手術 74巻4号 (2020年3月)

特集 消化器外科手術の論点2020 誌上ディベートと手術手技

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消化器外科手術の論点2020 誌上ディベートと手術手技

北川 雄光
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多くの先達によって確立された日本の消化器外科手術の標準術式は,合併症発生率,長期成績,いずれの観点からも世界に冠たる高いレベルを誇っていることは,皆さま,異論のないところと存じます。「手術」誌は,この日本の伝統的技術を次の世代に脈々と継承していくうえで,一定の貢献をしてきたものと自負しております。

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当科では1996年より左側臥位を腹腔鏡下食道癌根治術の標準術式として,現在までに1,200例以上施行している。左側臥位は助手のスキルが求められることなどを理由に敬遠されることが多い。2010年に数例ほど腹臥位を取り入れたが,最終的には現在の人工気胸併用左側臥位を標準化し,良好な視野の確保と助手の難度軽減を実現し,出血量を含む手術成績も向上した。左側臥位における当科の特徴は,食道癌手術で最も重要な反回神経周囲リンパ節郭清において,反回神経を正常な位置から動かすことなく郭清する手技であり,これにより反回神経麻痺を大幅に減少させた。反回神経麻痺は誤嚥性肺炎を誘発する可能性が高く,反回神経麻痺を予防することは安全な胸腔鏡下食道癌手術を行うことにつながる。

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左側臥位胸腔鏡下食道癌手術は,腹腔鏡手術の延長線上の概念として導入しようとすると,胸腔内の縦方向の奥行き感に違和感を覚えることがあると思われる。

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胸腔鏡下食道癌手術は,日本内視鏡外科学会の内視鏡外科手術に関するアンケート調査によれば,年々増加傾向にあり,2017年には2,300件以上の食道癌根治術が胸腔鏡下に行われている1)。また,年間約10人程度の外科医が食道癌手術で内視鏡外科手術の技術認定を受けている。これは,各施設で手術術式が定型化され,手術が安全に行われるようになってきたことを反映していると考えられる。

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食道癌の胸管への直接浸潤がある場合を除き,胸管合併切除は胸管周囲リンパ節の郭清を目的とする。胸管周囲リンパ節は食道の臓器鞘の外側に位置するが,存在の証明されている食道から胸管に注ぐリンパ経路の介在リンパ節であり,深達度T3以深の症例で10%,それより浅い病変でも2%の転移率を示す。一定の郭清効果も認められ,T3, T4食道癌では原則的に郭清すべきリンパ節であると考える。

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手術は時代とともに変化する。たとえば,乳癌の分野では広範な合併切除を伴う乳房切断術はもはや消滅したといってよく,一方,直腸癌の分野では直腸間膜全切除(total mesorectal excision;TME)が標準である。日本の消化器外科の牙城である胃癌の分野でも,われわれの頭を国際標準に切り替えなければその牙城を守り続けるのが困難であることを,佐野が説得力ある文章で述べている1)。食道癌の手術もこの流れの例外であるはずがない。しかし,郭清縮小への流れは慎重かつ精緻な比較検討によって裏付けられなければ,いたずらに再発のリスクを増大させることにつながる。かつての標準であった徹底した郭清術式のプラス面,マイナス面をここでもう一度確認しておくことは大いに意味のあることだろう。

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食道癌根治術における胸管合併切除の是非については,これまで綿々と議論が交わされてきたがいまだ一定したコンセンサスは得られていない。われわれは進行食道癌であっても可能なかぎり胸管を温存した胸管沿いリンパ節郭清を徹底しており,予防的郭清目的の胸管合併切除は基本的に「不要」と考えている。本稿では胸管温存食道癌根治術の妥当性を示すとともに,われわれの実際の手術手技について解説する。

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胃管には全胃管,亜全胃管,半切胃管,大彎側細径胃管などがあるが,それぞれ利点と欠点があり,優劣に関する結論は得られていない。胃壁内に豊富に存在する血管網を温存できる点が,全胃管や亜全胃管を推奨する際の主な理由であるが,臨床試験の結果からは,亜全胃管と細径胃管で吻合部となる部位の胃管血流に差はなく,結果的に縫合不全の発生にも差がないと考えられる。

