生体の科学 69巻4号 (2018年8月)

特集 いかに創薬を進めるか

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 “創薬”という言葉はわが国オリジナルであって,山之内製薬の副社長などを務めた野口照久氏が1963-4年ごろに造語されたと言われている。1990年代に入ってわが国でこの言葉は広く使われるようになった。英語でこれに相当する言葉を探すと適当な言葉はなく,科学用語はほとんどが英語からの翻訳なので“創薬”は特別な例である。英語ではDrug Discoveryが通常考えられているが,むしろDrug Discovery and Developmentがふさわしいのではないか。この意味は疾病を改善し,くい止める物質の発見,またはデザインすることから始まり,吸収,分布,代謝や毒性,副作用そして最善の投与法などが含まれる。しかし,これは後述するPreclinicalまでの意味であり,“創薬”は薬が出来上がる過程でもっとClinicalの意味を含んで広く捉えてもよいと思われる。

 米国のFDAは,薬が考えだされ種々の課程を経て市販されるまでの経過をStep1;Discovery and Development. Step2;Preclinical Research. Step3;Clinical Research. Step4;FDA Review1. Step5;FDA Review2(市販以降薬物の安全性をチェック)と定義している。このDiscovery and Developmentの部分はわが国における基礎研究に相当するが,“創薬”というときは前述した広く捉えた薬開発の全課程を“創薬”と考えたほうがよいのではないだろうか。

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 薬理・生理学領域では基礎研究の成果を社会に還元する場合,わかりやすい例として創薬があるが,新規化合物を合成し新薬にまで育てるには,多額の経費をかけ,現在のサイエンスをもってしても10年以上の歳月が必要とされる。この長さは,今すぐにでも薬を必要とする患者にとっては耐え難い。そこで,科学の恩恵をいち早く患者に届けるためには,新薬の開発に努力する一方で,患者救済の何らかの工夫が必要となる。その一つとして,国が既に承認した医薬品(既承認薬)の中から創薬シーズを見つけることを考え「EcoPharma:エコファーマ」として提案した(Pain Research, 2007)1,2)。既承認薬にはヒトへの安全性に関する膨大な基礎資料があるため,それらを利用すれば開発時間が短縮される。患者に対しては早く薬を提供できるし,製薬企業からすれば既存薬の新規適用拡大(リポジショニング)として薬の市場価値を高めることにつながる。

 さて,グリーンケミストリーは広く知られている地球環境に優しい化学合成法であるが,九州大学薬学研究院ではエコファーマとグリーンケミストリーの研究者がアカデミア創薬のために協力し合い,両者を融合させた「グリーンファルマ」を実践している。このグリーンファルマ研究は,企業が経済原理から手を出しにくい希少疾病用医薬品(オーファン・ドラッグ:患者数が少なく治療法も確立されていない病気の治療薬)開発にも積極的に挑戦できることから,本学におけるアカデミア創薬の基軸としている。本稿では,ヒトと地球に優しい「グリーンファルマ」創薬について,モルヒネも効かない人類史上最悪の痛みである神経障害性疼痛に対する治療薬を例にとり,概説する。

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 わが国における高血圧患者数は4,000万人にも上るが,未治療の患者を含めると3,000万人程度で血圧コントロールが不十分とされる。また,3種類以上の降圧薬を内服しても降圧目標に達しない治療抵抗性高血圧は,全高血圧患者の約2割にも上る。したがって,新規降圧薬の開発はいまだ必要であると考えられる。現時点ではアルドステロン合成酵素(CYP11B2)の発現を抑制する薬剤は存在しないことから,今回筆者らはCYP11B2の発現抑制を指標として化合物ライブラリーのハイスループットスクリーニング(HTS)を行った。

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 国家プロジェクトとしてのタンパク3000プロジェクト(2002-6年度),ターゲットタンパク研究プログラム(TPRP,2007-11年度),最先端研究基盤事業「化合物ライブラリーを活用した創薬等最先端研究・教育基盤の整備」事業(2010-12年度),創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業(PDIS,2012-2016年度)と近年急速にわが国のアカデミアに創薬研究を期待するようになった。アカデミア創薬活動を全国規模で展開するため,東京大学の化合物ライブラリー拠点を中心として北海道大学,東北大学,京都大学,大阪大学,九州大学,長崎大学にスクリーニング拠点を設立し,運用プロジェクトが実施された。各拠点はその地域の創薬研究支援と高度化研究を担うこととなったが,長崎大学は特徴ある“感染症”,“放射線障害”を中心とする全国規模の創薬支援・高度化研究が課された。筆者は最先端研究基盤事業代表研究者,創薬PF事業管理者とその創薬研究活動にかかわってきたことから,この執筆の機会をいただいたと思う。

