臨床外科 72巻11号 (2017年10月)

増刊号 手術ステップごとに理解する—標準術式アトラス

渡邉 聡明
  • 文献概要を表示

 外科手術においては,古くから手順を重んじており,段階を踏んで手技を完遂することが重要とされている.近年では様々な外科手術用のエネルギーデバイスの開発もあり,手術術式は一層多様化してきている.また一方で,従来の開腹手術に加えてロボット手術を含め内視鏡外科手術が多くの領域で行われるようになったが,このような低侵襲手術の普及と同時に,今まで直視下には確認しにくかったような解剖学的構造も認識されるようになってきた.加えて画像診断技術も進み,以前にもまして術前の正確な評価のもとに,計画性をもって手術を立案・遂行することが極めて重要な時代となってきている.このような状況において,解剖学的な新しい知見も加えたうえで,簡潔に明快なステップを踏んで確実に手技をマスターできる手助けとなるようなアトラスが多くの外科医に求められていると考え,今回のような手術書の発行を企画した.

 本特集では,外科医が扱う各領域において術式を細かく分類し,それぞれエキスパートの先生に術式ごとの手技上のコツを解説していただいた.各術式においてキーとなるステップのアトラスが呈示されているので,それぞれの手順を着実に理解できるものと大いに期待している.

  • 文献概要を表示

Step1

皮膚切開のデザインと皮弁作成(図1)

 頸部食道癌の手術は,頸部食道の切除に加えて頸部領域リンパ節を郭清する必要がある.また,腫瘍の局在によっては下咽頭および喉頭を合併切除したり,胸部食道の切除や上縦郭のリンパ節郭清も必要になることがあるため,それらを想定した皮膚切開デザインを行う必要がある.ここでは一般的なU字切開について記述する.

①スキンマーカーなどを用いて皮膚切開線を決定する.通常,頸部食道癌では両側の乳様突起の下方から胸鎖乳突筋の筋腹の直上を通って,鎖骨上縁の一横指頭側を横切るU字切開を行う.

  • 文献概要を表示

Step1

小開胸,トロッカー挿入(図1)

 ハイブリッド胸腔鏡下食道切除術では,左半腹臥位で患者をベッドに固定し,ベッドをローテートすることにより左側臥位として手術を開始する1).術中にベッドをローテートして腹臥位に体位変換するため,手術開始前に体位変換のテストを行っておく.縦隔内は限られたワーキングスペースであり,正確で安全な手術を行うためには,適切なポートの配置や助手との協調作業による十分な術野の展開が重要である.

①第5肋間中腋窩線上に約3 cmの皮膚切開を加え,直視下で小開胸する.肺の癒着がないことを確認後,Xゲートを装着する.

  • 文献概要を表示

 食道胃接合部癌とは,食道と胃の筋層境界(食道胃接合部)の上下2 cmに腫瘍の中心をもつもの全般を指す.下部食道癌に対しては食道亜全摘,体上部の進行胃癌に対しては胃全摘が標準術式であり,上部消化管の癌に対する術式は腫瘍の占居部位によって極端に異なっていることがわかる.したがって,食道胃接合部癌に対する施行術式が常に議論の的であることは容易に想像できる.扁平上皮癌であれば食道癌に準じた食道亜全摘を,腺癌であれば食道浸潤(食道が主占居である腫瘍であれば“食道”浸潤ではないのであろうが,この用語の使用頻度が多いため同語をあえて用いる)距離,胃側の腫瘍volumeに応じて食道亜全摘,胃全摘を使い分けている.また,腫瘍長径が4 cm以下であれば,深達度によらず胃全摘は不要で,下部食道噴門側胃切除により予防的リンパ節郭清は十分であるという結論から,同術式の選択頻度が増えてくると推測される.食道亜全摘,胃全摘については他稿に譲り,本稿では食道胃接合部癌に対する独自のoptionである下部食道噴門側胃切除の解説を行うことにする.

  • 文献概要を表示

Step1

トロッカー挿入,肝左葉の挙上と視野の展開(図1)

 アカラシアに対する筋層切開術は,1913年Hellerにより最初の報告が行われ,現在では本法に逆流防止手術であるDor噴門形成術を加える,いわゆるHeller-Dor法が広く普及し,また腹腔鏡手術が標準化されている.本稿では,腹腔下Heller-Dor法について概説する.

①手術体位は開脚仰臥位としている.臍部にopen methodで12 mmブラントチップトロッカーを挿入する.腹腔内の癒着を確認しながら,右肋弓下鎖骨中線上に5 mmトロッカー,左肋弓下鎖骨中線上に12 mmトロッカー,さらにその外側で左側腹部前腋窩線上に5 mmトロッカーを挿入する.術者は両鎖骨中線上のトロッカーもしくは右鎖骨中線上および臍部トロッカーを適宜使用している(臍部トロッカーを術者が使用する際には,左鎖骨中線上12 mmよりカメラを挿入する).

