生体の科学 66巻5号 (2015年10月)

増大特集 細胞シグナル操作法

序にかえて 編集委員一同
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 研究者が実験の過程で,専門外の細胞内シグナルについて調べる必要に迫られることがよくあります。また,文献などを読んでいてあまりよく知らないシグナルが出てきて,ちょっと知りたいと思うことも少なくないでしょう。そのようなときに,いつも手元にあって手引きになるような一冊があればよい。自分たちが「今,欲しい」と思う特集号を組もうというコンセプトで編集委員の意見が一致し,今回の増大特集号の企画が生まれました。

細胞内シグナル研究の歴史をたどると,ちょうど55年前の1960年,ロックフェラー(当時はまだ研究所でした。その後,大学院大学になります)のリップマン研究室で江橋節郎先生は筋小胞体へのカルシウム結合を発見し,筋収縮調節のカルシウム説を提唱しました。当時,国際的にはこの説はアンネマリー・ウェーバー以外には認められず,江橋先生は世界を相手に孤高の戦いを行ってきました。そして,筋側でもカルシウム結合蛋白質を見つけなければ世界を説得できないと感じ,このような蛋白質を発見することを決心されました。その後,江橋文子先生を初めとした江橋研究室全員の協力によって,江橋先生はカルシウム結合蛋白質“トロポニン”の発見に至り,世界は初めてカルシウムによる筋収縮調節説を受け入れました。

Ⅰ.分子からみたシグナル操作法 1.セカンドメッセンジャー

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 細胞内カルシウムイオンはセカンドメッセンジャーとして機能し,筋肉の収縮,分泌,神経活動制御,細胞移動,細胞分裂・増殖,受精など,ほぼすべての細胞活動に関与している。したがって,細胞内カルシウムイオン濃度を制御することは非常に大切である。

 一般的に細胞の静止時(刺激を受けていないとき)の細胞内カルシウムイオン濃度は数十nM程度であるが,刺激を受けると数百nMから数十μMまで増加する。また,細胞全体に及ぶカルシウムイオン濃度の増減とは別に,細胞内の局所的なカルシウムイオン濃度の増減があり,ときにそれがカルシウム波として観察されることがある。

 細胞内カルシウムイオン濃度は,①細胞外からのカルシウム流入,②細胞内カルシウム貯蔵部位(ストア)からのカルシウム放出,③カルシウム結合タンパク質/分子によるカルシウムイオンの結合・放出,④カルシウムポンプやカルシウム交換体による細胞質から細胞外,および細胞内カルシウム貯蔵部位へのカルシウムのくみ出しのバランスによって決まる。したがって,この四つに働きかけることにより,細胞内カルシウムシグナルを操作することが可能になる。

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 cAMP(cyclic adenosine monophosphate)とcGMP(cyclic guanosine monophosphate)は細胞シグナルの制御における重要なメッセンジャーであり,様々な細胞機能の制御に関与している。cAMPはアデニル酸シクラーゼ,cGMPはグアニル酸シクラーゼにより産生され,共にホスホジエステラーゼにより分解される。これらの分子に対する阻害薬やsiRNA,または光遺伝学を用いた機能制御などにより,cAMP/cGMPシグナルを自由に操作することが可能である。本稿では,これらのcAMP/cGMPシグナル操作法について概説する。

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 イノシトールリン脂質は,細胞増殖,運動,免疫応答などにおける情報伝達や,受容体の取り込み,シナプス小胞による神経伝達,オートファジーなどの小胞輸送において本質的な役割を担うシグナル分子である。イノシトール環のリン酸化状態の異なる8種類が存在し,総称してホスホイノシタイド(phosphoinositide;PI)と呼ばれる(図)1)。すべてのPIは小胞体の膜上で生成されるホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol;PtdIns)から生成される。小胞やタンパク質を介して細胞内膜系の各所に輸送されると,その膜系に特異的なリン酸化・脱リン酸化酵素によって各種のPIが産生される。例えば,形質膜ではPI4KAによってリン酸化されてPtdIns(4)Pが生じ,更にPIP5KによりPtdIns(4,5)P2が生成する。ゴルジ体の膜上ではPI4KBによってPtdIns(4)Pが生じるが,PIP5KがなくPtdIns(4,5)P2は存在しない。細胞内膜系ごとに特徴的なPIの分布をシグナルとして様々なタンパク質がリクルートされ細胞機能の発現にかかわる。

