臨床外科 72巻12号 (2017年11月)

特集 徹底解説!ここが変わった膵癌診療—新規約・ガイドラインに基づいて

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 膵癌は積極的な化学療法・化学放射線療法や外科的切除により治療成績が徐々に改善されつつありますが,転移再発は依然高率にみられ,消化器癌のなかでは最も予後不良です.このように集学的治療が不可欠である膵癌診療において,近年,大規模RCTによる新たなエビデンスの構築が進みつつあり,また取扱い規約や診療ガイドラインの改訂が行われるなど,新たな局面を迎えています.

 本特集では,規約およびガイドライン改訂の要点,膵癌診療ストラテジーの最前線や外科治療のトピックスを新たな展開も含めて解説します.

膵癌取扱い規約とガイドラインの改訂について

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【ポイント】

◆膵癌取扱い規約第7版では,大幅な改訂が行われ,腫瘍占拠部位,TNM分類,Stage分類において,UICC第7版(2009年)との整合性が図られた.しかし,2017年1月にUICC第8版が出版され,T分類に若干の相違点が生じている.

◆今回,ダイナミックCT画像が豊富に加えられ,CT画像と切除標本の対比から画像所見によるT因子診断の指針が示され,かつCT画像に基づく客観的で簡便な切除可能性分類が示された.

◆病理組織学的分類ではWHO分類との整合性が図られ,細胞診・生検診の指針が追加され,さらに術前治療施行例の増加を受けて組織学的効果判定基準が初めて定められた.

膵癌診療ガイドライン2016年版 山口 幸二
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【ポイント】

◆膵癌診療ガイドライン2016年版はGRADEシステムに準じて作成された.診断・治療のアルゴリズムに化学療法のアルゴリズムが追加され,切除不能は局所進行(UR-LA)と遠隔転移あり(UR-M)に分けて一次・二次化学療法が記載された.

◆治療のアルゴリズムではcStage分類が膵癌取扱い規約第7版によってなされ,Stage分類の下に膵癌取扱い規約第7版によって初めて規定されたresectabilityによる分類〔切除可能(R),切除可能境界(BR),局所進行により切除不能(UR-LA),遠隔転移により切除不能(UR-M)〕が挿入された.このresectability分類に従い,治療法が示されている.

◆治療のアルゴリズムでは外科的療法の前に,点線枠ではあるが補助療法が挿入された.支持療法に緩和療法が新設して追加され,精神心理的苦痛,がん性疼痛,成分栄養についてそれぞれ推奨や提案がなされた.

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【ポイント】

◆膵癌術後補助化学療法を行うことは強く推奨されている.

◆補助化学療法においては,予定レジメンを完遂することがより重要と認識されつつある.

◆補助化学療法完遂のためには,より積極的な栄養・運動療法などの必要性が示唆される.

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【ポイント】

◆切除可能膵癌に対する術前治療は臨床試験として行われるべきである.

◆切除可能膵癌は,切除された膵癌ではない.

◆術前治療は,腫瘍学的切除可能性の向上を目指す必要がある.

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【ポイント】

◆膵癌取扱い規約第7版では,標準的手術のみでR0切除が可能かという視点から切除可能性分類が定められた.

◆BR膵癌は門脈,動脈への浸潤範囲より定義され,標準的手術でR1切除となる可能性が高い切除可能境界である.

◆BR膵癌に対する術前治療を含めた集学的治療により,R0切除率の向上と長期予後の改善が期待できる.

◆今後,術前治療の至適レジメンや期間について,現在進行中の臨床試験の結果が待たれる.

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【ポイント】

◆conversion surgeryを受けた患者の予後は,切除可能膵癌で切除を受けた患者と同様の成績である.

◆当院での手術適応(患者選択)は,腫瘍縮小,腫瘍マーカー低下,全身状態良好,初回治療後8か月経過,である.

◆conversion surgeryやその予後に関するsurrogate markerは不明であり,今後の研究が必要である.

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【ポイント】

◆本邦における膵癌に対する腹腔鏡下手術は,腹腔鏡下膵体尾部腫瘍切除術が保険診療として認可されているが,腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術についてはいまだ認可されていない.

◆膵癌に対する腹腔鏡下膵体尾部切除術を行う場合には,日本内視鏡外科学会,日本肝胆膵外科学会,膵臓内視鏡外科研究会が合同で運営する術前登録制度への登録が強く勧められている.

