生体の科学 69巻5号 (2018年10月)

増大特集 タンパク質・核酸の分子修飾

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 ポストゲノム時代を迎えた約20年前,次世代の重要な研究課題の一つとして注目されたのが分子修飾でした。ヒトをはじめ多くの生物種で全ゲノム配列が決定され,その調節機構としてDNAやヒストンの修飾によるエピゲノム制御が大きな研究領域として脚光を浴び,更に新たなRNAの分子形態や分子修飾が同定されて遺伝子機能の理解が大きく発展しました。一方では,質量分析法の開発と応用によってプロテオミクス研究もまた新たな一領域を形成し,タンパク質修飾の様々なパターンや機能,疾患との関連などが次々と明らかになっていくと共に,X線結晶構造解析やNMR分光法によって,タンパク質機能における分子修飾の意義について,構造面からどんどん理解が深まっていきました。最近では,昨年のノーベル化学賞の受賞対象となったクライオ電子顕微鏡の急速な開発によって,更に複雑な生体高分子複合体の高次構造がどのように様々な生命現象の物質的基盤となっているのか,今までには予想もできなかったレベルで明らかになりつつあります。更には,次々に開発される可視化技術や分子操作法によって細胞内外での分子修飾の動態や機能が詳細に解析され,分子修飾研究は多くの研究領域と広いつながりを見せています。

 こうしたなかで,多くの新しい分子修飾が生物学的な役割と共に同定され,更には古典的な分子修飾についてもこれまで知られていなかった機能や生物学的意義といった新しい側面に光が当てられてきました。本特集は,ポストゲノムの幕開け前後からのタンパク質・核酸の分子修飾に対する知識体系の蓄積を1冊にまとめようという意図で企画しました。それぞれの分子修飾について直接ご研究されている方,造詣の深い方々に執筆していただきましたが,なかにはまとめにくい項目も少なくなかったにもかかわらず,著者の皆様のご尽力のおかげで大変充実した内容になりました。編集委員一同,心より感謝申し上げます。

Ⅰ.細胞核での分子修飾 DNA

メチル化 牛島 俊和 , 竹島 秀幸
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 DNAメチル化は代表的なエピジェネティック修飾であり,発生・分化を制御する。体細胞分裂時にはDNAメチル化状態は維持される一方,発生過程などでは,新たなDNAメチル化や受動的および能動的な脱メチル化が起こる。遺伝子プロモーター領域CpGアイランドのDNAメチル化は,ヌクレオソームの配置や構造の変化を通じて遺伝子発現を強力に抑制する。DNAメチル化異常はがんの原因となり,その他の疾患との関連も示されている。

ヒドロキシメチル化 中村 肇伸
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 DNAのヒドロキシルメチル化は,メチル化シトシンが水酸化されることにより生じる。ヒドロキシメチル化シトシンは,様々な細胞や組織中のゲノムに存在するが,脳,着床前初期胚,および胚性幹細胞に多量に含まれ,メチル化シトシンが脱メチル化される際の中間体として機能し,遺伝子の発現制御に重要な役割を果たす。

脱アミノ化 若江 亨祥 , 村松 正道
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 APOBECファミリーは,デアミナーゼ活性によりDNAのシトシンをウラシルに変換する酵素群である。AIDは遺伝情報を改変することでリンパ球の多様性を生み出す一方,APOBEC3はウイルスの遺伝情報を破壊し,抗ウイルス分子として機能する。一方で,AIDやAPOBECの病的な発現は発がんにつながるという面もあり,本稿ではAID/APOBECによるDNA変異活性により制御される多様な生命現象について概説する。

Ⅰ.細胞核での分子修飾 RNA

メチル化 Jean-Michel Fustin , 岡村 均
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 RNAのメチル化修飾のなかでmRNAに関しては,長らく解明されていなかった。最近,3’-UTRや長いエクソンでのN6-メチルアデノシン(m6A)がmRNAのメチル化修飾として注目されている。m6Aは発生期に働くのみならず,成体においても生理学的な意味を持ち,概日リズムの周期の決定に重要な働きをする。

シュードウリジン化 北川 翔 , 鈴木 勉
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 シュードウリジン(Ψ)は,ウリジンが異性体化された構造を持つRNA修飾で,様々なノンコーディングRNA(ncRNA)やmRNAに広く存在することから,しばしば第5の塩基とも呼ばれる。ΨはRNA鎖のリン酸ジエステル骨格の安定化や,塩基対合を強化する役割が知られている。Ψ修飾酵素の変異はしばしばRNAの機能異常を引き起こし,X染色体連鎖先天性角化不全症(X-DC)や,鉄芽球性貧血を伴うミトコンドリアミオパチー(MLASA)などの疾患の原因となる。

