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多彩な炎症性細胞浸潤と線維性結合組織の圧排性増殖から成る,細胞成分に富んだ境界明瞭な肺腫瘤は,感染症状が先行したり,切除後に良好な経過をたどるため,反応性の非腫瘍性病変であろうと,炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor;IPT)と命名され,悪性腫瘍と見誤らないよう注意がうながされた.IPTは多彩な細胞から成るため,plasma cell granuloma,fibroxanthoma, histiocytoma, xanthofibroma,xanthoma,xanthogranuloma,mast cell granulomaなどさまざまに呼ばれ,類似した組織像の病変は,ほとんどの臓器で見い出されている.IPTの多くは反応性病変と考えられてきたが,一方で,近接器官あるいは臓器に浸潤するIPTや切除後に再発するIPTが報告されており,当初からIPTには真の腫瘍性病変が含まれている可能性があると指摘されてきた.近年,主たる構成成分の1つである筋線維芽細胞に注目して腫瘍性病変の側面からIPTを再評価し,炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(inflammatory myofibroblastictumor(IMT)の概念が提唱された.肺IMTは境界明瞭で,おおむね予後良好である.肺外IMT,特に腹腔や後腹膜に発生するIMTは10歳代までの若年に好発し,発熱,疼痛,体重減少,貧血,血小板増多,赤沈亢進などを随伴しやすい.境界不明瞭な多結節腫瘤を形成するためしばしば不完全切除となり再発しやすいが,遠隔転移はなく,fibromatosisに似た側面を持っているという.IMTの分子病理学的検討では再発例にクローナルな染色体異常やaneuploidが見いだされ,真の腫瘍である可能性が支持されている.同じスペクトラム上にあると思われ肉腫として命名された炎症性線維肉腫(inflammatory fibrosarcoma ofthe mesentery and retroperitoneum)もある.
IPTの細胞像は紡錘形の筋線維芽細胞と多数の炎症細胞が出現し,前者に軽度の核異型がみられたり,striform patternがみられる場合がある.これらの所見は非特異的であることから,臨床所見や画像所見を総合的に加味して鑑別していく必要がある.鑑別すべき病変としては結節性筋膜炎,線維腫症,線維性組織球腫,筋線維芽腫,孤立性線維腫瘍,濾胞樹状細胞腫瘍,悪性線維組織球腫(通常型,炎症性),平滑筋肉腫,紡錘細胞癌などがある.異常核分裂像の有無や紡錘形細胞の良悪に注目するとともに,必要に応じて免疫組織化学的検索を併用していくことが大切である.
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