生体の科学 63巻5号 (2012年10月)

特集 細胞の分子構造と機能―核以外の細胞小器官

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 体の反応はすべてが細胞という「現場」で起こっています。その細胞はサイトゾルを含め細胞小器官という構成単位によって整然と,あるいは過激な表現を使えばガンジガラメに組織化されています。小器官という区画が単なる膜で囲まれた空間というのではなく,膜そのものが活性を持った機能タンパクの集まりであり,その膜タンパクがさらに足場となって細胞内のシグナル経路を構成し,種々の特異な細胞機能を果たしています。

 かつて「細胞構造」,「細胞小器官」といったテーマで数多くの特集が世に送り出されました。それ以来少なくとも十年の歳月が流れました。その間きわめて多くの新しい遺伝子(タンパク質)が発見され,その機能が解析されました。既知のタンパク分子についてもさらなる知見が付け加えられました。しかし,個々には明らかとなったそれらのタンパクの機能が細胞の機能単位として細胞小器官の下にまとめて提示される機会は最近ではあまりありませんでした。

1.リボソーム

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 リボソームはRNAとタンパク質からなる超分子複合体であり,mRNAにコードされた遺伝情報をタンパク質のアミノ酸の配列へと変換する,いわばタンパク質合成装置である。バクテリアのリボソームは沈降係数70S,分子量230万Daの巨大な複合体であり,30Sの小サブユニットと50Sの大サブユニットから構成される。いずれのサブユニットもRNAとタンパク質の複合体(リボヌクレオプロテイン;RNP)である。2000年からX線結晶構造解析によって,バクテリアおよびアーキアのリボソームの精密な立体構造が解かれ,リボソームの構造機能相関の研究が大きく進展した1)。この成果に対してノーベル化学賞(2009年)が与えられたことは記憶に新しい。また,2011年には真核生物リボソームの結晶構造が解かれ2),ヒトを含めた真核生物の翻訳制御機構の理解が大きく進展することが期待されている。

 リボソームの構造解析がもたらした最も特筆すべき成果は,リボソームの中心骨格がrRNAによって占められているという事実である。30SサブユニットはmRNAのコドンを精確に解読する役割を担うが,暗号解読中心は16S rRNAの進化的に保存された塩基が構成しており,コドン-アンチコドン対合をrRNAがどのように認識するかの分子メカニズムが解き明かされている。また,50Sサブユニットはペプチド転移反応を触媒するが,その活性中心(peptidyl transferase center)も完全に23S rRNAで構成されていることが判明している。遺伝情報の解読とペプチド転移反応という,リボソームが担う二つの最も根本的な機能が,rRNAによって担われているという事実から,リボソームは構造的かつ機能的にもRNAを中心としたマシナリーであるといえる。

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 ●リボヌクレアーゼT2とリボソームの不思議な関係

 リボヌクレアーゼ(RNase)T2は麹菌(Aspergillus oryzae)のタカジアスターゼ(アミラーゼ)製剤中の不純物として,RNase T1とともに江上不二夫らにより発見された1)。麹菌以外にも細菌,カビ,動物,植物,ウイルスなど幅広い生物のゲノムに見出されており,RNaseファミリーのなかでも最も広く生物界に分布する酵素である。大腸菌ではRNase Ⅰとして知られている。ペリプラズムに局在する分子量27 kDaの単量体酵素であること,他のRNaseと異なり活性にMgを必要としないこと(EDTA存在下で活性)など,RNase Ⅰの酵素学的な諸性質が明らかにされたが,さらに興味深い現象が知られていた。細胞を破砕して精製すると,常にリボソームと結合した不活性な状態で分離されるのである。RNaseとリボソーム,一見無関係にも思える分子同士の相互作用についてはさらに研究が進められ,50Sサブユニットではなく30SサブユニットがRNase活性を阻害すること,ただし,裸の16S rRNAやタンパク質成分(TP30)のみでは阻害されないことも知られていた2)。このように一定の知見は集積されたものの,RNase Ⅰとリボソームの相互作用の実態や生理的意義については不明であった。

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 ●エピジェネティクス機構によるrRNA転写制御

 リボソーム合成における律速反応は核小体におけるrRNA遺伝子発現である。真核細胞のrRNA遺伝子はRNAポリメラーゼⅠによって転写され,細胞あたり約400コピー存在し,5本の染色体(ヒトでは13-15番,20番,21番染色体)の上にタンデムな繰返し配列を形成するクラスターとなって存在している。約400個のrRNA遺伝子は転写されているrRNA遺伝子と転写されていないrRNA遺伝子に分かれる。したがって,rRNA遺伝子発現はrRNA遺伝子プロモーターに作用する転写因子による制御のほかに,転写されているrRNA遺伝子の割合を調節するエピジェネティックな制御を受けている。

 rRNA遺伝子発現をエピジェネティクスに制御する因子としてNoRC(nucleolar remodeling complex)が報告されている。NoRCはSNF2h-containing chromatin remodeling complexで,rRNA遺伝子プロモーターにDNAメチル化酵素であるDNMTやヒストン脱アセチル化酵素HDACをリクルートすることによって,DNAメチル化やヒストンH3K9の脱アセチル化・メチル化を促進し,rRNA転写を抑制している1)。しかしながら,NoRCによるrRNA転写制御の意義についてはまだ明らかになっていない。

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 ●真核生物のリボソーム生合成過程の解明

 リボソームはタンパク質合成を担う細胞小器官であり,増殖や環境への適応といった基本的な細胞活動を制御する役割を果たしている。真核生物の細胞質リボソームは80Sという沈降係数を持つ巨大な複合体で,酵母では約50種類のリボソームタンパク質と3種類(25S,5.8S,5S)のリボソームRNA(rRNA)を構成成分とする大サブユニット(60S)および約30種類のリボソームタンパク質と18S rRNAを構成成分とする小サブユニット(40S)からなる。初期の真核生物リボソーム生合成過程の研究は,酵母を対象にした遺伝学的解析およびプロテオミクスの手法を用いた機能性タンパク質複合体のスナップショット解析により精力的に進められた1)。その結果,多数のトランス作用因子[200種類を超えるタンパク質および約75種類のsmall nucleolar RNA(snoRNA)]が関与する同過程の全容が明らかとなった。

 酵母リボソーム生合成の開始時には,核小体におけるRNAポリメラーゼⅠによるrDNAからの35SプレrRNAの転写に共役して,C/Dボックス型snoRNAと約30種類のタンパク質からなるSSUプロセソソーム(small subunit processome),およびその他の40Sサブユニット前駆体プロセッシング因子が会合することでプレ90S複合体が形成される。以降の過程で形成される様々な生合成前駆体の働きにより,35SプレrRNAが修飾(2'-O-リボースメチル化,シュードウリジル化)およびプロセッシングを受け,成熟rRNAが生成する。プレ90S複合体中ではまず,40Sサブユニットの生合成の初期段階およびSSUプロセソソームによる40Sサブユニット前駆体(プレ40S)の切断が進行し,その結果,60Sサブユニット前駆体(プレ60S)が形成される。プレ40Sおよびプレ60Sは,35SプレrRNAの切断により生じた20Sおよび27SプレrRNAをそれぞれ含む。また,プレ60Sには独立した遺伝子からRNAポリメラーゼⅢによって転写された5S rRNA前駆体が取り込まれる。その後,両サブユニットは独立した過程を経て成熟していく。

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 真核生物のリボソームタンパク質は約80種類ある。これらはリボソームRNAとともに複雑な高次構造を形成している。ショウジョウバエでは,約8割のリボソームタンパク質(RP)遺伝子がMinuteと呼ばれる変異体の原因になることが確認された1)。この変異体はいずれのRP遺伝子のヘテロ変異でも発育遅滞や剛毛の形成不全など共通の表現型を示す。これは,リボソームタンパク質の変異によって正常に機能するリボソームの数が不足し,個体の成長に必要な因子の翻訳が十分ではないためだと推測された。ところが最近では,リボソームの異常が組織特異的な異常(疾患)の原因になることが示唆されている。

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 ●抗リボソームP抗体の概要

 リボソームは蛋白合成の場となる細胞内小器官であり,真核細胞のリボソームは約80種類の蛋白と4種類(28S,18S,5.8S,5S)のRNAから構成される巨大複合体で,28S RNAを含む60Sの大型サブユニットと18S RNAを含む40Sの小型サブユニットからなり,ダルマのような形状をしている。

 1967年Schurらにより,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)患者血清中から細胞質に多量に存在するリボソームに対する自己抗体が見出され1),その対応抗原としてリボソーム中のP蛋白などが明らかにされている。

2.小胞体

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 細胞を外界から隔離する細胞膜は,水分子1滴も透過しない脂質二重膜である。しかしながら,細胞質で合成されたタンパク質の30%は分泌タンパク質として細胞外に分泌されるか,膜タンパク質として膜に組み込まれる。このようなタンパク質の膜透過は原核生物から真核生物まで保存された基本的な細胞機構の一つである。細胞質でリボソームにより新規に合成された分泌・膜タンパク質は,N末端に膜透過の荷札となるシグナル配列が付加された状態で合成される。その後,シグナル配列を認識した分子装置によって,前駆体タンパク質は膜へとターゲッティングされ,膜を透過して輸送される。生体膜にはトランスロコンと呼ばれるタンパク質膜透過チャネルが存在し,前駆体タンパク質を変性した状態で膜を透過させる。細菌の細胞質膜には膜タンパク質SecY,SecE,SecGからなる三者複合体がSecトランスロコンを形成し,細胞質からペリプラズム空間へのタンパク質輸送を担っている(図1)1-3)。この膜透過反応は真核生物の細胞質から小胞体へのタンパク質輸送に相当し,小胞体膜にはSecYEG複合体のホモログに当たるSec61α6762複合体が存在する。

 筆者らは,Secタンパク質群から構成される「タンパク質を膜透過させる分子装置の動作機構」を解明すべく,各構成因子の構造解析ならびに機能解析を進めてきた。本稿では2008年に筆者らが報告したSecYE複合体のX線結晶構造解析と構造情報に基づく機能解析をもとに,新たに提唱されているタンパク質膜透過反応モデルを解説する。

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 新規に合成された分泌タンパク質や膜タンパク質のおよそ30%が小胞体に入り,分子シャペロンや酸化還元酵素の働きによって正しい立体構造へとフォールディングが試みられる。しかし,すべてのタンパク質が正しくフォールディングされるわけではなく,ミスフォールドしたタンパク質は小胞体が持つ品質管理機構に従って適切に処理されなければならない。

