生体の科学 71巻5号 (2020年10月)

増大特集 難病研究の進歩

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編集者の二人は,今から30年以上も前の医学生時代に,公衆衛生学の実習の一環として,神経変性疾患の患者さんを在宅でケアされているお宅を訪問し,ご家族の方々にインタビューをさせていただいた経験がある。当時はほとんどの神経変性疾患は,その原因もわからず,病気の進行に医学はなすすべがなく,ご家族の献身的なケアが唯一の救いに感じられた。

 この文章は,編集委員の一人が2016年8月の特集号「認知症・神経変性疾患の克服への挑戦」に認めた「あとがき」の冒頭の一節である。編集委員の間で共有されたこの記憶が底流となり,神経変性疾患にとどまらず,多くの難病の克服という願いを込め,将来への希望につながる一冊を上梓したいという思いが結実したのが本特集号である。

Ⅰ.神経・筋

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 近年の研究により,球脊髄性筋萎縮症(SBMA)では,純粋な下位運動ニューロン障害のみならず骨格筋や全身臓器も障害されることが明らかとなってきた。SBMAの治療法開発のためには,骨格筋の変性メカニズムや神経と筋の相互作用を解明することが重要である。本稿では,SBMAの病態とそのモデル,骨格筋障害と病態に即した治療法開発を中心に今後の展望について概説する。

筋萎縮性側索硬化症 漆谷 真
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 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,運動ニューロンの系統変性によって全身の随意運動筋群の筋萎縮と筋力低下を来す予後不良の神経変性疾患である。家族性ALSの原因遺伝子や孤発性ALSの病原タンパク質TDP-43の発見など,ALS病態を知るうえで重要な鍵分子が出揃い,これらの解析によって判明した多彩なパスウェイはRNA恒常性維持機能,タンパク質品質管理機構の破綻という2つの病態に収斂する。さらに“脳内環境”の破壊に加え,近年全身の慢性炎症がALSの進行に関わることも明らかとなり,全身疾患としての側面も徐々に解明されつつある。

脊髄性筋萎縮症 齋藤 加代子
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 脊髄性筋萎縮症の患者において,機能性の全長SMNタンパク質はSMN2遺伝子が産生するわずかなものだけである。新たな治療として,エクソンインクルージョンを機序とする核酸医薬品ヌシネルセン(スピンラザ®)が製造販売承認を取得した。治療に加えて発症予防の可能性が広がり,大きなブレークスルーとなった。2020年5月には,米国に続きわが国でも国際共同治験の成果により,AAV9ベクターによるSMN遺伝子(ゾルゲンスマ®)の静脈内投与が保険収載された。更に,低分子医薬品リスディプラムの国際共同治験が進行している。症状固定前,更には発症前の投与により症状の発現を抑え,軽減化,無症状化することが可能となった。

原発性側索硬化症 吉田 眞理
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 原発性側索硬化症(PLS)は,上位運動ニューロンが選択的に障害され,下位運動ニューロンが保たれる運動ニューロン疾患として定義されているが,PLSの疾患概念は十分には確立されていない。病理学的には筋萎縮性側索硬化症,前頭側頭葉変性症と共通するTDP-43タンパク質の変性を伴う症例が存在し,共通した分子病態の存在が示唆される。また,タウタンパク質の変性を伴いPLSと類似した病態を示す症例も存在している。

進行性核上性麻痺 饗場 郁子
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 進行性核上性麻痺は,非定型パーキンソニズムに分類され,病理学的には脳内に異常リン酸化したタウタンパク質が蓄積する疾患でタウオパチーに分類される。垂直性核上性注視麻痺,早期からの姿勢保持障害を主徴とするリチャードソン症候群のほか,多様な臨床像を示し,特に早期診断が難しい。早期に正しく診断できるバイオマーカーを見いだすこと,および安全で有効な病態抑止治療を確立することが今後の課題である。

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 パーキンソン病(PD)は運動機能障害が前景となる神経変性疾患であり,ドパミン神経細胞の変性とレヴィ小体(LB)の出現が特徴である。LBの主な構成タンパク質はα-シヌクレイン(AS)であり,ASの凝集および伝播が病態に強く関与していることが示唆されている。更に,AS凝集と脂質代謝の関係も注目されており,本稿ではASの凝集と伝播,脂質代謝酵素異常との関連について最新の知見を述べる。

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 大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD)は4つの微小管結合リピートを含むタウ(4リピートタウ)の蓄積を特徴とする難治性神経疾患である。CBD脳に蓄積するタウは,微小管関連タンパク質領域(K274-E380)をコアとし,4層の折りたたみ構造をとることがクライオ電子顕微鏡により明らかにされた。疾患特異的なタウ線維の構造が同定されたことにより,タウのコンフォメーションが疾患の表現型を規定することが想定される。

ハンチントン病 長谷川 一子
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 ハンチントン病は,病因遺伝子HTTのCAG繰り返し配列の異常伸長によるポリグルタミン病の一つで,主として成人期に発症する優性遺伝性進行性神経変性疾患である。精神症状と認知症状,舞踏運動を特徴とする運動障害を三主徴とする。病状の増悪により社会生活の継続が困難となることが多く,集学的な対応が必要な疾患である。近年,アンチセンスオリゴヌクレオチド治療や遺伝子治療が開始され,有効性が期待されている。

神経有棘赤血球症 中村 雅之 , 佐野 輝
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 神経有棘赤血球症は,神経症状と有棘赤血球症を併せ持つ病態に対して包括的に使用される用語である。神経有棘赤血球症は臨床的な神経症候において,舞踏運動などのいわゆるmovement disorderを呈する群と呈さない2群に大別される。Movement disorderが現れる中核群の多くは,有棘赤血球舞踏病(ChAc)とMcLeod症候群(MLS)で占められ,いずれも尾状核や被殻など大脳基底核の神経変性を生じ,舞踏運動などの不随意運動を呈する。本稿では,主に神経有棘赤血球症のなかでも中核群の代表疾患であるChAcとMLSについて概説する。

