生体の科学 67巻5号 (2016年10月)

増大特集 病態バイオマーカーの“いま”

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 生体は,複雑なネットワークにより動的恒常性が保たれており,疾病の発症はその破綻に基づくものと考えることができます。その恒常性の破綻を客観的な生体情報のモニタリングにより検知することは,疾病の発症機序を解明するためにも,また,臨床の場で疾患を診断,しかも早期に診断するためにも,たいへん重要なことです。このような,生体の状態を客観的に評価するための指標をバイオマーカー,そして病態と連関するそれを病態バイオマーカーと称しますが,疾患の診断,治療モニタリングのために,“検査”として病院での日常診療に幅広く活用され,医療の根幹をなすものになっていることは周知のとおりです。このようなバイオマーカーを探索する研究は,基礎医学研究者にとっても,臨床家にとっても,違う側面からたいへん重要であり,基礎・臨床の架け橋になる領域と思います。まさに『生体の科学』の読者にぴったりのテーマと考え,編集委員,そして臨床検査医学を専門とする矢冨が今回の増大特集号を企画しました。

 バイオマーカーを広く捉えれば,血液,尿,髄液,各種体液など生体から得られた検体を分析するもの,体温,脈拍数,呼吸数などの診察で得られる情報,心電図をはじめとして生体活動を直接検知する生理学的検査なども含まれますが,本書では検体を分析するものを主に扱います。この領域は日進月歩であり,既に日常診療で臨床検査として活用されているものの数は膨大ですし,現在も着実に新しいものの導入が進んでいます。本書は,辞典的に網羅するのではなく,注目度の高いもの,臨床応用には至らなくても開発途上のもの,あるいは将来のバイオマーカーとして期待できるものなどを中心に構成させていただきました。また,加藤忠史先生(理化学研究所脳科学総合研究センター)にも精神・神経疾患を中心に企画協力いただき,全体として類書にないような斬新な構成にすることができたと考えております。

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 疾患を早期に発見し,的確に診断するうえでバイオマーカーは重要な役割を果たす。心疾患においては,心筋の収縮やエネルギー代謝にかかわる分子が心筋傷害のバイオマーカーとして現在用いられている。近年では,遺伝子の発現を転写後に制御するマイクロRNAが感度や特異性に優れた新たなバイオマーカーとして注目されている。本稿では,現在用いられている心疾患のバイオマーカーの臨床的意義とバイオマーカー研究の今後の展望について述べる。

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 アルツハイマー病患者で最初にみられる病理変化が,脳内のアミロイドβペプチド(Aβ)の蓄積である。Aβの前駆体タンパク質APPの中でも,ニューロンが発現するAPP695は認知症研究者によって精力的に研究されてきた。筆者らは血管内皮細胞がAPP770を発現することを最近明らかにした。血管内皮型APP770の動態を明らかにすることで,血管内皮障害をモニターできるのではないかとの発想のもとに,急性冠症候群の診断薬としての利用価値を見いだした経緯を述べたい。

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 ナトリウム利尿ペプチドは,心不全の診断および心不全患者のモニターとして過去15年以上にわたって使用されている。特にB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)とBNP前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)は,現在,心不全の診断,重症度,予後の指標として最も頻用されている血液バイオマーカーである。本稿では,ナトリウム利尿ペプチド関連マーカーについて概説する。

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 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)は元来,生物が海から陸上へと進出する進化の過程で,海水と同じ組成の細胞外液を体内に保持し,陸上での生存を可能にするために発達し獲得された。一方,重症心血管疾患において賦活化されるRAASは,末梢血管抵抗を上昇させ,体液中のナトリウムを貯蓄させることで循環動態の維持に働く,いわば生体の代償機転と考えられる。しかしながら,その持続的過剰活性は心臓や腎臓,血管において肥大や線維化,酸化ストレス発生などを引き起こし,逆に病態を悪化させるようになる。このように,進化の時間軸からするとあまりに劇的に変化した現代の生活環境において,生命の維持に不可欠であるはずのRAASは,その生理学的意義に反し,様々な心血管疾患の病態形成に寄与している。

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 マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は,細胞外マトリックス(ECM)のリモデリングを担う主要なタンパク質分解酵素である。血管組織はECMを豊富に含むため,基質的血管疾患ではMMPが良い診断・病態バイオマーカーになる可能性がある。血中MMP濃度の測定だけでなく,疾患および部位特異性の向上を目指してイメージング手法も開発されつつある。血管疾患におけるMMPの役割解明が進むことで,バイオマーカーとしての意義も明らかになると期待される。

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 CD40リガンドは,活性化血小板から局所放出される炎症調節物質である。急性冠症候群の発症には動脈硬化巣の破綻と,破綻部位への血小板の集積が寄与する。血小板細胞は,全身の微小血管の内皮細胞機能の影響を受ける。血漿CD40リガンド濃度は全身の血管内皮細胞機能と関連し,急性冠症候群の病態を反映する。