 小胞体の品質管理機構の代表的な一つとして小胞体関連分解(endoplasmic reticulum associated degradation;ERAD)が備わっている。ERADはミスフォールドしたタンパク質を選択的に小胞体からサイトゾルへ逆行輸送チャネルを介して逆行輸送し,ユビキチン-プロテアソーム系で分解させる一連の機構である1)。本稿では糖タンパク質に着目し,レクチンタンパク質EDEMや還元酵素ERdj5を介した基質認識から逆行輸送までの小胞体内での巧妙なプロセスについて紹介する。

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 小胞体は網目状の膜系から成るオルガネラであるが,その多様な機能の一つにCa2+ストアとしての役割がある。Ca2+は重要な細胞内伝達物質で,特に筋細胞の興奮収縮連関では中心的な役割を果たしている。小胞体膜には内腔へ能動的にCa2+取込みを行うSERCAと呼ばれるCa2+ポンプと,Ca2+を放出するCa2+遊離チャネルが存在する。Ca2+遊離チャネルにはリアノジン受容体(RyR)とイノシトール3リン酸受容体(IP3R)の2種類があるが,そのうち骨格筋,心筋の興奮収縮連関に関与するのはRyRである。本稿では,RyRを介するCa2+放出機構とRyRが関係する疾患について最近の進歩を論じる。

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 セントラルドグマに従って合成されるタンパク質は,アミノ酸がN末端からC末端に向かってつながった紐状のポリペプチドとしてリボソームから出現するが,それぞれに固有の立体構造を形成して初めてゲノム情報によって規定された機能を果たすことができる。「タンパク質はそのアミノ酸配列に従って自発的に折り畳まれる(すなわちエネルギーも不要な過程)」というアンフィンゼンのドグマは現在でも基本的には受け入れられており,疎水性アミノ酸を分子内部に,親水性アミノ酸を分子表面に配置しながら折り畳まれていく。しかしながら,タンパク質濃度が極めて高い細胞内ではタンパク質の自発的折畳みは非効率であり,また誤って進行する可能性が高い。そこで,すべての生物種はATPを使って新生タンパク質の折畳みを積極的に介助するタンパク質(=分子シャペロン)を多数用意して,このゲノム情報発現における最後の関門ともいうべきタンパク質の高次構造形成という重要課題を解決している。

 膜結合性リボソームで合成される分泌タンパク質や膜タンパク質(全タンパク質の約1/3に相当する)が最初に遭遇するオルガネラである小胞体内には,分子シャペロンが多種多量に存在するのみならず,ジスルフィド結合形成や糖鎖付加などの修飾を行うフォールディング酵素も存在し(合わせて小胞体シャペロンと略す),これら分泌系タンパク質は折り畳まれていく。一方で,細胞はかなり多量にタンパク質を合成しているため,正しく折り畳まれなかったタンパク質が確率的にも(10%以下とされている)生じてしまう。このような構造異常タンパク質は細胞質へと逆行輸送され,ユビキチン-プロテアソーム系によって分解処分される(この一連の過程は小胞体関連分解と称される)。小胞体内で正しい立体構造を獲得したタンパク質のみがゴルジ装置以降の分泌経路に進み,それぞれの最終目的地(リソソーム,細胞膜,細胞外)へと到達することから,小胞体は折畳み促進と小胞体関連分解という全く反対の方向性を示す二つの機構によって分泌系タンパク質の品質を管理しているオルガネラであると捉えうる1)

小胞体ストレスと骨格発達 村上 智彦
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 ●多様性を有する小胞体

 三つの小胞体ストレスセンサーIRE1,PERK,ATF6は全身の各臓器に発現しており,どの細胞においても一様に小胞体ストレスに対して応答できると考えられる。一方,実際の哺乳細胞では細胞種ごとに生体内での役割が異なり,その役割に応じて小胞体に加わる負荷は異なる。特に,大量の分泌タンパク質を産生する分泌細胞の小胞体には強い負荷(生理的小胞体ストレス)がかかる。この生理的ストレスに対する応答は骨格発達などの生体制御に関係することが報告されている。

 骨格発達とは骨軟骨の形成であり,骨,軟骨はそれぞれ骨芽細胞,軟骨細胞によって構築される。骨芽細胞は骨基質タンパク質(Ⅰ型コラーゲンなど)を,軟骨細胞は軟骨基質タンパク質(Ⅱ型コラーゲンなど)を合成・分泌する。骨芽細胞および軟骨細胞は大量のタンパク質分泌に対応するため,非常に発達した小胞体を持つ。

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 ●加齢性疾患と小胞体ストレス

 加齢は遺伝的要因と生活習慣などの環境要因により進行し,不十分な防御と修復により恒常性維持喪失や細胞死が徐々に起こる。内的,外的要因が加わり異常進行した状態が加齢性疾患といえるが,各臓器に特徴的な疾患が起こる。そのうちで脳・心血管性疾患や糖尿病などのリスクとしてメタボリックシンドロームが挙げられ,動脈硬化,インスリン感受性低下やがん発生率が高まる。加齢進行リスクとして酸化的ストレス仮説があり,多くの疾患と活性酸素との関係が論議されてきたが,近年,小胞体ストレスの寄与が報告されている。過剰な小胞体ストレス状態が肥満を基盤とする加齢性疾患や加齢性神経変性疾患などの内在的要因,さらには,外因性要因によっても発現する。しかし,加齢と小胞体ストレス応答の関係は不明な点が多い。内因性,外因性の小胞体ストレス過剰発現抑制による疾患予防の視点が必要となる。

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 ●小胞体ストレス誘導性アポトーシス経路

 細胞は小胞体機能障害が回復困難なほど大きい場合,アポトーシス経路を活性化し,障害細胞自体を処理することにより周辺の細胞を守る。小胞体機能の改善・維持に働く小胞体ストレス経路の場合と同じく,小胞体ストレス誘導性アポトーシスの場合も小胞体膜上に存在する三種類の小胞体ストレスセンサー分子(PERK,IRE1,ATF6)が小胞体機能障害のため小胞体内に構造異常タンパク質が蓄積したことを感知し,活性化されることから一連の反応が始まる1,2)。一般的に程度が強い刺激,持続時間が長い刺激が小胞体ストレス誘導性アポトーシス経路を活性化するが,同じ小胞体ストレスセンサーの活性化に始まりながら,細胞保護に働く場合と,アポトーシス誘導に働く場合とで,どのようにして反応機構を切り替えるのかは明確ではない。また,アポトーシス経路が活性化された状況下でも,同時に小胞体シャペロン分子BiPの誘導など小胞体機能改善維持・細胞保護機構も誘導されている。そのため,最終的に細胞死に至るか否かは両方の反応系の作用のバランスで決まる。

 その後の過程は複雑で,解明されていない部分も大きいが,最終的にはミトコンドリアにアポトーシスシグナルが伝わり,ミトコンドリアからシトクロムcが流出することでサイトソルのカスパーゼファミリー分子の活性化が起こり,細胞はアポトーシスを起こす(図)。ミトコンドリアへアポトーシスシグナルを伝える経路の分子としては,小胞体ストレス誘導性転写因子CHOP(C/EBP homologous protein),ストレス活性化タンパク質キナーゼ(stress-activated MAP kinase)であるJNK(c-Jun N-terminal kinase)とp38(p38 MAP kinase)が重要である。この三種類の分子が中心的な役割を担うそれぞれの経路は,クロストークしながら並立的に進行する。

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 ●小胞体ストレス応答と慢性炎症疾患

 近年,がん,アルツハイマー病などの神経変性疾患,糖尿病,動脈硬化性疾患,自己免疫疾患など種々の疾患の局所において,炎症細胞の浸潤と慢性的な炎症が観察され,それらが組織変性と疾患の重症化の重要な要因となることが明らかにされてきている。一方,小胞体は分泌タンパク質や膜タンパク質の品質を管理するオルガネラとして重要な役割を果たしているが,小胞体の機能に破綻が生じると,高次構造の異常なタンパク質(unfolded protein)が蓄積し,細胞は恒常性を維持するためにUPR(unfolded protein response)と呼ばれる様々な小胞体ストレス応答を呈するようになる。小胞体にはunfolded proteinが蓄積したことを感知して下流にシグナルを伝える役割を担ういわばセンサータンパク質が存在し,哺乳動物では少なくともIRE1(inositol-requiring enzyme 1),ATF6(activating transcription factor 6)およびPERK(PKR-like endoplasmic reticulum kinase)という3種類の小胞体膜貫通タンパク質によって巧妙に制御されている。

 小胞体ストレスによる炎症の誘導には,IRE1の下流のシグナルとしてTRAF2(TNF receptor-associated factor 2)-ASK1(apotosis signaling-regulating kinase 1)-JNK(c-jun N terminal kinase)系と,IKK(IκB kinase)-NF-κB(nuclear factorκB)系の賦活化がある。また,PERK-eIF2α(eukaryotic initiation factor 2α)系の活性化に伴うIκBの減少によるIKK-NF-κB系の賦活化も知られている。近年,小胞体ストレスに伴う炎症の惹起が糖尿病や心血管病を含む慢性炎症疾患と関連することが明らかになってきている。

小胞体ストレスの可視化 岩脇 隆夫
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 ●小胞体ストレス可視化へのきっかけ

 筆者が小胞体ストレスの研究をスタートさせたころ,タンパク質の品質管理や細胞内シグナル伝達という側面からの研究が主流で,それゆえに当時の研究は酵母菌や一般的な培養細胞を対象にしたものが中心的であった。逆にそのころの小胞体ストレス研究は哺乳動物個体レベルでの解析が乏しく,非常にマイナーなものであった。しかし,90年代終わりごろ,大阪大学の今泉和則博士(現広島大学教授)らが家族性アルツハイマー病の原因遺伝子と小胞体ストレスとの関連性について報告した1)のをきっかけに,小胞体ストレスは神経変性疾患分野で注目を浴びるようになった。それと時を同じくしてアルツハイマー病に限らずパーキンソン病やハンチントン病などの神経変性疾患を対象に研究している幾人かから,小胞体ストレスの検出方法について相談を受けることが頻繁になっていった。

 一般に,小胞体ストレスに曝された細胞は小胞体ストレス応答分子を活性化させてストレスに対する抵抗性を上昇させることが知られている。そのため小胞体ストレスの検出にはストレス応答分子の挙動をノザン解析やウェスタン解析などによって調査する手法が古くから用いられていた。このような実験手法では当然のことながら細胞や生体組織を溶解し,RNAやタンパク質を抽出することになる。酵母菌や培養細胞を対象にした研究ではこの方法でも十分に対応できたのであるが,脳の局所的な微小領域で生じる神経変性部位における小胞体ストレス検査では精度や手技の面で難しい問題を抱えることになる。できれば脳組織を傷つけずに小胞体ストレス検査を行いたいとのことであったので,これには小胞体ストレスの可視化で対応するしかないと考えた。