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 シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は末梢神経系が主に障害される遺伝性神経疾患である。当教室では,のべ2,000例を超えるCMT患者の遺伝子診断を継続して実施している。近年のゲノム解析の進歩により原因遺伝子が次々に同定され,病態解明も進んでいる。根治治療はまだ未確立であるが,遺伝子治療などの治療開発研究も進んでいる。本稿では,近年筆者らが同定した新規原因遺伝子MMEおよびCOA7について,更に今後の治療開発の展望について述べる。

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 筋ジストロフィーは,骨格筋の変性,壊死を主な病変とし,進行性の筋力低下をみる遺伝性難病である。なかでも,重症なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対して,新規作用機序医薬品であるエクソン・スキップ薬が注目されている。筆者らが開発に関わったDMDに対するエクソン53スキップ薬のビルトラルセンは,厚生労働省より先駆け審査指定制度および条件付き早期承認制度の対象品目として指定を受け,2020年3月に国産初の核酸医薬品であり筋ジストロフィー治療剤として製造販売承認された。

重症筋無力症 鵜沢 顕之 , 桑原 聡
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 重症筋無力症(MG),は神経筋接合部のタンパク質に対して自己抗体が産生される自己免疫疾患である。MGの病態には,活性化T細胞・B細胞・形質細胞,自己抗体,補体などが関与しており,それぞれを標的とした新規薬剤の開発が進んでいる。本稿では,MGの新規治療薬候補について概説する。

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 多発性硬化症(MS)は,時間的・空間的多発性を特徴とする原因不明の中枢神経系炎症性脱髄疾患である。MSと診断された患者のなかに,特に視神経と脊髄に再発を繰り返す群があり,かつて“視神経脊髄型MS”と呼称されていたが,2004年に特異的自己抗体として抗Aquaporin-4(AQP4)抗体が発見されて以来,視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)としてMSとは区別されるようになった。本稿では,MSとNMOSDの疾患概念と最新の治療法に関して概説する。

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 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は筋力低下や感覚障害で発症し,2か月以上にわたって慢性進行性に経過する免疫性ニューロパチーである。多巣性運動ニューロパチー(MMN)はCIDPに類似するが,純運動性障害であり,筋萎縮を伴うことなどが異なる。CIDPとMMNは,優位に傷害される分布によって分類されるが,治療反応性が異なることから背景にある病態は一様ではないと考えられる。一部のCIDPでは,neurofascin 155,contactin-1,caspr-1,LM1などの自己抗体が検出され,臨床的特徴や治療反応性が類似した一群となっている。治療で最も用いられる免疫グロブリン大量静注療法は,近年維持療法が保険適用され,更にCIDPでは皮下注射による維持療法も承認された。

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 クロウ・深瀬(POEMS)症候群は,形質細胞のモノクローナルな異常増殖と血管内皮増殖因子の過剰産生を基盤に,多発ニューロパチーを中核とした多彩な症状を来す希少難治性疾患である。機能,生命予後とも不良な疾患であったが,骨髄腫治療の応用が奏効し予後が劇的に改善しつつある。今後は複数の治療選択肢を効果的に活用する戦略の構築が求められる。また,より多くの症例に早期の治療介入を実現するために,適切な診断の推進のための疾患啓発の取り組みも必要である。

多系統萎縮症 小澤 鉄太郎
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 多系統萎縮症は,成人発症で比較的進行が速い神経変性疾患であり,患者のほとんどは孤発例である。中枢神経系における主要な病変部位は,オリーブ橋小脳,線条体黒質,更に脊髄中間質外側核を含む自律神経領域である。それらの領域での神経細胞脱落とグリオーシス,ならびにリン酸化αシヌクレイン陽性のオリゴデンドログリア細胞質内封入体を病理学的に認めれば確定診断となる。注目される分子病態は,中枢神経系におけるαシヌクレインの構造変化と凝集であり,それを基盤とした診断バイオマーカーの探索と疾患修飾療法の開発が課題である。

脊髄小脳変性症 池田 佳生
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 脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration;SCD)は運動失調を主とする神経変性疾患であり,遺伝性が約30%,孤発性が約70%である。わが国においては遺伝性SCDの90%以上が常染色体優性遺伝形式を示し,3から6塩基のDNA配列の繰り返しであるマイクロサテライト・リピートの異常伸長を遺伝子変異とする病型が最も多い。リピート伸長変異は各遺伝子の翻訳領域または非翻訳領域に存在する病型に大別され,RNA(転写物)レベルもしくはタンパク質レベルの病態や,翻訳領域・非翻訳領域いずれのリピート伸長病にも共通するRAN translationと呼ばれる新たな分子機構の存在が示唆されている。

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 副腎白質ジストロフィーは,ABCD1遺伝子変異により生じる先天代謝異常症である。生化学的には極長鎖脂肪酸の蓄積を,病理学的には中枢神経系の脱髄を特徴とするが,その疾患メカニズムは完全には解明されておらず,今なお病態研究は進行中である。一方で,治療に関しては,発症早期における造血幹細胞の移植や遺伝子治療の有効性が示されており,今後ますます早期診断,早期介入の必要性が高まることが想定される。

