作業療法ジャーナル 48巻7号 (2014年6月)

増刊号 脳卒中の作業療法―支援技術から他職種連携・制度の利用まで

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 本書の目的は,多くのOT,特に現場で困っている若手OTに脳卒中と作業療法の関連を多角的に示すことである.現場で悩んだときの虎の巻的,バイブル的な書となることを望んでいる.このため,筆者の方々には,最新の知識や技術はもとより,これまで実践してきたこと,現在実践していることを中心に,解説していただいている.

 脳卒中は,日本の三大生活習慣病の1つであり,発病率も高く,全国に137万人いるとされている.今後さらに高齢化社会を迎えようとしている実情においては,リハへのニーズはよりいっそう高まる可能性がある.

第1章 総論

1 脳卒中とは 宮井 一郎
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はじめに

 脳卒中は脳血管の閉塞または破綻により,脳血流低下が起こり,神経細胞が障害される疾患である.原因により,①脳梗塞(閉塞),②脳出血(破綻),③くも膜下出血(脳動脈瘤破裂),④一過性脳虚血発作〔TIA(transient ischemic attack):短時間の血流低下〕の4つに分類される.脳卒中は日本人の死因としては,2011年(平成23年)に肺炎に次いで第4位となったが,高齢者の要介護状態の主要な原因疾患である.「平成19年 国民生活基礎調査の概況」1)によると,介護保険における要支援者の原因疾患は「関節疾患」が20.2%,「高齢による衰弱」が16.6%の順であるが,要介護者では「脳血管疾患(脳卒中)」が27.3%,「認知症」が18.7%となっている.このような脳卒中の社会的インパクトを軽減するためには,発症予防(危険因子の治療),発症後の早期治療,リハ,再発予防が重要である.ここでは本誌の性格上,発症予防については割愛する.

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はじめに

 今から40年前(1970年代)のわが国では,脳卒中に罹患すれば安静臥床が必要という考え方が支配的であり,発症からリハを開始する時期は極めて遅延していた.また,当時のリハサービスの主たる担い手は,主に山間僻地にある温泉病院であり,都市部の急性期病院におけるリハサービスは極めて乏しかった.このため,リハサービスを受けるには生活圏から遠く離れた温泉病院に転院しなければならず,発症から数カ月後にリハが開始される時代だった.1980年代に入り都市部の一般病院でもリハサービスが開始されるようになったが,診療報酬による評価が低く,一部の国公立病院が政策医療として申し訳程度のリハサービスを開始したにすぎなかった.1990年代になり脳卒中では安静臥床が必要という考えが衰退し,発症早期から開始されるリハの重要性が広く認められることになった.同時に診療報酬にて急性期リハが評価されたが,発症早期にリハサービスを開始する病院は少なく,早期リハの普及には至らなかった.

 1965年(昭和40年)に理学療法士及び作業療法士法が施行され,1980年(昭和55年)にリハ医学会専門医制度が開始されたが,1990年(平成2年)当時のPTおよびOTの国家資格保持者数は1万5,000人程度であり,リハ専門医数は100人に届かず,言語聴覚士法の制定は1998年(平成10年)と遅れた.リハにかかわる専門職の養成が追いつかず,リハを提供しようにも専門職が乏しいため,どうすることもできなかったのである.

 こうした状況が一転したのは,わが国の人口の高齢化である.高齢化社会から高齢社会,さらに超高齢社会へと一気に進む中で,老人医療費の高騰や介護の問題が浮上し,1994年(平成6年)「高齢者介護・自立支援システム研究会」により,高齢者の自立支援,予防とリハの重要性が指摘されたことに始まる.1997年(平成9年)に介護保険法が成立し,2000年(平成12年)の施行へと進んだことは,リハ専門職の養成に拍車がかかり,リハ医療普及の引き金を引くことになったと考えられる.

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はじめに

 日本の社会保障制度は,急激に進行している少子高齢化や長引く不況の影響を受け,制度継続に必要な財政面の課題に直面している状況にある.近年,継続性のある社会保障制度の再確立を目指して,消費税率見直しをはじめとした財源の確保に向けた検討とともに,年金や生活保護費の見直し等,社会保障給付の適正化・支出抑制も視野に入れた改革の検討が進められている.

 リハに関連する社会保障制度の主なものとしては,医療保険制度,介護保険制度,障害者福祉制度が挙がる.脳卒中に限らず,それぞれの制度下で行われるリハは,発症からの期間や状態像,年齢等によって機能分化と連携が図られており,図1のつながりによって運用されている.

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はじめに

 脳卒中の作業療法は,脳卒中が作業療法の主たる対象疾患であることから,これまで多くの論議がされてきた.介入の時期,障害受容,麻痺手への介入,利き手交換,集団の活用,各種手技との整合等である.一方で制度との兼ね合いにおいても変遷を遂げてきたといっていい.1965年(昭和40年)の「理学療法士及び作業療法士法」の双子法誕生時において,作業療法は医療・福祉等のすべてにわたって必要であると誰もが感じていたと思う.しかし,「医師の指示のもと」という範疇でくくられている現在,その領域を狭められているのではないだろうか.当疾患においても同様である.作業療法はOTによって歴史をつくることが求められていることは間違いない.今後はさらなる「OTによる作業療法の進化・発展」の発信が急務である.

 本稿では,私見であるが「脳卒中の作業療法」にまつわる論議を整理したい.そして,本増刊号の各論文の前説となるよう願っている.

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はじめに

 脳卒中患者の障害像は多岐にわたる.もちろん起因している脳の損傷部位によって障害像が異なることはいうまでもないが,身体機能構造・認知機能面への影響やそれによる活動制限,さらには心理面への影響が障害像の理解をより難しくしている.筆者もOTになり21年目となるが,今でも現場で初めてみる症状に困惑することが多々ある.澤村誠志氏の“患者さんが教科書”という言葉がある.まさに現場では,机上で学んだだけでは理解できない症状に遭遇することは多い.

 この稿では,われわれOTが脳卒中患者の障害像をどのようにとらえ,どのように介入すればよいのか,あらためて振り返りたい.経験豊富なOTにとっては言わずと知れたことかもしれないが,今回は経験の浅いスタッフにターゲットを絞るという趣旨のもと,まず一般的な脳卒中の回復過程の理解,OTの介入の流れと介入ポイントを著者の経験を含めて述べたい.それにより大まかに障害像をイメージでき,現場で直面する症状に困惑せず,懐深い対応ができることを望みたい.

