作業療法ジャーナル 51巻8号 (2017年7月)

増刊号 上肢・手の機能と作業療法—子どもから大人まで

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 本誌「上肢・手の機能と作業療法—子どもから大人まで」は,地域包括ケアを基軸に,①今後,作業療法の対象が子どもから大人まで拡大していくこと,②ICF評価と生活行為向上マネジメントを基本方針に医療専門職として専門性を発揮し,地域の福祉・教育・労働分野と連携できること,を目指して企画しました.

 第1章「上肢・手の機能と作業療法」では,上肢・手の機能的役割を理解することを目的とし,上肢・手の機能的構造(解剖学・運動学的要素)や中枢システム(脳の機能局在・下行路システム・運動学習等),上肢・手の機能に影響を与える対人コミュニケーション,さらには最新の福祉用具やロボット技術の現状,上肢・手の作業療法介入に有効となる評価と臨床的意義について解説しています.

第1章 上肢・手の機能と作業療法

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はじめに

 私たちの上肢・手の機能は,人間としての大きな特徴である二足直立歩行と言語・嚥下の機能と協応しながら進化し,その過程とともに解剖学的構造や神経生理学的機能を変化させてきた.そして視覚とともに外部環境の感覚情報を取り入れる窓口となり,他の動物には類をみないほどの精巧な器官,とりわけ把握機能と精緻活動を可能とする機能的特長(図1)をもつ器官へと発達している.

 しかしながら何らかの疾病にてその機能を発揮できない状況に陥ると,多くの者は代償活動による上肢・手の使用を余儀なくされ,さまざまな活動に大きな支障を抱えることとなる.

 そこで本稿では,上肢・手の基本的な機能的役割の理解から対象者の課題を明確化し,作業療法介入において重要となるポイントについて解説する.

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肩関節

1.構造上のポイント

 肩関節は,鎖骨,肩甲骨,上腕骨,胸骨の4つの骨で構成され,肩複合体とも呼ばれる.関節の結合性は弱いが,多くの靱帯や筋によって安定性がつくられている.鎖骨,肩甲骨,上腕骨,胸骨および胸郭により,胸鎖関節,肩鎖関節,肩甲上腕関節,肩甲胸郭関節の4つの関節で構成され,可動域は生体内で最も大きい.

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はじめに

 人間は,首がすわらず,四肢の動きがぎこちない,いわゆる新生児の状態から,成長,発達,成熟を経て成人といわれる状態まで日々変化する.

 決して大人のミニチュアでない小児の,上肢 手の機能について,解剖,運動学的見地から臨床での経験に基づいて述べたい.

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手・上肢運動を生み出す大脳皮質運動野

 ヒトをはじめとした霊長類は,高度に発達した脳をもっている.脳の中でも,特に霊長類において発達した領域が大脳皮質である.上肢(手)にみられる器用な動作(巧緻動作)には,高度に発達した大脳皮質が大きく寄与している.大脳皮質のうち運動遂行に関係した領域を運動野と呼ぶが,霊長類の運動野は,その他の哺乳類の脳と比べて高度に発達している.

 霊長類大脳皮質の運動野の特徴として,第一次運動野,補足運動野,運動前野等,多くの領野に分化していることが挙げられる(図1a)1〜3).複数の運動野が互いに結合をもち,複雑な神経回路を形成することで,上肢(手)にみられるような複雑な運動を実現している.これらの運動野の中で,運動出力に一番近い領域が第一次運動野である.この領野には“運動機能地図”と呼ばれる機能区分がある.これは,身体の各部分の運動を担う領域が,皮質の表面に順番に並ぶ機能区分のことであり,第一次運動野は身体の各部分を完全に収める運動機能地図をもっている(図1b).この運動機能地図は,運動野に微小な電流を流したときに誘発される筋肉の動きによって同定される.電流が神経を通じて筋肉を動かすため,運動出力に近い領域ではより微小な電流で筋肉が動く.第一次運動野では,脳の頭頂部から遠い領域に顔の運動出力を担う領域があり,頭頂部へ向かうにしたがって,手指,手首,肘,肩,体幹,足の領域が並ぶ傾向がある.あたかも脳の中に身体が再現されているかのようにみえるため,「脳の中のこびと」(ホムンクルス)と呼ばれることもある.ただし機能地図上の各体部位の面積は実際の身体とは一致せず,手指等,複雑な運動を行う領域は,体幹等,比較的単純な運動を行う領域と比べて体部位表現が大きい.第一次運動野の神経細胞は,その神経細胞が担う身体の部位の運動に先行して活動し,活動の大きさと運動に伴う筋活動の大きさや複雑さに相関がある.すなわち,第一次運動野は筋が発揮する力を,他の領野と比べて直接的にコントロールしていると考えられる4)

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はじめに

 誕生時から形成されている大脳領域間の投射線維,連合線維,交連線維の構造的ネットワークは,環境との適応的運動学習から抑制系や予測的姿勢・運動制御と共に機能的ネットワークを構築する.生後半年間の急激なシナプス形成後の活動依存的な不必要なシナプス減少(シナプスの刈り込み)により,広範囲な脳活動による反応的で粗大な到達運動は,手指運動に限局した脳活動による精緻運動へと発達する.5〜6カ月ごろには,大脳皮質,基底核,小脳,脳幹のネットワークにより,意図的な到達・把握運動や両手探索が出現する.2歳ごろには左右半球の優位性を反映した利き手と非利き手の機能分担が始まる.図1のような領域相互関係により手は発達する.

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はじめに

 「風邪かな? どれどれ,熱はないのかな?」と額に手を当てて「大丈夫,熱はないからね」と言う母親の,その手から安心を得る子ども.また,遠くにいる父親が大きく広げる両腕が「さぁ,おいで」と叫んでいるかのように感じられ,その真ん中にまっしぐらに飛び込んでいく子ども.このように,接触すること,表現すること,伝達することの手段として,上肢や手は人と人をつなぐ大切な役割を果たしている.

 本稿では,上肢・手の発達が対人コミュニケーションの基盤となり,さらに,その上肢・手の機能によって作業が遂行されるプロセスで対人コミュニケーションが発展することについて解説したい.また,人と人が紡ぐ作業遂行こそ作業療法の源泉であることについても触れたい.