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 ペルオキシソーム病は,代謝性細胞内小器官であるペルオキシソームの機能不全により発症する疾患群である。本疾患群の最重症例であるペルオキシソーム形成異常症では,極長鎖脂肪酸や分枝脂肪酸,エーテルリン脂質,胆汁酸などの代謝が阻害され,中枢神経系,腎臓,肝臓,骨など多様な臓器で重度の障害が生じる。本稿では,本疾患の病態解明と治療法確立を目指したモデル動物を利用した研究の進展について解説する。

ミトコンドリア病 後藤 雄一
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 ミトコンドリア病の特徴は多様性である。病因,ミトコンドリア機能,臨床症状,臨床経過のいずれも多様である。それらを論理的に理解するには解剖学的レベルを踏まえることが肝要であり,病態理解から創薬や新たな治療法へと進展することが期待できる。

プリオン病 松林 泰毅 , 三條 伸夫
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 プリオン病は正常なプリオンタンパク質がコンフォメーション変化し,プロテアーゼ抵抗性の不溶性タンパク質となり,中枢神経系へ凝集・蓄積することで発症する。急速進行性の感染性変性疾患であり,罹患率は100万人あたり1-2人/年で,典型的病型のクロイツフェルト・ヤコブ病は平均5か月程度で無動性無言状態になる。最近の研究で,感染粒子は1対の二本鎖らせん状桿状構造と一本鎖アミロイドで構成されることが報告され,創薬開発では抗体療法,幹細胞移植,ASO治療薬などの新しい治療法の開発が進められている。

亜急性硬化性全脳炎 野村 恵子
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 亜急性硬化性全脳炎は麻疹ウイルスの変異による遅発性ウイルス感染症であり,精神・運動発達の両面で退行を来し,やがて死に至る予後不良な疾患である。初発症状には発達障害にみられるような高次脳機能障害もあるため鑑別が重要であるが,髄液中麻疹抗体価の上昇などで診断がつく。現在,試験的に行われている治療としてリバビリンの髄注がある。倫理委員会の承認が必要で,十分な治療濃度を維持できた症例では症状の改善がみられている。

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 進行性多巣性白質脳症(PML)は,ポリオーマウイルス科のJCウイルス(JCV)に起因する中枢神経脱髄疾患である。多くのヒトは,アーキタイプ(原型)と呼ばれるJCVに無症候性に感染し,体内で持続感染および潜伏感染が成立する。しかし,T細胞系の免疫能の低下を背景としてJCVが再活性化し,大脳白質などのオリゴデンドロサイトでプロトタイプ(変異型)JCVが増殖することでPMLを生じる。本稿ではPMLの概要,原因,病態および創薬について概説する。

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 HTLV-1感染者の一部に発症する疾患であるHTLV-1関連脊髄症(HAM)は,全国の患者数が推定約3,000名の希少疾患である。HAMは,長い年月をかけて脊髄が徐々に傷害され,次第に下肢のしびれ,歩きづらさ,排尿・排便困難が現れ,最終的にはその多くが車椅子や寝たきりの生活を余儀なくされる難病である。残念ながら,現在の医療ではHAMの発症を予防する方法や治療法はない。本稿では,HAMについての解説と筆者らの近年の取り組みを述べる。

脊髄空洞症 矢部 一郎
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 脊髄空洞症は脊髄内部に脳脊髄液貯留空洞を伴う疾患で,いわゆるジャケット型の感覚障害や錐体路徴候,自律神経徴候,下位脳神経症状などを伴う疾患である。キアリ奇形などの後頭蓋窩頸椎移行部の奇形を伴うことが多い。外科治療法が確立しており,大後頭孔減圧術や硬膜外層剝離術などが実施され有効であるが,一部の症例では難治性に経過する。これらの事実から後頭蓋窩頸椎移行部の髄液循環異常が発症に関与することは明らかであるが,その詳細についてはまだ解明されていない。

ウエスト症候群 遠藤 文香
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 ウエスト症候群は乳児期に発症するてんかん性脳症の代表疾患で,シリーズ形成性てんかん性スパズムと脳波のhypsarrhythmia,精神運動発達の停滞,退行を特徴とする。予後は基礎疾患によって異なるが,難治な経過をたどる症例が多く,長期の発作抑制率は約3割で,知的障害や発達障害などの合併も多い。本稿では疾患の概要に加え,初期治療や予後について述べる。

Ⅱ.消化器

原発性胆汁性胆管炎 中村 稔
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 原発性胆汁性胆管炎(PBC)の発症機構として,疎水性胆汁酸による肝内小型胆管細胞の傷害と胆管周囲の持続する自然免疫,獲得免疫の活性化がその中核と考えられている。最近のゲノムワイド関連解析(GWAS)により40か所以上のPBC疾患感受性遺伝子領域が同定されたが,これらの領域には,自然免疫や獲得免疫のシグナル伝達経路上の分子をコードする遺伝子が多数含まれており,PBCの分子標的として注目されている。

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 原発性硬化性胆管炎(PSC)は高率に炎症性腸疾患を合併することを臨床的特徴とする。PSCは遺伝因子,免疫学的因子,環境因子など複合的な要因が病態の形成に寄与する多因子疾患と考えられているが,近年その要因の一つとして腸内細菌叢の関与が注目されている。腸内細菌の解析技術の進歩により,PSCに特徴的な腸内細菌叢の特徴が明らかになりつつあるが,特定の腸内細菌が腸管外臓器である肝臓,胆道の病態に寄与する根幹的な機序は解明されていない。本稿において,免疫難病の一つであるPSCと腸内細菌の関連について,筆者らのグループの最近の知見と今後の治療応用の可能性を概説する。

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 自己免疫性肝炎(AIH)では,遺伝的素因に発症トリガーとなる環境因子,肝細胞に対する自己反応性T細胞の活性化,制御性T細胞,Th17細胞,サイトカイン・ケモカインを含む免疫異常が病態形成に重要である。最近では腸内細菌の関与も示唆されている。治療においては,アザチオプリンが保険適用となったが,海外ではセカンドラインとしてミコフェノール酸モフェチルが用いられている。AIHにおける新たな治療薬の開発も待たれるところである。

