別冊整形外科 1巻74号 (2018年10月)

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 オピオイドは危険な薬で,そのプロトタイプはアヘンである.人類はオピオイドという魔法の薬を手に入れ,その恩恵を享受する一方で,多くの犠牲を払いつつ5,000年にわたり使ってきた.人間の情動には,快・不快という,相反する2つの感覚の上に,すべてを支配する欲望という第三の要素がある.オピオイド受容体作動薬は,不快な感覚(痛み)を消し,同時に欲望(意欲)も失わせる.この事実はアヘンをテーマにした「相思曲」という王尚辰の長詩で生々しく描写されている1)

 オピオイドの非がん性慢性疼痛患者への処方は,近年,世界中で広まった.乱用が喫緊の社会的課題となり,対策について2018年新たに厚生労働省通知が出た2,3).米国での大規模研究によると,緩和ケアや末期ケアを除く非がん性慢性疼痛で長時間作用型オピオイドを処方されている患者では,ガバペンチンや三環系抗うつ薬などの非オピオイド鎮痛薬・鎮痛補助薬に比べて死亡率が高いことが明らかになった.対象は1999~2012年に投薬治療を受けた患者で,平均年齢は48±11歳であった.長時間作用型オピオイド使用群の死亡ハザード比(HR)は1.64[95%信頼区間(CI),1.26-2.12],p<0.001,超過死亡(excess deaths)のリスク差(risk difference:RD)68.4/10,000人年(95%CI,28.2-120.7)となった.その内訳は予期せぬ過量投与HR 3.37(95%CI,1.47-7.70)p=0.004,RD 47.4/10,000人年(95%CI,15.7-91.4),心血管系合併症HR 1.65(95%CI,1.10-2.46)p=0.02,RD 71.4/10,000人年(95%CI,4.5-65.3)などであった.経口徐放剤が原因薬物の多くを占めていた4).日本ではこの剤型は承認されていないので単純に比較はできないが,急速にオピオイドの使用が広まっている昨今,有害事象や依存症の実態把握とリスク管理を急ぐ必要がある.

 オピオイドの長期投与に関し,深刻な過量投与や依存,中毒のリスクなしに痛みの緩和や機能改善を導くというエビデンスはない5~7).また,疼痛の悪化やQOL低下なしに大幅な減量が可能であるとの報告もある8).オピオイド治療を将来,患者が生きている限り継続するのは危険である.減量・中止の具体的な問題点と対処法について述べる.

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 運動器疾患の慢性疼痛における薬物療法の中で,弱オピオイド製剤を投与することは整形外科診療の日常風景となりつつある.しかし,対象症例が主に中高齢者であり,他剤に比べ高い副作用発現率を呈する本剤には注意が必要である.特に眠気や嘔気・嘔吐,浮動性めまい,便秘などが発現しやすく,ADLに大きな障害をきたすため,せっかく鎮痛効果を得ていながら脱落する症例もめずらしくない.特にポリファーマシー症例では副作用が発現しやすく,さらなる慎重投与を要する.弱オピオイドの中でも,経口かつ長期処方が可能なトラマドール製剤(以下,本剤)は多用されており,実臨床ではきわめて多くの症例に副作用が生じていると思われる.当然ながら,的確な診断と適応決定のもと,本剤特有の副作用に関する説明も十全に行い投与することが大前提である.そのため,難治性疼痛と思われても,安易な薬物療法を選択するべきではない.まずは,生活習慣(不良姿勢や歩容)の改善指導やリハビリテーション,装具療法などの徹底した保存療法を実施すべきである.

 本剤の主要対象は,高齢または合併症のために手術不可能な症例,手術拒否の症例,痛みのために実施困難な保存的治療を促進したい症例と思われる.嘔気・嘔吐,食欲低下,浮動性めまいなどが発現するため消化器内科や神経内科などを受診することも多い.整形外科医として副作用をいかに減少させられるか,脱落予防目的で筆者の行っている少量漸増投与法について述べたい.

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 慢性疼痛の治療薬としてオピオイド系鎮痛薬のトラマドール製剤は,近年,臨床の場で多く使われている.しかしその副作用率はNSAIDsよりもきわめて高い.そのため,疼痛抑制効果の有無にかかわらず,副作用の出現により内服を断念・中止してしまう症例もまれではない.副作用はとくに服用開始時に多く,そのために制吐薬や緩下薬などの薬剤を追加処方しているケースがほとんどである.筆者らは,トラマドール製剤の導入時に少量・単独で処方することによる副作用出現率の軽減効果,疼痛抑制効果について検討した.

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 腰痛治療のガイドラインによると,抗うつ薬は推奨すべき薬剤である1).しかし,本邦では2016年3月に承認されたデュロキセチンの慢性腰痛に関する臨床効果の報告は少ない.今回われわれは,慢性腰痛を認める症例にデュロキセチンを処方しその有効性を検討したので報告する.

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 デュロキセチンは,セロトニン・ノルアドレナリン選択的再取り込み阻害薬(SNRI)と呼ばれる第三世代の抗うつ薬の一つとして上市された.2016年3月より慢性腰痛症が,2017年12月には変形性関節症が,効能・効果に追加され保険適用となり疼痛治療薬として日常診療で用いられるようになった.われわれは,治療に難渋する慢性腰痛患者にデュロキセチンを投与し,臨床成績を分析したので報告する.

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 運動器に関連する痛みのコントロールにおいては,いかに痛みを記憶させないよう適切な時期に適切な量の薬物療法によるコントロールを行うかが重要となる.近年,神経障害性疼痛におけるプレガバリン,慢性腰痛,変形性関節症に伴う疼痛に適用となったデュロキセチン,治療困難な中等度~高度の慢性疼痛に対する弱オピオイドにより,NSAIDsが主体であった疼痛コントロールに選択肢が広がった.われわれは,抗うつ薬として承認されたセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるデュロキセチンが疼痛治療薬としてどのように使用され効果を得ているか自験例を含め紹介する.

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 平成28年度に実施された厚生労働省の国民生活基礎調査によると,有訴者率で男性は腰痛が1位,女性は2位,肩こりでは女性が1位,男性が2位1)を占めており,腰痛や肩こりを自覚する患者は多く,日常生活に支障が生じている.腰痛診療ガイドラインでは,明らかな疾患の存在が否定される場合,これを非特異的腰痛症と定義する.一般的には,椎間板の加齢・変性,体幹筋力の低下,軟部組織の拘縮などさまざまな原因が関与するといわれている.非特異的腰痛症患者は腰痛症全体の約85%であり,日常よく遭遇する腰痛症の一つである2)

 腰痛や肩こり,変形性膝関節症の治療薬の第一選択として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が推奨されているが,痛みが残存しさらに長期に及ぶ投与では胃腸粘膜障害などの副作用が生じる可能性がある.最近では,弱オピオイドを初回から処方することが多いが,嘔気や眠気,ふらつきなどの副作用が生じることで服薬コンプライアンス低下につながることが多く見受けられる.

 また,腰痛や肩こりを病気としてとらえ,積極的に外来通院加療している患者は少なく,通院しても改善せずに放置されている例が多く存在する.そこでわれわれは,さまざまな工夫を行い,患者一人一人に合ったオーダーメイド治療を作り上げ,日々の臨床に取り入れている.多くの治療薬が発売されている時代に,薬のみに頼る治療だけではなく,患者が満足する治療を行っていけるかが重要である.

