総合リハビリテーション 15巻9号 (1987年9月)

特集 子供のリハビリテーション

特集発刊にあたって 大川 嗣雄
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 今回,「子供のリハビリテーション」を特大号として送り出すことになった.

 「子供のリハビリテーション」は,故高木名誉教授の「療育」という考え方にも示される通り,我が国のリハビリテーション医学の中でも最も伝統ある分野である.そこで,本特集では,過去をふりかえりつつ,現状を正確に把握し,未来を見通せるような「子供のリハビリテーション」を企画したつもりである.

 

 先ず第1に総論として,日本における子供のリハビリテーションの過去,現在,未来を高橋孝文氏に執筆して頂いた.日本における戦後40年間の子供のリハビリテーションは,肢体不自由児施設が背負って来たといっても過言ではない.氏は日本の肢体不自由児施設のリーダー的な役割を長年にわたって果たして来た.この論の著者として最適任者である.さらに,この部分では,子供の障害に対する新しい視点からの発達診断,注目されているSeating systemなどを取りあげた.

Ⅰ.子供のリハビリテーション

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 A.過去……小児リハビリテーションの歴史―肢体不自由児療育史をとおして

 Ⅰ.「療育」の創始と,わが国初のクリュツペルハイムの誕生(戦前のあゆみ)

 今からちょうど70年前のことになるが,大正5年から7年(1916~1918)にかけて,当時の東京帝国大学整形外科学教室(明治39年,1906.開講)初代教授田代義徳博士指導の下で,東京下谷・本郷・深川のスラム街を対象とした肢体不自由児者の実態調査1)が行われた.

 この調査を直接手がけた高木憲次博士(明治21年~昭和38年)は,肢体不自由であるために学校にも行けない児童があり,この児童が治療に専念すれば教育の機会を失うし,学校教育を受けようとすれば治療の機会を逸するという問題が存在することを知った.

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はじめに

 周知のごとく,米国は,州により法律,制度が異なっており,それを反映して,小児のリハビリテーション(以下,リハビリと略す)に関連したサービスも州により多様である.従って,米国における小児リハビリの現状を一概に述べることは困難である.ここでは,筆者が見聞しえた範囲で,また,最近の論説を参考にしながら,まず,米国における障害児教育の流れと早期療育をめぐる動向について述べ,次に,小児リハビリにおいて最近トピックスとなっているいくつかの問題を簡単に紹介したい.尚,紙数の関係上,脳性麻痺を中心とする中枢神経障害について,主に述べることをお断りしておく.

成長・発達とその評価 上田 礼子
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 Ⅰ.用語

 子どもの特徴は年月齢とともに身体的に大きくなり,複雑な運動が可能になるだけでなく,社会の一員として生活していくための種々の適応行動を獲得していくことにある.受精から胎内生活,出生を経て成人になっていくこの過程は一般に成長,発達と称されているが,成長growthと発達developmentという用語の意味する内容にはいくらかの違いがある.

 成長は組織,器官の細胞数の増加,形態の量的成熟過程をあらわすことが多いが,一方,発達は機能の成熟過程をあらわしている.すなわち,年齢に伴う変化を形態面からとらえようとするのが成長であり,機能面からみようとするのが発達である.両者の違いは成長や発達の評価とも関係することである.成長は体重や身長などのごとく重さや長さなど量の変化としてとり扱うことができる.しかし,発達は運動や知能などのごとく質の変化にかかわることなので単一の尺度で測定できない.

言語発達とそのつまずき 小寺 富子
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はじめに

 障害された言語行動の記述と変容を主たる対象とする言語病理学の分野において,言語発達障害への関心は,近年急速に増大している.ちなみに,言語発達障害関係の文献は,今から約25年前のASHA(米国言語聴覚協会)の報告によると,1936年~1961年の26年間に19の論文が出ているが(Willis & Darley 1962)24),最近の報告では,1980年~1984年の5年間に133の単行本や論文が出ている(Shulman,et al 1986)21).言語行動を記述する際,Language Retardation,Delayed Speech and Languageといった全般的な状態を表わす用語のみでなく,augumentative communication,syntactic/semantic/pragmatic deficitsといった非音声的コミュニケーションメディヤや言語の内容に関する用語も使われるようになり,より質的・分析的な観点がとられる方向に進んでいるようである.

 このような言語病理学の動きは,正常児の言語発達研究の動向と無関係ではない.

 チョムスキーの新しい言語理論(Chomsky 1957)1)は全世界の言語発達研究に大きな衝撃と変革をもたらした.1960年代は,チョムスキーの言語学理論を基盤に文法的・統語的な側面の研究つまり〈子どもの発話の記述〉が中心であったが,1970年代後半には,心理学理論―主として認知理論―を基盤とする〈言語発達の説明〉へと強調点が移動している.言語を一般的な認知過程の中に位置づけ,(略)実用論ないし伝達活動の視点をとることによって新しい展開をしようとしている(村田1981)19)

 乳児は出生以来,他者との相互伝達に対する積極的な欲求をもち,言語的な伝達行為の生じる以前から大人との非言語的伝達を数多く経験する19).このような言語発達の初期発達過程には,外界の事物・事象の認知・記号化(→言語記号体系の獲得)という側面と,他者との伝達(コミュニケーション)活動(→伝達機能の獲得)という側面が含まれる.この2つの側面は,「言語発達遅滞」(言語病理学における,言語発達に障害がある場合の総称)の診断・治療の中核となるべき概念である.

 言語発達遅滞児に対して,米国では種々な試みがなされており,訓練プログラムが材料とセットで市販される場合もある.対象児は,境界線級,教育可能あるいは訓練可能な精神遅滞が多く,重度は少ないように思われる.働きかけのタイプは,行動療法的なアプローチと非行動療法的なアプローチが混在している(Muma 1979)18)

 我が国の言語発達遅滞に対する最近のアプローチは,笹沼によると,母子関係の改善をねらうアプローチ,形成法理論に基づくプログラム,記号-指示内容関係を重視するプログラムに整理され,動向として,個々の症例の縦断的研究の増加,系統的に細かく段階づけた言語訓練プログラムの開発などが挙げられている(笹沼1982)20)

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はじめに

 発達とは年齢増加に伴って,構造や機能が分化,複雑化,多様化することであり,成熟と経験の総和である.従来の発達に関する研究は,まず変化の順序を検討し,それが何時出現するかを問題にした.変化の時期を記述するのには年齢が利用され,段階(stage)の概念も導入された.そして各段階における理想型(ideal type)が考えられるようになった.最近の傾向としては,変化がどのようにしておこるのか,何が変化をおこすのかに関心がむけられている.正常発達には,定まった方向性があり,理想型の発現の順序と発現時期は一定である.発達障害は,このような継時的変化の中でみられる異常であり,「遅れ(delay)」と「病的発達(maldevelopment)」に分けられる.「遅れ」とは,発現の順序は正常発達と変わりないが,発現時期が遅れていることである.「病的発達」とは,継時的変化の過程が正常発達の過程から逸脱することである.発達診断は,理想型の順序とその発現時期から発達基準(規範,norm)をおき,「遅れ」や「病的発達」がないかを診断することである.