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食道切除再建術後の縫合不全は,患者状態を悪化させ時に致命的となり得ることに加え,食道癌患者の長期予後を悪化させる可能性も指摘されている。縫合不全を防ぐため,各施設でさまざまな工夫がなされているが,再建臓器,再建経路,吻合部位,吻合法など多くの要素があり,一定の見解は得られていない。

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食道癌の術後合併症のなかでも縫合不全の発症頻度は5~10%ほどとされる1,2)。発症すると重症化し,生死に直結することがあるため,最も注意が必要な合併症の1つである。また,再建方法は嚥下障害や摂食障害といった術後のQOLにも影響するため,いかに安全で質の良い再建ができるかが重要となる。

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食道切除後の標準的再建ルートとして,後縦隔再建と胸骨後再建が挙げられる。後縦隔再建は,縫合不全が少なく再建距離が最も短いため,咽喉頭合併切除例でも胃管再建が可能であり,頸部吻合部付近での屈曲が少なく嚥下機能が比較的保たれるため,反回神経麻痺合併例や高齢者に対し有用である。開心術後や重症不整脈症例でも術野展開が容易で術後の胃管の心圧排が少なく,安全に施行できる。進行胃管癌や縦隔再発時の治療が困難な点がデメリットであるが,外科的剝離面が陽性となるような症例は局所再発のリスクが高く,術後放射線治療が必要となるため,胸骨後再建を選択すべきで,胃管癌に関しては後縦隔再建時の内視鏡フォローアップを見直し,早期発見に努めるべきである。まれな合併症として後縦隔再建時の胃管気管瘻の重篤化が報告されているが,当科では経験していない。各再建ルートの特徴を理解し,症例に応じた最適な選択に努めるべきである。

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食道癌根治手術は高侵襲手術であり,手術侵襲の低減を目指し胸腔鏡手術,縦隔鏡手術,ロボット手術が導入されつつある。また,術後合併症も決してまれではなく,合併症によっては再発リスクを上昇させるという報告1-3)や,患者のQOL低下にかかわるものも存在する。このため,合併症をいかに減らすかが治療成績向上における大きなテーマであり,各施設においてさまざまな工夫と努力が積み重ねられている。食道癌手術のベストプラクティスが何かというテーマについてはいまだ結論が出ておらず,再建ルートについても大規模な前向き臨床試験は存在しないため,施設や主治医の経験や習熟度をもとに行われているのが実状である。食道癌手術の歴史を顧みれば,わが国において胸壁前,胸骨後,後縦隔再建のすべてがそろったのは1965年頃4)とされており,なかでも後縦隔再建は最も新しい再建ルートである。現在,胃管再建における再建ルートの選択は後縦隔ルートと胸骨後ルートの2つに,ほぼ二分された状況である。

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食道癌に対する食道切除後の頸部食道胃管吻合再建における再建経路において,主に用いられる再建経路は胸骨後と後縦隔である。これらの優劣については議論が多いところであり,一定の見解はない。われわれは2014年以降,胸骨後経路を標準術式としている。

本稿では,われわれが胸骨後経路を第一選択とする理由について,実際の手術手技を交えて述べることとする。

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胃癌に対する腹腔鏡手術はすでに25年以上の歴史を有する。

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胃癌に対する腹腔鏡手術は1991年に世界で初めて行われ,すでに25年以上が経過した。多くの外科医の努力によってその手技は発展を遂げ,幽門側胃切除,胃全摘,噴門側胃切除などの標準的術式は,ほぼ完成の域に達している。また高画質画像システムの進歩,腹腔鏡手術のために開発された高機能エネルギーデバイスは,手術の安全性確立とクオリティの向上に大きく寄与した。近年はいくつかの大規模前向き試験やbig-dataを用いた研究により,その安全性や腫瘍学的妥当性も示されつつある。本稿では現時点における胃癌に対する腹腔鏡手術の位置付けと完成された標準的手技を解説する。