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はじめに

 ロボット技術を活用した産業は,ここ数年で目覚ましい飛躍を遂げている.作業療法を取り巻く環境でも,「医療用ロボット」,「介護ロボット」,「ICT」,「AI」といった言葉が,あたり前のように聞こえるようになってきた.

 本稿では,筆者が担当している「介護保険制度の中の福祉用具や介護ロボットの政策」からみえてくる現状や課題を,作業療法に関連すると思われる内容を中心に述べる.

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 福祉用具やロボットは,基本的に小児に限定されるものはなく,サイズや使用目的に成人との違いがみられる.小児の場合には上肢や手の機能の改善だけではなく,発達を促す目的にも利用される.そして,上肢や手の機能の発達とともに,認知・言語機能を高めながら,身辺自立や学習,遊び,対人機能の発達を通じて自己有能感を高め,最も重要な自尊感情の発達を育てていく必要がある.

 たとえば子どもは1歳ごろからクレヨン等を握り持ち(手掌回外握り)して殴り書きをはじめる.2歳ごろになると線を描けるようになり,3歳になると人の顔らしきものを描けるようになる.4歳になると三角も書けるようになり,5歳では人の全身像も描けるようになっていく.それに伴い鉛筆の持ち方も,手指回内握りから側方つまみ,静的三指握りから動的三指握りへと発達していく.鉛筆を三指握りできるようになってくると箸も使うことができるようになっていく(表1)).そして文字が読めるようになり,まねて書けるようになっていく.

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はじめに

 作業療法評価は,国際生活機能分類(ICF)に落とし込むことで,データの欠落が少なく,全般的な評価を遂行することが可能となる.評価は心身機能・身体構造を主眼として想定されやすいが,活動,参加と背景因子も必要項目とすることが望ましい.近年,多くの施設において,評価・治療計画を進めるにあたってトップダウンアプローチを用いるケースが多くなっていると推測される.従来実施されていたボトムアップアプローチとの差異を認識し,情報の欠落がないよう効率的な評価を進めていくことが重要である1〜3)

 本稿では,基本的に臨床場面で実施されている客観的機能評価法の解説と,近年多くの場面で評価・実施され報告が行われている患者立脚型評価法を紹介する.

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上肢・手の巧緻運動を評価することの意義

 巧緻運動は,手指の分離的・複合的な運動だけで行われるのではなく,上肢の支持性,体幹の固定力が欠かせない.さらに,物体を見る(視覚),触る(触覚),力を加減する(固有受容覚),バランスをとる(前庭覚)等の感覚機能も必要となる.子どもの上肢・手の評価をするとき,遊びやADL,そして学習に巧緻運動がどのように影響してくるのかを念頭に置いて評価しなければならない.

第2章 上肢・手の実用的機能向上—各手技・手法の考え方と具体的実践

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活動分析アプローチとは?

 活動分析アプローチとは,「環境・課題(対象)・文化の特性分析」を根幹とし,「解剖学・運動学・神経科学等の医学的分析,生態心理学等の種々の分析」に基づく介入である.感覚・知覚-認知の機能的背景を基盤にしたアプローチであり,個人・集団に対する「生活の質の向上(生活行為)」を目指す,「こころ」と「身体」のリハである.

 活動分析アプローチは,「作業」を「活動」ととらえて作業療法を行うならば,重視しなければならない介入方法であろう.介入のあり方は,①環境・課題(対象)・文化,②感覚・知覚,認知(高次脳),③解剖学・運動学・神経科学等,④生態心理学・生物学等,それぞれの分析に基づいたアプローチ等である(図1).特に中枢神経系疾患に関しては,これらの側面が治療的介入の手がかりになる.また,①〜④の分析に基づいたアプローチは,単独ではなく並行して行うことが求められる.

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はじめに

 子どもは,両親の援助のもとで興味・関心の対象を模倣し,さまざまな遊びを通して,学習能力の基礎となる知覚や認知を発達させていく1).定型発達している子どもの姿勢コントロールは,抗重力運動の発達や姿勢調整反応,体性感覚の発達を導き出す.また,予測的な姿勢制御は,さまざまな活動で四肢を使うための身体の能動的な調整を提供することを助ける2).しかし,中枢神経障害がある児は,姿勢コントロールと予測的な姿勢制御を基盤とした運動経験の中で,感覚情報の効率的な入力と処理が難しく,遊びを通した知覚・認知の発達が難しい.姿勢トーンの問題(低緊張,過緊張,動揺)から姿勢・運動コントロールが未発達で,動作が定型的なパターンになる傾向がある.したがって,家庭や学校・社会生活の中で,今後の予測を立て,少しでも病的な状態が強まらないように,具体的な作業遂行能力を明確に評価し,治療を継続することが重要になる.また,セラピストだけでなく,多職種との連携を継続することが必要となる1)

 今回,中枢神経障害がある児の上肢・手の機能を,作業活動の中で評価と治療の実例を挙げて報告する.患者は年長の中枢神経障害がある児である.筋や骨の成長過程で,非神経原生の筋の短縮や麻痺による拘縮でcore stabilityの活動が低下し,骨盤の選択的な運動が難しくなってきた.その結果,姿勢コントロールの崩れが体幹や四肢の効率的な動きを制限し,ADLの介助量増加につながった.

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はじめに

 久保田は『手と脳』1)の中で,“手で物をつかみ,にぎり,投げ,つまむ時,手の筋肉が働くので運動器官だと思われているが,その際手は外環境に直接触れて外環境の情報を集める感覚器官でもある.私たちが手を使うときこの二つの側面がうまく働き統合され,手をうまく操れる.そしてこの指令を出しているのは脳である.つまり「手は外部の脳である」”と述べている.

 このように手は重要な機能と役割があるにもかかわらず,脳卒中後の片麻痺患者の上肢・手の障害は重篤である.上肢・手の機能の回復は,脳損傷の部位や程度によるところも大きいが,完全に回復することは難しいと考えられている.そのため介入に対して消極的な考え方も多い.しかし上肢・手の機能はその重要性とともに,機能の広範性に注目すべきである.手の機能回復のみに特化することなく,生活を自分で組み立て,自律した生活を送るためにも,脳卒中片麻痺患者の上肢・手への意味ある介入を常に模索したいと考える.