  • 文献概要を表示

Step1

良視野展開と再建操作のためのトロッカーの位置と皮膚切開ライン(図1)

 十分な視野確保が安全に手術を進行するための基本となる.食道周囲の処理や再建では,肝左葉の圧排は重要な視野展開である.

①臍部に12 mm径のカメラポートを挿入し,気腹後,腹腔内を観察する.

  • 文献概要を表示

Step1

トロッカー挿入,術野の確保と展開,No. 4sb郭清(図1)

 右側腹部のポート位置が膵上縁郭清においてポイントとなる.また,肝左葉の展開と肝円索の展開が術野確保の点で重要である.胃結腸間膜切離では,3点保持による面状の術野展開と切離面の適度な緊張,行き先とランドマークを常に視野に収めることを心掛ける.左右胃大網動脈を含む血管束を視野に入れ,一定の距離を保ちながら無駄のない切離ラインを設定する.

①臍部にポートを挿入し,気腹を開始する.次いで右肋骨弓下に5 mmポートを挿入し,膵上縁郭清でポイントとなる右側腹部ポートを中点に挿入する.左側腹部は腸管切離・消化管再建のため12 mmポートを挿入する.

  • 文献概要を表示

 胃上部の進行癌で大彎に浸潤を認めない症例に対する胃全摘術,D2リンパ節郭清(No. 10郭清省略)の手技について詳述する.

  • 文献概要を表示

Step1

体位設定,トロッカー挿入,腹腔内観察(図1)

 腹腔鏡下に手術を施行する場合,体位の設定およびトロッカー挿入による準備がその後の手術操作に大きく影響する.患者の体型などを考慮し,術前から十分な計画をしておく必要がある.

①体位は砕石位.臍部よりカメラポートを挿入する.気腹圧を10 mmHgとし,漿膜面からの病変部の観察に加えて腹腔内の癒着の程度を確認する.

  • 文献概要を表示

 消化性潰瘍穿孔による腹膜炎を呈している場合,急性腹症として緊急手術の対象となりうる.発症から来院までの時間,直前の食事摂取の程度,年齢,基礎疾患の有無,胃癌穿孔による腹膜炎の可能性を念頭に,治療方針を検討する.穿孔に対する保存的治療を行った場合も経時的な観察を怠らず,発症後24時間を目安に改善がなければ外科治療を考慮する.消化性潰瘍穿孔に対する最適な術式について,ガイドラインでは腹腔洗浄ドレナージ+穿孔部閉鎖+大網被覆が推奨されている1).腹腔鏡下手術で行われる機会が多いが,状況により開腹適応も許容され,ためらう必要はない.

 穿孔部位により選択する術式が異なる.胃穿孔の場合,胃癌穿孔の可能性があり,状態が許せば術前に上部内視鏡検査を行い部位,性状を把握すべきである2)

  • 文献概要を表示

Step1

体位,トロッカー配置(図1)

 ほかの腹腔鏡下手術同様,トロッカーの位置により手術操作が制限されるため,適切なトロッカー配置は腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS),laparoscopic wedge resectionにおいても最も重要なステップの1つである.特に胃壁の閉鎖は狭窄を予防するために極力短軸方向に行う必要があり,腫瘍の局在やサイズ,発育形式に応じて自動縫合器の方向をあらかじめ予測し,トロッカー配置を決定する必要がある.

①体位は截石位とする.術中は腸管を避けるため,頭高位とする.

  • 文献概要を表示

 十二指腸腫瘍が内視鏡的切除術の適応ではない場合,外科的切除術を選択することになる.外科的治療は多岐にわたり,病変の局在,深達度,リンパ節転移などにより個別の対応が必要とされる.特に,低悪性度病変や早期癌病変と術前診断した場合,膵温存十二指腸切除術などの縮小手術を適応とすることができるが,根治度にも十分な配慮をする必要性がある.

1)十二指腸第Ⅰ部切除術:病変が十二指腸球部に限局し,乳頭部が安全に温存可能と判断される場合,第I部切除術の適応となる.

  • 文献概要を表示

Step1

トロッカー挿入(図1)

◆腹腔鏡下手術の場合

①-a臍部を翻転させて,臍の底が確認できるようにコッヘル4本を用いて展開する.皮膚,筋膜,腹膜を切開し腹腔内に到達する.