潰瘍性大腸炎 南木 康作 , 佐藤 俊朗
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 潰瘍性大腸炎(UC)は,原因不明の免疫異常が大腸に慢性的に生じる炎症性腸疾患である。近年の技術革新によって,炎症の“場”である上皮細胞にも,分化異常や炎症関連遺伝子の体細胞突然変異が生じており,更にこれらが炎症の増悪に関与していることが示唆されている。UCの上皮変容について,最新の知見を踏まえ概説する。

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 囊胞性線維症(cystic fibrosis;CF)は,CF transmembrane conductance regulator(CFTR)を原因分子とする常染色体劣性遺伝性疾患である。CFTR遺伝子の両アレルに重度のバリアントがあり,CFTRチャネル機能が喪失すると,胎便性イレウス,繰り返す気道感染,膵外分泌不全による消化吸収不良などを主症状とするCFが発症する。CFの予後は不良であり,難病および小児慢性特定疾病に指定されている。CFは欧州人種に多いが日本を含む東アジアではまれである。しかし,日本/東アジアタイプの遺伝子バリアントを持つ患者が存在するため,疑われたら汗試験あるいはCFTR遺伝子検索を行うべきである。

Ⅲ.腎・泌尿器

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 急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は,数週〜数か月の短期間で急速に腎不全が進行する腎炎症候群である。抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)と抗糸球体基底膜病が代表的な原疾患であり,診断治療が遅れると不可逆的な末期腎不全へと至るため,早期の診断と治療介入が腎予後を決する。AAV-RPGNの初期治療と維持療法ともに,近年リツキシマブが急速に普及した。更に,AAVの病態の鍵である活性化好中球誘導を阻害するC5a受容体阻害薬が,従来のグルココルチコイド主体の治療を大きく変える可能性があり注目される。

一次性ネフローゼ症候群 野入 英世
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 一次性ネフローゼ症候群に関する取り組みは,最近10年間で国内では小児科領域を中心に新たな知見が報告され,その一部は成人を含む後天性の病態においても治療の選択肢となってきた。特に,小児では成人につきものの成人病の合併はないことから,臨床像として明確なものが揃いやすいというメリットがある。近年,バイオバンク運営が活発化しており,そのような枠組みを通しての解明が期待されている。

IgA腎症 中山 麻衣子 , 鈴木 祐介
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 慢性糸球体腎炎は,わが国の新規血液透析導入の原因疾患として糖尿病性腎症に次いで多く,その約半数をIgA腎症が占めている可能性がある。口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス併用療法(扁摘パルス療法)の普及によりIgA腎症の透析移行は減少しているが,健診が発達しているわが国でも,いまだに早期診断・治療介入が不十分である。近年,IgA腎症の病因や病態が少しずつ明らかになっており,診断バイオマーカーや分子標的製剤の開発が進んできている。本稿では,IgA腎症の基礎から新規治療薬について,最近の知見も踏まえ概説する。

多発性囊胞腎 河野 春奈 , 堀江 重郎
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 常染色体優性多発性囊胞腎は,両側の腎臓に囊胞が発生・増大し,徐々に腎機能低下が進んでいく進行性の疾患である。原因遺伝子はPKD1PKD2で,腎臓以外にも肝囊胞,脳動脈瘤,心弁膜症などの全身性の合併症を来す。治療薬はバソプレシンV2受容体拮抗薬のトルバプタンのみで,腎囊胞の増大や腎機能低下を遅らせる効果があるが,病態の発生を抑えたり病状を改善させるような治療薬はいまだなく,新規治療法の開発が待たれている。また,技術的に難しかった原因遺伝子の解析が近年の技術向上により進んでおり,本稿ではこれらについて述べる。

Ⅳ.循環器

特発性拡張型心筋症 森田 啓行
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 特発性拡張型心筋症は,心筋収縮不全と心室内腔の拡張を特徴とする心筋原発の疾患群であり,慢性心不全,致死性不整脈,動脈血栓塞栓症を来す。他の原因により形態的機能的に拡張型心筋症様病態を来す疾患も数多く存在するため,それらとの正確な鑑別が必要である。タイチン,ラミンなどの遺伝子の変異が本疾患の原因として知られる。原因変異と臨床像,重症度,治療反応性との対応関係を明らかにすること,よりよい病態モデルを作製し有効な治療法を確立することが本疾患における課題である。

肥大型心筋症 木村 彰方
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 肥大型心筋症(HCM)は原因不明の心肥大と突然死を来す疾患として記載されたが,遺伝性疾患であることから,多発家系を対象とした連鎖解析によりミオシン重鎖遺伝子変異が原因となることが1990年に明らかになった。その後,ミオシン重鎖遺伝子変異のない多発家系の解析や候補遺伝子解析から,筋収縮のユニットであるサルコメアを構成する種々のタンパク質をコードする遺伝子の変異も原因となることが判明した。次いで,これらの変異がサルコメアの種々の機能を障害することによってHCM病態をもたらすことが明らかになり,現在では,遺伝子変異がもたらす機能異常を是正する治療法の開発が進められている。

Ⅴ.呼吸器

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 特発性間質性肺炎とは原因を特定し得ない間質性肺炎の総称であり,肺の病理組織学的所見に基づいて分類されている。そのなかで最も頻度が高く,予後不良な疾患である特発性肺線維症においては,近年遺伝的背景を含めた病態の解明が進んでいる。抗線維化薬は特発性肺線維症の進行を緩徐にする効果があるが,その効果は限定的である。遺伝性の間質性肺炎においてはiPS細胞を用いた病態解析が行われており,今後,特発性間質性肺炎の病態解明,創薬への寄与が期待される。