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 循環器疾患は心臓を中心とする血管系の疾患を指すが,実際には脳,肺,腎臓など多くの器官の病態を対象とするため種類は多岐にわたる。本稿では虚血性心疾患,脳卒中,動脈硬化に対象を絞り,小胞体ストレスとの関連を概述する。

3.ゴルジ体

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 細胞の内部は膜によって細胞内小器官と呼ばれる様々な区画に分けられており,各々の細胞内小器官は固有の働きを持っている。例えば,小胞体ではmRNAから蛋白質が作られ,その品質管理が行われている。小胞体で作られた蛋白質は次にゴルジ体に送られて,そこで修飾・選別され,種々の目的地に送り出されていく。

 小胞体やゴルジ体の形態は非常に特徴的で,それぞれ網状構造・扁平膜積層構造を呈している。この構造は種を超えて保存されていることから,これらの特異的な構造はその機能と密接に関連していると考えられる。加えて,この特徴的な構造は細胞周期間期にのみ観察され,分裂期に入ると特徴的な形態は失われる。そして細胞分裂終期になると,娘細胞においてそれらの特徴的な構造は再構成される。ではこのような特徴的な形態はどのように維持されているのだろうか。本稿では細胞内膜融合経路p97ATPase経路の観点から,主にゴルジ体・小胞体の形成維持の分子機構について最新の知見を交えて解説していきたい。

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 ゴルジ装置は1898年にイタリアの病理学者Camillo Golgiにより,鍍銀染色を施したフクロウの小脳プルキンエ細胞の細胞質中に黒染する網状構造として初めて報告された。その後,このゴルジ装置の全体像は主に光学顕微鏡の鍍銀染色法やオスミウム染色法により調べられてきた。

 その後,透過電子顕微鏡(透過電顕)の出現で,ゴルジ装置は扁平な槽(cistern)が何層にも積み重なった層板構造をしていることが明らかになった。また,その槽はシス最表槽(cis-most cistern),中間槽(medial cisterns),トランス最表槽(trans-most cistern)の三部から構成されることも知られてきている。しかし,透過電顕による超薄切片の観察ではゴルジ装置の三次元形状を理解することが難しい。この点を克服するために,オスミウム染色や組織化学染色を施した厚切り切片を超高圧透過電顕で観察して,ゴルジ装置の立体微細構造を解析しようとする試みや1),電顕トモグラフィーによるゴルジ装置の立体再構築がこれまで行われてきてきた2)

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 真核生物の細胞内には核,小胞体,ゴルジ体,リソソーム(液胞),ミトコンドリアなど様々な膜で区切られたオルガネラが存在し,これらがそれぞれ固有の機能を果たすことによって細胞の生命活動を維持している。そのためには多種多様なタンパク質が個々のオルガネラに局在し,正常に機能することが重要である。新たに合成された膨大な数と種類のタンパク質を正しくそれらが機能すべき場所である目的地へ運ぶために,また,いったん目的地に達したのちにも時々刻々とその局在を変化させて機能を果たすタンパク質を運ぶために,真核生物はタンパク質を正確に運ぶ輸送システムを獲得した。そのなかでも重要なものの一つが,オルガネラ間を小さな膜小胞などの膜を介してタンパク質を輸送する膜交通(membrane traffic)のシステムである。膜交通は輸送小胞が供与オルガネラ膜から出芽し,細胞内を移動し,標的オルガネラへ繋留・膜融合するという一連の過程によって,「積荷」である各タンパク質をそれぞれの目的地によって選別し輸送するシステムである。この膜交通で中心的な役割を果たすオルガネラがゴルジ体である。ゴルジ体は分泌経路やリソソーム・液胞経路で働くタンパク質を選別輸送するキーステーションであり,最近,エンドサイトーシス経路でも関与が報告されているオルガネラである。

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 ゴルジ体はエキソサイトーシス経路とエンドサイトーシス経路を結びつけるハブ的オルガネラである。ゴルジ体の機能は小胞体で合成された分泌タンパク質や膜タンパク質の修飾(糖鎖付加や硫酸化など)と,そのタンパク質を目的の膜系やオルガネラに輸送するための選別である。その装置としての機能を十分に発揮するため,ゴルジ体はたえず膨大な量の膜やタンパク質成分の流入と流出によるダイナミックな膜のフローに晒されながら,(少なくとも)哺乳動物細胞の間期ゴルジ体は核近傍の層板構造とネットワーク構造からなるその特徴的な形態を保持し続けている。

 一方,細胞分裂期(M期)のゴルジ体はその特徴的な構造をドラスティックに変化させる。つまり,一度その固有で安定な形態を壊し,娘細胞内で再構築する。ゴルジ体がエンド-エキソサイトーシスというメンブレントラフィックの要衝に位置するオルガネラであることを考えれば,このゴルジ体の細胞周期依存的なディスアッセンブリー(分解:disassembly)過程とリアッセンブリー(再構築:reassembly)過程はおそらく,① ゴルジ体自身が持つ構造維持装置の制御のもと,② ゴルジ体を中心としたメンブレントラフィックによる膜成分の流入・流出とうまくカップルして行われていると予想される。本稿では,その点に注目した細胞分裂期におけるゴルジ体ディスアッセンブリーの分子機構について概説する。

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 ゴルジ体は小胞体で新規合成された膜タンパク質や分泌タンパク質を受け取り,糖鎖の付加やペプチド鎖の切断などの修飾を行い,さらにタンパク質の最終の品質管理を行ったのち,リソソームなどの細胞内オルガネラや形質膜へ向けて選別配送する重要な役割を担っている。本稿では,古典的な分泌タンパク質や膜タンパク質の加工にかかわるゴルジ体の酵素群について,次にゴルジ体の構造や機能の調節にかかわる主要なタンパク質群について,さらに近年明らかになってきたゴルジ体で情報伝達に働くタンパク質について,最後にゴルジ体への膜タンパク質局在化機構について概説したい。

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 ●トランスゴルジネットワーク(TGN)とは

 トランスゴルジネットワーク(trans-Golgi network;TGN)は,ゴルジ層板のトランス槽側に存在する網目状の構造体であり,小胞体で合成されたタンパク質がゴルジ体へ運ばれた後,最終目的地(細胞外への分泌や細胞膜・液胞など)に向けてタンパク質の選別を行う,膜交通において重要な分岐点となる区画であると考えられている1)。TGNはゴルジ体の一部であると考えられてきたが,近年,ゴルジ体とは独立した別のオルガネラであるという考え方も浮上している。植物においては,TGNは初期エンドソーム(early endosomes)としての機能を持つことも明らかになっている2)。そのため,TGNが果たす機能は極めて多様であり,生物種によっても特殊化している可能性があるが,その詳細な機能や高次機能ついては未解明な部分が多いのが現状である。

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 ●CAPSタンパク質

 1992年,145 kDaのタンパク質がCa2+依存的な有芯小胞(DCV)の分泌に重要であることが報告された。後にこのタンパク質の実体としてCAPS1 cDNAがクローニングされ,線虫UNC-31の脊椎動物ホモログであることが明らかになった。2003年にファミリータンパク質としてCAPS2がクローニングされ,その翌年にはCAPS1の働きとして,有芯小胞のpriming stepに関与すると報告された。これがCAPSの働きとしての最初の主張である。しかし,後のCAPS1 KOマウスを用いた報告では,CAPS1がpriming stepに重要であるという主張を否定し,有芯小胞へのカテコラミンのloading stepに働いているという報告が発表された。その後,同グループはCAPSはシナプス小胞のpriming stepに関与すると大幅に主張を変えている。また,CAPS1はゴルジ膜における有芯小胞の生合成に関与するという報告もあり,CAPSタンパク質の働きとしては,有芯小胞の分泌に関与することは明らかなものの,どのステップに関与しているのかについてはいまだ統一的な見解がない。

 筆者らは,CAPS2が神経ネットワーク形成に最も重要な分子の一つであるBDNFの分泌に関与すること1)や,CAPS2 KOマウスがBDNFの分泌低下により様々な形態学的・生理学的異常を示すこと2),自閉症患者特異的にエクソン3がスキップしたCAPS2の発現がみられること3)などを報告してきた。

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 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,運動神経細胞の変性脱落により四肢の筋力低下や構音・嚥下障害を来し,数年の経過で呼吸筋麻痺により死亡するいまだ治療法のない神経変性疾患である。神経病理学的には運動神経細胞の変性脱落に加えて,残存神経細胞の胞体内にBunina小体やユビキンチン陽性封入体の出現を特徴とする。このうちユビキンチン陽性封入体の構成蛋白は長らく不明であったが,2006年,構成蛋白の一つとしてTAR DNA-binding protein of 43 kDa(TDP-43)が同定された。さらにその後,TDP-43をコードするTARDBP遺伝子変異を有する家族性ALS家系が多数報告され,現在ではTDP-43がALSのkey proteinとして認識され研究が進められている。われわれは,これまでにALSをはじめとする運動ニューロン疾患,およびその他の神経変性疾患のゴルジ装置の異常について免疫組織学的に検討を重ねてきた。本稿ではその結果を中心に概説する。

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 ●フコシル化とは

 細胞表面に存在する多くのタンパク質には糖鎖が付加されていて,それらの機能を制御する。多くの糖鎖のなかで,フコシル化(フコースによる糖鎖付加)はがんや炎症と最も関係が深い糖鎖修飾として知られてきた1)。フコシル化は糖鎖の末端に結合するルイス型と,N型糖鎖の根元に結合するコアフコース型に大別される。特に後者の生合成にかかわるα1-6フコース転移酵素(fut8)のノックアウトマウスの研究から,コアフコースは増殖因子の受容体機能に重要であることがわかった2)。フコシル化の制御にはフコース転移酵素だけでなく,ドナー基質であるGDP-フコースも重要である。

 GDP-フコースの合成経路にはde novo経路とsalvage経路の二つの経路が存在するが,細胞内ではほとんどがde novo経路を介してGDP-フコースが合成されており,その経路ではGDP-マンノースから2種類の酵素(GMDS,FX)の働きによりGDP-フコースが合成される(図A)。合成されたGDP-フコースはGDP-フコーストランスポータの作用により糖転移反応の場であるゴルジ体内へ輸送される。がんにおいてフコシル化が増加するメカニズムとして,それぞれのフコシル化関連遺伝子の発現上昇が報告されている。しかし一方で,GDP-フコースの合成にかかわるGMDSの遺伝子異常によってフコースが欠損した場合,がん細胞は免疫監視機構から逃れ,極めて悪性度の高い形質を持つこともわかった3)。そのメカニズムとしては,フコースの欠損によりTRAILやFasを介した細胞死に抵抗性となり,NK細胞からの監視を逃れるという。こうした一見相反するフコシル化の生物学的機能こそが糖鎖生物学研究の魅力であり,複雑に絡んだ糸を解くような感覚に似ている。