脱アミノ化 Muchtar Amrizal , 飯笹 久
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 RNA脱アミノ化酵素は,加水分解的脱アミノ化反応によりRNA中の核酸を別の核酸へと変換する。アデノシンを基質としイノシンへと変換する酵素と,シトシンを基質とし,ウラシルへと変換する酵素がある。これら酵素は,DNA変異なしに,RNAにのみ変異を挿入している。

チオ化 鴫 直樹
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 RNA塩基のチオ化修飾は,tRNAのアンチコドン周辺を中心に全生物にみられる。チオ化修飾は,①正確なコドン認識や,②tRNAの立体構造の安定化などに寄与し,正確で効率的なタンパク質合成を支えるという重要な役割を果たしている。その存在は1960年代から知られていたが,近年では複雑な生合成酵素群の同定,ゲノムワイドな機能解析などにより急速にその生体内での機能の理解が深まっている。

ヒドロキシル化 鈴木 健夫 , 鈴木 勉
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 RNA修飾のなかにはヒドロキシル化(水酸化)された修飾体が存在する。また,RNAの脱メチル化は,メチル基への水酸化反応がかかわる。tRNAのアンチコドンに導入される水酸化修飾は,正確なコドン認識に重要な役割を担う。RNAの水酸化および脱メチル化は,Fe(Ⅱ)/2-オキソグルタル酸(2OG)依存オキシゲナーゼに分類される酵素が触媒する。

Ⅰ.細胞核での分子修飾 ヒストン/核内タンパク質

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 細胞核内における分子修飾のなかで,最も古くから研究がなされているものの一つはヒストンタンパク質のアセチル化修飾である。ヒストンアセチル化は“書き手”である酵素によって導入され,アセチル化を認識するタンパク質“読み手”を介して様々な複合体をリクルートすることで主に転写活性化に関与する。また,非ヒストンタンパク質のアセチル化はタンパク質の活性や結合に関与し,細胞内のシグナル伝達に重要な役割を果たす。

脱アセチル化 中山 潤一
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 ヒストンのリシン残基へのアセチル化は,一群の脱アセチル化酵素の作用によって取り除かれる。脱アセチル化酵素は反応の特徴から大きく2種類に分けられ,更に構造的な特徴から4つのクラスに分類される。脱アセチル化は,ヒストンの電荷を変化させ,クロマチンの構造の変化をもたらし,転写の抑制につながる。ヒストンのアセチル化制御の異常は,がん,神経疾患など,様々な疾患と関連していることが明らかにされ,脱アセチル化酵素の阻害剤の開発が精力的に進められている。

メチル化 前田 亮 , 立花 誠
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 ヒストンを含む細胞内タンパク質のメチル化は,主にリシン残基とアルギニン残基に修飾される。ヒトのタンパク質に含まれるリシンまたはアルギニン残基のうち,およそ4,000個の残基がメチル化修飾を受けるとされている。リシン残基のメチル化は,S-アデノシルメチオニン(SAM)を用いることで,リシン特異的なメチル基転移酵素(PKMTs)によりモノ,ジ,トリの3種類の修飾がなされる。アルギニン残基のメチル化は,SAM依存的にモノ,ジメチル化(ジメチル化のなかに,1つの窒素原子に触媒される非対称的性ジメチル化と,2つの窒素原子に触媒される対称的性ジメチル化が存在する)の修飾がなされる。これらのメチル化は,発生特異的に一時期に施されるものから,細胞の代謝を維持するものまで,細胞内活動に幅広く関与している。

脱メチル化 岡下 修己 , 立花 誠
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 ヒストンや核内タンパク質の脱メチル化は,主にリシン残基とアルギニン残基〔リシン残基はモノ・ジ・トリメチル化を受け,アルギニン残基はモノ・ジ(対称性または非対称性)メチル化を受ける〕に起こる。脱メチル化酵素により反応様式は様々であるが,メチル化修飾の制御を介して遺伝子の発現調節やタンパク質の機能調節に深くかかわっている。

モノユビキチン化 立石 智
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 モノユビキチン化とは,基質タンパク質に1つのユビキチン(Ub)タンパク質が共有結合により付加される翻訳後修飾である。モノユビキチン化されたタンパク質はアダプタータンパク質と呼ばれるタンパク質により特異的に認識され,細胞内の別の部位へ運搬されることにより,エンドサイトーシス,DNA修復,損傷乗り越え複製,転写調節,シグナル伝達など様々な機能に関与している。

