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●小胞体ストレス可視化へのきっかけ
筆者が小胞体ストレスの研究をスタートさせたころ,タンパク質の品質管理や細胞内シグナル伝達という側面からの研究が主流で,それゆえに当時の研究は酵母菌や一般的な培養細胞を対象にしたものが中心的であった。逆にそのころの小胞体ストレス研究は哺乳動物個体レベルでの解析が乏しく,非常にマイナーなものであった。しかし,90年代終わりごろ,大阪大学の今泉和則博士(現広島大学教授)らが家族性アルツハイマー病の原因遺伝子と小胞体ストレスとの関連性について報告した1)のをきっかけに,小胞体ストレスは神経変性疾患分野で注目を浴びるようになった。それと時を同じくしてアルツハイマー病に限らずパーキンソン病やハンチントン病などの神経変性疾患を対象に研究している幾人かから,小胞体ストレスの検出方法について相談を受けることが頻繁になっていった。
一般に,小胞体ストレスに曝された細胞は小胞体ストレス応答分子を活性化させてストレスに対する抵抗性を上昇させることが知られている。そのため小胞体ストレスの検出にはストレス応答分子の挙動をノザン解析やウェスタン解析などによって調査する手法が古くから用いられていた。このような実験手法では当然のことながら細胞や生体組織を溶解し,RNAやタンパク質を抽出することになる。酵母菌や培養細胞を対象にした研究ではこの方法でも十分に対応できたのであるが,脳の局所的な微小領域で生じる神経変性部位における小胞体ストレス検査では精度や手技の面で難しい問題を抱えることになる。できれば脳組織を傷つけずに小胞体ストレス検査を行いたいとのことであったので,これには小胞体ストレスの可視化で対応するしかないと考えた。
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