 今回,副作用が少ない治療薬である漢方薬,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン),ロキソプロフェン温シップを用いての腰痛,肩こりに関する治療効果を評価,検討し,臨床成績と治療のなかで工夫していることに関して報告する.また,われわれは変形性膝関節症に関してはエスフルルビプロフェン・ハッカ油配合(ロコア)テープ,トラマドール,ブプレノルフィン(ノルスパン)テープなどをうまく組み合わせて低用量での治療を行っている.臨床成績とあわせて治療のなかで工夫していることに関して報告する.

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 整形外科の疼痛性疾患に対する治療として,漢方薬は強い痛みに対しては使われてこなかった.自験例でも整形外科的疾患に対して寒冷で悪化するなど稍虚証の疾患に対しては随証治療で正確な漢方治療ができたが,急性腰痛症や痛風,偽痛風などのいわゆる稍実証の整形外科疾患に対しては非ステロイド性消炎鎮痛剤(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)やステロイドを使用してきた.これは,漢方の一般的で基本的な成書には,虚証の疼痛に対しては漢方薬が有効であるが,強い疼痛に対してはNSAIDsなどの西洋薬を優先するといった記述があったため,整形外科領域の漢方を専門にしている医師は当初より漢方薬の使用を考慮せず,NSAIDsを使用してきたためと考えられる.今回,炎症を伴った疾患をはじめ稍実証の整形外科の各疾患に対して越婢加朮湯と大黄牡丹皮湯を併用して有効であったので報告する.

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 人工膝関節全置換術(TKA)は,変形性膝関節症や関節リウマチに対する末期関節症の疼痛を軽減し,QOLを回復する有効な治療法である.術後疼痛の遷延は患者満足度を低下させるだけでなく,せん妄などの精神症状,認知機能低下などさまざまな合併症と関連する.近年多角的な疼痛管理(multimodal pain management)の概念が発展をみせており,積極的に術後疼痛の軽減が図られている1).術後疼痛のさまざまな軽減手段を紹介し,またTKA後疼痛管理として自施設で行っている関節周囲カクテル注射の経験についても述べる.

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 慢性腰痛患者は非常に多く,平成28年国民生活基礎調査における日本人の有訴者率では男性で1位(9.18%),女性では肩こりに次ぐ2位(11.55%)である1).また,ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)は,「運動器の障害のため移動機能の低下をきたした状態で,進行すると介護が必要となるリスクが高まるもの」と日本整形外科学会は定義しており,その主な原因の一つに慢性腰痛があげられている2).ロコモと腰痛に関しては,一般住民を対象とした大規模調査が行われ,その関連性が示されている3,4).しかしながら,腹部体幹筋力とロコモや腰痛との関連性については明らかにされていないのが現状である.

 慢性腰痛に対する運動療法は有効な治療法であり5),体幹筋力強化を含む運動が有効であるとの報告もあるが6),一般的にアドヒアランスが低く有効な治療法として広く認知・利用されていないのが現状である.ロコモの予防および治療においても,もっとも有効なものは運動療法であり,日本整形外科学会はロコトレ(ロコモーショントレーニング)を推奨している7)

 われわれは,慢性腰痛患者に適した腹部体幹筋力の測定とトレーニングを両立させた運動器具を開発した(図1,日本シグマックス社,金沢大学整形外科との共同開発).この器具を用いたトレーニングにより,腹直筋や腹斜筋だけでなく腹横筋,横隔膜,骨盤底筋にも強い筋活動が生じ,これらの腹部体幹筋群の等尺性筋収縮により発揮される筋力がこの器具を用いて数値化され,測定できることが先行研究で示されている8).本研究の目的は,中高齢女性に対して,この器具を用いて腹部体幹筋力を測定し,腹部体幹筋力とロコモおよび腰痛との関連性を明らかにすることである.

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 腰痛に運動療法が有効であるという報告はあるが,どのような運動が適切であるかに関しては,議論の分かれるところである.腰痛に対する後屈体操と前屈体操を比較した研究では,腰痛の改善効果には差がなかったとされている1,2).また,腰椎椎間板ヘルニアは,一般的に後屈体操が効果的といわれている3~5).一方で,腰部脊柱管狭窄症による下肢痛や下肢のしびれは前屈体操で軽快することが多いと報告されている6)

 経験的治療とは,原因が不明な病気に対して治療を開始しながら効果のある治療を確定するという治療法である7).疼痛の原因特定が困難な腰椎疾患に対しても,経験的治療に基づいた運動療法を行い,興味深い結果が得られたので報告する.

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 2本のポールを用いて歩行運動を行うノルディックウォーキング(NW)は,上半身の筋肉を動員することにより有酸素性の全身運動を促すことができ,1930年ごろにフィンランドでクロスカントリー選手のオフシーズンの体力維持・強化のためのトレーニングとして始まった.フィンランドでは世界でもっとも早く高齢化社会を迎えたという背景があり,高齢者の健康維持・増進の手段としてこの運動が注目されるようになり,広く普及していった.この歩行形式は高齢者のフレイル(虚弱)に対する運動機能改善効果が高く1),また心疾患,慢性閉塞性肺疾患,脳梗塞,末梢動脈疾患,糖尿病,パーキンソン病,認知症,変形性股関節症,変形性膝関節症など,高齢者が罹患する幅広い疾患において治療・リハビリテーション(リハビリ)効果が報告されている2~7)

 一方,今回の主題である成人脊柱変形(adult spinal deformity:ASD)は腰背部痛,姿勢異常,歩行障害によりhealth-related quality of life(HR-QOL)の障害をきたし,生命予後を悪化させる要因となることが近年のさまざまな報告8)で明らかになっているものの,有効な予防法や保存的治療についての報告は少ない.われわれは,2015年よりASDに対する保存的治療や術前後の運動療法としてNWを導入し,脊柱アライメント,歩行能力,腰痛,QOLなどに及ぼす効果について検討を行っている.

 本稿では整形外科領域の運動器不安定症におけるNWの適応疾患や期待できる効果について述べた後,ASDに対するNWの効果を検討したわれわれの研究について報告する.

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 整形外科の主たる治療対象は痛みやしびれであり,その根本的な解決策は器質的障害を取り除くことにあると整形外科医は教育を受けてきた.画像診断を駆使して器質的異常を発見し,その異常を外科的に取り除くまたは固定することが最良の治療と判断する場合が多い.

 しかし,痛みやしびれの原因は器質的原因のみでなく,機能的障害からも生じることが多く,画像から得られる情報を主たる情報源として病態を判断し手術にまですすむことの危険性は計り知れない.

 本稿ではAKA(arthrokinematic approach)–博田法の概要そして主に慢性腰痛,急性腰痛に対する効果について「痛みに対する保存的治療」の立場から,エビデンスを含めて述べることとする.