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 血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)は,血小板の活性化顆粒内容物の一部が血小板膜に包まれたまま千切れてできた膜小胞体である。PDMPはプロコアグラント活性を有し,動脈硬化の様々なプロセスにおける炎症機転にもかかわる重要な機能粒子である。PDMPはフローサイトメトリーで検出されるが,より簡便な酵素免疫測定(ELISA)法でも測定できる。筆者らは,ELISA法による測定で急性冠症候群(ACS)における高値や冠動脈インターベンション(PCI)後の経時的増加を観察した。PDMPの測定により,プラーク不安定化やPCI後の傷害血管壁の病態を把握できるばかりでなく,各種治療によりプラークの安定化を図る際や傷害血管の修復の指標となる可能性がある。

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 1986年,ヒトにおいて,初めて血管内皮機能が測定されて以来,30年が経過した。侵襲的な冠動脈血管カテーテル法から,非侵襲的なプレチスモグラフィー,flow-mediated vasodilation(FMD),reactive hyperemia-peripheral arterial tonometry(RH-PAT),新規血管内皮機能測定法といった広義のバイオマーカーを含めて,血中あるいは尿中のケミカルバイオマーカーの生物学的機構,臨床的意義,測定法や,その問題点に関して概説したい。

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 近年,骨格筋は単なる運動器ではなく,様々な生理活性物質—いわゆるマイオカイン—を分泌する内分泌臓器として働くことが明らかとなってきた。このようなマイオカインの発現プロファイルは,有酸素運動とレジスタンス運動で異なることがわかってきた。マイオカインを介した臓器間ネットワークの解明は,運動療法の臨床的有用性の分子機序解明のみならず,新規バイオマーカーや治療標的の同定につながる可能性があると考えられる。

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 D-ダイマーは安定化フィブリン分解の鋭敏なマーカーであり,静脈血栓塞栓症(VTE,肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症の総称)の診断過程において,その高い感度と陰性的中率から除外診断法として有用である。VTE臨床確率評価を加えることで,VTE疑い症例から画像診断を必要とする症例を絞り込むことが可能となる。更には,VTE治療における抗凝固療法継続の必要性の予測方法としての有用性にも注目されている。

DICの分子マーカー 窓岩 清治
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 DICは,何らかの基礎疾患により血液凝固系が過度に活性化された病態である。プロトロンビンフラグメント1+2やトロンビン-アンチトロンビン複合体,可溶性フィブリンモノマーはトロンビン生成の指標であり,DIC診断の本質を成す。一方,プラスミン生成を反映するプラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体は,フィブリノゲン・フィブリン分解産物やD-ダイマーと共にDICの病型を把握するうえで有用である。プラスミノゲンアクチベータインヒビター-1や白血球エラスターゼによるフィブリン分解産物は,生命予後を予測する分子マーカーに位置付けられる。

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 白血病において,腫瘍細胞の遺伝子産物やシグナルなど分子経路を標的として抑制する分子標的薬の開発と臨床利用が進められている。白血病遺伝子マーカーとして標的分子を検出する遺伝子検査(体細胞遺伝子)は,治療薬の効果の指標となり,治療薬の代謝酵素の遺伝子多型(バリアント,遺伝学的検査)は治療薬の副作用の指標となる(ファーマコゲノミクス検査)。コンパニオン診断は合理的な治療薬の開発と利用に有用な情報を提供する。

Ⅱ.腎疾患

CKDのバイオマーカー:総論 要 伸也
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 慢性腎臓病(CKD)とは,タンパク尿または腎機能低下(糸球体濾過量〔GFR〕が60mL/分/1.73m2以下)が3か月以上持続する病態である1,2)。一方,バイオマーカーとは,「客観的に測定・評価が可能で,生物学的・病理学的プロセスないし治療介入に対する薬理学的反応性の指標となるもの」と定義される3)。ここで,タンパク尿・アルブミン尿,糸球体濾過量およびそれを反映する血液検査値は,測定が容易であり,腎機能・腎障害の程度を反映すると共に,それらが治療のターゲットや予後予測因子としても有用であることが様々な疫学データによって示されており,バイオマーカーの条件を満たしていると考えられる。一方,CKDを来す各種病態の発症,進展,あるいはその修復に伴って変化し,腎障害の程度・予後をある程度予測できる検査値もある(表1)。多くはまだ検証不十分であるが,近年研究・開発が進んでおり,今後の展開が期待される。幾つかは,CKD全体のバイオマーカーとしての役割もありそうである。これらも広い意味のCKDのバイオマーカーと言えるが,本稿では,CKDに共通するマーカーとして確立している,尿タンパク・アルブミン,血清クレアチニン・シスタチンC,内因性GFR(推測値)を取り上げ,概説する2,4)。各マーカーの詳細についてはそれぞれの項目を参照されたい。

