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セントラルドグマに従って合成されるタンパク質は,アミノ酸がN末端からC末端に向かってつながった紐状のポリペプチドとしてリボソームから出現するが,それぞれに固有の立体構造を形成して初めてゲノム情報によって規定された機能を果たすことができる。「タンパク質はそのアミノ酸配列に従って自発的に折り畳まれる(すなわちエネルギーも不要な過程)」というアンフィンゼンのドグマは現在でも基本的には受け入れられており,疎水性アミノ酸を分子内部に,親水性アミノ酸を分子表面に配置しながら折り畳まれていく。しかしながら,タンパク質濃度が極めて高い細胞内ではタンパク質の自発的折畳みは非効率であり,また誤って進行する可能性が高い。そこで,すべての生物種はATPを使って新生タンパク質の折畳みを積極的に介助するタンパク質(=分子シャペロン)を多数用意して,このゲノム情報発現における最後の関門ともいうべきタンパク質の高次構造形成という重要課題を解決している。
膜結合性リボソームで合成される分泌タンパク質や膜タンパク質(全タンパク質の約1/3に相当する)が最初に遭遇するオルガネラである小胞体内には,分子シャペロンが多種多量に存在するのみならず,ジスルフィド結合形成や糖鎖付加などの修飾を行うフォールディング酵素も存在し(合わせて小胞体シャペロンと略す),これら分泌系タンパク質は折り畳まれていく。一方で,細胞はかなり多量にタンパク質を合成しているため,正しく折り畳まれなかったタンパク質が確率的にも(10%以下とされている)生じてしまう。このような構造異常タンパク質は細胞質へと逆行輸送され,ユビキチン-プロテアソーム系によって分解処分される(この一連の過程は小胞体関連分解と称される)。小胞体内で正しい立体構造を獲得したタンパク質のみがゴルジ装置以降の分泌経路に進み,それぞれの最終目的地(リソソーム,細胞膜,細胞外)へと到達することから,小胞体は折畳み促進と小胞体関連分解という全く反対の方向性を示す二つの機構によって分泌系タンパク質の品質を管理しているオルガネラであると捉えうる1)。
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