 人間の運動行動は運動(movement),動作(motion),行為(action)の3レベルに分けられる.運動発達を分析する場合は,運動と動作が分析の対象になる.運動を扱うのは運動学(kinematics)と運動力学(kinetics)である.運動を空間での質点位置の時間的変化として扱うkinematicsでは,運動は身体各部位の関節角度の変化としてとらえられ,各関節角度の組み合わせは1つの運動パターンとして表現される.運動を筋活動による張力と重力などの外力との関係でとらえるのはkineticsである.動作は書字動作や移動動作などのように,運動によって具体的に行われる課題(task)との関係で行動の分析を行う時の単位となる.

 運動発達の分析は運動と動作の発達的経時的変化を分析することであるが,運動発達の分析を通じて中枢神経系の発達の状態を知ることが可能となる.

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はじめに

 筋電図・神経伝導速度を中心とした電気生理学的検査は,今や日常の臨床において神経筋疾患の客観的評価手段として不可欠のものとなっている.しかしながら小児においてはこれらの検査は少なからず疼痛などの不快感を伴うために,成人と同様に施行することはできない.特に針を使用しなければならない筋電図検査の場合には,患児の協力が得られず実施不能なことも稀ではない.そのため比較的簡単に行える神経伝導検査が最も有効な検査法となる.

 今回は,小児の運動および知覚神経伝導検査を中心にその実施上の注意点,正常値,臨床的意義などについて言及したい.

車椅子とseating system 多田 俊作
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はじめに

 椅子はもともと坐る為の道具であり,坐ることを前提に発達を遂げてきたが,近年,子供のリハビリテーション機器の一つとして,大きく変貌を遂げ,適応の幅を広めて坐るばかりでなく,上半身をおこして坐れるようにする為や,変形等を矯正してゆく為の椅子も工夫され,使われはじめている.

 特にこの十数年来,全身性の痙性まひや不随意運動の強いCP児を中心に,筋ジスや脊髄疾患から寝たきり重障児にいたるまで,広く椅子が用いられる様になった.

 椅子には,車椅子と座位保持椅子があるが,両者はルーツを異にしながら発達してきており,車椅子では諸種インサートやボルスター類が工夫されてその適応が広められ,近時全身を受け止めるバケットに台車がついたタイプがうまれている.

 一方,座位保持椅子も諸種のパーツが生まれて多彩な障害に対応すると共に,素材にプラスチックが選ばれるようになり,モジュラー化とシステム化が進む一方機動性を増して車椅子と座位保持椅子の両者が距離を縮めながら適応の幅を広めて,seating systemと呼ぶのに相応しくなってきている.

Ⅱ.脳性麻痺のリハビリテーション

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はじめに

 先ず現在わが国で用いられている脳性麻痺の定義を述べる.「脳性麻痺とは受胎から新生児(生後4週以内)までの間に生じた脳の非進行性病変にもとづく,永続的なしかし変化しうる運動および姿勢の異常である.進行性疾患や一過性の運動障害,または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する」1)

 この定義が生れてからおよそ20年を経過した.この間,わが国では周産期医療が進み,脳性麻痺の世界でも早期治療あるいは早期療育というテーマが現実化し,また断層撮影などの工夫によって,生体脳の分析なども少しずつ可能になってきている.

 今までの脳性麻痺の定義は今日の実情にそぐわなくなってきている.そのように語る人もおり,私もそれなりにかつて疑問を述べたことがある2).雑薄な議論に終わることはお許しいただくとして,脳性麻痺の現状の診断とその問題点というテーマなので,概念,定義,診断などに関する私見を述べたいと思う.

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はじめに

 脳性麻痺(以下CPと略す)の早期治療がわが国において実施されるようになって,すでに15年以上経った.それと相前後して周産期医療の急速な進歩もみられた.

 早期治療によってCPは無くなるであろうとする極論もあったが,その後そのような報告は聞いていない.しかし,実際の臨床の場では,発生率そのものが激減したことを実感する一方,極めて重症の障害児の数(或は比率か)が増加している感がある.果してCPの発生率がどうなのか.更にはその重症度がどうなのかということは,今後の療育体制,技術の問題を探るうえで重要であると考える.

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はじめに

 Little氏病以来すでに百年以上にわたり,多くの先人達の努力の中で扱われてきた脳性麻痺(CP)が,当初の「姿勢と運動の異常」の見方から,その背景をなす神経生理学的機構の感覚―運動系の障害という踏み込んだ最近の見方まで,その考え方にはいくつかの変遷があった.このためCPの診断も,その時代にCPをどう考えたかにより特徴があり,それは現在の見方と必ずしも一致しない点があることは当然といえよう.

 しかしLittle自身の考え方の中に,CPの病態像は新生児期からの発展の結果という思考がみられ1),早期からの治療の重要性についてすでに言及していたことは,以後一世紀以上にわたりCPの早期診断の問題を投げかけてきたことになる.そして最近のCP早期発見の考え方は,CPの早期診断ではなく,将来CPになるかもしれない病的要素を有する乳児を早く見つけようという方向である.すなわち,ある一人のCP児の生直後からの記録をたどってみると,生後4カ月頃まではその病的要素が不明確で,6カ月以後になりはじめて診断が可能となる場合がめずらしくない2~4)ことはよく知られている.このためCPの診断にこだわらずに,新生児や乳児の有する周産期異常や正常発達から逸脱している徴候を早く見つけ出し,治療の場を与えようとするのがCP早期治療のための早期発見・診断であり,このこと自体は時代の要請ともいえる.

 しかしこのことは,従来のCPの定義について再論議を生じ,同時に,科学的因果関係の探求を一挙に越して「CPを治癒させた」とか「CP発達を阻止した」というような主張を一部に生み出す結果となり,CP診断の科学的意義をあいまいにさせてしまったことも事実である.このような経過を再確認しながら「CPの早期診断」の意味を吟味する必要があろう.

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はじめに

 脳性麻痺の早期治療の問題点については,これまで本誌の上でも発表させていただいた1)

 その要旨は①脳性麻痺の症状が出ていれば,早期に訓練を開始しても正常化が得られたとはいえない.②脳性麻痺の診断は乳児期初期にはまだかなりの困難性があり,中枢性協調障害とされた児の多くは本来正常発達をしていくグループである.③脳性麻痺の発生率は急減してきたが,その大部分は周産期医療の向上による.④脳性麻痺の障害内容を見ると周産期障害を主因とする典型グループが減り,多因子が関係した重度重複グループの比率が伸びてきている.⑤このため脳性麻痺の早期治療は単に運動面からのアプローチではなく,食事栄養指導,呼吸管理,感覚訓練なども含め総合指導となる必要があり,特に母子関係の安定をはかり育児に自信を持ってもらう作業が大事になってくる.⑥このことを含め,訓練は日常生活上での苦痛になるようであってはならない.……といったものである.