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Ⅰ.ゼブラフィッシュ創薬の急激な展開

 21世紀の本格的ゲノム創薬時代に突入してからも,難治性疾患(アンメットメディカルニーズ)に対する画期的治療薬(first-in-class)開発は,困難を極めている。一方,この困難な時代において,見事に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)に承認された新薬を解析すると,62%の画期的新薬は,フェノタイプスクリーニングにより見いだされていることが明らかとなった1)。ゼブラフィッシュ創薬は,ハイスループットin vivoフェノタイプスクリーニングを可能にし,現在グローバルな創薬戦略にインパクトを与え,明白なパラダイムシフトが実現している2)

 実際,欧州では2008年からはラットを抜いて,ゼブラフィッシュがマウスの次に頻用されているモデル生物となり,国際的メガファーマも薬効・安全性研究でゼブラフィッシュを積極的に活用している。ゼブラフィッシュフェノタイプスクリーニングが著効した成功例として,画期的医薬品のORC-13661など3)やドラッグ・リポジショニング(drug repositioning)が報告されている。これらの事例により,今後,創薬全体への影響が明らかになるであろう2)

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 超高齢社会を迎えたわが国において,加齢を危険因子とする諸腫疾患,例えば,がんや認知症などに対応した薬を創出する創薬力の強化が急務となっている。更に,従来の医薬品の主体をなしてきた低分子化合物の探索がピークを越えてきており,抗体医薬品や核酸医薬品などの中高分子医薬品も加えた創薬モデルの転換が求められている。新しいタイプの医薬品開発には,アカデミアやベンチャー企業の研究成果・技術を製薬企業の医薬品開発に迅速に取り込むための環境を整備し,産官学連携による創薬の推進が必要である。iPS細胞の臨床応用やコンパニオン診断薬・医薬品など,新しいタイプの医薬品および関連製品も大きな広がりを持ちつつある。このようなニーズに応えるために,国内の多くの地域において,アカデミアと製薬企業の間にパイプラインを構築し,大学やベンチャー企業の研究成果と製薬企業のニーズのマッチングが進められている。

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 長きにわたって人類を苦しめてきた主たる疾患は感染症である。国内でも戦前から戦後にかけて死に至る病の筆頭は結核であった。感染症は外から侵入した異物(細菌やウイルスなどの病原体微生物)によって引き起こされるため,原因となる異物を特定し,これを排除できれば病気は根治できる。感染症の薬は極めて効果が高く,治療満足度も高い。事実,わが国における結核による死亡者数は,新薬の開発・普及によって劇的に減少している。

 他方,近年われわれが恐れる病気は,がん,糖尿病,認知症などである。健康な人でも自分には関係ないとは言えないものばかりであろう。しかし,これらの疾患に対する薬の効果は,感染症の薬に比べると大きく見劣りしている。しかも,新薬の開発コストは急速に増加する一方で,その効果は既存薬を多少上回る程度でしかない。認知症に至っては,多くの製薬会社が新薬の開発を断念しつつある。何故このようなことになるのであろうか。その理由を探るため,主な疾患をその原因や性質に従って分類すると興味深い事実が浮かんでくる。

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 「本研究は創薬につながる」と基礎研究者が安易に口にしたり,研究費獲得の枕詞に用いることが少なくないが,実際に基礎医学研究から得られた知見や成果を医薬品という形にするためには想像以上の困難が待ち受けている。医薬品開発のステージが進むと製薬企業の協力が必須となるが,製薬企業に研究のバトンを受け取ってもらえるかどうかがアカデミアが創薬を目指すうえでの一つのマイルストーンであると言える。基礎研究からそのマイルストーンを目指す第一歩を踏み出すための支援を東京大学創薬機構が担っており,その取り組みを紹介したい。本稿を研究成果の実用化の参考にしていただければ幸いである。