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2009年にda Vinci® Surgical Systemが国内で薬事承認を受け,2012年に前立腺全摘術に対するロボット支援手術が保険収載されて以降,多くの施設でロボット支援手術が導入された。

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上部早期胃癌・食道胃接合部癌に対する縮小・機能温存手術として,噴門側胃切除が行われ,その再建には食道残胃吻合・空腸間置法・ダブルトラクト法などが行われる。ダブルトラクト法再建は,食道胃接合部癌や食道浸潤を伴い切離が高位となった症例においても,対応可能であるところや,術後逆流性食道炎が比較的少ないことなどがメリットとして挙げられる。

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近年,早期胃癌に対して縮小・機能温存手術が行われることが増えている。PGSAS(Postgastrectomy Syndrome Assessment Scale)試験の結果,上部早期胃癌・食道胃接合部癌に対する噴門側胃切除は,胃全摘と比較して下痢やダンピング症状が少ないこと,食事量が保たれ,体重減少が少ないことが報告されている1)。今後,上部胃癌・食道胃接合部癌が増えることが予想され,根治性を担保できる郭清範囲の設定とともに,良好な術後QOL(quality of life)を維持できる再建法の確立が望まれる。胃癌治療ガイドラインでは,噴門側胃切除の対象として,胃上部の腫瘍で1 / 2以上の胃を温存できる症例と記載され,再建方法に関しては食道残胃吻合・空腸間置法・ダブルトラクト法が記載されている2)。

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噴門側胃切除術後の再建法としては,近年,腹腔鏡手術の普及も伴い,食道残胃吻合法とダブルトラクト法が主流となってきているように感じる。食道残胃吻合法は生理的で機能温存の面からも理想的であるが,課題は効率的な胃食道逆流の防止であり,単純な食道残胃吻合法は胃食道逆流の発生により大幅な術後QOLの低下につながる可能性がある。一方でダブルトラクト法は,胃食道逆流の頻度は少ないものの,食物が残胃を経由せずに直接小腸に流れ込むことによる機能温存面での課題や,術後の残胃観察の困難性などの問題がある。それぞれ一長一短があるが,効果的な逆流防止機構を有する食道残胃吻合法が開発されれば,それが最も理想的な再建法ではないかと思われる。

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消化器外科領域において,臓器切除後の安全かつ確実な再建は必要不可欠である。近年,吻合器・縫合器の進歩は著しく,操作性と安全性が向上した結果,胃癌に対しても腹腔鏡下完全体腔内吻合が急速に普及してきた。さらにロボット支援手術の出現が高いパフォーマンスにつながることが期待されている。後合併症のない再建を目指すうえで重要となることは,外科医が器械の特性を十分理解し,精通することにある。さらに手術手技のコンセプトを理解し,1つひとつの手技を安全かつ確実に遂行していくことが肝要と考える。

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1881年1月,Theodor Billrothが前庭部胃癌患者に対して幽門側胃切除術を行い,再建を残胃と十二指腸の漿膜筋層端々吻合(Billroth-Ⅰ法)としたことに胃癌手術の歴史が始まる1)。消化器外科領域において,術後のQOL(quality of life)を高めるうえでも安全かつ確実な再建は必要不可欠である。近年,吻合器・縫合器の進歩は著しく,操作性と安全性が向上した結果,腹腔鏡手術での使用頻度が急速に伸びてきた。その再建法も,小開腹創から直視下に自動吻合器を用いて器械吻合してきたものから,自動縫合器を複数本使用した完全体腔内再建法(Overlap吻合・Delta吻合・三角吻合)へと変遷してきた。われわれは2018年3月よりロボット支援手術を導入し,全胃癌症例をその適応としている。再建において意識すべき着眼点は,腹腔鏡手術と大きな相違点はないものの,ロボット手術の特性を理解する必要がある。今回,ロボット支援下に施行するBillroth-Ⅰ法(Delta吻合)再建の実際の手技を紹介する。

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Roux-en-Y法(以下,R-Y法)はスイスのLausanne大学のCésar Roux(1857~1934年)により1893年に報告された。胃全摘後の再建では最も広く行われており,幽門側胃切除後の再建法としてもBillroth-Ⅰ法(以下,B-Ⅰ法)再建とならぶ標準的な再建法の1つである。