イレウスに対する手術 佐々木 愼
  • 文献概要を表示

絞扼性イレウスに対する手術

 絞扼性イレウスに対する手術は開腹が一般的であるが,近年では,腹腔鏡手術を行っている施設もある.ただし,イレウスの状態で腸管が拡張しているため,腹腔鏡手術の場合にはカメラポートの挿入をはじめ,手術操作に十分注意を払う必要がある.また,腸管の血流障害の程度によっては早々に開腹に切り替える.

4 大腸・肛門

  • 文献概要を表示

Step1

開腹(図1)

 虫垂切除術は,一般外科の基本テクニックを身につけるための入門手術として知られているが,炎症や癒着の少ないものから,穿孔性腹膜炎を併発しているような炎症が強くオリエンテーションのつきにくい症例まで,難易度は千差万別である.また,患者の体型により手術の難易度も大きく左右される.開腹法においても,症例ごとに必要十分と考えられる開腹法が選択されるべきである.ここでは,一般的に多く選択される交叉切開法(alternate incision)と傍腹直筋切開法(pararectal incision)について解説する.

結腸癌—結腸右半切除術 大田 貢由
  • 文献概要を表示

Step1

トロッカー挿入,視野の確保と展開,後腹膜剝離先行アプローチによる授動(図1)

 右結腸間膜は小腸間膜と連続しているため,内側アプローチで腹側から右結腸間膜の背側に到達するためには,小腸間膜の無血管領域を切開する必要がある.このため,当院では回腸末端の間膜付着部から右結腸間膜背側の剝離を行う方法(後腹膜剝離先行アプローチ)を採用している.

①5ポート法で行う.臍部にカメラポートを挿入する.気腹圧は10〜12 cmH2Oで行っている.気腹後,左右側腹部に5 mmポートを2か所ずつ追加する.腹腔鏡下にリニアステープラーを使用する場合には,術者の右手ポートを12 mmにしてもよい.

  • 文献概要を表示

Step1

チームの配置とトロッカー挿入(図1)

 中結腸血管周囲の郭清を,いかに良好な視野で安全に郭清するかが本術式で最も重要なポイントであるため,カメラトロッカーの位置は特に重要である.

①スコピストは患者の脚間に立つため,体位は水平開脚に近い砕石位としている.吻合のため脾結腸曲授動が必要と判断した場合には,腹腔鏡下結腸左半切除に準じた体位固定とする1)

  • 文献概要を表示

Step1

体位固定とトロッカー挿入(図1)

 腹腔鏡手術では重力を利用して小腸の排除を行うために,体位変換を行っても安定した体幹固定が重要である.

①体位は大腿水平開脚位とする.脾彎曲・下行結腸切除では,右下斜位で頭低位と頭高位を利用する.

  • 文献概要を表示

Step1

トロッカー挿入,視野の確保と展開(図1)

 開腹手術,腹腔鏡手術いずれにおいても,まず視野の確保を十分に行うことが重要である.特に腹腔鏡手術においては,限られた視野・限られたワーキングスペースでの手術となるため,いかに小腸を術野から排除できるかがポイントとなる.

①臍部にカメラポートを挿入し,カメラを挿入する.ポート挿入時に腹腔内の損傷がないか確認し,腹腔内の癒着の程度や肝転移の有無などを確認する.

  • 文献概要を表示

Step1

トロッカー挿入,小腸圧排,視野展開(図1)

 手術において,まず重要な点が術野の展開である.特に腹腔鏡手術の場合には,重力を利用し,適切に小腸を術野から排除することがポイントである.また,腹腔鏡のトロッカーの留置部位についても,病変に応じて適切な場所に留置することが手術を円滑に進めるためにも重要である.本稿では腹腔鏡手術をおもに想定しているが,開腹手術でも手順や展開は同様である.

①体位は砕石位とし,臍部に開腹法でバルーン付き12 mmポートを挿入する.腹腔内を観察し,ポート挿入時の損傷,肝転移の有無を確認する.

  • 文献概要を表示

Step1

腹腔操作Ⅰa:上方リンパ節郭清,自律神経温存(図1)

 下部直腸癌に対する究極の肛門温存手術である括約筋間直腸切除術(ISR)は,経腹および経肛門的操作によって内外括約筋間での直腸剝離を行い,歯状線から括約筋間溝までの解剖学的肛門管内で内肛門括約筋とともに直腸を一括切除し,経肛門的に再建腸管・肛門吻合を行う手術法である.ISRには開腹手術と腹腔鏡手術があり,手術手順では腹腔操作と肛門操作を交互に行うこととなるが,本稿では開腹手術で腹腔操作を先行する術式を提示する.

①手術体位は腹腔操作と肛門操作のために砕石位とし,腰部には薄い枕を入れて軽度の骨盤高位とする.肛門操作を容易にするために,会陰部は少し手術台の外に出し,必要に応じて直腸の洗腸を行い,残便がないことを確認する.

