手術 74巻3号 (2020年3月)

特集 大腸癌手術におけるリンパ節郭清の理論と手技

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大腸癌に対する手術治療の基本的な考え方は,日本と欧米で異なっている。癌の進展様式のうち,局所治療である手術で根治が期待できるのは,浸潤とリンパ行性転移である。日本の大腸癌手術では,浸潤に対しては浸潤臓器の合併切除で対応し,リンパ行性転移に対しては原発巣からのリンパ流の還流領域を広範に切除するリンパ節郭清で対応している。一方,欧米では浸潤臓器の合併切除は行っているが,リンパ流還流領域の中枢方向の郭清は限定的である。しかし,結腸癌の吻合部再発の原因は腸管内に生存する癌細胞によるとの研究から,吻合部再発を予防するために広範な腸管切除を行っている1)。これは腸管軸方向のリンパ節郭清を意図しているのではない。

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わが国では大腸癌手術における中枢側のリンパ節郭清が重んじられてきた。過去のリンパ節転移部位の検討から腸管軸方向の転移は比較的少ないことが認識されており,欧米の腸管を長く切除する方法に比べて理にかなった手術と考えられる1)。左側結腸癌の中枢郭清は欧米でも高位結紮としてD3に近いものも行われるが,右側結腸癌は結腸間膜切除にとどまっていた。近年欧米でもCME(complete mesocolic excision)+CVL(central vascular ligation)の提唱により右側の中枢郭清も注目されてきている。わが国の中枢郭清は上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;SMV)中心の,いわゆるsurgical trunkの郭清が重視されてきたが,大腸癌取扱い規約では動脈のみが図示されており2),適正な郭清範囲は定まっていない(図1, 2)。

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横行結腸癌に対する手術は一般に難度が高い手術と考えられている。その理由として,横行結腸間膜を解剖学的に正確に定義することが難しいこと,複雑な血管解剖などが挙げられる。このため横行結腸癌に対するリンパ節郭清手技は施設間で大きく異なり,標準化は十分になされていないのが現状である。

本稿では,当院における横行結腸癌に対するリンパ節郭清術について示し,われわれが安全に手術を行ううえで注意している点について解説する。

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腹腔鏡補助下S状結腸切除術は日本内視鏡外科学会技術認定医の審査対象となる術式の1つである。S状結腸切除術はanomalyな血管が少なく下腸間膜動脈(inferior mesenteric artery;IMA)の根部で処理すればリンパ節郭清が比較的容易な術式であるが,いったん剥離層を間違えると神経損傷をきたし,認定医試験では減点または不合格となる。

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大腸癌治療における大動脈周囲リンパ節(paraaortic lymph node;PALN)郭清はいまだ標準とはいえない。わが国の大腸癌取扱い規約 第9版1)でもUICCによるTNM分類2)でも,同部は領域リンパ節外のリンパ節であり遠隔転移とされている。わが国の大腸癌治療ガイドライン2019年版3)では,「StageⅣ大腸癌の治療方針」という項に遠隔転移巣が切除可能か不可能かというかなり曖昧なアルゴリズムが示されており,その詳細でPALN郭清の効果を示す論文が引用されている4)。一般的には化学療法が主たる治療法との認識であるが,転移の数の少ない場合には同部の郭清を行うことにより長期予後が得られる可能性があるというものである。

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わが国では,中直腸動脈から内腸骨動脈周囲につながるリンパ節への転移が局所再発の1つの原因として考えられ,内腸骨血管支配領域の側方郭清による局所制御を推奨し,その結果,手術療法を重視した独自の道を発展させてきた。寛骨で囲まれた狭い骨盤腔内という空間的な制約と,リンパ節郭清と神経温存の両立を図るという二律背反性の制約のもと,筋膜の系統的解剖学を導入した洗練された外科手技は,癌手術の「究極型」といえる。

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直腸癌に対する側方リンパ節郭清術は,わが国では欧米とは異なったアプローチで進行直腸癌に対する標準術式の1つとして行われている。「大腸癌治療ガイドライン 医師用 2019年版」1)では,腫瘍下縁が腹膜反転部より肛門側にあり,壁深達度がcT3以深の直腸癌に対して,その施行を推奨している。術前または術中に側方リンパ節転移陽性と判断された場合は,側方郭清を行うことは論をまたないが,側方リンパ節転移陰性と判断された場合の予防的な郭清に関しては,局所再発抑制効果が期待できるために行うことが弱く推奨されている。しかし,その根拠となるデータは,JCOG02122)のものも含め,開腹手術のものである。

