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は じ め に
オピオイドは危険な薬で,そのプロトタイプはアヘンである.人類はオピオイドという魔法の薬を手に入れ,その恩恵を享受する一方で,多くの犠牲を払いつつ5,000年にわたり使ってきた.人間の情動には,快・不快という,相反する2つの感覚の上に,すべてを支配する欲望という第三の要素がある.オピオイド受容体作動薬は,不快な感覚(痛み)を消し,同時に欲望(意欲)も失わせる.この事実はアヘンをテーマにした「相思曲」という王尚辰の長詩で生々しく描写されている1).
オピオイドの非がん性慢性疼痛患者への処方は,近年,世界中で広まった.乱用が喫緊の社会的課題となり,対策について2018年新たに厚生労働省通知が出た2,3).米国での大規模研究によると,緩和ケアや末期ケアを除く非がん性慢性疼痛で長時間作用型オピオイドを処方されている患者では,ガバペンチンや三環系抗うつ薬などの非オピオイド鎮痛薬・鎮痛補助薬に比べて死亡率が高いことが明らかになった.対象は1999~2012年に投薬治療を受けた患者で,平均年齢は48±11歳であった.長時間作用型オピオイド使用群の死亡ハザード比(HR)は1.64[95%信頼区間(CI),1.26-2.12],p<0.001,超過死亡(excess deaths)のリスク差(risk difference:RD)68.4/10,000人年(95%CI,28.2-120.7)となった.その内訳は予期せぬ過量投与HR 3.37(95%CI,1.47-7.70)p=0.004,RD 47.4/10,000人年(95%CI,15.7-91.4),心血管系合併症HR 1.65(95%CI,1.10-2.46)p=0.02,RD 71.4/10,000人年(95%CI,4.5-65.3)などであった.経口徐放剤が原因薬物の多くを占めていた4).日本ではこの剤型は承認されていないので単純に比較はできないが,急速にオピオイドの使用が広まっている昨今,有害事象や依存症の実態把握とリスク管理を急ぐ必要がある.
オピオイドの長期投与に関し,深刻な過量投与や依存,中毒のリスクなしに痛みの緩和や機能改善を導くというエビデンスはない5~7).また,疼痛の悪化やQOL低下なしに大幅な減量が可能であるとの報告もある8).オピオイド治療を将来,患者が生きている限り継続するのは危険である.減量・中止の具体的な問題点と対処法について述べる.
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