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当科では経口的アンビル挿入法を2000年に初めて導入し,改良を加えながらその有用性を報告してきた。同手技の主な手順は以下である。

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腹腔鏡下胃全摘後の再建は,視野展開や手技が煩雑なため,難度が高い。また,縫合不全や縫合部狭窄等の合併症回避のため,簡便かつ安全で精度の高い吻合手技の確立が必要である。われわれは食道空腸吻合における経口的アンビル挿入法を2000年に初めて導入し,改良を加えながら,その有用性を報告してきた1,2)。

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胃癌に対する胃全摘術は胃癌治療ガイドラインにおいては開腹手術が標準治療であり,腹腔鏡手術はいまだ広く推奨されてはいない1)。

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横行結腸癌手術の難度を引き上げる要因として,動脈系ならびに静脈系の血管解剖の複雑さ,さらに十二指腸,膵臓を含む重要臓器が隣接していることが挙げられる。すなわち,これらを容易に認識,剥離できることが望ましい。頭側アプローチ(superior approach)はまず網嚢腔に入り,胃後壁と横行結腸間膜前葉の癒着を剥離することによって血管系や膵臓のラインなどの解剖学的な位置関係を把握しやすく,さらに脂肪が多く,これらを認識し難い肥満患者にも適している。副右結腸静脈から胃結腸静脈幹にたどり,上腸間膜静脈(SMV)の前面を容易に認識することができること,さらに左側方向に膵下縁に沿って剥離を進めることで,中結腸動静脈および上腸間膜動脈(SMA)の輪郭を確認することができる。Superior approachを行うことは,解剖学的な全体像や解剖構造を確認しやすく,安全な手術に寄与すると考えられる。

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横行結腸癌の多くはランダム化比較試験の除外条件とされており,また2019年版の大腸癌治療ガイドライン1)では,「横行結腸癌に対する腹腔鏡手術は高難度であり,解剖学特性に支配血管根部周囲の郭清手技の難易度を考慮して適応を決定する」と記載されている。さらに肥満症例における開腹手術への移行率が高い点や手術時間が長い点,合併症率が高い点などが問題点に挙げられている。

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ポート数は5本としている。カメラポートを臍の尾側に挿入する理由は,内側アプローチ(medial approach)時の十二指腸や膵頭部が良好な視野で確認でき,さらに最も精緻な操作が必要となるSMV上の郭清がco-axial settingで行えるためである。とくに,内臓下垂のある痩せた女性の場合では,中結腸動静脈(middle colic artery / vein;MCA / V)が尾側に位置するためカメラポート位置は重要である1-3)。

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直腸癌は骨盤という限られたスペースに消化管,泌尿生殖器,神経大血管,筋肉などの重要臓器が密集している解剖学的特徴から手術難度が高い。つまり,腫瘍の根治性担保のために不必要な拡大手術を行えば,神経損傷や人工肛門により術後のQOL低下につながる。また,QOL重視の不適切な縮小手術を行えば再発のリスクが生じる。その両立のための至適域は狭く,手術に熟練を要する。

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腹腔鏡手術の登場で,その拡大視効果により外科的微細解剖の理解が深まり,また録画による手術の復習や教育が容易になった。直腸癌手術は骨盤内という限られたスペースに重要臓器(消化管,泌尿生殖器,神経大血管,筋肉など)が密集する解剖学的な構造から,腹腔鏡手術の拡大視効果の恩恵を最も受けたと言っても過言ではない。しかし,それでも手術難度は高く,腫瘍学的な安全域を確保するために不要な拡大手術を行えば,神経損傷や人工肛門などで術後のQOL低下につながり,術後QOLを重視して不適切な縮小手術を行えば癌再発のリスクを抱えることとなる。

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当科では直腸癌に対する根治手術の第一選択は腹腔鏡手術であり,ロボット支援手術は積極的には行っていない。また,肛門より10~12 cm以内(Ra~Rb)に腫瘍下縁が存在する直腸癌に対しては,原則として全例に経肛門アプローチ(transanal total mesorectal excision;taTME)を併用した2チーム手術を施行している。

