臨床検査 44巻11号 (2000年10月)

特集 細胞診―21世紀への展望

巻頭言

ポスト・パパニコロウの時代 坂本 穆彦
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 細胞診とパパニコロウとは切っても切れない縁で強く結ばれてきました.何よりも,Papanicolaou自身は細胞診の創始者とされておりますし,氏の考察によるとされるパパニコロウ染色は染色法のスタンダードとして種々の変法を交えつつも今日なお広く用いられています.さらにパパニコロウ・クラス分類はわが国では津々浦々まで浸透し,日常診療に定着しております.細胞診の判定報告書にこのクラス分類を記載する欄が印刷していない施設を探すことはなかなか難しいものと思われます.

 細胞診を語るキーワードとしてはスクリーニングも外せません.病変,特に癌の有無をチェックする簡便な検査手法としての面が,細胞診普及の根底にあったことは間違いないと思われます.癌検診における細胞診の貢献は細胞診の意義を語るうえでの重要なポイントであり,ここではスクリーニングとしての機能が十二分に評価されてきました.

第1章 細胞診―現状の問題点と今後の方向性

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はじめに

 医療は疾患の診療と疾患の予防が柱となって構成されている.医療の根幹には医学を支える原理としての科学性が厳として存在する.しかし,医療の辺縁部は厳密な科学性に裏打ちされてはいないが,社会的要請を理由とした多少異質な面も包み込まれている.社会保険の点数の変動が診療内容に有形無形の影響を与えうるのはその1例である.医療行為としての細胞診を論じるには,したがって,科学的側面と社会的側面の両者をたえず意識してゆく必要があろう.

 本稿では細胞診が今日置かれている医療の場における位置づけ,すなわち細胞診が医療のなかで記してきた軌跡の現在の到達点と今後の展望,特にどのような立場で,どのような考え方を持って細胞診に望むべきかにつき論じてみたい.筆者は細胞診指導医・認定病理医という立場で細胞診業務にかかわっているが,立脚点が違えばおのずと別の見解も存在することは想像に難くない.多様な考え方をつきあわせるなかから,将来の道筋がおのずと描かれてゆくものと考えており,以下の論考がその一助となれば幸いである.

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はじめに

 今日の細胞診の基礎を作り,発展させた功労者はPapanicolaouである.彼が提唱した採取細胞の異型度に対するクラス分類(パパニコロウ分類,以下,Pap分類)は,現在わが国で種々に形を変えて広く使用されている.しかし,時代が進むにつれ,そのクラス分類について多くの問題点が指摘されるようになった.1988年の婦人科頸部におけるベセスダ方式の提唱を始めとして細胞診の報告様式についていろいろな論議がなされている1)が,その問題点・現状・今後のあるべき姿を考えてみたい.

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はじめに

 細胞診における陰性症例判定への医師のかかわりを述べる前に,細胞診の今日的意義について整理する必要がある(なお,詳細は本章1.医療における位置づけを参照).今日,医療現場における病理診断に占める細胞診の重要性については,改めて述べる必要はないと思われる.とりわけ,超音波エコーないしCTガイド下の穿刺吸引細胞診や内視鏡直視下のねらい撃ち(狙撃)擦過細胞診などの普及は,従来のスクリーニングによる病変の存在を探る細胞診の目的から,既に局在が確認されている病変の質的診断へと変化してきている.そして,細胞診の報告書は単なる検査結果ではなく,医師(主として病理医)の責任でなされる医療判断をするうえで必要な専門的医療情報であることを診断に携わる医師はもちろんのこと,細胞検査士も十分に認識する必要がある.

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細胞診自動化のあゆみ

 細胞診自動化は子宮頸癌早期発見のため集団検診が盛んに行われるに伴い急速に増加する検体に対処するために,検体の大部分を占める陰性例を,精度を維持しながらつまり誤陰性例を発生することなくそして省力化つまりできる限り多くの検体を,自動スクリーニング装置によって除外して置くことを目的としたものである.この研究は主として米国で1960年代初頭から(A) flow cytometryそして(B) image cytometryを用いて開始された.

 わが国でも欧米に多少遅れをとったが山村,岸上ら1),田中ら2,3),高橋らによって開発が進められた.米国では自動化の必要度がかなり高く精度管理,特に再スクリーニングには有用であった.1980年代になって,米国では子宮頸癌において,従来の用手法による塗抹パパニコロウ(Pap)標本を細胞検査士がスクリーニングした中に誤陰性例が多数発見され社会的な問題に発達した.このことが子宮頸癌の前癌病変の正確な診断と早期発見をより確実にするために技術的進歩をおおいに促進させ,The ThinPrep Pap Test(TPPT)が1996年に通常のPap塗抹標本に代って導入されるようになった4)

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はじめに

 細胞診で用いられる標準的染色法は,アルコールによる湿固定系の染色法と冷風による乾燥固定系の染色法の二種類に大別される.アルコールによる湿固定系の染色法としてはパパニコロウ(Pap)染色が代表的であるが,ほかにヘマトキシリン・エオジン(HE)染色も用いられる.冷風による乾燥固定系の染色法としてはメイ・ギムザ(メイ・グリュンワルド・ギムザ;MGG)染色が代表的であるが,ほかにディフ・クイック(DQ)染色やギムザ染色などがあり,特にDQ染色は染色時間が短いため迅速診断の際にしばしば用いられている.

 Pap染色はアルコールによる湿固定を行い,ヘマトキシリン液,OG液,EA液で染色する.MGG染色では冷風による乾燥固定を行い,メイ・グリュンワルド液とギムザ液で染色する.このようにPap染色とMGG染色は固定方法から染色液まで全く異なる染色法である.両者を比較した場合,それぞれに相異なる長所と短所を有しており,一概にどちらの染色法が優れているとは言い難い.Pap染色は扁平上皮細胞の観察に適しており,婦人科細胞診のように扁平上皮癌の頻度の高い検査では非常に有用である.また,MGG染色は血液細胞の観察に適しており,血液像や骨髄像の検査には非常に有用である.このようにPap染色とMGG染色は,それぞれの特色の違いから,臓器や診断の目的に応じて使い分けられたり,あるいは併用されたりしている.現在,わが国で日常的に用いられている染色法はおおむね表1に示すとおりである.本稿ではPap染色とMGG染色の特色の違いを中心に紹介する.

6.歯科医からみた細胞診 田中 陽一
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口腔細胞診の現状と問題点

 口腔内の細胞診の歴史は比較的浅いが,1960年代のアメリカではoral cytologyとして独立し,口腔内悪性腫瘍,粘膜疾患など剥離細胞診における細胞同定についてはほぼ完成されている1,2).わが国でも,口腔癌患者の唾液塗抹標本を応用した報告が50年代に認められる3).しかしわが国では,それらの知識はあまり踏襲されることなく,現在でも口腔細胞診に対する認識は低い.これは口腔病変は可視的で,組織採取が容易であるなど臨床的な問題とともに,臨床医,病理医,口腔病理医,細胞検査士の口腔細胞診に対する考え方も強く反映されている.

 口腔は解剖学的にも,組織学的にも複雑で,他の領域の疾患のほとんどが生ずると言っても過言ではない.また歯原性病変のように一般には馴染みの薄い特徴的な疾患もみられるなど多岐にわたっており4),診断に熟練を要することも口腔細胞診の普及を妨げている.口腔は1つの単位であるだけではなく,実は多種多様な組織の集まりで全身疾患のミクロコスモスといった器官でもある.しかし診断についていえば,歯科医は全身的な訓練が足らず,医科では口腔の基礎知識に乏しい.顎骨嚢胞の診断にどれほどの価値があるのか?細胞診はもとより他の診断に携わる多くの人のうち,どの程度の人が理解しているだろうか? 残念ながら現時点では極めて少数と思われる.これは口腔を専門とする歯科医にとっても同様である.また口腔癌では,以下に述べる形態の特徴から判定が難しく,臨床の信頼が容易に得られない事情もある.

7.遠隔細胞診断 土橋 康成 , 真崎 武
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定義と領域

 遠隔細胞診断(remote cytological diagnosis),あるいは遠隔細胞診,テレサイトロジー(telecytology)は,ある地点で採取された細胞像の電子化情報が,通信回線を用いて空間的に離れた他の地点に伝送され,そこで再びモニター上に細胞像として表示されたものについて,診断,コンサルテーション,教育,討議などを行う遠隔医療・教育の一分野を指す.このテレサイトロジーは,通常広い意味での遠隔病理診断,テレパソロジー(telepathology)に含めるのだが,組織診断に対して細胞診断(細胞診)があるという整理に立つ場合には,テレパソロジーが扱う領域を組織に限定して考え,それに対する領域として遠隔細胞診を位置付けることとなる.

 実はこのような区別を行うことは,テレサイトロジーをより正確に理解するうえで重要である.なぜならば細胞診と組織診断とは,扱う材料の構造上,分布上,染色上,スクリーニングの存否を含む診断方法論上,おおいに異なり,さらにそれらが画像処理上の要求の違いをもたらし,遠隔医療の扱いにおいて,相互に多くの"似ていて非なる要素"を持つことが明らかであるからだ.

8.細胞診の精度管理 廣川 満良
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精度管理とは

 細胞診の精度管理(quality assurance, quality con-trol, quality improvement, quality management)とは業務の正確さ,円滑さを図るための手段であり,標本作成に至るまでの過程は一般工場で作る製品の品質管理とほぼ同様である.しかし,診断学の分野ではその診断が正しいか否かを判断する絶対的基準がないためにいろいろな方法を利用して確認し,常に診断の精度を向上させていくことといえる1,2).わが国では欧米と比べ細胞診の精度管理を実施している施設はまだ少ないが,患者に対する質の高い医療を行うためには必ず実施されなければならないものである.

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はじめに

 近年の細胞診の進歩は飛躍的であり,細胞診を通じての国際交流もめざましいが,いままでにも増して21世紀には諸外国との交流が盛んになると思われる.

 国際交流で重要なことは,お互いに対等の立場で協力しあい,お互いに相手から多くのことを学ぶことにある.どちらか一方が奉仕する,あるいは恩恵をこうむるなどと考えるならばそれは国際交流ではなく,単に国際援助に過ぎない.

第2章 検診・外来診療における細胞診の役割

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はじめに

 子宮頸癌検診は手法として細胞診が採用され,その普及により早期発見,早期治療の症例が増加することが知られ,また罹患率・死亡率の減少など,科学的にその有効性が示されている有用な検診である.わが国においては戦後の生活環境の改善や衛生観念の向上,全国規模での子宮頸癌検診の施行などにより,子宮頸癌の死亡率が著しく減少してきた.しかしながら現在でも上皮内癌の罹患率は減少傾向にはないこと,また20歳代,30歳代といった若年者での罹患率の上昇が懸念されている.したがって,子宮頸癌は過去の事象として無視することはできず,検診の存続を含め,今後とも対策が求められ続ける疾患である.

 21世紀を迎えるに当たり,医療に対する考え方が変貌し,1つのサービスとしてその質が問われ,コストが問われるようになった現実は誰もが認めるところである.患者自身が主体的に医療サービスを取捨選択する時代である.子宮頸癌検診も地方自治体がその実施に関して意志決定することとなった(1998年より).こうした状況を勘案すると,今まで施行してきた子宮頸癌検診を,「誰が主体となって」,「誰を対象に」,「どのような方法で行われ」,それによって「どのような効果があるのか,あるいはないのか」といった点に関して再度立ち止まって確認しておくことが,この医療サービスを提供する側にも享受する側にも不可欠と考えられる.ここでは子宮頸部擦過細胞診を用いた子宮頸癌検診の有用性の評価について久道班による「厚生省がん検診の有効性評価に関する研究班」(1998)の報告1)を中心に述べ,また現在,子宮頸癌検診の置かれた社会的な位置づけについて概説し,今後求められると考えられる課題についても触れてみたい.