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 宮本武蔵の五輪書に「構え」についての記載がある1).曰く,「心を広く素直にして,緊張しすぎず,少しも弛まず,心に偏りがないように,心を真中におき,心を静かに揺るがせて(流動性をもたせ),その揺るぎの中にも一瞬たりとも揺るぎを失わないように,よくよく吟味すべきである.…太刀の持ち方は,親指と人差し指は浮かせる心持ち,中指は絞めず緩めず,薬指・小指を絞める気持ちで持つのである」程よく脱力しての姿勢でいかなる動きにも対応できることであろうと思われる.痛みやしびれがあるときは,即座の動きができない.後述するが,この姿勢には関節受容器と関節包内運動の存在が必要である.

 しびれや痛みは,日常診療の中でもっとも多い愁訴である.整形外科だけでなく,内科,神経内科,脳神経外科,ペインクリニックなどでも同様である.しかしながら,診察,画像診断では確定できないものが多くみられる.博田節夫氏が開発した「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)–博田法」2)を中心に診療している筆者より,ぜひとも理解していただきたい情報を提示する.

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 慢性疼痛は,「急性疾患の通常の経過あるいは創傷の治癒に要する妥当な時間を超えて持続する痛み」と定義される.日本で2010年に1万人を対象に行われた調査によると,その有病率は11.1%にのぼる1).一方,その病態はきわめて複雑であり,中枢神経系や末梢神経系での疼痛制御の可塑的変化や,心理・社会的要因も関与するため,治療が難渋する2).実際に,その改善率は2割程度にとどまり,医療機関を受診してもその半数以上が通院を中断することが報告されている1)

 一方で,慢性疼痛治療に対する認知行動療法(cognitive behavior therapy:CBT)による支援は,一定の効果をあげてきた.特に最近では,新世代のCBTとして,治療プロセスに「マインドフルネス(mindfulness:MF)」の要素を重視する立場が興隆している3).MFとは,元来は瞑想実施時,体験的に得られる心理的状態のことであり,「今ここでの経験に,評価や判断を加えることなく意図的に向けられた注意」と定義される概念である4).この立場の一つにacceptance and commitment therapy(ACT)がある.ACTは,思考や感情,感覚などに自ら進んで接触し続けながら積極的にありのままを体験することを表すアクセプタンスと,価値(自身を充実させる人生の方向性)に沿って行動することを表すコミットメントを軸にした治療法であり,MFは,アクセプタンスとコミットメントの土台として重要視される5).これは,多くの実証的研究を整理するなかで,嫌悪的な体験の回避によって種々の心理的・社会的問題が維持・増悪することが明らかになったためである6).慢性疼痛の場合は,痛みやそれに対する感情を回避する試みが生活に定着し,身体動作や充実した活動の制限,それに付随する気分・身体機能の低下が生じ,かえって痛みの持続やQOLの低下という悪循環が生じる.そのため,回避する代わりに,痛みにまつわる非機能的な思考や恐怖に気づきながらよく感じとり(アクセプタンス),抑制されていた人生に充実感をもたらす活動を意図的に増やしていく(コミットメント)ことを支援する必要がある6)

 米国心理学会が公表する各種心理学的介入の効果のリストでは,ACTの慢性疼痛への効果はすでに強く支持されている7).ACTを用いた9報のランダム化比較試験の結果をまとめたメタ・アナリシスにおいても,従来の治療と比較して,ACTは身体的痛み,社会的機能,気分において総じて有意な効果を示し,特に身体的ウェルビーイングに対しては,もっとも有意な効果が示されている(Cohen’s dにおいて0.43の効果量)8).しかし一方で,本邦においては慢性疼痛に対してACTを実施した事例の報告は十分に集積されていない.そこで本稿では,3年間にわたり薬物療法やリハビリテーションによる治療が奏功しなかった両足底の慢性疼痛患者に対して,ACTを実施した事例を紹介する.

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 高周波熱凝固療法(radiofrequency thermocoagulation:RF)とは,高周波エネルギーを用いて遮断したい各種神経を熱凝固し神経伝達機能を長期的に遮断する治療手段である.われわれの施設では,1991年から,特に保存的治療に抵抗する頑固な腰痛のうち椎間関節由来と思われる症例にRFを行ってきた1)

 近年,高周波熱凝固機器の進歩により合併症が少なく安全で低侵襲な治療としてパルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)が飛躍的な発展をとげ,さまざまな痛みに応用されている2).PRFは,高周波を間欠的に発生させ,RFのように周辺の温度が拡散して神経を破壊する熱作用を伴わずに電場を発生させることができるように設定されている3,4).ゆえにPRFは神経破壊的な方法でないので,神経組織の変性を起こす可能性はきわめて低く,知覚障害,筋力低下や運動麻痺が生じにくい.PRFは合併症が少なく安全で低侵襲の治療法として注目されている.

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 脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,脊髄硬膜外背側に電極を留置して電気刺激を行う難治性疼痛治療法である.1965年のMelzackとWall1)によるゲートコントロール理論を元に1967年にShealy2)らによる脊髄後索への単極電気刺激法の開発が発端となった.本邦では1992年の「脊髄刺激装置植込術」の保険収載を機に主にペインクリニック領域や機能脳神経外科領域で扱われ,1998年完全埋込み型の体内式刺激装置(implantable pulse generator:IPG)発売が普及契機となった(表1).概念上は末梢神経刺激,大脳皮質,脳深部刺激などと合わせて,神経調節療法(neuromodulation)としてまとめられている.整形外科領域でも,2014年,MRI対応機器の登場以後徐々に認知されつつある.

 SCSの最大の利点は,低侵襲手技にて直接的に疼痛機構に作用して除痛効果を得ることにある.また神経脱落症状をきたさず運動機能に影響しないため,活動制限を行うことなく治療が可能である.現在本邦に流通しているデバイスメーカー各社の特徴と最新機種を示す(表2).

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 脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,硬膜外腔に電極を留置し,脊髄後索を電気刺激することにより,痛みの軽減や血流の改善をもたらす治療法である.痛みの部位に刺激を重ねて,鎮痛効果が発揮されることが基本である.SCSを行うためには,三つの機器が必要である(図1).① 電極が配置されたリード,② 電気刺激を発生させる刺激装置(ジェネレータ),③ 電気刺激を調節するプログラマである.リードとジェネレータは体内に植込まなければならない.

 SCSによる痛み治療は,1967年にShealy1)らが末期がん患者の痛み治療に使用し,痛みを和らげることに成功したのが始まりである.本邦では,1971年にShimoji2)らが硬膜外ブロックの手技を用いて,硬膜外カテーテルの中にステンレス鋼線を通し,初めて脊髄を刺激した.その後,1988年に高度先進医療に認可され,1992年に保険適用となった.保険上,「薬物療法,他の外科療法及び神経ブロック療法の効果が認められない慢性難治性疼痛の除去又は軽減を目的として行った場合に算定する」となっており,痛み治療の最終的な治療法と位置づけられている.これまでの保険点数は,K190脊髄刺激装置植込術40,280点であったが,2018年4月からK190が二つに区分され,① 脊髄刺激電極を留置した場合24,200点,② ジェネレータを留置した場合16,100点となった.SCSの手技は2回に分けて行うことが多い.1回目はリードを植込む.約1週間試験刺激を行い,有効であるかどうかを確認する.有効であれば,2回目にジェネレータを植込み,リードと接続する.保険点数が分かれたことで,試験刺激がしやすくなったと考えられる.また,植込み後の管理料も設定されている(表1).