 今回はこうした前提に多少触れながら再度,早期診断・治療について私の見解を概説したい.

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はじめに

 わが国の肢体不自由児のリハビリテーションは,昭和22年の児童福祉法の制定から,昭和36年の肢体不自由児施設の全県設置を経て,昭和54年の全員就学に至るまで肢体不自由児施設が主導的な役割を果たして来た.

 その間,肢体不自由児施設は,昭和30年代には,脳性麻痺児が約30%に対し,ポリオ約30%,先天性股関節脱臼12%,骨関筋結核が約10%とかなり障害はバラエティーに富んでいた.

 また,この時期の施設は入園を原則とし,対象の多くが学齢期であったため養護学校を併設していた.

 このような状況は,昭和30年代の後半に至り,ポリオ・ワクチン,先天性股関節脱臼に対する早期治療の普及により著しい変化を招来した.すなわち,対象が変ってしまったのである.その結果,昭和40年代に入ると全国の肢体不自由児施設入園児の50%以上が脳性麻痺児で占められ,昭和50年には65%にも達することになった.

 さらに,このように肢体不自由児のリハビリテーションにおける主要な対象となった脳性麻痺児には,早期治療という新しいプログラムが展開されることになった.この点については,他の章でふれられることになるので,ここでは省略する.

 また,教育サイドからは,昭和54年度には全員就学のための養護学校義務制が取り入れられ,肢体不自由児施設とは独立した肢体不自由児養護学校が数多く設置された.この結果,学齢期の肢体不自由児のほとんどは,都会では自宅から養護学校へ通学出来ることになった.このため,肢体不自由児施設の学齢期入園児が激減することになった.さらに,肢体不自由児の多くの親達が普通学校入学を望む時代となり,現実にもその希望の多くは受け入れられるようになって来た.

 このような状況の中で,乳幼児期からの早期療育は多大な効果をあげてはいるものの,脳性麻痺児をはじめとする多くの肢体不自由児が肢体不自由児であるまま学齢期を迎えているのである.言葉を換えれば,多くの肢体不自由児は,学齢期までにリハビリテーションによって障害は解決されているとはいえないのである.しかし,普通学校へ入学してしまった肢体不自由児や養護学校の脳障害児(従来の肢体不自由児施設では扱わなかったような重度・重障児も多く含んでいる)に対しては,組織的・体系的に医学的リハビリテーションの手が下せないでいるのが実情である.

 そこで,我々はこのような状況を打破するために昭和54年以来,横浜市立の肢体不自由児養護学校全てにリハ医を派遣して来た.さらに,養護総合教育センターとも協力して,横浜市立の普通小中学校に在籍している肢体不自由児の把握にも努めて来た.その結果を基に1~3),現状の学齢期脳障害児および肢体不自由児の実態を報告するとともに次の問題点について検討する.

青年期の脳性麻痺 五味 重春
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はじめに

 上記のテーマについて執筆を依頼されたが,既に全国肢体不自由養護学校高等部卒業生脳性麻痺(以下CPという)2778人の実態を,横断的に調査発表した1)

 今回は①著者の係っている都立(K)養護学校において,小学部1年生より高等部卒業まで診察指導したもの120名のうちCP84名について述べる.

 さらに②幼児期CPとして,旧整肢療護園(現在心身障害児総合医療療育センター)母子入園で取扱った症例の10年以上経過した中学年齢時の調査結果(111名)を昭和54年に発表したが,これらの追跡現況を紹介する.すなわち幼児CPから青年期への縦断的追跡の概要ともいえる.

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 Ⅰ.整形外科の役割り

 Nicolas Andry(1658-1742)が提唱したorthopedieの名は,最初は小児期の変形を予防し,かつ矯正する術の意味であった.日本では明治39年に田代義徳が整形外科と訳し,「整形外科の目的は主として骨骼もしくは関節における形成の変化を生理的に矯正し,もって生理的運動を営為せしめるとするにあり」としたといわれる1).つまり,変形の矯正と機能の回復が同時にえられることが不可欠であるといえる.脳性麻痺(以下CPと略す)における整形外科的治療は,それ自体でCPを治しうるものではないので,機能回復(小児の場合は機能向上)優先の考え方をとらざるをえなく,しかもCPの療育体系の中でその効果をあげるという意味で価値がある,ということを忘れてはならない.しかし整形外科的治療には,手術の他にも色々の手段が幅広くあるので,CP児のリハではその有用性は大きい.

Ⅲ.子供のリハビリテーション(脳性麻痺を除く)

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 Ⅰ.重症心身障害児の実態

 1.重症心身障害児とは

 実態についてのべるまえに,重症心身障害児(以下,重障児と略す)とは,どのようなこどもをさすのか,その定義についてふれておきたい.

 重障児という言葉は,病名や診断名をあらわす医学的用語ではない.社会的ないし行政的用語である.したがって,この用語の科学的な定義づけをおこなったり,重障児医療の体系づくりをすることは,きわめて困難といわなければならない.が,これまで通念として用いられてきたところにより,重障児の概念を解説してみよう.

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はじめに

 米国精神薄弱学会1)によると「精神遅滞とは,一般的知的機能があきらかに平均よりも低く,同時に適応行動における障害を伴う状態で,それが発達期にあらわれるものを指す.」と定義されている.この定義で重要なことは,低IQであることだけで精神遅滞の診断が下されるのではなく,知能と適応行動との両方に障害があると確認された者だけが精神遅滞として分類されることである.

 減少の傾向にあるとはいえ,精神遅滞の出現頻度2~3)は高く,ほぼ人口50人に1人(出生100に対し2~3)の率に上っている.

 精神遅滞の原因は脳性麻痺と同様に出生前,周産期,出生後障害の多岐にわたるが,受精卵性(遺伝性)障害のほかに環境性因子に関連して発生する例も多い.とくに未熟児をふくめリスク・インファントが増加する傾向にある現代において,典型的な脳性麻痺児にかわって精神遅滞児が相対的に増加しつつある.リスク・インファント199例についての調査結果4)では,成熟児に比して未熟児において脳性麻痺に対する精神遅滞の発生率が高く,未熟児のなかでもAFDと比してSFD,極小未熟児において精神遅滞の発生率が高かった.

 本稿では,Ⅰ.精神遅滞児の発生背景,Ⅱ.早期診断,Ⅲ.早期療育,Ⅳ.療育概念,について述べる.