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 急性腎障害(acute kidney injury;AKI)は2000年以降に提唱された新たな疾患概念であり,それまで急性腎不全(acute renal failure;ARF)と呼ばれていた病態に加えて,集中治療領域における多臓器不全の一分症も包括した,幅広い疾患スペクトラムを有する症候群である。なかでも早期診断と早期介入が強調され,血清クレアチニン濃度(sCre)上昇や尿量減少よりも鋭敏かつ正確な診断指標としてのバイオマーカーの開発が進められてきた。

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 Neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL)は好中球分泌顆粒から発見された機能未知のタンパク質であったが,試験管内で腎分化誘導活性を有し,腎障害で最も発現が増加する分子の一つであることがわかった。本稿では,腎障害における尿中NGAL増加のメカニズム,腎疾患バイオマーカーとしての尿中NGALの有用性を解説する。また,全身各臓器に対するNGALの多彩な生物学的作用について述べる。

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 代表的な細胞外小胞のサブセットであるエクソソームは,①細胞間の情報伝達を担っている,②由来する細胞が明瞭である,③細胞機能タンパク質を選択的に含んでいる,④細胞の状態に依存して生成されるなどの特徴を持つ。これらの特徴から臨床応用が期待されるために,この10年間,エクソソームを中心とした細胞外小胞研究は,著しく進展している。腎臓病学分野においても,尿中の細胞外小胞中の物質を腎疾患バイオマーカーとして応用する試みが,世界的に精力的に研究されている。

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 特発性膜性腎症(MN)は,成人ネフローゼ症候群の主因の一つで,腎糸球体ポドサイトへ免疫複合体の沈着による細胞傷害が原因となる糸球体腎炎である。抗ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)抗体は,活動期の特発性MN患者の血中のみに認められ,その血中濃度は病勢と正相関することから,特発性MNの鑑別や治療評価に有用な血中バイオマーカーとして注目されている。

L-FABPと糖尿病性腎症 野入 英世
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 L-FABPは,ヒトの腎臓では近位尿細管に限局的に発現しており,虚血による低酸素や酸化ストレスにより誘導され,腎障害バイオマーカーとして,糖尿病性腎症も包括した体外診断薬の認可を取得しており,診療報酬点数は210点である。測定法としては,ELISA,ラテックス凝集法,化学発光酵素免疫測定法が用いられており,日差再現性が高い。糖尿病性腎症での病期の進行のみならず,2型糖尿病における心血管系イベント発症のリスクを早期に検出し得る指標として期待されており,日常診療では尿アルブミン値と共に測定することで患者ケアを深化させることができる。

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 わが国の慢性腎臓病(CKD)患者は1,300万人存在すると報告されており,これは成人の約13%であり,糖尿病・高血圧と並ぶ国民病と言って過言ではない。CKDが進行し,末期腎不全に至ると人工透析が必要となるが,人工透析を受けている患者は,2015年には約32万人となり1),血液透析では一人当たり1年で500万円以上医療費がかかることから,医療経済の面でも問題となっている。また,CKDは心筋梗塞や脳卒中の危険因子としても知られており,その対策が急務となっている。

 バイオマーカーは,「通常の生物学的過程,病理学的過程,もしくは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として,客観的に測定され評価される特性」と定義される2)。すなわち病気の進行や薬剤の効果など,生体内における生物学的な変化を定量的に把握するための指標となる物質を指し,採取が比較的容易な血液や尿に含まれるタンパク質などが用いられることが多い。本稿では既存の腎バイオマーカーについて概説する。

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 2型糖尿病の病態把握のためには,インスリン分泌低下とインスリン抵抗性を把握する簡便な指標が必要である。本稿では,空腹時血糖値とCPR値で計算できるインスリン分泌と,インスリン抵抗性の指標について紹介する。1型糖尿病の自己抗体,抗GAD抗体のアッセイ法がRIA法からELISA法に変わりカットオフ値も変化した。1型糖尿病患者でわずかながら残っているCPRを測定できる高感度CPRアッセイキットも開発され,日常診療で使えるようになった。

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 アディポネクチンは,抗炎症,抗糖尿病,抗動脈硬化作用を有するアディポサイトカインで,脂肪細胞特異的に分泌され動脈硬化巣や傷害臓器に集積する特異な性質を持つ生体防御分子である。血中に4-30μg/mLという高濃度で存在するが,内臓脂肪が蓄積すると血中濃度が低下する。メタボリックシンドロームにおいて,アディポネクチンの欠乏は中心的な役割を担っており,健診などの機会で測定して“低アディポネクチン血症”を評価することは,内臓脂肪を減少させる指導を行う予防医学において有用と考えられる。