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 この十数年,製薬業界では,新薬の研究開発費が増え続けているという深刻な問題に直面している。例えば,分子標的薬の開発プロセスにおいては,非常に多くの有機化合物のなかから弱いながらもターゲットタンパク質に結合活性を示す候補分子を探し出し,薬効を上昇させ,副作用を軽減した医薬品に改良するために大きな実験コストがかかっている。更に,近年では,医薬品開発が容易なターゲット疾患のほとんどは開発し尽くされており,新薬を創出することが難しい状況となっている。したがって,薬のつくり方を革新し,薬効が高く副作用の少ない新薬を効率的に創出するために,コンピュータ予測に大きな期待が寄せられている。しかしながら,現状の創薬計算技術は予測精度が低く,予測できる化合物・標的タンパク質の数にも限界があることから,実験に置き換わるほどの革新的技術に至っていない。

 その一方で,近年,スーパーコンピュータの演算性能は年々向上しており,わが国でも,「京」コンピュータの後継機であるポスト「京」の開発・整備が現在進められている。また,ソフトウェアの進歩も目覚ましく,囲碁でプロ棋士に勝ち越した人工知能(Google AlphaGo1))を筆頭として,次世代の計算技術が日々誕生して様々な分野で活躍し始めている。したがって,スーパーコンピュータや人工知能を駆使することで,これまでよりもはるかに高精度かつ高速な創薬計算が可能になると期待される。そこで本稿では,まず,ポスト「京」のスケールメリットを最大に活かし,膨大な候補化合物と複数の創薬標的タンパク質から成る大規模な組み合わせのなかから,特定のターゲット疾患に最適な医薬品候補化合物を予測する革新的創薬基盤の開発プロジェクトについて紹介する。続いて,創薬に人工知能を役立てるために設立,活動を行っているAI創薬の産学連携コンソーシアム「Life Intelligence Consortium(LINC)」の取り組みを紹介する。

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 薬物は,立体構造を形成したタンパク質に作用して,薬理作用を発揮する。薬物が作用するタンパク質の立体構造の情報は,薬物の作用機序の解明や,立体構造に基づく薬剤の探索を可能とするものであり,創薬において必須である。現在までに,X線結晶構造解析や極低温電子顕微鏡により様々なタンパク質の精緻な立体構造が多数解かれている。しかし,これらの手法で得られる立体構造は静的なスナップショットであり,生理的な溶液環境下における活性と直結した構造であるとは限らない。一方,生理的な環境下において,タンパク質が複数の立体構造の動的構造平衡状態にあることが明らかになってきている。

 核磁気共鳴法(nuclear magnetic resonance;NMR)は,溶液中におけるタンパク質の動的構造平衡を解析できる唯一の手法である。多様なNMR試料調製法およびNMR測定法を駆使することにより,タンパク質がどのような構造の間をどのような速度および量比で交換しているか,という動的構造平衡の情報を取得することが可能である。

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 タンパク質をコードしない非コードRNA(ncRNA)の発見以来,生命機能を制御する機能性分子として,RNAの重要性が再認識されている。更に,がん細胞特異的に発現するmiRNAの発見や,筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)に代表される神経変性疾患とmRNAのプロセシング異常のかかわりなど,RNA制御の異常が多様な病態の分子基盤となることが明らかにされつつある。なかでも,各種ストレスに応答して形成される凝集体である“RNA顆粒”が,翻訳やRNA分解のみならず,シグナル調節や疾患とのかかわりが解明され,新たなRNA創薬の標的として注目を集めている。また,正常な遺伝子発現には“エピジェネティック制御”が不可欠であり,エピジェネティック制御の破綻が,がんなどの難治性疾患発症の引き金となり得る。近年,このエピジェネティック制御にncRNAがかかわることが明らかにされている。

 本稿では,創薬におけるRNAの位置づけやエピジェネティック創薬について概説すると共に,“RNA顆粒”を標的とした創薬戦略に関する筆者らの知見についても紹介する。

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 近年,気管支喘息やアレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患罹患率が全世界的にも飛躍的に増大しており,わが国ではスギ花粉症が今や“国民病”とまで言われるほど患者が増えている。近年のアレルギー研究は,主に免疫細胞を中心とした発症機序解明に力が注がれ,成果を上げている。しかしながら,実際の患者は“今ある症状”に苛まれており,この症状を急速かつ永続的に緩解させるような薬物・治療法の確立が望まれている。

