medicina 44巻12号 (2007年11月)

特集 一般医のためのエコー活用法

Ⅰ.エディトリアル

  • 文献概要を表示

 厚生労働省の医師臨床研修の到達目標によれば,超音波検査は,「病態と臨床経過を把握し,医療面接と身体診察から得られた情報をもとに必要な検査を,自ら実施し,結果を解釈できる」検査とされている.臨床研修の目標と掲げているからには,医師であればだれでもできなくてはならない検査と認識しているということであろう.だが,研修医や非専門家が十分に使いこなせる検査とはとてもいえない.

 非専門家として検査を行うとなると,どのくらいの経験が必要なのであろうか?腹部エコーに関してはきちんとした指導の下で200例くらい経験すれば,ようやく一通り臓器が描出できるというレベルだと思われる.では,診断能はどうであろうか?現実的にはさまざまな難度の疾患があり,一概には評価できない.例えば,胆石の診断はそれほど難しくないが,膵癌の診断はやはり非専門家には難しい.したがって,臨床研修の到達目標には「超音波検査ができる」というあいまいな表現でなく,具体的にどのような疾患または病態の超音波診断ができるようになるべきか明記されなくてはならない.それは緊急に判断する必要性があって,しかも比較的初級者にも描出でき,診断も可能なものといえるであろう.具体的な疾患や病態のリストを示す(表1).

Ⅱ.超音波の基礎

  • 文献概要を表示

超音波とは

 コウモリやイルカは,超音波パルスを自ら発して前方の物体を認識する機構を内部に有している.超音波とは,人間の耳には聞こえない20kHz以上の縦波(粗密波)を称していう.超音波断層装置は1970年代に実用化され,21世紀に入りデジタル化されて性能は飛躍的に向上した.現在,電子技術の進化とともに高画質化,小型化へ向けてさらなる進歩を続けている.

 超音波診断の長所は,非侵襲的にリアルタイムで二次元断面(断層像)の観察が可能(心臓の弁,壁,血管壁などの動きに有効)なことである.視野が限られるため,全体像の描出には適さないが,CT,MRIと比較すると断面選択が自由で,非侵襲性のため繰り返し検査が可能であり(特に重症患者の検査が容易),軟部組織の描出に優れているため,組織学的診断が可能である.装置もコンパクトで設置が容易なため,病室などへの移動も簡単である.短所としてはガス,骨などの影響を受けやすく,再現性にやや欠けている点であろう.

  • 文献概要を表示

 超音波ドプラ法を用いると,血流の存在・走行・流れの方向や乱れ具合を観察したり,速度を計測することができる.ここではよりよいドプラ表示を行い,より正確な計測を行うために知っておいていただきたいパルスドプラ法やカラードプラ法の原理について解説する.

  • 文献概要を表示

 腹部超音波検査をする際,知っておくべきアーチファクトについて解説する.各アーチファクトについて,項目別に,その代表的超音波像を供覧し,出現機序について簡単に解説し,最後に,そのアーチファクト(目くらまし)を見破るコツで各項をしめくくる,という流れを本稿の基本構築とする.便宜上,Bモードとカラードプラに大別し記述するが,実際には両者間に共通する点も多く,あくまでBモードが中心で,その知識なくしてカラードプラは理解できない.なお,この稿では誌面の都合で原則として数式の列挙などは割愛し,簡潔な記載にとどめる.その点(文中の)を掘り下げ照合したい方は,後述の文献をご一読いただきたい.

Ⅲ.心臓 心エコーのトレーニング(自分でするとき)

  • 文献概要を表示

 心エコー検査では心疾患の病態を評価し,病因を検索し,心室の収縮機能と拡張機能の評価,血行動態の評価を行う.これらを精度よく行うためには,超音波物理の基礎を理解し,基本断面を正しく描出することに加えて,異常所見に気づき,必要な情報を明瞭に記録する工夫と技が必要である.技を身につけるには,心エコー検査の経験が豊富な医師あるいは超音波検査士から,手取り足取り教わる徒弟制度方式で習得するのが,確実で手っ取り早い方法である.しかしながら,親方・徒弟関係が築ける状況にいる医師は多くはないと察する.検者の立場や場面によって,心エコーの用い方,心エコーに求める情報と精度は最終的に違うかもしれない.本稿では,心エコーのトレーニングを自分で行うときのステップごとの到達目標やきれいな画像を描出するためのコツについて述べる.心エコーの講習会や研究会のなかにはハンズオンセミナーを行う会もあるので,プロの技を間近にみることができる.関東と関西で定期的に開かれている講習会を表1に示した.

Ⅲ.心臓 心エコーの検査法と解剖

  • 文献概要を表示

 心エコー検査には大きく断層法,ドプラ法,Mモード法の3つの手法があり,これらを組み合わせて検査・判読を進めるが,その基本となるのは断層法である.断層法では探触子の位置や傾き,回転により,理論的には無数の断面を得ることができるが,一般に日常検査のなかで用いる断面はそれほど多くない.ここでは,最も基本となるいくつかの断面を解説しながら,合わせて心エコー検査に必要な解剖学についても簡単にふれる.

  • 文献概要を表示

 心エコー法において異常構造物を検出することは,ほかの画像診断と同様に最も基本的な,しかし診断能を左右する重要な作業である.まず断層像で「異常構造物に気づく」ためには,心臓と周辺組織の解剖をエコーの断面とともに立体的に把握しておかなければならない.しかし,実際の症例では異常構造物と判断するのが妥当なのか迷うことも多く,判断を誤ると,いわゆる「エコー病」をつくってしまう危険性さえある.異常構造物と判断するうえで重要なのは解剖的な位置関係だけでなく,構造物の動きやドプラ法による血流情報も含めて解釈していくことであり,これはほかの画像診断では困難なリアルタイムの動画を駆使して読影を行う心エコー法の特色でもあるともいえる.

 ここでは日常,高頻度に心腔内の異常構造物として認識されやすいものについて紹介し,いかに記録し確認するのか,鑑別すべき構造物も含めて解説する.

Ⅲ.心臓 心エコーの適応(と他のモダリティ)

胸痛 室生 卓
  • 文献概要を表示

胸痛の原因

 日常臨床では胸痛は最も多い訴えの1つであると同時に,さまざまな疾患がその原因となりうる(表1).

 循環器疾患では,狭心症,心筋梗塞といった虚血性心疾患をはじめとして不整脈,弁膜症,心筋疾患,肺血栓塞栓症,急性大動脈解離,急性心膜炎などであり,循環器疾患以外では呼吸器疾患,消化器疾患,神経・筋・骨疾患,精神神経疾患などである.これらを鑑別診断していく過程において,適切な問診はきわめて重要であり,正確な病歴の聴取に身体所見,心電図,胸部X線の基本的な診療情報が加われば,通常は診断が下せる.

心雑音 神吉 秀明
  • 文献概要を表示

まず考えるべきこと―心エコーの前にしっかりと身体所見をとる!

 心エコー法は,心雑音を聴取する症例に対して簡単かつ無侵襲に行うことができ,確定診断に導いてくれる優れた検査である.心雑音の原因となる器質的心疾患の有無だけでなく,経過観察から手術適応まで,その後の治療方針を決定できる情報をも与えてくれる.しかし,漫然としたスクリーニング的な観察では,細かな変化・異常を見落としてしまうこともあるため,心エコーを行う際には主にどこを観察すべきなのか,何を疑って検査をするのか,明らかにしておくことが望ましい.そのためには,心雑音の性状のみならず,心電図所見や胸部X線写真所見など,心雑音以外の臨床所見の情報も集めてから,心エコーを行うべきである.

 収縮期雑音を例にとると,教科書にはおのおのの鑑別方法が載っているが,実際のところは大動脈狭窄症の収縮期雑音なのか,僧帽弁あるいは三尖弁閉鎖不全の逆流性雑音なのか,それとも閉塞性肥大型心筋症の駆出性雑音なのか,迷うこともしばしばあるだろう.そこで,心電図の左室肥大の有無や心陰影の拡大の有無,頸動脈の立ち上がりのパターンなども診断の手掛かりとなり,心エコーを始める前の重要な情報となる.心エコーさえ行えば,すべて確定診断がつくというものではなく,「診断への補助的手段」として心エコーがあることを忘れてはならない.