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 Golgi phosphoprotein 3(以下GOLPH3,別名GOPP1;GPP34;MIDAS;FLJ90675とも呼ばれる)はゴルジ複合体に局在するタンパク質として同定された1)。GOLPH3のゴルジ体での正常な機能はphosphatidylinositol 4-kinases,phosphatidylinositol 4-phosphate(PtdIns4P)やPtdIns4P結合タンパクと協調的にゴルジ小胞形成やターゲティングを行っている。一方で,GOLPH3はゴルジ体のみならずエンドソームや細胞膜にも局在することが明らかとなっている2,3)

 Scott4)らは肺がん,卵巣がん,乳がん,前立腺がん,メラノーマの患者腫瘍組織における染色体増幅を検討した結果,高頻度に5p13領域の遺伝子増幅が認められることを見出した。この領域にコードされる遺伝子の発現を検討した結果,がん組織ではゴルジ装置タンパクであるGOLPH3が高発現しており,腫瘍化や細胞増殖に関与している新たながん原遺伝子であることを報告した。GOLPH3が高発現している腫瘍細胞でGOLPH3の発現をノックダウンすると腫瘍細胞の増殖が抑制された。一方で正常細胞にGOLPH3を強制発現すると形質転換して腫瘍化することを示した。そのメカニズムとしてGOLPH3はレトロマー複合体の構成タンパクであるVPS35と結合してmammalian target of rapamycin(mTOR)を介した増殖シグナルを異常活性化し,腫瘍細胞の増殖や生存を誘導していることが示された。

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 ●酸性オルガネラとは

 細胞・生物は数多くの複雑な生命反応を効率的に遂行するために,空間的なコンパートメント化,すなわち器官形成や細胞のオルガネラ(小器官)形成という巧妙な手段を用いる。各々のコンパートメントはその機能・役割にとって最適な環境やタンパク質・脂質成分を保持している。コンパートメント内腔のpHはその機能にとって重要な環境因子の一つであり,厳密に調節されている。例えば細胞質では中性付近に調節されている。一方,分泌経路やエンドサイトーシス経路に位置するゴルジ装置,分泌小胞,分泌顆粒,エンドソーム,リソソームなどのオルガネラはその内腔側がpH 4.5~6.5程度の弱酸性に保たれ,大まかにいってタンパク質の流れに沿ってより酸性側に傾くpH勾配を形成している1,2)。それがゆえに,これらは総称して酸性オルガネラと呼ばれる。

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 哺乳動物細胞の小胞体とゴルジ体間に,小胞体-ゴルジ体中間区画(ER-Golgi intermediate compartment;ERGIC)というオルガネラの存在が確認されてから20年以上が経過した。ERGICは小胞体から出芽した輸送小胞同士の膜融合や分裂が頻繁に起こる場所として,小胞小管クラスターとも呼ばれている。ERGICのマーカータンパク質としてⅠ型膜貫通タンパク質であるERGIC-53が知られている。ERGIC-53はカテプシンCやZ,血液凝固因子のⅤやⅧの受容体であり,ERとERGICの間をリサイクルしながら積荷タンパク質の輸送に関与している。このほかにもわれわれが同定したYip1AはRab6A依存的にゴルジ体から小胞体への逆行輸送を制御している。これらのマーカーを用いた蛍光抗体法による観察では,HeLa細胞のERGICは主に二つの形態として細胞内に分布している(図A)。一つは細胞質全体に分散している点状の細胞質型ERGIC(図A矢印),もう一つは核・中心体近傍に集団として存在する核近傍型ERGIC(図A矢じり)である。この2種類のERGICが構造的・機能的にどのように分化しているかは明らかになっていない。また,ERGICはERとゴルジ体間の輸送物質の動的平衡(主にソーティング)を制御している膜構造の集合体と考えられている1)。その制御に寄与しているキータンパク質がERGICに局在するコートタンパク質COPⅠであり,ERGICからゴルジ体への輸送小胞の出芽を促進させ,同時にERGICまで漏洩したER局在型タンパク質をCOPⅠ小胞に詰め込み,ERへと回収する実行役である(図B)。

 ERGICを定義するうえでERGICが動的なオルガネラか,あるいは静的なオルガネラかという大きな議論がある。前者はERGIC自身がERからゴルジ体へ積荷タンパク質を運ぶ輸送小胞であるというモデルであり,後者の場合,ERGICが安定なオルガネラとしてERとゴルジ体間に存在し,ER-ERGICまたはゴルジ体-ERGIC間は別の小胞輸送系で結ばれているというモデルである。前者は,GFP標識した温度感受性水疱性口内炎ウイルス由来のGタンパク質(GFP-VSVG-ts045)を可視化プローブとし,ERからゴルジ体へ向かうダンベル型ERGIC自身が微小管上をstop-and-goという輸送小胞特有の動きで進む動画をもとに提唱された。しかし,ウイルス由来の外来タンパク質(しかも積荷タンパク質)を過剰発現させた結果のアーティファクトではないかという意見が強い。これに対し,ERGIC-53の安定発現細胞株を用いた可視化解析により,細胞質型ERGICが一定の場所に安定して存在するということが示された2)。最近では,後者の静的モデルを支持する研究結果が優勢になっており,静的オルガネラであるERGICにあると推測される特別な機能にますます注目が集まってきている。

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 ●ADPリボシル化因子(Arf)のシグナル伝達機構

 ADPリボシル化因子(Arf)はRasファミリーに属する低分子量G蛋白質で,グアニンヌクレオチドの結合型に応じて細胞内の情報伝達を担う。そのシグナル伝達系の乱れはがんなどの疾患の原因になりうるため,活性化の制御機構は有望な抗がん分子標的とみられている。Arfは通常GDPと結合し不活性型として存在するが,グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)によってGDPが解離しGTPが結合することで,コンフォメーションが変化した活性化型となり,エフェクター分子と結合して下流へシグナルを伝達する(図1)。その後,GTPはArfのGTPase活性により水解され,Arfは不活性のGDP結合型に戻る。この一連のサイクルの律速段階はGEFによるGDP-GTP交換反応であることが知られている。

4.ミトコンドリア

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 ミトコンドリアは内膜と外膜からなる二重膜構造を持つ細胞小器官である。酸化的リン酸化によるATP合成をはじめ,脂肪酸合成・アポトーシス・Ca2+の貯蔵など重要な代謝や細胞内シグナリングに関与している1)。ミトコンドリアは電子顕微鏡観察の写真から,「ソラマメ」のような構造としてよく表現されている。しかし実際は細胞種や組織によってその形態は異なっており,細長く枝分かれした構造から小さく独立したものまで多様に変化している。哺乳動物培養細胞において,ミトコンドリアを蛍光タンパク質などで標識して光学顕微鏡下でタイムラプス観察を行うと,ミトコンドリアが分裂と融合を繰り返しながらダイナミックにその形態や分布をたえず変化させている姿を観ることができる。この分裂と融合のバランスによりミトコンドリアの形態は制御されることがわかっている。酵母やショウジョウバエの遺伝学的解析をきっかけにして,酵母から哺乳動物まで種を超えて保存されたミトコンドリアの融合と分裂にかかわるGTPase群が同定され,さらに生物種に特異的な因子群も同定されている。哺乳動物・酵母・高等植物におけるこれら因子群の解析により,近年ミトコンドリアの形態制御の分子メカニズムとその意義が明らかになりつつある。

 ミトコンドリアの融合にはMfn/Fzo1とOPA1/Mgm1の二つのGTPase群がそれぞれ哺乳動物と酵母で機能する1)。高等植物でもミトコンドリア融合は観察されるが,融合因子はこれまでに一つも同定されていない。Mfn/Fzo1はN末端のGTPaseドメイン,C末端のコイルドコイルドメインを細胞質に露出し,その間にある二つの膜貫通領域を介してミトコンドリア外膜に局在している。生化学的解析および立体構造解析から,二つのミトコンドリア上のそれぞれのMfn/Fzo1のコイルドコイルドメイン同士が融合反応に先だって結合すると考えられている。また,Mfn/Fzo1のGTP加水分解がこの結合を制御していることも明らかになっている。哺乳動物細胞ではMfn1とMfn2の二つのアイソフォームが発現しており,これらの機能分担について解析が進められつつある。

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 ●プロヒビチンの発見とそのファミリー

 プロヒビチン(prohibitin;PHB)は酵母から哺乳類まで真核生物に進化的に保存されたタンパク質で,当初,細胞増殖抑制因子として発見された1)。一次構造が近似するPHB1とPHB2のタンパク質が存在し,この二つは複合体を形成してミトコンドリア内膜に局在する。PHBは多機能性タンパク質であり,老化や炎症,肥満,がんなどの病態に関与する。PHB2はPHB1と別の作用も有し,エストロゲンレセプターの転写活性の抑制分子(別名REA:repressor of estrogen receptor activity)や形質細胞におけるB細胞のIgMへの結合分子(別名BAP37)としても知られる。PHBは細胞増殖抑制作用のほかに転写調節,姉妹染色体接合,細胞内シグナル,アポトーシス,ミトコンドリア生合成などの作用も報告されている。PHBの細胞内局在はミトコンドリアのほかに細胞種によって形質膜や核での局在が報告されており,このような細胞内局在がPHBの機能の多様性を生み出している。

ミトコンドリアDNAの多様性 田中 雅嗣
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 日本のミトコンドリアDNA(mtDNA)研究の先駆者は国立遺伝学研究所(総合研究大学院大学)の宝来聰教授である。宝来先生は三島市の産婦人科病院の協力のもとに120個体の胎盤を得て,それらをすり潰し,遠心法によってミトコンドリアを単離した。ミトコンドリア画分に混在している核DNAをDNaseによって分解した後に,ミトコンドリアからmtDNAを精製した。mtDNAを様々な制限酵素で処理し,その切断パターン(RFLP)を比較して系統解析を行った。PCRによる遺伝子増幅技術が導入される前であり,労苦を惜しまぬ研究成果であった。

 mtDNAの進化速度は核DNAと比較して約10倍速いため,個体間の多様性が高い。特にD-ループ領域の進化速度は他のコード領域と比較してさらに高い。このため,約500塩基のD-ループ領域の塩基配列を決定すれば法医学的な個体識別や人類学的な解析に用いることができ,多数の個体の解析が行われてきた。しかし,塩基置換が頻回に生じる領域(hypervariable region)では,ある塩基番号のシトシン(C)がチミン(T)に置換している場合に,人類の約17万年の歴史のなかで,C→Tが一度だけ生じたのか,C→T→C→Tのように3回生じたのかを推定することは困難である。また,ハプログループDとGのように系統的に近縁であると,D-ループ領域の塩基配列だけでは判別することは難しい。このため,塩基番号5178番がCであるかAであるか(m.5178C>A)を,PCRで増幅されたDNA断片が制限酵素AluIで切断されるかどうか(PCR-RFLP)によって判定し,ハプログループDを決定する必要がある。