 多くのアレルギー疾患で問題となるのが標的臓器・組織の過敏性であり,例えば気管支喘息の根底には気道過敏性が存在し,わずかな刺激でも気道が過剰に収縮し,喘息死の原因となる。一方,喘息発作に短時間作用型β2作動薬やtheophylline製剤などの気管支拡張薬が著効を示すことから,発作時の気道狭窄には気管支平滑筋の過剰収縮が深く関与していることがうかがえる。本稿では,このような喘息時の気管支平滑筋の質的変化にマイクロRNAが関与している可能性について概説する。

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 DNAの遺伝情報はRNAを介してタンパク質へ伝達され,タンパク質が生命維持の中心的な役割を果たす。この考えは,1958年にCrickによって提唱され,セントラルドグマと呼ばれる1)。1990年には,ヒトの遺伝情報が書かれているDNAのすべての塩基配列を読解しようとするヒト・ゲノムプロジェクトが開始された。2003年にはこのプロジェクトが終了し,ヒトの遺伝子数は予想に反してはるかに少なく22,000程度であることが明らかとなった。これは,ヒトゲノムのわずか2%程度であり,残りの98%は不要なnon-coding領域と考えられていた。しかし,近年のRNA研究により,non-coding領域の大部分のDNAは,実際にはRNAとして転写され,生成したnon-coding RNA(ncRNA)自体が様々な機能を示すことがわかってきた2)

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 ポリオーマウイルス科に属するポリオーマウイルス(polyomavirus)は,エンベロープを持たない環状二本鎖DNAウイルスでこれまでに73種が同定されている1)。そのうちヒトを宿主とする14種のポリオーマウイルスは高頻度でヒトに感染している。これらのウイルスは,通常ヒトに無症状で病原性を示さないが,免疫不全時などにはポリオーマウイルス関連疾患を引き起こすことが明らかになりつつある2)。近年,simian virus 40(SV40)にマイクロRNA(miRNA)が発見されてから3),他のポリオーマウイルスにもmiRNAの存在が認められ,その働きが注目されている。

 本稿では,ポリオーマウイルスとその関連疾患について,ポリオーマウイルスタンパク質と関連疾患との関係性,更に関連疾患のmiRNAによる治療法の可能性について言及する。

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 わが国の視覚障害の原因のほとんどは網膜・視神経の障害に起因し,緑内障,糖尿病網膜症,網膜色素変性症,加齢黄斑変性などの網膜・視神経疾患が中途失明原因の上位を占めている。なかでも,緑内障は40歳以上の20人に1人(平均有病率5%)が罹患し,中途失明原因の第1位の眼疾患である(多治見スタディ)1)

 緑内障は,「視神経と視野に特徴的な変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制し得る眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」と定義され,緑内障に伴う視神経の障害を緑内障性視神経症(glaucomatous optic neuropathy;GON)と呼称される[緑内障診療ガイドライン(第4版)]。本疾患は年齢と共に失明の割合が高くなり,特に高齢化に伴い深刻な社会問題となっている。現在の緑内障治療には,エビデンスに基づいた唯一確実な治療法として薬物,レーザーまたは手術により眼圧を下降させる眼圧下降療法が用いられている。一方,緑内障全体のなかで眼圧が正常範囲内の正常眼圧緑内障(normal tension glaucoma;NTG)が72.0%を占めることが明らかにされている。このように,眼圧が正常範囲内であるにもかかわらず,緑内障性視神経症が進行する患者が非常に多い。

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 これまでに,ウイルスの増殖に必須なウイルス由来酵素を薬剤の標的とした多くの抗ウイルス薬が創製されている。本稿では,筆者らが見いだした2-メタル結合ファーマコフォアモデルが,基質アナログでもなく,2種のウイルスの異なる酵素に当てはまり,最終的に治療薬となった例を紹介する。

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 21世紀になった現在でも,画期的な新薬が次々と市場に出て生活習慣病などの治療満足度は上昇した。しかし,がんをはじめとしてアルツハイマー病や心不全など,患者数が極めて多いにもかかわらず治療満足度の低い疾患が多く存在する。日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development;AMED)を中心とするわが国の創薬開発推進の流れはようやく軌道に乗りはじめ,アカデミアにおいても創薬開発を積極的に進めていこうという機運が高まってきている。