呼吸困難 赤石 誠
  • 文献概要を表示

 呼吸困難を訴える患者では,患者が訴えている呼吸困難がどのような種類によるものであるのかを客観的に判断する必要がある.呼吸困難が心不全によるものなのか,あるいは呼吸器が原因となっているものなのか,心因性の呼吸困難であるかは,ある程度問診で明らかになるが,それを明らかにする診断手段として心エコー図は必須の検査である.呼吸困難とは,呼吸をするという行為に対して不快,苦痛を感じることである.それゆえ,動脈血酸素飽和度が高いことと呼吸困難は別のものであることを認識しなくてはならない.

心電図異常 鈴木 真事
  • 文献概要を表示

心房細動

 心房細動は日常しばしば遭遇する心電図所見の1つであり,その頻度は加齢とともに上昇する.さらに脳塞栓症などの発症の頻度も高いことがわかっており,治療の方針の決定に心エコーは必須である.

■心エコー検査の進め方

 左房,右房の拡大の程度,僧帽弁狭窄や閉鎖不全の判定,左房内のもやもやエコーや血栓像の検索などを焦点に観察する.左房の拡大を伴わなければ,治療により洞調律に復帰する確率も高い.左房の大きさの判定は,通常の左室長軸断層像のみでなく,心尖部アプローチによる断面でも確認すべきである.左房が拡大すると血流が停滞し,血栓を形成しやすい状態になる.特に左心耳には血栓ができやすいので,注意して観察する.通常の経胸壁心エコーでは左心耳の描出は困難であるが,最近の装置を使用すればある程度の描出は可能であり,左心耳の血栓を証明することもできる(図1).血栓がないことを証明するのは困難であるが,左心耳の血流や大きさを参考に,ある程度の推定はできる.除細動のための血栓検索目的で依頼されるケースについては,やや侵襲的ではあるが経食道心エコーのほうが左心耳の血栓の有無の判定には適している(図2).

  • 文献概要を表示

胸部X線の心拡大からどのような病態・疾患を考えるか

 一般に胸部X線の心拡大とは,心陰影の拡大を意味する.胸部X線正面像において,心陰影の右縁(右第Ⅱ弓)は右房,左縁(左第Ⅳ弓)は左室の辺縁より構成される(図1).したがって,右房あるいは左室の拡大は心陰影の拡大をきたすが,右室や左房が著しく拡大した場合も心陰影は拡大することとなる(図2).さらに,心膜腔に液体が貯留した場合などでも心陰影は拡大する.このように,心拡大は,①いずれか1つあるいは2つ以上の心腔拡大,②心膜腔に一定以上の液体が貯留した状態,③心臓以外の病態,を意味する.

 心拡大の評価法としては,心胸郭比(cardiothoracic ratio:CTR)が一般的に用いられており,成人では50%以下が正常である.しかし,乳幼児や肥満者,臥位で撮影したポータブルX線写真の場合は50%以上でも必ずしも異常とはいえず,理学所見などを参考に総合的に評価する.一方,CTRが60%以上であれば,間違いなく何らかの異常があると考えて差し支えない.いずれにしても,胸部X線で心拡大を認めるか,あるいはその疑いがあれば心エコー検査の適応となる.

救急の心エコー 松村 誠
  • 文献概要を表示

 循環器救急疾患は発症後早期に死亡するケースが多いことから,救急医療の現場では一刻も早い正確な診断のもとに治療を開始することが要求される.いたずらに多くの検査に時間を費やすことなく,診断,治療に最も効果的な検査法を選択するべきである.このような状況で,現在,実用性が高い非観血的画像診断法はCT検査と超音波検査である.特に患者を移動させることなく,その場で迅速に施行できる心エコーは,形態だけでなく血流動態,心機能も評価できることから,救急患者のトリアージにも有用である.

Ⅲ.心臓 この所見をみたら

左室拡大 尾長谷 喜久子 , 渡邉 望
  • 文献概要を表示

左室の計測

 左室拡大の指標としては,左室拡張末期径,左室収縮末期径,左室拡張末期容量,左室収縮末期容量が用いられる.正確に計測できることも大切であるが,傍胸骨左縁長軸像が得られたらカーソル上や画面脇に示されているスケールを参考にして,だいたいの左室の大きさを把握することが大切である.左室拡張末期径が5cmを超えているようであれば,左室拡大を疑い,検査を進める.表1,2に左室径,および左室容量の正常値を示した.

弁逆流 高野 真澄
  • 文献概要を表示

まず考えるべきこと

 弁逆流を心エコーにて観察する際には,①その弁逆流の起因となる基礎疾患は何か,②弁逆流の重症度は?,③ほかの弁に病変はないか,④その弁逆流が心機能に影響を及ぼしているか,⑤手術適応はあるか否か,などを念頭に置くことが必要である.弁逆流の重症度評価についてはさまざまな方法が提唱されているが,それぞれの方法の限界を理解したうえで,総合的に判断するべきである.

  • 文献概要を表示

 経胸壁心エコー検査は,①疾患がわかっていて重症度を評価する場合,②心雑音の原因を調べるために行う場合,③胸部X線写真で心陰影が拡大しており,その原因検索のために行う場合,④術前スクリーニングなどと,その目的はさまざまである.検査中に認められた心臓内異常エコーや異常血流について,どのような病態が考えられるか,そのポイントについて述べてみる.

左房拡大 山田 晶 , 岩瀬 正嗣
  • 文献概要を表示

拡大した左房とは?

 拡大した左房をみた場合に何を考えるかということを述べるには,まず左房サイズの評価方法を知る必要がある.心エコー図検査による左房サイズの一般的な指標として,胸骨左縁左室長軸像での心室収縮末期における左房の前後径が用いられる.この前後径が4.0cm以上,あるいは前後径を体表面積で除して2.4cm/m2以上あるときに,左房は拡大していると判断される1)(表1).しかし,特に左房が拡大した場合,左房の後ろ側にある椎体や胸部下行大動脈などの構造物によって左房前後方向の拡大が制限を受け,長軸方向の拡大が主体となり(図1),前後径を用いるだけでは左房拡大の程度を正確に反映しないことが指摘されている.左房前後径と3Dエコーで求めた左房容積を比較した報告では,同じ左房径であっても,その容積は数倍異なる値をとりうることが認められている2)(図2).そこで,左房サイズのより正確な評価には容積を計測することが推奨され,左房容積を体表面積で除した左房容積係数が指標としてよく用いられている.後述のごとく,左房容積係数が32ml/m2より大きい場合に心イベントが多いとする報告がよくみられる.

右室拡大 坂田 好美
  • 文献概要を表示

まず考えるべきこと:右室拡大からどのような病態・疾患を念頭に置くか

■右室拡大の原因疾患

 右室拡大は,①右室容量負荷,②右室圧負荷,③右室心筋障害・右室収縮能障害により生じる(図1,表1).

右室容量負荷

 右室容量負荷をきたす疾患には,心房中隔欠損症・心室中隔欠損症・心内膜床欠損症などの左右短絡性疾患と,Ebstein奇形などの三尖弁逆流および肺動脈弁逆流を認める弁膜疾患がある.

心臓内石灰化 和田 浩 , 安 隆則
  • 文献概要を表示

 近年MDCT(multi director row CT),MRIなどの画像的モダリティの普及により,心臓CT,心臓MRIが以前より広く行われるようになり,心臓内の構造物について以前より飛躍的に詳細な情報が供給されるようになってきている.心臓CTおよび心臓MRIの利点は,質的,組織的な情報を提供することができるため,心臓内の石灰化,線維化,脂肪組織,心筋組織,液性成分などをCT値やプロトン共鳴信号によって区別することができることである.また,空間分解能の改善により,心臓内の石灰化に関しては0.1mm単位のかなり小さなものまで検出できるようになってきている.このため,心臓内の石灰化に関しては,詳細な部位,大きさが,以前より多くの患者に日常的に発見されるようになりつつある.心臓内の石灰化については大きく冠動脈の石灰化と心膜(弁膜,乳頭筋,腱索,心筋)の石灰化に分類することができるが,当初急速に研究が進んだのは冠動脈の石灰化に関してであり,現在も多くの研究が行われている.