2.子宮体癌検診 岡島 弘幸
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老人保健法成立まで

 日本産科婦人科学会腫瘍委員会の報告によると子宮体癌の報告例数は年々徐々に増加しており,1983年,子宮癌中に占める体癌の頻度は15.2%であったが,1993年には32.3%に達している(図1)1).年齢階層別発生頻度でも総体的に増加しており,これは日本人の平均余命が延びたための見かけ上の増加ではなくて,戦後の生活習慣の欧米化による変化と理解されている.

 一方,癌の二次予防のための学会としての組織的な動きは,1959年(昭和34),第11回日本産科婦人科学会総会において,宿題報告「子宮頸癌の早期診断に関する研究」(増淵一正癌研究会附属病院婦人科部長)にみることができる.これはまた同年開催された第15回日本医学会総会のパネルディスカッションのテーマでもあって,学会をあげて早期癌発見のための方策を模索していたことがわかる.

3.乳癌検診 馬場 紀行
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はじめに

 現在乳癌検診は老人健診の一環として行われているが,いまだに視触診が中心であり,乳房の診察に手慣れた医師が検診を担当しているとは限らず,精度上問題があるといわれて久しい.最近になってようやくマンモグラフィーなどの画像診断を併用して,視触診による不備をカバーしようという動きが本格化してきた.細胞診は乳癌検診においては,婦人科検診のように一次検診の場で多用されることはない.視触診で腫瘤を触知するか,乳頭分泌が認められる患者に対して,二次検査(精密検査)の一項目として施行されるのが一般的である.本稿を執筆するに当たって乳腺診療に携わる専門医としてこれからの乳癌検診のありかたと,細胞診の役割について私見を述べたい.

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わが国における肺癌検診の現状

 「労多くして効少なし」と,米国は肺癌集検のみならず,喀痰細胞診自体にも断じて久しい.

 一方,わが国における肺癌検診は,昭和62年度から老人保健法の事業として取り入れられ,厚生省の事業報告1)では平成9年度の受診者は7,061,535名で,男女比は1:1.91,肺癌の発見は3,436名,粗発見率は10万対48.7とされている(表1).厚生省は2),人間ドックを含めると年間約1,023万人が受診していると推定している.

5.婦人科外来診療 中山 裕樹
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はじめに

 Papanicolauが腟脂垢から子宮癌診断が可能であることを示して以来,婦人科領域の細胞診は今世紀の間に十分成熟し,進歩の余地は少ないと言う者もいるが,はたしてそうであろうか.新しい世紀を迎えるに当たり,細胞診の未来を期待する者として,婦人科細胞診,ことに外来診療における現状を振り返り,未来への展望の一助としたい.

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はじめに

 今世紀,細胞診は臨床各科における多くの疾病の診断に幅広く貢献してきたが,われわれの携わる呼吸器疾患,特に肺癌を主とする悪性疾患の診断においても,その迅速性,簡便性などの利点を十分に活かして,日常診療に不可欠の手段となっている.

 呼吸器外来業務では,患者の確定診断を正確にしかも早く獲得することが重要であり,その結果に従って治療の必要性の有無,治療法の選択および治療を要する場合の入院の要否の判断などが決定されている.これらの意味において診療過程における細胞診の占める役割は極めて大きく,具体的には連日のように施行されている喀痰細胞診,気管支鏡下細胞診,経皮的針穿刺細胞診などの検査結果がその被験者の治療方針の決定に直結していると言える.

第3章 検体処理と標本作製

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はじめに

 近年,超音波診断など画像診断の進歩は目覚ましく,これに伴ってほぼ全身臓器の腫瘤に対して,積極的に穿刺吸引細胞診が施行され,その診断結果で直ちに治療が開始される機会が多くなった.

 さらに,穿刺吸引細胞診での検体採取法,検体処理,標本作製法の工夫により,その診断率の向上も目覚ましく,穿刺吸引細胞診は21世紀に向けてますます普及すると考えられる.

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はじめに

 婦人科細胞診はPapanicolaouによる腟分泌物細胞診に始まり,そのアプローチの容易さから子宮頸癌での検討が他の臓器に先がけて行われ,子宮頸癌の自然史解明に大きな役割を果たした1).その後,細胞診の適応範囲は拡大し,現在,産婦人科領域で行われる細胞診は外陰,腟,子宮腟部・頸管,子宮内膜,腹腔表面,腹水,卵巣など広い範囲に及ぶようになった.そのなかでも子宮頸部,体部の細胞診は老人保健法による婦人科癌検診の中心手段として大きな役割を果たしている.また近年,腹腔鏡手術といった新しい手術術式の導入や,腹腔内リザーバーといった新しい機械を用いた患者管理法の普及により,腹膜,体腔液,卵巣腫瘍内容液なども取り扱う頻度が増加している.

 本稿では婦人科領域細胞診における採取法の現状を紹介し,さらに今後の展望について検討してみたい.

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はじめに

 最近の肺癌検診方法の進歩は目覚ましく,肺野末梢領域ではヘリカルCTを用いることで陰影の直径が10mm程度の超小型肺癌が発見され,また中枢気道においても喀痰細胞診により粘膜内癌を含む深達度の特に浅い早期肺癌が検出されるようになってきている.しかしながら確定診断のための生検の対象となる病変が小型になるにつれて,肺末梢孤立性陰影に対する生検および喀痰細胞診で要精検(判定区分D/E1))とされた場合の病変の同定などはますます困難となりつつあるのが現状である.筆者らは精検の精度を高めるため種々の工夫をしており,本稿では肺癌を中心とする小型病変の占拠部位を中枢気道と肺野末梢に大別して筆者らが行っている精検の有効性について述べる.

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はじめに

 近年,医学の進歩とともに細胞診の対象や手技は多岐にわたるようになってきた.迅速細胞診もその1つである1~5).迅速細胞診と言えば,術中迅速組織診断時の補助的診断法として塗抹細胞診を併用する1,6)場合が一般的であるが,穿刺吸引細胞診の現場での迅速細胞診や7~12),術中腹腔洗浄液の迅速細胞診も行われている.本稿では,最近しだいに市民権を得てきている穿刺吸引迅速細胞診や術中腹腔洗浄液迅速細胞診の方法や意義について解説する.

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はじめに

 細胞診の歴史は以外と古く,近代細胞診の祖として君臨するPapanicolaou GN & Traut Hの論文よりも約100年ほど前の1843年に既になされている1,2).しかしながら,何といってもPapanicolaouの現代細胞診史に今なお残す功績は計り知れないものがある.その1つがShorr染色を改変したPapanicolaou (Pap)染色の考案にあると言える.細胞診の価値を飛躍的に進歩させた背景には,広く普及した細胞採取技術としての穿刺吸引法や,より高度な質的診断を可能とした免疫細胞化学染色法の存在も無視できない.しかし,細胞診においてこれらの手法を生かす基本的対象はPap染色標本が中心であり,改めてPapaniocolaouの偉大さを知らしめる働きをしているにすぎない印象である.この観点からは本稿も類に漏れない.近い将来,固定法をはじめ,細胞診の根底を覆すようなPap法に代わる染色技術の開発が待望される.

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はじめに

 "Cytopreparation is the foundation of cytomor-phology"という言葉が示すごとく,効率よくしかも良好に形態保存された標本を作製することは細胞診の精度を保つ極めて重要な要素と言える.しかし,細胞検査に提出される検体は一様ではなくそれぞれの特性に合った検体処理がなされなくてはならない.そのため標準化の過程は決して単純なものとは言えないが,細胞診の精度を大きく左右する細胞標本作製において不適切な標本をできるだけ少なくする努力は,引き続き行われなければならないことに変わりはない.1991年にHutchinsonら1,2)がdirect-to-vial方式に基づいた検体の液状化処理の新技術を子宮頸部スメアで行い従来法より精度の高い結果を示した.これらはまた,非婦人科検体についても同様の検討結果3,4)が報告され,この新技術を利用した標本作製が作業の標準化と併せてにわかに脚光を浴びることとなった.

 本稿では液状処理化の技術を紹介し子宮癌細胞診の自動処理に向けた米国における試みとそのゆくえを概説する.

第4章 判定の実際

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はじめに

 手術中における迅速病理診断は,画像による病変の術前診断や治療方法の目覚しい進歩に伴い,ますますその必要性と重要性が高まってきた.なかでも脳腫瘍の手術中における迅速診断は手術範囲の決定や放射線療法の選択に必須の検査であり,その診断の正確さが要求される.しかし脳腫瘍の凍結標本は診断に必要で十分なものを作製することが困難であることが多く,診断病理医にとって悩みの種であった.しかし脳腫瘍の圧挫組織による細胞診断が取り入れられ,凍結切片の欠点が補われるとともに,細胞像からの新しい所見が得られるようになり,脳腫瘍の迅速診断は質的に大きく進歩したと言うことができる.

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はじめに

 穿刺吸引細胞診は侵襲が少なく,比較的簡単に病変部から細胞を採取でき,組織学的診断も可能なため,現在唾液腺腫瘍の術前診断の1つとしてさかんに行われている.その診断精度は術中迅速組織診断とほぼ同じであり,偽陽性は穿刺吸引のほうが,偽陰性は迅速組織診断のほうが高くなる傾向があると言われている.穿刺吸引細胞診に期待できることとして,唾液腺であるか否か?,腫瘍性か非腫瘍性か?,良性腫瘍か悪性腫瘍か?,腫瘍の組織型は何か?,さらなる検査が必要か?,治療が必要か?,術式をどうするか?などが挙げられるが,実際,唾液腺腫瘍には非常に多くの組織型があり,また,個々の腫瘍の細胞像も多彩であるため,系統的な細胞診の見方が必要である.そこで,本稿では細胞診断へのアプローチと鑑別法について解説する.

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はじめに

 甲状腺乳頭癌の大部分は比較的予後良好とされているが,なかには局所再発,遠隔転移をきたし,患者を死に至らしめる症例も少なからず存在する.坂本ら1)はこのような予後のやや不良な症例を区別するため,組織学的に甲状腺乳頭癌を予後の良好な高分化型と予後のやや不良な低分化型の2型に分けることを提唱しており(図1),「甲状腺癌取り扱い規約」第5版にも記載されている(表1).

 また西田ら2)は,多数の甲状腺癌症例を坂本分類にしたがって,高分化型成分のみの症例(A群),低分化型成分を腫瘍の10%未満含むもの(B群)と低分化型成分を10%以上含むもの(C群)の3群に分け,術後の予後を比較検討した.その結果,A群とB群に差はないが,C群は他の2群に比してリンパ節転移の頻度が高く,甲状腺外への浸潤が多く,遠隔転移も多く,再発率が高く,予後も有意に不良であることを示した(図2)2)

4.甲状腺:濾胞状腫瘍 坂本 穆彦
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はじめに

 甲状腺領域の病理診断は,近年の穿刺吸引細胞診の導入によって,その様相は一変した1).すなわち,とりわけ治療開始前の確定診断の決め手であった針生検組織診が行われなくなり,それに代わって穿刺吸引細胞診が目覚ましい広がりをとげた.手技の簡便性と高率の正診率が普及の原動力となった.