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 ヒストンタンパク質のリン酸化は,様々な種類のヒストンタンパク質で可逆的に制御されている(表)。とりわけヒストンH2A,H2B,H3,H4のコアヒストンでは,主にアミノ末端やカルボキシル末端のテール部分に観察される。①細胞周期の進行やDNA損傷,あるいは炎症反応などの外界からの刺激に応答した多様なタンパク質のクロマチンへの局在制御や,②遺伝子の転写制御に重要な役割を果たしている。

シトルリン化 有田 恭平
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 ヒストンタンパク質中のアルギニン残基は,ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)によってシトルリン残基に変換される。シトルリン化はアルギニン残基の正電荷を消失させ,クロマチンの高次構造の変化を起こし,遺伝子発現を制御する翻訳後修飾である。また,PADは非ヒストンタンパク質もシトルリン化し,遺伝子発現を制御する。

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 ADP-リボシル化は,NADをADP-リボシル基供与体として行われるタンパク質の翻訳後修飾である。転移されるADP-リボシル基が1個だけのモノADP-リボシル化と,複数個が順次転移・重合されるポリ(ADP-リボシル)化がある。前者は病原微生物の発症要因として,後者は損傷したゲノムDNAの修復に重要である。

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 ヒストンのO-グリコシル化(O-GlcNAc修飾)は“代謝とエピゲノム”を結ぶ新たな経路として注目される。細胞内に取り込まれたグルコースの数%がヘキソサミン合成経路によりUDP-GlcNAc(GlcNAc供与体)となり,ヒストンのセリン(Ser)あるいはスレオニン(Thr)残基にβ-N-アセチルグルコサミンが付加される。これまでに16種類のヒストンのO-GlcNAc修飾が報告されており,転写制御以外にもゲノム修復など様々な機能にかかわっている。

アシル化 川島 茂裕
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 近年の質量分析技術の発展により,タンパク質のリジン残基は,アセチル化だけではなく,ブチリル化,マロニル化,3-ヒドロキシブチリル化などの様々な種類のアシル化修飾を受けることが明らかになった。本稿では,ヒストンのアシル化の機能や制御について,最新の研究で明らかになった知見をまとめて紹介する。

Ⅱ.細胞質/オルガネラでの分子修飾 タンパク質合成

ホルミル化 富田(竹内) 野乃
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 バクテリアと真核細胞のオルガネラにおけるタンパク質合成は,ホルミルメチオニンで開始される。開始メチオニルtRNAがホルミル化を受けてN-ホルミルメチオニルtRNAになると,翻訳開始因子2によって翻訳開始反応に効率的に利用されるようになる。ホルミルメチオニンはバクテリアのタンパク質のみに含まれるため,哺乳類の自然免疫系でも利用されている。ホルミルペプチドは,免疫系細胞の様々な生体防御反応を引き起こす。

ジフタミド修飾 小池 雅昭
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 ジフタミド修飾はペプチド鎖伸長因子eEF2にのみ同定されており,かつ,すべての真核生物で保存されている翻訳後修飾である。ジフタミド修飾はeEF2のペプチド鎖伸長活性に関与することが示唆されているが,詳細な分子機構,またその生理的意義はいまだ未解明である。

ハイプシン化 松山 晃久 , 吉田 稔
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 ハイプシン化は今から40年以上前に発見された,eIF5Aタンパク質にのみ起こる極めてユニークな翻訳後修飾である。この修飾はeIF5Aの機能にとって必須であることから,ハイプシン化の機能はeIF5Aの機能とは切っても切り離せない関係にある。近年,eIF5Aは,リボソームだけでは翻訳しづらい特定のアミノ酸配列に対して,翻訳を促進する役割を持つことが明らかになってきている。

Ⅱ.細胞質/オルガネラでの分子修飾 細胞内シグナル

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 タンパク質のセリン/スレオニンのリン酸化は,全タンパク質の30%以上において観察される。①タンパク質リン酸化による三次構造変化,特にリン酸化酵素の活性化や②リン酸化ペプチドを介するタンパク質間相互作用の誘導がその重要な機能である。

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 タンパク質のチロシン残基における可逆的なリン酸化は,細胞の増殖,分化,接着や免疫反応などにおけるシグナル伝達に関与する。チロシンリン酸化酵素自身におけるチロシンリン酸化は,酵素活性や細胞内局在,アダプタータンパク質との結合に変化をもたらし,基質のチロシンリン酸化を介してシグナル伝達を調節する。