 これに対して心エコーの利点は,ほかのモダリティに比べ無侵襲,低コストのため,簡便にベッドサイドにて施行可能で,より多くの患者に検査を行える点である.また,時間分解能に圧倒的に優れているため,その石灰化のもつ機能的な意味や,動的な形態についても同時に評価できる.反面,空間分解能に関してはCT, MRIに劣るため,冠動脈の石灰化の評価については不向きである.今回,冠動脈の石灰化に関しては他書に譲り,ここでは日常診療上頻繁に遭遇する心膜の石灰化について,どのように正常と異常を鑑別していくのかを中心に述べる.

  • 文献概要を表示

 心エコー検査を用いて左室の壁運動を観察する場合,まず壁運動異常が存在するかどうか,そして異常があれば,その範囲,程度を評価する.その際には,心腔の大きさ,心室壁の厚さなども考慮に入れ,さまざまな疾患を念頭に置いて評価していく必要がある.最も頻繁に遭遇する壁運動異常の原因は虚血性心疾患であるが,それ以外の病態でも左室の壁運動異常を生じうる.さらには,実際には壁機能に異常がなくても心臓全体の動きや外方からの圧排によって壁運動異常を起こすこともある.

Ⅲ.心臓 病態の評価

  • 文献概要を表示

左室容積

 左室容積の測定には心エコー,CT,MRI,心臓カテーテルなどを用いた方法がある.心エコーはベッドサイドや救急の場で簡便に,迅速に施行できるところが最大のメリットである.

 心エコーを用いた左室容積測定にはMモード法,Bモード法,3Dエコーを用いたさまざまな測定法がある.Bモード法での測定にはSimpson法とarea-length法があり,Mモード法での測定にはTeichholz法,Pombo法などがある.Mモードによる測定では,左室を回転楕円体と仮定し,左室径から左室容積を求めるため,壁運動異常がある場合や心室瘤がある症例には適用できない.method of discs法(いわゆるmodified Simpson法,以下MOD法)は各円柱の容積の合計として求められる(図1).

左室収縮能 大手 信之
  • 文献概要を表示

 心エコー図の非常に重要な役割の1つが心機能評価であり,結果は通常定量性のある数字データとして提供される.そのなかで,計測した心機能パラメータの正確度・再現性やその意義を十分理解していないと数字だけが一人歩きし,誤った病態評価につながってしまう可能性がある.さて,われわれは左室駆出率を求め,その値によって左室収縮能が良い,あるいは悪いと判断する.駆出率でみた左室収縮能は,はたして患者の臨床病態を十分に反映しているのであろうか.かなりの左室拡大がみられ,その駆出率が30%を割っていたとしても,ほとんど不自由もなく日常生活を送っている患者も多い.運動耐容能の制限には左室収縮能の低下よりも拡張能の低下が大きく関係するため,このような事実が観察されるのである.しかし,それでも左室収縮能は心疾患患者を治療していくうえで重要な情報であり,本稿では左室駆出率による収縮能評価の意味を解説し,その値の患者病態評価・治療への寄与について述べる.

左室拡張機能 小板橋 俊美 , 赤石 誠
  • 文献概要を表示

拡張機能の重要性

 心臓がポンプとして効率よく働くためには,収縮機能と拡張機能の両者がバランスよく保たれていなくてはならない.従来は心臓のポンプとして収縮機能にのみ注目されてきたきらいがあるが,近年では拡張機能も注目されるようになった.それにはいくつかの理由がある.

 心不全をきたす症例のなかには,左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)50%以上の症例が約40%を占めると報告されている1).これらの症例では,左室収縮機能が保たれ,左室拡大もないのに心不全を起こす.これらは拡張期心不全(diastolic heart failure)と呼ばれ,左室拡張機能障害によると考えられている.

心筋虚血 大倉 宏之
  • 文献概要を表示

 心筋虚血とは,冠血流の絶対的あるいは相対的不足により,心筋の酸素需要に見合った供給が得られない状態である.本稿では心エコー図によるさまざまな虚血評価法について述べる.

肺高血圧・肺うっ血 伊藤 浩
  • 文献概要を表示

 肺高血圧,必ずしも肺うっ血にあらず.肺うっ血は左房圧の上昇により肺に血液がうっ滞した状態であり,pulmonary venous hypertensionとも呼ばれている.肺動脈楔入圧の上昇を伴った病態である.それに対して,肺高血圧は肺動脈血栓塞栓症など肺血管抵抗の上昇でも生じる.そのような純粋なpulmonary arterial heypertensionでは,必ずしも肺動脈楔入圧の上昇や肺うっ血を伴うことはない.いずれの病態でも患者の主訴は呼吸困難あることが多く,迅速な診断と加療を要する.他の呼吸困難を伴う疾患と鑑別し,正しく病態を評価するために有用なのが心エコー法である.本稿では,心エコー図法を用いた肺高血圧の診断および肺うっ血の評価に関して述べる.

同期異常 古堅 あずさ
  • 文献概要を表示

 重症慢性心不全患者の約20~40%では,心電図にてQRS幅≧130ms,すなわち心室内伝導障害を認められることが知られている.これは独立した予後規定因子であり,QRS幅拡大の程度と予後は相関する.心室内伝導障害を有する症例に対し,血行動態の改善を得る治療として心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy:CRT)が注目されるようになり,多くの臨床試験によりCRTによる予後改善効果が報告され,現在では重症心不全に対する治療戦略において重要な選択枝の1つとなった1).しかし一方で,現在のQRS幅による適応基準では約30%の症例に治療効果を認めないことも指摘されている2).QRS幅による電気的同期不全よりも機械的同期不全(mechanical dyssynchrony)の存在が重要であることが知られるようになり,この評価において心エコーは重要な役割を果たしている.心不全患者診察の際には,“同期不全(同期異常)”の存在にも注意しながら病態を評価し,治療方法の選択をすることが重要である.

Ⅲ.心臓 疾患の評価

急性心筋梗塞 習田 龍 , 西野 雅巳
  • 文献概要を表示

 急性心筋梗塞は,自覚症状,心電図,採血検査,心エコー,心臓カテーテル検査などで診断が下される.なかでも心エコーの役割は,その簡便さ,迅速さ,低侵襲性,特異性などを考えると,最も有用と思われる.自覚症状は時として曖昧(特に糖尿病患者は無症状のことも多い)で,心電図は簡便であるが非ST上昇型心筋梗塞(non-ST elevated myocardial infarction:NSTEMI)などは診断が困難とされる.採血検査は,心筋逸脱酵素の上昇は発症後数時間経過しないと異常が出ないため,早期診断には役立たない.また,心臓カテーテル検査は治療に直結するものの侵襲的であり,最終手段として施行されるのが通常である.それらに比べて,心エコーはベットサイドで手軽に施行でき,リアルタイムに心筋の壁運動が評価できる.前述のごとく,心電図では診断しにくいNSTEMIも診断可能である.心筋虚血時には,まず左室壁運動異常が起こる.その後心電図変化が発生し,最後に胸痛が出現するとされる1).すなわち,臨床の場において心エコーは最も早期に心筋虚血を診断しうるツールであるといえる.最近では種々のポータブルエコーが発売されている.筆者らは,救急外来,病棟,心臓カテーテル室など場所を選ばず手軽に施行できるポータブルエコーを聴診器替わりに多用し,診療を行っている.また,心エコーは診断のみならず,治療方針決定にも大きな役割を果たす.以下に,初診時の心エコーのチェックポイントを記す.

  • 文献概要を表示

拡張型心筋症

■エコーに必要な病態生理と自然歴

 特発性拡張型心筋症は原因不明の心筋疾患であり,原因が明らかで拡張型心筋症の病態を示すものを特定心筋疾患という.

 左室あるいは両心室の拡張と心筋の収縮不全が特徴である.心筋のβ受容体に対する自己抗体が関与するものもあると考えられている.遺伝性を示す家族性のものはサルコメア蛋白をコードする遺伝子の変異によって起こるものがある.ウイルス性心筋炎の約10%が慢性期拡張型心筋症に移行するといわれている.