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 活性酸素の過剰産生による酸化ストレスは,感染,炎症,がんをはじめ,様々な疾患にかかわることが知られている。活性酸素は生体分子の化学修飾を起こし,その機能を改変することにより疾患病態の発現に関与することから,このような生体分子の修飾は酸化ストレスのバイオマーカーとして,診断や治療などの臨床応用が期待される。本稿では,酸化ストレスバイオマーカーの生成,機能,検出法について最新の知見を交えて概説する。

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 ヘプシジン-25は,鉄代謝系の変動に応じて分泌され,体内鉄を回転利用して血中への鉄供給を制御し,血清鉄の恒常性を保つフィードバック機構の中心的役割を演じている。一方,ヘプシジン-25分泌は鉄代謝以外の要因でも誘導され,鉄代謝系を攪乱する。ヘプシジン-25値は,特定の疾患の診断的価値を持つものではないが,鉄の回転利用状況を裏付ける指標であり,鉄代謝系の病態理解に欠かせない重要なバイオマーカーとなっている。

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 糖尿病患者の蔓延は世界的な傾向であり,2015年の糖尿病アトラス第7版によれば,世界の糖尿病有病者数は4億1,500万人とされている。糖尿病患者では,大小様々なレベルの血管が障害され,透析,中途失明,心筋梗塞などのイベントリスクが上昇する。加えて,糖尿病では,老化のプロセスが進行し,アルツハイマー病,がん,骨粗鬆症などの老年疾患の発症リスクも上がってくることが明らかにされてきた1-5)。そして,これら疾患の発症,進展の共通の分子基盤に終末糖化産物(AGE)の形成亢進や蓄積がかかわっていることが推定されてきている1-5)。本稿では,老年疾患のバイオマーカーとしてのAGEの臨床的意義について解説する(図)。

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 AIMはマクロファージが産生する分泌型タンパク質である。分泌されたAIMは血中タンパク質として体内を循環するが,その濃度は個人差があり,それは遺伝的背景に加え,疾患や健康状態を含んだ様々なファクターによって決定すると考えられる。本稿では,筆者らがこれまでに計測した健常人と各種疾患患者の血中AIM濃度と,マウスを用いた機能解析から得られた知見から,血中AIM値と疾患の関連性,そしてAIMのバイオマーカーとしての可能性について論ずる。

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 LOX-1は,変性LDLと結合し血管内皮機能障害,炎症,血管壁脂質沈着などを促進する動脈硬化進展促進因子である。LOX-1は様々な刺激により非常に急速に発現が亢進するタンパク質で,それが切断されて生じる可溶型LOX-1(sLOX-1)が,急性冠症候群などの診断に有用であることがわかってきた。また,リガンドである変性LDL(LAB)も測定法を工夫したことにより,動脈硬化性疾患のリスクの評価に有用であることが明らかとなってきている。

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 骨粗鬆症の診断と治療において,骨代謝マーカーを用いて骨代謝状態を把握することは重要であり,その測定が推奨されている。現在,骨粗鬆症に対し,保険収載されている骨代謝マーカーは全部で9種類あり,骨吸収マーカーならびに骨形成マーカーが存在する。使用薬剤によって特異的に変化する骨代謝マーカーがあるため,各マーカーの特性を理解することは重要である。薬効評価に関しては,各マーカーで算出された最小有意変化(MSC)を超える変化が見いだされた場合に有意な効果があったと判断する。今後,骨代謝マーカーに関してより詳細な研究が進むことで,各マーカーの疾患や薬剤に対する特異性が見いだされることが期待される。

Ⅳ.炎症・線維化

炎症マーカー総論 堤 明人
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 炎症マーカーとしてはC-reactive protein(CRP)と赤血球沈降速度(ESR)が臨床上よく使用される。CRPは比較的忠実に個々の患者の炎症の程度を反映するが,ESRは炎症以外の多くの要素に影響されるため,特に両者に乖離がある場合は解釈に注意が必要である。血清アミロイドA(SAA)は免疫抑制状態にある患者などにおける炎症の評価に有用である。

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 酸化ストレスなどによる軽度の血管炎症が,動脈硬化病変の進展に重要な役割を演じることが明らかになり,それと平行して,その病態を評価するバイオマーカーとして高感度CRPが着目されてきた。他方,CRPは単なる炎症マーカーではなく,炎症の局所で炎症細胞上の受容体に結合して,細胞を活性化するなどして動脈硬化病変の形成にも積極的にかかわっていることが明らかになって,ますます動脈硬化との密接な関係が明確になってきた。