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療法士の臨床実践トレーニングモデルであるボバース概念

 ボバース概念は,1951年に英国ロンドン西部脳性麻痺センターを創立したKarel BobathとBerta Bobath夫妻の名前に由来している.「患者さんから学び,患者さんが示す事実に従う」というKarelの医師としての信念があった.また,「対象者をよく観察し,問題の本質を分析し,新しい知見で解釈し少しでも良くなりそうな手段を試し,挑戦しては前に進み,そしてこの歩みを決して止めないでください,なぜなら私たちの仕事(ボバース概念)は,未完成だから」と,Bertaはセラピストのプロフェッショナルな姿勢を強調した.また,知識,技術,臨床応用のサイクルによる「考えるセラピスト」の養成を目的に,1958年より脳性麻痺児の全人的問題解決アプローチとして講習会を開催し,世界各国の小児リハに多大なる影響を及ぼした1)

 日本では,脳性麻痺の早期治療(0歳から)を開始し,1970年に聖母整肢園の園長となった整形外科医 梶浦一郎と,Bobath夫妻が確立した「専門職卒後12週間講習会」を受講したPT紀伊克昌により,1973年から脳性麻痺基礎講習会が開始された2).聖母整肢園は,在宅療育,家庭療育を中心とした早期発見,早期療育を基本理念として,南大阪療育園,大阪発達総合療育センターへと名称および組織改変が行われ,療育形態を発展させた.また,講習会は「近代ボバース概念小児領域8週間基礎講習会(以下,小児ボバース講習会)」として毎年内容を更新し,40年以上にわたり継続している.

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はじめに

 患者の機能回復を目指す場合,何らかの治療理論に基づいた臨床実践が求められる.筆者らは認知理論に基づいた臨床を実践している.本稿ではまず認知理論の中核である「身体は情報の受容表面である」という観点から上肢と手の機能について説明する.次に臨床に取り入れている「5つの視点」とその実践例の一部を紹介する.

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はじめに

 認知神経リハを学んだ十数年前,それまで何気なく使っていた子どもへの言葉かけを大いに反省したことを覚えている.それまで筆者は,子どもの手を介助して,ある物を触ってもらうという場面で,「ふわふわしているね」,「気持ちいいね」と声をかけていた.この治療理論を学び,“セラピストが子どもに何を経験させるか”ではなく,“子どもが何をどのように経験(学習)しているか”ということの重要性を学び,同じ状況下での対応がまったく変わった.どのように変わったかは事例報告で触れる.

 このような治療の転換をもたらした認知神経リハの理論背景や治療展開の方法についての詳細は前項の「成人」で説明しているので省略する.ここでは,基本的な考え方の補足と子どもへの治療展開で考慮すべき点を中心に紹介する.

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はじめに

 ボツリヌス療法は,本邦では2010年(平成22年)よりA型ボツリヌス毒素(botulinum toxin type A:BoNT-A)投与が保険収載され,これまでに多くの研究報告がされてきた1).今回は当院におけるボツリヌス療法の取り組みを通し,先行研究や事例とともに最新の知見を報告する.

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小児脳性麻痺児へのボツリヌス治療

 小児へのボツリヌス治療は,日本では2009年(平成21年)2月「2歳以上の小児脳性麻痺における下肢痙縮に伴う尖足」への適用が承認されてから広まった.また,2010年(平成22年)10月「上肢痙縮・下肢痙縮」への適用が承認されたことで,上肢治療の一つとして広がりはじめた.

 ボツリヌス治療の効果は個人差が大きく,施注筋の緊張状態,施注部位,施注量等により違うが,早ければ施注後2〜4日後,おおよそ2週間程度でその効果が現れる.そして,2〜4カ月くらいで痙縮減弱の治療効果が薄れるため,期間内の集中的リハの重要性は周知されている.対象が小児の場合,目標設定,目標達成に向けた評価の重要性とともに,目標が発達的にこれから獲得していく動作(活動)であることも多く,目標達成のためには活動を通じた練習,まさに「作業療法」が重要となってくる.

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はじめに

 Constraint-induced movement therapy(CI療法)は,エビデンスが確立された課題指向アプローチ(task-oriented approach:TOA)の代表格である1,2).しかし,近年,TOAに対して否定的な論文を散見する.Frenchら3)は,TOAを含む反復課題練習のエビデンスは低〜中位程度であると報告した.Waddellら4)は客観的な指標である活動量計を用いて,TOAの生活における麻痺手の使用行動に及ぼす影響を検討した.結果,TOAは生活における麻痺手の使用行動に影響を与えないと報告した.さらに,彼らは改善した上肢機能も生活で実際に麻痺手を使用できる能力と相関がなかったと報告した.

 そこで,TOAとCI療法を一括りにした一部の研究者から,CI療法に対する批判も噴出している.しかし,Morrisら5)は,CI療法は麻痺手による量的練習,TOA,麻痺手の生活における使用を拡大するための行動学的戦略(transfer package:TP)の3つのコンポーネントから構成されており,TOAはCI療法を構成する一側面でしかないことを示している.また,われわれも慢性期の脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者に対し,TOAのみを実施した場合には長期的な効果を上げたり,効率的な生活における麻痺手の使用行動につながらないことを明らかにしている6).これらから,CI療法が脳卒中後の麻痺手の機能を改善し,その機能を生活に活かすためには,TOAだけでは不十分であることが明らかである.本稿では,CI療法の3つのコンポーネントの実際を説明し,CI療法の特徴と近年試行されている新たな形態について述べることとする.

10 スプリント療法の実際 藤目 智博
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スプリントの基礎

 紀元前1,500年には熱傷に対する銅製体幹装具が使用され,ヒポクラテス(紀元前460ごろ-紀元前370ごろ)が骨折に対して副子を用いたとされている.その後,木製,金属製と形を変えながら発展してきた.また,当初は外傷部位の固定,安静を目的としたものが主であったが,ゴムやバネ等の動力を用いた動的副子の出現,熱可塑性プラスティック素材による簡便な装具の開発が進み,リハにおいて盛んに活用されるようになった.現在の臨床場面では,「装具」,「副子」,「スプリント」等,複数の呼称が用いられているが,本稿では義肢装具士が製作するものを「装具(orthotics)」,OTやPTが簡便に製作するものを「スプリント(splinting)」とする.