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直腸周囲には幾重にも筋膜が存在し,直腸癌手術において代表的な3つの剥離層,a・b・c層が存在する。直腸癌手術では癌の根治性の確保と術後泌尿生殖器系障害の発生がpitfallとなるが,それには剥離層の選択が重要となる。われわれは癌の腫瘍学的特徴や術者の技能を考慮しながら,多くの症例で直腸固有筋膜とDenonvilliers筋膜・下腹神経前筋膜の間の「a層」での剥離を行っている。a層での剥離を行ってきた静岡県立静岡がんセンターからの報告では神経障害の少なさと再発率の低さが示されている。

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直腸癌手術は,直腸および直腸間膜の完全切除を行うTME(total mesorectal excision)およびTSME(tumor-specific mesorectal excision)が基本手術である。直腸周囲には骨盤内臓器に分布する自律神経が張り巡らされており,この自律神経を障害しないよう注意を払うことも肝要である。癌の根治性と機能温存を両立させるためには幾重にも重なった直腸周囲の筋膜構造から最適な剥離層を選択する必要がある。今回はこうしたことを念頭に置き,直腸癌手術における適切な剥離層について検討する。

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直腸癌手術の第一の目的は腫瘍を局所に残さずに切除することである。これには異論がないであろう。実際に,剥離面から腫瘍までの距離であるCRM(circumferential resection margin)が1 mm以下であることをCRM陽性と呼び,直腸癌術後局所再発の重要なリスクファクターであることが知られている。

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潰瘍性大腸炎(UC)に対する括約筋温存手術は結腸全摘・回腸直腸吻合術(IRA)から始まり,大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術(IPAA),大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術(IACA)へと発展していった。わが国ではUCに対する括約筋温存手術の基本術式はIPAAとIACAのいずれかとされている。

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潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)の内科的治療の選択肢が増加している。それに従い,UCに対する手術数は減少傾向である。最近の症例で著明になっているのは,癌/ dysplasiaで手術となる症例が急激に増加していることと,手術時年齢が高齢化していることである。UCに対する括約筋温存手術では,大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術(ileal pouch anal anastomosis;IPAA)と大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術(ileal pouch analcanal anastomosis;IACA)が基本術式である。わが国では,施設ごとにどちらの手術を第一選択にするかが決められていることが多い。今後は年齢や手術適応による術式決定が重要になってくるものと思われる。

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潰瘍性大腸炎に対する手術として,現在では大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術が標準術式となっている。肛門温存手術としての再建法は,回腸嚢と肛門を吻合する回腸嚢肛門吻合術(ileal pouch-anal anastomosis;IPAA)と,回腸嚢と直腸を肛門管上縁の高さで吻合する回腸嚢肛門管吻合術(ileal pouch-anal canal anastomosis;IACA)の2つの方法に大別される。それぞれの術式の特徴を十分に理解したうえで,症例ごとに適切な術式を選択することが重要である。本稿ではIACAについて概説する。

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肝切除術は肝細胞癌に対する最も有効的な治療法である。肝細胞癌は門脈侵襲・肝内転移をきたすため,担癌領域の解剖学的切除が望ましいとされている。しかしながら,多くの場合,慢性肝炎・肝硬変を有し,広範囲切除の適応外であるため,過不足なく肝切除を行うことが重要である。

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肝切除術は肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;HCC)に対する最も有効的な治療法である。HCCは門脈侵襲・肝内転移をきたすため,根治性の面から担癌領域の解剖学的切除が望ましいとされている。しかしながら,多くの場合,慢性肝炎・肝硬変を有しており,広範囲切除の適応外となる。亜区域切除は癌の根治性と肝予備能の温存の双方を満たす小範囲の解剖学的肝切除として1980年代に幕内らによって報告された術式である1-3)。