 しかしながら,甲状腺穿刺吸引細胞診は万能というわけではない.診断学上の最大の課題として,濾胞状腫瘍(follicular tumor)の診断,具体的には濾胞癌(follicular carcinoma)と濾胞腺腫(follicularadenoma)との鑑別が"未解決"のまま残されている2).これを未解決とみるか,決着済みとみるかは観点によって変わってくる.

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はじめに

 乳腺腫瘍の細胞診断は他臓器のそれと比べて判定困難例に遭遇することが多い.その原因として乳腺穿刺細胞診では小型で異型に乏しい乳癌細胞が少なからず認められる反面,良性病変である線維腺腫(fibro-adenoma)あるいは乳腺症(mastopathy)などに強い異型を示す細胞が見られるからである.現在の乳腺穿刺吸引細胞診の正診率は85%前後とほぼ一定しているが,今後さらに診断精度を向上させるためには,乳腺腫瘍のうちで少なからざるウエイトを占める"小型異型(癌)細胞"を如何にして判定するかにかかっていると思われる.

 本稿ではこの小型異型細胞の特徴,および良性病変との鑑別診断について概説する.

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乳房温存術の迅速診断

 乳房温存術(手術)において切除乳房断端の癌進展の有無は,術後の局所再発にかかわる重要な因子である.術中に断端陽性が判明すれば,十分な追加切除が可能であり,また,放射線照射の部位決定に役立つため,術中の断端検索は乳房温存療法に重要な情報を提供することとなる.

 乳房温存療法とは1999年の日本乳癌学会の乳房温存療法ガイドラインによると乳房温存手術と腋窩郭清の後に温存乳房に対して乳房照射を加えるものを言い,乳房温存手術単独のものと区別する.乳房温存療法および乳房温存手術単独の両者を含んで呼称するときは,乳房温存治療とするとある.

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はじめに

 乳腺領域の細胞診としては,穿刺吸引細胞診,乳頭分泌細胞診,Paget病の診断に有用な乳頭表皮からの擦過細胞診,および乳房温存術の普及とともにさかんになった乳腺切除材料の断端細胞診などが挙げられる.

 穿刺吸引細胞診は乳房内の腫瘤やしこりに直接細い針を挿入して細胞材料を採取する方法で,手技が簡単で組織に与える侵襲も少なく,比較的良好な成績が得られることより,現在では乳腺領域の極めて有力な診断法となっている1)

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はじめに

 CT機器の進歩により肺末梢の小型結節性病変が多く発見されるようになり,切除されたものでは約半数は肺癌で,かつ高分化腺癌が大部分を占めている.1995年Noguchiら1)は,2cm以下の小型腺癌を進展様式から,置換型のA型(限局型細気管支肺胞癌(BAC)),B型(肺胞虚脱巣を有する限局型BAC),C型(線維芽細胞の増殖を示す限局型BAC)と,非置換型のD型(低分化腺癌),E型(腺管腺癌),F型(圧排性あるいは破壊性増殖を示す乳頭腺癌)の6型に分類した.限局型BACとは,孤立性で軽度に肥厚した既存の肺胞壁を裏打ちするように,肺胞上皮を置換しながら増殖する腺癌で,個々の腫瘍細胞はClara細胞,2型肺胞上皮あるいは杯細胞に似るとしている.NoguchiのA型の代表的thin-sliced CT像は,含気に富む淡いすりガラス状の陰影(groundglass attenua-tion)を示す.さらに2cm以下の小型腺癌236切除例を増殖様式別に予後をみたところ,A型,B型の5年生存率は100%,一方C型,D型では予後はしだいに悪くなっており,置換型では少なくともA型→B型→C型へと移行し得るとの考えを示した.その後腺癌の発生・進展の知識が集積され現在のところ,①多くの腺癌の初期像はBACの形をとり,その後腫瘍腺腔の虚脱や線維化が形成され,進行癌(乳頭腺癌など)へ移行する.②腺癌の前癌病変として異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia;AAH)が位置づけられている.

 「WHO肺腫瘍の組織分類」(第2版,1981)2)や「日本肺癌学会組織分類」(「肺癌取扱い規約」改訂第5版,1999)3)では,腺癌は形態学的に腺管型,乳頭型,細気管支肺胞型に,さらに分化度を加味した比較的単純な分類が行われ,細胞学的分類もほぼ同様の基準で分類されてきた.1999年「WHO肺腫瘍組織分類」(第3版)4)が新たに改訂されたが,その要点は以下の4点である.①乳頭腺癌の定義がより明確にされた,②BACを細分類し非浸潤癌と定義した,③日常経験する腺癌の多くは亜型が混在し複雑であることから混合型腺癌を一亜型とした,④種々の特殊型が,列記された.すなわち,腺癌を増殖形態,細胞形態とともに進展度を加味して分類しようとするものである.

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高分化扁平上皮癌の細胞像

 扁平上皮癌の分化度は角化の程度により表現される.すなわち高分化型扁平上皮癌は細胞所見による分類では,角化型扁平上皮癌である.したがって,高分化扁平上皮癌の細胞像では角化が明瞭に認められ,典型例ではその鑑別は比較的容易である.

 高分化扁平上皮癌のPapanicolaou (Pap)染色での典型的な細胞像としては,以下のようになる.①喀痰における,細胞配列は特に単個のフリーセルの形で出現することが多いが,小集団では敷石状の平面的配列を示すのが特徴で,進行癌では壊死背景を認めることが多い.②胞体はオレンジG (OG)好性ないしライトグリーン(LG)好性で彩度が高く,ガラスのように重厚な透明感があるものや胞体内に層状構造を呈する細胞が出現する.胞体の形状は類円形,多陵形細胞のほかに,線維(fiber)型,オタマジャクシ(tadpole)型,ヘビ(snake)型など奇怪な形状を示すものも多く出現する.また時には,扁平上皮細胞がたまねぎ状に取り巻く真珠形成(癌真珠)も見られることがある.これらは,異常角化(dyskeratosis)を示す重要な所見である.③核は一般にクロマチンの増量が著明で顆粒状から粗顆粒状を示すものが多く,角化や変性が進んだ細胞では濃縮,融解,破砕状の核が見られるようになる.核小体は変性の少ない新鮮細胞でのみ見られるが,一般に1~数個であり目だたないことも多い.これは扁平上皮癌細胞の核小体は,腺癌細胞のように,打ち抜き状に見られるものが少ないことによる.

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はじめに

 肺小細胞癌は日本肺癌学会の肺癌取り扱い規約では,「小型の未分化な腫瘍細胞が充実性,胞巣状,索状,"stream"状,リボン状,あるいはロゼット形成を示して配列し,一般に間質は血管に富んだ少量の結合織から成っている」と定義されている1).そして,腫瘍細胞の形態から燕麦細胞型と中間細胞型とに分けられている.一方,1999年のWHO分類ではsmallcell carcinomaとそのvariantとしてcombined small cell carcinomaとに分類されている2).前者は純粋に小細胞癌のみから構成されるもので,これに対し後者は非小細胞癌成分が混在するものに使われている.本症は,診断時大半の症例では既に遠隔転移を起こしていると考えられ,全身化学療法が治療の基本となる.したがって,その診断特に小細胞癌か非小細胞癌かの鑑別が治療法の決定や予後を予測するうえで極めて重要である.

 本稿では,特に小型円形細胞が出現し,小細胞癌との鑑別の必要な種々の肺悪性腫瘍について主な鑑別点を中心に述べる.なお,肺小細胞癌の細胞像は省略した(図1).また,鑑別の要点を表1にまとめたので参照されたい.

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はじめに

 胃癌における術中腹腔内洗浄細胞診(以下CYと略す)は胃癌の予後を示す重要な因子1,2)であることが明らかになり,1999年6月に発行された第13版「胃癌取り扱い規約」3)に採り入れられた.特に,Po,CY(+)の胃癌症例はP1症例と同等の予後を示すと言われており2),胃癌の術中における腹腔内洗浄細胞診は患者の予後を推測するのみならず,術中術後の補助療法を選択するうえでも非常に重要な検査法になってきた.しかしながら,CYの施行に当たっては,①洗浄液の採取部位や方法,②検体処理方法などがすべての施設で統一されているとは言い難い.さらに,③反応性中皮細胞と癌細胞との鑑別,④プレパラート上の癌細胞数の多少を報告することに意義があるのか,など種々の問題点や不明点が指摘されている.

 本稿では上記問題点に対する打開策あるいは処置,工夫について述べる.

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はじめに

 超音波,CT,MRIなどの画像診断の発達に伴い,肝硬変や慢性肝炎(ウイルス性)に小型結節性病変(2cm以下)が発見されるようになった.小結節性病変にはごく小さい肝癌(細小肝細胞癌)をはじめとする種々の病変が含まれており,病理学的組織診断および細胞診において良性悪性の判定に苦慮することがある1).画像診断の診断精度の進歩,術中超音波検査の開発によって肝小型結節性病変の良性悪性の判定や質的診断が可能な例が増加しているものの,確定診断は針生検および生検材料のスタンプ材料や穿刺吸引による細胞診によって行われている.今回肝細胞癌のうち診断が難しいとされる高分化型肝細胞癌の細胞像の特徴について述べ,鑑別診断が必要とされる病変について述べる.

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はじめに

 膵液・胆汁細胞診の対象となる臓器は膵と胆道(胆管・胆嚢)であり,虫卵などの特殊な疾患を除き,その目的は腫瘍を質的に診断することにある.

 一般に膵癌・胆道癌はまれな疾患と考えられがちであるが,わが国における悪性新生物による死亡数(1996年)の統計では5位,6位を占め,これを合わせると3位,4位の大腸癌・肝癌にほぼ匹敵し,1位の胃癌の3/5にも達する1)

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はじめに

 ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus;HPV)は,性感染症(sexually transmitted dis-ease;STD)として重視されているばかりでなく,最近では発癌との関連が注目されている.今回細胞診におけるHPV感染所見およびその検出限界さらにその他形態学的方法を中心とした各種検索を述べる.

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はじめに

 子宮頸部の腺系の悪性病変は,近年増加傾向にあるが,その組織発生,進展様式などについて不明確な部分が多く,現時点では早期発見に対しての診断上効果的な方法に乏しいと言える.特に初期腺系病変においての,細胞診上の判定基準は確立されておらず,また前癌病変の認識が扁平上皮癌に比し乏しいことから,偽陰性を招きやすいと言える.このことは,子宮頸部の初期腺系病変の細胞診を日常の診療,診断に利用することに際して,スクリーニングの果たす役割が扁平上皮癌のそれと比べるとやや劣っていると言える.

 そこで子宮頸部の腺系の病変における細胞診上の特徴を整理し,鑑別のポイントとなる所見をまとめた.まず,現在「子宮頸癌取扱い規約」1)により報告されている腺癌,および関連病変(表1)のうち臨床上遭遇することの多い腺癌および関連病変において現在報告されている細胞診上の特徴をまとめた(表2).