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 大気の約1/5を占める酸素は生きていくうえで不可欠であり,その枯渇は生体に良悪両面の影響を与える。低酸素環境は生体内で生理的に存在し,組織幹細胞の維持に重要な役割を果たしている一方で,がんの悪性化にも深く関与することが知られている。

 細胞の低酸素応答において特に重要な役割を果たすのが低酸素誘導性因子1(hypoxia-inducible factor 1;HIF-1)である。HIF-1はαサブユニット(HIF-1α)とβサブユニット(HIF-1β)から成るヘテロ二量体の転写因子で,その活性は主にαサブユニットの発現量と活性に依存している。HIF-1αの発現は増殖因子の刺激などによって転写,翻訳レベルで誘導されることが報告されてはいるが,HIF-1活性の調節において最も重要なメカニズムは,酸素,α-ケトグルタル酸(α-KG),Fe2+依存的に活性化するプロリン水酸化酵素(PHDs)とアスパラギン水酸化酵素(FIH-1)によるHIF-1αの修飾である。酸素存在下でHIF-1αは,PHDsによるプロリン残基(P402,P564)の水酸化を引き金に,von Hipple-Lindau(VHL)を含むE3 ubiquitin ligaseによるユビキチン化を受けて速やかに分解される。また,FIH-1によるアスパラギン残基(N803)の水酸化が,転写コファクターp300/CBPのリクルートを阻害し,HIF-1αの転写活性化能が抑制される。一方,低酸素下ではPHDsとFIH-1の活性が低下し,結果としてHIF-1αの安定性と転写活性化能が亢進する。HIF-1はhypoxia-response element(HRE)と呼ばれるエンハンサー配列に結合し,血管新生,糖代謝リプログラミング,転移・浸潤などがんの悪性化に関与する様々な下流遺伝子の発現を誘導する。更に,HIF-1による低酸素応答はがんの悪性化のみならず,虚血性心疾患や糖尿病などにも深く関与し,HIFは様々な疾患の治療標的として有望視されている。

Nitric oxide(NO) 赤池 孝章 , 藤井 重元
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 一酸化窒素(nitric oxide;NO)は,細胞膜透過性を有する低分子のガス状メディエーターであり,化学的特性に基づくユニークなシグナル伝達機構により,血管平滑筋弛緩制御,神経情報伝達,感染防御を初め,多彩な生理機能を発揮する。

 生体内NOは,NO合成酵素(NO synthase;NOS)の作用により,基質であるL-アルギニンの酸化反応により産生される。哺乳類のNOSには,恒常的に発現している神経型NOS(neuronal NOS;nNOS),血管内皮型NOS(endothelial NOS;eNOS)と,炎症性サイトカインなどにより発現が誘導される誘導型NOS(inducible NOS;iNOS)の三つのアイソフォームがある。

 NOのシグナル伝達経路は,可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase;sGC)の活性化を介したcGMPをセカンドメッセンジャーとする古典的NO/cGMP経路と,NOと活性酸素との反応により生成する活性酸化窒素種(reactive nitrogen oxide species;RNOS)がかかわる新規経路に大別される(図)。後者には,RNOSによるアミノ酸,ヌクレオチド,脂質の酸化・ニトロソ化・ニトロ化が関与する。例えば,cGMPがニトロ化された8-ニトロ-cGMPは親電子性を有し,タンパク質中のシステイン残基にcGMP構造を付加する翻訳後修飾(タンパク質S-グアニル化)を行う。転写調節因子Keap1や低分子量Gタンパク質H-RasのS-グアニル化は,酸化ストレス適応応答や細胞老化,オートファジー誘導などにかかわる(図)。興味深いことに,最近8-ニトロ-cGMPのシグナル活性が,システインパースルフィドなどの活性イオウ分子種により制御されていることが明らかになった。NOのシグナルは,活性酸素や活性イオウ分子と相互作用をしながら精緻に制御されていると考えられる。

