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哺乳動物細胞の小胞体とゴルジ体間に,小胞体-ゴルジ体中間区画(ER-Golgi intermediate compartment;ERGIC)というオルガネラの存在が確認されてから20年以上が経過した。ERGICは小胞体から出芽した輸送小胞同士の膜融合や分裂が頻繁に起こる場所として,小胞小管クラスターとも呼ばれている。ERGICのマーカータンパク質としてⅠ型膜貫通タンパク質であるERGIC-53が知られている。ERGIC-53はカテプシンCやZ,血液凝固因子のⅤやⅧの受容体であり,ERとERGICの間をリサイクルしながら積荷タンパク質の輸送に関与している。このほかにもわれわれが同定したYip1AはRab6A依存的にゴルジ体から小胞体への逆行輸送を制御している。これらのマーカーを用いた蛍光抗体法による観察では,HeLa細胞のERGICは主に二つの形態として細胞内に分布している(図A)。一つは細胞質全体に分散している点状の細胞質型ERGIC(図A矢印),もう一つは核・中心体近傍に集団として存在する核近傍型ERGIC(図A矢じり)である。この2種類のERGICが構造的・機能的にどのように分化しているかは明らかになっていない。また,ERGICはERとゴルジ体間の輸送物質の動的平衡(主にソーティング)を制御している膜構造の集合体と考えられている1)。その制御に寄与しているキータンパク質がERGICに局在するコートタンパク質COPⅠであり,ERGICからゴルジ体への輸送小胞の出芽を促進させ,同時にERGICまで漏洩したER局在型タンパク質をCOPⅠ小胞に詰め込み,ERへと回収する実行役である(図B)。
ERGICを定義するうえでERGICが動的なオルガネラか,あるいは静的なオルガネラかという大きな議論がある。前者はERGIC自身がERからゴルジ体へ積荷タンパク質を運ぶ輸送小胞であるというモデルであり,後者の場合,ERGICが安定なオルガネラとしてERとゴルジ体間に存在し,ER-ERGICまたはゴルジ体-ERGIC間は別の小胞輸送系で結ばれているというモデルである。前者は,GFP標識した温度感受性水疱性口内炎ウイルス由来のGタンパク質(GFP-VSVG-ts045)を可視化プローブとし,ERからゴルジ体へ向かうダンベル型ERGIC自身が微小管上をstop-and-goという輸送小胞特有の動きで進む動画をもとに提唱された。しかし,ウイルス由来の外来タンパク質(しかも積荷タンパク質)を過剰発現させた結果のアーティファクトではないかという意見が強い。これに対し,ERGIC-53の安定発現細胞株を用いた可視化解析により,細胞質型ERGICが一定の場所に安定して存在するということが示された2)。最近では,後者の静的モデルを支持する研究結果が優勢になっており,静的オルガネラであるERGICにあると推測される特別な機能にますます注目が集まってきている。
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