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 ERK(extracellular signal-regulated kinase)MAP(mitogen-activated protein)キナーゼカスケードは,増殖因子やサイトカインの受容体,Gタンパク質共役型受容体などの下流で活性化し,細胞の増殖や分化,移動など,様々な細胞機能を制御するシグナル伝達経路である。近年の研究により,個々の細胞内におけるERK活性の経時的測定が可能となり,ERK活性の複雑な動態とその生理的意義があらためて注目されている。

リン酸化(ヒスチジン) 饗場 浩文
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 ヒスチジンのリン酸化は細胞内情報伝達にかかわる2成分制御系(His-Aspリン酸リレー系とも呼ばれる)に関与する。反応をつかさどるヒスチジンキナーゼは,各種シグナルのセンサーとして機能し,刺激に応答して自身のヒスチジンをリン酸化する。その後リン酸基が,ヒスチジンから各種細胞応答にかかわるレスポンスレギュレーターのアスパラギン酸へと転移されることによって情報が伝えられる1)

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 タンパク質のセリン/スレオニン残基の脱リン酸化は,キナーゼに比べはるかに種類の少ない酵素群によって触媒される。多様な機能に必要な基質特異性や活性調節は,多くの調節サブユニットとの結合によって実現されている。

脱リン酸化(チロシン) 畠山 昌則
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 チロシン残基の可逆的リン酸化は,増殖,接着,運動,分化といった基本的な細胞機能の制御に深くかかわるシグナル伝達を担う重要な生化学的修飾である。タンパク質のチロシンリン酸化レベルは,細胞内におけるタンパク質チロシンリン酸化酵素(チロシンキナーゼ;PTK)とタンパク質チロシン脱リン酸化酵素(チロシンホスファターゼ;PTP)の相対的な力関係により決定され,チロシン脱リン酸化酵素の質的・量的異常は悪性腫瘍に加え,発生異常,代謝異常,免疫病など多彩な疾患発症に深くかかわる。

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 ヒトでは全タンパク質の80%以上が,N末端のアミノ酸にアセチル基を付加される。N末端アセチル化はタンパク質の安定性,局在,相互作用など,多様な機能制御に関与している。

Ⅱ.細胞質/オルガネラでの分子修飾 酸化還元状態

ヒドロキシル化 田久保 圭誉
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 タンパク質を構成するアミノ酸のヒドロキシル化(水酸化)は,プロリンやアスパラギン・アスパラギン酸,リジンで認められ,コラーゲンや低酸素センサーHIF-αのタンパク質の安定性や機能調節にかかわることが知られている。これらのアミノ酸の水酸化は,2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼによって調節されている。

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 タンパク質のS-グルタチオニル化は,特定のシステインチオールとグルタチオン分子内のチオールとのジスルフィド結合(-S-S-)による。①システインチオールの不可逆的な酸化修飾からの保護や②酸化還元による構造機能変化がその重要な機能である。

S-ニトロシル化 平岡 秀樹 , 上原 孝
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 生体内ガス状シグナル分子である一酸化窒素(NO)は,タンパク質の特定のシステイン(Cys)残基チオール(SH)と結合し,その機能変化を惹起することが知られている。本稿では,その酸化修飾(S-ニトロシル化)による影響と病態形成との関連について紹介する。

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 ポリスルフィド化は,翻訳時にシステインポリスルフィドが“22番目のアミノ酸”として,システインの代わりに利用されることで定常的に形成している。翻訳後修飾とは異なる概念であり,抗酸化・レドックスシグナル,エネルギー代謝,タンパク質の品質と機能(酵素活性や安定性など)の制御に重要な役割を果たしている。

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 タンパク質システインのチオール(-SH)基は活性酸素種によって,スルフェン酸(-SOH)をはじめとする様々な酸化修飾を受けることが知られている。一方,システイン残基の多くが一般的なチオール基でなく,過剰にイオウ原子が結合したポリスルフィド基(-SSnH)であることが明らかになっており,これまで考えられていた以上に,システイン残基の酸化修飾の多様性と重要性が増している。本稿では,ポリスルフィド基の概念を加えた新たなシステイン残基の酸化修飾について概説する。