◆膵癌に対する腹腔鏡下膵体尾部切除術は,開腹手術に比べて短期成績が優れており,長期成績も同等であることが報告されているが,いずれも後向き研究での成績であり,今後のランダム化比較試験による検証が必要である.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2020年11月末まで)。

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【ポイント】

◆腹腔動脈合併尾側膵切除術(DP-CAR)が適応となる病変のほとんどは,新取扱い規約の切除可能性分類においては切除可能境界または切除不能病変である.

◆本術式では適応診断を慎重に行えば,ほとんどの症例で癌遺残のない(R0)切除を達成可能であるが,進行膵臓癌として一定の再発は免れられず,術前の化学(放射線)療法との組み合わせを考慮すべきである.

◆原法では大動脈上での腹腔動脈の結紮切離,上腸間膜動脈周囲神経叢の完全切除を伴うが,進展度によって切除範囲を縮小することも可能である.その場合も主要動脈の操作は安全性と根治性に対する十分な配慮が必要である.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2020年11月末まで)。

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【ポイント】

◆11年ぶりにInternational Study Group of Pancreas Fistula(ISGPF)の膵液瘻分類がアップデートされた.

◆臨床的膵液瘻はGrade B, Cのみとなった.

◆内視鏡・経皮的ドレナージ,出血に対する血管塞栓術,ステント留置術はGrade Bと定義された.

新たな展開

放射線治療の現状と新たな知見 岡田 徹
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【ポイント】

◆放射線治療は,照射部位に対する「治癒の不確実性」がある.

◆物理工学的進歩により,通常X線を用いた3次元原体放射線治療,強度変調放射線治療が行われている.

◆細胞生物学的発展を加えた重粒子線治療による切除不能膵癌の2年生存率は48%である.

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【ポイント】

◆膵癌に対して拡大郭清は生存率に寄与しないだけでなく,術後合併症発生率を増加させる危険性がある.

◆膵頭十二指腸切除において主膵管拡張のないsoft pancreasでは,外瘻ステントがno stentより有意に臨床的膵液瘻を減少させた.

◆膵消化管吻合における膵腸吻合と膵胃吻合の膵液瘻減少における優劣性はいまだ確立されておらず,今後は長期成績も比較検討する必要がある.

◆膵体尾部切除における膵断端閉鎖は,自動縫合器に比較して自動縫合器+補強材が有意に臨床的膵液瘻を減少させた.

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はじめに

 2014(平成26)年12月22日に「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(以下,「医学系指針」という)が公表され,2015(平成27)年4月1日より施行されていた.しかし,「個人情報の保護に関する法律」「行政機関個人情報保護法」「独立行政法人等個人情報保護法」(平成15年法律第57〜59号.以下,「個情法等」という)の改正を踏まえ,医学系研究などにおける個人情報の適切な取扱いを確保するため,今回文部科学省は,厚生労働省および経済産業省と合同で指針などの見直しについて検討し,「医学系指針」「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」および「ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針」の一部を改正した.2017(平成29)年2月28日の官報にて告示し,同年5月30日から施行(一部告示日と同日)となっている.この改訂に伴い,多くの施設において誌上発表の際の対応が求められるようになったが,学会発表においても倫理規定は今まで以上により厳格化しており,多くの若手医師は混乱していることが予測される.今回,「今さら上司にも聞けない研究倫理指針」のポイントをQ & A方式で述べたい.

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はじめに

 蛍光イメージングにより手術中に病変の進展範囲と解剖学的構造を明瞭に描出し,正確かつ過不足のない手術を行うために役立てる——これが蛍光ガイド手術のコンセプトである.近年,赤外観察装置の普及に伴い,蛍光試薬としてインドシアニングリーン(ICG)を用いた術中イメージングが種々の用途で応用されはじめている.特に肝胆道手術では,ICGの胆汁排泄性を利用することにより,蛍光イメージングを用いて肝癌の位置を同定し,肝区域の境界や肝外胆管の解剖を描出することも可能である.

 本稿では,ICGを用いた術中蛍光イメージング(ICG蛍光法)を中心に,その原理を概説したうえで,期待される用途と手技の実際を紹介したい.

病院めぐり

加賀市医療センター外科 石田 哲也
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 加賀市は石川県の西南部にあり,福井県境と接する人口約68,000人の風光明媚な地方中核都市です.海の幸,山の幸に恵まれ,古くからの九谷焼や山中漆器などの伝統工芸と山代温泉,山中温泉,片山津温泉で全国的に知られています.