 臨床に近い立場の研究者は疾患の根本原因となる遺伝子などにアクセスすることが可能となり,より創薬標的の同定がしやすい環境に置かれている。更に,新規の阻害剤や促進剤が得られることにより標的分子の構造変化が観察され,生化学的な理解が進み意外な分子生物学的機序が解明されることも期待される。

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Ⅰ.チャレンジングな標的:タンパク質-タンパク質間相互作用

 低分子創薬において,タンパク質-タンパク質間相互作用(protein-protein interaction;PPI)に対する低分子阻害剤の設計は最もチャレンジングなテーマの一つである。PPI界面の面積に対して,低分子薬剤の分子サイズでは阻害面を十分にはカバーできないため,効果的な低分子設計が困難であるとされている。そのため,現実としてPPI阻害剤の多くは抗体医薬品である。低分子阻害剤は臨床試験で苦戦しているのが現状である1)。しかしながら,PPIに対する低分子薬剤のニーズは高い。抗体は細胞外においては威力を発揮するものの,分子サイズが大きいことから膜透過性が低く,結果として細胞内を標的にすることが困難という欠点がある。細胞内には様々な疾患関連で標的となり得るPPIが存在することから,低い抗原性と高い透過性の低分子化合物によるPPI阻害剤設計に大きな期待が寄せられている。

 低分子化合物がPPI阻害剤としての役割を果たすためには,そのPPI界面に対して低分子が特異的に結合しなければならないであろう。更に,PPI界面は比較的フラットで,酵素と基質のような明瞭な凹凸がないことも多い1,2)。そのなかで,PPI界面が“比較的小さく,かつ明瞭な二次構造を有するタイプ”については,近年,阻害剤開発技術が急速に発展している(図1)3)。α-helixを模倣した主鎖と官能基の立体配置のデザインによるPPI阻害剤設計が,現在のところ主要なコンセプトとなりつつある(図1)。しかし,PPI界面は“明瞭な二次構造を有するタイプ”のみではないことは自明である。“相互作用界面の広いタイプ”や“明瞭な二次構造がない界面タイプ”の低分子阻害剤開発に,大きなブレイクスルーを出すことが求められている(図1)。このように,標的PPIに対して薬剤を合理的に設計するアプローチはなく,手探りであるのが現状である。そのため,PPI阻害剤探索のための化合物ライブラリーについても議論が続いているが,明確なコンセプトはない。

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 和漢薬とは,日本古来の和薬と,中国から伝わってきた漢薬を合わせた呼び方である。ただし広義には,天然物由来の薬物を広く示す“生薬”と,複数の生薬から成る“漢方薬”も含めた意味で“和漢薬”と言う。“和漢薬から創薬”と言ったとき,一般的には生薬の成分がシーズとなって新薬創生につながることがイメージされるであろう。モルヒネ,ジギトキシン,エフェドリン,アトロピン,サリシン等々,重要で強力な薬効を有する化合物が植物から同定された例はあまりにも有名である。また,このように生薬,天然物が薬の優れたシーズを生むことは過去の話ではなく,現在でも,特に抗菌活性や抗腫瘍活性を有する薬物の開発は,天然物そのもの,あるいはそれをリード化合物として進められているものが多い。また,2015年には,土壌細菌からの抗寄生虫薬開発と青蒿からの抗マラリア薬の開発にノーベル生理学・医学賞が与えられ,多くの患者を救うための新薬開発への挑戦の尊さと,天然物の有用性があらためて示された。

 様々な疾患モデル系を用いた創薬研究の表現型スクリーニングで活性を示す和漢薬の知見は非常に多い。しかし,シーズ化合物発見から新薬承認に至るまでには,研究開発にかかる長い年月,多額の費用,低い成功確率,といった険しい壁が立ちはだかる。和漢薬の基礎研究の成果が,新薬開発の入口としてだけでなく,より直接的に臨床に生かされるような道もあるとよい。