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はじめに

 OTは乳幼児から高齢者まで,どの世代の方々も対象として支援していく.対象者の人生のどの時期に,病気や障害により影響を受けるかは大きな違いがある.たとえば,30代で発症した場合と70代で発症するのでは,同じ脳卒中でも関与の仕方やフォローの仕方が違ってくる.これまで,脳卒中の作業療法は身体機能的な側面を中心として整理されてきているが,対象者の年齢やそこでの役割や課題を視野に入れたライフサイクルを意識した支援が重要である.

 本稿では,人間のライフサイクルによる課題をErik H. Eriksonを参考に整理し,各時期に障害を受けることになってしまった際に考慮すべき点を考察する.

第2章 支援技術Ⅰ 急性期から回復期の基礎

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はじめに

 脳卒中発症後,初期には弛緩性麻痺となる場合が多い.その後,本人の覚醒や意識の回復とともに活動性が増し,全身の姿勢筋緊張が高まり,日常生活に適応しようとする.しかし弛緩が持続する,あるいは過緊張が出現し姿勢制御が難しくなり外部環境に適応していくのが困難となる.初期の治療を適切に行うことで,その後の運動学習をより効率的にしていくことが必要である.本稿では,初期の弛緩患者の評価,治療介入をどのように行うのか,症例を通して紹介する.

 なお本稿を執筆するにあたり,写真の掲載について患者の同意を得ている.

1 How to タッチ ②痙縮 立松 さゆり
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はじめに

 脳卒中後遺症者における作業療法で,回復期・維持期の患者から「前より手が固くなり,動かせない」,「手が曲がって,力が抜けない」等の訴えをよく聞く.発症後,歩行・日常生活活動で,姿勢コントロールが準備される前に常に努力的な四肢の代償的過活動が起こり,痙縮に結びついた定型的なパターンに陥る.さらに,防御的な反応から過敏や痛みにつながり,驚きや恐怖等,情緒面の緊張が痙縮に結びついてしまう.その結果,末梢から感覚入力が不足し,姿勢コントロールの調整が困難になる.今回,麻痺側の痙縮を増強させない触り方や姿勢コントロールや求心性感覚入力を考慮した治療について報告する.

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はじめに

 脳卒中片麻痺患者の合併症の一つに肩の痛みがある.発生率は報告によって異なるが,脳卒中片麻痺患者1,000名を対象とした大規模な調査1)で発生率が55%と想像以上に多いことが明らかにされた.肩の痛みの発生や変化を経時的に調べた前向き研究2)では,肩の痛みを合併した患者のうち脳卒中発症から2週までに28%の患者が,4カ月までに87%の患者が痛みを経験していた.その後,肩の痛みは改善傾向にあったが,6カ月時点では肩の痛みを合併した患者のうち20%に肩の痛みが残存していた2).肩の痛みの残存した慢性期片麻痺患者は,それが原因で著しくQOLが低下すると報告されている3)

 肩の痛みが発生しはじめる時期と急性期,回復期リハにおける積極的な上肢リハや更衣,移乗等のADL訓練,歩行訓練が始まる時期が重なることから,OTを含めたリハ専門職の責任は大きい.一方で,肩の痛みが長期化すれば,リハ専門職は患者からの信頼を失いかねず,場合によっては本来の肩の痛みや運動機能改善を目標とした積極的なリハができず,安易なマッサージに終始してしまうことにもなり得る.したがって脳卒中片麻痺患者の肩の痛みは,患者とOTにとって大きな問題といえる.

 本稿では,これまでの脳卒中片麻痺患者の肩の痛みに関する報告を基に,痛みの原因を整理するとともに,そのリハについてわれわれの取り組みを踏まえて述べる.なおcomplex regional pain syndrome(CRPS)に関しては他稿へ譲る.

1 How to タッチ ④浮腫手 藤本 弾
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はじめに

 浮腫は臨床的には間質液の増加と定義され1),さまざまな疾患でさまざまな部位に生じる.脳卒中片麻痺者では主に麻痺側肢に出現して上肢に残存することが多い.浮腫は発症早期から発生し,治療的介入により変化がみられても翌日には再出現することもあり,改善に時間を要する.そのため,遷延化しやすく,上肢機能の回復が阻害される.したがって早期からの介入が必要となる.

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はじめに

 拘縮は“皮膚や骨格筋,靱帯,関節包等といった関節周囲軟部組織の器質的な変化に由来したROM制限”とされており,筋収縮が発生していない状況下で関節周囲軟部組織の伸張性が低下し,これが原因となってROM制限が認められる状態をいう1).また,麻痺や痙縮,腫脹(浮腫),痛み等といった他の機能障害や随伴症状の程度が著しいほど拘縮が発生・進行しやすいとされており,これらの影響によって生じるADLの低下も拘縮の発生・進行と関連するといわれている.その中でも重篤な麻痺を伴い拘縮・短縮が進んだ上肢・手の改善は,多くの時間と労力が費やされるため,治療では上肢機能とADLを関連づけた展開が必要となる.

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はじめに

 「そんなつもりで言ったわけじゃない……」

 自分の発した言葉が思わぬ誤解を招き,戸惑ってしまったことはないだろうか? 人間社会の中で,コミュニケーションをとることは,自分には障害がないと認識している私たちにとっても難しい.コミュニケーションは,単に言葉を交わすだけでなく,多くの要素を含み,生きていくうえで欠かすことのできない「人とのつがなり」に強く影響するからである.しかし,それは,難しいだけでなく大きな可能性を秘めたものでもある.

 脳卒中後のコミュニケーション障害というと,失語症,構音障害,気管切開等による発話障害,重度身体障害による閉じ込め症候群等が挙げられる.それらの障害特性と支援方法は多くの文献で述べられているので,今回は,OTとして,脳卒中の方とコミュニケーションを図る際の目的とその支援の考え方について経験をもとに紹介する.

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はじめに

 脳卒中急性期リハは,リスク管理を徹底しながら現疾患の治療と平行して廃用症候群を最小限に抑え,日常生活活動(activity of daily living:ADL)の早期向上を目指して行うものである.「脳卒中治療ガイドライン2009」1)においても,「発症後早期からの積極的なリハビリテーション」はグレードAと推奨されている.また,脳卒中を発症する多くの患者は高齢であり,意識障害,高次脳機能障害により訴えがはっきりしないことがある.このため,問題の発見が遅くなり重大な問題を引き起こす場合がある.さらに廃用症候群の予防のため,発症早期からのリハが求められるようになっており,リハ中の急変リスクは増大している.