 スプリントは機能と目的によってカテゴリ化される.機能では,関節や損傷部位を固定する静的スプリント(static splintもしくはimmobilizing splint),ゴムやバネ等の力限を利用した動的スプリント(dynamic splintもしくはmobilizing splint),対象に合わせて徐々に形を修正する漸次改変スプリント(serial static splintもしくはserial progressive splint)に分けられる.スプリントの機能は目的に沿ったものが選定される.主なスプリントの目的は,①安静・固定,②代償・機能転換,③矯正,④模擬が挙げられる.

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はじめに

 促通反復療法は,リハビリテーション科専門医である川平和美名誉教授(鹿児島大学)により考案された脳卒中後の運動麻痺を改善させる運動療法である1).片麻痺は大脳皮質運動野,あるいは運動野から下降する神経線維の損傷が原因で生じる.病巣が,神経細胞のある大脳皮質であっても,軸索が走行する放線冠や内包にあっても,その回復には大脳皮質から脊髄前角細胞までの神経路の再建/強化が欠かせない.促通反復療法は,神経路に損傷を受け意図した運動ができない患者に対して,まず促通手技により意図した運動を実現させ,損傷する前とは別と考えられる神経路を介した運動性下降路の興奮を促す.さらにその運動を集中的に反復し新たな神経路に繰り返し興奮を伝えることで,その神経路が強化され再構成される.促通反復療法は,脳卒中片麻痺を改善させるために何が必要かを示した画期的な運動療法である.

 促通反復療法の臨床的有効性のエビデンスは,回復期において国際的評価指標を用いた多施設ランダム化比較試験(RCT)2)で,促通反復療法の対照治療に対する臨床的意義を伴った優越性が示された.木佐ら3)が実施したRCTでは,促通反復療法の対照治療に対する優越性が示されただけでなく,手指への促通反復療法が機能的自立度評価(functional independence measure)のセルフケア項目の改善を促進することが示された.急性期においては,作業療法との併用治療に関する後方視的検討で,麻痺の回復は上肢,手指とも促通反復療法群が通常訓練群より有意に大きかったと報告され4),慢性期においては,分離運動(Br-stage 4以上)が可能な患者で物品操作能力を向上させることが確認された5).これらを踏まえ促通反復療法は,「脳卒中治療ガイドライン2015」で麻痺が軽度から中等度の患者に対して特定の動作の反復を伴った訓練の一つとしてグレードBの推奨を受けており,OTが治療手段として用いる中でも高いエビデンスをもつ治療法といえる.

 手技の詳細は成書1)を参考にしていただき,本稿では,麻痺側上肢を用いた作業で,肘との相互作用により効率のよい上肢操作を可能にする回内,回外を例に,解剖学的,運動学的背景と,筆者らが考える促通反復療法のポイントを解説したい.

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はじめに

 近年,脳卒中後のリハに対するニューロモデュレーション(neuromodulation)が注目を集めている.ニューロモデュレーションとは,中枢神経あるいは末梢神経障害に対し,薬物や電気刺激等を用いて,神経回路(neuron)の活動を調整(modulate)する治療法である1)

 反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)は,脳卒中後上肢麻痺患者に対するニューロモデュレーションとして代表的に用いられている.rTMSはリハ手法と併用することにより,脳の可塑性を適切に誘導して機能改善を引き出し2),能力向上につなげることが期待されている.

 本稿では,rTMS治療について概説し,脳卒中後上肢麻痺患者に対するrTMSと作業療法の併用療法であるNEURO(NovEl intervention Using Repetitive TMS and intensive Occupational therapy)を適用した事例について報告する.

13 随意介助型電気刺激装置 阿部 薫
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はじめに

 リハにおける電気刺激は,経皮的電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)や機能的電気刺激(functional electrical stimulation:FES)等のように,痙縮の抑制や随意運動の促通,筋萎縮の予防,筋力増強等の目的で,従来から用いられてきた.しかし,対象者の意思に関係なく一定動作パターンで電気刺激が生成されるため,実際の動作への活用には適していなかった.一方,Khaslavskaianら1)は,随意収縮単独や電気刺激単独と比較し,電気刺激に合わせて随意収縮を行った場合のほうが皮質運動野の興奮性が有意に増加することを述べており,随意介助型電気刺激装置(integrated volitional control electrical stimulator:IVES)は,随意運動を介助する電気刺激パターンの生成が可能な装置として開発された2)

 現在,国内ではIVES・IVES+(OG技研社)やMUROソリューション(パシフィックサプライ社)が販売されている.MUROソリューション(図1)は,刺激装置本体とケーブルおよび3つの電極,さらに電気刺激と筋電パラメータを調整するための親機から構成される.本体をアームケースに入れることで,上腕部に固定できるようになっている.電気刺激は,標的筋を動かそうとしたときに,その筋電量に応じて電気刺激が加えられ,随意収縮をやめれば刺激は軽減され,刺激強度,刺激時間は,患者自身の随意収縮によりコントロールされる.また,安静時には,閾値下の電気刺激が加えられるようになっている.さらに,電気刺激は,筋電をピックアップする電極から行われるので,的確に標的筋への刺激が可能である.そして,一度条件設定を行えば,本体に記憶させることができ,また小型で携行も可能である.

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 自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)児等の神経発達症群において,「協調運動(coordination)」は大きなテーマの一つとなっている.DSM-5(2013)では,発達性協調運動症(developmental coordination disorder:DCD)の診断基準の中で,「学習や練習の機会があるにもかかわらず,スプーンや箸やはさみを使ったり,自転車に乗ったり,手で字を書いたり,物を捕らえたり,スポーツに参加することなどの協調運動技能を獲得し,遂行することが,歴年齢から期待されるレベルよりも著しく劣る」との記述がある.ASD児や注意欠如・多動性症(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)児の約50%以上がDCDを合併しているともいわれており,日常生活や学校生活にも影響を及ぼすことから,作業療法の対象となる場合も多い.協調運動に関する支援には,課題指向型介入(task-oriented intervention)等が有効な場合もあるが,脳機能の発達的側面を考慮し感覚統合理論を用いた支援が実践されることも多い.