肥大型心筋症 髙﨑 州亜 , 鄭 忠和
  • 文献概要を表示

 肥大型心筋症は,心筋の異常な肥大を特徴とし,約半数は家族性でそのほとんどが常染色体優性遺伝の心疾患である.その多くは無症状か軽度の胸部症状しか認めず,一般に予後良好とされるが,不整脈などによる突然死がみられ,進行すると心機能障害から心不全を引き起こすため,本疾患の診断はきわめて重要である.

 左室流出路の狭窄を伴う①閉塞性肥大型心筋症と,狭窄を伴わない②非閉塞性肥大型心筋症に分類される.圧較差20mmHg以上を有意な流出路狭窄とする.また,閉塞性肥大型心筋症の亜型として,左室中部閉塞性肥大型心筋症がある.

 本疾患の診断および病態把握における心エコーの役割を,①心形態・構造異常,②心血行動態異常,③心機能異常の3つの観点から説明したい.

大動脈弁閉鎖不全 村田 和也
  • 文献概要を表示

エコーに必要な病態生理と自然歴

 大動脈弁閉鎖不全症(aortic regurgitation:AR)は,大動脈弁自体の病変,あるいは大動脈起始部病変により大動脈弁の逆流を生じ,拡張期の左室容量負荷をきたす疾患である.心エコー法は,ARの存在診断,原因,重症度を判断し,治療を決定するうえで必要不可欠な検査法である.

 ARの主たる原因を表1に示す.ARは発症様式により,急性と慢性に分類される.

大動脈弁狭窄 山田 聡
  • 文献概要を表示

 大動脈弁狭窄(aortic stenosis:AS)の治療法を検討する際に考慮すべき項目として,症状の有無,狭窄の重症度,左室機能,合併症が重要である.心エコー法は大動脈弁の形態と機能を非侵襲的に評価することができ,ASの診断に最も大きな役割を果たすツールである.心エコー法により,①ASの存在診断と成因評価,②狭窄重症度の評価,③左室機能評価が可能であり,これらの診断に左心カテーテル法が用いられることは,エコー所見が臨床像と一致しない場合に限られる.さらに,心エコー法により,弁石灰化の程度,弁輪のサイズ,上行大動脈の形態,二次性の左室流出路狭窄,僧帽弁など,ほかの弁病変,左室肥大の程度,肺高血圧の有無・程度などが評価可能である.

 本稿では,成因評価,病態生理,狭窄の重症度評価,自然歴を中心に概説する.

僧帽弁閉鎖不全症 泉 知里
  • 文献概要を表示

エコーに必要な病態生理と自然歴

 僧帽弁閉鎖不全症は,後述する僧帽弁複合体の異常により,僧帽弁が閉鎖する収縮期に左室から左房へ逆流が生じる病態をいう.

 僧帽弁閉鎖不全症はその経過から,慢性と急性とに分けられる.慢性僧帽弁閉鎖不全症は,長期にわたり左室,左房に容量負荷がかかり,左室,左房の拡大を認める.左房,左室が拡大することにより,長期にわたって左房圧の上昇や心拍出量の低下をきたさず,無症状で経過する.一方,腱索断裂や感染性心内膜炎の弁穿孔などで生じる急性僧帽弁閉鎖不全症では,左室,左房の拡大はないか,もしくは軽度で,そのため著明な左房圧の上昇がみられ,心拍出量の低下と心内圧上昇による肺水腫,心原性ショックを生じる.

僧帽弁狭窄症 谷本 貴志 , 赤阪 隆史
  • 文献概要を表示

 成人でみられる僧帽弁狭窄症の成因のほとんどはリウマチ性である.現在,先進国においては抗生物質の普及と社会衛生状況の改善に伴ってリウマチ性弁膜症に遭遇する機会は減少しているものの,僧帽弁狭窄症は代表的な弁膜疾患であり,その診断,重症度評価,治療方針の決定などの日常診療において,心エコー図の果たす役割は大きい.

人工弁のみかた 谷本 京美
  • 文献概要を表示

 人工弁患者を経過観察するにあたって,心エコー図の役割は非常に大きい.人工弁患者が外来を受診した場合,症状を聞き,人工弁のクリック音を含めて聴診し,X線写真や心電図の変化の有無,抗凝固薬の効果が適切であるか否か,その他検査所見に異常がないかどうかを判断する.これらの所見で何らかの異常が認められ,人工弁に起因する可能性が考えられれば,至急心エコー検査を施行する.全く問題が認められなくても,定期的な心エコーによる弁機能,心機能,心内血栓,肺高血圧症などについて経過観察が必要である.

感染性心内膜炎 北井 豪 , 田辺 一明
  • 文献概要を表示

病態生理と自然歴

 感染性心内膜炎(infectious endocarditis:IE)とは,血中に侵入した細菌などの微生物が心内膜に感染巣を形成し,弁や支持組織の破壊に伴う弁逆流・心不全,重要臓器の塞栓症や感染性動脈瘤などの重篤な合併症を引き起こす疾患である.IEは100年以上も前から認知されているが,決してその頻度が減少していることはなく,その重要性はいささかも減じていない.IEの頻度は,報告によりさまざまであるが,一般に人口10万人当たり年間1~5例程度とされている.欧米ではもう少し多い傾向にあるが,麻薬常用者が多いためと推測される.男女比は1.6~2.5で男性に多く,年齢が上がるにつれて頻度が増える.抗菌薬使用が一般的でなかった時代のIE発症年齢の中間値は30~40歳台であったのが,最近は47~69歳と高齢化している.自己弁に生じたIEの55~75%は弁膜症や先天性心疾患などの基礎疾患をもつか,あるいは麻薬常用者であるが,25~45%の例ではそのような条件がなくても発症する.人工弁置換術後のIE(prosthetic valve endocarditis:PVE)はIE全体の7~25%を占め,術後1年以内の累積発症率は1.5~3%,5年以内では3~6%とされる.近年,黄色ブドウ球菌によるIEが増えており,緑色連鎖球菌によるものに迫りつつある.また,高齢化に伴って泌尿器科的処置に関連する腸球菌によるものや,消化器系悪性腫瘍と関連するStreptococcus bovisによるものも増えている.

 日本循環器病学会は日本心臓病学会,日本胸部外科学会,日本小児循環器学会と共同で,2003年に「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」を作成し,公表した.基礎心疾患に応じてIEの危険度が示されており,予防も重要となる(表1).IEの診断基準として普及しているDuke臨床的診断基準(表2)では,血液培養陽性所見と心エコー図による心内膜の障害所見を確定診断の2つの柱としている.すなわち,IEを疑い確定診断に至るには,心エコー図所見が大きな鍵を握っているといえる.

心膜疾患 佐伯 文彦
  • 文献概要を表示

正常心膜の構造と心膜腔の分布

 心膜は,伸展性に乏しい膜状構造であり,壁側心膜と臓側心膜からなる.臓側心膜は,心筋層の外表面および大血管の基部を覆う薄い膜構造である.一方,壁側心膜は胸膜や横隔膜,胸骨と接し,2mm以下の厚さをもつ線維性の膜であり,臓側心膜との間に心膜腔を形成する.心膜は,心臓の拡張を制限するとともに,心臓の偏位を防止する機能も果たしている.心膜腔は心膜で区画された閉鎖腔であり,正常ではわずかな量の心膜液が存在する.

成人の先天性心疾患 岩永 史郎
  • 文献概要を表示

心房中隔欠損症(atrial septal defect:ASD)

 先天的に心房中隔の一部が欠損する疾患であり,両心房間にシャント血流を生じる.欠損孔の位置で一次口型,二次口型,静脈洞型に分類される(図1).最も多い二次口型は発生段階での一次心房中隔の過剰吸収か,二次心房中隔の形成不全によって生じる.一次口型は心内膜床の形成不全で生じ,心室中隔欠損とクレフトによる僧帽弁・三尖弁閉鎖不全を合併することがある.静脈洞型は上大静脈または下大静脈が右房に接続する静脈洞部分の欠損で,稀である.右房後方を通過する右肺静脈との隔壁も欠損し,部分肺静脈還流異常を合併する.

