は最低のエネルギー状態(基底状態:S0)にあり,光を照射すると光のエネルギーを吸収して分子は高いエネルギー状態(励起状態:S1,S2…)になる.

V.分析基礎技術 8.その他の光度法—比濁法,ネフェロメトリー,蛍光偏光

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 溶液中の低濃度の物質の濃度を測定するために,いろいろな方法が開発されている.最近,免疫学的技術の進歩により,実に多くの物質に対する抗体が比較的容易に作られるようになった.その結果,抗原抗体反応と光学的方法の組み合わせが,各種の測定機器に応用されている.また,抗原抗体反応の経過を光学的に感知しやすくするために,ラテックス粒子に抗体(または抗原)を吸着したラテックス凝集反応(latex agglutination reaction;LAR)も広く使われている1).濃度が10ng/ml以下ではRIAとEIAが有力であるが,後述する比濁法とネフェロメトリーではng/mlからmg/mlレベルまで測定できるようになっている.蛍光偏光は低分子の物質の測定に利用されている.

V.分析基礎技術 9.電気泳動分析法

電気泳動分析法 芝 紀代子
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 今日多種多様の電気泳動法が医学・生物学など広い分野において利用されている.ここ数年の間に高分解能の電気泳動が相次いで開発されており,また目的にかなった電気泳動装置,検出装置などが市場に数多く登場したこと,電気泳動後の銀染色にみる高感度な蛋白染色法の開発,プロッティング法による特定成分の検出など検出感度が向上したことも,電気泳動法の利用価値を高めた因子として挙げられる.

 本稿では種々ある電気泳動法から検査業務を行う際に役に立つ電気泳動法を取り上げ,原理,特徴そして臨床応用について記述する.

V.分析基礎技術 10.クロマトグラフィー

クロマトグラフィー 久保 博昭
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はじめに

 クロマトグラフィー(chromatography)の名称は,ギリシア語の色を意味するchromatoと記録を意味するgraphosに由来したものであり,初めは可視部に吸収のある着色物質の分離に用いられた方法である,現在では可視部に吸収のない無色の物質の分離にも用いられている分離分析手段である.

 クロマトグラフィーの原理は,分離が行われる場で固定相(stationary phase)と呼ばれている物質と,これに接して流れる移動相(mobile phase)と呼ばれている物質との間に試料の混合物を分布させ,この両相への試料物質の親和性による相互作用の差を利用して各成分に分離していく方法である.クロマトグラフィーを行う装置をクロマトグラフ(chromatograph)と呼び,分離した結果を記録したものをクロマトグラム(chromatogram)と呼ぶ.

V.分析基礎技術 11.その他の分析法

(1)ドライケミストリー 岩田 有三
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はじめに

 ドライケミストリーとは分析に必要なすべての試薬が乾燥状態で保存されていて,測定時に液状試料(血液や尿)を供給するだけで結果が得られる分析方法といわれている1).現在,ドライケミストリーの分析素子の形態として多層分析フィルム,試験紙,使い捨て電極,磁性体などがあり,基本的には1枚または1個の分析素子で1検体1項目の測定ができる使い捨て型である.ドライケミストリーは分析素子と専用機器の組み合わせで臨床検査システムが構成され,測定対象は生化学,薬物,免疫項目,血液凝固に及んでいる.検体の水分だけで反応が進行するので検査システムとして数多くの特徴,利点を有するため,日常検査,緊急・即時,在宅検査などに広く普及している.ドライケミトリーの原理,方式,評価結果については今まで多くの総説2〜5),報告6,7)がある.ドライケミストリーが普及する一方,生化学項目における外部精度管理において測定値が液体法と乖離することが報告されている.ここでは生化学検査項目を対象としたドライケミストリーの精度管理上の特性を中心にまとめた.

(2)PCR法 山﨑 聖美
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はじめに

 PCRとはpolymerase chain reactionの略で,DNAポリメラーゼの反応によってDNAを増幅する方法である.PCR法の原理は難しいものではなく,よく知られているDNAポリメラーゼ反応を単に応用したもので,その原理のシンプルさゆえに各分野で応用されている極めて便利で有用な技術である.そこで本稿では,まず原理について説明した後,PCR法の手順を示し,例として遺伝子診断の際の点変異の迅速な検出法,変異を検出する際の直接塩基配列決定法について述べる.

話題 1.実試料標準物質

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 血清中のNa,K,Clの測定では,簡便かつ迅速に測定できる方法としてイオン電極法が開発され,従来の炎光光度法および電量滴定法に代わって,現在では日常検査の主流となっている.イオン電極法においては,高選択なナトリウム電極およびカリウム電極が実用化されており,妨害イオンの面からは問題はなくなったが,蛋白,脂質などによる電極の汚れ,残余液間電位の問題,容積置換に基づく測定の不一致の問題などが残されていた.これらの問題を最小限にする手段としてイオン電極用標準血清の確立がなされた.