肺高血圧症 久保田 香菜 , 今井 靖
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 肺高血圧症は長年,死亡率の高い難治性疾患と認識されてきた。しかし,2000年代に入りその病態が徐々に解明され,新しい治療法が開発され始めると共に,患者のQOLや生命予後は飛躍的に改善している。

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 先天性中枢性低換気症候群は,neurocristopathyの一つで,呼吸中枢の障害と自律神経障害を特徴とし,典型例では新生児期から睡眠時に低換気を呈する。Hirschsprung病や神経堤細胞由来腫瘍なども合併する。病因はPHOX2B遺伝子変異で,約90%にポリアラニン伸長変異を,約10%には非ポリアラニン伸長変異を認める。ポリアラニン伸長変異の約75%がde novoの変異であり,約25%がモザイクや無症状の親からの遺伝である。治療は呼吸管理で,早期の診断・治療が重要である。

Ⅵ.血液

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 PNH溶血の治療薬としてエクリズマブが開発され,顕著な溶血抑制効果と血栓予防効果が示された。リサイクル抗体の技術により,投与間隔の延長が可能となり利便性が向上した。少量の自己皮下投与が可能なリサイクル抗体も開発段階にある。治療後の血管外溶血による貧血を克服するためには,上位補体経路(C3など)を標的とした薬剤が有効と考えられるが,安全性の検証が必須である。これらのなかには経口薬の開発が可能なものもある。

自己免疫性溶血性貧血 川本 晋一郎
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 自己免疫疾患における病的自己抗体産生の原因は不明である。筆者らは,赤血球膜タンパク質バンド3の大腸がんでの異所性発現が,続発性自己免疫性溶血性貧血の原因の一つである可能性を示す結果を得た。本稿では,大腸がん細胞株で解析したバンド3タンパク質の低酸素状態による発現制御とB-1細胞による自己抗体産生に関する知見から,自己免疫性溶血性貧血の原因解明の手がかりを探る。

特発性血小板減少性紫斑病 冨山 佳昭
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 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の病態解析と治療はこの10年で大きく進歩した。ITPの病態として,その血小板自己抗原が同定され,血小板減少機序としては必須要件である血小板破壊亢進に加え,同時に血小板造血も障害されていることが示された。慢性ITPの治療目標は,重篤な出血を予防し得る血小板数(3万/μL)を維持することである。血小板数を正常化するための過剰な薬剤(特に副腎皮質ステロイド)の長期投与は,患者quality of lifeを低下させるため,避けるべきである。

Ⅶ.代謝・免疫

原発性免疫不全症候群 野々山 恵章
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 原発性免疫不全症候群は,ヒト免疫系に関わる分子の異常による疾患で,易感染性や免疫調節障害を呈する。現在416疾患(430遺伝子)あるが,Exome解析などで新規原因遺伝子が次々に同定されている。次世代シークエンサーやFACSによる診断法が確立し,原因遺伝子の機能解析による病態解明,それに基づいた治療法の開発が進んでいる。遺伝子治療も行われている。

全身性アミロイドーシス 内木 宏延
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 21世紀に入りアミロイドーシス研究は飛躍的進歩を遂げ,分子レベルでの発症機序解明はもちろん,これを踏まえた新規治療薬が次々に開発された。本稿では,最初にアミロイドーシスの概念と分類を述べたのち,代表的病型である全身性トランスサイレチンアミロイドーシスの発症機序と最新治療を詳述する。また,最後に病型診断の重要性を厚生労働省難病班の活動を交え紹介する。

全身性エリテマトーデス 髙崎 芳成
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 全身性エリテマトーデス(SLE)の原因は不明であるが,その発症には遺伝的素因に加え,環境因子との相互作用によって引き起こされる免疫異常が深く関与している。環境因子としては感染が重要な役割を演じている可能性が高く,特にtoll like receptor(TLR)やneutrophil extracellular traps(NETs)などの研究に基づく自然免疫の関連性が注目されている。一方,T細胞やB細胞の細胞内機能の解析も進歩を遂げ,それによって見いだされた新たな標的分子に対する治療薬の開発も進められている。

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 悪性関節リウマチは,関節リウマチに重症関節外病変を伴うわが国独自の概念である。長期罹患で高い疾患活動性が持続した症例に多い。血中ではリウマチ因子高値や免疫複合体陽性を,組織では血管周囲に免疫グロブリンや補体の沈着を認める。罹患率は減少傾向にあるが,発症時には重篤となることも多く,副腎皮質ステロイド大量に加え,シクロホスファミドやリツキシマブ(本邦適応外)などによる治療を必要とする。

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 抗リン脂質抗体症候群は,抗リン脂質抗体に関連した自己免疫性血栓症および妊娠合併症である。抗リン脂質抗体は,凝固・線溶系への影響,補体の活性化,細胞シグナルへの影響を通じて血栓形成に関与すると考えられている。近年,リンパ球サブセット,HLA classⅡとの関連などが病態生理における新しい知見として報告されている。現時点では,血栓症予防のため抗血栓療法が行われているが,抗体価を下げる免疫学的な治療も模索されている。

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 皮膚筋炎では,筋内血管周囲の炎症細胞浸潤と筋束辺縁部の筋線維の選択的な萎縮が病理学的に認められ,筋内小血管を中心とした炎症と筋内微小循環の破綻が病態形成のために重要であると考えられている。筋内小血管は血管内皮細胞とペリサイトの二者から構成され,正常状態ではこれらが筋内の内部環境を調節している。筆者らは,ヒト筋内小血管由来の内皮細胞とペリサイトの不死化細胞株の樹立に成功しており,この2つの細胞を用いることで筋内小血管の体外モデルを構築することが可能となった。このモデルにより,皮膚筋炎の病態解明が分子レベルで進むことが期待される。