 リハ医療にはチームアプローチは欠かせず,OTが医師に患者の全身状態についての報告,相談,提案を行うことでリスクを回避することが可能であり,急性期にかかわるOTにとってリスク管理の知識・技術は必須となる.

 本稿ではOTが急性期の脳卒中患者にかかわる際に知っておくべきリスク管理,合併症予防について述べる.

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序論

 脳血管疾患(以下,CVD)は身体・老年期分野においてかかわる可能性の高い疾患の一つであり,『高齢社会白書』1)によると要介護等の介護が必要となった原因の1位(21.5%)にもなっている疾患である.このCVDの特徴は突然の発症による運動障害,感覚障害および高次脳機能障害等により,自身での姿勢のコントロールができない状態となり,その間に非対称な姿勢が形成されることがある.このため急性期・回復期におけるポジショニング,シーティングは,OTが考慮すべき重要な因子であり,治療効果をさらに高める可能性があると考えられる.

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はじめに

 脳血管障害片麻痺患者(以下,片麻痺者)の作業療法場面においては,片麻痺者の置かれたどの時期においても,寝返り,起き上がり,立ち上がり等への訓練は必要であり,筆者は特に片麻痺者の姿勢と運動における特有の定型的パターンが構築される前の介入が重要と考えている.本稿では片麻痺者における基本動作獲得時の適応の問題を概説するとともに,これらを踏まえた基本動作への介入方法の一例を紹介する.

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はじめに

 食事はヒトの本能的な欲求行為であり,生存に不可欠な行為である.そこには空腹を満たす欲求のみの解決だけではなく,食べることの楽しみやおいしさ等を求めて得られる満足感も含まれている.ヒトの摂食における食物の取り込みは5期3相(「期」は組織の動き,「相」は食物の動き)ある.先行期,準備期,口腔期(第1相),咽頭期(第2相),食道期(第3相)のうち,先行期から食道期までのわずか数秒間に咀嚼・嚥下が行われ,先行期以降ほとんど自律的な機能に支えられている1).そのため,ひとたび食物を口に取り込むとその介入は難しさを伴うことが多く,主に先行期から準備期・口腔期(文献によっては口腔準備期)におけるかかわりがOTの介入として重要であると考える.

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はじめに

 入浴はさまざまな複合的な動作の集合体である.歩行補助具も導入しにくいうえに,バリアフルな環境も加わり,最も自立が難しいADLといわれている.本稿では脳卒中患者の実際の入浴場面における評価とかかわりのポイントを紹介する.

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はじめに

 元来,更衣・整容の諸動作は,身づくろい(図1)1)としての意味をもっている.身づくろいを行う意味は広い.『広辞苑第六版』によると身づくろいは,「身なりを整えること.みごしらえ.みじたく」である.ヒトは身づくろいによって,自己の身体の清潔を保ち,メンテナンスを行い,身体の保護を行う.つまり,身づくろいを適切に行うことで,ヒトは安全性や快適さを獲得し,生存し続けることができるのである.また,身づくろいは社会参加を促進する役割をもつ.ヒトは身だしなみを整え,好みに応じた化粧や整髪,衣装を身に着けて自己演出を図ることで,社会に出る気分を促進し,円滑で良好なコミュニケーションをとるができるのである.このように,ヒトにとって,身づくろいとしての更衣・整容の諸動作は,生存から社会参加まで幅広く重要な意味をもつ.したがって,OTが片麻痺者の更衣動作・整容動作の再建にかかわる意味は非常に大きいと言える.

 本稿では更衣動作・整容動作の特性や片麻痺者における更衣動作・整容動作の問題について再確認し,片麻痺者における治療的介入のポイントについて紹介する.

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はじめに

 排泄行為は,回復期リハ病棟,在宅において自立を求められることが多く,対象者・ご家族のニーズとして非常に高いセルフケアの一つである.

 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会のケア10項目宣言に「排泄はトイレへ誘導し,オムツは極力使用しないようにしよう」とある.このように回復期リハ病棟では,まず起居から排泄までの一連動作をOT,ケアスタッフ間の共通目標として掲げることが多い.早期に排泄行為のアプローチを展開することにより,運動量確保,自立範囲の拡大,寝たきり防止,精神賦活,身体機能・日常生活動作の向上につながる.排泄行為は1日を通して,われわれが最もかかわることの多いセルフケアであり,頻度が高いがゆえに,幅広い視点と正しい介助方法・リスク管理が求められる.そのうえ,排泄行為は羞恥心を伴うため,介入する際は,いかに「人間の尊厳」を保障できるかが重要となる.

 今回は,当院(初台リハビリテーション病院)の排泄行為に関するケアの取り組み,作業療法アプローチを紹介するとともに,われわれOTが脳卒中患者に対し排泄行為に介入するうえで,必要な排泄行為の動作過程を理解し,正しいリスク管理を考え,現実的な介護力・労働力,環境整備等,多角的な視点からアプローチを展開していくことの重要性を伝えたい.

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はじめに

 脳血管障害に伴い,利き手が麻痺した場合,片麻痺者の多くは麻痺の回復,利き手としての能力回復を希望される.われわれも含め,多くのOTはそうしたニーズに応えながらも,新たな生活を切り拓く代償的手段として,利き手交換練習を実施してきた.利き手交換練習は,発達過程で分化してきた利き手の能力と同等の能力を,非利き手でも獲得することを目指す練習である.主には,箸操作,書字の練習等,巧緻性を要する活動を中心に実施していた.多くの療法士が,効果的な練習方法を確立するため,運動学習的概念より難易度の段階づけ,筋疲労の影響の確認,箸や鉛筆の先からの知覚探索活動を取り入れる,箸や鉛筆の把持形態と操作性との関連性等を研究してきた.

 近年,従来の箸や書字に偏った利き手交換練習に疑問が出され,歯磨き動作の利き手交換練習等が行われるようになっている.また西久保ら1)は巧緻性の前に上肢全体の協調活動に着目し,洗い桶拭き取り活動を提案している.

 今回,対象者となる片麻痺者が抱えている問題をとらえ直し,過去の研究データやわれわれが実践している臨床内容等も交えて,利き手交換練習の一つの方向性を提示したいと思う.