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 アドレノメデュリン(AM)は1993年に褐色細胞腫抽出液より単離同定された,強力な血管拡張作用を有する生理活性ペプチドである1)。当初は循環調節ペプチドとしての研究が推進されたが,その後の研究でAMが全身臓器で分布発現しており,血管新生作用,心血管系保護作用,腎保護作用,抗酸化作用,抗アポトーシス作用,インスリン抵抗性の改善など,極めて多彩な生理作用を有することが判明している2)。また,AMの産生分泌は,心筋や血管壁伸展などの機械的刺激をはじめ,炎症性サイトカインなどの炎症惹起因子,アンジオテンシンⅡ,酸化ストレス,虚血や低酸素刺激など種々の因子によって増加することが判明している。それに伴い,循環器疾患や炎症性疾患ではAMの血中濃度が増加している。本稿では,AMおよびAM前駆体の非活性フラグメントであるmid-regional proadrenomedullin(MR-proADM)の疾患マーカーとしての可能性について言及したい。

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 感染に伴う炎症反応のバイオマーカーは,微生物所見と合わせ,感染症の診断,重症度/予後予測,更には抗菌治療効果や終了評価指標として利用される。古典的な白血球総数や左方移動,C-反応性タンパク質(CRP)の診断能は高くない。プロカルシトニン(PCT)とプレセプシン(P-SEP)は古典的マーカーよりやや優れた診断能を有するが,単独で用い得るほどではない。PCTの経過を評価し抗菌薬終了の指標とする試みがあり,治療効果を変えることなく抗菌薬投与期間の短縮に寄与し得る。

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 敗血症の診断マーカーとしてわが国で開発されたプレセプシン(CD14サブタイプ)は,現時点において他のマーカーに比較して最も優れた敗血症の診断マーカーである。全血を用いて,パスファースト®による化学発光酵素免疫測定法により約17分間で自動的に結果が得られるまでになった。現在,保険収載もされ,今後臨床の場において広く用いられることが期待される。

Sema4D/CD100と関節リウマチ 熊ノ郷 淳
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 セマフォリン分子群は従来発生過程の神経軸索誘導にかかわる因子として同定されたが,近年,血管新生,骨代謝,がんの転移,免疫など,多岐にわたる生理活性が次々と報告されている。なかでも免疫制御にかかわる一群は“免疫セマフォリン”と呼ばれ,様々な免疫担当細胞への作用を有している。また,多発性硬化症,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE),アトピー性皮膚炎,がんなどの疾患への関与も示されている。本稿ではSema4D/C100の関節リウマチへの関与とバイオマーカーとしての知見を交え,免疫セマフォリンの機能および疾患との関連について述べる。

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 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,吸入されたタバコ煙などの有害物質を長期に曝露することで生じる肺の炎症性疾患である。COPDの発症,進展のメカニズムは,酸化ストレスおよび肺における過剰なプロテアーゼの発現によって,炎症反応が更に増強され,気腫性病変などの特徴的な病理学的変化が引き起こされる。これらは,プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡説,またはオキシダント・アンチオキシダント不均衡説で提唱されてきた。近年,COPDは肺の炎症のみならず全身性炎症が存在し,様々なサイトカインを含めた炎症性メディエーターの上昇が認められる。全身性炎症の発症機序として,肺で産生された炎症性サイトカインの“spillover”が想定されている。このように,COPDの病態には深くサイトカインが関与していることが推測される1)(図)。本稿では,COPDに関与するサイトカイン,特に炎症性サイトカインインターロイキン(interleukin;IL)-18を中心に,筆者らの研究も含めて解説する。

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 近年,サイトカインやその受容体を標的とした様々な抗体医薬品が臨床で使用されており,関節リウマチやクローン病,潰瘍性大腸炎など多くの自己免疫疾患において極めて優れた治療効果を発揮し,治療方針も対症療法から臨床的寛解と寛解維持へシフトしつつある。一方で,治療効果を客観的に評価できるバイオマーカーがないことが多いため,バイオマーカーの開発が必要とされている。筆者らが同定したleucine-rich α-2 glycoprotein(LRG)は,IL-6非依存的な発現誘導機序も有する血清タンパク質である。そのため,IL-6阻害療法時の関節リウマチのみならず,CRPが有効なマーカーとならない潰瘍性大腸炎においても疾患活動性と相関するため,新たな疾患活動性マーカーとしての臨床応用が期待される。

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 肝線維化を血液マーカーにより診断する方法は古くから試みられてきたが,なかなか,実用に供すことができるマーカーが見つかることは少なかった。そのような中,診断能に優れた新規肝線維化マーカーが,相次いでわが国の研究室から報告された。一つは線維化に伴う糖鎖修飾の変化に注目して,最新の網羅的な検索により発見されたM2BPGiであり,もう一つは古典的な動物モデルでの検討から見いだされたオートタキシンである。

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 間質性肺炎とは,肺の間質を炎症や線維化病変の基本的な場とする疾患の総称である。現在わが国では,Ⅱ型肺胞上皮由来のバイオマーカーであるKL-6,SP-A,SP-Dが間質性肺炎の診断と共に,疾患活動性や臨床経過・予後予測のマーカーとして利用されている。また,新たな間質性肺炎マーカーとして,MMP-1,7やCCL-18,ペリオスチン,LOXL2などが注目されている。