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 全身性強皮症は全身の線維化と血管閉塞病変を特徴とし,混合性結合組織病は強皮症様症状に全身性エリテマトーデスと筋炎の症状をオーバーラップする疾患であり,いずれも自己抗体で特徴づけられる全身性自己免疫疾患である。近年の研究の進歩は疾患関連遺伝子,病態に関わるサイトカインや血管内皮細胞の異常,新たな特異的自己抗体を明らかにした。また,予後不良病態に対する治療法が開発され,線維化を抑制する治療薬の可能性も期待されている。

シェーグレン症候群 石丸 直澄
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 シェーグレン症候群(SS)は,外分泌腺を標的とする自己免疫疾患であり,その病態は複雑で多因子疾患といわれている。本疾患は,複雑な病態のために根治療法の開発に至っておらず,対症療法が主流である。SSの病態機序として,T細胞などの免疫担当細胞の機能異常と共に,生体環境や標的臓器の変化によって発症が大きく左右されている。

成人スチル病 三村 俊英
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 成人スチル病は,スパイク状の高熱,関節痛,皮疹を主徴とする原因不明の炎症性疾患であり,臨床的には不明熱の代表的な原因疾患であるが,除外診断であることと特異的な診断マーカーに乏しく,診断に苦慮することも少なくない。希少疾患であり,診断や治療,重症度判定についてのエビデンスが十分ではない。原因は不明であるが,炎症性サイトカインの著増,自己抗体の欠如などから自然免疫系の異常な活性化が病態として推定されている。

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 血管炎症候群は一次性に血管壁に炎症が生じる病態である。その分類基準の一つであるChapel Hill Consensus Conference 2012年版(CHCC2012)では炎症の主座となる血管サイズに基づいて,大型血管炎(LVV),中型血管炎(MVV),小型血管炎(SVV)へ分類される(図)1)。LVVは主に大動脈とその主要分枝の血管炎で高安動脈炎(TAK)と巨細胞性動脈炎(GCA)を含む。MVVは各内臓臓器に向かう主要動脈とその分枝の血管炎で,結節性多発動脈炎と川崎病を含む。SVVは細動脈,毛細血管,細静脈と時に小動脈を侵す血管炎で,ANCA関連血管炎と免疫複合体性血管炎に分けられる(図)1)。バージャー病は閉塞性血栓血管炎とも呼ばれ,四肢の主幹動脈に閉塞性・全層性の血管炎を来す疾患であるが,欧米では血管炎に分類されてないために図では記載がない。本稿の扱うLVVとバージャー病の詳細は,「血管炎症候群の診療ガイドライン」(2018年3月改訂)もご参照いただきたい2)

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 血管炎症候群は,罹患血管のサイズにより大型血管炎,中型血管炎,および細動脈・毛細血管・細静脈を侵す小型血管炎の3つに分類される(Chapel Hill2012分類)(図)1)。このうち,小型血管炎に属する抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody;ANCA)関連血管炎には,顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis;MPA),多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis;GPA),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis;EGPA)の3疾患が属する。MPA/GPAは,自己抗体であるANCAが病態形成に重要な役割を果たす。発症機序には不明な点も多いが,何らかの遺伝・環境要因により産生されたANCAが,好中球細胞膜上に表出した抗原(MPO,PR3)に結合することにより,補体依存性に好中球が活性化され,局所の血管内皮に集積・接着ののち血管炎を生じ,皮膚,腎臓,肺,神経,上気道などに,虚血・出血による障害を引き起こすと考えられている。一方,中型の動脈に病変のみられる結節性多発動脈炎の原因は不明のままである。血管炎の国際分類として,Wattsらの提唱したアルゴリズム(European Medicines Agency algorithm)が広く用いられている2)

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 もやもや病は,内頸動脈終末部が慢性かつ進行性に狭窄し,代償性に異常血管網が形成される脳血管疾患である。近年,血管狭窄部の病理学的特徴や,易出血性もやもや血管の解剖学的特徴が明らかになりつつある。更に,もやもや病感受性遺伝子であるRNF213が同定されたが,発症原因をRNF213のみでは必ずしも説明できず,今後はRNF213プラスαである発症促進ないし抑制因子の特定が必要である。

マルファン症候群 武田 憲文
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 マルファン症候群の生命予後は,大動脈瘤・解離に対する治療法の発達により改善傾向にあるが,一生涯にわたって進行する多系統障害への対策は十分でない。原因遺伝子(FBN1TGFBR1TGFBR2遺伝子など)が特定され,疾患モデル動物を用いた多くの研究が行われており,本稿では胸部大動脈瘤・解離症の発生機序を中心に最近の話題について概説する。

エーラス・ダンロス症候群 古庄 知己
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 エーラス・ダンロス症候群は,皮膚・関節の過伸展性,各種組織の脆弱性を特徴とする遺伝性結合組織疾患である。臨床像,原因遺伝子,生化学的異常に基づき13の病型に分類されている。頻度の高い古典型,血管型,関節型,およびその他の希少病型がある。コラーゲン分子,もしくはその成熟に関わる修飾酵素などをコードする遺伝子の病的バリアントにより発症するが,関節型では原因遺伝子は不明である。重篤な動脈破裂・解離を生じる血管型ではβ遮断薬セリプロロールの有効性が期待されている。

