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●GPIアンカーの脂質構造と機能
タンパク質の翻訳後修飾の一つにglycosylphosphatidylinositol(GPI)による修飾があり,GPIはタンパク質を細胞膜につなぎ止める役割をする。哺乳動物細胞においては,およそ150種類のGPIアンカー型タンパク質が知られている。哺乳動物細胞のGPIアンカー型タンパク質の多くはラフトと呼ばれる脂質マイクロドメインに濃縮されており,生体防御や細胞間の情報伝達,例えばT細胞の活性化やsrcファミリーキナーゼの活性化など様々な重要な役割を果たしている。GPIアンカーは小胞体でphosphatidylinositol(PI)から生合成される糖脂質であり,PIにグルコサミン残基とマンノース3残基が直線状にグリコシド結合し,非還元末端のマンノースに結合したエタノールアミンリン酸(EtNP)を介してタンパク質と結合した構造で,分泌経路によって細胞膜に輸送される(図参照)。細胞内のPIのほとんどはジアシル型であるが,細胞表面のGPIアンカー型タンパク質のPI部分の多くはアルキルアシル型である。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に発現させたヒトCD59では,GPIアンカーの90%程度がアルキルアシル型のPIであり,残り10%程度がジアシル型のPIを持っている。
GPIアンカーの脂質部分の構造はその機能にとって重要であると考えられている。例えば,GPIアンカー生合成の初期にイノシトール環に付加されるパルミチン酸はアンカーへのタンパク質の転移直後に通常除去されるが,脱アシル基酵素であるPGAP1を欠損してそのまま除去されないとマウスの形態形成に大きく影響し,耳頭症により多くは胎生致死となる1)。また,PIのSn2位の不飽和脂肪酸はゴルジ体においてステアリン酸に変換され,Sn1,Sn2位ともに飽和型になる(脂肪鎖リモデリング)。この変換はPGAP3によって起こるが,この遺伝子を欠損するとGPIアンカー型タンパク質はラフトに集積しない2)。これらのことから,GPIアンカーの脂質部分がアルキルアシル型であることも,その機能に重要であることが考えられる。しかしながら,GPIアンカーの構造の変化についてはまだ解明されていない部分が多く,そのメカニズムも十分に解明されていない。
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