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 ●ミトコンドリアDNAの母性遺伝

 ミトコンドリア(mt)は酸化的リン酸化によりATPを産生するエネルギー工場であり,すべての真核生物にとって必須な細胞内小器官である。このmtは約20億年前に現在の真核生物の祖である嫌気性真核生物に好気性細菌が共生して誕生したものと考えられており,独自のmtDNAを有している。mtDNAは性を持つ多くの真核生物において片親から子孫へと受け継がれていくことが知られている(片親遺伝)。この遺伝様式は母方つまり卵子由来のmtDNAが胚において残存し,父方由来の精子のmtDNAは消失することが多いことから母性遺伝とも呼ばれている。現在では,真性粘菌から線虫,ハエ,魚類,そして哺乳類においてもmtDNAは母性遺伝することが明らかとなってきている。

 これまでこの母性遺伝を説明するものとして希釈説と選択的分解説が提唱されてきている。希釈説とは,もともと卵子には母性mtとそのDNAが大量に存在するので,量的に少ない精子由来の父性mtDNAは母性mtDNAによって希釈され,そのうち消失するというものである1)。一方,選択的分解説では,受精後に父性mtDNAまたはmt自体が選択的に分解され,除去されるというものである2,3)。本稿では主に動物におけるmtDNAの母性遺伝に焦点を当て,最新の知見を紹介する。

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 ミトコンドリアは生体内で必須の役割を担っている細胞内小器官であり,主な役割だけでもTCA回路やβ酸化などの代謝系,細胞内のカルシウムや鉄濃度の調整,効率的なATP合成などが知られている。一方でパーキンソン病(Parkinson's disease;PD)は高い罹患率を示す神経変性疾患であるが,最近,少なくともその一部がミトコンドリア品質管理の破綻によって発症することが示された。つまり,家族性劣性若年性PDの原因遺伝子産物であるPINK1とParkinは協調して異常ミトコンドリアをユビキチン化することで異常ミトコンドリアを分解/あるいは隔離し,最終的に細胞内ミトコンドリアの健強性を維持することが報告されている。この過程において,マイトファジーといわれる選択的なオートファジーの関与が提唱されて注目されている。本稿では,「PDの発症にミトコンドリアが関与する」ことがどのように証明されてきたのか,研究の歴史を振り返ってみたい。

ミトコンドリア病の解明 後藤 雄一
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 ●ミトコンドリア病の病因の新展開

 ミトコンドリアに関する核遺伝子は1000近くあるとされており,すでに100近い核遺伝子の変異が患者で同定されている。次世代シークエンサーによる研究で,ミトコンドリア内の酵素自体,ミトコンドリアへの輸送にかかわるタンパク,さらにはミトコンドリアの品質管理にかかわるタンパク質の遺伝子などの変異がヒト患者で次々と同定されている1)

 複製や転写にかかわるタンパク質の異常は,mtDNAの多重欠失や欠乏(枯渇)状態を惹起する。一方,ミトコンドリア病で最も頻度の高いmtDNA変異である3243変異に代表される転移RNA領域の異常や1555変異(難聴)に代表されるリボソーム領域の異常は,結果としてmtDNA由来のタンパクの翻訳異常を引き起こす。転写産物から実際のタンパクを生成するこの翻訳過程についても多くの核由来因子がかかわっており,この翻訳過程の理解が必要になる。

ミトコンドリア病の治療 古賀 靖敏
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 ミトコンドリア病の根本治療はミトコンドリア機能障害を正常化することである。しかし,医学研究が進んだ今日においても,本症を治療適応として承認された薬剤は存在しない1)。現在,世界で開発中のミトコンドリア病の治療薬は数薬剤が存在するが,いまだ十分評価できるような結果は出ていない。ミトコンドリア病に対する専門家のオピニオンを基にした使用薬剤もしくは試薬をホームページに示す(久留米大学医学部小児科ホームページのミトコンドリア病パンフレット:http://www.ped-kurume.com/pdf/mitochondria.pdf)。しかし,そのエビデンスレベルはいずれもレベル4(expert opinion)と低く,治験を経たものは1剤もない。本稿では,現在,日本で開発中の治療薬2剤について紹介する。

高齢者とミトコンドリア 田中 雅嗣
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 ●ミトコンドリアDNA変異蓄積と老化

 ミトコンドリアは細胞内における活性酸素種の主要な発生源である。ミトコンドリアから発生した活性酸素種がミトコンドリアゲノムを攻撃し,変異を誘発する頻度は高い。筆者らは1989年に,体細胞におけるミトコンドリアDNA(mtDNA)変異の蓄積が老化に関与しているという仮説を提唱した1)。この仮説を検証するために,筆者らはパーキンソン病患者の線条体2)あるいは高齢者の心筋において定量的PCRを行い,欠失を有するmtDNAの割合が高いことを証明した。また,ミトコンドリア病患者[m.3243A>G変異(+)]の心筋においてmtDNAの点変異が二次的に多発していることを報告した3)

5.ペルオキシソーム

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 真核細胞においては細胞内小器官(オルガネラ)が細胞の機能発現の中心的役割を担っており,なかでもペルオキシソームは極長鎖脂肪酸のβ酸化,エーテルリン脂質や胆汁酸の生合成など,多岐にわたる代謝機能を有する。これらペルオキシソームの生理的機能は,一連の代謝経路を担う酵素群がペルオキシソームへ正確に輸送局在化されることにより保障される。ペルオキシソームはオルガネラの形成と障害機構および形態制御機構など,いわゆるプロテインキネシスの課題解明に適したモデルオルガネラとして研究の進展が著しい。本稿ではこれらの最新の成果を中心に解説する。

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 ペルオキシソームは1枚の膜小胞であり,膜の組成は小胞体(ER)とよく似ている。ミトコンドリアのように遺伝子は含まれておらず,カルジオリピンのような特徴的脂質も持っていない1)。ペルオキシソームの機能は,αおよびβ酸化による脂肪酸の代謝,エーテルリン脂質と胆汁酸の生合成,プリン,アミノ酸,ポリアミンなどの分解である。特に,極長鎖脂肪酸(VLFA)を代謝していることが注目される。X連鎖性副腎脳白質ジストロフィーはVLFAの代謝異常と関係するペルオキシソーム病である。また,ペルオキシソームは代謝で生じた活性酸素種(ROS)を消去する必要性から,カタラーゼ反応などが強い。ペルオキシソーム膜は分子量400 Da未満の化合物はよく透過するが,それ以上の大きな化合物は拡散しない。したがって,ペルオキシソーム膜タンパク質(PMP)としては,比較的低分子量の溶質を透過するチャネル,β酸化反応で用いる補酵素などを輸送するトランスポーター,そして,VLFAなどの化学的性質が複雑な化合物を輸送するための特異的なトランスポーターが必要になると考えられる。本稿ではPMPについて概説するとともに,ペルオキシソーム膜の透過性を特徴づけている3種のトランスポーターとして,PMP70(とその仲間ALDPとALDRP),PMP34,そしてPMP22について最近の成果を紹介する。

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 ●GPIアンカーの脂質構造と機能

 タンパク質の翻訳後修飾の一つにglycosylphosphatidylinositol(GPI)による修飾があり,GPIはタンパク質を細胞膜につなぎ止める役割をする。哺乳動物細胞においては,およそ150種類のGPIアンカー型タンパク質が知られている。哺乳動物細胞のGPIアンカー型タンパク質の多くはラフトと呼ばれる脂質マイクロドメインに濃縮されており,生体防御や細胞間の情報伝達,例えばT細胞の活性化やsrcファミリーキナーゼの活性化など様々な重要な役割を果たしている。GPIアンカーは小胞体でphosphatidylinositol(PI)から生合成される糖脂質であり,PIにグルコサミン残基とマンノース3残基が直線状にグリコシド結合し,非還元末端のマンノースに結合したエタノールアミンリン酸(EtNP)を介してタンパク質と結合した構造で,分泌経路によって細胞膜に輸送される(図参照)。細胞内のPIのほとんどはジアシル型であるが,細胞表面のGPIアンカー型タンパク質のPI部分の多くはアルキルアシル型である。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に発現させたヒトCD59では,GPIアンカーの90%程度がアルキルアシル型のPIであり,残り10%程度がジアシル型のPIを持っている。

 GPIアンカーの脂質部分の構造はその機能にとって重要であると考えられている。例えば,GPIアンカー生合成の初期にイノシトール環に付加されるパルミチン酸はアンカーへのタンパク質の転移直後に通常除去されるが,脱アシル基酵素であるPGAP1を欠損してそのまま除去されないとマウスの形態形成に大きく影響し,耳頭症により多くは胎生致死となる1)。また,PIのSn2位の不飽和脂肪酸はゴルジ体においてステアリン酸に変換され,Sn1,Sn2位ともに飽和型になる(脂肪鎖リモデリング)。この変換はPGAP3によって起こるが,この遺伝子を欠損するとGPIアンカー型タンパク質はラフトに集積しない2)。これらのことから,GPIアンカーの脂質部分がアルキルアシル型であることも,その機能に重要であることが考えられる。しかしながら,GPIアンカーの構造の変化についてはまだ解明されていない部分が多く,そのメカニズムも十分に解明されていない。

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 ペルオキシソームは1950年代ベルギーの生化学者Christian de Duveによってリソソームとともに発見されたオルガネラである。真核細胞に普遍的に存在し,単膜によって囲まれ,大きさは直径が0.1-0.8μmの球形であることが多いが,細胞によっては亜鈴形なども認められる。ペルオキシソームタンパクはサイトゾルのポリリボソームで合成され,ペルオキシソームへ輸送される。ペルオキシソームという名称は,マーカー酵素としてよく知られるカタラーゼや尿酸オキシダーゼなどに代表されるように,有毒な過酸化物を分解し,また,基質を分子状酸素で酸化する酵素活性に富むことから与えられた。

 生理的には脂肪酸や胆汁酸,コレステロール,プラスマローゲンなどの脂質代謝や,アミノ酸代謝で重要な働きを担う。なかでも教科書で真っ先に取り上げられていて周知されているのは極長鎖脂肪酸のβ酸化であろう。高脂肪食や高脂血症治療薬(脂質低下薬)を与えられた肝臓のペルオキシソームでは,C20-C22という炭素数の多い脂肪酸をβ酸化でC8程度の脂肪酸にまで分解する。ミトコンドリアのβ酸化と異なり,還元力を酸素と反応させてH2O2を生成するのでATP産生には寄与しない異化経路である。

