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上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;EGFR)は,最も歴史を有するサイトカイン受容体の一つで,その発見は1975年にさかのぼる。1984年にcDNAクローニングされ,受容体型チロシンキナーゼであることが判明している。この受容体はトリ赤芽球症ウイルスのがん遺伝子v-erbBのホモログであることから,erbBの遺伝子名がついた。一方,1985年にはこの受容体の類縁分子もクローニングされ,human EGFR-related 2(HER2)と名付けられた。この遺伝子はラットの神経芽腫neuroblastoma細胞株から見つかったがん遺伝子neuと同一構造なため,Neuとも呼ばれる。その後,同様にErbB3(HER3),とErbB4(HER4)の二つの類縁分子が見つかっている。ErbB1-4は共通した構造をもち,細胞外領域(リガンド結合部,2量体結合部),細胞膜貫通領域,細胞内領域(チロシンキナーゼ酵素部)からなるが,ErbB2の細胞外領域の結合リガンドは未知であり,また,ErbB3の細胞内ドメインはチロシンキナーゼ活性をもたない(図1)。
細胞外領域はリガンド結合部位をもち,ここにリガンドが結合すると受容体の酵素部が活性化するとともに,相互アフィニテイーが上がり,2量体を形成しやすくなる。ErbBのリガンド分子はEGFやニューレグリン1(NRG1)のほかに現在知られているだけでも10種以上存在し,複雑な組み合わせでErbB受容体と結合する(表)。通常,2量体を形成すると相手側のErbB分子の細胞内領域をリン酸化する。細胞表面のErbB分子濃度が非常に高くなるとリガンド非依存的な2量体形成も起こるようになり,受容体の活性化とシグナル伝達も発生する。表にあるようにErbB分子は多くの組み合わせで2量体を形成するが,ホモ2量体でない場合,リガンド結合ErbB分子とシグナル伝達ErbB分子は異なるかもしれないことに注意しなくてはならない。たとえば,チロシンキナーゼ活性のないErbB3でもニューレグリン(NRG)がErbB3に結合すれば,ErbB2とのヘテロ2量体形成によりErbB2のキナーゼによりリン酸化され,シグナルがErbB3より伝わる。ErbBのシグナル伝達経路にはGrb2/Ras/Raf/MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)経路,PI3K(ホスホイノシトール3キナーゼ)/Akt経路,PLCγ(ホスホリパーゼCガンマ)/IP3経路の三つが存在する。このシグナル伝達の結果,神経系の細胞は増殖,分化,生存などの方向にむかう。Grb2/Ras/Raf/MAPK経路は主に細胞分化や増殖に関与し,PI3K/Akt経路は主に細胞成長や抗アポトーシスに関与する。また,PLCγ/IP3経路はCキナーゼや細胞内カルシウムを動員し,細胞運動や細胞増殖に関与する。
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