 SCSの有効性は,神経障害性疼痛,虚血性疼痛(末梢血流障害,狭心痛)に高く,侵害受容性疼痛には効果が期待できない3).適応疾患の選択には,英国疼痛学会(The British Pain Society)が作成したSCSの反応性と適応疾患についてのリコメンデーションが有用である4)(表2).また,ドラッグチャレンジテストを用いて,神経障害性疼痛の関与を推測し,SCSの適応を検討する場合もある5,6)

 SCSの製品は,当初日本メドトロニック社の1社のみであったが,2010年にセント・ジュード・メディカル社(現アボットメディカルジャパン社,以下,アボット社),2012年にボストン・サイエンティフィックジャパン社(以下,ボストン社)が参入した.現在,3社の製品が使用可能となっている.最近,製品の進化が早くなり,治療の進歩が目覚ましい.製品の変遷,性能の進化について解説する.

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 痛みは,感覚,感情,認知そして社会的要素を伴った苦悩体験である.長引く痛みは,脳の可塑性を引き起こし,脳の構造に影響を与え,治療に難渋する慢性疼痛を引き起こす.運動器疾患においても,肩腱板断1)や反復性肩関節脱臼2)の患者において,疼痛や運動に関連する脳機能の変化が起こっていることが報告されている.

 脳機能を非侵襲的に修飾する方法として,微弱電流で経頭蓋的に脳を刺激する,経頭蓋直流電気刺激法(transcranial direct current stimulation:tDCS)が知られている.tDCSは慢性疼痛の補助的な機能的治療法として,疼痛軽減効果が報告されている3)

 しかしながら,運動器疾患の術後(急性期)疼痛に関して,どのような効果があるかの検討はなされていない.今回,術後疼痛の中でも比較的強い疼痛を起こす,肩腱板断裂術後の急性期の疼痛に対して,tDCSの有用性,安全性について検討するため,予備的研究を行った.

しびれ・痛みに対する整形外科診療の進歩 Ⅱ.疾患・病態別の診断・治療

1.頚椎・上肢

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 頚椎症性神経根症は,変形性脊椎症に伴う骨棘,椎間板ヘルニアなどによる神経根圧迫のため,神経根症状を発現した状態である.本疾患は日常診療において比較的遭遇する機会は多いが,実際の治療方針や治療戦略は国や医師間で大きく異なるのが現状である.特に,手術適応や術式選択に関しては,本邦と欧米諸国は大きく異なっている.本稿では頚椎症性神経根症の治療,特に手術的治療について文献的考察を行ったので報告する.

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Ⅰ.診断―画像診断の進歩

 MRI,CTをはじめとする画像診断が飛躍的に進歩した現在でも,画像上の異常と実際の神経障害の不一致という問題点が残る.したがって今日でも従来どおり神経症状と画像上の異常の合致を確認することが頚椎症性神経根症・脊髄症による上肢痛診断の基本である.従来法であるMRIにおける脊髄内信号変化と臨床症状の相関については,脊髄内T2強調画像高信号,T1強調画像低信号変化や,多椎間にわたるT2強調画像高信号変化などが脊髄症に対する手術成績不良と相関することが報告されている1)が,脊髄内信号変化と上肢痛との関連は不明である.ヘルニアや頚椎症性変化に起因する椎間孔狭窄による神経根圧迫はMRIで観察可能だが,やはり上肢痛との関連は不明である.

 近年のMRI技術の進歩により,脊髄・神経根障害を可視化できる可能性が高まりつつある.拡散強調テンソル画像(diffusion tensor imaging:DTI)は,対象となる組織内の水分子拡散を画像として捉えることで組織障害の程度を評価しうるMRI撮像方法である.解像度が低いことが最大の問題であったが,近年の技術の進歩に伴い脊髄の索路特異的な評価が可能なレベルにまで解像度が改善された(図1)2).また,脊髄症重症度の左右差とDTIパラメータの相関を示すことができた3).将来的にはDTIの精度をさらに高めることで痛み・しびれの原因病巣をMRIで診断できる可能性に期待がもたれる.

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 超高齢化社会を迎える日本では,がんや生活習慣病による疾病だけでなく運動器における変性疾患を有する患者が増加することが予想される.そのなかでもとりわけ脊椎変性疾患に伴う疼痛は日常生活の質や生活動作能力を低減させ,医療費の負担を増大させうる.このためわれわれ整形外科医にとって十分な疾患に対する知識と効果的な保存的治療を提供する必要がある.頚椎症による頚部痛や上肢のしびれ・痛みは,腰痛,肩関節痛に続き比較的頻度が高い運動器疾患であり,痛みを強く訴える患者が多い.神経根症では主に単神経根による圧迫性障害で,73%が頚部痛をともない1),支配領域への放散痛と,ときに知覚障害を呈する.一方で,頚椎症性脊髄症は末梢神経のみならず中枢神経の圧迫性病変であり,四肢広汎にしびれや痛みが生じる.いずれの疾患も筋力低下をともなうことがあるが,痛みやしびれが症状の主体であることも多く,病態と治療を把握することは重要である.本稿では,当院において頚椎症による頚部痛・上肢痛を有する患者に対してデュロキセチンの使用効果を検証した.さらに頚椎症に対して手術療法を行ったのち,四肢にしびれや痛みが残存する症例に対して,プレガバリンもしくはアセトアミノフェンの内服治療のオープンラベルランダム化比較試験を行い,術後遺残する頚椎症の神経障害性疼痛への治療効果を検討したので紹介する.

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 交通事故負傷者数は徐々に減少しているが,いまだに年間58万人に及んでいる1).なかでも,交通事故によりもっとも多く発症する頚椎捻挫(外傷性頚部症候群)は,その約60%を占めている.

 頚椎捻挫は頚部の軟部組織損傷であり患者の大多数は早期に症状が回復する.しかし一部に頚部にとどまらず多彩な症状を呈し,治療が奏功せず慢性化し,治療期間が長期に及ぶ症例が存在していることが知られている.

 これまでも諸外国では治療期間が遷延化する予後遷延因子について数多く報告されているが,頚椎捻挫の病態の構造は明らかではない.

 そこで交通事故により惹起された頚椎捻挫の主症状である頚部痛と関連要因の相互関係を量的に示し,治療期間が遷延する全体構造を可視化することを目的に共分散構造分析によるモデル構築を行った.

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 凍結肩は日常診療でよく遭遇する疾患であり,有病率は2~5%と報告されている1).治療法はさまざま報告されているが,まずは保存的治療が行われる2).消炎鎮痛薬の内服,理学療法,関節内へのヒアルロン酸やステロイド投与が行われる.保存的治療に抵抗する場合には,全身麻酔下の授動術や関節鏡視下関節包解離術が行われるが,日本の現状では全身麻酔,入院管理を必要とする.凍結肩を発症する年齢の患者では,社会的に入院がむずかしい場合が多く,入院せず外来で行える治療が求められてきた.近年,整形外科分野での超音波の発展が目覚ましく,超音波ガイド下に頚椎神経根や腕神経叢をブロックし肩関節授動術を行う治療が徐々に拡大してきた3).本論文では,保存的治療に抵抗する凍結肩に対する超音波ガイド下頚椎神経根ブロックを行い肩関節授動術(授動術)を行った臨床成績を報告する.

