特集 細胞診―21世紀への展望
第1章 細胞診―現状の問題点と今後の方向性
6.歯科医からみた細胞診
田中 陽一
1
Yoichi TANAKA
1
1東京歯科大学市川総合病院臨床検査科病理
pp.1190-1193
発行日 2000年10月30日
Published Date 2000/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542904529
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口腔細胞診の現状と問題点
口腔内の細胞診の歴史は比較的浅いが,1960年代のアメリカではoral cytologyとして独立し,口腔内悪性腫瘍,粘膜疾患など剥離細胞診における細胞同定についてはほぼ完成されている1,2).わが国でも,口腔癌患者の唾液塗抹標本を応用した報告が50年代に認められる3).しかしわが国では,それらの知識はあまり踏襲されることなく,現在でも口腔細胞診に対する認識は低い.これは口腔病変は可視的で,組織採取が容易であるなど臨床的な問題とともに,臨床医,病理医,口腔病理医,細胞検査士の口腔細胞診に対する考え方も強く反映されている.
口腔は解剖学的にも,組織学的にも複雑で,他の領域の疾患のほとんどが生ずると言っても過言ではない.また歯原性病変のように一般には馴染みの薄い特徴的な疾患もみられるなど多岐にわたっており4),診断に熟練を要することも口腔細胞診の普及を妨げている.口腔は1つの単位であるだけではなく,実は多種多様な組織の集まりで全身疾患のミクロコスモスといった器官でもある.しかし診断についていえば,歯科医は全身的な訓練が足らず,医科では口腔の基礎知識に乏しい.顎骨嚢胞の診断にどれほどの価値があるのか?細胞診はもとより他の診断に携わる多くの人のうち,どの程度の人が理解しているだろうか? 残念ながら現時点では極めて少数と思われる.これは口腔を専門とする歯科医にとっても同様である.また口腔癌では,以下に述べる形態の特徴から判定が難しく,臨床の信頼が容易に得られない事情もある.
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