  • 文献概要を表示

Step1

上方郭清・直腸周囲の剝離(図1)

 内側アプローチにより尿管を確保し,下腸間膜動脈(IMA)を根部で切離する.次にtotal mesorectal excision(TME)の剝離層に沿って,図1bで示すa層b層1,2)をうまく利用し,骨盤底まで到達する.b層で剝離を進めることで,circumferential resection margin(CRM)を増すことができる.また,直腸後方のb層剝離を先行することで,術野が立体的となり,直腸側方の剝離が行いやすくなる.

①会陰操作は前壁の腫瘍であればJack-knife位とすることもあるが,それ以外では砕石位のままで行う.

  • 文献概要を表示

Step1

ポート留置,左側結腸の授動(図1)

 手術は長丁場となるため,最初にストレスのない手術環境を整えておくことが非常に重要となる.骨盤内臓全摘を要する直腸癌では,すでにS状結腸人工肛門が造設されていたり,骨盤内に大きな腫瘤があったりするため,下腸間膜静脈(IMV)の内側から手術に着手することを基本方針としている1)

①ポートを留置し,腹腔内および骨盤内を観察する.

  • 文献概要を表示

Step1

視野確保と展開 —臀部・肛門管(図1)

 十分な視野の確保はいかなる手術においても重要である.痔核手術における,肛門縁から肛門管〜下部直腸に至る直径6 cm長さ10 cmほどの狭い手術野の展開にはいくつかのポイントがある.

①脊椎くも膜下麻酔で行う.脚を閉じたジャックナイフ体位で,臀部坐骨結節あたりを両手で左右に斜め外方へ牽引し,適切な状態を確認した後に,肛門縁から約3横指の部位に幅5 cmの布製絆創膏を貼付,牽引固定する.

  • 文献概要を表示

 痔瘻にはいろいろなタイプがある.本稿では,一般によく遭遇する低位筋間痔瘻の手術法について述べる.

 当院では基本的に,後方痔瘻に対しては根治性を重視した開放術(lay open法)を行い,前側方痔瘻に対しては肛門機能の保全を重視した括約筋温存術を行っている.

裂肛手術 松尾 恵五
  • 文献概要を表示

 本項においては,他項のように1つの手術を流れに沿ってステップごとに分けて記載する形式ではなく,裂肛による肛門狭窄のため手術適応となった症例を,どのような流れのステップで病変を観察し,術式を選択していくのか,という観点で構成している.

  • 文献概要を表示

 直腸脱は大腸肛門疾患の診療のなかでも比較的多い疾患であり,外科的治療が原則である.経肛門的術式と経腹的術式のそれぞれに多数の術式が存在するが,根治性の観点からは,経腹的術式の直腸固定術が最も再発率が低い.固定法はメッシュを用いた前方固定(Ripstain法),後方固定(Wells法),腹側固定(Ventral rectopexy)メッシュを用いない縫合固定法など複数の術式が存在し,それぞれのメリットやデメリットがある2,3).最近では,低侵襲の利点を生かした腹腔鏡下直腸固定術の報告も増えてきており4,5).筆者らの施設でも腹腔鏡下縫合直腸固定術を完全直腸脱に対する第一選択の術式としている.

 脱出腸管の長さが5 cm以上の完全直腸脱が腹腔鏡下縫合直腸固定術の良い適応である.婦人科疾患や上部消化管疾患の開腹手術の既往歴があっても,腹壁と大網の癒着は腹腔鏡下でも剝離可能なことが多い.高齢者の場合は,アメリカ麻酔学会(ASA)のperformance statusや既往歴・合併症からみて全身麻酔の基準に適していれば,年齢に関係なく本術式を選択している.

5 肝臓

  • 文献概要を表示

Point1

肝門部での脈管走行とグリソン鞘(図1)

①肝十二指腸間膜内の肝動脈,門脈,胆管は,肝門部で一束となって結合織に包まれグリソン鞘となり,肝内に連続している.

②右枝は,肝外で2本の二次分枝である右区域枝(後区域枝)と中区域枝(前区域枝)に分岐し,肝内に進入する1〜3)

  • 文献概要を表示

Step1

開腹から肝脱転まで

 左肝切除を行う場合も,肝外側区域切除を行う場合も,左肝を脱転する操作は途中まで共通である.左肝切除は尾状葉を含むか否かで脱転の範囲や離断ラインが異なる.本稿では,少し複雑になるが外側区域切除の場合と,尾状葉を含まない左肝切除,尾状葉を含む左肝切除の3つの術式をステップごとに記していきたい.近年,外側区域切除は腹腔鏡下に行われることが多くなっているが,本稿では開腹手術を基本として記載する.

