特集 細胞の分子構造と機能―核以外の細胞小器官
4.ミトコンドリア
ミトコンドリアDNAの多様性
田中 雅嗣
1
Masashi Tanaka
1
1東京都健康長寿医療センター研究所 健康長寿ゲノム探索
pp.434-435
発行日 2012年10月15日
Published Date 2012/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101345
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日本のミトコンドリアDNA(mtDNA)研究の先駆者は国立遺伝学研究所(総合研究大学院大学)の宝来聰教授である。宝来先生は三島市の産婦人科病院の協力のもとに120個体の胎盤を得て,それらをすり潰し,遠心法によってミトコンドリアを単離した。ミトコンドリア画分に混在している核DNAをDNaseによって分解した後に,ミトコンドリアからmtDNAを精製した。mtDNAを様々な制限酵素で処理し,その切断パターン(RFLP)を比較して系統解析を行った。PCRによる遺伝子増幅技術が導入される前であり,労苦を惜しまぬ研究成果であった。
mtDNAの進化速度は核DNAと比較して約10倍速いため,個体間の多様性が高い。特にD-ループ領域の進化速度は他のコード領域と比較してさらに高い。このため,約500塩基のD-ループ領域の塩基配列を決定すれば法医学的な個体識別や人類学的な解析に用いることができ,多数の個体の解析が行われてきた。しかし,塩基置換が頻回に生じる領域(hypervariable region)では,ある塩基番号のシトシン(C)がチミン(T)に置換している場合に,人類の約17万年の歴史のなかで,C→Tが一度だけ生じたのか,C→T→C→Tのように3回生じたのかを推定することは困難である。また,ハプログループDとGのように系統的に近縁であると,D-ループ領域の塩基配列だけでは判別することは難しい。このため,塩基番号5178番がCであるかAであるか(m.5178C>A)を,PCRで増幅されたDNA断片が制限酵素AluIで切断されるかどうか(PCR-RFLP)によって判定し,ハプログループDを決定する必要がある。
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