Ⅷ.内分泌

下垂体機能異常 堀口 和彦 , 山田 正信
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 下垂体機能異常は,下垂体から分泌されるホルモンのうち,単独あるいは複数のホルモン分泌低下ないし分泌亢進により,末梢ホルモンの欠乏あるいは過剰によって様々な症状を引き起こす疾患である。原因の多くは下垂体腺腫によるが,最近では免疫チェックポイント阻害薬の登場により下垂体炎も注目されている。これらの疾患の遺伝子異常を中心とした発症メカニズムや臨床的な問題点の現状を概説する。

クッシング病 方波見 卓行 , 川名部 新
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 クッシング病は,ACTHの自律的過剰分泌とグルココルチコイドに対する部分的抵抗性によって特徴づけられる致死性疾患である。しかし,その治療成績は他の下垂体腺腫と比べて不十分と言わざるを得ない。そこで本稿では,近年明らかとなったクッシング病の主要な分子基盤を紹介すると共に,期待される薬剤,創薬の現状と展望についても触れたい。

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 家族性高コレステロール血症(FH)は,LDL受容体経路に関わる遺伝子変異のために,LDL代謝に遅延を来す遺伝病である。FHは,高LDLコレステロール(LDL-C)血症,皮膚および腱黄色腫,若年性動脈硬化症による冠動脈疾患を三主徴とする1)。FHホモ接合体は,LD受容体経路に関わる遺伝子の2つに変異を認めるものであり,従来考えられていたより頻度は高い。FHホモ接合体は,幼少期から顕著な高LDL-C血症と,スタチンなどのLDL受容体経路を活性化することで効果を示す薬剤の反応性が悪い。FHホモ接合体は,急速に進行する動脈硬化性心疾患のために極めて予後が悪く,早期の的確な診断と厳格な治療が必要である。

甲状腺機能異常 田上 哲也
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 甲状腺機能異常を呈する疾患のうち,自己免疫性甲状腺疾患であるバセドウ病と慢性甲状腺炎(橋本病)は小児慢性特定疾病に指定されており,両者とも根治療法といえる治療方法がない。不適切TSH分泌症候群(SITSH)を呈するTSH産生腫瘍と甲状腺ホルモン不応症は指定難病に指定されており,両者ともSITSHのコントロールは容易ではない。

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 21-水酸化酵素欠損症は,21-水酸化酵素の活性低下によりアルドステロン・コルチゾール分泌不全および副腎アンドロゲン過剰を特徴とする。従来治療評価指標として用いられてきた17OH-progesterone,副腎アンドロゲン(DHEA,DHEA-S,アンドロステンジオン),テストステロンは決して鋭敏で正確なものではないと報告されている。本稿では,近年ヒト副腎で産生され,アンドロゲン活性を有するステロイドホルモンとして報告された11-oxygenated androgensを概説し,21-水酸化酵素欠損症の治療評価指標の可能性について述べる。

アジソン病 田浦 大輔 , 曽根 正勝
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 アジソン病は,副腎に病変が原発し,副腎皮質ホルモンが慢性的に生体の必要量以下になり,これらステロイドホルモン欠乏による様々な症状を呈する疾患で,病因から自己免疫性と非自己免疫性に分類される。アジソン病発症機序については,副腎皮質自己抗体の関与など研究が進められているが,完全に解明されているわけではない。本稿では,主に自己免疫性に発症するアジソン病の病態,更には診断,治療指針につき紹介する。

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 副甲状腺機能低下症は,副甲状腺ホルモン(PTH)の作用障害により,低カルシウム(Ca)血症・高リン(P)血症とそれに伴う種々の症状を呈する疾患である。その原因としては,①PTH不足性副甲状腺機能低下症と,②PTH作用不全に基づく偽性副甲状腺機能低下症(PHP)がある。いずれの疾患型においても,血清Ca濃度を維持する治療戦略がとられる。

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 ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症は,リンの不足(尿中への過剰排泄)による骨の石灰化の障害を主病態とする疾患である(別名は低リン血症性くる病・骨軟化症)。原因としては,尿中リン排泄を促進するFGF23(線維芽細胞増殖因子23)が増加することが多く,これをFGF23関連くる病・骨軟化症と呼ぶ。その代表的疾患が,X染色体優性低リン血症性くる病(X-linked dominant hypophosphatemic rickets;XLH)で,PHEX遺伝子の機能喪失型変異が原因となる。最近,FGF23関連くる病・骨軟化症の治療薬として抗FGF23中和抗体が開発され,予後の改善が期待されるが,更なる治療薬が必要な可能性もある。

Ⅸ.骨・関節

後縦靱帯骨化症 小池 良直 , 池川 志郎
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 後縦靱帯骨化症(OPLL)は国の難病にも指定されている原因不明の疾患である。本稿ではOPLLの病因解明を目的に行われた全ゲノム関連解析(GWAS)の結果と,疾患感受性遺伝子RSPO2の機能,そして今後のOPLLの病因解明の展望について述べる。

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 特発性大腿骨頭壊死症(ONFH)は,大腿骨頭に発生する骨の虚血性壊死である。危険因子としてアルコールやステロイドが報告されているが,その病態はいまだ不明であり,遺伝的要因の関連が示唆されている。本稿では,ONFHの全ゲノム関連解析(GWAS)の結果と同定された疾患感受性遺伝子の一つであるLINC01370の機能,およびONFHのゲノム研究の今後の展望について述べる。

若年性特発性関節炎 清水 正樹
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 全身型若年性特発性関節炎の病態には炎症性サイトカインの過剰産生が深く関与し,マクロファージ活性化症候群とinterleukin(IL)-18,慢性関節炎とIL-17との関連など,様々なサイトカインの役割が明らかになってきている。IL-1βやIL-6を標的とした生物学的製剤が臨床応用され劇的な効果を挙げているが,適切な初期治療の選択指標の確立や難治性病態に対する新規治療薬の開発など,今後の更なる研究の進展が期待される。