16.子宮頸部:日母分類の評価 平井 康夫
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はじめに

 子宮頸部の細胞診の究極の目的は,採取された細胞標本上の細胞所見から,その細胞が由来した病変を正確に検出・診断することにある.しかし,子宮頸部に存在する病変と子宮頸部から採取された細胞標本による細胞診断とは,さまざまな理由でしばしば一致しない.そのために,細胞診の判定結果として直接的な組織診断病名による診断名とは別に,判定結果を分類して臨床的取り扱いを統一するための区分けが必要になる.子宮頸部の細胞診が主として癌検出と癌の診断を目指すものであることから,その判定基準と判定結果の分類法には歴史的にも考え方のうえでも異なった立場に基づく分類が存在する.

 本稿では,いくつかの異なった立場に基づく細胞診判定結果の分類の仕方について,その異同と特質について述べ,そのうち最も代表的な分類法である「日母分類」を再評価してみたい.

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ベセスダシステム(TBS: The Bethesda System)の確立

 1987年に起こったPapanicolaouスキャンダルに対して1988年,米国Bethesda (Maryland州)のNIC(National Cancer Institute)がスポンサーとなり細胞病理学の専門家より成る腟・頸部細胞診断学の精度管理に関する第1回会議が開催され1988 TBSとして公表された.さらに改訂版が1991 TBSとして公表されるに及び,米国においてはTBSが細胞診断報告様式としてしだいに定着しつつある1).TBSはわが国で採用されていないこともあり,細胞病理学に携わる人においてさえもTBSに関しての情報量は乏しい.

 本稿では近年注目されているASCUS, AGUSの話題を中心にTBSの今日の問題点を明らかにする.

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はじめに

 わが国における子宮体癌の増加に伴いその境界病変ないしは前駆病変である広義の子宮内膜増殖症(子宮内膜増殖症と子宮内膜異型増殖症,以下内膜過形成)も増加傾向にある.1988年から老人保健法により内膜細胞診を用いた癌検診が開始されたが,この検診受診者のなかから子宮体癌(0.13%)のみならず内膜過形成(0.14%)も高い頻度で発見されている1)

 内膜過形成の組織分類は下記のごとくであるが,本稿では特に複雑型子宮内膜増殖症と複雑型子宮内膜異型増殖症の内膜擦過細胞診を中心に述べる.

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はじめに

 婦人科の診療でホルモン療法と言えば主に,子宮筋腫や子宮内膜症に施行されるGnRHアナログ療法,子宮体癌や子宮内膜増殖症に施行される黄体ホルモン療法そして,乳癌術後に施行されるtamoxifen(TAM)療法などがある.本稿では,最近増加している乳癌で,その術後に使用することが多くなったTAMの閉経子宮内膜に与える影響を細胞診,組織診所見上まとめた.これらの所見は,癌研究会附属病院で乳癌の手術を受けた閉経後の症例中,TAM内服前・中・後にわたり定期的に細胞診を検討できた内服群80例を対象とし,乳癌手術前・後にわたり細胞診を検討できた非内服群145例と比較検討したときのものである1,2)

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はじめに

 卵巣癌の最も重要な予後因子は進行期であり,予後の推測には正確なステージングラパロトミーに基づく検討が必要である.卵巣癌のInternational Federa-tion of Gynecology and Obstetrics (FIGO)進行期分類では,腹水細胞診と後腹膜リンパ節生検は必須とされており,術後の化学療法の必要性を決定するうえで極めて重要な因子となる.しかしながら,腹水細胞診では採取細胞数が少ない場合や,中皮細胞と腫瘍細胞の鑑別など判断に苦慮することも少なくない.

 本稿では,腹水細胞診判定での問題点を示し,進行期分類における腹水細胞診の位置付けについて言及する.

21.卵巣:組織型の判定 山内 直子
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卵巣疾患の細胞診の現状

 卵巣疾患において細胞診の対象となるのは主として腫瘍性病変である.卵巣腫瘍には多数の組織型があるが,悪性腫瘍では多くが腺癌であるため,細胞診ではまず腺癌であるか否かを識別することが求められる.さらに,卵巣癌は組織型によって生物学的悪性度が異なり,治療法にも影響してくるので組織型判定が重要なポイントとなってくる.しかし実際は,腺癌であることを識別した後,細胞診でさらに詳細な組織型を判定するのは困難なことも少なくない現状である.

 細胞像に特徴が見いだしやすい例としては,細胞質が豊富で粘液を貯留している粘液性嚢胞腺癌や,独特の明るく広い細胞質を持つ明細胞腺癌などの典型例が挙がり,また,漿液性嚢胞腺癌では砂粒小体の出現が他の組織型より高率なため,診断の助けとなるのは事実であるが特異的なものとは言えない.さらにはこのような特徴の見られないものでは,示唆はできるが判定は難しいということがしばしばである.

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はじめに

 Virchow (1821-1902)は"Omnis cellula, e cel-lula"と言い,すべての疾病は細胞の変化に基づいていると述べた1).しかし,それを細胞レベルで診断に用いようとする試みは,1950年代になってからPapa-nicolaouによって尿中細胞の検査がなされたことに始まる.その後,幾多の変遷を経て,婦人科細胞診を中心に改良された.一方,尿細胞診は尿中の細胞の変性が強いこと,良性疾患でも高度の異型細胞が出現し,誤陽性が多いなどの点から敬遠されていた.しかし,われわれは過去13年間に原三信病院で年間7,000件に及ぶ尿細胞診を観察した結果から,尿細胞診は決して誤診の多いものではなく,有効に用いれば尿路腫瘍のスクリーニングや尿路腫瘍切除術後の経過観察に極めて有効な手段となることを強く意識するようになった2)

 本稿では,これまでわれわれが対処してきた尿細胞診の診断に対する考え方と尿細胞診における異型細胞の見方について述べる.

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前立腺細胞診の現状

 1.検体および標本作製

 穿刺吸引により得られた材料が主であるが,自然尿,導尿,前立腺分泌液および前立腺マッサージ後の尿などが対象となる.基本的にはPapanicolaou(Pap)染色で観察するので95%エタノール液での湿固定を行う.検体乾燥の可能性が高い場合は塗抹標本を自然乾燥し,Giemsa染色を施す.標本が2枚以上得られる場合は,Pap染色とGiemsa染色を行う.

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はじめに

 体腔液の細胞診は,漿膜癌症の診断をすることが主な目的で,異型細胞の認識とそれが悪性かどうかを識別することである.しかし,体腔液の貯溜する空間には,中皮細胞に被われる漿膜が存在しており,この中皮細胞の形態学的変化の幅が大きいために,細胞診が困難となることがしばしばある.したがって,体腔液の細胞診においては,漿膜組織の基本的な組織反応を理解することが大切である.そのうえで,反応性中皮細胞が,どの程度まで異型性を持ち得るかを理解することが腫瘍細胞の診断に役立つ.われわれの施設では,1990年~1999年までの10年間に5,822件の体腔液の細胞診がなされている.スクリーニングの段階で,class Ⅲ(Ⅲa,Ⅲbを含む)と判定された898検体のうち,指導医の最終判定と一致したものは268検体(約30%)であった.

 ここでは,日常業務の中で最も遭遇する機会の多い反応性中皮細胞に焦点を合わせ,これまでに得られた知見を中心に記載する.

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はじめに

 骨腫瘍,特に原発性悪性骨腫瘍の発生頻度は通常の固形癌に比較して極めて低い1,2).また,悪性骨腫瘍を扱う施設は限られているため,一般の病理施設で骨腫瘍に遭遇する機会はまれである3).穿刺吸引細胞診が全領域的に普及してきた今日でも,一般の病理施設では骨腫瘍診断に関しては細胞診診断はいまだ馴染みの薄い領域である.

 本稿では,細胞診診断学としては疎遠がちな骨腫瘍に対して,骨腫瘍特有の疾患概念からくる問題点と骨腫瘍診断に対する細胞診の適応について述べ,骨腫瘍を鑑別するうえでの若干の細胞診所見についてふれる.

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はじめに

 軟部腫瘍は,良性悪性の判定も難しいことが少なくないし,組織型の決定に難渋する例は極めて多い.その理由は2つある.まず,種々の異なる腫瘍で似通った組織像を呈することが多い(良性例,悪性例を問わず).次に,同じ組織型に属する腫瘍でも,組織像には多彩なバリエーションがある1)からである.

 こうした軟部腫瘍の良性悪性,組織型の決定を細胞診レベルで行うとなると,その困難さに尻込みしてしまうかもしれない.確かに難しい例も少なくないが,きちんと系統立ててアプローチすれば細胞診レベルで決定し得る例も決して少なくない2)

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はじめに

 今世紀後半の分子遺伝学上の技術革新を背景に,近年,悪性リンパ腫の病理診断学は長足の進歩を遂げた.REAL分類1),新WHO分類2,3)の提唱はそれらを象徴する出来事であり,

 (1)明確な臨床病理学的疾患単位の採用

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はじめに

 神経内分泌癌(Neuroendocrine carcinoma; NEC)は全身に広く分布するびまん性神経内分泌系(Diffuse/dispersed neuroendocrine system; DNS)に包括される細胞に由来する悪性腫瘍と定義される.DNSは全身の臓器・組織に孤立散在性ないし集簇を成して分布する細胞系であり,個々の細胞は形態的ならびに機能的に異なるが,共通の特徴としてパラニューロンの性格を有するものである.そしてパラニューロンの特徴として以下の点が挙げられる.①神経分泌ないし神経伝達物質と相同物質を産生する能力を有する.②これら神経分泌ないし神経伝達物質を細胞質内の神経内分泌顆粒に保有する.③適切な刺激に反応し,それら物質を分泌する能力を有する.すなわち,パラニューロンとは刺激を受容し,その結果分泌する機能を有する細胞(受容分泌細胞;receptocecretory cells)である.神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumors;NETs),神経内分泌細胞癌(Neuroendocrine cellcarcinomas),内分泌細胞癌(Endocrine carcinoma)などが神経内分泌癌の同義語としては使用されている.

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はじめに

 顎骨領域の嚢胞性病変は,身体の他の部位に比べると圧倒的に多い.全身骨格にみられる線維性骨異形性症,化骨性線維腫などのほかに,顎骨内に遺残する歯原性上皮,歯原性外胚葉性間葉に深くかかわった病変が多数存在する1).組織像も多彩で,またその発生頻度は,非歯原性病変に比べて明らかに高い.炎症性の成因による歯根嚢胞・残留嚢胞が半数以上を占めるが,含歯性嚢胞,歯原性角化嚢胞などの発育性嚢胞も多く認められる2).さらに,腫瘍の嚢胞性変化も顎骨では比較的頻度が高く,嚢胞との鑑別診断が必要である.その際,穿刺吸引細胞診(FNAC)の情報は重要であり,近年報告も増加している3~7).しかし,鑑別を要する病変は多彩で,明確な細胞診断基準を呈示するに至らない病変も多い.現在,最も明確な基準を備えている歯原性角化嚢胞とエナメル上皮腫を中心に,判定の実際を述べる.

30.感染症 堤 寛
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はじめに

 感染症の病理診断で重要なポイントは,病原体の同定・推定が治療に直結することにある.組織診に比べて細胞診は病原体同定がしやすい場合が少なくない.病原体に対する組織の反応パターンの認識は組織診に劣るものの,この点もある程度まで判断可能である.日常の病理診断においては,良性悪性の判定に重点をおきがちとなり,つい病原体に関する記述がおろそかになる傾向があるのは,おおいに反省すべきである.細胞診のクラス分類が悪性腫瘍スクリーニングのためのシステムである点は,感染症などの非腫瘍性疾患の細胞診断を軽視しがちとなることを助長している.非腫瘍性病変に対しても推定病変を付記する習慣を普段から身につけたいものである.