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はじめに

 リハ病棟では,患者だけでなく,家族もそして医療者にもさまざまな心理がみられ,時にその心理的問題が患者のリハの進み方やQOLにも影響していく.リハでの心理が問題となるのも,リハは急性期と違い,入院期間が数カ月と長いこと,また療養病棟や施設と異なり,医療の多職種がチーム医療としてかかわっているからである.そこには医療職と患者だけではなく,患者と家族,医療職と家族,医療職同士等,さまざまな人間関係が存在し,そのコミュニケーションギャップが心理的問題として浮上してくる.

 筆者の所属する茨城県立医療大学付属病院は,リハ専門の教育病院である.筆者は1998年(平成10年)から非常勤,2004年(平成16年)からは常勤の精神科医として,精神障害のリハも含めて精神科リエゾン医として勤務している.茨城県には,これほどリハ病院に深くかかわっている精神科医はまだ少ないのか,他のリハ病院からの相談も受けている.その中で脳卒中後うつの研究をするべく数年にわたり約200例について,入院時と退院時あるいは退院後,合計約500回以上,患者と家族にできるかぎり時間をとってインタビューした.結果,急性期からリハ病棟,また在宅の流れの中で共通した心理があることがわかった.

 よくあるパターンとしては,リハをしても麻痺や認知障害等が残るという事実に対しての「犯人捜し」あるいは「リセットボタン探し」がある.なぜかここに「脳卒中後うつ」という言葉が現れるのである.

 これまでの経験から,ここで「犯人捜し」あるいは「リセットボタン探し」を概説しよう.急性期の救急病院では,命を取りとめ,本人も家族もほっとする.またそこでなされるリハで,最初はもう動かないのではないかと思った身体が動きはじめ,さらにリハ病院に転院することで完全に元通りの身体を取り戻せるかと誰もが期待に心を躍らせる.それは当然のことである.その後リハ病院に移って,集中的なリハが施行され,医療スタッフ側としてはリハは順調に進んでいると思って,そろそろ退院という話になっていく.医療スタッフ側が車いすに乗れるようになったことを本人の前でその努力を褒めたところ,本人からは「自分は歩きたいからこの病院に来たのだから,車いすには乗りたくないのに褒めてもらっても困る」という答えが返ってきて,こちらも困惑することもある.現場の医療者であれば,リハというものは完全に元通りの身体にすることだけではなく,障害をもっても本人の希望に沿った生活を考えていくことでもあることはよくわかっているだろう.したがって麻痺や認知障害が長く残る場合も少なくないことは知っている.

 一方,突然脳卒中というエピソードに見舞われ,そして医療の専門家でもない本人や家族は,病院,しかもリハ病院に入院したのに障害が残ったまま退院を迫られることに困惑する.たった1日倒れたというだけで,それほど長く障害が残ることは想像していない.逆に1日で悪くなったなら,どこかにリセットボタンがあって,元に戻ってほしいと願う.そう思うのは無知の結果でもなく,健全であたり前の心理である.そろそろリハ病院を退院というときになって,リハ病院での回復の限界や在宅での可能性等を話し合うと,そこで始まるのはまさに「犯人捜し」や「リセットボタン探し」である.リハはやればやるほど効果があるはず.ここで機能を向上させない犯人は誰だ? 犯人が医療の場合は,リハのやり方が悪い,病院が悪い,医師,リハスタッフ,看護師等,医療職が悪い等,陰性感情の転移や八つ当たり(防衛機制の「置換」という)がみられる.あるいはリセットボタンがこの病院にはなかったのかと考える.病院の選択が悪かったのかと.いや,そうじゃない.リセットボタンはあるけど,本人が押せていないだけかもしれない.そうなると犯人は本人.「リハをやればいいのに本人にやる気がない.やろうという気持ちがない」という.このときに脳卒中後うつとも思われる病態が語られるのである.さらに医療職も自分だけは犯人になりたくないという心理が働くと,叱咤激励か家族の理解が悪いとしてしまうか,精神科医に相談ということになる.そこにおいて精神科医に求められるものはリセットボタンを一緒に探してもらう役割となってしまう.要するに本人,家族や医療スタッフのすっきりしない複雑な気持ちを精神科医とシェアして,気を楽にしたいということなのである.

 実際には筆者の場合は,本人の心理だけでなく,家族や医療スタッフも含め,なぜ精神科医への相談に至ったかのプロセスをまずよく聴取していくことにしている.精神科医の診察が誰のためなのか,本人なのか,家族なのか,医療スタッフなのか,よく見きわめていく必要がある.それにより治療や対応も違ってくるのである.精神科は必ずしも本人のためだけに診察しないという診療科であり,この脳卒中後うつをめぐる対応は精神科リエゾン医の本領が発揮できると考えている.ただここに不足しているのは人には「がんばってやろうとしてもできない」ことがあるという考え方である.

 以下に脳卒中後うつを中心に「がんばってやろうとしてもできない」という病態について解説していく.

第3章 支援技術Ⅱ 急性期から回復期の個別性を重視した介入(事例報告)

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はじめに

 車いすやベッド上で,頸部を右に回旋したまま,左上下肢を無造作に側方に投げ出している患者の姿を臨床場面でしばしば見かける.そのとき,OTは「半側空間無視!?」とまず疑う.特徴的症候であり,すでに多くの報告がされているのは周知の通りである.

 今回は半側空間無視に対する一般的評価および介入方法について簡略に紹介するとともに,「再び環境の中で動くための包括的アプローチ」という視点で,われわれが行っている試みを紹介したい.

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はじめに

 高次脳機能障害は目に見えにくい障害といわれ,その障害を見過ごしたり,十分な介入や対応がなされないことが多々ある.その中において,プッシャー症候群はさまざまな病態の一群であり,原因もはっきりしないことから,介入が難しい障害である.しかし座位保持や立位保持を困難とし,介護量の増大を引き起こし,さらには重篤なADL障害を呈すため,その対応については,かかわる多職種間で十分に確認し,統一した介護,介入が必要となる.また,ADLへのかかわりを中核とするOTは,この障害の理解と解釈,適切なかかわり方のリーダーシップをとる役割があると考える.本稿では,プッシャー症候群の概要と症例を通しての理解と介入について紹介する.

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はじめに

 ヒトの高次脳機能を考えるにあたり,意識,注意,情動,認知,言語,記憶,行為等の各要素的な機能が思い浮かぶことと思う.そして,前頭葉に関する機能については,遂行機能を用いることが多い.