①開腹する(図1).

  • 文献概要を表示

 本稿では,日本肝胆膵外科学会が定める「高難度肝胆膵外科手術」の代表的な術式である肝右葉切除について詳述する.腹腔鏡下肝右葉切除術は平成28年(2016年)度の診療報酬改正で保険適応となり,152,440点という高い点数がつけられているが,現時点では限定された施設でのみ施行されている術式なので,開腹肝右葉切除術について解説する.

尾状葉切除 吉田 直 , 高山 忠利
  • 文献概要を表示

Step1

開腹・開胸(図1)

 開腹・開胸による良視野を得ることが重要である.開胸は肝授動に必要な操作と考えている.

①J字切開で開腹し,横切開創は第9肋間に向ける.肝円索を切離して牽引用に結紮糸を把持する.

  • 文献概要を表示

Step1

開創・術中超音波(図1)

 視野の確保を十分に行うことが重要である.肥満例や腹腔内癒着のために操作性が不良の際には,開胸を加えることが有用である.

①J字型切開による開腹を行う.皮膚切開は胸骨尾側端から正中切開を置き,横切開創は右第9肋間へ向かう.開胸を要する場合,この横切開創を後腋窩線まで十分に広げる.

後区域切除 武冨 紹信 , 若山 顕治
  • 文献概要を表示

Step1

開腹,視野の展開(図1)

 上腹部正中切開に加え,右横切開を加える.視野が不良なときは左横切開を追加する(ベンツ切開)ことにより,十分な視野を確保することが重要である.さらに,ケント牽引開創器などを装着して肋弓を頭側に挙上することにより,右横隔膜下腔のスペースを確保して肝臓の操作をしやすくする.視野および作業域の確保が肝切除を容易に行うための重要な第一ステップである.

①上腹部正中切開に右横切開を加える.必要に応じて左横切開を追加する.

  • 文献概要を表示

Step1

開腹,術野展開,肝脱転操作

 中央二区域切除では前区域切除と内側区域切除の双方の手技を要し,広い面積の肝切除を行う必要があるため,術野を十分に確保することが重要である.切開法はJ字切開や逆T字切開が用いられることが多い.肝静脈系の出血があった場合のコントロールのため,中肝静脈・右肝静脈を必ず確保しておく.

①開胸なしのJ字切開で開腹し(図1a),肝円索を切離する.肝円索を牽引し肝鎌状間膜から左右冠状間膜を切離する.創縁ドレープを用いて,ケント鉤にて腹壁を牽引し,術野を十分に展開する.

  • 文献概要を表示

Step1

亜区域切除のキモ:把握すべき解剖について

 右葉前区域は下区域をS5,上区域をS8と分ける.しかし,前区域グリソン本幹より末梢の分岐はバリエーションが多く,S5とS8を分けることは時に困難である.たとえば前区域下領域(S5)への枝が複数存在したり,あるいは上区域腹側枝(S8vent)の第1分岐としてかなり末梢から分岐することもある.またS8の頭側背側領域のグリソンは,時に前区域グリソンから早期に独立して分岐(あるいは肝門部から直接独立して分岐)し,あたかも尾状葉枝のようにみえることもある(図1).解剖学的切除の目的は主に肝細胞癌の担癌グリソン領域を系統的に切除することであり,Couinaud分類で定められた領域を切除することではない.よって個々の患者のグリソン分岐パターンを事前に認識し,担癌グリソン根部への効率的なアプローチを計画してそれを実践する必要がある.この点において,亜区域切除のなかでもS7とS8は最も難しい.上記理由よりS8亜区域切除手技は画一的ではないため,本稿の手技は必ずしも標準術式とは言い切れないことを事前に断っておく.

  • 文献概要を表示

Step1

手術概念の理解と切除シミュレーションの構築

①肝硬変合併肝細胞癌の外科治療において,肝予備能低下から亜区域よりも小さな単位での切除が要求されることがある.亜区域よりも小さい切除,いわゆる区画切除(cone unit resection)がこれにあたる.小さな切除範囲とはなるが,れっきとした系統切除であり,部分切除とは一線を画する.

