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は じ め に
痛みを扱う整形外科の日常診療において,腰痛のうちレッドフラッグではなく下肢神経脱落所見もない「みえない腰痛」1)の疼痛部位と発症メカニズムは解明が望まれる重要な課題であろう.筆者はいわゆるぎっくり腰の発症メカニズムについての知見2)から,仙腸関節の後部靱帯も「みえない腰痛」の発痛部位として注目すべきであると考え,機能解剖的側面から考案した疼痛誘発テストと治療ストレッチ(以下,診療ツール)を用いて診療している.疼痛誘発テストは仙腸関節の後部靱帯である長後仙腸靱帯(LSL)と仙結節靱帯(STL)の緊張を強調する肢位を患者に指示し,痛みの誘発を促すものである.患者立位で,前者においては下肢内旋膝伸展位で上半身の可及的前屈により腸骨outflareを促す肢位(以下,LSLテスト,図1),後者は下肢外転外旋膝屈曲で上半身の可及的伸展位により腸骨inflareを促す肢位(以下,STLテスト,図2)である.治療ストレッチは,LSLに対する坐位ストレッチ(図3)とSTLに対する腹臥位下肢外転外旋ストレッチ(図4)である.この診療ツールを考案した背景として,① 二足動物のヒトでは安息時,労作時を問わず習慣的に行っている長時間の坐位,立位では左右いずれかへ重心をかける偏荷重姿勢は不可避的であり,この姿勢には腸骨outflare(図5)と腸骨inflare(図6)の二つの様式があるという日常診療からの知見,② 仙腸関節は不動関節ではなく,仙椎後屈,腸骨outflare(図7)でLSLが緊張し,仙椎前屈,腸骨inflare(図8)でSTLが緊張するというVleemingらの報告3),③ 臥位LSLテストの肢位と臥位STLテストの肢位で撮影した4例4組の3 D-CT画像を用いて計測(Adobe illustrator,アドビシステムズ社)した自験研究で,上後腸骨棘(PSIS)は仙椎に対し最大平均2.8mm移動するという結果を得たこと(図9),④ ヒトの上半身は腸骨と仙椎にまたがる仙腸後部靱帯によって吊り下げられているとするKapandjiの報告4),⑤ 繰り返す過剰負荷によりポリモーダル受容器を有する靱帯で生じる「二次痛」の発生機序を明らかにした熊澤の報告5),がある.今回,「みえない腰痛」の診療において考案した診療ツールの臨床的有用性の検証研究を行い,考察を行ったので報告する.
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