 前頭葉の機能に関して神経心理学的立場から,遂行機能または実行機能(executive function)という用語を明確に規定したのはLezak1)であるといわれている.遂行機能は脳の構造や神経基盤との関連が薄く,局在的意義の乏しい概念で,要素的機能とは相互に関連するものの,それらからは独立した上位の機能単位として位置づけられるという特徴をもつ.具体的には,メニューを考えるところから始まり,材料を買いに行き,実際に調理し,味見をし,片づけまで行う料理という一連の活動や,旅行計画を立てて,準備し,実際に旅行に行く等という一連の活動等である.すなわち,①目標の設定,②プランニング,③計画の実行,④効果的な行動という4つの要素を含んだ,目的をもった一連の活動を有効に成し遂げるために必要な機能といえる2)

 ところで,種々の高次脳機能の中で,「前頭葉」という解剖学的な部位に「機能」という用語をつけた「前頭葉機能」という表現に違和感を覚えるのは筆者だけであろうか.これは,まさしく脳の構造と神経基盤を意識した表現である.今回,筆者に与えられたテーマは「前頭葉症状」であるので,前頭葉の機能が障害されたときの症状について,できるだけ前頭葉の解剖学的部位からの分類に基づいて各症状を概説し,関連する評価および介入の原則を述べ,前頭葉症状を呈した自験例を提示したい.

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はじめに

 失行とは,学習された意図的行為を遂行する能力の障害であり,中枢神経系の損傷によって生じる1).麻痺や感覚障害,運動失調,不随意運動等の運動障害,失語や失認,認知症等の了解障害,全般的注意障害,動作遂行のための感覚によるフィードバックの障害等では説明できないものとされる.基本的に右利きでは左半球損傷で左右上肢に症状がみられることが多く,失語と合併して起こることが多いが,失語とは独立して生じる.失語による理解障害であれば模倣や物品使用は障害されず,視覚失認であれば言語指示での操作や模倣が可能である.知能検査や記憶検査を用いて認知症との鑑別を行うことも重要である.

 今回は誌面の制約上,観念失行および観念運動失行を中心に述べる.

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はじめに

 2013年12月に英国でG 8認知症サミットが開催されたことは記憶に新しいが,認知症の問題は,疫学,経済学,人権等の側面から世界中で国策として取り組まれている問題である.世界レベルでは,現在100人に1人が認知症を発症しているとされ(「認知症:公衆衛生上に重要課題」(2012年):世界保健機関),日本でも昨年,65歳以上の高齢者の4人に1人(認知症高齢者の日常生活自立度判定基準Ⅱa以上+Mild Cognitive Impairment)は何らかの認知症対策が必要であると報告されたばかりである.

 日本では2013年(平成25年)4月に「認知症施策推進5か年計画」,通称オレンジプランがスタートした.これは,認知症というと入院治療が当然だというこれまでの考えを改めて,住み慣れた自分の地域・空間でできるだけ生活していくことを支えていこうとする画期的な施策だといわれ,2025年の地域包括ケアシステム構築に向けて重要な施策の一つだといえる.しかしながら,そのシステムを構築するためには,さまざまな機関が認知症のことを理解し,共通認識をもちながら連携をとっていくことが重要である.認知症にはさまざまな病態像があり,その症候の理解とそれぞれに対応したケアの方法論や環境整備について共通理解が必要だということである.

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 脳卒中に対する上肢の装具療法は,アームスリング等の肩装具と手指の変形防止を目的とした安静用スプリントに代表される.これまでさまざまな装具が報告されているが,その装着の是非と形状別による効果については意見が分かれ,合意がない1)のが現状である.

 本稿では上肢装具をアームスリングとスプリントの2つに分け,一般に使用されている装具とともに,上肢の廃用を予防し,筋緊張の軽減と機能改善を目的とした装具に焦点を当てて紹介する.

4 脳卒中の最新リハ ①IVES 阿部 薫
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はじめに

 近年の神経科学の進歩に伴い,ニューロリハの発展は目覚ましい.特に,片麻痺上肢の機能障害に対しては,脳における可塑性の存在が示され,新たな神経科学の知見に基づいたさまざまなリハアプローチが開発・報告されるようになっている.従来の運動療法に加え,CI療法(constraint-induced movement therapy)や治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation:TES),反復頭蓋磁気刺激(rTMS)や経頭蓋直流電気刺激(tDCS),ボツリヌス治療等,さまざまなアプローチが知られるようになっている.セラピストは,多くの選択肢の中で,おのおのの適応と効果を理解し,医師や対象者本人と共に,チームとして効果の追求に臨むことが求められる.

 介助型電気刺激装置(integrated volitional controlled electrical stimulator:IVES)は,村岡ら1)により開発された,随意運動をトリガーとして麻痺肢に電気刺激を加えることができる携帯型電気刺激装置である.本稿ではIVESを用いた片麻痺上肢の機能障害に対するアプローチについて詳説し,さらに,片麻痺上肢に対する他のニューロリハについても述べる.

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はじめに

 脳卒中後に生じる後遺症には運動麻痺や痙縮等が存在し,これらはリハの進行を阻害する要因となるが,近年のリハ治療の発展により,脳卒中患者に対するさまざまな治療法が散見されるようになった.

 脳卒中後運動麻痺に対する治療的介入として,大脳皮質を非侵襲的かつ無痛性に刺激し,大脳の可塑的変化を導き出すとされている反復性経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)が注目されており,meta-analysisによる研究でrTMSは脳卒中後の患者の回復を向上させ得ると報告されている1).また,痙縮に対する治療法には,「脳卒中治療ガイドライン2009」では受動的機能に対して推奨グレードAとされたA型ボツリヌス毒素(botulinum toxin type:BoNT-A)が,2010年(平成22年)に上肢・下肢痙縮に対して保険収載され,本邦においても広く活用されている2)

 これに対し当科(東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科)では,脳卒中後上肢麻痺や痙縮に対する治療法として,rTMSやBoNT-A投与と当科で考案した作業療法の併用療法を実施しており,その有用性を報告してきた3~8).本稿では,rTMSやBoNT-A投与を解説し,本治療への作業療法の視点やかかわりを紹介する.

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はじめに

 団塊の世代が後期高齢者となる2025年を目途に,地域包括ケアシステムの構築が推し進められている.地域包括ケア研究会の報告書には,「地域包括ケアシステムでは,生活の基盤として必要な住まいが整備され,そのなかで高齢者本人の希望にかなった住まい方が確保されていることが前提になる.ここでいう住まいは,高齢者のプライバシーと尊厳が十分に守られた住環境を意味しており,これが在宅生活を継続する上での土台となる」1)と地域包括ケアシステムの構成要素の一つである「住まい」について,「住まいと住まい方」として整理されている.