②区画切除を理解するにはグリソン鞘の解剖が重要である.胆管,門脈,動脈は一束となった結合織に包まれグリソン鞘となり,肝内に進入・分岐し,小葉類洞内まで達している.本幹は肝門部で左右一次分枝となり,左枝は尾状葉枝を出したあとに二次分枝の左葉枝に移行する.右枝は肝内進入直前で2本の二次分枝(前区域枝と後区域枝)に分岐する.よって肝内には3本の二次分枝グリソン鞘がある(図1a).これら二次分枝グリソン鞘を幹として7〜8本の三次分枝が肝内末梢に向かい分岐している1)(図1b).この三次分枝グリソン鞘枝を処理する手術が,区域切除よりも小さな単位での系統的肝切除となる.1本の三次分枝グリソン鞘の分布領域を1つの区画単位として取り扱い,何本処理するかで切除範囲の決定を行う.このようなグリソン単位の分岐形態を考え,高崎ら2)は区画切除(cone unit resection)という言葉で表した(図1c).

  • 文献概要を表示

 近年,急性胆囊炎を含めた難度の高い胆囊摘出術においても,腹腔鏡下手術を第一選択とする施設が増加しており,腹腔鏡下胆囊摘出術はすでに胆囊摘出術の標準手技となっている.そのため,本稿では腹腔鏡下胆囊摘出術の手技を解説するが,開腹胆囊摘出術における手技の要点も基本的にこれと同じものである.

総胆管切開 野村 良平 , 徳村 弘実
  • 文献概要を表示

Step1

critical view of safetyの作製,術中胆道造影(図1)

 Calot三角,そして総胆管前面の術野展開が腹腔鏡下胆管手術を可能にする.経胆囊管法の適応とならないものを胆管切開法で行う.すなわち,術前画像診断および術中胆道造影で総胆管結石が5個以上,結石の最大径が8 mm以上,肝臓側胆管に結石があるもの,のいずれかがあれば胆管切開法で行う.

①Hasson法で臍部に12 mmカメラポートを挿入する.気腹圧は10 mmHgとし,視野不良例では圧を上げる.

  • 文献概要を表示

Step1

外科切除の要点と手術手順の理解(図1)

 先天性胆道拡張症は,戸谷分類で5型に分類されているが,膵・胆管合流異常を合併するのは戸谷Ⅰ型(Ⅰbは除く)とⅣ-A型とされている1).本稿における先天性胆道拡張症も膵・胆管合流異常を伴う戸谷Ⅰa,Ⅰc,Ⅳ-A型を対象とする.基本術式は,胆囊を含めた囊胞(拡張胆管)切除で,膵液の胆道内逆流防止も目的とする.

 開腹手術における術式は下記の各パートに分かれており,その手術手順だけでなく,術式のコンセプトや安全に手技を行うポイントについても理解する.

  • 文献概要を表示

Step1

開腹〜遠位胆管切離と肝十二指腸間膜郭清

 肝門部領域胆管癌を想定して記載する.まず視野の確保を十分に行うことが重要である.根治切除を成しうるには,少なくとも十二指腸側胆管の癌陰性を確認する必要がある.

①肋骨弓下横切開を山型に置き,右側は第9肋間に向けて(中腋窩線まで)開腹し,十分な視野を確保する(図1a).

  • 文献概要を表示

Step1

開腹,非切除因子の確認,網囊腔の開放〜Kocherの授動(図1)

 肝膵同時切除は超過大侵襲手術であるので,非切除因子の有無をしっかりと確認する.

①逆L字型切開または正中切開で開腹したのち,腹膜播種や肝転移の有無を確認する.腹腔内洗浄細胞診を提出する.

  • 文献概要を表示

Step1

開腹,Kocherの授動術

 操作範囲が肝から膵頭部背側にまで及ぶため,十分な視野確保が必要である.右側結腸の脱転を伴うKocherの授動術が視野確保に有用である(図1).

①上腹部正中切開で開腹する.

  • 文献概要を表示

Step1

Kocher授動術から上腸間膜静脈の確認まで

①Kocher授動術を頭側に進め,肝十二指腸間膜右縁まで切り込み,左腎静脈の頭側の膵頭神経叢に覆われた上腸間膜動脈根部を確認する.

②十二指腸を後腹膜から十分に授動し,右側からTreitz靱帯を開放する.

膵体尾部切除術±脾臓摘出術 木村 理
  • 文献概要を表示

Step1

開腹・網囊の開放

①リンパ節郭清および脾合併切除を伴う膵体尾部切除術では,臍上約2 cmまでの上腹部正中切開に左側横切開を加えたL字切開で行う.

②左側の大網を横行結腸付着部から切離して網囊を開放する.

  • 文献概要を表示

Step1

右側アプローチによる上腸間膜動脈・腹腔動脈の確保(図1)

 本術式では,上腸間膜動脈(SMA)や腹腔動脈(CA)周辺の癌遺残や露出を避けるため,膵体部癌の主座から最も離れた右後腹膜より剝離を開始し,SMAとCAの根部に到達することが重要なポイントである1〜3).とくにSMAの腹側に腫瘍が近接する場合は,癌巣を包み込むen blocな切除を達成するために,神経叢浸潤が及ばない背側やや右の位置から剝離し,SMA神経叢(PLsma)全周郭清を行う.