 本稿では,診断確定に寄与する組織・細胞化学にふれつつ,感染症の細胞診断に役だつ細胞所見をアトラス風に提示したい.ウイルス感染症から寄生虫症まで,なるべく広い領域をカバーするよう試みたので,個々の感染症に関する解説はその多くを省略せざるを得なかった.感染症に関する詳細や文献は成書・総説を参照されたい1~5)

第5章 新技術・周辺領域技術の応用と展開

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はじめに

 本章では細胞診断学への新技術・周辺領域技術の応用と展開についての紹介と新たな試みが示されている.臨床細胞学では診断の基本はあくまで形態学であるが,光顕的形態学のみに頼る診断には自ずと限界がある.これらを補うものとして,免疫組織化学,電子顕微鏡,共焦点レーザー顕微鏡1~3),フローサイトメトリー4),FISH (Fluorescense in situ hybridization)法5,6),顕微測光法7),TUNEL法8)などが挙げられる.これらの方法は必ずしもすべてが日常の診断業務に組み込まれているわけではない.しかし,研究レベルでの使用に限らずこれらを併用することで,より信頼性の高い診断を得ることが可能である.

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はじめに

 抗体を用いての免疫染色法は,組織診のみならず細胞診でも,極めて有用であるのはいうまでもない.免疫染色診断に用いる抗体は,毎年のように新しいものが数多くつくりだされ,商業的にそれらを容易に入手することが可能になっている.それゆえ,最近の免疫染色診断では,新しい抗体に対する情報をいかに得るかが重要な要素にもなってきたといえる.ただし,新しい抗体の中には,実際の組織や細胞診材料での免疫染色に不向きなものも少なくはないことを念頭においておく必要がある.

 抗体を用いた免疫化学的鑑別診断における重要な点は,目的とする物質(抗原)の性質や意義を十分に理解して,いくつかのマーカーの組み合わせで行う.さらには,使用する抗体についての十分な知識も必要である1~3)

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flow cytometry (FCM)

 1.目的

 フローサイトメトリー(flow cytometry; FCM)を用いることによりDNA相対量の解析が簡便となり,細胞の生長解析が一般化され広く行われている.そこで,DNA aneuploidyの持つ意義とその解析が重要課題となってきた.本論文では,婦人科腫瘍,特に卵巣腫瘍の臨床材料の凍結組織を用いて,固形癌のDNAploidy解析について言及する.

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はじめに

 生体はあらかじめプログラムされた塩基配列にしたがって蛋白を合成し,生命活動を営んでいる.この塩基配列が遺伝子であり,それらの集積したDNA鎖は分裂期では染色体として観察される.それ以外の時期では,染色体は凝縮し核として存在する.染色体の数は種によって決まっており,ヒトでは46本(常染色体22対および性染色体1対)で,先天性に染色体数が正常と異なる個体は身体的・知的障害を持つことが知られている.例えば,第18番染色体が3つ(18トリソミー)の新生児の寿命は約2年である.また,細胞は遺伝子を増幅することによって環境変化に対応することができると考えられるが,正常細胞がDNAを増幅することは不可能である.これに対して,癌細胞では癌遺伝子の増幅が検出され,遺伝子産物の過剰発現を引き起こす共通なメカニズムとして知られており,それが自律性の無制限な増殖を引き起こし結果として宿主であるヒトの命を奪う.

 このように遺伝子および染色体の数や構造に異常がおきると正常とは異なる遺伝情報が伝えられ,多くの場合生体に不利益な出来事が起きる.したがって,先天性あるいは生後に生じた遺伝子異常により引き起こされたと考えられる疾患の病態理解には,遺伝子・染色体解析が必須である.

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顕微測光とは

 細胞の核や胞体内に存在する物質(DNA,RNA,蛋白など)を顕微鏡下に定量する光学的手段として顕微測光法(microphotometry)がある.これには吸光測光(spectrophotometry)と蛍光測光(fluorometry)の2種類がある.1930年代からCaspersson1)が腫瘍細胞の蛋白および核酸代謝の解析に用いたのは前者であるが,測定誤差の優劣から各施設で用いられているのは後者の顕微蛍光測光法である.また,最近ではカラー画像解析装置2)や共焦点レーザ走査顕微鏡3)を用いたDNA量測定を含めて,イメージサイトメトリー(image cytometry)と呼ばれ,フローサイトメトリー(flow cytometry)と対比される.この章ではわれわれが現在用いている顕微蛍光測光法について述べる.

 細胞診では,その塗抹された細胞により腫瘍性,非腫瘍性の鑑別を行う.また腫瘍性とすればその良・悪性の鑑別を目的とするが,その補助的診断の1つとして顕微測光法を併用すると,悪性度や予後の判断など臨床病理学的な評価について客観的な指標が得られる.

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はじめに

 昨今,細胞診による各臓器の疾患の診断には飛躍的進歩がみられる.特に穿刺吸引細胞診ではしばしばその診断結果が最終診断として用いられ,生検を行わず治療が開始される機会も多くなった.しかし,細胞診だけでの診断に苦慮する場合は少なくない.そのような場合,穿刺吸引材料の電子顕微鏡的(電顕的)検索を細胞診断に応用することが最終診断に有用である1)

 われわれは穿刺吸引材料を用いた電顕的検索を行い,必要に応じて至急で電顕診断を行い(原則として1週間以内),治療開始に役立てる努力をしている2)

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デジタル細胞画像の特性

 1.画素

 図1はパソコンの画面の拡大写真である.1画素中の,三原色の発光素子が明暗を各256段階で表示するので,256の三乗=1,600万色が表現できる.画面1枚の画像データを電話回線で伝送すると,およそ5分間かかる.

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はじめに

 近年,コンピュータ技術の急速な進歩に伴い細胞診領域においても米国を中心に細胞診自動スクリーニング装置が開発されてきている.細胞診自動化の開発に関してはわが国においても1960年代に千葉県立がんセンター研究所長の田中昇博士が(株)東芝と共同で画像解析技術を駆使したCYBEST(Cyto BiologicalElectronic Screening System)が開発された.しかし,集団検診の活発化に伴って発見される頸癌が微小のために標本上の細胞が極めて少なく,自動化装置によるFalse Negative率が多くなり断念せざるを得なかったが,現在の自動化装置の基礎となっている.

 ところで,急速に自動化の開発が求められた背景に,1987年2月に米国のThe Wall Street Jounal紙に掲載されたいわゆる「Pap Scandal」である.これによって,細胞診精度に対する強い不信感が生じ精度管理面での法的規制が生まれた.その結果米国においては,細胞検査士の慢性的不足を補う手段として,また精度管理のために細胞診自動化装置の導入が始まった.

一口メモ

偽リンパ腫 元井 信
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 偽リンパ腫とは臨床的あるいは病理学的に悪性リンパ腫に類似しているが,本態はリンパ球の浸潤を主体とする反応性病変の病理組織学的名称である.しかし,その疾患概念は曖昧で,本来はその本質的な病変名を付すことが望ましい.

 偽リンパ腫はさまざまな外的刺激(薬剤,異物,刺虫,紫外線,感染症など)や原因不明に発生する.偽リンパ腫は,一般にはリンパ節そのものの病変に対する診断名としては用いられず,リンパ節外臓器の病変でほとんどの症例がB細胞,特にMALT由来の病変に対して用いられる.

粘液性腺癌 長沼 廣
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 粘液性腺癌は腫瘍細胞の胞体内に粘液を含み,腺管内に豊富な粘液を産生する腺癌である.粘液性腺癌は広義には粘液癌,粘液細胞癌,印環細胞癌,粘液結節性腺癌,膠様腺癌などと同意語として使われることがあるが,各臓器の取り扱い規約では前述の名称が狭義に分類されている.

 粘液性腺癌は子宮癌,胃癌,大腸癌,膵癌,胆嚢癌,乳癌などに見られる.乳癌や膵癌では一部に粘液を見ても粘液性腺癌と分類しないので,細胞診で粘液産生性腫瘍細胞を認めても安易に粘液性腺癌と診断できない.粘液結節を形成する場合は粘液内にごくわずかしか癌細胞を見ないことがあり,細胞診で粘液が多量に採取されたときは注意を要する.細胞異型と構造異型に乏しく,癌と判断することが難しい例もあり,良い例は子宮頸部のadenoma malignumである(図1a,b).子宮内頸腺の過形成変化と鑑別が難しいほど良く分化している.超高分化型の粘液性腺癌で,現在では胃幽門腺形質を発現している腺癌と考えられている.単クローン抗体であるHIK 1083による免疫染色が陽性を示し,内脛腺の過形成性病変との鑑別が可能になった1).細胞診上も診断が困難であるが,スメア標本のHIK 1083の免疫染色が診断に有用と報告されている2)

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 MALTリンパ腫(mucosa-associated lymphoidtissue lymphoma)は胃・腸・甲状腺・唾液腺・肺などの上皮組織と密な関連を示すリンパ装置を持った臓器(節外性臓器)に発生する悪性リンパ腫である.細胞学的にはcentrocyte (small cleaved cell)に類似し,核にわずかなくびれを持つ中型リンパ球大の異型リンパ球が出現する.その多くは低悪性度のBリンパ腫である.

 悪性リンパ腫の細胞学的診断基準の1つとして出現腫瘍細胞の単調増殖がある.しかし,腫瘍細胞そのものが多彩であったり,背景に反応性リンパ球浸潤が多い場合,反応性・炎症性変化との鑑別に苦慮することがあり,免疫組織化学・分子生物学的手段に頼らなければならない場合も多い.特に,MALTリンパ腫を含む節外性リンパ腫では出現細胞が多彩である症例が多いようにみうけられる.しかし,この点を系統的に証明した報告は私の知る限りではない.

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 子宮頸癌の進行期については1999年に行う登録(1998年1月以降の症例)より新規約が用いられている.この新規約は1994年MontrealにおけるFIGO(International Federation of Gynecology andObstetrics)のCancer Committeeで決定された分類を一部修正して採用されたものである.

 新規約の特徴はI期の定義変更であるが,Ia期は間質浸潤の深さが5mm,縦軸方向の幅が7mmを超えないものと規定し,亜分類として間質浸潤の深さが3mm以内のもの(Ia 1期,図1)と間質浸潤の深さが3mmを超えるが5mm以内のもの(Ia 2期,図2)とに分けられた.すなわち,旧規約における微小浸潤癌は新規約によればIa I期にほぼ相当する.また,浸潤の深さが5mmのものまでが微小浸潤扁平上皮癌に含まれるため,Ia期症例全体としては旧規約の基準に基づく場合よりも広い範囲を包括することとなった.臨床的にはIa 1期ではリンパ節転移を認めないが,Ia 2期では9.7%の症例にリンパ節転移を認めている1)

甲状腺微小癌 小俣 好作
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 剖検例の甲状腺を丹念に調べると,多数の微小癌が発見されることは以前から指摘されてきた.そのような癌は潜在癌(latent carcinoma)と呼ばれ,甲状腺では10%以上のヒトに発見されるが,近年,超音波検査の普及,精度の向上により,生前から検診などにより発見される機会が増えてきた(図1).社会保険山梨病院健康管理センターでは,1983年から1985年にかけ,検診受験者のすべてに甲状腺の超音波検査を行い,限局性の腫瘤状陰影の見られた受験者に対しては積極的に穿刺吸引細胞診を施行した1).その結果,男性の0.41%,女性の1.13%に癌が発見され,そのすべてが乳頭癌であった.