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 タンパク質のニトロ化は,活性酸化窒素種であるペルオキシナイトライト(ONOO)によるチロシンのニトロ化修飾が知られている。S-グアニル化は,ONOOによりニトロ化された8-ニトロ-GTPが環状化した8-ニトロ-cGMPが,タンパク質システイン残基に求核置換されるcGMP付加反応である。いずれも標的タンパク質の機能調節に関与しており,酸化ストレス,レドックスシグナリングにかかわるタンパク質翻訳後修飾である。

カルボニル化 戸田 年総
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 タンパク質のカルボニル化は非酵素的に起こる不可逆的(修復不能)な酸化修飾であり,その反応には,生体内でのエネルギー代謝に伴って必然的に発生する活性酸素がかかわっている。タンパク質のカルボニル化は生体にとって有害な反応であり,立体構造や生理活性に悪影響を及ぼす。老化や生活習慣病の原因物質の一つと考えられており,それらのバイオマーカーとしても注目されている。

Ⅱ.細胞質/オルガネラでの分子修飾 タンパク質機能・品質管理

ユビキチン修飾 村田 茂穂
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 ユビキチン修飾はモノユビキチン化,8種類のポリユビキチン鎖,混合鎖,分岐鎖,ユビキチン自体の翻訳後修飾など膨大な多様性を持ち,ユビキチンコードと呼ばれる。ユビキチンコードはユビキチン結合分子によりデコードされ,多彩な機能発現を仲介する。

ユビキチンリン酸化 松田 憲之
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 PINK1PARKINは共に遺伝性劣性(潜性)パーキンソン病の原因遺伝子である。ミトコンドリアの膜電位が低下すると,PINK1(キナーゼ)がユビキチンをリン酸化し,そのリン酸化ユビキチンがParkin(ユビキチン連結酵素)を異常ミトコンドリアにリクルートすると共に活性化することで,損傷ミトコンドリアをユビキチン化して分解に導く。つまり,PINK1とParkinはリン酸化ユビキチンを介してミトコンドリア品質管理を行っており,その破綻によって遺伝性パーキンソン病が発症する。

SUMO化 斉藤 寿仁
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 SUMOは,酵母からヒトまで広く真核生物に保存されている約100アミノ酸から成るユビキチン類似タンパク質で,基質となるタンパク質をSUMO化あるいはポリSUMO化して,①液体相分離によるドロップレット形成を誘導したり,②局在・安定性制御などの品質管理を行ったりする。高等動物にはSUMO-1/2/3/4の4つのサブファミリーが存在して,ヒト細胞内では1,000種以上のタンパク質が修飾を受けている。

NEDD化 加藤 裕紀 , 西頭 英起
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 ユビキチン様タンパク質NEDD8による翻訳後修飾NEDD化は,標的タンパク質の安定化,活性化,局在化などに関与する。加えて,近年NEDD化修飾は,転写,細胞周期制御,クロマチン構成,ストレス顆粒形成などにも重要な役割を果たしている。本稿では,NEDD8修飾システムおよびその機能,がんとの関連性を概説する。

ISG15修飾 奥村 文彦
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 ISG15は,主にⅠ型インターフェロンにより発現誘導されるユビキチン様タンパク質である。ISG15修飾はユビキチン修飾と同様にE1,E2,E3の3種類の酵素により触媒される。ISG15修飾は特に自然免疫応答に重要であると考えられており,これまでに様々なタンパク質がISG15修飾を受け,多様な生命現象を制御していることが明らかとなっている。

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 タンパク質はアミノ酸同士のペプチド結合が連なることにより形成されているが,グリシンを除くアミノ酸は不斉炭素を持っているため,ペプチド結合は理論上,シス体とトランス体の両方をとることができる。しかし,通常はエネルギー的に安定なトランス体をとっており,シス体はほとんどみられない。例外的に,プロリンとそのN末側のアミノ酸間のペプチド結合は,シス体とトランス体の両方が存在する。

 プロリン異性化酵素は,プロリンのシス-トランス異性化を触媒することで細胞内の様々な機能を調整している酵素であり,多くの病態との関連も指摘されている。

スクシニル化 古園 さおり
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 タンパク質のリジン残基に起こるスクシニル化は,アセチル化に次いで多くみられるアシル化修飾である。真核生物ではミトコンドリアタンパク質に多くみられ,細菌にも存在する。生体内で正電荷を持つリジン残基に負電荷を導入することから,タンパク質のコンホメーションや相互作用に与える影響はアセチル化よりも大きいと考えられる。