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はじめに

 二分脊椎症は,多種多様の身体的および精神的障害を合併することが多い.これらの障害によって起る運動および知的発達面での遅れを最小限にすると共に,社会的自立をはかるハビリテーション的治療は非常に重要である.ハビリテーションの主要な目標は,学齢期までに,歩行能力の確立と身辺処理の自立をはかることであるが,その目標達成には,障害および年齢に応じて,関連する医療スタッフがチームを組み,両親の協力をもとに,計画的に効率よく治療および訓練指導を行うことが不可欠である.また,社会生活を営む上での規律,一般的知識および技能を学ぶ教育も,ハビリテーションにおいて重要な位置を占めるものと考えられる.

 そこで,現在行われているハビリテーション的治療についてのべると共に,著者らが医学的管理を行っている5歳以上の二分脊椎症児91名(脊髄髄膜瘤75名,脂肪性髄膜瘤16名)の歩行能力および教育の現況について調査したので,検討を加え報告する.

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はじめに

 二分脊椎症は顕在性と潜在性の二大別されるが,前者の大部分の者に様々の程度の膀胱麻痺が合併し,後者でも小児の約30%,成人でも約10%の者に夜尿,昼間尿失禁,膀胱炎などの神経因性膀胱が合併するといわれる1,3,4)

 欧米諸国でわが国の10倍も二分脊椎の発生率が高いので,可成り以前からその尿路管理の重要性が叫ばれて,様々の手術法や保存的治療が試行されて来たが,その中には長期観察の結果が思わしくなく,既に行われなくなった治療法も少なくない5).わが国では古くは本症の発生は少ないとされ,余り治療界の関心を呼ばなかったが,20年位前から長期生存者が増加すると共に累積患者が増加するに従って,その尿路管理の問題点が認識されるようになった.欧米の治療の変遷の激しさに比べわが国の治療方針の変化は穏やかであるが,それでも様々の試行錯誤を繰り返しながら,現在では尿路変更は成るべく避け,各種の保存療法をうまく使い分けるというのが尿路管理の主流となっている1~4,10)

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はじめに

 デュシャンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)は最も頻度の高い代表的な筋疾患である.3歳前後に発症に気付き6歳頃までに診断をうけている.最近は血清CK値の検査でより早期に診断されることが多くなった.10歳前後で歩行不能になり20歳前後で生涯を終ることになる.

 全国的な統計からみた死亡年齢は平均18.9±3.6歳(11~27歳)である1).最近は20歳代後半まで延命するものが増えている.この寿命の延びは初期からのリハビリテーションの実施とくに筋ジストロフィー施設の療育に負うところが大きい.一般に子供としての時期を幼児(就学前)児童(小学)生徒(中学,高校)と就学を基準に区分することができる.そしてDMDの進行性障害の過程からは自然歴の初期から歩行不能を経て末期にかかるまでの10数年の経過が該当することになる.この障害の進展には個人差があり早いもの遅いものがあるが一般に障害度8段階分類からみるとステージ6,7までに属することになる(表1).ここでは子供の特徴的リハビリを述べるため主として就学期,ステージ1から6に至る中期おわりまでをとりあげることにする.

 DMDの原因は不明で遺伝的背景(性染色体劣性)をもった筋原性筋萎縮症であり根本的治療はない.現在治験中の薬剤もあるがいまだ的確な効果はない.病因的には遺伝学的研究がすすめられている.従って障害に対する治療手段はPT,OTを中心とした機能訓練によって残存機能の合理的なしかも代償能を含めた最大限の維持を目標にし,自活能をうながしていく以外にない.

 リハビリとしては幼児期にはじまり,その後の発育の過程における身体的機能障害に対する医療,人間形成の基礎づくりの教育,社会生活への支援など大きくは3つの基本的アプローチがある.このうちには栄養,心理,看護,生活指導などの分野もかかわり多面的な取組みが必要で,これら職種のチームワークの上に成り立つリハビリといえる.なお,在宅(通院),施設(入院)での療護,普通学校,特殊学級,養護学校,訪問指導での教育といった場の違いがある.これら生活様式の違いは障害に対しても影響すると思われる.また,リハビリのアプローチにおいても推進的あるいは制約的問題が考えられる.

 昭和39年以来,筋ジストロフィー専門病床2,500床が国立療養所27カ所に開設され,DMD1,030人が入院治療をうけている(59年11月,PMD入院1,609人中).在宅児の地域リハビリはこれら施設あるいは一部大学病院などが中心となってすすめられている.また,治療研究も厚生省研究班によって推進されてきた.DMD初期には在宅でのリハビリであるが障害がすすむと施設入院が多くなる.この入院時の最頻値は9歳である.近時デイケア,短期入院でのリハビリも普及しつつある.このような実状をふまえ子供のDMDのリハビリのあり方を述べる.

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はじめに

 小児の筋萎縮性疾患の中でもっとも多く,またもっともよく知られているのはデュシャンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)であるが,それに劣らず多いものに福山型先天性筋ジストロフィー症がある.これは後に述べるように前者の約半数の頻度をもち決して少ないものではなく,また前者と同様にリハビリテーションの効果がかなりの程度に認められるという点でリハビリテーション医学にとって重要な疾患である.

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はじめに

 骨形成不全症は,ラテン語の“Osteogenesis Imperfecta”(以下OIと略す)の日本語訳で,“骨折を起こしやすい結合織の遺伝疾患”である.

 本症では,骨の脆弱性(fragilitas ossium)の他に,青色強膜(blue sclera),象牙質形成不全(dentinogenesis imperfecta),聾(deafness),などの多彩な特徴的な臨床所見があることで知られているが,なかでも,骨の脆弱性のために骨折を繰り返し,変形や成長障害などの身体障害を起こしやすいことが最大の問題である(図1).

 本症の治療の長い歴史のなかでは,整形外科的治療を主体とする多くの治療法が試みられ,それなりに多大の成果を上げてきた.特に,近年の遺伝学的研究による新しい分類の確立と整形外科的治療における延長する髄内釘の開発は注目に値する.

 しかし,本症の病因は結合織のコラーゲンの生成障害であることが知られており,根本的な治療は遺伝子レベルの解明を待たなければならないので,残念なことながら,未だに決定的な治療法は確立されていない.

 このような現状においては,本症患児の療育にあたっては,医学的な治療と同時に,継続的なリハビリテーションを積極的に行うことが重要である.

 今回は,このような観点から,本症患者のリハビリテーション・プログラムをたてるために必要と思われる医療分野の最近の知見について述べる.

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はじめに

 分娩麻痺のリハビリテーションが,障害児の中の一つの特徴を持った,疾患の社会への統合を意味するとすれば,機能改善の医学的な治療ばかりでなく,教育面を含めたより包括的なアプローチについてのべるべきであるが,社会環境,障害児の能力,など個別的条件が大きいので一般論としては述べにくい.ここでは,良い機能への医学的処置についてのみ述べる.