 日常生活の基盤を築く場である住まいにおいて,われわれ回復期に従事するOTは,脳血管疾患等により障害を抱えた方に対し,もう一度住み慣れた所で安全にいきいきとした生活を送るための一助として,入院中に家屋訪問し,生活環境等を確認したうえで,必要に応じ住宅改修や福祉用具導入の提言等を行っている.

 本稿では,家屋訪問の必要性やその留意点,住宅改修について,小倉リハビリテーション病院(以下,当院)での取り組みを交えながら述べてみたい.

第4章 支援技術Ⅲ 生活期:生活の広がりに向けて

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はじめに

 その人にとって意味のある作業に焦点を当てた支援のあり方について,日本作業療法士協会(以下,協会)は“生活行為向上マネジメント”を開発し広く推奨している.本稿ではこの“生活行為向上マネジメント”を脳卒中モデルへどのように活用していくのかについて,協会の事業の経過を紹介しながら述べていきたい.

2 訪問リハの具体的介入 宇田 薫
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はじめに

 脳卒中患者の在宅での訪問リハ利用者は大きく分けて2つに分類できる.①入院リハからの継続ケース〔入院中にリハを受けており,退院後も継続的にリハサービス(今回は訪問リハ)を利用しているケース〕と,②在宅生活ケース〔入院リハを受けていたが退院後は継続的にリハサービスを受けておらず,ある時期にあらためてリハサービス(今回は訪問リハ)を利用されることになったケース〕である.

 生活期において在宅で作業療法の介入すべき対象者は多岐にわたるが,訪問リハに携わって間もない若手のセラピストからは「どのようなケースが訪問リハの対象者かわからない」,「病棟セラピストやケマネジャーに対象者の説明ができない」,「どうしたら作業療法らしい目的の依頼がくるのか?」という悩みも多い.よって今回は

脳血管障害(cerebrovascular accident:CVA)を訪問リハの介入目的別に簡単な事例を交えながら分類し,訪問リハでの作業療法の考え方や視点をお伝えしたい.本稿が生活期での作業療法の介入方法を他職種や他領域への作業療法へ説明する際の一助になれば幸いである(図).

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はじめに

 今,通所リハは,急性期,回復期の入院期間が短縮し,早期に在宅復帰され,身体機能向上,ADL自立,復職等が目的の利用者が多くなっている.

 その一方で長期の在宅生活経過とともに,社会参加・運動量の減少による廃用等に対して機能改善を目的とする利用者もいる.また軽介護者から重介護,介護予防からレスパイト等までさまざまな目的の利用者がいる.このように多種多様な利用者がいる中で,OTは通所リハでどのような役割を担い,実践しているのかを紹介する.

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はじめに

 脳血管疾患は急性期病院で1カ月,回復期リハ病院で2~3カ月,その後,脳卒中連携パスに導かれ,制度(自立支援法・介護保険等)を活用しての自宅生活が理想だが,摂食困難での胃瘻造設や透析療法の併用等では療養型医療機関での療養もあり得る.昨今ではリハサービスの充実した介護老人保健施設(以下,老健)も増え,急性期病棟から直接に老健を選択し,地域(自宅)への生活移行支援を受ける方も多くなった.在宅復帰率50%を超える在宅復帰支援型老健も老健全体の1割を超す勢いだ.

5 家事 山根 佳子
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はじめに

 家事は,脳卒中で片麻痺となった方々(以下,片麻痺者)が在宅や社会で消費活動を営み,自立生活を再獲得するために重要な課題の一つといえる.

 近年,核家族化や超高齢化,女性の社会進出等,社会および世帯の構造,生活様式が大きく変化を遂げ,家事も,そのスタイルや内容が変化した.宅配(宅食)サービスの普及および乾燥機能付洗濯機,ロボット掃除機,最新技術を用いた家電製品等は家事の負担軽減・効率化に貢献した.これらは片麻痺者においても家事の可能性を拡大したが,リハに携わるOTにも,当然,その変化に対応した役割が求められる.対象者がどのような状態・状況にあっても,対象者自身,その人らしさを,その人本来の生活を再獲得することを優先に,本来行えていた活動(家事)を妨げる本質的な問題に向き合うことが大切であると考える.

 ここでは家事の特性や,家事で抱える片麻痺者の困難性,不適応の問題を取り上げ,治療の方向性・具体的アプローチについて検討する.

6 集団の活用 村上 重紀
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はじめに:退院後始まる目に見えない障害

 脳卒中のリハは,高次脳機能障害等,その症状や障害の多彩さゆえチームで行われる.脳卒中による後遺症は多職種の協働が必要とされる障害である.その中でOTは評価を行いつつ,リハゴールに向けて個別に機能回復,代償的アプローチと呼ばれるさまざまな作業療法を実施する.

 FIMのスコアが上がる,ADLが向上する.退院に向けて介護保険を申請する.試験外泊を行う.ケアマネジャーたちと退院前カンファレンスを行う.家でのリハのためにホームプログラムも提示する.退院の日がきた.本人も家族も表情は穏やかだ.しかしそうしてチームで送り出した,私たちOTが担当した脳卒中の患者さんたちはその後も元気に暮らしているだろうか.

 鎌田 實氏(諏訪中央病院,名誉院長)はその著書1)の中で,救命治療した脳卒中の患者のことを語っている.麻痺側を引きずりながらも歩いて退院した彼を町で見かけて鎌田氏は声をかけた.そのとき彼から返ってきた言葉が「先生,あのとき自分を殺してくれてりゃあよかったな.生かしてくれなかったらよかったのに」.手足が不自由になって生きていくお年寄りの,その一言が心に残った,と述べている.

 同じような思いを筆者も経験した.ある町で,保健師と片麻痺の患者さんを訪問した.退院直後は元気に生活していたのに,どうも特にこの数カ月で寝ついてしまったようだという.家人の話では再発や転倒,熱発等があったわけではない.退院当初は家人と一緒に歩行練習と体操を日課としてこなし,2週に1回の外来リハへも出かけていた.しかし次第に日課の体操もとびとびになり,外出も減り,ベッドの上の生活が長くなる.応援したりなだめていた家族もだんだん疲れてしまう.閉じ込もりの生活から寝たきりになるのに期日はさほどかからなかった.

