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自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)児等の神経発達症群において,「協調運動(coordination)」は大きなテーマの一つとなっている.DSM-5(2013)では,発達性協調運動症(developmental coordination disorder:DCD)の診断基準の中で,「学習や練習の機会があるにもかかわらず,スプーンや箸やはさみを使ったり,自転車に乗ったり,手で字を書いたり,物を捕らえたり,スポーツに参加することなどの協調運動技能を獲得し,遂行することが,歴年齢から期待されるレベルよりも著しく劣る」との記述がある.ASD児や注意欠如・多動性症(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)児の約50%以上がDCDを合併しているともいわれており,日常生活や学校生活にも影響を及ぼすことから,作業療法の対象となる場合も多い.協調運動に関する支援には,課題指向型介入(task-oriented intervention)等が有効な場合もあるが,脳機能の発達的側面を考慮し感覚統合理論を用いた支援が実践されることも多い.
感覚統合理論に基づく支援では,協調運動障害の背景に感覚統合障害(外界から脳への感覚入力とそれに基づく個々の行動反応を生成する過程における問題)があるという仮説に基づき,評価・支援が行われる1).感覚統合障害にはsensory integration problem,sensory integration disorder,sensory integration dysfunction,sensory processing disorder等,さまざまな用語が使用されている.近年はMillerら2)により提唱された,感覚処理障害(sensory processing disorder:SPD)として,紹介されることが多い.SPDは,「感覚調整障害」,「感覚ベースの運動障害」,「感覚識別障害」の3つに分類されているが,特に「感覚ベースの運動障害」が協調運動に最も関連している.「感覚ベースの運動障害」は,主に姿勢制御の障害,粗大運動・巧緻運動・口腔運動における行為機能の障害で構成されており,感覚刺激に対する低反応性や感覚識別の障害に起因する運動障害も含んでいる.特に,前庭感覚・固有受容感覚系の処理障害は,①腹臥位伸展,②近位部の安定性,③姿勢背景運動,④背臥位屈曲保持時における頸部の屈曲維持の問題として観察され,両側上肢の協調運動障害(両側統合と順序立ての障害)と関連することが知られている3).さらに,体性感覚系のSPDが顕著な場合には,①背臥位屈曲姿勢,②母指対立運動,③前腕交互反復の問題が観察され,手内操作の困難さを示すことが報告されている3).協調運動障害には,より高次な運動企画や感覚統合機能が関連する場合も多いが,本稿では上肢操作に限定したうえで,1)両側上肢の協調運動,2)体性感覚と上肢の協調運動の2つの視点から,その支援について解説する.
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