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 手根管症候群は,中高年女性に好発する圧迫性の末梢神経障害である1~3).正中神経支配領域である母指から環指橈側のしびれや夜間痛で発症し,症状が進行すると母指球筋の萎縮にいたる1,4).母指球筋萎縮は母指の対立障害をきたし,生活支障が大きくなることが知られている5~7).手根管開放術の成績は比較的良好であるが,重症化して筋萎縮が発症してからの手術加療では,十分な機能回復が得られないことが多い8).このため,母指球筋萎縮が発症する前に手術を施行することが推奨されるが,実際には,患者は知覚障害だけでは医療機関を受診しないことも多く,さらに母指球筋萎縮初期は母指の機能障害に気づきにくいために,重症化してから手外科専門医を受診することが多い.

 母指対立動作は掌側外転運動および回内運動で構成されている6).このうち,母指回内運動は指尖つまみ動作に必須であるが9),臨床現場で用いることができる正確な評価法がなく,正常値も定まっていない.Kapandjiスコアは母指対立動作全体の評価として簡便であり,臨床現場では頻用されているが10~13),母指回内運動を正確に反映しているとはいいがたい14).手根管症候群による母指球筋萎縮が明らかな場合でもKapandjiスコアは低下せず,評価法として不十分であることが指摘されている15)

 母指回内運動の正確な評価法の確立とそれに伴う母指球筋萎縮の早期診断は,将来的な手根管症候群の簡易診断につながる可能性があると考える.そこで,われわれは母指回内運動を正確に評価する方法を確立し,さらに手根管症候群に伴う対立障害評価を目的とし,小型6軸センサを用いて,高齢健常者および手根管症候群患者を対象として測定,検討を行った.

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は じ め に

 平成28年国民生活基礎調査によると,男性では腰痛の有訴者率がもっとも多く,女性では肩こりに次いで腰痛が多い1).腰痛は整形外科疾患の中でもっとも多い治療対象疾患であるにもかかわらず,その全体像に関する報告は少なく,腰痛全般を捉えるのは簡単ではない2).さらに,腰痛の85%は非特異的で原因不明とされ,個々の症例の病態に応じた治療がむずかしい状況にある.

 当院では,ペインドローイングを用いて腰痛を細分化することで類似する病態を集め,非特異的腰痛の病態解明の一助となるよう努力している.非特異的腰痛をペインドローイング分類し,年代との関連を検討したので報告する.そして非特異的腰痛診断の問題点について若干の考察を加えた.

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Ⅰ.椎体偽関節の定義

 これまで,「椎体偽関節」という言葉は椎体骨折後癒合不全と同義に扱われることが多かった.椎体骨折評価基準(2012年度改訂版)1)では,椎体骨折後骨癒合不全を遷延治癒(delayed union)と偽関節(pseudoarthrosis)に分類して定義している.遷延治癒は当該骨折の部位と型における平均速度(通常3~6ヵ月)で治癒が進んでいない状態をいい,骨折部の骨癒合プロセスは遅れてはいるものの完全には停止していない.一方,偽関節は骨折部の骨癒合プロセスが完全に停止したものであり,保存的治療を継続しても骨癒合が期待できない状態をいう.実際は,受傷から9ヵ月が経過し,3ヵ月にわたり治癒進行の可視的な兆候が認められない場合に偽関節と称することが多い.

 本稿では,椎体骨折後癒合不全を椎体骨折遷延治癒と椎体偽関節とに分け,それぞれの病態に応じた最近の治療について手術的治療を中心に述べる.

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は じ め に

 胸腰椎椎体骨折は,神経症状を有する症例,後方要素損傷や椎体の高度損傷がある症例では手術的治療の適応となることがある.それ以外の場合は保存的治療で骨癒合が得られることが多いが,骨癒合後も腰背部痛が残存する症例は少なくない.椎体骨折治癒後の遺残性疼痛の原因には偽関節や高度の椎体圧潰,後弯変形などのアライメント変化が関与しているといわれている1,2)

 胸腰椎椎体骨折患者のMRIで,外傷性と思われる椎間板信号異常を認める症例がある3).しかし,椎間板損傷が胸腰椎骨折後の臨床経過に影響を及ぼすかどうかの報告はない.今回われわれは,偽関節や椎体変形などの骨要素以外に,椎間板の損傷が腰背部痛の残存に関与する可能性を考え研究を行った.

 本研究の目的は,胸腰椎椎体骨折に合併する椎間板損傷の頻度と臨床経過への影響を検討することである.

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は じ め に

 Glassmanら1)の報告によって立位矢状面における脊柱グローバルアライメントの重要性が提唱され,Schwabら2)の報告によって脊柱骨盤パラメータの健康関連QOL(HRQOL)との関与が明示された.これらの報告により脊椎外科領域において脊柱骨盤パラメータの評価の重要性が再認識されるようになり,特に脊柱変形疾患においてはこれらパラメータによる評価は不可欠となった.われわれも一般住民健診における腰椎後方すべり例での脊柱骨盤パラメータの関与を分析し報告している3).その報告のポイントの一つとして,脊柱後弯の大きい症例では後弯の下位終椎に腰椎後方すべりが発生しやすいことがあげられる.そこで腰椎後方すべりには姿勢異常が伴うのではないかという仮説が生まれた.姿勢異常の分類としては,Itoiらの分類が有名である.Itoiら4,5)は骨粗鬆症性脊椎における姿勢異常の分類を視覚的に理解しやすいシェーマ形式で報告している.一方でTakemitsuら6)は,lumbar degenerative kyphosis(LDK)の脊柱カーブ分類を全脊柱椎体アライメントで報告している.このようにGlassmanら1)によって脊柱グローバルアライメントが提唱される10年以上も前に立位矢状面における脊柱アライメントをグローバルに考える本邦発の分類が存在しているのである.今回はこれらの分類の中からItoiら4,5)のものを参考にして,腰椎後方すべりがどのように姿勢異常に関与しているかを調査した.

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は じ め に

 サルコペニア(加齢性筋肉減少症)は,加齢に伴う骨格筋量・筋力の低下と定義され,身体活動能力や生活の質(quality of life:QOL)の低下をもたらし,死亡のリスクを高めることが報告されており,近年整形外科でも関心の高い病態である.痛みと筋萎縮の関連の報告も散見され,われわれ痛み診療に従事する医師にとってサルコペニアの概念や機序,治療を正確に理解することは,診断および治療の観点から非常に重要である.本稿ではサルコペニアの概念,脊椎におけるサルコペニアの病態,さらに最新の研究や治療について概説する.

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は じ め に

 脊髄係留症候群は,潜在性二分脊椎により脊髄尾側端が胎生期の位置につなぎ止められ脊髄尾側が伸展することにより生じる脊髄障害で,脊髄尾側が種々の原因により係留されることで,髄内にさまざまな脊髄障害を引き起こすような機序が働くとされている.臨床症状は下肢筋力低下,膀胱直腸障害,下肢から会陰部の感覚障害などの脊髄円錐部を中心とした領域に一致する脊髄症状が出現し,ADLを低下させ日常生活に影響を及ぼしうる.脊髄係留症候群の症状のなかでも,腰痛および下肢痛は主に成人に多く発生し,係留解除術により高い改善率が期待できる症状である.一方で,膀胱直腸障害など出現してしまうと回復が困難な症状も存在するため,このような症状が出現する前に治療を行う必要がある.しかしながら,実臨床においては脊髄係留症候群の疾患概念自体が臨床家の間で浸透しているとはいいがたく,発症より長年経過し脊髄症状の増悪が認められてからはじめて診断,治療が行われる症例も少なくない.