 分娩麻痺の神経学的回復の予後は,損傷発生時にほぼきまり,機能的予後を最善の状態におく為の処置を行うことになるが,家族への指導,治療方針上など,分娩麻痺のnatural historyに精通していることが必要で,成因,経過,予後判定などから述べることにする.

 分娩麻痺の機能的予後を支配するのは,勿論,神経回復の予後であるが,損傷された腕神経叢の直接的な修復以外に,この予後に治療によって直接に関与することはできない.神経回復の機序と程度によってきまる.

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はじめに

 先天性多発性関節拘縮症は一般に四肢遠位優位の多発性の関節拘縮が出生時よりみられる原因不明の症候群である.

 1841年にOttoが初めて報告して以来,様々な名称がつけられている.本邦における整形外科領域での詳細な報告は,1939年の飯野によるものが最初と考えらる.

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 Ⅰ.若年性関節リウマチについて

 若年性関節リウマチ(以下JRAと省略)のリハビリテーション(以下リハと省略)について述べる前にJRAについて少し述べてみたい.

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はじめに

 血友病の治療は1960年代の抗血友病血液製剤の出現により飛躍的に発展し,以前は不可避とされていた関節破壊は学童の学校体育が可能なくらいまでに予防できるようになった.この進歩は血液疾患を専門とする小児科,内科医に整形外科医,看護婦らが協力しあって互いの専門性を発揮しあうチーム医療によるところが大きい.治療は出血とその二次障害を補充療法を中心に他の様々な手段を利用して予防,軽減することでその手法はほぼ確立された.一方,補充療法は肝炎,AIDS等の合併症をもたらした.これらは今や血友病患者を新たなる社会的差別に直面させ医療,リハビリテーションに大きな障害となっている.

 本稿では今日我々が行っている血友病包括治療の経験から治療の原則と直面する問題について述べる.

小児切断 加倉井 周一
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 Ⅰ.小児切断者の定義と発生頻度

 小児切断者の上限年齢についてアメリカではjuvenile amputeeとして21歳までを含めているが,本邦では児童福祉法の兼ね合いはあるものの我々は原則として12歳(小学校6年生)まで,特殊な切断並びに先天奇形は18歳まで観察を続けている.

 本邦の小児切断者の発生頻度については明らかでなく,限られた地方自治体のデータしかない(東京都―全切断者の3.6%1)―昭和44年.兵庫県―全切断者の4.4%2)―昭和42年).昭和45年10月に行われた厚生省の障害児推計調査によると,上肢切断2000人,下肢切断900人,合計2900人が唯一の全国と統計になっている.

小児の熱傷 千野 直一
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はじめに

 熱傷は皮膚の物理的損傷から二次的に筋骨格系の機能障害をもたらすものでリハビリテーション(以下リハビリと略)医療であつかう特異的な疾患といえよう.ことに,熱傷患者の約半数が10歳未満の小児であること1)は熱傷による障害が単にその子供の身体的な機能障害にとどまらず,母親を中心とする家族,その周りの社会に与える影響は他の疾患に見られるものとは全く異なるものである.そして,多岐にわたるリハビリ上の問題点を解決するためには,まさに,リハビリ・チームの密接な連携が不可欠となる.

 本稿では,小児の熱傷に見られるリハビリ上の問題点をうきぼりにするとともにその対策の概観を論ずることとする.

 熱傷の治療は一般的に急性期と慢性期にわけられるが,理想的なリハビリは受傷直後にはじまり長期にわたるフォローアップを要するものである.

 熱傷の急性期治療は皮膚・皮下組織損傷の深達度と範囲の診断ならびに,重度の熱傷では,救命救急処置にはじまる.すなわち,患児がショック状態になる場合には蘇生術と心肺機能,腎機能維持と電解質,体液のバランスが急務となる2)

 一方,この時期にリハビリ上で問題となるのは熱傷による疼痛,浮腫,関節の固定などが創による組織の短縮とあいまって生ずる関節拘縮と肥厚性瘢痕による機能障害である.ことに手指の浮腫は受傷後48~72時間で器質的な変形をもたらすとされており3),いかに急性期のリハビリが大切かということが解るであろう.以下に個々の問題点に対してのリハビリ・プログラムについてのべる.

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はじめに

 小児呼吸器疾患のリハビリテーションの対象には,気管支喘息,呼吸器感染症の一部,膵臓嚢胞性繊維症および神経筋疾患に伴う呼吸不全などがある.本稿では,その中でも頻度が高く,かつ,リハビリ上,病態生理学的にいくつかの問題点のある気管支喘息について解説を加える.

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はじめに

 成人の心疾患に対するリハビリテーションは,既に幾つかの循環器内科やリハビリ科において検討が加えられ,殊に心筋梗塞後のリハビリは広く施行されるようになってきた.一方,小児の心疾患に対するリハビリは,Krusenのリハビリ教科書にも該当する項目は無く,リハビリの基本的項目として広く認知されているとは言いがたい.しかし,リハビリ医の立場からは,成人の心筋梗塞後のリハビリの手法を応用して,小児心疾患の治療にもリハビリ医が参加できるかどうか,さらに心疾患を持った小児が麻痺性疾患や外傷などの障害を合わせ持った場合に,リハビリ施行上どんな注意がいるか,などの疑問がある.そこで,今回はこれらの疑問の回答を考えながら,運動量管理の原則と小児心疾患の概観を述べる事にした.

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はじめに

 小児における悪性腫瘍の中で,骨原発性の悪性腫瘍の占める割り合いは3.6~5.6%であり,年間10万人当り0.25~0.34人発生するとされている.この中でも,特に骨肉腫の占める割り合いが多い1~4)

 小児における悪性骨腫瘍は予後不良であり,切断を行っても早期に肺転移をきたし死亡することが多かった.しかし,近年化学療法や放射線療法の進歩に伴いその治療成績も向上し,また,患肢温存療法の報告も多くみられるようになってきた5~9).しかし,なおやむなく切断に至る症例も多く,このような患児に対しリハビリテーションを行っていく上で,術前・術後長期にわたる化学療法による義肢装着訓練の遅延・中断等もあり,従来のプログラムを進めていくのには困難なことが多い.

 今回は,小児の悪性骨腫瘍による下肢切断例について我々の経験を通してその問題点等について述べ,また,今後リハビリテーション分野でも大きな問題となってくると思われる患肢温存療法に関しても触れたいと思う.

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はじめに

 医学の進歩により,近年抗痙剤の開発進展は著しいものがある.しかしながら未だその抗痙剤の無効な約10~15%の子供や,てんかん発作間の小児をどう扱うかが,最近のてんかん(Epi)児の関心事である.ここにEpi児に対する(リ)ハビリテーション<(リ)ハと略す>の関与や全人間的扱いが注目されるゆえんがある.