マロニル化 西田 友哉
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 タンパク質リシン残基のマロニル化は,2011年に初めてその存在が報告された。同年,哺乳類サーチュインホモログであるSIRT5が脱マロニル化活性を有することも明らかとなった。その生物学的意義に関しては未解明の点が多いが,ヒストン修飾を介したエピジネティック制御の一部に関与していること,多くの糖・脂質代謝素がマロニル化修飾を受け,その活性調節に関与していることなどが報告されている。ヒトの疾患との直接的な関係についてはいまだ報告されていないが,糖尿病モデルマウスでの検討から糖代謝異常との関連が示唆されている。

アルギニル化 黒坂 哲
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 アルギニル化は,アルギニン転移酵素の働きにより,アルギニンが付加する翻訳後修飾である。アルギニル化の機能の本格的な研究が進んできたのは2000年代になってからであり,近年,この翻訳後修飾が様々な機能を持つことが明らかとなってきた。

アデニリル化 澤 嘉弘
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 タンパク質のアデニリル化は,1967年にStadtmanらが,大腸菌で窒素条件の変化に応答してグルタミン合成酵素(GS)にAMPを転移し,修飾GSの触媒活性が低下することを観察したのが最初1)であるが,40年後の2009年,2010年にFIC(filamentation induced by cyclic AMP)ドメインによる2種類の低分子量GTPase(RhoおよびRabタンパク質)のAMP化の発見により,この翻訳後修飾が広範囲に及ぶ可能性が急速に高まってきた2,3)

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 タンパク質,特に生理活性ペプチドには,N末端残基に様々な翻訳後修飾が認められる。グルタミン酸またはグルタミンから始まるペプチドは,酵素学的・非酵素学的にピログルタミル化される。ピログルタミル化ペプチドは,植物から動物まで様々な種に存在している。ピログルタミル化により,生体内半減期が増長し様々な生理作用を発揮する一方,疾患の引き金になることも示唆されており,その生理的・病理的意義が議論されている。

Ⅱ.細胞質/オルガネラでの分子修飾 微小管

チロシン化,脱チロシン化 小西 慶幸
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 αチューブリンのカルボキシ末端のアミノ酸はチロシンがコードされているが,脱チロシン化によるチロシン残基の除去とチロシン化による再付加のサイクルが存在する。この修飾の違いは,微小管結合タンパク質との相互作用に影響を与える。

グルタミン酸付加 池上 浩司
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 タンパク質に対するグルタミン酸付加は,安定な微小管で特によく観察される。付加されるグルタミン酸の数は1-30個程度で,組織や細胞の種類,細胞内の部位によって異なる。グルタミン酸の付加数に応じて,微小管とMAPsやモーター分子との相互作用が変化し,微小管の構造や機能がチューニングされる。グルタミン酸付加数がそれぞれの組織や細胞の持つ適正レンジから大きく外れると,微小管や細胞に障害が出る。

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 タンパク質に対する脱グルタミン酸化とは,基質タンパク質に付加されたグルタミン酸側鎖の短縮とC末端のグルタミン残基の除去から成り,脱グルタミン酸化はCCP(細胞質カルボキシペプチダーゼ)によって行われる。前者はグルタミン酸化と脱グルタミン酸化のバランスによってグルタミン酸側鎖の鎖長を調整する可逆的反応で,基質タンパク質と他のタンパク質との相互作用を調節していると考えられている。後者はαチューブリンに対してΔ2,Δ3チューブリンが生じる不可逆的反応であり,神経の発生分化や微小管の安定性とメンテナンスに関係すると考えられている。

グリシン付加 池上 浩司
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 タンパク質に対するグリシン付加は,もっぱら線毛や鞭毛の軸糸を構成するチューブリンで観察される。付加されるグリシンの数は1-30個程度で,組織や細胞の種類,線毛や鞭毛の部位によって異なる。修飾部位がグルタミン酸付加部位と隣接する,あるいは修飾部位を共有するため,グルタミン酸付加を競合阻害する効果を持つ。ヒトでは遺伝子変異によって修飾酵素が失活しているため,多数のグリシンが付加されるポリグリシン化が存在しない。

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 微小管のアセチル化は微小管の内腔面に位置するα-チューブリンのLys-40に生じる。アセチル化酵素としてATAT1,脱アセチル化酵素としてHDAC6とSIRT2が同定されている。アセチル化は細胞内の安定で長命な微小管にみられる。最近の研究では,アセチル化はプロトフィラメント間の結合を弱めて微小管の柔軟性を高め,機械的ストレスによる屈曲に対して微小管を保護する役割を持つことが示されている。

