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●フコシル化とは
細胞表面に存在する多くのタンパク質には糖鎖が付加されていて,それらの機能を制御する。多くの糖鎖のなかで,フコシル化(フコースによる糖鎖付加)はがんや炎症と最も関係が深い糖鎖修飾として知られてきた1)。フコシル化は糖鎖の末端に結合するルイス型と,N型糖鎖の根元に結合するコアフコース型に大別される。特に後者の生合成にかかわるα1-6フコース転移酵素(fut8)のノックアウトマウスの研究から,コアフコースは増殖因子の受容体機能に重要であることがわかった2)。フコシル化の制御にはフコース転移酵素だけでなく,ドナー基質であるGDP-フコースも重要である。
GDP-フコースの合成経路にはde novo経路とsalvage経路の二つの経路が存在するが,細胞内ではほとんどがde novo経路を介してGDP-フコースが合成されており,その経路ではGDP-マンノースから2種類の酵素(GMDS,FX)の働きによりGDP-フコースが合成される(図A)。合成されたGDP-フコースはGDP-フコーストランスポータの作用により糖転移反応の場であるゴルジ体内へ輸送される。がんにおいてフコシル化が増加するメカニズムとして,それぞれのフコシル化関連遺伝子の発現上昇が報告されている。しかし一方で,GDP-フコースの合成にかかわるGMDSの遺伝子異常によってフコースが欠損した場合,がん細胞は免疫監視機構から逃れ,極めて悪性度の高い形質を持つこともわかった3)。そのメカニズムとしては,フコースの欠損によりTRAILやFasを介した細胞死に抵抗性となり,NK細胞からの監視を逃れるという。こうした一見相反するフコシル化の生物学的機能こそが糖鎖生物学研究の魅力であり,複雑に絡んだ糸を解くような感覚に似ている。
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