 もともと,イオン電極法にかかわる問題(主として容積置換)は,IFCC(国際臨床化学連合)のWGSE(イオン電極に関するワーキンググループ)で取り上げられ,わが国からは日本臨床化学会血液ガス・電解質専門委員会がメンバーとなって,日本における対応を検討してきた結果,イオン電極用標準血清の確立が最も簡便かつ有効な手段であるとの結論に至った.

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 躁病の薬物治療剤として炭酸リチウムを用いるには,血清リチウム濃度が一定の範囲に維持されるように投与量を調節しなければならない.血清リチウム濃度の測定は,従来はフレーム光度法あるいは原子吸光光度法によって行われてきたが,最近ではリチウム選択性電極が開発されたことに伴い,簡便で迅速なイオン電極法が普及してきた.

 イオン電極法で血清リチウムを測定する際の問題点は,1番目として血清中の蛋白,脂質などのマトリックス効果による電極への影響,2番目として電極膜のナトリウムに対するリチウムの選択性が十分ではないことから共存するナトリウムの影響が大きいという点である.これらの問題を解消する方法としては,1番目については,実試料に性状が最も近いヒト血清をベースとした標準血清を用いることでほぼ解消できる.2番目については,市販の測定装置ではリチウムと同時にナトリウムも併せて測定し,ナトリウムの影響を補正するようになっているが,この場合でもナトリウムの測定値の信頼性を高めるうえで標準血清を用いることが必要である.

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 血中の総カルシウム濃度は約2.5mmol/lであるが,そのうちの約50%が実際に生理的活性を有している遊離型のカルシウムイオン,すなわちイオン化カルシウム(Ca2+)である.イオン電極法は血中のCa2+を直接測定できる唯一の方法であり,国内および国外のメーカー約10社以上からイオン電極法を用いた日常検査用の測定装置が市販されている.

 しかし,臨床面で要求される信頼性に対して測定値の機器間差,経日変化が大きいことと併せ,正確さの基準となる測定法自体が確立していなかったことから測定値の信頼性は必ずしも十分とはいえなかった.これらの問題点を解決するために,ヒト血清をベースとしたイオン化カルシウム標準血清が(財)化学品検査協会から新たに供給されることになった.標準血清はガラスアンプルに封入され,-20℃以下で冷凍保存されている.血清のカルシウム濃度はpH依存性が高いため,標準血清を使用する場合は25℃の水浴中で融解して,あらかじめアンプル内のCO2分圧とpHを一定の状態にしてから測定しなければならない.また,標準血清の標準値の測定は国際的な整合性を得る目的で作成されたIFCC(国際臨床化学連合)のpH/Blood Gas Electrolyte Expert Panelの勧告案に定められている方法に基づいている.

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 血液pH/血液ガスの測定は,特に救急救命検査としての最重要項目として用いられている.Po2の測定は一般的にはクラーク型電極によって行われている.しかし,電極法による測定においては,血液試料のマトリックス効果が測定結果に大きな影響を与えることは周知のとおりであり,実際に市販の血液ガス分析装置を用い同一全血のPo2を測定した結果を図に示した.測定値には,機種間で大きな乖離が認められた.これは主として,酸素透過膜における校正ガスと血液試料の酸素の透過速度が異なることによる.測定値の正確さに関しては,トレーサビリティ体系に基づく酸素標準ガスを用い,標準トノメトリーしたヒト全血を用いて評価することができるが一般的ではない.

 そこで,測定値の正確さを簡単に評価するための標準試料が求められていた.現状では全血を安定化できないので,電極に対する挙動がヒト全血と一致する特定のウシヘモグロビンを原料とするアンプル入り標準試料を開発した.この標準試料は,特定のウシ全血から赤血球を分離し溶血させた後,限外濾過により所定のヘモグロビン濃度とし,酸素ガスを吸収させ調製したもので,3レベルから成り,(財)化学品検査協会から供給されている.標準試料の保存は冷凍庫で行い,使用に当たっては恒温水槽を用い気液平衡を確実に行う必要がある

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 近年成人病対策の一環として血中コレステロール濃度が重視され,信頼のおける測定値を得ることが,重要な課題となっており,臨床検査における日常法の正確さの基準となる標準物質が要望されていた.

