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手・上肢運動を生み出す大脳皮質運動野
ヒトをはじめとした霊長類は,高度に発達した脳をもっている.脳の中でも,特に霊長類において発達した領域が大脳皮質である.上肢(手)にみられる器用な動作(巧緻動作)には,高度に発達した大脳皮質が大きく寄与している.大脳皮質のうち運動遂行に関係した領域を運動野と呼ぶが,霊長類の運動野は,その他の哺乳類の脳と比べて高度に発達している.
霊長類大脳皮質の運動野の特徴として,第一次運動野,補足運動野,運動前野等,多くの領野に分化していることが挙げられる(図1a)1〜3).複数の運動野が互いに結合をもち,複雑な神経回路を形成することで,上肢(手)にみられるような複雑な運動を実現している.これらの運動野の中で,運動出力に一番近い領域が第一次運動野である.この領野には“運動機能地図”と呼ばれる機能区分がある.これは,身体の各部分の運動を担う領域が,皮質の表面に順番に並ぶ機能区分のことであり,第一次運動野は身体の各部分を完全に収める運動機能地図をもっている(図1b).この運動機能地図は,運動野に微小な電流を流したときに誘発される筋肉の動きによって同定される.電流が神経を通じて筋肉を動かすため,運動出力に近い領域ではより微小な電流で筋肉が動く.第一次運動野では,脳の頭頂部から遠い領域に顔の運動出力を担う領域があり,頭頂部へ向かうにしたがって,手指,手首,肘,肩,体幹,足の領域が並ぶ傾向がある.あたかも脳の中に身体が再現されているかのようにみえるため,「脳の中のこびと」(ホムンクルス)と呼ばれることもある.ただし機能地図上の各体部位の面積は実際の身体とは一致せず,手指等,複雑な運動を行う領域は,体幹等,比較的単純な運動を行う領域と比べて体部位表現が大きい.第一次運動野の神経細胞は,その神経細胞が担う身体の部位の運動に先行して活動し,活動の大きさと運動に伴う筋活動の大きさや複雑さに相関がある.すなわち,第一次運動野は筋が発揮する力を,他の領野と比べて直接的にコントロールしていると考えられる4).
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