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は じ め に
痛みは,本来,生体の異常を知らせる警告信号として機能するものである.すなわち,生命の維持には必要不可欠な機能である.しかし,痛みにより,血管収縮,血圧上昇,心拍数増加,頻呼吸,および内分泌ストレス反応が惹起され1),そのために睡眠障害,食欲低下,意欲低下,不安増大など実際の生活でさまざまな障害が発生し,患者の生活の質(QOL)は大きく損なわれる.痛みには多面性があり,一つは「痛い」という感覚的側面,すなわち身体における痛みの部位,強度,持続性などを識別した痛み感覚の面,もう一つは過去に経験した痛みの記憶,注意,予測などに関連して身体にとっての痛みの意義を分析する認知の面,そしてそれを不快に感じる情動や感情の面である.痛みは常に主観的であり,客観的に評価ができないものである.
痛みは,組織損傷に伴い発症し期間内に治癒する「急性痛」と,治癒すると予想される期間を超えて長期間持続する疼痛や疾患の進行に伴う疼痛,または長期間改善しない身体的障害に関連する疼痛である「慢性痛」に分類される.痛みを理解するうえで大切なことは,「急性痛」と「慢性痛」という異なる痛みの存在を知ることであり,さらにこれら2つの痛みは,メカニズムが大きく異なるため,対応は変えなければならない.
運動器慢性痛(筋・骨格系の痛み)の患者を診察する際には,「生物学的モデル」だけでは限界がある.すなわち,痛みには原因があり,その原因がなくなれば痛みもよくなるという原因論だけでは解決できないことが少なくない.慢性痛のメカニズムを理解するためには,運動器の器質的異常(生物学的因子)とともに,うつや不安などの心理的要因と,年齢や環境および社会的立場まで考慮した社会的要因(心理社会的因子)との両方を含めるとする概念的なモデルとして,「生物心理社会モデル」が重要視されている2,3).薬物療法や手術だけでは解決できない慢性痛を「生物心理社会モデル」ととらえた場合に,その治療は「集学的治療」がもっともエビデンスが高く,費用対効果に優れ,医原性の合併症を起こさない4).「集学的治療」とは,一つの専門家や職種のみで診療するのではなく,多くの専門家や職種のメンバーが集まって,多分野にまたがり診療することである.「集学的治療」の中では,運動療法や心理社会的アプローチが重要であると考えられている.慢性痛患者に対する心理社会的アプローチの一つに,積極的な問題解決法を取り入れて,慢性痛の体験に関連した多くの難題に取り組む認知行動療法によるアプローチがある.認知行動療法は,慢性痛を改善するのに効果的であることが証明されている5).さらに疼痛管理と機能回復においては,集学的リハビリテーションが高いエビデンスを有し,強く推奨されている治療法である6).
本稿では,星総合病院慢性疼痛センターで行われている,生物心理社会的アプローチに基づく多職種連携による,入院での集学的痛み治療のプログラム「入院型集学的ペインマネジメントプログラム」について解説する.
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