Ⅱ.細胞質/オルガネラでの分子修飾 アクチン

翻訳後修飾 黒坂 哲
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 アクチンのN末端修飾としてはアセチル化がよく知られているが,アルギニル化も同様にN末端修飾であり,アセチル化と競合していると考えられている。最近の研究では,アクチンの翻訳後修飾および機能の制御にはその塩基配列が大きくかかわっていることが示唆されている。

Ⅲ.細胞膜での分子修飾 膜局在

ミリストイル化 内海 俊彦
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 ミリストイル化(N-ミリストイル化)は,真核生物およびウイルス由来のタンパク質のN末端グリシン残基のα-アミノ基に,炭素数14の飽和脂肪酸であるミリスチン酸がアミド結合により共有結合するタンパク質の脂質修飾である。主として細胞質タンパク質に生じ,細胞膜やオルガネラ膜との結合を介して,細胞情報伝達,タンパク質輸送,オルガネラ形成といった多様な細胞の機能を制御すると共に,アポトーシスやオートファジーの機構にも深く関与している。

パルミトイル化 木原 章雄
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 タンパク質のシステイン残基のアシル化(S-アシル化)は,アシル基としてパルミトイル基がよくみられることから一般的にパルミトイル化と呼ばれる。パルミトイル化はタンパク質の疎水性を上昇させ,膜局在,脂質マイクロドメイン局在,安定性,活性などに影響を与える。パルミトイル化を触媒するプロテインS-アシルトランスフェラーゼ(PAT)としてヒトには23種類のZDHHC/DHHCタンパク質が存在する。

イソプレニル化 岡田 正弘
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 タンパク質のイソプレニル化とは,一般にシステイン残基へのファルネシル基またはゲラニルゲラニル基の付加であり,脂溶性のイソプレニル基が付加することで細胞膜に局在できるようになる。真核生物に普遍的に存在するタンパク質の機能発現に必須な翻訳後修飾であり,また,Rasタンパク質の異常イソプレニル化は様々ながんに高頻度にみられるため,抗がん剤の標的としても注目されている。

Ⅲ.細胞膜での分子修飾 膜タンパク質

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 GPIアンカーはタンパク質のカルボキシ(C)末端に共有結合し,タンパク質を細胞膜につなぎ止める糖脂質で,ホスファチジルイノシトール(PI),グルコサミン(GlcN),3分子のマンノース(Man),エタノールアミンリン酸(EtNP)から成る。グルコサミンがN-アセチル化されていないことがGPIの特徴で哺乳細胞の糖鎖のなかで唯一の構造である。GPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)は哺乳細胞では約150種知られており,酵素,受容体,接着因子,補体制御因子など個体発生や神経発達,免疫機能,受精などにおいて重要な働きを担っている。

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 リボソームによって翻訳されたタンパク質の多くは翻訳後,翻訳時修飾によって糖鎖付加を受ける1)。アスパラギンに結合した糖鎖は,アスパラギン(N-)結合型糖鎖と呼ばれ,ペプチド鎖が生合成される際に付加される。この糖鎖は,高マンノース型,混合型,複合型の3つに分類され,小胞体内での糖タンパク質の品質管理や細胞膜上・血中での糖タンパク質の機能発現に関与している。本稿ではN-結合型糖鎖の特徴や影響について述べる。

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 O-結合型グリコシル化は,タンパク質中のセリン(Ser),スレオニン(Thr)残基の側鎖水酸基に対して種々の糖(鎖)が結合する翻訳後修飾を指す。結合する糖の構造は多様であるため,O-結合型グリコシル化としての統一的な機能の定義はない。しかし近年,O-グリコシル化した糖の構造に依存した機能と,病気との関連性の解明が進んできた。そこで本稿では,最も基本的なO-結合型グリコシル化である,N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)化,フコース(Fuc)化,マンノース(Man)化,N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)化について,その化学的特徴と機能を概説する。

C-マンノシル化 井原 義人
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 C-マンノシル(C-Man)化は分泌膜タンパク質中のトリプトファン(Trp)に対する単糖付加修飾であり,近年C-マンノース転移酵素遺伝子が同定された。C-Man化はタンパク質の生合成や折りたたみ,タンパク質機能発現において重要な役割を持つことが示唆されている。一方,血液や尿中には遊離のC-Man-Trpが検出され,その臨床的意義も注目されている。

ポリシアル酸化 佐藤 ちひろ , 北島 健
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 ポリシアル酸化は神経細胞接着分子(NCAM)など特定のタンパク質に対して起こる。ポリシアル酸化NCAMにはNCAMの接着機能を阻害する反接着作用と共に,種々の神経作用因子と結合して作用調節する分子保持機能があり,正常な脳の発達・機能を促す一方,その破綻はがんや精神疾患の発症につながる。