 感覚統合理論に基づく支援では,協調運動障害の背景に感覚統合障害(外界から脳への感覚入力とそれに基づく個々の行動反応を生成する過程における問題)があるという仮説に基づき,評価・支援が行われる1).感覚統合障害にはsensory integration problem,sensory integration disorder,sensory integration dysfunction,sensory processing disorder等,さまざまな用語が使用されている.近年はMillerら2)により提唱された,感覚処理障害(sensory processing disorder:SPD)として,紹介されることが多い.SPDは,「感覚調整障害」,「感覚ベースの運動障害」,「感覚識別障害」の3つに分類されているが,特に「感覚ベースの運動障害」が協調運動に最も関連している.「感覚ベースの運動障害」は,主に姿勢制御の障害,粗大運動・巧緻運動・口腔運動における行為機能の障害で構成されており,感覚刺激に対する低反応性や感覚識別の障害に起因する運動障害も含んでいる.特に,前庭感覚・固有受容感覚系の処理障害は,①腹臥位伸展,②近位部の安定性,③姿勢背景運動,④背臥位屈曲保持時における頸部の屈曲維持の問題として観察され,両側上肢の協調運動障害(両側統合と順序立ての障害)と関連することが知られている3).さらに,体性感覚系のSPDが顕著な場合には,①背臥位屈曲姿勢,②母指対立運動,③前腕交互反復の問題が観察され,手内操作の困難さを示すことが報告されている3).協調運動障害には,より高次な運動企画や感覚統合機能が関連する場合も多いが,本稿では上肢操作に限定したうえで,1)両側上肢の協調運動,2)体性感覚と上肢の協調運動の2つの視点から,その支援について解説する.

第3章 疾患別 上肢・手の困難事例へのアプローチ—具体的介入例とポイント

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はじめに

 脳卒中は血管の破綻や狭窄または閉塞に起因し,損傷を受けた脳の部位や程度によって複雑多岐な障害像を呈する.よってリハ治療内容を同一化することは難しい.本稿では筆者が臨床場面で経験したことを基に,上肢機能に関する超急性期介入および管理について述べる.

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はじめに

 脳卒中発症後,慢性期(維持期,生活期)のステージにいる対象者は,急性期や回復期よりも圧倒的に多い.慢性期のステージでは,主に日常生活活動(以下,ADL)の維持・向上に加え,生活関連動作(以下,IADL)への支援等,社会生活への参加促進が中心的に行われる時期といえる.昨今は,生活行為向上マネジメントが注目され,対象者とそのご家族への在宅生活における指導や助言を行い,潜在能力を最大限に発揮できるような支援を推進している.

 脳血管疾患リハにおいては,急性期病院における早期リハが重要視され,脳卒中片麻痺者は発症当日からリハを開始することが多くなってきた.また時代の流れもあり,医療・介護連携がこれまで以上に推進され,数十年前と比べて切れ目のないリハが提供されるようになった印象を受ける.一方で,医療・介護保険制度の変革等により,充実したリハを提供できているとは言いがたい.特に医療保険領域では,標準算定日数を超えた場合には回数制限が設けられ,介護保険でも同様な制約を強いられている.

 超慢性期における上肢・手へのアプローチに目を向けてみると,二次的障害の予防の観点から,衛生管理や在宅・施設でのポジショニング等が積極的に行われているであろう.この時期の上肢機能への介入をセラピストが軽視しているわけではないが,前述した通り,回数制限等の制約が重なり,ADLやIADLの自立に向けた介入が重要視されている印象である.しかし,上肢の機能には多くの重要な役割があり,どの時期でも生活の質的向上に向けた介入の余地は必ずある.

 本稿では「超慢性期」における上肢機能について,対象者がどのような問題を抱え,セラピストがどのように治療を展開していくのか,医療保険領域と介護保険領域での治療介入例に基づいて紹介し,知見を加えて述べたい.

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はじめに

 臨床場面において,痛みはリハを進めるうえで主要な阻害要因となる.これは,患者側にとってもセラピスト側にとっても大きな問題となり得る.

 特に肩の痛みは,われわれOTが頻繁に直面する課題である.日常生活場面(activities of daily living: ADL)の中で上肢を使う活動はさまざまあり,肩の痛みがあると行動が制約されて,精神的不安定,自発性の低下,抑うつ状態等を引き起こしてしまう.だからこそ,セラピストはその問題に正面から向き合い,解決する方法を考えていかねばならない.

 肩関節の構造は自由度が高いがゆえに,不安定性も強い.しかし,われわれはその構造を理解し,中枢神経損傷者への姿勢制御と,対象課題に対する随意的運動を背景にして上肢機能の改善を図り,介入により痛みを軽減することができる.患者は運動行動に伴う痛みを軽減できたことでADLが改善し,よりよい生活を送れるようになる.

 以下に肩の痛みの基本的内容を踏まえて,回復期における脳卒中片麻痺患者への介入とADL改善に至るまでの過程を述べる.

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はじめに

 浮腫は“組織間隙に生理的な代償能力を超えて過剰な水分の貯留した状態”と定義されている1).脳卒中発症初期の麻痺肢は,弛緩状態によって筋収縮が阻害され,不動状態や筋ポンプ作用の機能不全に伴う静脈・リンパ還流障害により浮腫を発生しやすく,特に麻痺側上肢・手に浮腫が残存することが多い.また,浮腫が残存する時期に拘縮が発生しやすく,浮腫が軽減されている時期には重度の拘縮を呈している場合が多い2)といわれている.

 脳卒中発症後の経過の中では,歩行やADLの各動作が何とか行えるようになっても,麻痺側上肢・手に生じた拘縮や痛み等の二次的な問題によって,麻痺側上肢の動作参加が制限される.またその影響は,“対象を操作する”といった手の機能発揮を阻害するだけでなく,代償パターンや努力性を招き,環境と対面する構え等の全身反応にも強く影響を与えることとなる.そのため,浮腫手を呈した脳卒中患者には,浮腫の原因やそれがもたらす二次的障害の発生要因を考慮した治療介入が必要であり,将来的な手の機能発揮のために,早期からの継続的な治療介入が必要とされる.

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はじめに

 パーキンソン病は,無動,固縮,振戦,姿勢反射障害の4大徴候を主症状とする進行性の変性疾患であるが,近年では大脳基底核と大脳皮質や小脳との関係から考えられる高次脳機能障害等の上肢機能に影響を与える非運動症状についても多く報告されている1〜3).また,上肢機能に関しては,上記症状によって,手や上肢の力の産生の低下や,対象物を持ち上げるまでの時間の延長,プレシェーピングの障害,書字障害が出現し4),日常的に手の使用が減少し,二次的に手の力や巧緻性が低下することが知られている.今回,パーキンソン病の特徴と「生活行為における上肢機能」について,われわれの実践も併せて報告する.