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 天然物を薬物として3,000年以上の長期にわたり臨床試験を繰り返し実施して,その体験から,評価され確立されたものが漢方薬である。古来,もの忘れに対しても漢方薬による治療が行われてきた。孫思遜『千金要方』(650年ごろ)に認知症に関する記載と共に,数十の処方が載せられている。繁用された生薬は,遠志,人参,茯苓,竜骨,黄耆,桂皮,菖蒲,麦門冬,甘草,当帰,白朮,酸棗仁などである。

 病態概念は,現代の医学と漢方をはじめとする伝統医学のそれは,大きく異なる。漢方薬は主に“証”という病態概念を改善するために開発されてきている。“証”は現代医学の“病”とは異なる視点で病気を捉えているため,“もの忘れ”の治療薬はあっても,アルツハイマー病のための漢方薬というものは存在しない。

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Ⅰ.ホールアニマルスクリーニングへの潮流

 製薬会社は現在,新規医薬品の開発効率に大きな問題を抱えている。これまで最も有効であった,そしてこれからもある程度は有効であろう創薬戦略では,まず治療標的分子(タンパク質など)を決定し,それに作用する化合物を大規模スクリーニングで探索する。そしてヒットした化合物を齧歯類動物を主とした疾患モデル動物を用いた実験で評価し,ヒト試験(臨床試験)に入っていく。この過程で約3,750分の1の確率で基礎研究から抽出された化合物達は,動物を用いた前臨床試験においてADMEや生体内活性不足で更にその3分の2が脱落する(てきすとぶっく製薬産業2014-2015,日本製薬工業協会)。ヒト臨床試験に入ってからは,例えば抗腫瘍薬領域では70%以上の化合物がフェーズ2で脱落し,更に残った60%がフェーズ3で消えていく1)。この非常に低い創薬成功率を改善するため,スクリーニング試験に動物モデルを導入し,試験化合物の疾患・組織選択性や毒性のみならず,その生体内利用率などを創薬の初期段階で評価しようという試み「ホールアニマルスクリーニング」が始まっている。このホールアニマルスクリーニングの対象動物としては,マウスなどの哺乳類動物ではコスト・動物愛護の点から実現性が低く,ハエや線虫などではヒトと共通する臓器が少ないという問題(例えばハエにはヒトと類似した血管組織がない)から,小型魚類ゼブラフィッシュが注目されている。

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 真核細胞内のエネルギー変換オルガネラであるミトコンドリアと葉緑体は,それぞれ独立生活していたバクテリアが真核細胞内に共生することで誕生した1,2)。宿主である真核細胞が共生体を維持し続けるためには,宿主細胞の成長・分裂に伴って共生体・オルガネラも成長分裂し,娘細胞に引き継がれることが必須である。進化の点から言えば,宿主細胞と共生体が協調増殖する機構が獲得されたことにより,恒久的な共生関係が成立し,共生体由来オルガネラが誕生したことになる。

 本稿では,①ミトコンドリアと葉緑体の分裂が宿主である真核細胞によってどのように制御されているのか,②ミトコンドリアと葉緑体のエネルギー変換により宿主の成長・分裂がどのような制約を受けるのか,という2つの点から,宿主真核細胞と共生体由来オルガネラの協調増殖機構に関するこれまでの理解を紹介する。

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目次

次号予告

あとがき 野々村 禎昭
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 歴史的な,と言われる米朝会談が行われ当事者達は大満足で,われわれは本当だろうかと疑いの目でみていますが,本号が出るころには本当かどうかはっきりしていると思います。本当だとしても良いとは言えません。トランプは北朝鮮経済援助は日韓にまかすと言っているので,科学研究費は減りこそすれ増えることはないでしょう。

 今回は「創薬」を取り上げました。日本語で始まったためにその定義が難しいことを「特集によせて」に書きました。結局私は,薬を見つけ,作り,市販までに至る過程を,企業からみると新薬の開発であり,大学,アカデミアの立場からみると「創薬」であると考えると良いのではないか,と思います。同様なことは英語にもあるので,ある物質が薬として街に出るまでのprocessがDevelopment(開発)であり,一方,Discovery and Developmentとして最初に出てくるDevelopmentと区別するために,開発の意味でのDevelopmentにくどくどと注をつけていた文章を米国の製薬会社の宣伝文にみました。

基本情報

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生体の科学
69巻4号 (2018年8月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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