 本項では脊髄係留症候群による腰痛,下肢痛患者の自験例の分析を行い,文献的検討を加えたうえで早期診断のために必要な事項と問題点について記載する.

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は じ め に

 わが国の急速な高齢化に伴い,脊椎疾患による手術は増加傾向にあり,今後さらに増えることが予測される1).今後健康寿命の延伸に伴い,アクティビティの高い活動が増える結果,治療対象としての椎間板ヘルニアも多くなる可能性があると考えられる.現在,椎間板ヘルニアの治療プロセスについては,「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン」2)があるものの,手術的治療か保存的治療かの判断をはじめとする治療方針の最終策定については,おのおのの担当医の経験や主観によるところが大きいというのが現実である.

 当院では,椎間板ヘルニア治療に対し脊椎内視鏡手術を施行しているが,保存的治療も選択肢の一つとしてとらえている.保存的治療では,ブロック注射や投薬が中心となる.特に保存的治療における投薬の現状については先行研究に乏しく,治療に際しどのような薬剤が使用されているかは明らかではない.近年,多くの鎮痛薬が使用可能となり,治療の選択肢が増えた.今回,当院の保有する医療情報と包括医療費支払い制度(DPC)データとを組み合わせることにより,当該患者の投薬治療の詳細情報と手術情報が抽出可能であった.このデータを用いて,保存的治療群と手術的治療群の薬物使用の現状を明らかにした.

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は じ め に

 痛みは,本来,生体の異常を知らせる警告信号として機能するものである.すなわち,生命の維持には必要不可欠な機能である.しかし,痛みにより,血管収縮,血圧上昇,心拍数増加,頻呼吸,および内分泌ストレス反応が惹起され1),そのために睡眠障害,食欲低下,意欲低下,不安増大など実際の生活でさまざまな障害が発生し,患者の生活の質(QOL)は大きく損なわれる.痛みには多面性があり,一つは「痛い」という感覚的側面,すなわち身体における痛みの部位,強度,持続性などを識別した痛み感覚の面,もう一つは過去に経験した痛みの記憶,注意,予測などに関連して身体にとっての痛みの意義を分析する認知の面,そしてそれを不快に感じる情動や感情の面である.痛みは常に主観的であり,客観的に評価ができないものである.

 痛みは,組織損傷に伴い発症し期間内に治癒する「急性痛」と,治癒すると予想される期間を超えて長期間持続する疼痛や疾患の進行に伴う疼痛,または長期間改善しない身体的障害に関連する疼痛である「慢性痛」に分類される.痛みを理解するうえで大切なことは,「急性痛」と「慢性痛」という異なる痛みの存在を知ることであり,さらにこれら2つの痛みは,メカニズムが大きく異なるため,対応は変えなければならない.

 運動器慢性痛(筋・骨格系の痛み)の患者を診察する際には,「生物学的モデル」だけでは限界がある.すなわち,痛みには原因があり,その原因がなくなれば痛みもよくなるという原因論だけでは解決できないことが少なくない.慢性痛のメカニズムを理解するためには,運動器の器質的異常(生物学的因子)とともに,うつや不安などの心理的要因と,年齢や環境および社会的立場まで考慮した社会的要因(心理社会的因子)との両方を含めるとする概念的なモデルとして,「生物心理社会モデル」が重要視されている2,3).薬物療法や手術だけでは解決できない慢性痛を「生物心理社会モデル」ととらえた場合に,その治療は「集学的治療」がもっともエビデンスが高く,費用対効果に優れ,医原性の合併症を起こさない4).「集学的治療」とは,一つの専門家や職種のみで診療するのではなく,多くの専門家や職種のメンバーが集まって,多分野にまたがり診療することである.「集学的治療」の中では,運動療法や心理社会的アプローチが重要であると考えられている.慢性痛患者に対する心理社会的アプローチの一つに,積極的な問題解決法を取り入れて,慢性痛の体験に関連した多くの難題に取り組む認知行動療法によるアプローチがある.認知行動療法は,慢性痛を改善するのに効果的であることが証明されている5).さらに疼痛管理と機能回復においては,集学的リハビリテーションが高いエビデンスを有し,強く推奨されている治療法である6)

 本稿では,星総合病院慢性疼痛センターで行われている,生物心理社会的アプローチに基づく多職種連携による,入院での集学的痛み治療のプログラム「入院型集学的ペインマネジメントプログラム」について解説する.

3.仙腸関節

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は じ め に

 近年,仙腸関節の人体における重要性が徐々に判明してきている.仙腸関節は脊柱の根元に存在し,体重の約2/3を占める上半身を支えつつ,地面からの衝撃をわずかな可動域で緩和している(図1).これを可能にしているのが仙腸関節の特異な動きである.飛行機や,自動車,免震構造物に多く使用されているダンパーと呼ばれる衝撃緩和装置に似て,衝撃が加わるとロックし,その後に徐々に動き始める1).このような動きで,人体の重心近くに位置する仙腸関節が絶妙な衝撃吸収装置として機能し2,3),直立二足歩行に不可欠な役割を果たしている.

 仙腸関節は仙骨と腸骨の関節面で構成される滑膜関節であるが,特に後上部1/3は骨間仙腸靱帯で仙骨と腸骨が靱帯結合をなしている4).このため,仙腸関節の動きは制限され,わずかな関節運動のみ可能である.仙腸関節のような半関節では関節腔の領域に加え靱帯領域が占める割合が多いのが特徴である5).このため,Bernardらは関節腔と後方の靱帯領域の両方を合わせて仙腸関節と定義している6)

 仙腸関節疾患には化膿性関節炎,強直性脊椎炎に関連した仙腸関節炎もあるが,大部分は不意の外力や繰り返しの衝撃で生じた仙腸関節の不適合による機能障害(仙腸関節障害)である.関節の機能障害の診断は現在の画像診断技術では困難であり,仙腸関節の微小な不適合も他の関節の機能障害と同様に画像上の異常としてとらえることができない.しかし,関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)–博田法に代表される徒手療法において,仙腸関節の動きを正常化する操作が多くの症例で有効である事実7,8)から,関節不適合による障害が存在していることは間違いない.

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は じ め に

 日常診療で腰殿部痛を主訴とする患者を診察する機会は多い.頻度が高い腰椎疾患や股関節疾患を中心に鑑別診断を進めるのが定石だが,ときに仙腸関節障害が原因となることがある.しかし現時点では仙腸関節障害の画像診断として確立されたものが存在しないため,本病態の存在はまだ広く知られるにいたっていない.近年は疼痛関連の薬剤が多く開発され,本病態を知らなくても腰殿部痛に対する治療として成立している場合も多いと予想されるが,本稿では日常診療で知っておくと役に立つ仙腸関節障害の診断と初期治療について述べる.