6 関節リウマチ 坂本 安令
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 関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)に対する治療戦略は,1970〜1980年代前半にかけては消炎鎮痛剤やステロイド等による疼痛緩和や全身状態の改善が主流であった.一方,リハにおいては,関節痛を助長しない動作の指導,日常生活での安静と運動のバランスに配慮する等,対症療法的な側面が強かった.しかし近年は抗リウマチ薬(disease-modifying anti-rheumatic drugs:DMARDs)や生物学的製剤(biological agents:Bio)の登場で,RA発症早期の段階で疾患活動性を抑制し,速やかに全身状態を改善させ,関節破壊の進行を抑制できる場合が多くなった.

 本稿では薬物療法の進歩に伴い,近年変わりつつあるRAのリハの課題も含め,RA患者の上肢機能へのアプローチについて述べる.

7 五十肩の上肢機能 有泉 宏紀
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五十肩の知っておきべき知識

 五十肩は中高年から,明確な誘因もなく肩の痛みが出現する疾患である.「動かしてもいないのに痛い」,「肩を上げることができない」とさまざまな訴えがある.一般的には50代を中心とした中年期以降に肩関節周囲組織の退行変性を認め,肩関節の痛みと運動障害を認めると定義されている.

 病態としては関節包周囲に慢性炎症が起こり,疼痛と周囲組織が癒着し,肩甲上腕関節の運動制限をきたす.肩関節周囲炎ともいわれる.疼痛は寒冷時や夜間に増強し,前腕,手,頸部痛も認める.外旋制限により結髪動作に支障をきたし,また内旋制限により結帯動作が困難となる.自動運動のみならず,他動運動でも制限されるのが特徴である.肩甲帯周囲筋は廃用性萎縮に陥りやすく,関節造影では関節裂隙,特に腋窩陥凹の縮小を認める.治療としては鎮痛剤の投与と運動療法が主となる.経過の長い場合は,観血的に癒着剝離術も行われる.また他の疾患との鑑別も必要である.腱板断裂や石灰沈着性腱板炎,変形性肩関節症等,MRI,単純X線画像,超音波検査等の画像診断からの鑑別も必要である(図1).

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はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis : ALS)の有病率は10万人に対して7〜11人と見積もられ,全国の患者数は約9,200人といわれる1).ALSを発症し筋力低下が進行すると,上肢機能障害を含むさまざまな障害により日常生活が制限されていくが,それらが誘因となり,患者本人や家族に強い精神的,身体的負担を認めることも少なくない.ALS患者に対する作業療法では,身体機能や日常生活のみならず,精神面や社会面に対しても思慮を巡らせ,医学的知識や福祉用具に関する知識を基に残存機能を活かす工夫や改善が期待される.また,それは進行による患者の変化を見越した対応でなければならない2).特にALS患者にとって潜在的な上肢機能を生活場面で発揮できるようになることは,福祉用具・機器の活用・導入による補完的対応,ひいてはQOLといった活動に連動する重要な視点である3).本稿ではALSを上肢・手の機能という視点から整理し,その具体的な介入ポイントについて臨床視点に立った解説を行う.

9 上肢切断 大庭 潤平 , 柴田 八衣子
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はじめに

 切断(amputation)とは,四肢の一部を切離された場合,離断(disarticulation)とは,関節の部分で切離された場合をいう1).また上肢切断とは,手部(手指含む)・前腕・上腕・肩甲帯を切断した場合をいう.その原因は,疾病や事故等,さまざまであり,年齢や性別を問わず誰もがなり得る.また,生まれつきに四肢の一部が欠如している場合を先天性四肢欠損と呼ぶ.ここでは,これらを総じて「切断」として表現する.

 上肢切断者への作業療法では,義手操作および残された手・腕に対するアプローチを行うことが求められる.今回,OTがアプローチする上肢切断後の断端部と残存肢および義手操作のためのポイントを解説する.

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はじめに

 全国脊髄損傷データベースの1997〜2006年度(平成9〜18年度)の分析結果1)によれば,脊髄損傷による麻痺は圧倒的に頸髄レベルが多く,全体の70.8%を占め,四肢麻痺の割合が増加している傾向にある.また,完全麻痺と不全麻痺では,不全麻痺が増加傾向にあると報告がされている.当院では2006年4月〜2016年(平成28年)3月までの10年間に244例の不全頸髄損傷者が入院し,増加の傾向にある.

 不全頸髄損傷の中でも臨床現場においてよく経験する型は,Schneiderら2)により報告された中心性頸髄損傷である.運動麻痺の程度は下肢よりも上肢に顕著である.これはJimenezら3),Leviら4)により,脊髄の中心部は皮質脊髄路の役割があり,皮質脊髄路の大径線維は外傷に対して易損傷性があるためと指摘されている.

 そこで本稿では,中心性頸髄損傷を中心に述べることとし,把持機能の回復が遅延した中心性頸髄損傷の患者に対して装具療法を実施した事例を提示する.具体的にはすでにテノデーシスアクションによる横つまみが獲得されている患者に,一時的に手関節固定装具を装着し,手内筋による対立,指腹つまみの基本動作を反復した.その結果,手関節固定装具をはずした後でも指腹つまみ,三指つまみが可能となり,良好な箸操作を獲得することができたので紹介する.

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はじめに

 認知症は,アルツハイマー型認知症(以下,AD)をはじめとする進行性の変性疾患に代表される.認知症の症状は,主に記憶障害や見当識障害等の中核症状と,徘徊や暴力,幻覚,妄想等の周辺症状(行動・心理症状:以下,BPSD)の2つに大別され,認知症の人に対する作業療法はBPSDの軽減を目的に実施されることが多い.一方で,一般病院や急性期病院等では,対象者が認知症を有しているとしても,脳卒中後遺症や骨折等の認知症以外の疾患でリハが処方されることが多く,認知症そのものの症状に対する作業療法というよりも,認知症以外の疾患をターゲットに身体機能の回復を目的とした作業療法が実施される.

 ADは,軽度の段階では身体機能の低下は目立たないが,進行とともに錐体外路症状等が出現し,基本動作や手段的日常生活活動の低下を引き起こすことが知られている.したがって,認知症が重度になり,四肢の拘縮等が進んでくると,身体機能へのアプローチが行われるようになる.いずれにせよ,認知症に対する作業療法を実施する際に,認知症が重度となって寝たきりにならないかぎりは,身体機能に着目されることは少ないといえる.