Ⅳ.細胞外での分子修飾 分泌タンパク質

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 C末端アミド化は生理活性ペプチドに特徴的な翻訳後修飾で,生理活性ペプチドの半数にこの修飾が認められる。ペプチジルグリシンα-アミド化モノオキシゲナーゼが反応をつかさどり,脊椎動物では単一の遺伝子によってコードされている。C末端アミド化は,生理活性ペプチドが機能を発揮するために受容体と相互作用するのに必要であり,またプロテアーゼによる分解からの保護などにも役立っていると考えられている。

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 グレリンは胃から分泌されるペプチドホルモンで,その生理活性には3番目のセリン残基へのオクタン酸修飾が必須である。グレリンのオクタン酸修飾を触媒する酵素として,グレリンO-アシル・トランスフェラーゼが同定されている。オクタン酸修飾されたグレリンは,グレリン受容体に作用することで,成長ホルモンの分泌促進,摂食亢進および体温調節など多彩な生理作用を示す。

γカルボキシル化 東 浩太郎 , 井上 聡
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 γカルボキシル化反応は,基質タンパク質のグルタミン酸残基におけるγ位の炭素原子に更にもう1つのカルボキシル基を転移させる反応であり,γ-グルタミルカルボキシラーゼ(GGCX)により触媒される。この修飾を受けるタンパク質は生体内で18種ほど知られており,活性の変化を生じるタンパク質も知られている。臨床的には,ワルファリンの作用やucOC,PIVKA-Ⅱなどのバイオマーカーと深くかかわっている。

チロシン硫酸化 角田 佳充
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 タンパク質のチロシン残基の硫酸化は,全タンパク質の10%程度で行われていることが示唆されている。①タンパク質間相互作用の制御,②タンパク質の三次構造変化により,様々な反応が制御される。

脱ヨード化 村上 正巳
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 甲状腺から分泌される主なホルモンはthyroxine(T4)であるが,標的遺伝子の転写調節を行うためには,脱ヨード化によって活性型ホルモンである3,5,3’-triiodothyronine(T3)に変換される必要がある。1型,2型,3型の3種類のヨードサイロニン脱ヨード酵素による脱ヨード化が甲状腺ホルモンの作用発現と調節機構に深くかかわっている。

Ⅳ.細胞外での分子修飾 細胞外基質/その他

ヒドロキシル化 多賀 祐喜
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 プロリンおよびリジンのヒドロキシル化は,コラーゲン配列に特異的な翻訳後修飾である。修飾産物であるヒドロキシプロリン,ヒドロキシリジンはそれぞれコラーゲンの安定性やコラーゲン架橋の形成などに大きく関与しており,修飾酵素の異常によって重篤な疾患を発症することからも,生体にとって必須の反応であると言える。

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 生体内では還元糖,脂質,アルコールに由来するアルデヒド基含有化合物がタンパク質のアミノ酸残基と非酵素的に反応し,カルボルニル修飾タンパク質や糖化最終生成物(AGEs)が生成される。これらの修飾タンパク質は組織沈着,スカベンジャー受容体を介して細胞内へ移行,RAGEを介して炎症性サイトカイン産生を起こす。一連の反応およびその結果は糖化ストレスと呼ばれ,老化関連疾患の進展に関与する。

カルバモイル化 猪阪 善隆
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 カルバモイル化は,イソシアン酸とタンパク質またはアミノ酸の官能基の間の非酵素反応により生じる,タンパク質の翻訳後修飾である。この反応を示す用語としてカルバミル化も用いられるが,前者がInternational Union of Pure and Applied Chemistryによって推奨されている用語に対し,後者は医学・生化学論文で一般的に用いられている用語である。

シトルリン化 佐藤 衛
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 シトルリン化はタンパク質のアルギニン残基が脱イミノ化されてシトルリン残基に変換される分子修飾である。シトルリン化は皮膚や神経系などにおいて重要な生理的な役割を担っている一方で,ターゲット分子との相互作用が変化して疾患の原因ともなる。また,シトルリンは生合成の過程でタンパク質中に取り込まれないため,分子表面のシトルリン残基は異物として認識され,自己抗体が産生されて関節リウマチなどの自己免疫疾患の原因にもなる。

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目次

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基本情報

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生体の科学
69巻5号 (2018年10月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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