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は じ め に
手根管症候群は,中高年女性に好発する圧迫性の末梢神経障害である1~3).正中神経支配領域である母指から環指橈側のしびれや夜間痛で発症し,症状が進行すると母指球筋の萎縮にいたる1,4).母指球筋萎縮は母指の対立障害をきたし,生活支障が大きくなることが知られている5~7).手根管開放術の成績は比較的良好であるが,重症化して筋萎縮が発症してからの手術加療では,十分な機能回復が得られないことが多い8).このため,母指球筋萎縮が発症する前に手術を施行することが推奨されるが,実際には,患者は知覚障害だけでは医療機関を受診しないことも多く,さらに母指球筋萎縮初期は母指の機能障害に気づきにくいために,重症化してから手外科専門医を受診することが多い.
母指対立動作は掌側外転運動および回内運動で構成されている6).このうち,母指回内運動は指尖つまみ動作に必須であるが9),臨床現場で用いることができる正確な評価法がなく,正常値も定まっていない.Kapandjiスコアは母指対立動作全体の評価として簡便であり,臨床現場では頻用されているが10~13),母指回内運動を正確に反映しているとはいいがたい14).手根管症候群による母指球筋萎縮が明らかな場合でもKapandjiスコアは低下せず,評価法として不十分であることが指摘されている15).
母指回内運動の正確な評価法の確立とそれに伴う母指球筋萎縮の早期診断は,将来的な手根管症候群の簡易診断につながる可能性があると考える.そこで,われわれは母指回内運動を正確に評価する方法を確立し,さらに手根管症候群に伴う対立障害評価を目的とし,小型6軸センサを用いて,高齢健常者および手根管症候群患者を対象として測定,検討を行った.
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