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細胞膜糖鎖は,細胞の悪性化により異常糖鎖が出現することがあり,また血中へ移行しやすいため腫瘍マーカーとして利用されることが少なくない.糖鎖は糖蛋白あるいは糖脂質上に存在するが,精鎖関連腫瘍マーカーとして血中で測定できるもののほとんどが糖蛋白である.糖蛋白の構造は,図1のようにコア蛋白,母核糖鎖,基幹糖鎖,末端糖に大別され,各種測定系に用いられる抗体の認識部位により,コア蛋白関連マーカー,母核糖鎖関連マーカー,基幹糖鎖関連マーカーに分類することができる1).さらに,癌化を伴う異常糖鎖の出現には糖転移酵素の異常発現が関与し,中でも癌関連ガラクトース転移酵素(GAT)が癌患者の血清中で高値になることが報告されている.これらの糖鎖関連マーカーに関し卵巣癌での陽性率を中心に概説する.
コア蛋白関連マーカーにはCA 125,CA 602,CA130などがあり,卵巣癌の診断や治療効果の指標として最も汎用されるほか,時に消化器癌のマーカーとしても用いられることがある.卵巣癌全体での陽性率は80%に達し,漿液性腺癌では90%近い陽性率を示すが,粘液性腺癌では60%前後とやや低く,子宮内膜症などにおける偽陽性率も高いなどの弱点を有する(表1).一方,母核糖鎖関連マーカーにはCA 546,CA 72-4,STNなどがあり,卵巣癌全体の陽性率はコア蛋白関連マーカーに若干劣るものの,粘液性腺癌での陽性率が比較的高い(50~80%)ことや偽陽性率が低く,癌特異性が高いことなどから,コア蛋白関連マーカーの弱点を補完し得るマーカーとしてコンビネーションでの利用価値が高いとされている2).基幹糖鎖関連マーカーにはⅠ型糖鎖抗原のCA19-9,Ⅱ型糖鎖抗原のSLXなどがある.CA 19-9は膵癌,胆道系の癌で高い陽性率(80~90%)を示し,臨床経過をよく反映する.卵巣癌では40~50%の陽性率にとどまり,しかも類皮嚢胞腫などの良性卵巣腫瘍でも30~50%の偽陽性率を示すため癌特異性は高くないと言える.SLXは肺癌,膵癌,肝癌などで30~70%の陽性率を示す一方で,肺の良性疾患や肝炎,肝硬変などの良性疾患での偽陽性率が低く(0~5%),癌特異性の高いマーカーである.卵巣癌全体では約50%の陽性率であるが,良性卵巣腫瘍では4%,子宮内膜症でも16%と低い偽陽性率を示す.GAT (galactosyltrans-ferase associated with tumor)の卵巣癌での陽性率は71%であるが,良性卵巣腫瘍では15%,子宮内膜症では17%と低い偽陽性率を示し,癌特異性が高いマーカーである.卵巣腫瘍のうち,特に内膜症性嚢胞と卵巣癌の鑑別に極めて有用なマーカーであり,この特徴を評価されて保険適応が認められている.
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