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 ●ペルオキシソーム形成異常症

 ペルオキシソームは真核細胞に広く存在する直径0.1-1μmの細胞内小器官で,極長鎖脂肪酸のβ-酸化,エーテルリン脂質の合成,胆汁酸の生合成など多岐にわたる代謝反応を担っている。通常の細胞では数百から数千個のペルオキシソームが一つの細胞に存在する。生体におけるペルオキシソームの重要性は,Zellweger症候群の原因遺伝子がペルオキシソーム形成にかかわる遺伝子PEX2であることが,世界に先駆けてわが国で同定されたことによって明らかになった1)

 Zellweger症候群はペルオキシソーム形成異常症の最も重篤な臨床型の一種で,新生児期からの筋緊張低下,顔貌異常,肝腫大,精神運動発達遅滞などの臨床症状を示し,ほとんどが乳児期早期(数週から1年未満)に死亡する。ペルオキシソーム形成異常症はその名のとおり,患者由来線維芽細胞における組織学的臨床所見によりペルオキシソームの形態異常,またはペルオキシソームの完全な消失が見られる疾患の総称である。ペルオキシソーム形成異常症においては,ペルオキシソーム機能不全により様々な代謝異常が引き起こされると考えられ,実際に,Zellweger症候群患者ではエーテルリン脂質であるプラスマローゲンの減少,極長鎖脂肪酸の増加,胆汁酸中間代謝産物の増加などの臨床生化学的な異常がみられる。このような生化学的な異常がZellweger症候群の発症機序とどのようにリンクしているかについてはほとんど明らかになっておらず,モデル生物を用いた解析による病態発症メカニズムの解明が期待される。

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 ペルオキシソーム形成には少なくともPex3pとPex19pの二つのペルオキシソーム形成因子が関与している。これらのうち一つが欠けるとペルオキシソームは無論のこと,ペルオキシソーム様の膜構造体も消失してしまう1)。したがって,Pex3pとPex19pの相互作用の仕組みを解明することは,ペルオキシソーム形成を理解するうえで大きな意義を持つ。最近,膜結合性タンパク質であるヒト由来のPex3pの可溶性部位とPex19pのPex3p結合領域ペプチドの複合体の結晶構造が二つのグループから報告された2,3)。特に佐藤らは,明らかになった三次元構造から推定された機能発現に重要なアミノ酸残基を改変することにより,その機能を分子間相互作用に対する影響と細胞におけるペルオキシソーム形成に対する影響を調べ,Pex3pとPex19pの立体構造が大丈夫でも,Pex3pとPex19pの結合を低下させることがペルオキシソーム形成を消失させることを明確にした3)。本稿では,決定されたPex3pとPex19pの三次元構造と原子レベルで明らかとなった相互作用の仕組みについて紹介する。

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 ●ペルオキシソームの生理機能とその生合成異常による疾患

 真核生物の細胞内には膜で仕切られたオルガネラ構造が形成され,そこに特定のタンパク質が局在化することにより,高度な空間的秩序に基づく生命活動が実現している。ペルオキシソームは極長鎖脂肪酸のβ-酸化,プラスマローゲンの生合成など多岐にわたる機能を有するオルガネラである。ヒトにおいてその形成障害はペルオキシソーム病と呼ばれる先天性代謝異常疾患を呈し,Zellweger症候群に代表されるように重篤な場合は生後間もなく死に至る。

6.ファゴソーム

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 ●オートファジーのダイナミクス

 オートファジーは細胞質成分をリソソームに輸送し分解する細胞内分解系である。オートファジー(autophagy)という名前は,ギリシア語の「自己(auto)+食べる(phagy)」を語源としてChristian de Duveが1963年に名付けた1)。これまでにオートファジーの種類として,マクロオートファジー,ミクロオートファジー,シャペロン介在性オートファジーの3種類が報告されている2)。マクロオートファジーは小胞を押しつぶしたような形状の隔離膜が細胞質中に出現することにより始まる(図)。隔離膜は細胞質成分を取り囲みながら伸張し,その先端が融合することで直径約1μmの二重膜のオートファゴソームとなる。その後リソソームと融合し,内容物は分解され,一重膜のオートリソソームとなる。分解産物は再利用される。ミクロオートファジーはリソソームの膜自体の陥入により細胞質成分を直接取り込む。シャペロン介在性オートファジーは基質タンパク質をリソソーム内へ直接透過させる。

 最も大規模な分解経路であるマクロオートファジーの分子機構に関しては,酵母を用いた解析からこれまでに30種類以上のオートファジー関連分子(Atg分子)が同定されており,哺乳類でも多くは保存されている。これらは機能的な役割からAtg1/ULK1複合体,クラスⅢPI3キナーゼ複合体,Atg9,Atg2-18複合体,Atg12-Atg5結合体,Atg8/LC3-PE結合体などに分類される。これらの分子機能の詳細に関しては他稿に譲り,本稿では哺乳類のマクロオートファジー(以下,オートファジーと呼ぶ)の制御機構および生理機能について概説する。

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 オートファジー(マクロオートファジー)は,酵母から哺乳類まで広く保存されている細胞内メンブレントラフィックの一形態で,細胞が自分の細胞質の一部を「食べる」現象である。オートファジーが細胞内で開始されるときには,隔離膜(またはファゴフォア)と呼ばれる扁平な小胞が細胞質内に現れる。現れた隔離膜は細胞質の一部を包み込むように伸長していき,そして閉じる。隔離膜が閉じたものはオートファゴソームと呼ばれ,典型的には直径0.5-1.5μmの二重膜小胞である。その後,オートファゴソームの外膜がリソソームと融合する。結果として,オートファゴソームの中身の細胞質成分がリソソーム内腔に放出され,リソソーム内の加水分解酵素で分解される。定常状態においてもオートファジーは少しずつ起こっているが,特に細胞が飢餓状態にさらされたときにオートファジーが顕著に誘導されることが知られている。飢餓時には外界からのアミノ酸供給が絶たれてしまうが,細胞は新たなタンパク質合成を止めるわけにはいかないので,オートファジーによって自分の細胞質タンパク質をアミノ酸にまで分解し,新たなタンパク質合成のために使っていると考えられる1)

 タンパク質分解といえば,オートファジーとは別の系であるユビキチン-プロテアソーム系もよく知られている。ユビキチン-プロテアソーム系においては,E3ユビキチンリガーゼがそれぞれの基質タンパク質を特異的に認識してユビキチン鎖を付加する。これが標識となって,基質タンパク質はプロテアソームに補足され分解される。このように,ユビキチン-プロテアソーム系はタンパク質をピンポイントで狙って分解するのに適した系である。

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 ●スフィンゴ脂質の生理機能

 スフィンゴ脂質は酵母から哺乳類まで真核生物に保存された脂質分子であり,グリセロリン脂質,コレステロールと並んで細胞膜の主要構成脂質の一つである。スフィンゴ脂質には他の脂質では代替できない特異的な機能があり,スフィンゴ脂質生合成遺伝子の欠損体はこれまで作製されたどの生物でも致死となる。スフィンゴ脂質の疎水性の骨格はセラミドであり,極性基として哺乳類ではホスホコリンまたは糖鎖が付加され,それぞれスフィンゴミエリン,スフィンゴ糖脂質となる。哺乳類には数百種類にも及ぶスフィンゴ糖脂質が存在している。また,スフィンゴ脂質の代謝産物の一つにスフィンゴシン1-リン酸(S1P)があり,脂質メディエーターとして機能する1)。特に免疫系でのS1Pの機能を利用したフィンゴリモドは,昨年多発性硬化症の治療薬として認可され,注目を集めている。

 スフィンゴ脂質の代謝異常が原因となる疾患として,ニーマンピック病を始めとした30を超えるスフィンゴリピドーシスが知られている。スフィンゴ脂質の生理機能は,皮膚バリア機能(セラミド),インスリン抵抗性(スフィンゴ糖脂質GM3),免疫(S1P),血管形成(S1P),ウイルス/バクテリア毒素認識(スフィンゴ糖脂質),ミエリン形成(スフィンゴ糖脂質サルファチド)を含め,多岐にわたる。このように,スフィンゴ脂質の生理機能や病態への関与に対する知見は多いが,細胞/分子レベルでの役割にはいまだ不明な点が多く残されている。本稿では最近われわれが見出したスフィンゴ脂質のオートファジーやエンドソームを介した小胞輸送関与について紹介する。

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 ●オートファジーとホスファチジルイノシトール3-キナーゼ

 オートファジーの進行には脂質をリン酸化する反応が必須である。その反応とは,クラスⅢのホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PtdIns 3-kinase)であるVps34がホスファチジルイノシトールをリン酸化し,ホスファチジルイノシトール3-リン酸(PtdIns(3)P)を産生する反応である。出芽酵母のVPS34欠損株ではオートファジー活性が失われる。また,後述するPtdIns 3-kinase複合体のサブユニットをノックダウンやノックアウトした哺乳類細胞ではオートファジーが抑制される。つまり,オートファジーにおけるPtdIns 3-kianseの必要性は出芽酵母も哺乳類も同様である。

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 オートファジーはオートファゴソームの形成・成熟によって細胞内の物質をリソソームに輸送し,分解する細胞内分解系であり,様々な要因によって誘導される。オートファゴソーム形成に必須な因子群(Atgタンパク質群)は酵母遺伝学を用いて同定されたが,真核生物にもよく保存されている。現在,Atgタンパク質群は機能的に次の六つに分類されている。① ULK1-FIP200-Atg101-Atg13複合体,② Atg9,③ ホスファチジルイノシトール(PI)3キナーゼ複合体,④ Atg2-Atg18複合体,⑤ Atg12-5/16L1複合体,⑥ ユビキチン様タンパク質であるAtg12,LC3の修飾反応系である1)。本稿では哺乳動物におけるAtg12-5/16L1複合体の機能に焦点を当て,最近明らかになった知見を交えて概説する。

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 ●ユビキチン化タンパク質の分解機構

 これまでポリユビキチン鎖は不要タンパク質をプロテアソームへ運んで分解するためのタグとして機能していると考えられてきた。通常,ポリユビキチン鎖を付加されたユビキチン化タンパク質はプロテアソームへ運ばれ,直鎖状のポリペプチドにされてから分解される。そのためプロテアソームは強固に結合した凝集タンパク質は直接分解することができない。そのようなユビキチン化タンパク質を分解するためには,マクロオートファジーシステムが使われる1,2)。マクロオートファジーは細胞質にあるタンパク質やオルガネラを非選択的にオートファゴソームで包み込み,リソソームと融合して取り込んだタンパク質を分解するシステムである。これに対し,基質選択性をもって分解すべきものをオートファゴソームに取り込んで分解する過程を「選択的オートファジー」と呼ぶ。凝集タンパク質や損傷ミトコンドリア,ペルオキシソーム,小胞体などのオルガネラ,感染バクテリアなどはこの選択的オートファジーシステムによって分解されることが知られている2,3)