 加賀市医療センターは市設立の「加賀市民病院」と「山中温泉医療センター」との統合により,平成28年4月1日にJR加賀温泉駅前に開院した病院です.

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要旨

【目的】本研究では高齢者におけるALTA療法の合併症に着目して非高齢者のそれと比較することにした.【対象と方法】ALTA療法を施行した811例を「高齢者群」371例と「非高齢者群」440例に分類し,後ろ向き観察研究を行った.性別,年齢,痔核の重症度,痔核の個数,ALTA合計投与量,ALTA既往,抗凝固療法,合併症発生頻度の8項目について2群で比較した.【結果】痔核の個数,ALTA既往以外の項目で有意差を認めた.合併症発生頻度は「高齢者群」が8.6%で,「非高齢者群」が13.4%であった.意識消失が2例認められ,いずれも「高齢者群」であった.【考察】高齢者に合併症は起きにくいが,治療後意識消失例があり,治療後の安静は重要であるかもしれない.

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要旨

高齢化や画像診断技術の向上により,同時性・異時性の重複癌の報告は増えている.また,各臓器の癌における治療法が進歩し,癌治療後の生存期間が延長しているため,癌の治療中あるいは治療後の人々は増加している.乳癌は比較的予後の良好な疾患であり,治療後の期間も長期にわたるため,重複癌を早期に発見し治療することはquality of life(QOL)を維持するためにも重要と考えられる.乳癌と他臓器の重複癌の組み合わせとしては,胃癌,大腸癌,子宮癌などの報告が多く,胆囊癌の報告は稀である.今回,われわれは乳癌の術前検査によって小細胞癌を含む胆囊癌が発見された同時性重複癌を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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要旨

症例は69歳,男性.上腹部痛を主訴に近医を受診し,総胆管結石を指摘された.造影CTで胆囊壁の不整な肥厚を認め,超音波内視鏡検査で3 cm大の胆囊腫瘍を認めた.急性胆管炎に対しては内視鏡的胆道ドレナージチューブ留置を行い,保存的に軽快した.患者はエホバの証人の信者であり,当科に紹介され受診となった.胆囊腫瘍は画像的にT3以深の胆囊癌を疑い,手術の方針とした.胆囊床切除術,総胆管切開排石術を施行した.摘出した胆囊内に腫瘤性病変は認めず,胆囊底部の潰瘍性病変と腫瘤様にみえたものは付着する胆汁やフィブリン塊であった.胆囊潰瘍は本邦でも報告例が少なく稀な疾患である.若干の文献的考察を加え報告する.

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要旨

症例は43歳,女性.腹痛を主訴に当院に救急搬送され,腹部造影CTで左腎腹側に長径60 mmの不整形結節集簇様腫瘤を指摘された.腹痛は保存的に軽快したため後日精査したところ,空腸間膜内に脂肪成分を伴う多房性囊胞性腫瘍を認めた.診断確定のため腹腔鏡にて観察を行ったところ,空腸起始部の腸間膜に暗赤色で弾性やや軟の多房性腫瘍を認めた.小開腹下に5 cmの空腸とともに腫瘍を切除した.切除標本では,割面は大小の管腔構造を呈し,病理組織学的に血管脂肪腫と診断された.小腸間膜の血管脂肪腫はきわめて稀であり,貴重な症例と考えたので報告する.

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要旨

症例は88歳,女性.糖尿病にてα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)投与7日目の夕食後に突然の嘔吐と腹痛があった.腹部CT上,門脈ガス血症を伴う腸管囊腫様気腫症を認めた.門脈ガス血症まで伴うこと,強い苦悶と腹膜刺激症状があるが,腎不全のため造影CTが撮れず腸管壊死を否定できなかったことから,腸切除術を施行した.術後3日目には門脈ガスは消失した.切除標本では一部粘膜の壊死,浮腫性変化と含気を認めた.病理組織では,粘膜からうっ血浮腫状の粘膜下層に大小の空胞を多数認めた.α-GIによる腸管囊腫様気腫症は,門脈ガス血症を合併しても保存的治療で軽快することが多く,外科的処置の適応については十分な検討が必要であると考えられた.

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要旨

症例は78歳,男性.増大傾向のある左乳輪部腫瘤を主訴に受診した.超音波検査で囊胞と内部に明瞭な隆起性病変が認められたが,細胞診にて悪性所見はなく経過観察したところ増大は明らかであった.囊胞および囊胞内腫瘍の診断で手術施行したところ,切除標本の病理組織検査にて囊胞内乳頭腫と最終診断され,女性症例と特徴に差異はなかった.囊胞内乳頭腫は女性症例としてしばしば遭遇するが,本症例はきわめて稀な男性症例であった.