 重症度は肺血流量(Qp)と体血流量(Qs=心拍出量)の比Qp/Qsで表される.これは欠損孔の大きさに加えて,左右心室の拡張性と大動脈・肺動脈の血管抵抗のバランスによって決定される.肺血管抵抗の高い胎児期には右室へ血液が流入しにくいため,シャント血流は右房から左房に向かう.出生後には呼吸開始とともに肺血管抵抗が低下して,右室へ血液が流入しやすくなる.このため,シャント血流は左房から右房へ向かうようになる(図2).QpはQsより大きくなり,右室,肺動脈,肺静脈,左房に容量負荷を生じる.加齢は左室拡張性を低下させるため,徐々に右室容量負荷が増大する.Qp/Qs≧2の症例では中年以降に易疲労感や浮腫などの右心不全症状や心房細動・粗動による動悸を自覚することが多い.特に,左室拡張性を低下させる高血圧,左室肥大や心筋梗塞を合併した症例では右心不全を生じやすい.

心臓腫瘍 中谷 敏
  • 文献概要を表示

 心臓腫瘍は比較的稀な疾患であり,原発性腫瘍の頻度は10,000例あたり約7例とされている.また,原発性心臓腫瘍のほとんどは良性であり,その多くが粘液腫である.したがって,粘液腫だけ知っておけば,ほとんどの場合事足りるとも言えるが,たまにそれ以外の腫瘍も経験する.

 心エコーはall or none lawが機能する検査でもあり,知っているか知らないかが重要となる.少なくとも未知の腫瘍に遭遇してもいくつかの鑑別を考えられるだけの知識はほしい.表1,2に心臓腫瘍の頻度を示す.

大動脈の疾患 西上 和宏
  • 文献概要を表示

 大動脈疾患は,真性大動脈瘤と大動脈解離の2つが多くを占める.真性大動脈瘤は大多数が無症状であるため,発見の機会は健診など限られており,大動脈のスクリーニングがきわめて重要である.大動脈解離は,一般に激烈な胸背部痛と考えられているが,意識消失や胸部の違和感,大動脈分枝血管の虚血症状などの多彩な症状を呈することが少なくない.したがって,非典型的な症状から大動脈解離を疑って,簡易で無侵襲のエコー検査が,初期診断に重要である.さらには,非典型的大動脈解離である偽腔閉塞型大動脈解離とpenetrating atherosclerotic ulcer(PAU)を含めて,急性大動脈症候群(acute aortic syndrome)の概念が提唱されている.本稿では,大動脈の疾患を診るためのエコー検査のアプローチ法と診断のポイントについて解説する.

Ⅲ.心臓 特殊な心エコー

経食道心エコー 南雲 美也子
  • 文献概要を表示

 経食道心エコー検査から得られる情報量は豊富で,詳細かつ正確な診断をするうえで不可欠である.しかし,その反面,患者にとっては半侵襲的検査であることを知らねばならない.このため,患者に検査の重要性と合併症について十分に理解してもらい,検者も経食道心エコー検査の特性をよく知り,施行前に経胸壁心エコー検査による所見を十分に把握してからアプローチすることが大事である.

負荷心エコー 大野 忠明 , 本間 博
  • 文献概要を表示

 負荷心エコーは1970年代頃から基礎研究,臨床試験ともに多数の報告がなされてきた.負荷心エコーの原理は,一般的に虚血カスケードに従う.心筋虚血は心筋灌流の減少,心筋代謝の低下,壁運動異常,心電図変化,自覚症状の順にとらえることができるが,負荷心エコーはこの中間の壁運動異常を判定する方法である.正常の冠動脈であれば,負荷量の増加に伴い,冠動脈血流,心拍数,心筋収縮力が増大する.有意な狭窄があれば,冠動脈血流は増加せず,結果として酸素供給が需要に見合わず虚血が起こる.負荷時の局所壁運動異常の出現は虚血に特異的といわれている.負荷心エコーに興味がある医師のなかには,自分で検査ができるようになりたい,あるいは専門医に検査を依頼したいが,どのような症例を紹介したらよいのか知りたいなど,いろいろな立場の方がおられると思う.①負荷法そのものを理解すること,②患者によってどの負荷法を選択したらよいかを判断できること,③結果を評価できることを明確にし,負荷心エコーを活用していただきたい.日本循環器学会のガイドラインを表11)に示す.

Ⅳ.腹部 腹部エコーのトレーニング(自分でするとき)

  • 文献概要を表示

「腹部超音波検査ができる」ためには何ができればよいのか

(1) 超音波検査の原理および装置の扱いがわかる:検査の特性や限界,アーチファクトなどを理解し,適切な機器の操作やプロ-ブの選択などができる.

(2) 描出のための走査ができる:プローブをあて,動かし,被検者に呼吸や体位を指示しながら,目的とする臓器をできるだけくまなく描出できる.

Ⅳ.腹部 腹部エコーの基本的な進め方

  • 文献概要を表示

腹部スクリーニングでのエコー検査の進め方

 腹部エコーは人間ドックなどの健診で盛んに行われている検査である.スクリーニング検査として数多く実施されている理由は,侵襲なく腹部の広範囲を映すことのできる超音波検査の特性にあるといえる.

 腹部スクリーニングでは「臓器の形態の観察」と「病変の発見」が主な目的である.実質臓器の腫大や萎縮,変形など,あるいは脈管の拡張や狭窄などの「形態」の所見は正常と異常を篩い分ける基本的なチェックポイントである.このような臓器の形態や構造がチェックしやすい断面を基本断面(断層像)という.

主な主訴と検査の進め方 金田 智
  • 文献概要を表示

超音波検査の適応となる主訴・臨床所見

 腹部超音波検査は,さまざまな主訴や臨床症状,臨床所見に対して適応となる(表1).また,無侵襲性や簡便さから,無症候者に対するスクリーニング検査としても利用される.このように対象となる症例・疾患がきわめて多様であることが特徴である.

Ⅳ.腹部 臓器からみた腹部エコー

  • 文献概要を表示

解剖と検査法

 画像の表示法は原則として,日本超音波医学会の基準に沿って表示した.横断像では,被検者の右側が画面の左側,断像では頭側が画面の左側となる.超音波検査の走査法や手順としては,定められた手順はないが,施設で一定の走査手順を決め,それに沿って検査を進めることによって,観察や記録のし忘れを防ぐことが重要である.肝臓を走査するには背臥位が原則で,必要に応じて側臥位や半座位を加える1)

 4つの基本的な走査法,すなわち,①右肋弓下走査,②右肋間走査,③心窩部斜~横走査により肝臓の左右両葉をくまなく走査する(図1,2).肝区域はCouinaudの亜区域分類に従い,尾状葉を1(segment1:S1)として反時計回りに8まで番号を付ける.門脈はこの区域分類に従い,P1(portal vein)~P8に分類する.肝静脈は,右肝静脈,中肝静脈,左肝静脈が肝部下大静脈に合流する.また,尾状葉から直接に下大静脈に流入する短肝静脈群が観察される.時に下右肝静脈(右後下区域からの枝)が観察されるが,本来の右肝静脈の細い例で太い脈管が観察されることが多い.

肝の腫瘤性病変 高野 保名 , 田中 幸子
  • 文献概要を表示

 肝腫瘤の描出において,腹部超音波検査は,CTやMRIに比べて安全で,小病変の描出や画質もよく,経済性にも優れ,スクリーニングに最適である.診断が困難な腫瘤では,造影超音波検査による質的診断が可能である.さらに,超音波ガイド下腫瘍穿刺生検による精査や肝細胞癌に対するラジオ波などの局所治療に必須の検査である.肝腫瘤は多種にわたり鑑別すべき疾患が多い.原発性肝癌の95%以上を占める肝細胞癌とほかの腫瘤性病変の超音波上の特徴とその鑑別点について述べる.