 しかしよく知られているとおり,凍結乾燥した血清はリポ蛋白質が変性しているので,脂質測定の標準物質には適していない.これはリポ蛋白質の変性によりその内部にあるコレステロール,コレステロールエステルのミセル化が新鮮血清と異なるため,コレステロールエステルの分解反応速度が遅くなったり,完全に分解しないなど,新鮮血清と異なった挙動を示す結果,標準物質として役に立たたないためである.

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 血液pH/血液ガスの測定は,特に救急救命検査としての最重要項目として用いられている.pHおよびPco2の測定は,一般的にはそれぞれガラス電極とセベリングハウス型電極によって行われている.しかし,電極法による測定においては,血液試料のマトリックス効果が測定結果に大きな影響を与えることは周知のとおりである.主としてpHの場合比較電極の液絡部における校正液と血液試料間の液間電位差が異なること,Pco2の場合CO2透過膜において校正ガスと血液試料の透過速度が異なることにより,その測定値は機種間で大きな乖離がみられる.測定値の正確さに関しては,pHの場合は残余液間電位差が最小でかつ高精度の毛細管型液一液ジャンクションを有するガラス電極法により,Pco2の場合は標準トノメトリーしたヒト全血を用いることにより評価することができるが,いずれも一般的ではない.

 そこで,測定値の正確さを簡単に評価するための標準試料が求められていた.現状では全血を安定化できないので,電極に対する挙動が全血と一致する特定のウシ血清を原料とするアンプル入り標準血清を開発した.この標準血清は,原料のウシ血清に二酸化炭素ガスを吸収させたもので,pHおよびPco2がそれぞれ3レベルから成り,(財)化学品検査協会から供給されている.標準血清の保存は冷凍庫で行い,使用に当たっては恒温水槽を用い気液平衡を確実に行う必要がある.

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 近年酵素電極法による血中グルコース測定が一般化した.しかし酵素電極は,固定化した酵素がグルコースオキシダーゼであるため,共存物質の影響が考えられること,多くの因子が電極の応答性に影響を与えることなど,正確さに問題があり,また電極の経時変化が考えられる.さらに,各種サーベイからみても,グルコース測定時におけるフィールド(日常一般)法の施設間差は大きいのが現状であり,酵素電極法による測定の正確さの基準となるグルコース標準血清が必要とされていた.

 血清グルコース濃度はAmerican Association of Clinical Chemistry(アメリカ臨床化学会;AACC)の勧告法(レファレンス法)に準じたグルコース測定勧告法が,日本臨床化学会試薬専門委員会から出されている.本勧告法はヘキソキナーゼ(HK)/G-6-PD除蛋白法により測定する.HK/G-6-PD法はHKとG-6-PDの連続反応がグルコースに特異的で,正確にグルコースを定量することができる.

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 人体に対して毒性の強い鉛(Pb),カドミウム(Cd),セレン(Se)を含む物質を取り扱う作業者の健康管理をするうえで,各々の元素の血液中の濃度測定が必須となっている.測定は主にフレームレス原子吸光分析装置によってなされているが,血液中のマトリックスによる妨害の程度が測定条件(灰化・原子化温度,キュベットの形状・材質・劣化,マトリックスモディファイヤーの種類・濃度,バックグラウンドの補正方法など)の影響を受けやすいことから,測定値の機器間差,日間差および正確さの問題が生じており,標準試料の必要性が高まっていた.

 標準試料の原料としては取り扱いが容易で安全性が高く,ヒトに類似した成分組成を有するウシ血液が適している.外部からの汚染がないように注意深く採取されたウシ血液に適量のPb,Cd,Seを添加し3濃度に調製された標準試料は,清浄なポリプロピレンチューブに封入後,-20℃以下で冷凍保存されている.

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 血清中の酵素活性を測定するときの基準は,学会が勧告している測定方法である.この測定方法の性能つまり正確さを伝えていく道具として酵素の標準物質が設定されうる.これを酵素標準物質(enzyme reference material;ERM)あるいは酵素標準標品といっている.

 ERMの種類と特性を挙げると表1のごとくなる.酵素の性状と表示値の付けかたから順に一次,二次,三次(常用)の3種類に分けられる.このうち一次は精製標品,二次は組成標品である.その例を表2,3に示した.

免疫標準品 桑 克彦 , 梅本 雅夫
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 蛋白ホルモン,ワクチンをはじめ抗原抗体反応に用いられる免疫血清学的診断用の基準となるものが生物学的標準品(biological standard)といい,特に免疫反応用の診断試薬に用いられるものが免疫標準品である.

 これはまずWHOにより国際標準品が専門家集団により原基的に決められ,これが各国の指定機関に配布され,各国はこれを基に国内標準品を規格制定する.代表的な国際標準品の例を表1に,国内標準品の例を表2に示した.

