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血管新生とは既存の血管から新しい血管が形成される組織反応であり,創傷治癒や肉芽形成に重要な役割を果たすほか,女性生殖器では卵胞発育・黄体形成や子宮内膜の増殖・分化に密接に関与している.一方,腫瘍発育において癌組織が径1~2mmを超えて増大するためには,周囲への血管新生の誘導とそれを介する酸素や栄養の補給が必須であり,その結果,癌細胞はアポトーシスを回避し新生血管を経て他臓器へと転移していく(図1).このように,腫瘍の異常増殖および浸潤・転移は血管新生に依存しており,これを惹起する種々の血管新生因子の役割が注目されている.したがって,腫瘍の血管新生機序を解明しこれを制御する方法を確立することは画期的な癌治療へと発展する可能性を秘めている.
腫瘍細胞や周囲の間質細胞から産生されるvascu-lar endothelial growth factor(VEGF),basic fibrob-last growth factor (bFGF),platelet-derived en-dothelial cell growth factor (PD-ECGF)/thymidinephosphorylase(dThdPase)などの種々の血管新生因子は,サイトカインや増殖因子の影響下に血管内皮細胞の増殖や遊走を促進し,血管新生を惹起する1).その結果,腫瘍内微小血管密度(intratumoral micro-vessel density;IMVD)は増加し,これが原発巣の発育や腫瘍細胞の転移に寄与する.IMVDは,血管内皮のみを同定できる抗体(第Ⅷ咽子関連抗原,CD 34)を用いた免疫組織化学により病理組織切片上で容易に算定することができ,VEGF,dThdPase発現との相関や予後因子としての有用性が検討されてきた.これまでに,婦人科癌では頸癌,内膜癌,卵巣癌においてIMVDが計測され,IMVDの高い腫瘍群が予後不良であったと報告されている2~4).また,カラードップラーやMRIにより測定できる腫瘍血流とIMVDとの相関性も検討され,治療前の臨床検査により予測できる可能性がある5).一方,種々の血管新生因子のうち,dThdPaseは多くの悪性腫瘍において近接する正常組織や間質成分よりも癌胞巣においてより強く発現するとされ,さらに,その発現態度は腫瘍血管新生と密接に関連することが指摘されてきた.これまでのわれわれの検討6~8)でも,dThdPaseは頸癌の血管新生や浸潤・転移動態と密接に関連し,その悪性度の評価や予後解析に用い得る可能性が示唆されている.また,胃癌,大腸癌,乳癌などの悪性度診断にも有用であることが報告されている.
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