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はじめに
障害された言語行動の記述と変容を主たる対象とする言語病理学の分野において,言語発達障害への関心は,近年急速に増大している.ちなみに,言語発達障害関係の文献は,今から約25年前のASHA(米国言語聴覚協会)の報告によると,1936年~1961年の26年間に19の論文が出ているが(Willis & Darley 1962)24),最近の報告では,1980年~1984年の5年間に133の単行本や論文が出ている(Shulman,et al 1986)21).言語行動を記述する際,Language Retardation,Delayed Speech and Languageといった全般的な状態を表わす用語のみでなく,augumentative communication,syntactic/semantic/pragmatic deficitsといった非音声的コミュニケーションメディヤや言語の内容に関する用語も使われるようになり,より質的・分析的な観点がとられる方向に進んでいるようである.
このような言語病理学の動きは,正常児の言語発達研究の動向と無関係ではない.
チョムスキーの新しい言語理論(Chomsky 1957)1)は全世界の言語発達研究に大きな衝撃と変革をもたらした.1960年代は,チョムスキーの言語学理論を基盤に文法的・統語的な側面の研究つまり〈子どもの発話の記述〉が中心であったが,1970年代後半には,心理学理論―主として認知理論―を基盤とする〈言語発達の説明〉へと強調点が移動している.言語を一般的な認知過程の中に位置づけ,(略)実用論ないし伝達活動の視点をとることによって新しい展開をしようとしている(村田1981)19).
乳児は出生以来,他者との相互伝達に対する積極的な欲求をもち,言語的な伝達行為の生じる以前から大人との非言語的伝達を数多く経験する19).このような言語発達の初期発達過程には,外界の事物・事象の認知・記号化(→言語記号体系の獲得)という側面と,他者との伝達(コミュニケーション)活動(→伝達機能の獲得)という側面が含まれる.この2つの側面は,「言語発達遅滞」(言語病理学における,言語発達に障害がある場合の総称)の診断・治療の中核となるべき概念である.
言語発達遅滞児に対して,米国では種々な試みがなされており,訓練プログラムが材料とセットで市販される場合もある.対象児は,境界線級,教育可能あるいは訓練可能な精神遅滞が多く,重度は少ないように思われる.働きかけのタイプは,行動療法的なアプローチと非行動療法的なアプローチが混在している(Muma 1979)18).
我が国の言語発達遅滞に対する最近のアプローチは,笹沼によると,母子関係の改善をねらうアプローチ,形成法理論に基づくプログラム,記号-指示内容関係を重視するプログラムに整理され,動向として,個々の症例の縦断的研究の増加,系統的に細かく段階づけた言語訓練プログラムの開発などが挙げられている(笹沼1982)20).
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