 初対面のOTの声かけに反応は返してくれたが表情は固い.ベッドに近い壁には病院のPTに指導してもらった体操のイラストが少し黄ばんで貼られている.リハの仕方がわからなかったわけではない.訓練意欲はあったが生活意欲が失われた.障害をもって生活していくことの困難さを教えられた.脳卒中患者は病院を退院したあと見えない障害を負う.

7 自助具の活用 林 正春
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はじめに

 近年,自助具は生活アイデア用品として,医療機器メーカーからのみならずインターネット,町のスーパー,100円ショップに至るまで幅広く購入できる環境となり,われわれの生活環境の中に,ごく自然に一般の商品と変わりなく存在している.筆者は,自助具を「自立したい気持ちを行動に表現する道具であり適切なものをうまく活用することで不十分な機能(能力)を補い,QOL向上に導く」ものと考える.したがって,身体機能,生活行為,対象者の考えやニーズ,生活環境を詳細に評価分析し,素材や加工器具,すでに発表されている物や商品化している自助具の情報等を基にOTはマネジメント〔評価,分析,作製(開発),選択,適合,メンテナンス〕を行う必要がある.

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はじめに

 筆者は回復期病院を出発点に,急性期,訪問リハとさまざまな病期を経験し,多くの脳血管障害(cerebrovascular accident:CVA)の対象者を担当してきた.しかし,数十年の経過とともに機能的によかった麻痺側手足が変形し,IADLに支障をきたしている対象者の姿(図1)に,自己管理を身につけることの重要性を伝え,指導・援助できなかったOTとして未熟さを反省している.このような反省を踏まえ,これから,多くの対象者に接する若きOTに,作業療法の基本となるクラフトの活用方法を,微力ながら伝えたい.

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はじめに

 近年,働く世代における脳卒中発症数は増加傾向にあり,医療機関に患者がかかわっている早期の段階から介入することの重要性や必要性が指摘されている1).しかし,一部の医療機関を除いて,就労支援への積極的なかかわりはまだ少ない.その背景には,診療報酬制度や入院期間の短縮化等の医療制度上の課題2)や,われわれOT自身が就労支援に関して「何をしたらいいかわからない」という疑問や不安を抱えていることが挙げられている3)

 そこで,本稿では,復職や再就職を希望する脳卒中患者に対して,医療機関で働くOTが就労をゴールに見据えた介入ができるように,就労支援のプロセスに沿って説明していく.

10 脳卒中者の自動車運転 加納 彰
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はじめに

 脳卒中となった患者の自動車運転において,大きな問題となるのが身体機能障害と高次脳機能障害である.特に高次脳機能障害については現在までに多くの報告がある中,明確な基準は定められていない.そのため,多角的な視点から患者の運転能力を評価する必要がある.

 中伊豆リハビリテーションセンター(以下,当センター)では,1973年(昭和48年)の開設初期より障害者の自動車運転支援に携わってきた.現在,ドライビングシミュレータ(以下,DS)や,敷地内の実車運転コース,改造車2台を利用し,入院・外来患者への自動車運転再開に向けて評価・支援を行っている.

 今回,当センターで実施している自動車運転評価の流れを中心にOTとして必要な知識や視点を述べる.

 なお,詳細に関しては(社)日本作業療法士協会においても2012年(平成24年)に作業療法マニュアルとして「認知機能障害に対する自動車運転支援」が発行されているのでぜひ参考にしていただきたい.

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はじめに

 IT(information technology:情報技術)は,コンピュータ等の機器,ソフトウェア(以下,ソフト)を用いて情報の取得や発信をする技術のことをいい,ICT(information and communication technology:情報通信技術)もほぼ同義に用いられている.このITは意思伝達手段,福祉用具として利用できる(図1)が,高齢者や障害者はIT機器を使いこなすことが難しいことも多いため,導入に際しては高齢者や障害者の心身機能に適した機器やソフトの選択,環境整備,制度利用の支援を担う人材が求められている.総務省が2004年(平成16年)から開催した「障害者のIT利活用支援の在り方に関する研究会」の報告書では,OTが地域でIT支援の核になっていると指摘しており,「IT支援を業務の一環としてとらえることで,リハビリテーションの観点から,IT支援を進めることが可能である」1)と,OTへの期待が記されている.

 また,ITはRT(robot technology:ロボット技術)と連携し,コミュニケーションや見守り支援としての活用が見込まれている.経済産業省と厚生労働省は,ロボット技術による高齢者の自立支援,介護者の負担軽減や新産業創出のため「ロボット技術の介護利用における重点分野」2)を2012年(平成24年)に公表している.そこでは,移乗介助(装着型・非装着型),移動支援,排泄支援,認知症の方の見守りの4分野5項目を重点課題分野として挙げており,これを2014年(平成26年)2月には改定し,入浴支援を加えた5分野8項目に拡大した.製品の開発が進み,施設だけでなく家庭への普及に向けて,平成26年度予算には「ロボット介護機器開発・導入促進事業」3)を設けて実際の現場で活用しながら効果検証を行うようになっており,その成果が待たれるところである.

 さて,湯布院厚生年金病院(以下,当院)ではこのような時代背景を受けて,ロボット機器の導入と効果検証にも取り組んでいる.たとえば,ホンダ歩行アシスト(株式会社本田技術研究所)を片麻痺患者で利用し,歩幅や歩行速度の改善について三次元動作解析装置を用いて分析を行っている4).作業療法では患者の発動性やコミュニケーションの向上を目的にアザラシ型メンタルコミットロボットパロ(株式会社知能システム)を利用しており,その効果を近赤外分光法(NIRS)を用いて脳機能の変化の検証に取り組んでいる5)(図2).

 IT,RTのいずれも利用者の立場で製品を選び,その人の活動を引き出せるようにカスタマイズを担う人材が必要となる.作業療法で行うIT活用支援とは,自立度や社会参加の拡大を目指し,個々の希望と障害の状況に合わせてIT機器の利用環境を構成すること,さらには潜在化しているニーズに対してITの利用を結びつけることである6,7)

 本稿のテーマである生活期の脳卒中患者におけるIT技術の活用について事例を通して支援のポイントを述べる.

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はじめに

 脳卒中の再発防止と能力維持のためにスポーツをすることはとてもよいことであり,障害のある方がスポーツを楽しむことは社会的リハビリテーションを促進する一種でもある.そこで,スポーツを行ううえでの留意点とスポーツを行うことの効果について実例を交えて紹介したい.

