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神経系の形成過程において,細胞接着分子は様々な局面を制御している。なかでも神経系に広く分布している細胞接着分子N-カドヘリンは,神経上皮から神経管が形成され神経細胞(ニューロン)が生み出される神経系の初期発生段階から,ニューロンの移動や軸索伸長,神経束形成といった神経回路の基本構造の形成過程,ニューロン同士が互いにシナプス結合を形成して神経回路を確立する過程,さらには学習/経験などにより神経回路が再編成される過程といった,ニューロンの発生から最終分化にわたる様々な過程を制御している1-3)。線虫やショウジョウバエなどの無脊椎動物にも相同のN-カドヘリンが存在し,神経回路形成において様々な機能を果たしていることから,N-カドヘリンは下等動物から高等動物まで神経系に共通で重要な役割を持っていると考えられる2)。
では,その広範な機能はどのように制御されているのだろうか? これまでに組織レベルでの研究から,哺乳類神経系では異なるN-カドヘリンが複数存在し,特定の脳領域や局所回路で特異的に発現することで,固有の機能を果たすことがわかってきた2)。また,分子レベルの研究からN-カドヘリンと直接あるいは間接的に結合して,その作用を調節するタンパク質も報告され,これらがN-カドヘリンの機能の多様性に寄与することが示唆されている2)。一方,個々のニューロンの分化過程においてN-カドヘリンの分布や多様な機能が時空間的にどのように制御されているのかという問題は解明されていない。われわれはこの問題に取り組むため,分子遺伝学の研究が容易なモデル動物であるショウジョウバエの神経系を用いて研究を行っている。本稿ではショウジョウバエN-カドヘリンの発現と機能の細胞レベルでのダイナミックな変化とその制御について,われわれの最近の研究結果を紹介する4)。
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