特集 細胞の分子構造と機能―核以外の細胞小器官
5.ペルオキシソーム
Zellweger症候群のショウジョウバエモデルが明らかにするペルオキシソームの新たな役割
中山 実
1
,
松野 健治
2
Minoru Nakayama
1
,
Kenji Matsuno
2
1京都産業大学 総合生命科学部 生命システム学科
2大阪大学大学院 理学研究科 生物科学専攻
pp.464-467
発行日 2012年10月15日
Published Date 2012/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101356
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●ペルオキシソーム形成異常症
ペルオキシソームは真核細胞に広く存在する直径0.1-1μmの細胞内小器官で,極長鎖脂肪酸のβ-酸化,エーテルリン脂質の合成,胆汁酸の生合成など多岐にわたる代謝反応を担っている。通常の細胞では数百から数千個のペルオキシソームが一つの細胞に存在する。生体におけるペルオキシソームの重要性は,Zellweger症候群の原因遺伝子がペルオキシソーム形成にかかわる遺伝子PEX2であることが,世界に先駆けてわが国で同定されたことによって明らかになった1)。
Zellweger症候群はペルオキシソーム形成異常症の最も重篤な臨床型の一種で,新生児期からの筋緊張低下,顔貌異常,肝腫大,精神運動発達遅滞などの臨床症状を示し,ほとんどが乳児期早期(数週から1年未満)に死亡する。ペルオキシソーム形成異常症はその名のとおり,患者由来線維芽細胞における組織学的臨床所見によりペルオキシソームの形態異常,またはペルオキシソームの完全な消失が見られる疾患の総称である。ペルオキシソーム形成異常症においては,ペルオキシソーム機能不全により様々な代謝異常が引き起こされると考えられ,実際に,Zellweger症候群患者ではエーテルリン脂質であるプラスマローゲンの減少,極長鎖脂肪酸の増加,胆汁酸中間代謝産物の増加などの臨床生化学的な異常がみられる。このような生化学的な異常がZellweger症候群の発症機序とどのようにリンクしているかについてはほとんど明らかになっておらず,モデル生物を用いた解析による病態発症メカニズムの解明が期待される。
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