胆囊・胆管 森 秀明
  • 文献概要を表示

解剖と検査法

■胆道の解剖

 胆道とは,肝細胞から分泌された胆汁が十二指腸に流出するまでの経路で,胆囊と胆管が含まれる(図1).胆囊は肝下面に接した胆囊窩に位置する西洋梨型の臓器で,底部,体部,頸部に分けられる.胆管は,肝内胆管から左右の肝管,総肝管を経て,3管合流部で胆囊管と合流し総胆管となり,膵頭部を貫いて十二指腸Vater乳頭部へ開口する.胆道癌取扱い規約によると,胆管は肝内胆管(bile duct,hepatic:Bh),左右の肝管(bile duct right:Br,bile duct left:Bl),上部胆管(bile duct superior:Bs),中部胆管(bile duct middle:Bm),下部胆管(bile duct inferior:Bi)に区分される.

膵臓 水口 安則
  • 文献概要を表示

解剖と検査法

■膵の解剖

 膵は胃の背側の後腹膜に位置する臓器である.その右側は十二指腸内側縁に接し,やや左上がりに横走し,左側は脾門部に接している長い臓器である(図1).膵癌取扱い規約1)により,膵は3つの部位に分けられる.すなわち,膵頭部は門脈・上腸間膜静脈の左側縁までとされている.膵頸部(門脈・上腸間膜静脈の前面の膵)と膵鉤部は,膵頭部に含まれる.膵体部と尾部の境界は,膵頭部を除いた尾側膵を2等分する線とされている.

 ここで十分に認識しておかなければならないことは,膵体尾部が水平断方向またはやや左上がり方向にかなり長いということとともに,膵頭部も矢状断方向に意外と長く存在することである.この認識が不十分な場合,膵尾部,膵鉤部と同様に,膵頭部,特に十二指腸水平脚に接する膵頭部足側端が超音波検査の際の盲点となりうる.言い換えれば,膵頭部が矢状断方向に長いということを十分認識していれば,同部位の病変を見落す可能性は低くなる.異常がない膵の実質エコーレベルは,肝と比較しほぼ等エコーか高エコーを呈する.高齢者,糖尿病や慢性膵炎がある場合は,特に膵実質エコーレベルが上昇しているので,膵の同定が困難となる.しかし,「膵がない」わけではない.解剖学的な膵の存在位置と周囲脈管との関係をよく理解して膵を同定する必要がある.

脾臓 辻本 文雄
  • 文献概要を表示

解剖と走査法

 脾は左横隔膜下で左第8~11肋骨の直下にある赤紫色の柔らかい臓器である.中胚葉由来の臓器で,原基は胎生第5週に背側胃間膜の左側に出現し,13~14週で胃壁より独立した器官となる.したがって,脾動脈より分枝する短胃動脈と左胃大網動脈は胃脾間膜を走行し,胃と大網に向かう.脾内側には膵尾部,左腎上極とその腹側に存在する大腸脾彎曲部が接し,上部前面には胃底部が接する(図1).脾腫がない限り左肋骨弓より尾側に存在せず,体表より触れない.通常,第9~10肋間からの走査で描出される.大きさは,長さ12cm,幅7.5cm,厚さ5cm程度であり,重量100~150gで,6~20歳台で脾は最大となる.言い換えると,脾は小児期で最大の大きさになり,成人以降は萎縮する.通常,脾腫は約2倍の重量で,250gを超える場合を指すが,この定義には加齢に伴う萎縮は考慮されていない.spleen indexと呼ばれ,古賀ら1)の報告以来,さまざまな脾の大きさを測る方法が知られているが,筆者は最も簡便な方法として斜径を測る以外,spleen indexは不要と考える(図2,3).脾の計測法はいずれも成人例であるが,やはり加齢に伴う脾の萎縮が全く考慮されていないため,中年以降の軽度脾腫の判定には役立たない.中年以降の例では,脾門部で斜径を測るとき,たとえ斜径が10cm以下であっても,このラインより尾側に凸であれば,すなわち丸みがあれば,脾腫と判定できる3)

腎臓 宮本 幸夫
  • 文献概要を表示

腎の超音波解剖

 正常腎実質の超音波像は,ドーナッツ状の充実性組織として描出される(図1).腎皮質のエコーレベルは肝実質よりもやや低く描出される.新生児の場合は肝と同程度のエコーレベルを呈することが多く,生後4カ月でほぼ成人と等しくなる.腎髄質は,皮質よりもさらに低いエコーレベルを呈する逆三角形の構造として描出される.皮質厚は通常6~12mm程度であり,髄質は皮質の2倍強程度の厚みを有する.腎洞の脂肪より生ずるサイドローブによるアーチファクトやスライス幅によるアーチファクトなどにより,腎洞に面した腎円錐の先端部はきわめて不明瞭となるため,髄質厚は皮質厚とほぼ同程度の大きさで描出される.なお,皮髄境界部には数条の弓状動静脈が走行するため,超音波像では同部にしばしば高輝度の線状エコーを認める.

 腎実質に囲まれた高輝度の充実性構造物はcentral echo complex(CEC)やcentral echoesなどと呼ばれ,腎盂,腎杯,腎動静脈,脂肪沈着を伴う腎洞などの複合エコーより構成される.水腎症などの場合は,CEC内に拡張した腎盂・腎杯が明瞭にとらえられる.なお,腎内の静脈の拡張を超音波像では軽度の水腎症と誤診することがある.鑑別にはカラードプラが有効であるが,Bモードであっても,丹念に脈管の走行を追うことで,ある程度鑑別することが可能である.

副腎 細田 幸司 , 大熊 潔
  • 文献概要を表示

解剖と検査法

■右副腎

 右副腎は,右腎上極の上方,下大静脈(inferior vena cava:IVC)の背側で,肝と横隔膜脚の間にみられる.右副腎を描出するためには肝を音響窓として,IVC・右腎を指標に走査するとよい.体位は左下側臥位を基本とする(肝が左に移動し,腹壁と右副腎との間で音響窓として利用しやすくなる.また,副腎が左に移動し,腹壁との距離が短くなる).

後腹膜 細田 幸司 , 大熊 潔
  • 文献概要を表示

解剖と検査法

 後腹膜腔は腹腔後壁と腹膜の間の腔であり,大きく前腎傍腔・腎周囲腔・後腎傍腔の3つの領域に分けられるとされていたが,近年は前腎筋膜,後腎筋膜,外側円錐筋膜という筋膜を中心に考え,従来の概念の3腔をつなぐ経路・空間(interfascial pathway)と考えたほうが,液体貯留・炎症の波及を考えやすいとされている(図1).

 後腹膜の主な臓器として,十二指腸,膵臓,腎臓,尿管,副腎,腹部大動脈,下大静脈,交感神経幹,上行結腸,下行結腸,膀胱がある.

 腹部超音波横断像では,椎体の前方に腹部大動脈と下大静脈が認められ,後腹膜病変の多くは椎体周囲に認められる.

  • 文献概要を表示

解剖と検査法

■解剖

 腹部大動脈は,横隔膜を通過後腹部正中,椎体前面を足側へ走行し,臍レベルで左右総腸骨動脈に分岐する.心窩部レベルで腹腔動脈が分岐し,その直下より上腸間膜動脈,その1cm程度遠位より腎動脈が左右に分岐する.下腸間膜動脈はさらにその尾側の腹部大動脈より分岐する.腹腔動脈は,左胃動脈・脾動脈・総肝動脈の3分枝に分かれる.上腸間膜動脈は左腎静脈を越えた後,大動脈の正中やや左側を上腸間膜静脈と並んで走行する.腎動脈は多くの場合左右1本ずつであるが,複数本分岐する場合もあるので注意が必要である(図1).

 両側総腸骨静脈は同名動脈分岐部の右側で合流し,下大静脈となって大動脈の右側を頭側に走行している.両側腎静脈は腎動脈の腹側を伴走し,左腎静脈では大動脈腹側を走行して下大静脈に流入する.横隔膜直下で3本の肝静脈が流入する.

腎動脈狭窄 河原田 修身
  • 文献概要を表示

 腎動脈狭窄症の大半を占める粥状硬化性腎動脈狭窄症(atherosclerotic renal artery stenosis:ARAS)は,治療抵抗性高血圧や腎機能障害をもたらし,腎萎縮や腎不全に至る(図1,2)1).また,心不全や不安定狭心症の原因になることも明らかになってきた(表1).このARASは冠動脈疾患の10%,末梢動脈硬化性疾患の20%程度に合併するとされている.

