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はじめに:退院後始まる目に見えない障害
脳卒中のリハは,高次脳機能障害等,その症状や障害の多彩さゆえチームで行われる.脳卒中による後遺症は多職種の協働が必要とされる障害である.その中でOTは評価を行いつつ,リハゴールに向けて個別に機能回復,代償的アプローチと呼ばれるさまざまな作業療法を実施する.
FIMのスコアが上がる,ADLが向上する.退院に向けて介護保険を申請する.試験外泊を行う.ケアマネジャーたちと退院前カンファレンスを行う.家でのリハのためにホームプログラムも提示する.退院の日がきた.本人も家族も表情は穏やかだ.しかしそうしてチームで送り出した,私たちOTが担当した脳卒中の患者さんたちはその後も元気に暮らしているだろうか.
鎌田 實氏(諏訪中央病院,名誉院長)はその著書1)の中で,救命治療した脳卒中の患者のことを語っている.麻痺側を引きずりながらも歩いて退院した彼を町で見かけて鎌田氏は声をかけた.そのとき彼から返ってきた言葉が「先生,あのとき自分を殺してくれてりゃあよかったな.生かしてくれなかったらよかったのに」.手足が不自由になって生きていくお年寄りの,その一言が心に残った,と述べている.
同じような思いを筆者も経験した.ある町で,保健師と片麻痺の患者さんを訪問した.退院直後は元気に生活していたのに,どうも特にこの数カ月で寝ついてしまったようだという.家人の話では再発や転倒,熱発等があったわけではない.退院当初は家人と一緒に歩行練習と体操を日課としてこなし,2週に1回の外来リハへも出かけていた.しかし次第に日課の体操もとびとびになり,外出も減り,ベッドの上の生活が長くなる.応援したりなだめていた家族もだんだん疲れてしまう.閉じ込もりの生活から寝たきりになるのに期日はさほどかからなかった.
初対面のOTの声かけに反応は返してくれたが表情は固い.ベッドに近い壁には病院のPTに指導してもらった体操のイラストが少し黄ばんで貼られている.リハの仕方がわからなかったわけではない.訓練意欲はあったが生活意欲が失われた.障害をもって生活していくことの困難さを教えられた.脳卒中患者は病院を退院したあと見えない障害を負う.
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