 しかしながら,近年では初期段階のADで,上肢運動機能障害1)や手指巧緻動作の低下2)等が報告されており,初期段階のADの上肢運動機能障害に対するアプローチの必要性について示唆している報告3)もある.

 本稿では,まず加齢と上肢機能の関連を解説し,認知症の代表的な疾患であるADにおける上肢機能の特徴を述べ,認知症の重症度と上肢機能の関連について,われわれが行った実験結果を基に考察を加えて解説する.

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はじめに

 成人脳性麻痺の上肢機能について,あたり前の話であるが,上肢機能だけをみてはいけない.その先にあるその人の生活をみていかなければならない.脳性麻痺は治らない疾患でもあり,脳性麻痺の方は生まれながらにして障害のある身体と向き合って人生を歩んでおられるため,「障害受容」できるか否かが,その人らしい生活を送れるかの重要な鍵となってくる.そのうえ,成人脳性麻痺の方には,二次障害や早まる老化と向き合いながら「機能低下受容(二次障害・老化受容)」という課題が挙がってくる.

 上肢機能も含め,できていたことができなくなること(上肢機能の低下は即,活動・参加の制限につながる)に対して,どういった支援ができるかがポイントになってくる.

 今回,肢体不自由児施設でOTを続けて30年経過した経験知1)から,成人の方でも上肢機能が向上した事例,現上肢機能を活かし環境調整で生活を支援した事例,上肢機能の代償動作と環境調整で生活を支援した事例の3つの報告を通して,上肢機能にかかわる生活支援としてまとめさせていただいた.

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はじめに

 本増刊号のテーマは上肢機能であるが,その対象が重度の運動障害と知的障害を併せもつ重症心身障害児(以下,重症児)では,さまざまな合併症への対応と医療的な管理に追われる中で,日常の意味のある楽しい活動につなげていく視点がなおざりになっていないだろうか.OTは,対象児がいかに重度であろうと,一人ひとりの潜在能力を浮き彫りにし,それぞれの実生活と発達に貢献していく仕事を担っており,この領域でも技術の蓄積が求められている.本稿では,大島分類の1に該当する事例を想定し,解説する.

14 筋ジストロフィー 田中 栄一
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 筋ジストロフィーは,筋変性を主病変とする進行性の遺伝性疾患である.本稿では,小児期で最も一般的なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下,DMD)の上肢機能について紹介する.

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はじめに

 自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)は,社会コミュニケーションの障害と限局的で反復的な興味・行動・思考がみられることによって診断される神経発達症の一種である.ASD児はこれらの症状以外にも,さまざまな問題を有することがあり,協調運動障害もその一つである.ASD児の79%に明らかな協調運動の問題,10%に境界級レベルの問題がみられたことが報告されている1).このような協調運動の問題があるASD児には,粗大運動の問題がみられることが多いが,手を使った巧緻運動の問題もみられることが多く,それらへの支援が必要となることがある,そこで,ASD児の上肢の協調運動の問題と対応について述べたい.

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特別支援教育と作業療法

 2007年(平成19年)から正式に実施された特別支援教育は,対象となる子ども一人ひとりのニーズを適切に把握し,合理的な教育的配慮を行うことがその中心的な理念である1).そのため,障害の有無の判断や,望ましい教育的対応を助言する専門家チームの設置や,巡回相談の実施等も可能なかぎり行うこととされている.OTがこの専門家チームに参画することを日本作業療法士協会でも推進しており,さまざまな地域での実践報告も散見される2〜4).学校教育にOTが参画するシステムが確立している米国では,その有用性を示す調査研究や介入研究も広く行われている5〜9).これらの研究では,学校で働くOTが提供するサービスには主に「直接サービス(direct service)」と「相談サービス(consultation model)」があり,学校生活全般,書字活動,巧緻機能,視知覚への介入が中心であるとしている.わが国でも米国と同様に実践を積み重ねてきているが,地域による差,学校単位での差,保護者の意識の差,サービスを提供するOTの質的な差など,さまざまな障壁があることも事実である.さらに通常学級では,外部専門家であるOTが行えるサービスにも限界がある.本稿では筆者が訪問相談を行った通常学級に在籍する児童で,本稿にまとめることに保護者が同意した2事例を紹介し,通常学級における障壁と支援を行うOTの資質について私見を述べる.

17 上肢欠損と筋電義手 柴田 八衣子
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はじめに

 まず,「上肢欠損」とは,「上肢の先天性奇形・欠損」のことで,生まれつきに上肢の一部が欠如していることである.先天性上肢欠損の多くは原因不明で,薬物等の因子は稀であり1),正常な受精卵が発育する過程で何らかの要因により障害が起こり偶発的に発生する先天性絞扼輪症候群〔羊膜索症候群:羊膜の絞扼により,指趾に切断(横断的)や絞扼輪が生じる〕等が原因に挙げられる.

 後天性の切断の場合は,今までに存在していた上肢機能の喪失であり,すでに獲得していた技能(機能)の喪失である.しかし,先天性の場合は,生後よりその部分は存在しないため,乳幼児期から日々の生活で上肢を使用する際に代償性技能を習得し,障害と共存しながら成長している.

 次に,「筋電義手」とは,「筋電電動義手」のことで,バッテリーから供給される電力で手先具にあるモーターを動かす.筋電義手を構成する部品は,手先具(ハンド),継手,バッテリー,電極(増幅器),ソケット等である(図1).その操作方法は,骨格筋の筋収縮時に発生する微量な筋電位を表面電極で検出し,電極の筋電増幅器で増幅し,その信号を使って手先具を制御する.主に伸筋群で手先具を開き,屈筋群で手先具を閉じる.筋電義手の利点としては,①手先具の装飾性(ハンド型が主流),②把持力,③装着の簡便さ,④ハーネスに干渉されないリーチ範囲,⑤軟らかい物品の把持がしやすい等がある.

 本稿では,「(先天性)上肢欠損」の上肢・手の機能を理解したうえで,上肢欠損児・者に対する選択肢の一つである道具(ツール)としての「筋電(電動)義手」の活用や有用性について述べたい.