①Kocher授動を行ってから左腎静脈をテーピングし,可能であれば左副腎静脈を切離する.

膵全摘術 竹山 宜典
  • 文献概要を表示

 膵は,膵内外分泌を通じて生存に必要不可欠な臓器で,術後の膵内外分泌の補充なしには膵は全摘できない.世界初の膵全摘例は1943年に通常型膵癌に対して行われているが1),そのときすでに予想よりも必要インスリン量が大幅に少なかったことが問題視されている.その後長らく,本術式の術後QOL不良が問題とされてきたが,最近ではリコンビナントインスリンと高単位消化薬により,術後のQOL保持が可能となってきた2)

 一方,膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)が多く発見されるようになり,主膵管型や多発分枝型症例における膵全摘術適応例が増加している3).さらに,膵切除後の残膵における異時性腫瘍発生に対して,膵全摘術を施行する例も増加傾向にある.

  • 文献概要を表示

 膵の良性から低悪性度腫瘍に対する外科手術として,膵実質を温存して膵内外分泌機能を保持し,かつ十二指腸・胆管・脾臓などの隣接臓器の温存を目的として,膵中央切除術,膵部分切除術,膵腫瘍核出術などが行われる.狭義の膵部分切除術は,楔状切除のような主膵管切離を伴わない病変部を含む膵実質の切除であるが,本稿では現行の保険診療術式も鑑みて,開腹の膵中央切除術と腹腔鏡下膵部分切除術・膵腫瘍核出術について述べる.

  • 文献概要を表示

Step1

皮膚〜皮下組織の切開(図1)

①創感染のリスクを最小限にするため,術野の除毛は電動クリッパーを用いて術直前に手術室で行う.また,同様の目的で透明フィルム付きドレープを用いる.

②皮切位置の決定:恥骨結節の頭側2横指の横線と,正中(恥骨結合)から同様に2横指の縦線の交点を内側端として,約4 cmの横切開を置く.

閉鎖孔ヘルニア修復術 嶋田 元
  • 文献概要を表示

Step1

閉鎖孔ヘルニアに対する治療戦略(図1)

①閉鎖孔ヘルニアは高齢の痩身女性に多く認められ,典型的には開腹歴のない腸閉塞として救急部を訪れることが多い.

②特徴的身体所見として有名なHowship-Romberg徴候(閉鎖孔ヘルニアに嵌頓した臓器が閉鎖神経を圧迫することによって起こる大腿内側に放散する疼痛やしびれで,股関節の伸展,外転,内旋により症状が増強する)の出現率は13〜68%1〜7)である.

  • 文献概要を表示

Step1

鼠径部解剖認識(図1)1)

①ヘルニア門レベルにおける横断面では,腹腔側から腹膜・腹膜前筋膜深葉・腹膜前筋膜浅葉・横筋筋膜の順に4層の疎性結合組織の筋膜構造を認識する.attenuated posterior rectus sheath(APRS)と腹膜前筋膜浅葉は異なった筋膜かもしれないが,本稿ではtransabdominal preperitoneal repair(TAPP)法における腹腔内から見た臨床的画像を中心に考えることから,同一の筋膜構造として説明する.再発や特殊なヘルニアなどの手術は他の文献を参照していただきたい2,3)

②手術時には下腹壁動静脈,精管,精巣動静脈,痛覚神経系などの存在位置が4層構造のどの層の間にあるかを認識する.

  • 文献概要を表示

Step1

皮膚切開と腹膜外腔への到達

 通常,腹直筋前鞘を切開し,腹直筋と腹直筋後鞘の間の空間に到達する.腹膜外腔アプローチ(totally extraperitoneal repair:TEP)の操作のなかで最もイメージがつきにくいStepである.当科では,先に腹腔内を観察してヘルニアの診断を行ったあとに,患側の腹直筋前鞘を横切開している.現在は同部にプラットホームを挿入してブラインド操作のない剝離を行っている1).同部の剝離をoptical法で行う方法もある2)

①臍を縦切開し,臍直下の腹壁欠損部から5 mmスコープを挿入して腹腔内を観察し,ヘルニアの診断を行う.なお,この孔は閉創時までそのままにしておき,術中に腹膜を損傷して気腹になった場合は,この孔からネラトンチューブを挿入して腹腔内の脱気を行い,視野を確保する.