 最近「Epiは病気ではない」という人がおられるが,それはあくまでも抗痙剤有効な後述するEpi only児に対してはいえても,古くから知られていることだが,知的障害即ち精神遅滞(精神薄弱,MRと略す)といわれている状態を合併する重複障害のてんかん児では,一概にそうもいえないと筆者は考える.このような重複障害Epiの(リ)ハこそEpi児のリハ的問題であり,今後解決せねばならなぬEpi児のリハ学的課題であると思われる.従って重複障害児のEpi児に焦点をしぼりEpi児のリハについて述べてみたい.

小児療育と法律 大隈 秀信 , 緒方 甫
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はじめに

 障害児童に関する取扱は,主に児童福祉法の中に位置づけられているが,現実には多数の関連法律や地方自治体ごとの条例などに複雑に規定されておりその全容を把握することは,大変困難なことである.以下,リハビリテーション診療に実際に携わる立場から関連する法的事項について概説し,問題点をさぐることにする.

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はじめに

 子供のリハビリテーションを語る時に,最も大切な問題は,全人格の健全な発達・成長ということである.幸いにも,我が国の子供のリハビリテーションは,このような視点を忘れることなく健全な発展を遂げ,現在も進歩しつつある.しかし,諸外国,特にアメリカ合衆国に比して等閑視して来た問題が1つある.それは障害児のリハビリテーションにおける性の問題である.リハビリテーションが,障害児の全人格に関わり合い,働きかけることであるとすると,性の問題は避けて通れない筈である.最近のアメリカ合衆国の子供のリハビリテーションの教科書をみても,多くの頁が性について割かれている.そこで,本特集においても性の問題に触れない訳にはいかないと思われる.しかし,残念ながら我が国での障害児の性に関する関心は低く,まだ研究も乏しいのが現状である.そこで,諸外国の実状を踏まえ,子供のリハビリテーションにおける性の問題を概観してみる.

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はじめに

 骨髄移植とは,従来治療が困難とされていた白血病・再生不良性貧血などの造血細胞の異常や先天性免疫不全症などの免疫適格細胞の欠陥に対し,根治を目的に健常人から正常な骨髄細胞を移植し,患者の骨髄を再構築する治療法である.

 骨髄移植の導入に関しては,数多くの動物実験が重ねられ,血液学・免疫学の進歩とあいまって,欧米では1960年代には臨床応用が可能となった1)

 本邦においても骨髄移植の治療成績は着実に向上を示し,その有用性は広く認められるようになってきている.しかしながら骨髄移植の前処置としての抗癌剤の大量投与や,放射線の全身照射,さらには無菌室への長期間の隔離・安静は患者の全身的な機能を著しく低下させると同時に,二次的な合併症の発生誘因ともなりうる.そのための障害の永続化は骨髄移植の成否に重要な影響をもたらし,長期生存し得たとしても,人生の質,すなわちquality of lifeを低下させる原因ともなっている.

 東海大学リハビリテーション科の各スタッフは骨髄移植チームのメンバーとして参加し,早期より骨髄移植の結果生ずる様々な問題に対しチームアプローチを行い,良好な成績を得ている.

 今回は骨髄移植後に起りうるリハビリ上の種々の問題点について述べると共に,我々の行っているプログラムとその治験例について紹介する.

Ⅳ.子供のリハビリテーションと施設

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はじめに

 「こどもは,大人を小さくしたものではない」といわれる.小児の疾患は,病因,病態,治療法などが成人のそれとは異なる点が多い.このことから,内科から小児科が分離され,外科から小児外科が分科した.

 病院についても,病室,設備などのハード面はもとより,看護,検査,麻酔などの,いわばソフト面における小児特有のニードに対応するため,小児専門病院が誕生した.欧米では,既に100年近い伝統を持つ小児病院Children's hospitalがみられるが,わが国における小児専門病院の歴史は浅く,昭和40年の国立小児病院発足以来,ようやく20年余りが経過したに過ぎない.

 本稿では,小児医療のおかれた環境について簡単にのべ,わが国の各小児病院のリハビリテーション医療の現況,神奈川県立こども医療センターリハビリテーション科の状況を通じて,小児専門病院の小児のリハにおける立場,将来への課題などに触れてみたい.

肢体不自由児施設 七戸 幸夫
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 いとぐち

 子供のリハビリテーションのことを,別にハビリテーションHabilitationというときがあるが,わが国では療育という言葉が広く普及され定着している.この言葉もわが国肢体不自由児の父と仰がれる高木憲次博士が長い啓蒙運動のなかから造語されたものの一つであるといわれている1)

 いま全国に肢体不自由児の療育を行う施設は73カ所あって,それぞれ特色を持った多様な活動を行っている.ここでは,まず肢体不自由児施設の発展過程をかえりみ,現状と問題点にふれると共に,肢体不自由児施設の将来を展望してみたい.

肢体不自由養護学校 安好 博光
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はじめに

 肢体不自由教育においては「障害の重度・重複化」という現象が,現在では,いわば日常的な用語として用いられるほどとなっている.これは,肢体不自由養護学校在籍児童・生徒数の約60%が脳性まひであることを考えれば,当然のことと言えよう.

 この重度・重複化の現象は,教師に,一般に言われる「教育」の概念の転換を迫ることになり,ひいては,指導理論・指導方法(指導技術)等においても,他の学問領域を導入した上での視野の拡大を余儀なくさせてきている.同時に,適切な指導を行うための施設・設備の効果的な利用法についても,教師が自ら創意,工夫をせねばならない状況となっている.

 そこで,肢体不自由児の教育指導を行う上での肢体不自由養護学校の施設・設備の現状について述べたい.

Ⅴ.子供のリハビリテーション・メモ

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 1.新生児マススクリーニングとは

 健康な赤ちゃんを含めて,全ての新生児を対象として血液検査を行い,5種類の先天性代謝異常(フェニールケトン尿症,楓糖尿症,ホモチスチン尿症,ヒスチジン血症,ガラクトース血症)およびクレチン症(先天性甲状腺機能低下症)を早期発見し,早期治療することにより障害(特に知能障害)の発生や死亡をなくそうとする組織的検査体制のことをいう.厚生省の指導で各自治体が実施している事業である.

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 先天異常モニタリングとは,ある種の先天異常の発生増加や新しい先天異常の発生を指標として,環境中に導入された催奇形物質の早期発見を行うための継続的な監視システムである.さらにこの監視システムにより得られた結果にもとづき,具体的な対策を講ずる一連のシステムを先天異常サーベイランスというが,一般的にはモニタリングとサーベイランスを厳密に区別せず,ほぼ同義語的に使用している.モニタリングの目的はヒトの生活環境に導入された催奇形物質を早期に発見し,それを生活環境から除去することにより主として環境要因による先天異常の発生を防止または減少させることである.