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はじめに

 当社有限会社リハシップ あいは,鹿児島県北部に位置する人口5万6,000人,高齢化率27.3%の出水市にある.当社の理念は,「あなたを愛で支えます」であり,運営目標は「地域でのリハビリテーション理念の実現」である.また,スローガンは「愛とチームの力で“その人らしさの回復”を全力支援します!」である.

 筆者は,21年間の病院勤務を経て,地域でリハの受け皿をつくることを使命と定めて起業し,早10年が経過した.石の上にも3年,桃栗3年柿8年というが,筆者の会社経営は,その上の10年に達した.10年で学んだことは多いが,最大の成果は「エンパワーメントの効果の実感」である.筆者は,経験上社会生活のほとんど(個人や集団・組織の成長や適応等)に「エンパワーメントの理論と実践」が有効ではないかと考えている.

 今回,編集部から「脳卒中者の外出や旅行に必要な知識,配慮,方法等を日本の現状を踏まえてご紹介いただきたい」と依頼があった.脳卒中者に限らず,障害をもった方にとって,外出や旅行のハードルは高い.筆者は,日本の現状として,段差や階段,交通機関等,環境のハード面のハードルの高さもあるが,病気やケガや加齢で自己効力感を失った方の「心のハードルの高さ」も大きな課題と考える.

 「心が動けば身体も動く」という大田仁史氏の言葉があるが,外出や旅行を考えることさえあきらめてしまった方が,もう一度「行ってみたい」と心が動くような具体的な取り組みと仕組みが,今,私たちに求められていると考える.

 その高いハードルを越えるには,本人のエンパワーメントが不可欠であり,同時に支える側のエンパワーメントも不可欠である.支える側,支えられる側が,共にエンパワーメントされてはじめて対等の関係になれると考える.

 本稿では,主に当社の旅行支援チーム「愛たび倶楽部」,「マイたび倶楽部」,「マイ愛たび倶楽部」の活動を通して,脳卒中者の旅行や外出について必要な知識,技術,配慮,他職種連携等をエンパワーメント,達成感,イノベーションの視点から考えてみたい.

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はじめに

 「有終の美を飾る」.何と含蓄の深い言葉だろう.人生においてこの言葉を使うとすれば,終末期である.満足の表情と美しいご遺体を遺すこと,高いQOD(quality of death)である.リハの理念がもつ究極の目的は,有終の美が飾れる人生を,患者と共有することではないだろうかと思う.しかし,QODにリハが関与できるのか.できる場合にはどのような理念を掲げるのか,作業療法はどうかかわっていけるのか,他職種とどう連携をとっていくのか,等多くの課題がある.ここでは,その中のいくつかについて述べてみたい.

第5章 他職種・家族等との連携

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 「チーム医療がうまくいかなかった場合,その不利益を受けるのは患者自身であることを医療者は忘れてはならない.『患者中心の医療』とは,本来は患者を主体とした『患者中心のチーム医療』であることに気づかねばならない」1).「チームの中が民主的で,いろいろな価値観を認め合っていくというときに,患者さんも加えた,お互いの価値観が理解し合える」2).いずれも筆者がNTT東日本伊豆病院(以下,当院)で2000年(平成12年)にスタートした回復期リハ病棟に配属され,病棟でのチーム医療について模索していたときに,解決のヒントを求めて読んだ書の言葉である.それから十数年が経過し,「チーム医療」,「多職種連携・協働」という言葉を目にする機会は確実に増えた.本稿では,当院での取り組みの一部を紹介して,専門職が他の専門職と協働するために必要だと思うことについて述べる.それは,現在でも筆者自身の課題であるが,同じように現場で悩みを抱えるOTが「連携と協働」という視点で,少しでも現場をよい方向に変える一助になれば幸いである.

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はじめに

 脳卒中後遺症は,障害を伴う代表的な慢性疾患である.「脳卒中治療ガイドライン2009」1)によれば,維持期のリハの主な目的は,「獲得した機能をできるだけ長期に維持すること」とされ,「地域生活をベースにしたリハビリテーションの介入は,障害の悪化を軽減し,日常生活動作,日常生活関連動作能力の向上を促すことが期待できる」とされている.そのため個人個人の障害や活動性に沿って,ホームプログラムや地域,在宅を主体とした訪問リハ,通所リハ,外来リハ等が実施されている.しかし,これらの中で私たち医療者は,患者が自己選択し自己決定して生きがいをもって生活できるように援助しているだろうか.生涯にわたって基礎にある慢性疾患の管理とともに障害の管理を必要とし,その主体となるのは,患者自身とその家族である.彼らにとっては,地域での“生活の場”において障害とともに生きる力と社会参加の姿勢こそが重要である.そして,患者・家族を支える専門家の存在も重要である.患者会は本来,「自らの病気を治す」ことを目的とした集団であり,病気に立ち向かう勇気や病気と一緒に生活していこうという心を育て合う集団である.慢性疾患を治すのは患者自身であるため,患者会のない慢性疾患管理は,個々の努力に任され非常に達成されにくく不完全な治療になりかねない.

 本稿では石和共立病院(以下,当院)の患者会活動を振り返り,その必要性について考えていく.

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次号予告

投稿・執筆規定

編集後記 山本 伸一
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 2014年の増刊号は,「脳卒中の作業療法」である.日本作業療法士協会の調査では,脳血管障害を主たる対象疾患と回答する会員が60%を超える.理学療法士及び作業療法士法が制定されて約50年.その期間,当疾患に対する作業療法は発展を遂げてきただろう.病院から地域へ,そして就学や就労まで.生きがいや役割等へのマネジメント,終末期も作業療法の範疇である.責務は大きい.

 本増刊号は,脳卒中を患った対象者に対する作業療法が網羅できる内容である.第1章では,全体を見渡すための各種総論.当疾患において,知っておくべき知識が満載だ.第2章からは支援技術論となる.まずは,How toタッチの基本を提示している.そのうえで各種の日常生活活動へ.個別性を重視した症例報告や最新の医学的アプローチも知ることができる.生活期では,生活向上行為マネジメントから生活の広がりへ,そして終末期への準備まで.発症直後から終末期までの作業療法のあり方として,基本から具体的・包括的内容,そして個別性への介入をわかりやすく解説している.

基本情報

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作業療法ジャーナル
48巻7号 (2014年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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