 しかしながら,日常臨床では本態性高血圧,腎実質性高血圧,高血圧性腎硬化症,糖尿病性腎症などによる腎機能障害として理解され,診断や治療介入がなされることが少なかった.しかしながら,このARASに対し,ステント留置により,血圧コントロールや腎機能の安定化が得られ,心不全や狭心症状の改善が得られることが明らかになってきている.腎動脈狭窄症はもはや腎血管性高血圧をはるかに超えた重要な疾患概念といえる.腎動脈エコーは腎萎縮を示す高血圧,治療抵抗性高血圧,腎不全,狭心症や心不全,さらには各種の動脈硬化性疾患におけるARASのスクリーニングとして,またステント治療前後の評価や経過観察に欠かせない検査法である.

  • 文献概要を表示

基本の解剖

 本稿では,スクリーニング超音波検査(ultrasonography:US)に際して比較的描出が容易な上部消化管を取り上げる.

 消化管USの基本は,胃腸液の貯留の有無と壁肥厚の有無を確認することといえる.消化管内容物はその音響学的性状によって種々のエコーレベルを示し,澄んだ胃腸液は無~低エコー,微小ガスの混在した食物残渣や粘液は高エコー,消化管ガスは多重反射として描出される.消化管壁は,通常のコンベックス型探触子を用いた経腹壁走査では,1層の低エコーレベルに描出されることが多い.この低エコーは固有筋層(proper muscle layer:pm)に由来しており,さらにこの内腔側に粘膜下層(submucosa:sm)が高エコー層として識別できることもある.

消化管―小腸,大腸 畠 二郎
  • 文献概要を表示

解剖と検査法

 小腸の走行は自由度が高く,消化管の中で唯一系統的走査の困難な部位である.したがって,胃・十二指腸,および大腸を確実に同定することでそれ以外の管腔臓器を小腸と判断することになる.また,豊富なKerckring襞,頻回の蠕動なども小腸に特徴的である.小腸腸間膜は左上腹部から右下腹部に向かって走行していることから,空腸は左上腹部,回腸は骨盤腔を中心とする下腹部に存在していることも部位の同定上参考となる.

 一方,大腸において上行結腸,下行結腸,直腸は通常固定されており,これらを同定し管腔を追跡することにより,ある程度の系統的走査が可能である.上行結腸は腹腔内で最外側最背側を頭尾方向に走行し,ハウストラを呈し,内腔にガスや便の貯留した管腔として描出され,リアルタイムに蠕動をみることは少ない.下行結腸は左側腹部において上行結腸と同様の位置を走行する(図1a,b).直腸は前立腺あるいは腟の背側に描出される.

膀胱・前立腺 沖原 宏治
  • 文献概要を表示

解剖と検査法

 膀胱・前立腺において,腹部超音波検査の対象となる疾患を腫瘍性,非腫瘍性に分類すると,前者の代表的なものに,膀胱癌,前立腺癌が挙げられる.また,後者の代表として膀胱結石,前立腺肥大症などがある.なぜ腫瘍性と非腫瘍性疾患にあえて類別したかといえば,腫瘍性疾患の場合は,腹部超音波検査の施行により存在診断,可能であれば質的診断を確定し,腹部超音波検査単独で質的診断(悪性の可能性があるか?)の確定がほぼ可能であったとしても,ほかの検査(膀胱癌の疑いならば膀胱鏡,前立腺癌の疑いならば前立腺特異抗原:PSAの採血)に移行していくことが特徴的であり,非腫瘍性疾患では,腹部超音波検査そのものが確定診断,あるいは診断基準の必須な検査につながることが多いからである.

 排尿障害を評価する残尿測定,前立腺容積測定を行うために膀胱,前立腺をうまく描出することが重要である.

子宮・卵巣 津﨑 恒明
  • 文献概要を表示

 その簡便性と非侵襲性から臨床の場で多用される超音波検査であるが,婦人の下腹部検査にあたってはいくつかの注意を要する事項があり,本稿ではそれらを中心に,女性生殖器疾患の超音波診断などについて解説する.したがって,胎児および付属物に関する診断など,産科領域における各論的解説は別稿1)に譲る.

 また,近年の産婦人科臨床では,経腟走査法による検査が主流となっているが,ベッドサイドにおける超音波検査の範囲を越えるので,本稿では経腹走査法を中心に記述する.

Ⅳ.腹部 状況からみた腹部エコー

急性腹症 佐藤 通洋
  • 文献概要を表示

 腹痛は内臓痛,体性痛,関連痛に分けられる.急性虫垂炎でみられる心窩部から始まり右下腹部に限局してくる腹痛が,まさに内臓痛と体性痛である.内臓痛は管腔臓器の平滑筋の強い収縮や伸展,実質臓器の急激な腫脹による被膜や臓側腹膜の伸展などによる局在の不明瞭な心窩部や臍部の間欠的鈍痛である.体性痛は局所のさまざまな因子による直接刺激で起こる持続性の鋭い痛みである.したがって,内臓痛の時期には腹部全体を走査する必要がある.実際に,心窩部痛の患者で腫大した虫垂を描出することがある.また,腹痛の程度や性質は疾患の推測に役立つので,検査中の患者との対話は大事である.

腹部外傷 井戸口 孝二
  • 文献概要を表示

 超音波検査は,その非侵襲性や簡便性により,多岐の分野にわたって幅広く普及している検査である.救急領域においても診断や治療目的に頻用されているが,近年,特に外傷初期診療における超音波検査の有用性が重要視されている1)

 腹部外傷における超音波検査の有用性を1971年にKristensenらが報告して以来,ヨーロッパと日本を中心に,外傷診療においても積極的に超音波検査が導入されるようになった.そして,1991年にKimuraら2)が,さらにはRozyckiら3)が腹腔内出血と心囊液の検索を目的とした外傷患者に対する超音波検査の有用性を報告した.これらは後にFASTと命名され,今日では外傷初期診療における必須の検査の1つになっている4).その検査法については,臓器の形態異常を詳細に観察する一般的な超音波検査とは一線を画しており,その特異性を十分に理解しておく必要がある.

小児 内田 正志
  • 文献概要を表示

 小児の日常診療で超音波検査(以下,腹部エコー)を腹部の聴診器のように活用するようになって10年以上が経つ.小児の場合は,消化器をはじめ,腎・尿路系,卵巣・子宮も含めた腹部全体を観察するのが普通である.腹部エコーの威力を最も実感するのは迅速さと的確さを要求される急性腹症(=急性腹痛)の診断時であると確信するようになった.急性腹症をきたす疾患のなかで,消化管疾患はガスの影響で,腹部エコーの最も苦手な領域であったが,装置の進歩や描出の工夫によって,得意な領域へと変化しつつある.成人に比べて,小児では内視鏡検査や造影検査が簡単にはできないため,非侵襲的な腹部エコーの果たす役割はより大きいと考える.

 小児では“狭義の急性腹症”は少なく,多くは“広義の急性腹症”(=急な腹痛,嘔吐,下痢,発熱をきたす疾患)である.診断にあたって重要なことは,腸閉塞や急性虫垂炎などの外科的対応の必要な例(狭義の急性腹症)を見逃さないことである.以下,小児の腹部エコーの役割について,腹痛や嘔吐をきたす疾患を中心に述べる.

  • 文献概要を表示

 無症状の疾患を早期に発見することを目的として,健康診断,人間ドックや集団検診が行われている.これらは健康診査と総称される予防医学の手法であるが,このうち個人の健康確認を目的とするものを健診と呼び,住民や職域などの集団を対象とするものを検診と呼ぶことが多い.本稿では健診と検診とを合わせて「けんしん」とする.

 「けんしん」で異常所見を指摘されて一般医を受診する患者は多い.これは「けんしん」を受診する人々が多いこと,および超音波診断装置が改良されて「けんしん」での疾病発見率が高くなったことによると考えられる.ここでは,「けんしん」で要精査といわれた患者に対してどのように精査を進めるか,また異常を指摘した施設にどう返信するかについて,「けんしん」で異常を指摘された患者を主な対象として画像診断を行っている立場から記す.