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 近年の免疫療法や分子標的治療薬などの化学療法を含めた集学的治療の発展により延命効果は著しいが,進行再発がんの治癒は依然として一部の症例に限られる。一方,早期に診断ができれば少ない負担でがんを根治できる時代を迎えている。そのため,がん死亡の減少に確実に寄与し得る新たな早期診断技術の開発が注目されている。将来のがん早期診断のためのバイオマーカーの有力な候補として期待されているのが血中マイクロRNAである。研究レベルでの血中マイクロRNAの診断精度は各国で良好な成績を挙げており,一刻も早い前向きな検証と臨床現場での実用化が望まれる。

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 これまで,細胞が外部環境へ放出する物質といえば,サイトカインなど液性因子が主な機能性分子とされてきたが,近年の研究により,ナノスケールの微小分泌小胞エクソソームも細胞間分子情報伝達に重要な機能を果たしていることが明らかとなってきた。更に,産生元細胞の分子情報がコピーされたエクソソームを血液などの体液から採取,分析するリキッドバイオプシーは,がん診断の新しいツールとなりつつある。

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 甲状腺がんのバイオマーカーの代表的なものとしては,分化がんにおけるサイログロブリン(Tg),髄様がんにおけるカルシトニン(Ct)とcarcinoembryonic antigen(CEA)が挙げられる。こういったバイオマーカーは外科的治療によって根治術が施行できたかどうかの指標だけではなく,それを経時的に追うことにより,再発巣の進行状況を推測することに役立つ。分化がんにおける甲状腺全摘後のTgや髄様がんにおけるCtやCEAの術後のダブリングタイム(DT)が短いものは進行が早く,予後不良である。これらのDTは最近,甲状腺がんに対して適応となった分子標的薬剤の適応を考えるための参考データとなり得る。

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 膵がんは最も予後の悪い悪性腫瘍の一つで,早期診断が極めて難しい。筆者らは,膵がんの新しい糖鎖バイオマーカーとしてフコシル化ハプトグロビンを発見し,レクチン-抗体法を使った測定キットを開発してきた。また,近年病理学的な検討から膵がん周囲の膵臓組織の多くに,潜在性の慢性膵炎が存在することを見いだした。膵がんと慢性膵炎では,血中ハプトグロビンのフコシル化の劇的な糖鎖変化がみられた。

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 胆道とは,肝臓で産生された胆汁が通る経路であり,代表的ながんには肝門部領域胆管がん,遠位胆管がん,胆囊がん,十二指腸乳頭部がんがある。胆道がんの診断に用いられるマーカーにはCEA,CA19-9,DU-PAN2,SCCなどがある。近年,血清C-reactive protein(CRP),血清アルブミン値,血中好中球数,血中リンパ球数,血小板数などを用いた,Glasgow Prognostic Score,好中球リンパ球比,血小板リンパ球比なども用いられている。これらのバイオマーカーとがんの病態生理の関連の解明が今後の課題である。

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 S100ファミリーに属するS100A8タンパク質は,好中球や単球などのほか,血管内皮細胞で産生されている。S100A8は細胞遊走能活性化,炎症性サイトカインの発現亢進などの生理機能を持っており,生体内の炎症反応カスケードを維持する重要な役割を果たす。この働きにより,がん転移を促進していることが示唆されることから,S100A8は有力な新規抗がん剤標的分子であると考えられている。

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 CA125はMUC16と同義の1回膜貫通型ムチンで,抗原決定基は細胞外ドメインのコアタンパク質に存在する。細胞膜近傍で切断され遊離したものは血清値として測定される。細胞外ドメインは高度にグリコシル化され,生化学構造はいまだ解明しきれていない。コアタンパク質は2-5×106Daで,N末端,タンデムリピート,C末端の三つのドメインに大別される。CA125はがん細胞同士や腹膜中皮との接着,免疫細胞とのクロストークなどに関与する。健常な結膜,気道上皮などに分布するほか,羊水や授乳液中にも分泌される。主に腫瘍マーカーとして利用されているが,CA125を標的とした治療薬開発も進んでいる。

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 難治性悪性腫瘍である中皮腫の早期診断には,血液や体腔液診断に有用なバイオマーカーの開発が必要不可欠である。現在,可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)は,最も信頼性の高い中皮腫血液診断マーカーとして認識されている。わが国では,化学発光酵素免疫測定法による血清SMRP濃度測定キットが開発され,2014年,SMRPは中皮腫に対する新しい血液診断マーカーとして臨床導入された。

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 大腸がんは世界的にも患者数は増加しており,早期発見,治療が生命予後を左右する。大腸がんの非侵襲的なスクリーニング法としては,血中因子と便中因子の検索が考えられる。これまで,免疫学的便潜血反応や血中CEAが臨床現場におけるマーカー検査として頻用されてきたが,早期発見,再発・予後予測などを目指すためには,新たなマーカーの開発が求められている。現在,便中の遺伝子マーカー,血中のペプチド,RNA,メチル化DNAなどが検証されており,今後の大規模な臨床試験に基づく高い精度での臨床応用が期待される。