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 オートファジーによる細胞内物質の分解は,オートファゴソームの形成と成熟という大きく二つの過程からなる。オートファゴソームの形成によって隔離された細胞質成分はそのままでは再利用することができず,成熟過程でオートファゴソームがリソソームと融合し,その内容物を消化することによって初めて細胞にアミノ酸などを供給することが可能となる。このため,オートファゴソームの成熟はオートファジーにおいて非常に重要である。成熟過程を詳しく見ると,形成されたオートファゴソームがエンドソームと融合し,アンフィソームと呼ばれる内部に小胞を含む構造物を形成し,その後,リソソームと融合することでオートリソソームと呼ばれる構造を経て,最終的にはリソソームと同等の構造物に戻る。

 リソソームは通常の膜輸送(ここではオートファジーではないという意)の機構により他のオルガネラ,主に後期エンドソームからの物質の輸送を常に受けており,運ばれてきたタンパク質や脂質などの分解を行っている。その過程を制御するメカニズムに関しては,例えばEGF受容体などの分解といったいわゆる「エンドサイトーシス経路」の解析から詳しく明らかにされてきており,SNARE,Rabといった様々な膜輸送を制御する因子が同定されている。オートファゴソームというオルガネラは特殊な形成過程を経るため,リソソームとの融合に既存の膜融合機構を利用しているのか,それとも特異的な融合機構を持ち合わせているのかが長らく論議されてきた。近年,エンドソーム機能を担うタンパク質群やエンドソーム-リソソーム融合機構を担うタンパク質群が,オートファゴソーム-リソソームの融合にも寄与することが明らかになり始め,エンドソーム-リソソーム融合機構と,オートファゴソーム-リソソーム融合機構は多くの部分でそのメカニズムを共有すると考えられている1)。本稿では,近年少しずつ明らかになってきたオートファゴソームの成熟機構のなかでも,哺乳動物のオートファゴソーム-リソソーム間の融合に働く分子メカニズムについて最近の知見を紹介する。

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 ●Coroninファミリー遺伝子とCoronin-1aの構造

 Coronin-1aはCoroninファミリー遺伝子に属するアクチン結合性タンパク質である1)。Coroninファミリー遺伝子は酵母から哺乳類まで多くの真核生物に保存されている。Coroninは粘菌のアクチン/ミオシン複合体に結合するタンパク質として単離されて,粘菌細胞の王冠状突起に局在することからCoroninと命名された。Coroninはアクチンの枝分かれ構造に機能するArp2/3複合体と結合することによって,Arp2/3のアクチン繊維からの離脱を制御している。粘菌や酵母ではCoroninは1遺伝子しか存在しないが,ヒトやマウスでは7遺伝子存在する。

 結晶構造解析2)などによってCoronin-1aの立体構造は明らかになっている。N末端側は7枚のβプロペラによって構成されている。これらのβプロペラは五つのWDリピートと,その後に続く二つのβシート構造から形成されている。C末端側はコイルドコイル構造によって構成されている。このコイルドコイル構造によってCoronin-1aは三量体を形成している。さらに,C末端側でアクチン繊維と結合する。

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 ●損傷ミトコンドリアと品質管理の概念

 ミトコンドリアは酸化的リン酸化反応により細胞内の大部分のエネルギーを創り出す一方,副産物である酸化ストレスにさらされている細胞内小器官である。近年「ミトコンドリアの品質管理」という概念が提唱され,ミトコンドリア機能維持システムの破綻はエネルギーや代謝物の不足だけでなく,ミトコンドリア障害が発生源である酸化ストレスを増悪させる。このことは様々な疾患の発症原因になり,代表的な神経変性疾患の一つであるパーキンソン病はミトコンドリアの機能不全と酸化ストレス増悪が神経細胞死の一因と考えられている。

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 ●Mieapの発見

 がん抑制遺伝子p53の新規標的遺伝子の同定の目的で,マイクロアレイを用いた網羅的なp53誘導性遺伝子のスクリーニングを行ったところ,機能未知の新規p53標的遺伝子としてMieapを発見した1)。Mieapの転写はp53によって直接活性化され,発現誘導される。興味深いことに,Mieapは様々ながん細胞株において高頻度にプロモーターのメチル化によって不活性化されていた1)

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 ペルオキシソームの発達・分解サイクルは細胞の代謝活動の変化と密接に関連する。というのも本オルガネラ内酵素の多くが代謝変化に伴いその発現量を増減させるため,酵素反応の場となるオルガネラ自身の量も増減するからである。ペルオキシソームの持つこの大きなダイナミックレンジは種を越えて保存されており,その分子メカニズムの解析に関しては,ペルオキシソーム合成・分解制御の容易さから,メタノールを炭素源として生育できるメタノール資化性酵母を対象とする研究が哺乳類細胞を用いた研究などと並行して進められてきた。本稿では,メタノール資化性酵母や植物病原性菌において明らかとなってきたペルオキシソーム選択的オートファジー(ペキソファジー)の分子機構や生理学的意義を,哺乳類細胞研究で得られた知見と照らし合わせて紹介したい。

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 ●膵腺房細胞とオートファジー

 膵臓は外分泌機能と内分泌機能が混合した臓器であるが,トリプシノーゲンを含む様々な消化酵素前駆体を合成,分泌する外分泌機能を担うのが膵腺房細胞であり,膵臓の体積の95%を占めている。

 最もよく知られているオートファジーの機能は飢餓適応であるが,膵腺房細胞においても飢餓に伴いオートファジーが誘導され,消化酵素前駆体を含むザイモジェン顆粒が減少することが確認されている1)。定常時の細胞内代謝回転における低いレベルのオートファジーが肝細胞や神経細胞で着目されている2)。肝臓特異的にオートファジーをノックアウトしたマウスにおいて,ユビキチン陽性の細胞内凝集体が肝細胞内に形成されることが報告されているが2),膵腺房細胞で特異的にオートファジーを欠損させた場合,オートファジーの特異的基質として知られているp62蛋白の蓄積2)はみられるものの異常蛋白の蓄積などはみられず,明らかな異常は確認されないことから3),臓器または細胞の違いによって定常的なオートファジーの重要性は異なり,それが何に起因しているのか興味深い。

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 ●神経性セロイドリポフスチン蓄積症

 進行性ミオクロニーてんかんの一種である神経性セロイドリポフスチン蓄積症(neuronal ceroid-lipofuscinosis;NCL,Batten Disease)は,神経細胞を中心にセロイドリポフスチンを含むリソソームが蓄積する常染色体劣性遺伝の神経変性疾患である。われわれは,代表的なリソソームアスパラギン酸プロテアーゼとして知られるカテプシンD(CD)を欠損するマウス(CD-/-マウス)がてんかん様のけいれん発作を起こし,盲目となり,生後26日で死に至ること,病理組織学的には神経細胞体に自家蛍光陽性のリポフスチン顆粒が充満し,その内部にミトコンドリア内膜のATP合成酵素のサブユニットcが蓄積することを明らかにした。これらはいずれもNCLの特徴であるため,同マウスがNCLの新規モデルマウスであることを報告した1)。その後,CDを欠損あるいはCDの活性を持たないヒトの症例が報告され,CDはNCLの原因遺伝子(CLN)の一つ(CLN10)として認められた2)

7.リソソーム

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 ●p18とmTORC1経路

 p18(公称LAMTOR1)は膜ミクロドメインに局在する分子量18 kDaの膜アダプター様蛋白質である1)。N末端に付加されたミリスチン酸およびパルミチン酸を介して膜にアンカーし,N末端近傍のdiLeuモチーフを介して後期エンドソームおよび成熟したリソソームに特異的に局在化する。元来,Srcによってリン酸化される蛋白質として同定された分子であるが,保存された機能ドメインやモチーフを持たないことなどから,フレキシブルな構造をとるスカフォールド蛋白質として機能すると考えられている。特異的な相互作用分子として,MP1/p14というMAPK経路のMEK1のスカフォールド蛋白複合体2),およびmTORC1をリソソームにリクルートして活性化するために必須のGTP結合蛋白質RagA/Cが同定されている3)。これらのことから,p18がMAPK経路およびmTORC1経路を後期エンドソーム/リソソームにリクルートするための必須の足場蛋白質として機能することが明らかとなっている。

 MAPK経路は細胞の増殖シグナルの伝達で重要な役割を担い,一方のmTORC1経路は蛋白質や脂質など細胞素材の合成を誘導することにより細胞の成長,生存,オートファジーなどを制御する根幹的なシグナル経路として知られている(図1)。p18の構造的なホモログは酵母にも存在し,酵母のTOR経路をリソソーム様オルガネラ(バキュオール)に局在化して機能することも報告されていることから,p18による制御が真核生物の進化の過程で極めて重要な意義を持つことが示唆されている4)。では,こうした重要な経路がなぜ後期エンドソームやリソソームに特異的に局在化する必要があるのであろうか。われわれはその疑問に答えるべくp18複合体の後期エンドソームやリソソームにおける機能解析を進めている。本稿ではその概要を紹介する。

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 ●リソソーム-オートファジー系

 細胞内の蛋白質などは老化やストレスなどにより機能不全に陥ると,それ自体が細胞障害を惹起するので浄化される機能が備わっている。細胞内蛋白浄化機構として,リソソーム-オートファジー系とユビキチン-プロテアソーム系が重要とされている。前者は非選択的分解系,後者は選択的分解系であり各種状態により大きく変動する。リソソーム-オートファジー系は隔離膜という小さな小胞が伸張し,細胞質の一部を取り囲みオートファゴソームと呼ばれる二重膜構造体が形成される。その後リソソームと融合することにより,リソソーム内の蛋白分解酵素によりオートファゴソームに取り囲まれた細胞質成分がアミノ酸などの細胞単体レベルまで分解される。一般にオートファジーはマクロ,ミクロ,シャペロン介在性の3種類の異なる過程が含まれるが,本稿ではオートファジーをマクロオートファジーという意味で用いる。

 このリソソーム-オートファジー系は古くは誘導的オートファジーと呼ばれ,飢餓時に活性化されリソソームによる分解産物であるアミノ酸を供給するシステムと考えられていたが,最近はどのような細胞においても低いレベルで恒常的に起こっている恒常的オートファジーも重要視されだしている。この恒常的オートファジーは継続的にアミノ酸を供給するためではなく,細胞内構成成分の細胞内浄化に重要と考えられている。実際,オートファゴソームは蛋白質だけでなくミトコンドリアなどのオルガネラも囲い込み分解することより,機能不全を呈した分子の浄化作用に重要と思われる。

