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ポストゲノム時代を迎えた約20年前,次世代の重要な研究課題の一つとして注目されたのが分子修飾でした。ヒトをはじめ多くの生物種で全ゲノム配列が決定され,その調節機構としてDNAやヒストンの修飾によるエピゲノム制御が大きな研究領域として脚光を浴び,更に新たなRNAの分子形態や分子修飾が同定されて遺伝子機能の理解が大きく発展しました。一方では,質量分析法の開発と応用によってプロテオミクス研究もまた新たな一領域を形成し,タンパク質修飾の様々なパターンや機能,疾患との関連などが次々と明らかになっていくと共に,X線結晶構造解析やNMR分光法によって,タンパク質機能における分子修飾の意義について,構造面からどんどん理解が深まっていきました。最近では,昨年のノーベル化学賞の受賞対象となったクライオ電子顕微鏡の急速な開発によって,更に複雑な生体高分子複合体の高次構造がどのように様々な生命現象の物質的基盤となっているのか,今までには予想もできなかったレベルで明らかになりつつあります。更には,次々に開発される可視化技術や分子操作法によって細胞内外での分子修飾の動態や機能が詳細に解析され,分子修飾研究は多くの研究領域と広いつながりを見せています。
こうしたなかで,多くの新しい分子修飾が生物学的な役割と共に同定され,更には古典的な分子修飾についてもこれまで知られていなかった機能や生物学的意義といった新しい側面に光が当てられてきました。本特集は,ポストゲノムの幕開け前後からのタンパク質・核酸の分子修飾に対する知識体系の蓄積を1冊にまとめようという意図で企画しました。それぞれの分子修飾について直接ご研究されている方,造詣の深い方々に執筆していただきましたが,なかにはまとめにくい項目も少なくなかったにもかかわらず,著者の皆様のご尽力のおかげで大変充実した内容になりました。編集委員一同,心より感謝申し上げます。
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