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 乳がんにおいてHER2は重要な生物学的特徴の一つであり,治療標的および治療予測因子,予後因子としての役割を有する。エピジェネティクスマーカーの一つであるDNAメチル化は,乳がんサブタイプによりそのパターンが異なると言われており,予後予測因子や治療効果予測因子としての有用性検討のため,今後更なる研究が期待されている。

肝細胞がんの腫瘍マーカー 建石 良介
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 肝細胞がんの腫瘍マーカーとして,わが国ではAFP,PIVKA-Ⅱ,AFP-L3分画の3種が日常臨床で測定可能である。AFPは古くから使用されているマーカーであり,慢性肝炎・肝硬変患者において偽陽性が多いという欠点があったが,糖鎖修飾の差異をレクチン親和性の違いとして検出することによって特異度の大幅な向上がみられた。PIVKA-Ⅱは,プロトロンビンのN末端Glaドメインのカルボキシル化が不十分な異常プロトロンビンとして同定された。特異度が高いという特徴があり,AFPの次に頻用されている。

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 食道がんにおいても,食道扁平上皮癌切除例におけるreal time PCRと免疫組織染色によりPD-L1とPD-L2が検討された。その結果,両者ともその発現の低い患者群と高い患者群の比較において高い発現群の予後が有意に不良であることが報告され,新たな免疫治療における標的であることが示された。リキッドバイオプシーの可能性を含め,血清中のPD-1,PD-L1,PD-L2について当科の食道扁平上皮癌での有用性を検討したところ,血清中PD-L1が予後判定のバイオマーカーとしての有用性が示された。

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 γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)が一部のがん組織で発現が亢進しているという知見に基づき,GGT活性を検出可能な高感度蛍光プローブgGlu-HMRGを開発した。更に,GGTを高発現しているがん細胞やモデルマウスに適用し,肉眼では識別困難な微小がん部位を明確かつ迅速に可視化できることを示した。近い将来,外科摘出手術時における術中イメージング技術として利用されることを期待している。

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 前立腺特異抗原(PSA)は,全がん腫を通じて最も頻用されている腫瘍マーカーである。特異度の低さや集団健診への利用を疑問視する向きがあるなど問題点もあるが,がんの早期発見,リスク分類(予後予測),治療効果判定,治療後の再発フォローアップ,病勢の評価など,これほど診断から治療まであらゆる場面で必要不可欠な腫瘍マーカーは他に類をみない。本稿ではその現状と将来解決されるべき課題について論じる。

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 2015年1月,オバマ米国大統領は一般教書演説でPrecision Medicine Initiativeを提案した。この演説では,precision medicineは,治療の成功率を改善するために,分子レベルでの病気の分類と共に患者個人のゲノム情報を考慮して治療することと定義された。そして,短期的には,より良いがんの治療法の開発と提供が目標とされた。Precision medicineはpersonalized medicineとも表現され,後者は個別化医療と訳されて多くの文献で使用されている。従来の治療戦略(one-size-fits-all approach)では,病名に基づく治療が実施されているが,治療の奏効率は低く,かつ有害事象の発生も増えることになる。一方,個別化医療戦略は,病気を分子レベルで分類し,患者のゲノム情報を基に最適な治療法を選択することであり,高い奏効率と重篤な副作用の回避が期待できる。個別化医療が最も進んでいるのは,がん治療分野であるが,他の疾患や分野にも拡大することが予想される。がん個別化医療におけるコンパニオン診断薬について,臨床応用の現状と課題について述べる。

Ⅵ.精神・神経疾患 1.気分障害

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 脳由来神経栄養因子(BDNF)は,脳だけでなく血液にも高濃度に存在する。これまでの多くの研究から,血液中のBDNF濃度は,うつ病や双極性障害(躁うつ病)の血液バイオマーカーとして有用であることが知られている。しかしながら,血液中には成熟型BDNFだけでなく,前駆体proBDNFも高濃度に存在することから,これらを区別して測定することが重要である。本稿では,バイオマーカーとしての三つのBDNF関連タンパク質(成熟型BDNF,前駆体proBDNF,BDNF pro-peptide)について議論したい。

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 サイトカインの一つであるインターロイキン-6(IL-6)と大うつ病(MDD)との関係を検討した。血清IL-6濃度はMDD群で健常者(HC)群と比較して有意に高値であった。SSRI,SNRI反応群では8週間後の血清IL-6濃度が低下した。更に,抗うつ薬の投与回数が多いほど,baselineの血清IL-6濃度が高値を示した。以上の結果から,血清IL-6濃度はMDDのstate markerであり,難治化の指標となる可能性もある。今後,IL-6受容体を標的分子とした創薬が難治性うつ病の治療薬として期待できるかもしれない。