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解剖学的肝切除術とは門脈枝支配肝領域を過不足なく切除する肝切除術式と定義できる。肝亜区域切除術は,Couinaud分類による肝亜区域,すなわち門脈3次分枝の支配領域を選択的に単独であるいは組み合わせて切除する解剖学的肝切除術式であり,さらに末梢の亜亜区域(門脈4次分枝支配領域)の切除も含めてよいと考える。その臨床的意義として,肝切除の安全性の向上,切除マージンの確保,根治性の向上,などへの寄与が挙げられる。肝亜区域切除術の有用性は,とくに経門脈性播種を進展様式とする肝細胞癌においてこれまでも示されてきた1)。慢性肝障害を背景とすることの多い肝細胞癌に対しては,肝切除量の制限と腫瘍学的根治性の担保という2つの要素を追求することが可能な術式として肝亜区域切除術はしばしば選択される。

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肝離断は肝実質の破砕と露出した脈管処理の繰り返し手技である。われわれは,肝実質破砕法の1つであるclamp crushing法を用いた肝離断を開腹肝切除から行っており,腹腔鏡下でも本手技を用いている。本稿では腹腔鏡下肝切除でclamp crushing法を上手く行うコツ,注意点や利点について解説した。

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腹腔鏡下肝切除は2016年4月に血行再建や胆道再建を伴わないすべての肝切除が保険収載され,現在多くの施設で普及している術式である。われわれも腹腔鏡下肝切除を積極的に行っている。肝実質破砕法は,開腹肝切除のときからclamp crushing法で行っており,腹腔鏡下肝切除でもclamp crushing法を用いている。

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腹腔鏡下肝切除術は2010年の保険収載と2016年の適応拡大に伴い,わが国でも普及の一途をたどっている。学会・研究会では本術式の安全な普及と適応拡大,教育などが盛んに議論され,注目の分野である。従来の開腹肝切除術と同様,腹腔鏡下においても肝離断法はCUSA法とclamp crushing法に大別され,各施設の判断により選択されている。当然それぞれの優れた特徴があり,一概に優劣はつけがたいが,本稿では当科が普段使用しているCUSAの使用法を通じて,本法に特有の肝離断法とその有用性を紹介する。

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大量肝切除後の肝不全を予防する術前処置である門脈塞栓術(PVE)後の肝再生割合は2週間で全肝比率の8%であり,予定残肝(FLR)が30%未満の場合は安全域とされる40%を超える割合は2週間で22%と低率である。肝再生をより促進させ得る方法として2012年にドイツから報告された門脈の結紮と肝離断を先行させる二期的肝切除はALPPSと命名され,欧州・南米に広がった。

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2012年にドイツから報告され,欧州で盛んに行われているALPPS(associating liver partition and portal occlusion for staged hepatectomy)は門脈の結紮と肝離断を先行させる二期的肝切除である1)。一期目手術後の肝再生の速度は門脈塞栓術(portal vein embolization;PVE)の4倍だが,術後の肝不全発生割合が高く,在院死亡率は肝転移の切除で8%,胆道癌の切除では30%を超えている2)。したがって,ALPPS原法をそのままわが国に導入することは難しいが,肝再生の速度が速いことが待機期間の短縮や切除率の向上に結びつく可能性があり,原法の問題点を改善して安全に施行できれば適応を限定して利用する意義があると考えられる。

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肝切除後に最も憂慮すべき合併症は術後肝不全であり,術後死亡のほとんどが術後肝不全に起因するといっても過言ではない。術後肝不全の発生率は1~5%と報告されており,近年,徐々に低下傾向であるが,いったん肝不全を発症すれば致命的になることも多く,最大限の予防策を講じることが肝要である1)。

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pT2(ss)胆嚢癌に対する至適肝切除領域についてはいまだコンセンサスが得られていない。

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胆嚢癌の多くは無症状であり,診断された時点で主要脈管や他臓器に浸潤を認めたり,さらには肝転移やリンパ節転移を認めたりする進行例が多く,治療が困難であることが多いため,予後不良の疾患とされる。現時点ではsurgical marginを確保した外科切除(R0切除)のみが長期生存が望める治療であるとされ,胆嚢癌に対する外科切除術式としては,その多様な進展様式に応じた安全で根治性の高い術式を選択する必要がある1-3)。

