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生体は,複雑なネットワークにより動的恒常性が保たれており,疾病の発症はその破綻に基づくものと考えることができます。その恒常性の破綻を客観的な生体情報のモニタリングにより検知することは,疾病の発症機序を解明するためにも,また,臨床の場で疾患を診断,しかも早期に診断するためにも,たいへん重要なことです。このような,生体の状態を客観的に評価するための指標をバイオマーカー,そして病態と連関するそれを病態バイオマーカーと称しますが,疾患の診断,治療モニタリングのために,“検査”として病院での日常診療に幅広く活用され,医療の根幹をなすものになっていることは周知のとおりです。このようなバイオマーカーを探索する研究は,基礎医学研究者にとっても,臨床家にとっても,違う側面からたいへん重要であり,基礎・臨床の架け橋になる領域と思います。まさに『生体の科学』の読者にぴったりのテーマと考え,編集委員,そして臨床検査医学を専門とする矢冨が今回の増大特集号を企画しました。
バイオマーカーを広く捉えれば,血液,尿,髄液,各種体液など生体から得られた検体を分析するもの,体温,脈拍数,呼吸数などの診察で得られる情報,心電図をはじめとして生体活動を直接検知する生理学的検査なども含まれますが,本書では検体を分析するものを主に扱います。この領域は日進月歩であり,既に日常診療で臨床検査として活用されているものの数は膨大ですし,現在も着実に新しいものの導入が進んでいます。本書は,辞典的に網羅するのではなく,注目度の高いもの,臨床応用には至らなくても開発途上のもの,あるいは将来のバイオマーカーとして期待できるものなどを中心に構成させていただきました。また,加藤忠史先生(理化学研究所脳科学総合研究センター)にも精神・神経疾患を中心に企画協力いただき,全体として類書にないような斬新な構成にすることができたと考えております。
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