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 痙直型脳性痺児は,上位運動ニューロンが損傷された場合に起こり,四肢の伸張反射の亢進(すなわち痙縮)を主とする随意運動の障害,姿勢異常(正常からの逸脱)を特徴とする.脳性麻痺児の中でも約70%と多くの割合を占める.障害の分布によって,大まかには,①痙直型四肢麻痺(spastic quadriplegia:SQ),②痙直型両麻痺(spastic diplegia:SD),③痙直型片麻痺(spastic hemiplegia:SH)の3つのタイプに分けられる.近年,特に脳室周囲白質軟化症(periventricular lekomalacia:PVL)に皮質脊髄路が巻き込まれたことを原因とする痙直型両麻痺児が増えている.

 痙直型(SQ,SD,SH)の子どもたちの上肢・手は,過剰な同時収縮により運動性が低下しやすく,努力性に使用するため,協調性や巧緻性の発達が不十分となる.特に末梢部よりも中枢部に緊張が高いことが多く,上肢が体幹からの影響を受けやすく,上肢における可動性のある支持も発達しにくいため,座位や立位の発達も阻害される.また,連合反応の影響を受けることで全体的運動パターンとなるため,一側上肢内での分離も不十分となり,体幹と頭部,頭部と眼球運動の分離も不十分となる.その結果,姿勢を安定させても手元を見ることができず,手の協調した活動や眼と手の協応の発達も阻害される.

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はじめに

 地域包括ケアの考え方や生活行為向上マネジメント等,活動・参加支援を軸にした在宅での作業療法が盛んになってきている.小児の作業療法は病院や施設での報告が多かったが,少しずつ訪問看護ステーションや児童発達支援,保育所等訪問支援事業等,地域での直接的支援の機会が増加しており,年齢や環境を考えた現実的で包括的な作業療法計画が求められている.自然環境(natural environment)で当事者の主体的な取り組みを支援するという視点から,今までみえなかった子どもや家族の想い,地域も含めた生活環境の評価や対策,将来を見据えた目標設定を共有できるようになってきた.これらは,より満足度の高い成果を効率的に得られるリハとして注目されており,脳科学の最近の知見からも支持されるものと考えている1,2).学童期に受験や身体的成長に伴う機能低下が生じて,上肢を実用的に使用できなくなったとしても,思春期に新たなライフステージに向けて,自らの意思で自分の将来のための準備を開始する中で,新たな手の役割を再獲得できる在宅での作業療法の可能性を感じている.

20 失調症 米持 喬
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失調症の上肢機能:知っておくべき知識

 運動失調とは,筋活動の協調が損なわれ,目的とする運動を円滑にできなくなった状態である.運動失調がある子ども(以下,失調児)は,つまみや握りといった巧緻動作の苦手さとバランス能力の低下により,日常生活に多大な制限を受ける.

 定型発達では,運動経験を通して自己身体の構造と機能を知り,それらを基盤に外界へ働きかけ,認知機能が発達する.失調児の協調運動への支援は,運動発達に加え,認知・社会性の発達にも影響する.

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知的障害の手の機能:知っておくべき知識

1.知的障害の定義

 知的障害の定義には,①18歳未満に発症する精神発達不全,②全般的知能が優位に低下(個別施行による標準化された知能検査でIQ70未満),③通常社会で日常的社会適応が不良1)という3つの項目が必須である.また,知能障害は知的程度によって軽度,中等度,重度に分類され,重症心身障害児等,上肢に運動麻痺をもつ知的障害児も含めると,作業療法の対象は幅広い.ここでは,重度な身体障害のない知的障害児の上肢機能について述べる.

第4章 未来に向けた展望

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はじめに

 上肢機能アプローチは,両手活動を必要とする「生活を支える作業療法」にとって重視しなければならない介入であろう.

 何らかの理由で利き手が使えなくなった場合,以前は,利き手交換が主なアプローチであったかもしれない.もちろん,それは対象者の自立に向けて必要なこと.十分に理解している.しかしながら,特に中枢神経系疾患の対象者は納得するだろうか.これは,無理である.きれいごとでは済まない.私は臨床で30年以上,対象者と向き合ってきた.誰一人として非麻痺側だけへの介入では満足しない.対象者の希望に応え,結果を出すことがプロフェッショナルの仕事である.

 一方,回復期リハ病棟が導入され,麻痺側上肢への介入があたり前になったころから,「脳の可塑性」,「運動学習に基づいた介入」等が世間で広まったことも現実.今やボトックスやTMS,川平法,CI療法と,慢性期の麻痺上肢に対するアプローチもあたり前になりつつある.

 本稿では脳の可塑性や作業療法への展開,さらにはハイテクノロジー(ロボット)と作業療法の未来を考察する.

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 「『お箸が使えるようになるためにスプーンの持ち方を(回外位に)変えましょう』と保育園の先生に言われたけれど,すぐ(回内位に)戻ってしまう.どうしたらいいですか?」と3歳児の母から相談されたOT.「回外位で握って食べるのは,とても食べにくい!! もっといろんな手の使い方をしていくことのほうが大切!!」とOTは話した.

 筆者も「お箸の練習はどのようにしたらいいですか?」と2歳前の児の母親から尋ねられたことがある.「焦らなくていいよ!! お箸の前にいろんなおもちゃでいっぱい手を使って遊ぼうね」と話した.“周囲に育児の相談ができる人はいないのかな?! 育児本のどこを見てるのかな? 年齢を考えていないのはなぜ?”とさまざまな思いが頭の中を巡った.

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次号予告

編集後記 山本 伸一
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 30年前,私はOTとなって臨床現場に立った.意気揚々とし,希望に満ち溢れた自分がいたが,あっという間に奈落の底に突き落とされた.なぜなら,患者の希望に応えられないからだ.「肩の痛みをとってほしい」,「重たい手を何とかしてください」これらへの介入を養成校で習ったわけでもない.健側で手芸をさせてしまっていることへの申し訳なさや,対応できないことへのいら立ちがあった.現在のように情報を得る手段としてのインターネットや,さまざまな書籍は存在しておらず,途方に暮れたのを覚えている.

 本増刊号は「上肢機能」の特集である.OTならではのテーマであろう.なぜなら,生活に密着することが求められる作業療法.生活は作業.作業するには「手」が主である.それを診ることができなくては話にならない.

基本情報

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作業療法ジャーナル
51巻8号 (2017年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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