集団検診の現状と課題 三原 修一
  • 文献概要を表示

 筆者らは,1983年8月から,人間ドックおよび地域・職域集団検診に腹部超音波スクリーニングを導入し,この24年間に延べ150万人以上の検診を行ってきた.その目的は,従来の検診では発見できなかった疾病,特に悪性疾患の早期発見であり,その成果については,これまでにも数々の報告を行ってきた1~7).本稿では,腹部超音波検診の方法と成績を紹介し,検診の確立と普及に向けての課題と将来展望について述べてみたい.

Ⅳ.腹部 特殊な腹部エコー

造影エコー 今井 康晴 , 森安 史典
  • 文献概要を表示

 1999年,わが国において経静脈性超音波造影剤であるLevovist®が発売された.以後,多くの造影エコー診断法や診断技術が開発されたが,いずれも高規格超音波装置のみでしか映像化できなかった.2007年1月,次世代超音波造影剤であるSonazoid®が世界に先駆けて本邦で発売され,肝疾患における造影エコーの役割が高まることが期待されている.本稿では,腹部疾患における造影エコーの実際について概説する.

  • 文献概要を表示

 超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography:EUS)は対象臓器の近くで走査や観察が可能であり,消化管壁や消化管近傍臓器の高分解能の超音波像が得ることができる.

EUSの機種

 EUSの走査方法には,ラジアル式,リニア式,コンベックス式がある.ラジアル式は,スコープの長軸に直交する面で360度の断面が得られ,オリエンテーションが容易である.近年では,電子ラジアル式の出現により,ドプラ機能を有し,血流評価が可能である.リニア式,コンベックス式は,スコープの長軸を通る面の断層像が得られる.ドプラ機能や穿刺が可能であり,脈管を避けて目的臓器に穿刺することが可能である.近年では,この穿刺機能を用いた組織診断法〔超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS guided fine needle aspiration:EUS-FNA)〕やドレナージ術〔EUS下膵仮性囊胞ドレナージ(EUS guided psuedocyst drainage)〕などのinterventional EUSが臨床の場で普及している.

  • 文献概要を表示

 超音波検査は非常にポピュラーな画像検査であり,近年,超音波機器がポータブルかつ高性能となり,聴診器のようにベッドサイドや外来診察で簡便に使用できるようになった.また,日常診療で穿刺行為は多く行われる手技で,穿刺に超音波検査を併用するエコーガイド下穿刺は,手技の精度,安全性の向上が期待できる.

 今回,エコーガイド手技を簡便な穿刺から経皮経肝胆道ドレナージ(percutaneous transhepatic biliary drainage:PTBD)など熟練を要する手技まで3段階のレベルに分けて紹介する.

  • 文献概要を表示

 日本では,乳癌罹患率が上昇し続け,現在20~30人に1人が罹患するともいわれている.本稿では,主として乳癌診断のための超音波検査法について概説する.

 乳房の超音波検査は,乳癌診断に最も重要なツールとしてマンモグラフィとともに実施される.マンモグラフィは悪性所見の1つである微細な石灰化の描出に優れているが,若年者など萎縮の少ない乳腺では腫瘤像がとらえられない場合が多くみられる.一方,超音波検査はこのような場合や,大きな乳房,乳腺症を伴った乳房など,触診で腫瘤がわかりにくい場合も有用である.

甲状腺 鈴木 眞一
  • 文献概要を表示

解剖と検査法

 甲状腺の解剖は図1に示すように,頸部横断像で,頸椎以外は明瞭に描出される.甲状腺は均質で周囲の筋肉より高エコーレベルで描出され,気管をはさみ両側に位置し,その外側には総頸動脈,内頸静脈が近接している.背側には食道があり,超音波検査法(ultrasonography:US)でも容易に描出される.

 検査法としては,通常臥位で低い肩枕を入れて頸部をやや伸展位にして検査する.座位で施行している施設もある.後者は,患者には不安なく,外来超音波室で多数例をこなすには有用な方法である.しかし,甲状腺は座位の場合,縦隔内に入り込む部分が多くなり,縦隔内甲状腺腫や,上縦隔所見を検索したり,細胞診まで行うにはやや不十分である.甲状腺手術自体が,肩枕を挿入し,頸部伸展位で行うことから,術前のmappingを行うにしても,前者が望ましい.

副甲状腺 稲澤 健志 , 貴田岡 正史
  • 文献概要を表示

解剖と検査方法

 副甲状腺は,典型的には甲状腺両葉の背面に上下計4腺存在する.しかし,個人差が大きく,数は3~8腺に及び,位置も気管や食道の背面,上縦隔などに異所性に存在する場合がある.正常副甲状腺の大きさは2×4mm程度であり,CTやMRIでは描出困難である.表在臓器用の超音波断層装置では描出可能な大きさであるが,正常副甲状腺の音響レベルが甲状腺組織と同程度であるため,実際に同定することは困難である.

Ⅵ.末梢血管

  • 文献概要を表示

解剖と検査法

■解剖

 頸動脈検査で対象となるのは,総頸動脈(common carotid artery:CCA),内頸動脈(internal carotid artery:ICA),外頸動脈(external carotid artery:ECA),椎骨動脈の4つである(図1).

 頸動脈の区分は,①CCA,②大動脈球(bulbus)または頸動脈分岐部(bifurcation:BIF),③ICA,④ECAに分けられる(図2)

下肢動脈 井上 芳徳
  • 文献概要を表示

解剖と検査法

 解剖としては,腸骨動脈から総大腿動脈,浅大腿動脈,大腿深動脈,さらに膝窩動脈から下腿3分枝(後脛骨動脈,前脛骨動脈,腓骨動脈)の走行を理解する(図1).

 検査手順としては,カラーモードにて縦断像で腸骨動脈領域を走査し,さらに総大腿動脈,大腿深動脈起始部へと移行する(図2).腸骨動脈領域は,肥満や腸管ガスの多い場合には描出が困難な場合があり,その際は総大腿動脈でのドプラ波形を記録し,収縮期最大流速(peak systolic velocity:PSV)を測定し,病変の有無を判定する.浅大腿動脈から膝窩動脈を走査した後,膝窩動脈でもドプラ波形を記録し,PSVを測定する.途中に狭窄性病変があれば,その部位でドプラ波形を記録し,PSVを測定する.

 下腿3分枝は起始部から足関節レベルまで走査する(図3,4)が,すべてを走査すると時間を要することと,くまなく画像化することは難しいので,実際には下腿動脈領域へのバイパス術の適応を判定する場合に限定して施行することが多い.

下肢静脈 高瀬 信弥
  • 文献概要を表示

 近年,超音波診断法の発達がめざましく,あらゆる分野で応用され,診断,治療になくてはならない存在になってきた.血管の分野においてもその状況は同じである.さらに,2004年から『静脈血栓塞栓症・肺塞栓症予防管理料』の設定により,静脈血栓症,特に下肢深部静脈血栓症に対する関心が高まり,その診断における超音波検査法の意義は重要性を増している.しかし,静脈に関する超音波検査診断については心臓や腹部超音波診断法と比較して,医師,超音波検査技師の認識度,習熟度が十分とはいえない.本稿では,日常臨床の場において多く遭遇する下肢静脈疾患に対する超音波診断法について,短時間で検査を完了するためのtipsを述べたい.

エコーガイド下血管穿刺 田中 信大
  • 文献概要を表示

 中心静脈穿刺は,中心静脈栄養のルートとして,中心静脈圧測定・Swan-Ganzカテーテルによる血行動態の評価,ペースメーカーの挿入,透析用カテーテルの挿入など,さまざまな目的において必須の手技である.その穿刺経路としては,鎖骨下静脈,内頸静脈,大腿静脈があるが,一般的にはその合併症の発生頻度(表1,2)から鎖骨下静脈が選択される.合併症の発生頻度は術者の経験による差が大きいが,一方で多くの経験を有する術者であっても,ある一定の確率で合併症を生じる可能性がある.術者の経験の有無によらずに,少しでもその合併症の発生を減らすためには,エコーガイド下に穿刺を行うことが重要である.

基本情報

00257699.44.12.jpg
medicina
44巻12号 (2007年11月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月23日~3月29日
)