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 エリスロポエチン(Epo)は赤血球系の造血因子として注目されてきたが,わが国でも最近製剤化され腎不全時の貧血に使用されている.われわれも腎不全で透析療法を含む種々の治療を受けながら,貧血高度なることが認められ,Epo大量投与でみるべき効果のあった例を経験している.

 そのうちの2例についてそれぞれのEpo大量投与(毎週または隔週6,000,1ないし2万単位静注)の臨床検査値に及ぼす効果について述べたい.

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 インターロイキン2(interleukin 2:IL-2)は1976年,ヒト末梢血リンパ球のPHAによる刺激培養上清中にT cell growth factorとして見いだされたもので,thymocyte mitogenic factor,killer cell helper factorなどとも呼ばれていたが,1979年に国際リンフォカイン・ワークショップにおいてIL-2という名称に統一された.1980年代初頭にはそのcDNA,およびIL-2受容体が単離され,現在では遺伝子組換え型IL-2製剤が注射用の剤形で発売されている.

 IL-2は周知のごとく活性化されたT細胞によって産生分泌されるが,T細胞自身に対してautocrine的に作用し,その活性化,増殖を誘導するほか,B細胞,large granular lymphocyte,macrophageなどのIL-2Rにも結合し,これらの細胞の活性化を誘導することが知られている.

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 granulocyte colony stimulating factor(G-CSF)は好中球前駆細胞に作用してその分化,増殖を促すばかりでなく,成熟好中球に対しても種々の機能を亢進させるサイトカインの一種である.現在では遺伝子組換えによりrecombinant human(rh)G-CSFが生産されて治療に供され,期待どおりの優れた効果を上げている.本剤は骨髄移植時の好中球数の増加促進,悪性リンパ腫,固形癌に対する化学療法に起因する好中球減少症,骨髄異形成症候群,再生不良性貧血に伴う好中球減少症,先天性,続発性好中球減少症に対し適応がある.つまり,本剤の目的とする効用は種々の原因により生ずる,あるいは生じている好中球減少の回復を促すことにある.本剤は注射薬として投与され,点滴静脈内投与,皮下投与が可能である.

 本剤投与により最も影響を受ける検査は,いうまでもなく白血球数と好中球数である.これは投与量,投与方法ならびに対象となる患者の骨髄の状態により反応のしかたは異なる.好中球造血の正常な人への本剤1回静脈内投与では4〜8時間で白血球数は最高に達する.最高好中球数は用量依存的に増加する.そして24〜48時間で前値に復する.連日投与をすれば白血球数,好中球数が高い値に維持されることはいうまでもない.

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 インターフェロン(interferon;IFN)は生体に対して広汎かつ強力に作用する物質であり,そのため,多くの検査結果に大きな影響を及ぼす.

 第1に血球の変化である.一般に白血球,特に好中球が減少すると記載されている.確かにIFN投与の24時間後ではそうである.しかし,これもIFN投与6〜9時間の時点でみれば好中球は増加しており,変化がないと思われているリンパ球は著明に減少している.白血球の総数は好中球とリンパ球の和にほぼ匹敵するため,増減は言明できない.この白血球の変化の原因は変動が非常に速やかなこと,骨髄の(無変化)所見から,体内分布の変化と考えるのが妥当であろう.

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 排卵誘発法としてのゴナドトロピン療法が初めて臨床応用されてからすでに20年以上の歳月が過ぎ,その無排卵症治療における臨床的有用性が実証されてきた.しかしその反面,多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群の発生がなお避けがたい副作用として残っている.これらの副作用の一部はhMG製剤そのものに問題があるために起こっていると考える臨床家も多い.そこで最近,従来のhMG製剤(FSH/LH比約1:1)に対して,LH活性のほとんどないFSH製剤が開発され,臨床応用が始まった.Serono社とOrganon社のFSH製剤である.Serono社のFSH製剤は純化されたものであり,すでに多数の報告がみられる.一方,Organon社のものはrecombinant FSH(rFSH)である.Serono社のFSH使用報告では75〜150IU/l投与で84%の排卵誘発効果が報告されている.また多胎および卵巣過剰刺激症候群の頻度は従来のhMG製剤より少ないとされている.一方,rFSH製剤を使った報告はまだ多くない.参考までにゴナドトロピン欠損症症例にOrganon社のrFSH 75〜150IU投与したときの血中FSH,LH,E2変動を図1,2に示しておく.

基本情報

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検査と技術
21巻5号 (1993年4月)
電子版ISSN:1882-1375 印刷版ISSN:0301-2611 医学書院

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