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胆嚢癌において治癒を期待できる唯一の治療法は根治的外科切除である。本疾患は胆嚢の解剖学的特徴を背景に,進行するにつれ容易に肝浸潤,肝十二指腸間膜浸潤,血管浸潤,リンパ節転移,肝転移などの多彩な進展様式を示す1)。壁深達度・胆嚢周囲進展度(T因子)が臨床像を左右する最も重要な因子であり,進達度によって悪性疾患としての臨床像や予後がまったく異なる。すなわち,pT1(壁進達度m~mp)の早期癌ではリンパ節転移の頻度も低率で予後が良好であるのに対して,pT2(ss)以深となるとリンパ節転移陽性率が急上昇し,pT3やpT4の高度進行癌の予後はきわめて不良である。このため外科的治療も壁進達度に応じた適切な術式選択を要する。

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胆道癌診療ガイドラインでは「十二指腸乳頭部癌に対しては膵頭十二指腸切除術が標準治療であり,局所的乳頭部切除術(内視鏡的,外科的)は推奨されない」と記載されている。しかし,膵頭十二指腸切除術はいまだ手術侵襲の大きい術式であり,その合併症リスクも少なくない。一方,早期十二指腸乳頭部癌はリンパ節転移の可能性が非常に低く,予後良好な腫瘍であるため局所的乳頭部切除などの縮小手術も考慮される。われわれは十二指腸乳頭部腺腫に対する切除生検としての局所的乳頭部切除に加え,十二指腸浸潤や膵管・胆管進展を認めない早期十二指腸乳頭部癌と考えられる症例に対しては,縮小手術としての局所的乳頭部切除を行い,報告してきた。

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胆道癌診療ガイドライン1)では,十二指腸乳頭部癌に対する標準治療は膵頭十二指腸切除術であるが,膵頭十二指腸切除術は比較的侵襲の大きな手術であり,膵液瘻やそれに伴う腹腔内出血など重篤な合併症を生じ得る。とくに十二指腸乳頭部癌に対する合併症は膵癌に比べ高率と報告されている2)。

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2019年6月に発行された胆道癌診療ガイドライン(改訂第3版)1)において,十二指腸乳頭部癌に対する標準術式は膵頭十二指腸切除術(pancreatoduodenectomy;PD)とされている。一方で,乳頭部粘膜内に限局し,Oddi筋に達しないTis~T1a乳頭部癌に対しては乳頭部局所切除術(partial resection;PR)として経十二指腸的乳頭切除術(transduodenal papillectomy;TDP)または内視鏡的乳頭切除術(endoscopic papillectomy;EP)が試みられてきたが,術前深達度診断の困難性から標準治療としてはいまだ確立されていない。

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膵頭十二指腸切除(PD)後の再建方法としては,歴史的にWhipple法,Cattel法,Child法がよく知られた方法である。一方,わが国では,今永法が報告され,PD後の再建法として使用されてきた。膵癌取扱い規約では空腸口側からの吻合順によりⅠ型からⅣ型まで分類されるが,Ⅱ型(膵,胆管,胃の順に吻合:Child法)とⅢ型(胃,膵,胆管の順:今永法)が一般的である。Child法と比較すると,今永法の最大の特徴である生理的再建経路はホルモン環境や長期的な栄養状態に寄与する可能性があるが,明確なエビデンスに乏しい。また,食物が直接,膵空腸,胆管空腸吻合部を通過することは,膵液瘻や胆汁漏が発生した場合には大きなデメリットとなり,近年はダブルバルーン内視鏡により術後に膵空腸,胆管空腸吻合部を観察することも十分に可能である。

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膵頭十二指腸切除(pancreatoduodenectomy;PD)後の再建方法として,Whipple法(挙上空腸を胆管,膵,胃の順に吻合)(図1),Cattel法(挙上空腸を胃,膵,胆管と吻合し,Braun吻合を置く)(図2),Child法(挙上空腸を膵,胆管,胃の順に吻合)(図3)が歴史的によく知られた方法である1-3)。