 甲状腺の微小乳頭癌は潜在したまた経過する可能性が高く2),直ちに手術を行うべきか否かは問題である.超音波検査により発見される甲状腺微小癌は無害の癌(innocent carcinoma)として,治療対象外とするべきであるとの意見もある3)

甲状腺異型腺腫 寺畑 信太郎
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 甲状腺異型腺腫はHazard (1954年)の原著において,①しばしば腔を欠く密な濾胞配列.②間質の乏しい柱状,索状の充実性胞巣.③シート状からび漫性の富細胞性集塊を示すものとして記載されていたが,近年におけるWHOや甲状腺取り扱い規約における診断基準では,異型や増殖性など主観に左右されやすい用語が使用されているため,ややwastebascket的に扱われている印象を受ける.基本的には,図1のごとく種々の程度に異型を示す腫瘍細胞密度の高い腫瘍(濾胞構造の有無や好酸性細胞や明細胞型などの細胞質の染色性などは問わない)と理解できるが,被膜および脈管侵襲像のないことを確認する必要性が常に強調されており,異型腺腫が侵襲像の見い出せない癌である可能性も危惧され,今後の検討がさらに必要である.細胞診では異型腺腫の判定は困難であるが,細胞密度の高い濾胞性腫瘍が疑われるような細胞集塊が採取された時には意識する必要があろう.図2は異型腺腫の紡錘型の像で,Hazard1)の原著にもまれな組織型として記載されており,その頻度がまれなためあまり注目されてはいないが,髄様癌や,間葉系腫瘍,未分化癌との鑑別において認識しておく必要があると思われる.

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 乳腺分泌癌は細胞診上,強い結合性,大きな細胞集塊,シート状配列や,粘液性背景を認める.まれに灰青色の小球状粘液塊を認めることがある.壊死はほとんどない.細胞集塊内や周辺には明るい球状構造物(mucous globular structure;MGS)や,それらが集簇した大小のブドウの房構造が認められる.小さなMGSでは核が不明瞭で印環細胞と間違えやすいが,MGSは2個以上の空胞(印環)状細胞より構成される球状構造物であるためこれとは鑑別されうる.しかし,印環型細胞も出現する.ギムザ染色よりパパニコロウ染色のほうがこれらの構造物を確認しやすい.顆粒.細顆粒・泡沫状の胞体を持つ細胞のシート状配列も特徴の1つである.一般に分泌癌では核異型が乏しいため,異型性にのみ注目すると悪性の診断が困難となる.上記の多彩な細胞像は分泌癌の古典型(甲状腺濾胞型や顆粒型)にみられる特徴と考えられる.しかし,古典型以外では細胞診断は困難な場合がある.

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 消化管の粘膜下腫瘍は多くが平滑筋腫瘍として扱われてきたが,これらにはデスミンが陰性でビメンチン陽性を示す腫瘍が含まれていた.胃腸管間質腫瘍(GIST)とは,このように由来を判定しきれない腫瘍につけられた病名である.しかし,平滑筋あるいは神経など種々のマーカーの開発に伴い詳細な検索が行われると,特定の分化のみられない狭義のGISTに加えて平滑筋や神経分化を示すもの,あるいは両者の特徴までみられる腫瘍が存在し,GISTと平滑筋腫瘍あるいは神経性腫瘍との鑑別や分類に新たな混乱が生じてきた.

 ところが新たな展開がみられた.消化管には以前よりカハールの間質細胞(ICC)の存在が知られているが,最近になりこの細胞が自律神経と平滑筋との間に介在し一種のペースメーカー細胞としての機能を有し,kitレセプターやCD 34を発現することが判明した.これらのマーカーでGISTを検索すると,多くがkitレセプターやCD 34陽性を示していた.ICCは神経細胞と平滑筋細胞の両者の形態的特徴を有しており,このことはGISTの分化の多様性とよく合致していた.このようなことから最近はkitレセプターやCD 34陽性を示しICC由来と考えられる腫瘍を狭義のGISTとして扱う傾向にある.細胞診は術中に組織診に併用すれば有用である.

PNET 工藤 玄恵
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 PNETはprimitive neuroectodermal tumors (未熟神経外胚葉性腫瘍)の略である.つまり,脳神経の原基である神経管とその背側端の神経堤など神経外胚葉(neuroectoderm)を発生母地とする未分化・未熟な腫瘍群を意味する英語名の頭文字を取った略称である.

 提唱者のRorkeはその名称を中枢神経において小脳髄芽腫と,それに細胞形態学的ならびに免疫組織化学的に類似する松果体芽腫,神経芽腫,上衣芽腫などを包括する診断名として提案したが,伝統的な組織発生学的分類・診断名を支持する人々の反対に遭った.

筋上皮細胞 元井 信 , 小林 孝子
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 乳腺には唾液腺や汗腺などとともに特有の細胞として筋上皮細胞があり,小葉を構成する末梢乳管から乳頭開口部に近い乳管洞に至る乳管の全長にわたって認められる.筋上皮細胞は,乳管腔面にある乳管上皮細胞の外層で基底膜との間に存在し,いわゆる二相性と呼ばれる特徴的な構造を示して存在する.その同定には特徴的な形態学的所見とともに平滑筋アクチン,S100蛋白,SM 35を免疫染色で検出することが有用で,組織診にも細胞診にも用いられている,

 細胞診標本では筋上皮細胞は乳管上皮よりやや小型,核形は紡錘形および卵円形,クロマチンは濃染性で,明るい広い細胞質を有することもあるが一般には細胞質の狭い細胞として認められる.変性した癌細胞が筋上皮細胞様にみえることがあるので注意が必要であるが,その鑑別にはギムザ染色が有用である.乳腺腫瘍の組織診では,良悪の判定に二相性の存否が重要な判定基準とされており,乳癌では二相性が消失していることが原則となっている.最近,細胞診においても組織診と同様に細胞集塊内の筋上皮細胞の有無とその出現パターンが良性,悪性の鑑別点の1つとして重要性があることが認識されてきた.

明細胞腺癌 山本 雅博
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 明細胞は明るく淡明,あるいは微細顆粒状,泡沫状の広い細胞質を有する細胞を意味し,その印象的な特徴から一般病理学でのパターンを表現する言葉として使用されている.明細胞が出現する腫瘍を表に挙げた(表1).明細胞腫瘍が分類上独立した地位を与えられている例もあるが,特徴的な細胞生物学的態度を発現する例はむしろ少なく,多くは通常型のバリエーションの域を出ない.卵巣,子宮体部,子宮頸部に発生する明細胞癌がいずれもミューラー管由来と考えられて腫瘍型として確立され,そのほか乳腺の富グリコーゲン細胞癌がまれな特殊型として分類されているに過ぎない.また明細胞は上皮性腫瘍に特徴的にみられるのではなく,軟部悪性黒色腫である明細胞腫瘍や脂肪肉腫,軟骨肉腫,平滑筋芽細胞腫など非上皮性腫瘍でも出現する.

 明細胞の明るさの本体は細胞質に過剰出現するグリコーゲンである場合が多いが,腫瘍細胞の炭水化物代謝異常が原因とされる1).その他,脂質,粘液のほか,拡張したミトコンドリア,粗面小胞体が関与している.

肺癌のホルモン産生 木村 伯子
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 肺癌はときにホルモンを産生することが知られており,それらは肺癌の腫瘍マーカーとして,診断や腫瘍の進展,予後追跡に用いられている.肺癌が産生するホルモンとして代表的なものは,gastrin-releasingpeptide (GRP)の前駆体であるProGRP,calcitonin-gene related peptide (CGRP),高カルシウム血症の原因となるparathyroid hormone-related peptide(PTH-rP),Cushing症候群の原因となるACTH,syndrome of in-appropriate antidiuretic hormone(SIADH)の原因となるADH,などがその代表的なものである.これらの中で,ProGRP,ACTH,CGRPなどは大部分小細胞癌が産生する.ProGRPの小細胞癌における特異度は96%,感度は65%といわれ,小細胞癌のスクリーニングとして日常的に用いられている1).肺癌の中でもホルモンを産生するものはカルチノイド(定型と非定型)と神経内分泌細胞の性格を有する小細胞癌(燕麦細胞癌と中間細胞型小細胞癌)および大細胞癌が大部分であるが,ときに非内分泌腫瘍である扁平上皮癌や腺癌もホルモンを産生し,PTH-rPなどは扁平上皮癌の頻度が最も高い.内分泌腫瘍か否かを知るためにはまずGrimelius染色や内分泌細胞のマーカーであるクロモグラニンAの免疫染色を行うことが有用である.カルチノイドは定型と非定型ではACTH産生の有無,術後5年生存率などがそれぞれ有意に異なる2).肺外に進展した場合は肺癌か縦隔腫瘍かの鑑別がしばしば問題になる.その場合胸腺を含んでいるか否かも鑑別の参考になる.細胞診で小細胞癌やカルチノイドが疑われた場合は血中ホルモン値のチェックをしておいたほうがよい.

膵solid cystic tumor 清水 道生
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 膵臓のsolid cystic tumorは,これまでにsolidand papillary epithelial neoplasm,solid and cystictumor,papillary and cystic tumorなどと呼称されてきたが,最近ではsolid-pseudopapillary tumorとして報告されつつある.その頻度は膵腫瘍の1%とされ,若年(90%は30歳以下)の女性に好発する腫瘍で,その多くは良性と考えられるが,low malignantpotentialなcarcinomaとする立場もある.しかしながら,神経や脈管侵襲あるいはリンパ節や肝臓への転移を認める悪性例はWHO分類(1996年)ではsolid-pseudopapillary carcinomaと呼称し,別個に扱われている.組織発生や腫瘍の分化傾向についてはいまだ不明である.肉眼的には通常厚い線維性被膜を有する境界明瞭な腫瘍で,多房性の嚢胞部分と充実性の部分が混在し,出血・壊死が目立つのが特徴である.組織学的には線維血管状の茎を中心に偽乳頭状に配列(pseudopapillary pattern)する比較的均一な異型の少ない好酸性の胞体を持つ細胞ないしは明るい胞体を持つ細胞からなる.細胞異型は乏しく,核分裂像もほとんどみられない.泡沫細胞(foamy macrophages)の集簇やコレステロール肉芽腫(cholesterol granuloma)をしばしば認める.ときにジアスターゼ耐性PAS反応が陽性の好酸性小体が認められる.免疫組織染色ではneuron-specific enolase(NSE),vimentin,alpha-1-antitrypsinが陽性になることが多いが,CEA,CA 19-9,膵産生ホルモン,膵酵素,エストロゲンレセプターは陰性である.鑑別診断としては膵内分泌腫瘍や腺房細胞癌が重要である.

 術中迅速診断では内分泌腫瘍との鑑別が問題となるが,肉眼所見に加えて偽乳頭状構造や出血・壊死,さらに変性所見が鑑別に有用である.また,細胞診に関しては,好酸性ないしは淡明な細胞質を有する腫瘍細胞がみられ,核は円形ないしは類円形で,クロマチンは軽度増量し細顆粒状である.ときに核溝も認められる.典型例では細い血管を軸に,その周囲に付着する形で腫瘍細胞がみられ,組織像でみられる偽乳頭状構造が示唆される.腫瘍は完全に摘出されれば,予後は良好である.