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平成30年4月1日から直腸切除・切断術に対しては特定の基準を満たした場合に保険診療が適用となり,これを契機にロボット支援下の直腸手術を導入した施設も多いことと思う。側方郭清の手技自体は腹腔鏡でもロボット支援手術でも同様であるが,手術用ロボットは腹腔鏡にはない多関節を有するアームや手ぶれ補正機能,手元の動きを縮小して鉗子に伝えるモーションスケール機能などにより,側方郭清のような限られたareaに対する精密な術操作においてはとくに威力を発揮する。

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下部直腸癌に対する手術は,狭い骨盤内での手技を要するため非常に難度が高い。腹腔鏡手術が一般化されたことにより良好な視野が得られるようになったが,最深部,とくに前壁での鉗子操作の制限や手前の構造物によってできる死角に関しては,いまだ解決すべき大きな課題といえる。そこで,近年2つの解決策が注目されている。多関節機能を有するロボット手術と逆向きの視野“bottom-up”で手術を行う経肛門アプローチである。

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横行結腸癌手術におけるアプローチ法はさまざまな報告がなされており,いまだ議論が絶えない領域である。癌手術の本質は領域リンパ節の確実な郭清であり,そのために必要なものとして栄養血管の適切な根部処理と腸間膜の過不足のない摘出が挙げられるものの,隣接する膵臓や十二指腸との関連,さらには豊富に存在する血管の破格などから,横行結腸癌手術は定型化の難しい手術の1つとされている1-3)。

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直腸癌手術における尿管損傷は,まれに遭遇する合併症である。術中に判明した場合は,その場で損傷部の縫合修復や吻合ならびに尿管カテーテルの留置などの対処を行うが,術後に判明した場合には対処に迷うことも多い。

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有症状の食道平滑筋腫に対しては,基本的に核出術が選択される。そのアプローチとして2000年以降は胸腔鏡による核出術も多く報告されるようになっており,近年では,STER(submucosal tunneling and endoscopic resection)やPOET(per oral endoscopic tumor resection)などの内視鏡的な核出術も散見されるようになった。しかし,経口にて腫瘍を摘出するという観点からは,これら内視鏡的切除では腫瘍径30 mmが限界と考えられる。一方で胸腔鏡手術による核出術は,腫瘍の正確な位置の同定が困難なことがあり,食道壁を過剰に切除し得ることが問題となる1)。

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食道癌手術において左右の反回神経周囲のリンパ節郭清は,手術の根治性に重要と考えられている1,2)。しかし,郭清操作に伴う術後反回神経麻痺は術後の誤嚥や肺炎の原因になる可能性があり3),縫合不全,肺炎と並ぶ重要な合併症といわれている。反回神経は術中操作により容易に麻痺しやすく,牽引や把持,エネルギーデバイスによる熱損傷が主な要因と考えられている4)。術中操作に十分留意し,これを回避することが術後経過や患者のQOL維持の点で重要である。術中神経モニタリング(intraoperative nerve monitoring;INOM)は術中に専用のプローブで神経を刺激し,筋電位を測定することで神経機能をモニタリングするシステムである。甲状腺手術では有用といわれており5),保険適用されている。食道癌手術においても近年,反回神経の探査や機能評価のために施行されてきており,今後適応が広がることが予想されている。

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胸部食道癌に対する食道切除再建術は侵襲の大きな手術の1つであり,術後にはさまざまな合併症が起こり得る。吻合に関連した合併症は主に縫合不全と吻合部狭窄であり,とくに縫合不全は重大な合併症の1つとされ,在院期間の延長や重症化すれば在院死亡の原因にもなり得る。

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山岸式胃管再建術は1967年に山岸ら1)が報告した再建方法で,頸部食道との吻合の際に緊張がかからないよう胃管を延長する術式である。

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再建臓器壊死は食道手術において生命を脅かす重篤な合併症であり,治療に難渋する。今回,われわれは食道亜全摘回結腸再建後,再建臓器壊死を生じ,遊離空腸再建を行い経口摂取可能となった1例を経験したので報告する。

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手術
74巻3号 (2020年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4423 金原出版

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