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膵頭十二指腸切除術は,膵頭部領域疾患に対する標準的術式であり,膵癌取扱い規約(第7版)では,膵頭十二指腸切除(pancreatoduodenectomy;PD),幽門輪温存膵頭十二指腸切除(pylorus-preserving PD;PpPD),亜全胃温存膵頭十二指腸切除(subtotal stomach-preserving PD;SSpPD)があり,その再建術式を,膵,胆管,胃と空腸との吻合の口側からの順番によって,Ⅰ型(胆管,膵,胃の順),Ⅱ型(膵,胆管,胃),Ⅲ型(胃,膵/胆管,胆管/膵)などに分類している。

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幽門輪温存膵頭十二指腸切除(PpPD)では,胃の貯留能は温存されるが,郭清に伴う迷走神経支配の喪失や血流の乏しくなった幽門輪の存在は胃排泄遅延(DGE)の危険因子になる可能性がある。幽門輪のみを切除し,すべての胃を温存する幽門輪切除膵頭十二指腸切除(PrPD)〔=亜全胃温存膵頭十二指腸切除(SSpPD)〕とPpPDとのメタ解析では,PrPDはPpPDよりDGEを減少させた(OR 2.71,95%CI 1.48~4.96,P=0.001)と報告している。さらに,長期成績として幽門輪切除はダンピング症候群などの晩期合併症,栄養状態,体重変化において幽門輪温存と比較して同等な成績であった。

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膵頭部領域の腫瘍に対して施行される膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;PD)では,もともと2 / 3胃切除が行われていたが,1978年にTraversoとLongmireが術後の消化吸収機能を温存する目的で,幽門輪温存膵頭十二指腸切除(pylorus-ring preserving pancreaticoduodenectomy;PpPD)を提唱した1)。その後,胃排泄遅延を減少させる目的で2007年に亜全胃温存膵頭十二指腸切除(subtotal stomach preserving pancreaticoduodenecomy;SSpPD)が考案された2)が,胃前庭部のどの部位で切除するかという定義が曖昧であった。2011年,われわれは,幽門輪のみを切除し,すべての胃を温存する幽門輪切除膵頭十二指腸切除(pylorus-ring resecting pancreaticoduodenectomy;PrPD)という術式を提唱した3)。本稿では幽門輪切除という立場からPrPD(SSpPD)について,その有用性について述べる。

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膵頭十二指腸切除(pancreatoduodenectomy;PD)は膵頭部領域の良性・悪性疾患に対して施行される高難度手術である。PDは胃十二指腸の切離部位の違いから,①幽門側胃切除を伴う古典的PD,②幽門輪温存膵頭十二指腸切除(pylorus preserving pancreatoduodenectomy;PpPD),③亜全胃温存膵頭十二指腸切除(subtotal stomach preserving pancreatoduodenectomy;SSpPD)の3つに分類される。最近ではPpPDとSSpPDが一般的に施行される術式であるが,膵癌診療ガイドライン2019年版1)では,PpPDとSSpPDの安全性や長期成績はほぼ同等であると記載されており,両術式間に優劣はない。

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先天性胆道拡張症に対する根治術の胆道再建法は,Roux-en-Y肝管空腸吻合と肝管十二指腸吻合に大別できる。

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先天性胆道拡張症に対する腹腔鏡手術は,1995年のFarelloら1)による報告から,わが国でもその有用性が報告されている。2016年(平成28年度)の診療報酬改定において腹腔鏡下胆道拡張症手術が保険収載され,国内でも徐々に普及しつつある。従来,先天性胆道拡張症に対する開腹手術は,Roux-en-Y肝管空腸吻合による分流手術が標準的な術式として広く行われてきたが,腹腔鏡手術の普及により,海外では手技的な理由から,肝管十二指腸吻合を選択する施設が出てきた2)。

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先天性胆道拡張症(congenital biliary dilatation;CBD)は膵・胆管合流異常が原因で,乳幼児から成人において発見される。最近では胎児期に診断される症例も報告されてきている。小児では多くは腹痛・黄疸・腹部腫瘤を主訴に来院する。小児外科領域のNCD(National Clinical Database)であるNCP-pediatricによると,15歳以下の手術症例のうち5歳未満の乳幼児が約7割を占める1)。

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手術
74巻4号 (2020年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4423 金原出版

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