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 最近の新生児医療の進歩により新生児死亡率は著明に低下し,昭和60年人口動態統計では,新生児死亡率は3.4となっている.この死亡のうちの約1/3は,いわゆる極小未熟児が占めている(一般に極小未熟児とは出生体重1500g未満の児を指し,特に1000g未満の児を超未熟児とよんでいる).全出生中の極小未熟児の割合は0.4%にすぎないが,死亡例が多く,生存例での後障害の問題も重要である.出生率が漸減し,少ない子どもを大切に育てる風潮の中で,新生児のintact survivalが大きな課題となっている.

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 1.神経芽細胞腫の臨床的特徴

 神経芽細胞腫は小児がん全体の約10%を占め,副腎または交感神経節より発生する腫瘍である.好発部位は腹部(60%),胸腔(20%)である.臨床症状は発生部位の腫瘍自体によるものが主であり,腹部膨満,呼吸困難などである.その他,遠隔転移による症状として,骨転移による四肢痛,骨髄転移による貧血,眼窩転移による眼球突出などである.

 本症の予後に関与する因子のうち,もっとも重要なものは①病期(Stage)の進展度,②診断時の年齢である.すなわち,腫瘍が発生部位に限局している病期ⅠまたはⅡの症例で,年齢が1歳未満の場合は,ほぼ100%の治癒が期待される.しかし,周囲のリンパ節転移や遠隔転移を有する病期ⅢおよびⅣで,1歳以上の症例の予後は不良で2年生存率は30%である.特に病期Ⅳ,2歳以上の症例の生存率は数%にすぎない.したがって,年齢1歳未満で腫瘍の進展していない時期(病期ⅠまたはⅡ)に発見すれば治癒する可能性が高いことになる.

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 遺伝相談とは遺伝病にかかわる問題をもつ来談者に,彼らが妥当な結婚や出産,中絶などの正しい判断ができるように的確な遺伝学的情報を授け,問題の本質を理解させることである.遺伝相談の中心は危険率の推定ではあるが,危険率のみでは家族は正しい決心がつきにくい.そこで問題の疾病の病像や予後,本人および家族のこうむる肉体的・精神的苦痛,経済的負担などについても説明すべきであろう.さらに遺伝相談は単なる遺伝情報の伝達に終ってはならない.あくまでも遺伝病医療の一環として位置づけることが大切である.また他の医療と異なり,来談者や発端者のみでなく家系全員に責任をもつべきで,家系内の他の患者やハイリスク夫婦などにも助言を与える必要がある.相談内容の秘密保持に努めるなどは自明の理である.

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 新生児・乳児期のビタミンK欠乏症は,表1の様に分類される.新生児メレナは古くから有名であるが,生後1週以内の出来事であり重篤になることは少ない.一方,乳児ビタミンK欠乏症は比較的新しい概念であり,ビタミンK欠乏の誘因が明らかでない特発性乳児ビタミンK欠乏症に分けられる.ビタミンKは脂溶性ビタミンであり,脂肪の吸収に必要な胆汁排泄の低下する先天性胆道閉鎖,総胆管拡張症などでは欠乏しうる.緑葉野菜などに由来する食物のビタミンK1のほかに,腸内細菌叢の合成するビタミンK2も利用されうるが,腸内細菌叢を変化させたり,吸収を低下させる長期抗生物質投与,長期下痢などでもビタミンKは欠乏しうる.続発性とはこの様な誘因を持つ場合を指している.

難治性てんかん 岩本 弘子
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 疾患が難治性であるという事は,疾病が治癒しないか,または社会復帰可能な程度に症状が改善するという目標が達せられない場合と考えられる.てんかんは,本来,慢性疾患であり治癒(断薬後も発作再発のない状態)までには5~10年もの長期間を要することが多いため,治療目標の第一は,薬物の継続的服用により発作を抑止し社会復帰可能な状態とすることになる.現時点の医学のレベルにおいて考え得るあらゆる治療を駆使しても,この目標が達成されないものを難治性てんかんとしてよいと思われるが,難治性てんかんの定義・基準については未だ統一されたものはない.

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 1.概念とその由来

 「知能は正常またはそれ以上で,さまざまな程度の学習あるいは行動上の問題があり,この障害は中枢神経系の機能異常に基づくものをいう.この機能異常は認知・概念構成・言語・記憶および注意力・衝動・運動機能のコントロールなどの面に単独あるいは種々の組み合せで出現する.」これが微細脳障害の定義である.

 この概念の由来を見てみよう.教育面でうまく適応しない子どもを,何らかの中枢神経系障害が想定されるもの(外因群)とそのような障害が想定されないもの(内因群)とに大別すると,相互に重なり合う面は多いものの,外因群には多動・情緒不安定・知覚の障害・衝動性・被転導性(些細な刺激により気が移りやすい)・保続傾向などが目立っている.そこでこれらを脳障害児(brain dameged)と称した.ところが,実際に脳に器質的障害が認められる症例(脳性麻痺,水頭症など)に,いわゆる脳障害児にみられる種々の行動特徴がみられるとは限らないという事実もある.そこで,明らかな脳障害を除外するために“微細”という語を冠するようになり,さらに障害(damage)という語にかえて機能障害(dysfunction)が使われるようになった.

Wilson病 岩本 弘子
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 Wilson病は,常染色体劣性遺伝を示す銅代謝異常症で,肝・脳・角膜・腎などに銅が沈着し,肝硬変,錐体外路症状,Kayser-Fleischer角膜輪を三主徴とする.多くは,小児期に発症し進行性の経過をとり,治療が行われなければ死の転帰をとる.血清セルロプラスミン低値が発見されて以来早期診断への道が開かれ,D-penicillamin等による早期治療により良好な予後が期待されるようになった.

水頭症の治療と予後 山口 和郎
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 水頭症とは脳脊髄液が頭蓋内に過剰に貯留し,頭蓋内圧の上昇をもたらす状態である.

 脳室系の髄液流通路の閉塞による非交通性水頭症と,脳室系の閉塞はないが,髄液の吸収障害あるいは過剰分泌によっておこる交通性水頭症に分ける.非交通性水頭症は室間孔の閉塞・中脳水道の閉塞,第4脳室正中孔および外側口の閉塞によっておこるが,この原因は先天奇形,炎症,腫瘍,出血等である.交通性水頭症はクモ膜顆粒の先天性欠損,髄膜炎,クモ膜下出血,静脈洞の閉塞,脈絡叢乳頭腫による髄液の過剰産生等によっておこる.

代謝性ミオパチー 三杉 信子
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 代謝性ミオパチーとしてあげられている疾患には,糖原病性ミオパチー,悪性高体温症,周期性四肢麻痺,ミオグロビン尿症があり,近年それに加えてミトコンドリアミオパチーが注目されている.

