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ミトコンドリアは内膜と外膜からなる二重膜構造を持つ細胞小器官である。酸化的リン酸化によるATP合成をはじめ,脂肪酸合成・アポトーシス・Ca2+の貯蔵など重要な代謝や細胞内シグナリングに関与している1)。ミトコンドリアは電子顕微鏡観察の写真から,「ソラマメ」のような構造としてよく表現されている。しかし実際は細胞種や組織によってその形態は異なっており,細長く枝分かれした構造から小さく独立したものまで多様に変化している。哺乳動物培養細胞において,ミトコンドリアを蛍光タンパク質などで標識して光学顕微鏡下でタイムラプス観察を行うと,ミトコンドリアが分裂と融合を繰り返しながらダイナミックにその形態や分布をたえず変化させている姿を観ることができる。この分裂と融合のバランスによりミトコンドリアの形態は制御されることがわかっている。酵母やショウジョウバエの遺伝学的解析をきっかけにして,酵母から哺乳動物まで種を超えて保存されたミトコンドリアの融合と分裂にかかわるGTPase群が同定され,さらに生物種に特異的な因子群も同定されている。哺乳動物・酵母・高等植物におけるこれら因子群の解析により,近年ミトコンドリアの形態制御の分子メカニズムとその意義が明らかになりつつある。
ミトコンドリアの融合にはMfn/Fzo1とOPA1/Mgm1の二つのGTPase群がそれぞれ哺乳動物と酵母で機能する1)。高等植物でもミトコンドリア融合は観察されるが,融合因子はこれまでに一つも同定されていない。Mfn/Fzo1はN末端のGTPaseドメイン,C末端のコイルドコイルドメインを細胞質に露出し,その間にある二つの膜貫通領域を介してミトコンドリア外膜に局在している。生化学的解析および立体構造解析から,二つのミトコンドリア上のそれぞれのMfn/Fzo1のコイルドコイルドメイン同士が融合反応に先だって結合すると考えられている。また,Mfn/Fzo1のGTP加水分解がこの結合を制御していることも明らかになっている。哺乳動物細胞ではMfn1とMfn2の二つのアイソフォームが発現しており,これらの機能分担について解析が進められつつある。
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