ひとやすみ・157

メスを置く理由 中川 国利
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 生涯現役を望んでも誰もが何時かは引退せざるをえないが,外科医がメスを置く理由はなんであろうか.

 最大の理由は,加齢に伴う体力の限界である.手術を行うには,長時間の緊張に耐える強靱な体力が必要である.視力低下は眼鏡や拡大鏡の使用で対応できても,手の震えなどで手術ができなくなれば,外科医の道は閉ざされる.

1200字通信・111

ある男の一生 板野 聡
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 昭和2年11月,当時は日本の統治下にあった台湾の軍港 基隆(キールン)で,一人の男児が産声を上げました.剣道で鍛えられながらすくすくと育ち,太平洋戦争突入後には,父親の勧めで現地の医学校に入学,何度か派遣された戦闘地での壮絶な経験が,その後の達観した人生哲学をもたらしたといいます.

 そして,敗戦.全財産を失い,着の身着の儘で帰国しましたが,家族が生きて帰れただけでよかったという時代でした.帰国後に地元の医学部に編入しましたが,終戦後の混乱期で,同級生には生き残った特攻隊員や予科練などの元学生も多くいたようで,定数の倍以上の賑わいだったとのちに語っていました.

8年目のportrait・1

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 タクシーに乗ると,最近では「どのルートから行きますか」と訊かれることが増えた.よほど土地勘のある自宅周辺ならまだしも,大抵は「詳しくないのでお任せします」と答えることにしている.こっちは素人なんだし,プロの運転手のほうで最善のルート選択をしてくれよ,という心理である.

 甲は,乙は,などという馴染みのない文面を読まされる家の賃貸契約のときや,クレジットカードの約款の読めないほど小さい文字に目を通すときにも,同じ心理にさらされる.よきにはからえ,で済ませてしまいたくなる.

昨日の患者

鄙びた温泉宿を引き継ぐ 中川 国利
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 人は生まれた地を離れがたく,そして身近な親の生き方を模範に生き続けるものである.先祖伝来の山間の温泉宿の湯守として,人生を謳歌している元患者さんを紹介する.

 東北には鄙びた温泉宿が各地に点在し,週末を利用しては出湯巡りを楽しんでいる.たまたまパンフレットで目にした山間の一軒宿を訪れた.出迎えた女将が私を見て,驚いた顔をした.そして「先生には私の夫が手術していただき,大変感謝しております」と語り,外で畑仕事に勤しんでいた夫のYさんを急いで連れてきた.Yさんも私を見て,懐かしそうな顔をした.

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 「簡潔にして要を得ている」という言葉が,本書にはぴったりと当てはまる.常に面倒なことは先送りして,土壇場になって徹夜で仕事を仕上げることが習いとなっているような受験者にはまさに待望の書である.もちろん,計画的に系統的に準備を着々と進め,自信を持って受験される方もおられると思うが,現場にある若手医師の多忙さはそれを必ずしも許さない状況にしている.

 本書は外科専門医試験に合格するための書物である.筆者たちはこれを活用しようとする受験者の現状を知り尽くしているだけに,なにより本書が「簡潔にして要を得ている」ことに留意して筆を進めている.「初版の序」に本多医師のめざすところが,明快に書かれているので本文の前にぜひお読みいただきたい.

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バックナンバーのご案内

次号予告

あとがき 小寺 泰弘
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 膵臓がんは「怖い病気」「治らないがん」の代表である.

 ところで,私はこれまで数多くの胃がんの手術を手がけてきた.胃がんの術後の重大なトラブルの大半は膵臓が近接しているせいで起きる(と,膵臓のせいにしたいところである).胃がん患者の膵臓は通常はsoft pancreasであり旺盛な外分泌機能を有するので,敬意を欠くと激しい膵液瘻が起きる.また膵管は拡張していないので膵頭部を合併切除すると再建するのもなかなか大変である.しかもそういう滅多にない手術が何年かに一度は必ずやってくるのが胃外科という部門である.幸い,私が所属する診療科には代々優秀な膵臓外科医がいるので,膵断端の処理法からドレーン管理にいたるまでノウハウを教わっている.外科医としては学ぶところが多い.

基本情報

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臨床外科
72巻12号 (2017年11月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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