Ⅹ.皮膚

天疱瘡 山上 淳 , 天谷 雅行
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 天疱瘡は,表皮細胞間接着において重要な役割を持つデスモグレイン(Dsg3およびDsg1)に対する自己抗体によって,皮膚・粘膜に水疱を生じる自己免疫疾患である。抗Dsg3抗体を持続的に産生し,天疱瘡の病理を再現できるモデルマウスが病態解析に活用されている。これまで,天疱瘡の治療はステロイドが中心であったが,今後は自己抗体産生を担うB細胞を標的とした治療法が期待される。

表皮水疱症 新熊 悟
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 表皮水疱症は表皮-真皮接着部の構成タンパク質をコードする遺伝子の変異によって,軽微な外力により容易に水疱やびらんを生じる疾患である。タンパク質補充療法や遺伝子治療,細胞療法など,様々な治療法が開発されている。筆者らが行っている遺伝子編集技術を用いたreframing治療も含め,表皮水疱症の最新治療戦略について概説する。

膿疱性乾癬(汎発型) 多田 弥生
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 膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)は厚生労働省の指定する指定難病である。臨床的に灼熱感を伴う紅斑と無菌生膿疱の皮疹を認め,発熱,全身倦怠感などの全身症状を伴う。再発を繰り返す特徴があり,関節炎を伴うこともある。病理組織学的には,Kogoj海綿状膿疱を特徴とする好中球性角層下膿疱を認める。尋常性乾癬が先行しないGPPの大半はこのIL36RN遺伝子変異があり,IL-36受容体抗体がGPPに有効性を示していることから,近年IL-36の病態における重要性が示唆されている。

ベーチェット病 竹内 正樹
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 ベーチェット病は,全身性の炎症を引き起こす原因不明の炎症疾患である。近年の遺伝子解析研究により,ベーチェット病の病態には病原体の生体防御における自然免疫の機能異常が発症に関与することが示唆された。また,ベーチェット病診療の均てん化を目的として,厚生労働省のベーチェット病研究班が主体となってわが国の実臨床に則したガイドラインを作成し,2019年に「ベーチェット病診療ガイドライン2020」として出版された。

神経線維腫症 戸田 正博 , 田村 亮太
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 神経線維腫症(NF)は,中枢または末梢神経に多数の神経系腫瘍が生じる難治性の遺伝性疾患で,しばしば皮膚病変を伴う。NF1,NF2,schwannomatosisの3型に分かれる。NF1,NF2の責任遺伝子は,それぞれ第17染色体(17q11.2)のneurofibromin,第22染色体(22q11.2)のmerlinで,腫瘍抑制遺伝子の機能不全により無秩序な細胞増殖を来す。一方,schwannomatosisは現在なお未解明な部分が多いが,家族発生例では腫瘍抑制遺伝子SMARCB1あるいはLZTR1に変異を認める。現在,それぞれの疾患の病態に基づき,分子標的薬を中心に様々な臨床試験が行われており,ごく最近,NF1の治療薬として初めてMEK阻害剤selumetinibがFDAに承認された。

結節性硬化症 佐藤 敦志
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 結節性硬化症は非常に多彩な症状を呈する難病であるが,mTORC1シグナル伝達系の機能亢進というシンプルな分子病態を原因とする。幸運にもその分子病態に作用し,ヒトに使用可能な薬剤が既に発見されており,現在ではその分子標的薬を用いた治療が実用化されている。本疾患の研究はまた,神経発達症や認知機能障害の治療薬開発にも資する可能性がある。

色素性乾皮症 菅澤 薫
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 色素性乾皮症(XP)は,紫外線誘発DNA損傷の修復異常による光線過敏症状と皮膚がんの好発を特徴とする潜性遺伝疾患である。XPの責任遺伝子の同定と機能解析は,DNA損傷の修復や細胞応答に関する分子機構の理解を通して,紫外線曝露による皮膚症状や発がんなどの病態メカニズムの解明に貢献してきた。一方,わが国では特にXPA遺伝子の創始者変異の影響により難治性の神経症状を併発する症例が多く,その発症メカニズムの解明と治療法の開発が切望されている。

先天性魚鱗癬 秋山 真志
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 本稿においては,筆者らが先天性魚鱗癬(CI)の発症メカニズムとしての研究を進めている表皮の機能性脂質,特に超長鎖脂肪酸を有するアシルセラミドの異常とCIの病態について焦点を当てる。CIは角質の肥厚を全身または広範囲の皮膚に認める一連の疾患群であり,多くの病型では表皮機能脂質の異常による皮膚バリア機能障害を病態として有する。

Ⅺ.感覚器

網膜色素変性症 加藤 誠志 , 世古 裕子
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 日本人の失明原因第2位の網膜色素変性症についてゲノム解析研究が進展し,その原因遺伝子が次々と明らかになってきた。最も患者数が多いのはEYS遺伝子の変異に起因するものであり,日本人に特有の複数の病因変異が見いだされた。また,網膜変性疾患に対する様々な治療法も開発され,そのなかの幾つかは臨床試験に入っている。本稿では,日本人のEYS遺伝子の変異を中心に紹介し,網膜変性疾患の治療法について今後の展望を述べる。

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 若年発症型両側性感音難聴は,若年(40歳未満)で発症する両側性の進行性感音難聴を主訴とする疾患である。病態はいまだ不明であるが,最近の分子遺伝学の進歩により,少なくとも7種類の原因遺伝子の関与が明らかになり,今後,病態メカニズムの解明,治療法の開発が望まれる疾患である。

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目次

書評 押味 貴之

財団だより

次号予告

基本情報

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生体の科学
71巻5号 (2020年10月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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