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 PINはProstatic intraepithelial neoplasiaの略であり,日本では単にPINと呼ばれることが多い.同じような考え方が子宮頸部(CIN),乳腺(DIN)の上皮増殖にもあることを注目すべきである.PINは導管,腺房の上皮の内腔への増生であり,3段階(PIN 1,2,3)に分類されているが,現在ではlow-grade PINとhigh-grade PINに分類されていることが多い.組織学的には図1のごとく,上皮の重層化した増生からなり,ときに乳頭状で,不規則な管腔を形成している.high-grade PINでは核腫大,核小体の巨大化,細胞構築の異常がlow-grade PINより著しいとされ,ときに篩状構造を示す.High-grade PINは上皮内癌を含む病変であり,keratin 34βE 12で染色すると基底細胞のfragmentationが認められる.

 癌との関係であるが,必ずしも一定の結論は得られていない.PINは癌と同様多発性に前立腺に発生し,特に癌発生群にHigh-grade PINが多いとの報告もある.従来cribriform carcinomaと言われていたもの中にはcribriform PIN (基底層を有する)と考えられるものが多く,両者の鑑別や生物学的悪性度が問題となっている.また現在のところPINの細胞学的診断基準を明らかにした論文はほとんどない.

いぼ状癌 泉 美貴
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 いぼ状癌(Verrucous carcinoma)は,概念を提唱した病理医の名を冠して,Ackerman's tumorとも呼ばれる.臨床的には癌としか考えようのない口腔内の巨大な増殖性病変に対して,病理がどうしても悪性と診断しないことに業を煮やした臨床医が,彼に患者を見せることによって,ついに癌であることを認めさせたという経緯がある.

 弱拡大像における細胞像は,あたかも錯角化細胞様のオレンジG好性の角化細胞が多数出現する.しかし強拡大で観察すると,成熟した細胞質に対して不釣り合いな類円形ないし短紡錘形の核が存在する.特徴的所見として,細胞形が多稜形というより丸みを帯び,細胞質は強い好酸性を示し厚みがある.核は小型で異型性はなく,小さい核小体が1~2個認められる.鑑別診断としては高分化型扁平上皮癌や尖圭コンジローマが挙げられる.前者では核に少なくとも多少の異型性を示す.後者では細胞質の厚みがより乏しく,koilocytotic cellsも出現する.核の異型性が乏しいことから,細胞像のみでClass Vと判定するのは非常に困難で,臨床所見との対比が必須である.内視鏡的に強い乳頭状の増殖病変であるにもかかわらず,細胞異型が乏しい角化細胞が多数採取された場合には,いぼ状癌を鑑別診断に含むべきである.

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 すりガラス細胞癌は腺扁平上皮癌の低分化型と位置づけられている.わが国での発生頻度は全子宮頸癌中1.3%程度であろうと考えられ,比較的まれである.通常の扁平上皮癌や腺癌に比べやや若年(35~45歳)に発生しやすく,また放射線低感受性であり,進行も速いため予後不良の例が多いと言われている.子宮頸癌取扱い規約ではその組織像を「胞巣状充実性増殖をし,すりガラス様の豊富な細胞質を持っ腫瘍細胞が特徴で,腺管構造,細胞間橋や角化細胞を認めない低分化癌である」と定義している.不規則な小充実性胞巣を作り,間質に著明な炎症細胞浸潤がみられることではリンパ上皮腫様癌にも似るが,すりガラス細胞癌では胞巣境界が必ずしも明瞭でないこと,浸潤細胞中に多数の好酸球が含まれることなどからも鑑別は困難ではない.細胞質が淡好酸性で均質であるため「すりガラス様」という形容がされる.顕著な核小体を持つため,細胞診標本では単に腺癌とだけ推定されてしまうこともある.しかし,通常の腺癌に比べて重積性に乏しく敷石状に配列する傾向もあること,ライトグリーンに染まった細胞質に厚みが感じられることなどが推定への糸口となり,また核の大小不同が著しく,多核形成も少なくない.一方で,細胞診で腺癌が疑われ,組織診で低分化扁平上皮癌と診断されたような場合にはすりガラス細胞癌の可能性を考えてみる必要がある.

クラミジア感染症 椎名 義雄
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 子宮頸部のクラミジア(Chlamydia trachomatis;CT)感染は近年増加傾向にある.本症の多くは無症状で経過するため,細胞診で診断する意義は大きい.CT感染症の標本背景には成熟リンパ球に加え反応性の大型リンパ球が見られることが多く(濾胞性頸管炎と診断できるほど増加することは少ない),診断上最も重要な所見となる.このような所見が見られたら,標本上の組織修復細胞,扁平上皮化生細胞の細胞質を丹念に観察し,特有な星雲状封入体(nebular inclu-sion;NI)を確認することで確定診断が可能である.ただし,NIは感染例の約30%の症例に見られる所見であるため,背景に大型リンパ球が出現している症例は「他の検査でCT感染の有無を確認して下さい」とのコメントが重要と思われる.NIは種々の形態を示すが1),通常のパパニコロウ染色ではヘマトキシリンで弱く染色される.粘液胞との鑑別を要すが,粘液胞はその周囲が厚く明瞭であるのに対し,NIの多くは不明瞭で,細胞質との境界が見られる場合はNIと細胞質との境界に不染間隙が存在するのが特徴である.

腹膜偽粘液腫 水口 國雄
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 腹腔内にゼラチン様ムチンが貯溜する病態である.わが国ではこれまで500例以上の報告がある.病因論的に不明な点が少なくないが,卵巣や虫垂そのほかに発生するムチン産生性腫瘍由来の粘液物質が腹腔内に増加することによって発生する.卵巣に原因がある場合,前段階として卵巣の間質組織内に粘液が貯溜する卵巣偽粘液腫(pseudomyxoma ovarii)がある.卵巣偽粘液腫(pseudomyxoma peritonei,peritonealpseudomyxoma)の約半数が腹膜偽粘液腫に進展する.また,虫垂が原疾患であるときは,虫垂粘液瘤(または粘液腺腫や粘液腺癌)から発生する.卵巣と虫垂以外の臓器では前立腺,大腸,胆嚢,臍腸管,膵臓などから発生したという報告がある.病理組織学的には良性例が多いが悪性の症例もある.ちなみに本邦例では,細胞診的または組織学的に悪性とされたものは17%という報告がある.臨床的には,腹水貯溜として発症し,腹腔窄刺やダグラス窩穿刺でゼリー状の内容が採取されれば診断可能である.治療としては手術的にできるだけ粘液物質を除去するが,完全に取り除くことは難しく,再発は必至で粘液貯溜による腸閉塞,栄養障害,低蛋白血症,腹膜機能不全などで死亡する.しかし,遠隔臓器への転移はまれで術後管理がよければ10年以上の生存例もある.組織学的には良性に見える症例も経過は悪性腫瘍に類似しており,卵巣腫瘍では低悪性度腫瘍に分類される.細胞診的に,ライトグリーンまたはオレンジGに淡染する粘液が豊富で,粘液内の細胞成分は通常極めて少ない.上皮細胞が得られても異型度が低いことが多く,悪性と判定できる症例は少ない.上皮細胞は散在性,シート状ないし小集塊状に出現する(図1).他に組織球,線維芽細胞,中皮細胞なども少数出現する.

炎症性偽腫瘍 佐藤 明
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 多彩な炎症性細胞浸潤と線維性結合組織の圧排性増殖から成る,細胞成分に富んだ境界明瞭な肺腫瘤は,感染症状が先行したり,切除後に良好な経過をたどるため,反応性の非腫瘍性病変であろうと,炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor;IPT)と命名され,悪性腫瘍と見誤らないよう注意がうながされた.IPTは多彩な細胞から成るため,plasma cell granuloma,fibroxanthoma, histiocytoma, xanthofibroma,xanthoma,xanthogranuloma,mast cell granulomaなどさまざまに呼ばれ,類似した組織像の病変は,ほとんどの臓器で見い出されている.IPTの多くは反応性病変と考えられてきたが,一方で,近接器官あるいは臓器に浸潤するIPTや切除後に再発するIPTが報告されており,当初からIPTには真の腫瘍性病変が含まれている可能性があると指摘されてきた.近年,主たる構成成分の1つである筋線維芽細胞に注目して腫瘍性病変の側面からIPTを再評価し,炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(inflammatory myofibroblastictumor(IMT)の概念が提唱された.肺IMTは境界明瞭で,おおむね予後良好である.肺外IMT,特に腹腔や後腹膜に発生するIMTは10歳代までの若年に好発し,発熱,疼痛,体重減少,貧血,血小板増多,赤沈亢進などを随伴しやすい.境界不明瞭な多結節腫瘤を形成するためしばしば不完全切除となり再発しやすいが,遠隔転移はなく,fibromatosisに似た側面を持っているという.IMTの分子病理学的検討では再発例にクローナルな染色体異常やaneuploidが見いだされ,真の腫瘍である可能性が支持されている.同じスペクトラム上にあると思われ肉腫として命名された炎症性線維肉腫(inflammatory fibrosarcoma ofthe mesentery and retroperitoneum)もある.

 IPTの細胞像は紡錘形の筋線維芽細胞と多数の炎症細胞が出現し,前者に軽度の核異型がみられたり,striform patternがみられる場合がある.これらの所見は非特異的であることから,臨床所見や画像所見を総合的に加味して鑑別していく必要がある.鑑別すべき病変としては結節性筋膜炎,線維腫症,線維性組織球腫,筋線維芽腫,孤立性線維腫瘍,濾胞樹状細胞腫瘍,悪性線維組織球腫(通常型,炎症性),平滑筋肉腫,紡錘細胞癌などがある.異常核分裂像の有無や紡錘形細胞の良悪に注目するとともに,必要に応じて免疫組織化学的検索を併用していくことが大切である.

類骨 堀内 啓
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 類骨とは,骨芽細胞により形成され,骨稜の表面にある石灰化していない骨基質のことである.したがって,通常の脱灰標本では,類骨と骨を明確に区別することはできず,非脱灰標本か,類骨の特殊染色が必要である.類骨の特殊染色には吉木法がよく用いられる.この方法は通常の脱灰したパラフィン切片で染色可能であり,有用性が高い.

 類骨には,多数のprotein-carbohydrate complexが含まれている.最も多いのは,1型コラーゲンである.このほかに,オステオネクチン,オステオカルシンなどのカルシウム結合性蛋白が含まれており,このため,血清中のカルシウムが類骨に沈着して石灰化し,骨が形成される.

血管筋脂肪腫 松嵜 理
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 血管筋脂肪腫は血管・平滑筋・脂肪組織から構成される良性腫瘍で,ごく少数の悪性例の報告がある.この腫瘍は大部分は腎に発生し,特に結節性硬化症では発生頻度は高く両側性多発性に認められる.そのほかに肝,肺,鼻腔などの少数例の報告がある.

 臨床診断:以前は腹部腫瘤や破裂による出血などの臨床症状がないと発見されることが少なかったが,最近では他疾患の術前検査や健康診断の際に超音波やCTで発見されるものが大部分で,大きさも小さい腫瘤が多い.多発性の際には腫瘤は経過につれ大きくなり,ときに破裂することがあるので手術適応となるが,単発性の腫瘤は大きさが不変であることが多いために,臨床的に経過観察される.

