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はじめに
促通反復療法は,リハビリテーション科専門医である川平和美名誉教授(鹿児島大学)により考案された脳卒中後の運動麻痺を改善させる運動療法である1).片麻痺は大脳皮質運動野,あるいは運動野から下降する神経線維の損傷が原因で生じる.病巣が,神経細胞のある大脳皮質であっても,軸索が走行する放線冠や内包にあっても,その回復には大脳皮質から脊髄前角細胞までの神経路の再建/強化が欠かせない.促通反復療法は,神経路に損傷を受け意図した運動ができない患者に対して,まず促通手技により意図した運動を実現させ,損傷する前とは別と考えられる神経路を介した運動性下降路の興奮を促す.さらにその運動を集中的に反復し新たな神経路に繰り返し興奮を伝えることで,その神経路が強化され再構成される.促通反復療法は,脳卒中片麻痺を改善させるために何が必要かを示した画期的な運動療法である.
促通反復療法の臨床的有効性のエビデンスは,回復期において国際的評価指標を用いた多施設ランダム化比較試験(RCT)2)で,促通反復療法の対照治療に対する臨床的意義を伴った優越性が示された.木佐ら3)が実施したRCTでは,促通反復療法の対照治療に対する優越性が示されただけでなく,手指への促通反復療法が機能的自立度評価(functional independence measure)のセルフケア項目の改善を促進することが示された.急性期においては,作業療法との併用治療に関する後方視的検討で,麻痺の回復は上肢,手指とも促通反復療法群が通常訓練群より有意に大きかったと報告され4),慢性期においては,分離運動(Br-stage 4以上)が可能な患者で物品操作能力を向上させることが確認された5).これらを踏まえ促通反復療法は,「脳卒中治療ガイドライン2015」で麻痺が軽度から中等度の患者に対して特定の動作の反復を伴った訓練の一つとしてグレードBの推奨を受けており,OTが治療手段として用いる中でも高いエビデンスをもつ治療法といえる.
手技の詳細は成書1)を参考にしていただき,本稿では,麻痺側上肢を用いた作業で,肘との相互作用により効率のよい上肢操作を可能にする回内,回外を例に,解剖学的,運動学的背景と,筆者らが考える促通反復療法のポイントを解説したい.
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