8 乳腺

乳房部分切除術 蒔田 益次郎
  • 文献概要を表示

Step1

切除範囲の設定,マーキング

①画像診断をもとにして癌の進展範囲を想定し,術後の病理検索で断端が陽性とならないように切除範囲を設定(図1a)する(ここで紹介する手技は,切除標本が全割後に階段状切片作製による厳密な病理検査で評価されることを想定している1)).

②全身麻酔下,患者体位の調整後,切除する病変に対して超音波ガイド下に切除範囲をマーキングしていく1)(図1b).

乳房切除術 荻谷 朗子
  • 文献概要を表示

Step1

体位と皮切の設定

 皮切の設定は,皮膚を切除すべき範囲,閉創時に皮膚を寄せられるか,また閉創後の整容性を考えて行う(図1).

①両手を横に伸ばした十字架の体位をとる.

腋窩の手術 森園 亜里紗 , 多田 敬一郎
  • 文献概要を表示

センチネルリンパ節生検

 センチネルリンパ節の手技については確立した方法はなく,施設あるいは術者によって異なっているのが現状である.センチネルリンパ節の同定に用いられるトレーサーは,大きく分けて色素法とラジオアイソトープ(RI)法があり,それぞれの単独法あるいは併用法が用いられている.併用法が色素法単独に比べ優れているとの報告1)や,同等であるとの報告があり2),ガイドラインでは「併用法を推奨するが色素法単独も十分許容できる」としている3).使用する放射性核種や色素,注入部位は様々である.乳房のリンパ流は乳房内の小葉間リンパから発生し,そのリンパ管は乳頭へ向かい乳頭下リンパ管叢にいったん収束する.その後,真皮内・皮下を走行するリンパ管が主に腋窩に流入し,一部では胸骨傍リンパ節に還流する4).そのため注入部位は乳輪,腫瘍直上皮膚,腫瘍周囲など様々である.

ひとやすみ・156

メスを持ち続ける理由 中川 国利
  • 文献概要を表示

 外科医の仕事は危険・きついとされ,外科医を志す研修医の減少が問題となっている.確かに外科医の道は他科と比較すると厳しいが,私が長い間外科医としてメスを持ち続けてきた理由を紹介したい.

 私が大学を卒業した当時は現在のように医学が進んでいなかったこともあり,医療が細分化していなかった.さらには麻酔科医が少なかったため,外科医が麻酔をかけるのが一般的であった.また消化管造影検査は当然のこと内視鏡検査や血管造影検査などの診断,癌化学療法やターミナルケア,さらには救急外来もすべて外科医が担っていた.そのため外科医は超多忙で勤務も長時間に及んだが,当時はそれが当然であり,逆に活動分野が広範囲に及ぶことが外科医の誇りでもあった.

1200字通信・110

Festina Lente 板野 聡
  • 文献概要を表示

 “Festina Lente”は「悠々として急げ」と訳され,作家の開高健さんなどもよく引用された言葉として紹介されていますが,医学関係の講演会などでも耳にする言葉ですので,ご存じの方も多いのではないでしょうか.

 この言葉は,ローマの初代皇帝,アウグストゥス〔現在は,August(8月)としてその名を残しています〕の座右の銘の一つであったと言われています.一般にはラテン語として知られていますが,スエトニウス著の「ローマ皇帝伝」のなかでは“speude bradeos”とギリシャ語で書かれていたそうです.当時のローマでは,ギリシャ語が国際語として第一等の地位を占めていたため,今の日本で子供に英語を学ばせるように,貴族や知識人は子供のころからギリシャ語の教育を受けていたそうで,スエトニウスもそれに倣ったようです.私が,この言葉を初めて耳にしたのは,日本消化器内視鏡学会の重鎮であった故・竹本忠良先生の記念講演でのことであったと記憶していますが,目から鱗が落ちた気がしたことを覚えています.

昨日の患者

崩れる自慢の父親像 中川 国利
  • 文献概要を表示

 娘にとって父親は身近な異性であり,反発しながらも将来の伴侶の理想像でもある.しかしながら認知障害で性格まで変貌し,父親とのかかわり方に戸惑う娘さんを紹介する.

 Kさんは70歳代後半の元胃癌患者で,娘さんが病院の事務職員として勤めていることもあり,私が10年ほど前に胃を切除した.そして術後は,しばしば外来を受診しては趣味の盆栽の苦労,町内会の仲間との旅行,さらには孫達の成長などについて,嬉々と語ったものである.その内に外来受診が途絶えたが,病状が安定していると思い,とくに意にも留めなかった.たまたま娘さんとの会話で,その後のKさんについて知ることになった.

--------------------

バックナンバーのご案内

奥付

基本情報

03869857.72.11.jpg
臨床外科
72巻11号 (2017年10月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

文献閲覧数ランキング(
7月8日~7月14日
)