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は じ め に

 腰痛あるいは下肢痛の病態にはさまざまなものがあり,その診断を的確に行うことは必ずしも容易でない.腰痛の85%は原因の診断できない非特異性腰痛ととらえられている傾向にある1).しかし日々の臨床で詳細な問診,神経学的所見を含めた身体所見に関するていねいな診察を行い,探求心をもって加療にあたれば,非特異性腰痛といえどもその原因の多くは特定でき,治療に結びつくと考える.

 非特異性腰痛の発痛源としては,腰椎の支持組織である体性深部にある仙腸関節,椎間板,椎間関節,椎間関節包,靱帯,体幹筋,筋膜などが相当する.この体性深部痛は収束する感覚路によって疼痛の発生源が誤認されるため,さまざまな関連痛を伴う.また他の腰椎疾患と合併することが多い2,3)ため,診断に苦渋する場合が多い.仙腸関節障害に伴う関連痛に関しては詳細を検討した報告は少ないが,臨床において重要なポイントと思われる.

 われわれは以前より難治性仙腸関節障害に対し長期の疼痛抑制を目的とした高周波熱凝固術(radiofrequency neurotomy:RFN)を施行している.RFN治療の特徴は目的神経の焼灼時,強い再現痛が出現し改善する症状を確認できるため,疼痛関連部位の診断に有効である.本稿では,RFNの治療効果と治療特性を利用して仙腸関節のどの部分がどんな痛みを呈しているか研究した.

 RFNとは,高周波で生じた熱エネルギーを針電極の先端で発生させ神経組織を熱凝固することで,長時間の疼痛の抑制を目的とした治療法である.神経障害性など耐えがたい疼痛を有する症例に対し神経ブロックを施行するが,局所麻酔薬を使用した神経ブロックでは効果が一時的で疼痛の再燃する症例が存在する.このような症例に対し,安全により長時間の除痛効果が期待できる4).RFNの原理は,穿刺した針先端を高周波で加熱して侵害受容器,求心性神経線維を蛋白凝固させ,その痛み伝達を遮断することで除痛効果を得るものである.腰痛関連では,椎間関節周囲の脊髄神経後枝内側枝に実施され有効とされている5).RFNによってできる凝固巣は凝固針を中心とする球形であり,凝固巣の大きさは凝固針の太さ,非絶縁部の長径,凝固温度に影響される.実際に鶏肉で凝固巣を作製してみると,22G(非絶縁部4mm,80,90秒)では約6mmの円形の凝固巣が作製できる(図1).治療範囲が狭いため低侵襲であるが,責任病巣を外せばまったく効果のない場合もある.今回の検討症例では高周波発生装置(NeuroThermo JK3,アボットメディカル社)を使用した(図2).

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は じ め に

 MRIやCTなどの画像診断装置に比べて局所分解能や操作性で優る超音波診断装置(以下,超音波)の精度が近年著しく向上したため,痛み・しびれ・可動域制限などの運動器疾患の局所診断,治療1~4)のツールとして,その使用頻度と重要性が急速に増加している.

 また,fasciaに対する生理食塩水治療は,1955年のSolaら5),1980年のFrostら6)による局所麻酔薬と生理食塩水との二重盲検試験の報告に端を発し,2016年にKobayashiら3)の局所麻酔薬,生理食塩水と重炭酸リンゲル液による治療効果が比較されている.そのなかでも筋膜性疼痛症候群(myofascial pain syndrome:MPS)3,5,6)は,fasciaの一形態である筋膜に着目した概念であるが,筋膜以外のfasciaも発痛源として注目され始めた1~3).異常なfasciaの病態はいまだ十分に解明されていないが,炎症,虚血,機械的刺激などによりfasciaに何らかの機能解剖学的な変化(筋外膜間の痛み物質の貯留,pHの低下,水分含有量の低下,組織の伸張性低下や組織間の滑走障害,侵害受容器の過敏化,電気生理学的変化など)が生じていることが報告されている1,3,6).このような部位を超音波で観察すると,画像上,層状または帯状の高輝度変化(fasciaの重積像)として観察されることが多く,異常なfascia像とされる1,2)

 一方,腰殿部痛の原因7,8)の一つである仙腸関節障害は,多くの例で主病変が後方靱帯領域にある9,10)とされるが,画像機器での異常所見の検出が困難であった.しかし近年,超音波画像で後仙腸靱帯に重積像を認める例2)が少なくないことがわかってきた(図1).また殿部,大腿外側や鼡径部に疼痛やしびれを合併することがわかっている2,9~13).われわれは,仙腸関節障害例に合併する殿部から下肢にかけての痛みやしびれに対して,超音波ガイド下に薬液を局所注入するfascia間の癒着剥離,いわゆるfasciaハイドロリリース1~3)注射(fascia release injection or hydrorelease)を行って,合併症状に関与する部位の検討を行った.

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は じ め に

 痛みを扱う整形外科の日常診療において,腰痛のうちレッドフラッグではなく下肢神経脱落所見もない「みえない腰痛」1)の疼痛部位と発症メカニズムは解明が望まれる重要な課題であろう.筆者はいわゆるぎっくり腰の発症メカニズムについての知見2)から,仙腸関節の後部靱帯も「みえない腰痛」の発痛部位として注目すべきであると考え,機能解剖的側面から考案した疼痛誘発テストと治療ストレッチ(以下,診療ツール)を用いて診療している.疼痛誘発テストは仙腸関節の後部靱帯である長後仙腸靱帯(LSL)と仙結節靱帯(STL)の緊張を強調する肢位を患者に指示し,痛みの誘発を促すものである.患者立位で,前者においては下肢内旋膝伸展位で上半身の可及的前屈により腸骨outflareを促す肢位(以下,LSLテスト,図1),後者は下肢外転外旋膝屈曲で上半身の可及的伸展位により腸骨inflareを促す肢位(以下,STLテスト,図2)である.治療ストレッチは,LSLに対する坐位ストレッチ(図3)とSTLに対する腹臥位下肢外転外旋ストレッチ(図4)である.この診療ツールを考案した背景として,① 二足動物のヒトでは安息時,労作時を問わず習慣的に行っている長時間の坐位,立位では左右いずれかへ重心をかける偏荷重姿勢は不可避的であり,この姿勢には腸骨outflare(図5)と腸骨inflare(図6)の二つの様式があるという日常診療からの知見,② 仙腸関節は不動関節ではなく,仙椎後屈,腸骨outflare(図7)でLSLが緊張し,仙椎前屈,腸骨inflare(図8)でSTLが緊張するというVleemingらの報告3),③ 臥位LSLテストの肢位と臥位STLテストの肢位で撮影した4例4組の3 D-CT画像を用いて計測(Adobe illustrator,アドビシステムズ社)した自験研究で,上後腸骨棘(PSIS)は仙椎に対し最大平均2.8mm移動するという結果を得たこと(図9),④ ヒトの上半身は腸骨と仙椎にまたがる仙腸後部靱帯によって吊り下げられているとするKapandjiの報告4),⑤ 繰り返す過剰負荷によりポリモーダル受容器を有する靱帯で生じる「二次痛」の発生機序を明らかにした熊澤の報告5),がある.今回,「みえない腰痛」の診療において考案した診療ツールの臨床的有用性の検証研究を行い,考察を行ったので報告する.

