- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
2020年度(令和2年度)診療報酬改定において,排尿の自立支援を目的とした排尿自立支援加算要件の設置要員として,OTが加えられた.これは,OTには運動機能障害に伴う機能性尿失禁に加え,尿便意の知覚・表出における認知機能・高次脳機能障害への対応も含めた生活行為としての“トイレ動作”への専門的な介入が期待されているものと受け取れる1).
また,2018年(平成30年)に改定された作業療法の定義の註釈にある“作業療法は「人は作業を通して健康や幸福になる」という基本理念と学術的根拠に基づいて行われる”という点から,筆者らは以下の2つの視点から,OTにとってトイレ動作への支援が重要であると考えている.
1)対象者の視点
ADLの排泄は,その他のセルフケアと比較し,1日当たりの実施頻度が多いADLである.加えて,回復期リハ病棟入院患者を対象とした報告で,Suzukiら2)は転倒の8割以上が病室とトイレで発生しているとしている.一方,後藤ら3)は回復期リハ病棟入院患者を対象としたCOPM(Canadian Occupational Performance Measure)によるニーズ調査の結果で,レジャーや生産活動よりもセルフケアニーズが高く,その中でもトイレ動作の占める割合が最も高かったと報告している.また,排泄は羞恥心を伴う生活行為であり,回復期リハ病棟対象者の蓄尿症状と抑うつの関連も指摘されており4),自尊心に影響を及ぼしやすい生活行為でもある.
2)医療者・社会の視点
脳卒中患者の発症6カ月後,12カ月後のADLの予測因子として亜急性期の失禁が挙げられており5),失禁の有無が退院後の予後に影響することが知られる.津坂ら6)は,回復期リハ病棟入院患者の自宅退院の予測因子として,機能的自立度評価表(Functional Independence Measure:FIM)のトイレ移乗,トイレ動作が予測に適していると報告している.また,軽度要介護者(要支援1〜要介護1)の5年後の要介護度の経年変化に関する多変量解析による研究7)において,「排泄の失敗の有無」が予測因子との報告もされている.つまり排泄は,能力だけでなく自宅復帰率や要介護度の変化といった脳卒中後リハの進行に影響する点からも重要である.
また,辻ら8)は,FIM運動項目合計点(以下,FIM-m合計)の層別での介助量目安として,20点台以下を最大介助,30〜40点台が中等度介助,50〜60点台が軽介助,70点以上がセルフケア自立群としており,排泄に関連する排尿管理,トイレ移乗,トイレ動作作の項目が自立するにはFIM-m合計が70点以上必要となる.一方,回復期リハ病棟の2021年度調査報告書9)によれば,脳血管系患者の病棟ごとの入院時FIM-m合計の層別分布では,20点未満〜40点台の患者が8割以上を占めている.つまり,患者の8割以上が入院時から排泄の自立に向けた介入を必要といえる(図).
以上より対象者のリスクとニーズのトレードオフの関係から,排泄は対象者の健康と幸福のために重要な生活行為であり,医療者にとっても携わる頻度の多い,重要な生活行為である.
Copyright © 2021, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.