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 われわれの体を構成する細胞は恒常性の維持や細胞外からの刺激に応答するため,様々な受容体タンパク質を細胞膜に発現させている。これらの受容体は恒常的に細胞膜に存在するわけではなく,リガンドの結合により活性化するとエンドサイトーシスされ,細胞内に輸送される。エンドサイトーシスされた受容体のその後の運命であるが,これまで主に二つの輸送経路の存在が知られている。一つは初期エンドソーム(EE),後期エンドソーム(LE)を通って最終的にリソソームへと運び分解する“エンドサイトーシス経路”,そしてもう一つがEE,リサイクリングエンドソーム(RE)を通って再び細胞膜へと戻し,再利用する“リサイクリング経路”である(図)。

 では,リサイクリング経路をたどる受容体はいつまでも再利用され続けるのだろうか。例えば,エンドサイトーシスされた受容体はエンドソーム内の酸性pHによりダメージを受けると予想される。このようなダメージを受けた分子をいつまでも再利用し続けることは非効率的で,恒常性の維持という観点からも考えにくい。つまり,リサイクリング経路をたどる受容体にも他の細胞内分子と同様に品質管理(産生と分解)機構が存在すると考えられる。しかしながら,リサイクリング経路をたどる受容体の分解に関する知見はこれまでほとんどなかった。

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 ●細胞膜タンパク質の分解;ユビキチン化-リソソーム分解経路

 生体内のタンパク質はたえず合成,分解を繰返し,動的に制御されている。その分解過程は分解を担うプロテアーゼの種類の違いや,また,それらが機能する細胞内小器官へ基質が到達するまでの系の違いなどにより分解経路として体系的に分類できる。細胞膜タンパク質に限っては,① カルパインによる分解経路,② ユビキチン(Ub)化をシグナルに開始されプロテアソームにより分解を受ける経路,③ 同じくUb化が引き金となりendosomal sorting complex required for transport(ESCRT)系を経てリソソームにて分解を受ける経路の三つの分解経路が挙げられる。本稿では,なかでも③の分解経路をUb化-リソソーム分解経路と称し,これを紹介したいと思う。

 リソソームは1950年代半ばと比較的早い時期に同定されたものの,どのようにして分解されるべきタンパク質のみが選別されリソソームへと輸送されるのか,という疑問が長い間研究者の頭を悩ませていた。これに一つの明確な解答を与えたのがUb化-リソソーム分解経路の発見であり,今世紀幕開けにかけてのことである1)。本経路において細胞膜タンパク質はUb化を皮切りに内在化し,ESCRT系によって認識され,同系を経る過程で形成されるmulti-vesicular body(MVB)に取り込まれた後,MVBがリソソームに融合することで最終的にリソソーム内のプロテアーゼにより分解を受ける。このスキーム中で一点留意してほしいのがUb化と内在化の順序である。最もよく研究されているepidermal growth factor receptor(EGFR)などを除き,多くの場合どこでUb化を受けているのかは明らかとなっていない。そのため可能性は示されているものの,細胞膜上でUb化を受けた後に内在化するというスキームの普遍性については議論が続いている。しかしながら,ESCRT系が基質のUb化部位を認識し,これを皮切りに進行するという点は多くのエビデンスによって支えられており,本経路におけるUb化の重要性は明確である。

8.膜小胞と封入体

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 筆者は,出芽酵母Vps4のマウスホモログであるAAA(ATP associated with diverse cellular activities)型ATPase・SKD1の機能解析を大学院のときから行ってきている。もともとSKD1は,カリウム輸送に異常のある酵母変異体の増殖阻害を抑圧するマウス遺伝子として同定された。本稿では筆者の研究も含め,これまでのSKD1/Vps4の機能解析を紹介し,さらに今後の展望を述べる。

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 細胞表面の増殖因子受容体やイオンチャネルなどの膜蛋白質は恒常的に細胞表面に存在しているわけではなく,必要に応じてエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる。これら膜蛋白質は細胞内膜輸送系を介してエンドソームに到達した後,様々な選別を受けている。例えば,鉄イオンを細胞内に取り込むトランスフェリン受容体,脂質を取り込むLDL受容体は細胞内で捕捉したリガンドを放出した後,リサイクリングエンドソームによって再び細胞表面へと輸送される。一方,細胞内にシグナルを伝える増殖因子受容体は恒常的なシグナル伝達を抑えるために,一定期間細胞表面で機能した後,細胞内消化の場であるリソソームへと輸送され分解される運命をたどる。

 このリソソームへの膜蛋白質の輸送の過程で,標的膜蛋白質は膜とともにエンドソーム内側へと貫入・出芽し内腔小胞として分離される。このようなリソソームへの蛋白質輸送の過程でみられる内腔小胞を含有するエンドソームをMVB(multivesicular bodies;多胞体)・後期エンドソームと呼ぶ。MVB小胞形成を介した膜蛋白質輸送システムは膜受容体分子の分解過程だけでなく,リソソームで作用する加水分解酵素の輸送・活性化にも用いられている。この加水分解酵素の前駆体はゴルジ輸送経路で糖鎖修飾を受けた後,エンドソームに蓄積され選別を受け,増殖因子受容体と同様にMVB小胞形成よって膜から分離され,リソソーム内でプロセッシングされることにより成熟し活性化される。

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 ●封入体形成とオートファジー

 封入体はアルツハイマー病やパーキンソン病を始めとした神経変性疾患,アルコール性肝炎やα1アンチトリプシン欠損症などの肝疾患,さらには肝細胞がんや神経膠腫などの悪性腫瘍の病変部位において確認されるタンパク質の凝集体である1)。封入体は病理切片においては異染色領域として認められ,一部の例外を除いてユビキチン化タンパク質を含んでいることから,その形成にはユビキチン-プロテアソーム分解系の異常が示唆されてきた。事実,プロテアソーム活性を阻害した細胞やプロテアソームのサブユニットを欠損した神経細胞において,ユビキチン陽性の封入体が観察される1)

 一方,別の分解系であるオートファジーの活性を欠く細胞や組織においてもユビキチン陽性の封入体が形成される2)。オートファジーは細胞質の一部をオートファゴソームと呼ばれる二重膜構造体が隔離し,オートファゴソームがリソソームと融合することにより執行されるバルクな細胞内分解機構である。オートファジーの不全は,細胞質タンパク質や細胞小器官の新陳代謝の障害やプロテアソームで分解されるべきタンパク質の分解障害を引き起こす2)。これらの影響はミスフォールドやアンフォールドしたタンパク質の蓄積が伴うため,オートファジー不全組織における封入体形成を部分的には説明可能である。しかし,ユビキチン結合タンパク質p62/A170/SQSTM1(以下p62)が選択的にオートファジーにより分解されることが判明し,p62代謝不全によるユビキチン陽性封入体形成が明らかになった。

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 ●神経変性疾患におけるユビキチン陽性細胞内封入体

 アルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)などに代表される多くの神経変性疾患では,患者脳の神経細胞内に疾患特異的な封入体が観察される。例えば,ADでは神経原線維変化,PDではレビー小体と呼ばれる細胞内封入体が変性神経細胞内に認められ,前者ではタウ,後者ではαシヌクレインがそれらの異常構造物の主要な構成タンパク質であることが知られている。これらの構造物は多くの場合,リン酸化およびユビキチン化といった翻訳後修飾を受け,かつ高度に不溶化した線維状構造物である。これらの細胞内封入体が出現する部位では神経脱落が顕著に観察されることから,封入体あるいはその前段階の構造物と考えられるオリゴマーの細胞毒性により神経細胞死が誘導され,最終的に発症に至るのではないかと考えられている。

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 ●Microscopic globular bodyとは

 Microscopic globular body(MGB)はヒト正常脳に認められる好酸性円形小体(eosinophilic globular body)として,わが国の原によって1981年に報告された構造物である1)。光学顕微鏡下ではヘマトキシリン-エオジン染色で好酸性,均一に染まる径約1-10μmの球形の構造物であり,加齢とともに大きさは増大する(図)2)。大脳灰白質に分布するが,特に前頭・側頭葉皮質,海馬に多い。この小体はgranular osmiophilic body,dense microsphere,spheronとも呼ばれる。

 ヒトでは1歳から99歳まで幅広い年齢層に認められる。ヒト正常対照脳(側頭葉新皮質)における定量的検討では,MGBの密度は20歳から69歳まではほぼ一定の値を示し,70歳以上では有意に低下する3)。この点で加齢とともに増加する構造物,例えば海馬に出現する平野小体,顆粒空胞変性などとは趣を異にする。

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 ●レビー小体

 元来,レビー小体はパーキンソン病(PD)に特徴的な細胞封入体で,中脳黒質緻密帯や青斑に観察される。その大きさは様々であるが,いずれもエオジンに赤く染まる均一な構造物で,明瞭なhaloを有している。レビー小体の主成分はαシヌクレインで,アミノ酸残基140,遺伝子座4q21-22の蛋白とされる。このレビー小体がPDとは異なって大脳皮質にびまん性に出現し,認知症を呈したものがレビー小体型認知症(DLB;dementia with Lewy bodies)である。その特徴は臨床診断基準1)に記載されているが,αシヌクレインやレビー小体の成因や病態はいまだ明らかでない。当施設でDLB患者の血液,尿を用いてテロメア長および8-OHdG(8-hydroxy-deoxyguanosine)(核酸の酸化ストレス傷害を示唆するマーカー)の測定を行ったところ,DLBでは白血球テロメア長の短縮,尿中8-OHdGの増加が観察された2)

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 ●封入体筋炎とは

 封入体筋炎は多発筋炎,皮膚筋炎と同じく骨格筋の炎症性疾患に分類される1)。50歳以降に発症し,緩徐進行性で,典型的な例では手指筋と大腿四頭筋の選択的かつ著明な萎縮を示す。その発症には自己免疫学的機序が推定されているが,副腎皮質ステロイドなどによる治療に対する反応性が低いことが知られている。確定診断は筋生検で行われ,組織では多発筋炎と同様,筋線維周囲に細胞傷害性T細胞を中心とした炎症細胞浸潤像が見られる。加えて,縁取り空胞と呼ばれるヘマトキシリン-エオジン染色で青色すなわち好塩基性の物質により縁取りされた空胞が筋細胞質に存在する。好塩基性物質は空胞内に顆粒状に認められることもある。電子顕微鏡ではしばしば細胞質,ときに核にフィラメント構造の封入体が見られ,このことにより封入体筋炎の名称が与えられている。しかし,組織学的にはむしろ縁取り空胞が目立つ。本疾患は欧米では有病率が高く,治療抵抗性であることと合わせ,病態解明から治療に至る道が模索されている。

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索引

財団だより

次号予告

基本情報

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生体の科学
63巻5号 (2012年10月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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