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 卵巣にはさまざまな悪性腫瘍が認められるが,頻度的には上皮性の悪性腫瘍,とりわけ漿液性嚢胞腺癌と粘液性嚢胞腺癌が多い.WHOやわが国の分類ではこれら嚢胞腺癌と良性の嚢胞腺腫との間に前癌病変あるいは非浸潤癌としての性格を示す境界悪性腫瘍(境界悪性の嚢胞腺腫)が定義されている.境界悪性腫瘍は良性と悪性の中間的な核分裂活性と核異型を有する.また腺細胞に核異型が認められる際に,明らかな浸潤像があれば腺癌,浸潤像が欠如していれば境界悪性腫瘍と定義されている.境界悪性腫瘍では,腹膜表面に播種状の増殖巣を伴うことがあるが,同部で破壊浸潤像を伴うことはまれであり,播種を伴っても予後が良好なことがわかってきた.卵巣境界悪性腫瘍が疑われる際の腹水細胞診で癌細胞を見つけた場合,それが境界悪性腫瘍の播種の細胞(すなわち予後良好)か真の癌細胞(予後不良)なのかの鑑別は極めて困難といわざるをえない.

ミニレビュー

腫瘍マーカー 菅間 博
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1.腫瘍マーカーとは

 腫瘍マーカーとは,腫瘍組織から放出され,腫瘍の診断または治療の目印(マーカー)となるものの総称です.一般に血液や尿などで簡単に検査可能なものを指し,病巣を直接検査することなく,悪性腫瘍(癌)を検出できることが腫瘍マーカーの利点です.この点は細胞診検査と通ずるところがあります.剥離ないし擦過細胞診標本から腫瘍マーカーを簡単に検出できれば,それは腫瘍マーカー検査の1つと考えられます.

増殖因子と細胞周期 後藤 明輝
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 多細胞生物の組織を構成する細胞の数は,細胞の増殖,静止および細胞死がバランスをとることによって,ほぼ一定に保たれている.細胞増殖を促すものとして,他の細胞が放出する増殖因子による刺激,他の細胞との接触による刺激などが挙げられる.一方,増殖する細胞は,DNA複製と細胞分裂を含む一連の細胞周期の過程を経る.これらの細胞増殖に関連する仕組みの異常は,細胞の無秩序かつ無制限な増殖につながるため,細胞の癌化と関連が深い.

癌遺伝子,癌抑制遺伝子 元井 紀子
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 癌遺伝子(oncogene)とは,その遺伝子の活性化により細胞の癌化を導く遺伝子のことである.最初に発見された癌遺伝子は,Hunterらによりニワトリに肉腫を作るラウス肉腫ウイルスから単離されたv-srcである.その後,癌ウイルスや癌細胞から多数の癌遺伝子が単離されたが,正常細胞にも対応する遺伝子が存在し,それらを癌原遺伝子(proto-oncogene)と呼ぶ.癌原遺伝子は,細胞の増殖,分化を制御する重要な機能を担う分子をコードしている.表1のように,細胞増殖因子,増殖因子の受容体,細胞内情報伝達,核内転写調節,細胞周期制御などに関与する遺伝子が含まれている.これらの癌遺伝子は,点突然変異(pointmutation),染色体相互転座(translocation),遺伝子再構成(rearrangement),遺伝子複製数の増幅(geneamplification)などが原因で活性化される.

 癌抑制遺伝子(tumor suppressor gene)とは,遺伝子の不活化により細胞の癌化を惹起する遺伝子であり,網膜芽細胞腫から単離されたRb遺伝子が最初の癌抑制遺伝子である.癌抑制遺伝子の異常は,1つの対立遺伝子の欠失と,他方の遺伝子の突然変異による不活化という二段階の機構が想定されている(Knud-sonのtwo-hit theory).p 53遺伝子は,癌抑制遺伝子の1つであり,肺癌など多くの癌で異常が報告されている.癌抑制遺伝子は,無秩序な細胞増殖を回避し,最終的な分化を促進する機能を持つ.代表的な癌抑制遺伝子を表2に挙げる.

血管新生因子 植田 政嗣 , 植木 實
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 血管新生とは既存の血管から新しい血管が形成される組織反応であり,創傷治癒や肉芽形成に重要な役割を果たすほか,女性生殖器では卵胞発育・黄体形成や子宮内膜の増殖・分化に密接に関与している.一方,腫瘍発育において癌組織が径1~2mmを超えて増大するためには,周囲への血管新生の誘導とそれを介する酸素や栄養の補給が必須であり,その結果,癌細胞はアポトーシスを回避し新生血管を経て他臓器へと転移していく(図1).このように,腫瘍の異常増殖および浸潤・転移は血管新生に依存しており,これを惹起する種々の血管新生因子の役割が注目されている.したがって,腫瘍の血管新生機序を解明しこれを制御する方法を確立することは画期的な癌治療へと発展する可能性を秘めている.

 腫瘍細胞や周囲の間質細胞から産生されるvascu-lar endothelial growth factor(VEGF),basic fibrob-last growth factor (bFGF),platelet-derived en-dothelial cell growth factor (PD-ECGF)/thymidinephosphorylase(dThdPase)などの種々の血管新生因子は,サイトカインや増殖因子の影響下に血管内皮細胞の増殖や遊走を促進し,血管新生を惹起する1).その結果,腫瘍内微小血管密度(intratumoral micro-vessel density;IMVD)は増加し,これが原発巣の発育や腫瘍細胞の転移に寄与する.IMVDは,血管内皮のみを同定できる抗体(第Ⅷ咽子関連抗原,CD 34)を用いた免疫組織化学により病理組織切片上で容易に算定することができ,VEGF,dThdPase発現との相関や予後因子としての有用性が検討されてきた.これまでに,婦人科癌では頸癌,内膜癌,卵巣癌においてIMVDが計測され,IMVDの高い腫瘍群が予後不良であったと報告されている2~4).また,カラードップラーやMRIにより測定できる腫瘍血流とIMVDとの相関性も検討され,治療前の臨床検査により予測できる可能性がある5).一方,種々の血管新生因子のうち,dThdPaseは多くの悪性腫瘍において近接する正常組織や間質成分よりも癌胞巣においてより強く発現するとされ,さらに,その発現態度は腫瘍血管新生と密接に関連することが指摘されてきた.これまでのわれわれの検討6~8)でも,dThdPaseは頸癌の血管新生や浸潤・転移動態と密接に関連し,その悪性度の評価や予後解析に用い得る可能性が示唆されている.また,胃癌,大腸癌,乳癌などの悪性度診断にも有用であることが報告されている.

糖鎖抗原 長谷川 清志 , 宇田川 康博
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 細胞膜糖鎖は,細胞の悪性化により異常糖鎖が出現することがあり,また血中へ移行しやすいため腫瘍マーカーとして利用されることが少なくない.糖鎖は糖蛋白あるいは糖脂質上に存在するが,精鎖関連腫瘍マーカーとして血中で測定できるもののほとんどが糖蛋白である.糖蛋白の構造は,図1のようにコア蛋白,母核糖鎖,基幹糖鎖,末端糖に大別され,各種測定系に用いられる抗体の認識部位により,コア蛋白関連マーカー,母核糖鎖関連マーカー,基幹糖鎖関連マーカーに分類することができる1).さらに,癌化を伴う異常糖鎖の出現には糖転移酵素の異常発現が関与し,中でも癌関連ガラクトース転移酵素(GAT)が癌患者の血清中で高値になることが報告されている.これらの糖鎖関連マーカーに関し卵巣癌での陽性率を中心に概説する.

 コア蛋白関連マーカーにはCA 125,CA 602,CA130などがあり,卵巣癌の診断や治療効果の指標として最も汎用されるほか,時に消化器癌のマーカーとしても用いられることがある.卵巣癌全体での陽性率は80%に達し,漿液性腺癌では90%近い陽性率を示すが,粘液性腺癌では60%前後とやや低く,子宮内膜症などにおける偽陽性率も高いなどの弱点を有する(表1).一方,母核糖鎖関連マーカーにはCA 546,CA 72-4,STNなどがあり,卵巣癌全体の陽性率はコア蛋白関連マーカーに若干劣るものの,粘液性腺癌での陽性率が比較的高い(50~80%)ことや偽陽性率が低く,癌特異性が高いことなどから,コア蛋白関連マーカーの弱点を補完し得るマーカーとしてコンビネーションでの利用価値が高いとされている2).基幹糖鎖関連マーカーにはⅠ型糖鎖抗原のCA19-9,Ⅱ型糖鎖抗原のSLXなどがある.CA 19-9は膵癌,胆道系の癌で高い陽性率(80~90%)を示し,臨床経過をよく反映する.卵巣癌では40~50%の陽性率にとどまり,しかも類皮嚢胞腫などの良性卵巣腫瘍でも30~50%の偽陽性率を示すため癌特異性は高くないと言える.SLXは肺癌,膵癌,肝癌などで30~70%の陽性率を示す一方で,肺の良性疾患や肝炎,肝硬変などの良性疾患での偽陽性率が低く(0~5%),癌特異性の高いマーカーである.卵巣癌全体では約50%の陽性率であるが,良性卵巣腫瘍では4%,子宮内膜症でも16%と低い偽陽性率を示す.GAT (galactosyltrans-ferase associated with tumor)の卵巣癌での陽性率は71%であるが,良性卵巣腫瘍では15%,子宮内膜症では17%と低い偽陽性率を示し,癌特異性が高いマーカーである.卵巣腫瘍のうち,特に内膜症性嚢胞と卵巣癌の鑑別に極めて有用なマーカーであり,この特徴を評価されて保険適応が認められている.

CD分類 北川 昌伸
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 ヒト白血球の細胞膜表面には,その細胞の型や分化段階の違いを表す分化抗原,さらには細胞機能と密接に関係する分子などが多数存在している.モノクローナル抗体の作製技術が開発されて以来,これら個々の白血球抗原に対して特異的に反応するモノクローナル抗体が多数作られた.これらの抗体は基礎的研究あるいは臨床的診断上,非常に有用であるが,報告される抗体数が膨大なものとなり,さらに名称が違っても同一抗原を認識している抗体もあることが明らかとなったため,モノクローナル抗体の名称を整理する必要が生じた.そこで,国際ヒト白血球抗原ワークショップにおいて,特異性の一致するモノクローナル抗体をCD分類という形でまとめ,番号を付けることによって定義した1).すなわち,CD分類とは同一の細胞集団または同一の膜抗原または同一の抗原エピトープを認識するモノクローナル抗体を1つにまとめたものと言える.例えば,CD 3というグループに分類されるモノクローナル抗体(CD 3抗体)はCD 3抗原(分子)を持つ同一の細胞集団を認識する.CDとはclusterof differentiationの略語であり,分化に関するクラスター(集団)という意味となる.

 CD抗原は基本的に白血球抗原を対象としたものであり,T細胞系抗原,B細胞系抗原,骨髄球系細胞抗原,NK細胞系抗原の4つのセクションで始まったが,その後,活性化抗原,血小板系抗原,内皮細胞系抗原,接着分子,サイトカイン関連抗原,non-line-age抗原にまで拡大された.当然,遺伝子発現のうえからは,造血系細胞以外にも発現する抗原も含まれているが,造血系細胞に一部でも発現していれば,本来は他の細胞が主な抗原発現細胞であってもいいことになっている.

基本情報

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臨床検査
44巻11号 (2000年10月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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