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 子供の眼の管理は,主として視機能の発達過程を管理することであり,成人の管理と最も異なる点である.一般に,眼科に於けるリハビリテーションとは,失明者や強度の視力障害者の教育や社会生活上の指導を指し,本来の機能改善の意味を持たない.これは,眼球が小さく精密な構造のため一度受けた機能障害を改善させることが困難であり,視機能の発達が早期に完了し,この時期を外すと失われた機能を強化することが出来ないためであろう.そういう意味では小児眼科こそ眼科における吻一のリハビリテーションと言えるかもしれない.

 新生児において,眼球の大きさは他の器官と比べてはるかに成人に近く,その構造も黄斑部の形成が3~5カ月遅れることを除けばほぼ完成されている.乳幼児期の視機能は,この状態で黄斑部での固視・輻輳・調節等の諸条件を備え,網膜上に視物を明瞭に結像させることを繰り返しながら発達していく.

摂食指導 向井 美恵
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 心身に障害が認められる小児は,食物摂取機能に遅延や異常を呈しやすく,口から上手に食物を摂取することが困難な場合が多い.これらを摂食障害と呼び,その原因は2つに大別される.1つは重度の障害児にみられるような摂食機能の発達が未熟で,いまだ機能を獲得していない場合で,他は,事故などの中途障害児にみられる獲得した機能を失った場合である.いずれにせよ,人が生きていくための基本的な機能であり出生後早期に獲得されるべき機能のため,他の発達・発育に及ぼす影響は非常に大である.

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 リハビリテーション医学の分野でも,近年針治療に対する関心が高まりつつある.小児については,次のような点に留意して行う.

片手笛 小越 信子
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 一般校における障害児への理解が深まり,一般校に在籍する肢体不自由児の増加がみられるが,教科の中で体育,音楽,図工,家庭科などの学習に問題が生ずることが多い.音楽では小学校低学年から中学まで,長い期間使われるたて笛(リコーダー)の演奏で,上肢障害児は部分的参加または見学となり,情操豊かにすべき音楽がかえって心理的負担になっている場合も少なくない.

 このような問題を少しでも解決するために東京都補装具研究所において,4~5本の指で演奏できる片手笛と,ホールの位置換えやキーの設置を加えた改良笛の開発研究がすすめられ,普及のルートもできている.教育委員会で購入し,上肢障害児に貸与している市町村も増加し,級友と同時に参加できるようになってきた.

障害児歯科 伴場 せつゑ , 池田 正一
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 障害児に対する歯科医療が積極的に施行されるようになったのはまだ記憶に新しい.

 障害児の歯科治療が敬遠された大きな理由に治療の困難さがある.一般に歯科治療は恐ろしいものであり,また一定時間静に口を開いているという条件下で可能である.多くの障害児は歯科治療を受け易いような行動をとり難い.脳性麻痺のような運動神経系の疾患や精神薄弱のように精神障害児は歯科的に著しく治療困難となる.

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 Bruce Caplan氏の編集による“Rehabilitation Psychology Desk Reference”を通覧する機会を得たのでここにその内容を紹介したい.

 27名の執筆者によって構成されているこの本は560頁のややぶ厚い本である.

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 この本の前書きに,われわれ医師に限らず技術者という人種には,解決の簡単な問題を軽蔑し,高度な知識と技術が要求されるような問題には,一転して熱心になるという特性があり,単なる肩こりのような患者をないがしろにし,頸髄症を伴うような患者には,なみなみならぬ興味を示すことになると記されている.この言葉は私にとってもたいへん教訓的である.最近の脊髄外科の発達により,以前とは考えられないほど高度な手術が行われるようになり,我々の興味も頸髄症があるような重症の患者に集中しがちである.

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 本書は,1982年に「四肢麻痺と対麻痺のリハビリテーション」(原著第2版)として翻訳出版されていました.

 その後,第3版が出版された機会にあらたに翻訳され,「四肢麻痺と対麻痺:理学療法士のための手引書」として再出版されました.特に第3版では,呼吸器の理学療法と脊髄不全損傷の項目が改訂,加筆されています.それから,巻末には引用文献および参考文献が掲載され,更に深く学究できるように適切に配慮されています.

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 これは著者がリハビリテーション(リハと略す)の理念を扱った2番目の著書である.前著“リハを考える”ではいささか肩肘を張っていたし,理論が理論として扱われていた趣があったが,本書では理論がいちいち具体的な事実,事例によって豊富かつ適切に裏打ちされているから,大変理解しやすいだけでなく,直ちに日常診療の指針として役立つと思われる.理論を扱いながら同時に実用書としても有効に機能するというのは著者の腕前であろう.油の乗り切った,臨床の修羅場で縦横に活躍をつづけている実践家の著書には理論を説いてもそれだけの臨場感があふれるものである.

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 リハビリテーション医学の臨床に携わる者として失行,失認,失語の高次脳機能の障害が,患者の社会復帰への大きな関門として立ち塞がることを経験するのは一度や二度ではない.

 神経内科,脳外科の分野においても高次脳機能障害に気付くことにより意外な疾患の存在を診断し得たという例に遭遇することも決して稀ではないかと思われる.

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 日本においても末期癌患者の診療に対する研究は進められており,また社会的関心も亢り多くの図書や他のマスメディアでも取り扱われている.然し一方医療の現場に目を向けると,これ等の患者の診療に一定の病床を持って計画的に行っている所は我が国ではまだ数ケ所しかない.このような現状からみると多くの末期癌患者のケアーはむしろそのような専門施設以外の一般医療機関が少数であるが在宅で行われている.

 問題はそのような所でどのように行われているかでこれは今の所それぞれの所でその考え方と知識と手技を模索しながら努力を重ねて行っている現状である.

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編集後記 大川 嗣雄
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 総合リハビリテーションも創刊以来15年を経過した.総合リハビリテーションは,毎号何等かの特集号になっており,それなりに素晴しい論文が掲載されて来た.しかし,一回の特集に掲載される論文は多くて4~5本が限度である.特集のテーマによっては,もっと多くの先生にもっと多くの論文を書いて頂きたいと思いつつも,スペース,掲載論文数の制約などによって編集委員が欲求不満に陥ることも多い.

 このようなことをなくし,リハビリテーション医学や医療の新しい進歩・発展を集大成して皆様にお送りしたいといつも考え続けて来た.それを実現するために,総合リハビリテーションはすでに2冊の特大号をお送りした.すなわち,第5巻12号のリハ医学の基礎であり,第10巻1号の脳卒中のリハビリテーションである.この2号に続き第3号の特大号として,「子供のリハビリテーション」が完成した.

基本情報

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総合リハビリテーション
15巻9号 (1987年9月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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