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 急速な超高齢化社会への突入と,生活習慣病などの内科的薬物治療の著しい向上により,運動器の虚弱した高齢者が増加している.それに伴い重症骨粗鬆症高齢者も増加し,普通に生活をしていただけで生じた(もしくはほとんど外傷がないにもかかわらず生じた)転位の少ない下肢脆弱性骨折が増加傾向にある.その多くは下肢の疼痛を主訴に受診し,X線像やMRIで骨折に気づくことも少なくない.これらがギプス固定や安静による保存的治療を選択された場合,一定期間の免荷が必要となる.また,運動能力が低下した患者であれば,免荷を守るための松葉杖歩行が困難なため,独居老人の場合は自宅生活が続けられなくなることもある.免荷は廃用症候群を進め,また入院安静はせん妄や認知症を誘発することにもつながる.

 また,一定期間の免荷後,仮骨形成を認め,荷重開始を許可しても,骨癒合が完全に得られるまでは骨折部の疼痛が残存し,受傷前のような歩行がむずかしい症例も数多く経験する.一方,免荷しても荷重に耐えられるほどの骨癒合が,いつまでたっても得られない症例は,骨折部の疼痛に骨萎縮による疼痛が加わることもあり,悪循環に陥ることもある.

 秋田県では,高齢者下肢脆弱性骨折に対し,骨粗鬆症骨に対しても固定力が強いとされるIlizarov創外固定器1,2)を用いて骨接合術を施行し,リハビリテーションにおいて早期荷重を行っている3).さらに,低出力超音波パルス(LIPUS)とテリパラチドを併用し4~6),骨癒合促進と骨粗鬆症治療を同時に行うことで,少しでも早く骨癒合を達成し,患者にとっては不快なIlizarov創外固定を極力早くはずすことができるように工夫している.

 本研究の目的は,高齢者の下肢に生じた脆弱性骨折に対するIlizarov創外固定とテリパラチド,低出力超音波骨折治療器の併用による治療効果を後ろ向きに調査し,検討することである.

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 Morton病は,歩行時に中足骨頭間から足趾に放散する苛立たしい疼痛を主症状とする趾神経の絞扼性神経障害である1).Morton’s neuroma(Morton神経腫)2~4),interdigital neuroma5),Morton’s metatarsalgia6)とも呼ばれ,多くは障害部位に趾神経の腫大を認めるが,腫大のない症例もあるとされている.一般的に,Morton神経腫と称されるが,病理組織学的には断端神経腫とは異なり,神経内膜や周膜,神経束内や神経束周囲の線維化が主な変化1,6)であるが,本稿では一般的呼称に合わせ神経腫と記載する.一方,Morton’s syndromeと呼ばれる中足骨頭下の疼痛を症状とする別の疾患も報告されており1),しばしば混同されている.今回,手術例を中心にMRI画像を手術所見と対比し,本症の診断と治療に関し検討を行ったので,文献的考察を加え報告する.

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は じ め に

 扁平足の特殊な原因として,腓骨筋痙直性扁平足(peroneal spastic flatfoot:PSFF)があげられる.今回われわれは,PSFF 19例の治療を経験したのでその成績,治療法,病態について述べる.

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は じ め に

 日常の診療で前足部のしびれ感を主訴として来院する例は比較的よくみられる.患者の多くはMorton病であると予測して来院するが,理学所見上はMorton病と確定診断できる例はまれである.にもかかわらず,しびれ感をきたすMorton病以外の病態についての検討はあまりなされていないため患者への説明に難渋することがある.われわれは,最近5年間に前足部のしびれ・違和感を主訴として来院した例を対象に病態・治療について検討したので報告する.

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は じ め に

 針筋電図と神経伝導検査は,末梢神経障害の診断に用いられる電気生理学的検査である.針筋電図は障害部位の鑑別や随意収縮の有無の検索に,神経伝導検査は病態の局在や重症度の評価に実施される.しかし,両者の検査は測定対象の神経や筋肉が表層に位置する場合は施行しやすいが,深層にある場合は施行がむずかしい.

 近年,超音波検査は解像度が向上し,神経や筋肉を鮮明に描出できるようになった.そこで,筆者らは電気生理学的検査を行う際に正確性を向上させるために,超音波ガイドを用いて神経や筋肉を描出しながら検査を実施している.

 今回,針筋電図および針電極を用いた神経伝導検査(神経近接法)における超音波ガイドの具体的使用法を紹介する.

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は じ め に

 診療に超音波検査を取り入れてから,当科の外来診療は大きく変化した.これまでリアルタイムに見えなかったものが見えるようになり,見えるようになったからわかるようになったこと,そしてできるようになったことがある1).高周波プローブが出現し,超音波装置の信号処理や画像構築技術が飛躍的に進歩したことで,整形外科がターゲットとする浅い部分の軟部組織を鮮明に描出することが可能となった.その空間分解能は0.2mmといわれている.超音波検査の恩恵をもっとも受けたのは,末梢神経損傷の診断であり,現在では画像診断の第一選択は超音波検査となっている2,3)

 外傷性末梢神経損傷は,受傷時に診断されていない場合や,創治癒後に感覚障害を自覚することで発覚する場合も少なくない.手領域では神経間に交通枝が存在する4,5)ことから,神経が完全に断裂している場合でも支配領域が知覚脱失とはならないこともある.そのため,神経損傷を確実に診断する,またどの程度損傷されているのかの判断をすることが困難で,もう一度創を開けて神経を確認するべきか迷うことがある.治療方針を決定するうえで,超音波による神経損傷の診断は非常に有用である.

 本稿では,超音波検査による上肢末梢神経損傷の診断について,症例を提示しながら解説し,本検査の方法,有用性を紹介する.

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 「しびれや痛みの診療」において,神経機能評価は診断のみならず,治療方針の決定に大きな役割を果たしている.神経機能評価の基本はていねいに神経学的所見をとることであるが,診断に迷う場合や神経機能を定量化したいときには電気生理学的検査が有用である.電気生理学的検査は,豊富なエビデンスがある優れた検査法であるが,体表から深い神経の詳細な障害部位診断をすることは原理的にむずかしい1).たとえば脊椎では,硬膜外腔に電極を挿入し脊髄誘発電位を測定することで,脊髄の伝導障害部位の診断が可能である2,3)が,術前診断としては侵襲性が高いために普及していない.

 神経磁界計測は,神経活動電流から発生する磁界を計測することで,体表から深く,骨組織に囲まれている部位でも,神経の電気活動を高い空間分解能で推定できる優れた検査法である.1990~2000年代前半に,末梢神経4~6)や脊椎7,8)の神経誘発磁界測定の報告が多くなされたが,神経電気活動の表示方法や,障害部位診断法が確立していなかったために,臨床応用されなかった.2000年代後半から,電流源推定法の進歩9),神経刺激のアーチファクト除去法10)の開発,磁界測定時の骨格位置取得法の開発により,臨床応用が可能となってきた.現在ではMRI,単純X線像などの形態情報に神経電気活動を重ね合わせて表示することができ,次世代の神経機能診断法として期待される.

基本情報

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別冊整形外科
1巻74号 (2018年10月)
電子版ISSN:2433-4316 印刷版ISSN:0287-1645 南江堂

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