特集 細胞の分子構造と機能―核以外の細胞小器官
4.ミトコンドリア
動物におけるミトコンドリアDNAの母性遺伝の分子機構
佐藤 健
1
,
佐藤 美由紀
1
Ken Sato
1
,
Miyuki Sato
1
1群馬大学 生体調節研究所
pp.436-437
発行日 2012年10月15日
Published Date 2012/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101346
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●ミトコンドリアDNAの母性遺伝
ミトコンドリア(mt)は酸化的リン酸化によりATPを産生するエネルギー工場であり,すべての真核生物にとって必須な細胞内小器官である。このmtは約20億年前に現在の真核生物の祖である嫌気性真核生物に好気性細菌が共生して誕生したものと考えられており,独自のmtDNAを有している。mtDNAは性を持つ多くの真核生物において片親から子孫へと受け継がれていくことが知られている(片親遺伝)。この遺伝様式は母方つまり卵子由来のmtDNAが胚において残存し,父方由来の精子のmtDNAは消失することが多いことから母性遺伝とも呼ばれている。現在では,真性粘菌から線虫,ハエ,魚類,そして哺乳類においてもmtDNAは母性遺伝することが明らかとなってきている。
これまでこの母性遺伝を説明するものとして希釈説と選択的分解説が提唱されてきている。希釈説とは,もともと卵子には母性mtとそのDNAが大量に存在するので,量的に少ない精子由来の父性mtDNAは母性mtDNAによって希釈され,そのうち消失するというものである1)。一方,選択的分解説では,受精後に父性mtDNAまたはmt自体が選択的に分解され,除去されるというものである2,3)。本稿では主に動物におけるmtDNAの母性遺伝に焦点を当て,最新の知見を紹介する。
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