Ⅵ.精神・神経疾患 2.統合失調症

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 精神障害には,脳に生物学的原因がある病気と呼べるものと,脳に原因がなく病気と呼べないものが混在する。横断面の症候学からは,両者を鑑別することはできない。生物学的原因にはバイオマーカーの関連が想定できるため,マーカーを用いれば病気と病気でないものを鑑別できると期待されている。統合失調症の一部に,カルボニルストレスの関連が示唆されている。カルボニルストレスを示す症例から,カルボニル化合物の解毒酵素に遺伝的機能低下が同定されたことから,カルボニルストレスが病態である可能性が示唆されている。カルボニルストレスを示す血中ペントシジンの高値と,カルボニルストレスで消費が亢進するビタミンB6の低値がサロゲートマーカーとして期待される。

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 統合失調症の診断を補助,あるいは疾患を層別化するバイオマーカーを探索する試料として,脳と同じ外胚葉由来の組織であり,また,代謝的に安定していると考えられる“頭皮の毛根細胞”に着目し解析した。その結果,脳特異的と想定されていた遺伝子の多くが毛根でも発現していること,統合失調症ではFABP4遺伝子の発現量が約40%低下していること,FABP4の発現量の低下は年齢,性別,服薬,疾患罹患期間に影響されないことがわかった。毛根におけるFABP4遺伝子は統合失調症のバイオマーカーとして期待される。

Ⅵ.精神・神経疾患 3.自閉症スペクトラム

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 自閉スペクトラム症(ASD)は,他者との社会的相互性(コミュニケーション)の障害などを幼児期から認めることで診断される。客観的な診断指標はまだ確立していない。社会性分子であるオキシトシンがバイオマーカーになり得るか,また,ASDの主症状の改善に効果があるかを論ずる。

Ⅵ.精神・神経疾患 4.アルツハイマー病

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 アルツハイマー病をはじめとする認知症では,臨床症状出現に先立って老人斑や神経原線維変化など,様々な病理変化が脳内で形成されると考えられている。この変化をバイオマーカーを用いて確実に検出できれば,認知症の超早期診断と先制医療を可能にできると想定されるため,精力的にバイオマーカーの開発が進められてきた。

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 脳脊髄液中のタウタンパク質(タウと略す)の増加は脳内の神経細胞死を示していることから,神経変性疾患である認知症のバイオマーカーとして用いられている。多種多様の認知症を正しく鑑別し,正しく対処するために,CSF中のタウの動態は注意深く検証する必要がある。近年では脳内のタウを可視化する手法の開発や,タウをターゲットとする治療薬の開発なども進められており,今後更に注目されるマーカーとなるであろう。

Ⅵ.精神・神経疾患 5.パーキンソン病

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 パーキンソン病(PD)は安静時振戦,筋強剛,姿勢反射障害,動作緩慢を臨床的特徴とし,黒質緻密部のドパミン作動性ニューロンが選択的に障害される神経変性疾患である。PDでは中枢神経系において多数のLewy小体が出現する。その主成分はαシヌクレイン(αS)で,そのほとんどが不溶性の線維から成る。αSは病態形成に関与し,治療薬開発のターゲットとなるタンパク質であると同時にバイオマーカーとしての役割が期待されている。本稿では,PDのバイオマーカーの現状についてαSを中心に概説する。

Ⅵ.精神・神経疾患 6.神経・筋変性疾患

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 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対する治療法開発に伴い,治療効果をモニターする新規バイオマーカーの開発が必須となっている。ヒト・オステオポンチン(OPN)遺伝子の遺伝子多型は,DMDの重症度と強くかかわる修飾因子として指摘されてきたが,筆者らは,重症で進行性の経過をたどる筋ジストロフィー犬を用いた解析から,血中OPNは病態を反映する候補因子の一つであり,ことに筋再生を指示する新規バイオマーカーである可能性を指摘した。

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 特発性正常圧水頭症(iNPH)は,認知症,歩行障害を示す老人性の水頭症である。水頭症は髄液代謝異常に基づくことから,髄液に特徴的な分子のスクリーニングを行ったところ,ユニークな糖鎖修飾を受けたトランスフェリン(Tf)が見いだされた。この“脳型”Tfは,iNPHの診断マーカーとなることが示された。また,認知症の代表疾患であるアルツハイマー病との鑑別が可能であった。一方,歩行障害を示すパーキンソン病では,iNPHと同様のマーカー変化を示すサブグループの存在が示された。このサブグループのTfマーカーは,Q-Qプロットで直線性を示すことから,正規分布を示す独立したグループであることが示された。このグループに特徴的な臨床症状の探索を行っている。

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基本情報

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生体の科学
67巻5号 (2016年10月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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