活性酸素 田久保 圭誉
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 分子状酸素は好気性生物のエネルギー産生に必須である。酸素はその代謝過程で四電子還元される。生体内での還元過程などで産生される酸素分子より反応性の高い酸素種を総称して活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)と呼ぶ。厳密には,スーパーオキサイド,過酸化水素,ハイドロキシラジカル,一重項酸素を活性酸素と呼ぶが,広義にはより多くの種類が含まれる。一方,不対電子を持つ酸素種は不安定で反応性が大きく,フリーラジカルと呼ばれる。広義にはこうしたフリーラジカルも含めてROSと呼ぶ。スーパーオキサイドやハイドロキシラジカルは不対電子を持つため,狭義のROSと呼ばれる。一方,過酸化水素は不対電子を持たず,フリーラジカルではない。ただし,鉄と反応することで一電子還元された過酸化水素は極めて反応性が高いハイドロキシラジカルを生じる(Fenton反応)ため,活性酸素としては重要な位置付けにある。放射線や紫外線,薬剤など外的要因でも活性酸素種は生じるが,細胞内でのROS産生は特にミトコンドリアの電子伝達系や好中球などのNADPHオキシダーゼが担う。活性酸素やフリーラジカルは特異的な標的を持つことは少ないとされる。むしろ非特異的に核酸,脂質,アミノ酸など細胞内外の物質を標的にする。ROSはサイトカインシグナルの下流などでシグナル分子としての機能を果たす一方,過剰なROS産生による酸化ストレス負荷は細胞機能を障害し,細胞老化や細胞死などを誘発する。このように多彩なROSの検出・操作技術は細胞内シグナルの理解のために不可欠である。

Ⅰ.分子からみたシグナル操作法 2.Gタンパク質

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 三量体Gタンパク質は神経伝達物質やホルモン,光など多くの細胞外情報を細胞内に伝達する役割を担う。α(Gα),β(Gβ),γ(Gγ)の三つのサブユニットから成るヘテロ三量体を形成し,不活性型のGαにGDPが結合している。細胞膜においてGタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor;GPCR)と共役し,GPCRにホルモンなどのリガンドが結合するとGPCRの構造変化が起こり,共役するGαからGDPが解離し,そのかわりに細胞内に豊富に存在するGTPがGαに結合する。GTP結合GαはGβγと離れ,遊離したGαおよびGβγは下流のエフェクターへシグナルを伝達する。GTPが結合したGαは,Gα自身の持つGTPase活性によりGTPをGDPとリン酸へ分解する。GDP結合GαはGβγと再結合して元の三量体へと戻る。このように三量体Gタンパク質は可逆的な分子スイッチとして働く。

 GαはGαs,Gαi,Gαq,Gα12/13の四つに大別され,それぞれ下流因子が異なる(図)。Gタンパク質がそれぞれの下流因子を活性化することによって,細胞遊走や神経伝達物質の放出,遺伝子発現など,様々な細胞応答に関与する。

 Gタンパク質の活性はGDP-GTP交換反応を促進するGEF(guanine nucleotide exchange factor)と,GTPase活性を高めるGAP(GTPase activating factor)により制御される。GPCRがGEFとして働くのに対して,RGS(regulator of G protein signaling)が三量体Gタンパク質のGAPとして働く。近年,Ric-8と呼ばれる非受容体型のGEFの存在も明らかとなった。また,Ric-8はGαのユビキチン化を抑制する1)。Gタンパク質シグナルの制御の一端として,ユビキチン化を介したプロテアソーム系によるGタンパク質の量的な調節機構が判明した。

Ras/Rap 小松 直貴 , 松田 道行
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 Rasファミリー低分子量Gタンパク質はRas,Rap,Ralのサブファミリーを含む36遺伝子から構成されている。Rasは1981年にHarvey and Kirsten murine sarcoma retrovirusから単離された癌遺伝子であり,H-Ras,N-Ras,K-Ras4AおよびK-Ras4Bの4種類のアイソフォームが知られている(以下,単にK-Rasと記載する場合はK-Ras4Bを指す)。これらは互いに90%以上の相同性を持ち,残りが超可変領域と呼ばれるC末端の構造である。Rasは細胞増殖および分化の制御を介して癌化,および発生に深く寄与する。一方,RapはRasに相同性の高い低分子量GTP結合タンパク質としてほぼ同時期に三つのグループにより同定され,Rap1A,1BおよびRap2A,2B,2Cの五つのアイソフォームが存在する。Rapはインテグリンを介した細胞間接着への寄与,ひいては血管透過性の制御および血球系細胞の分化などに関与する。

 Rasファミリー低分子量Gタンパク質(以下Rasと略す)はGTP結合時にシグナルをON,GDP結合時にOFFにする分子スイッチとして機能し,そのGTP/GDP結合状態はGEF(Guanine nucleotide exchange factor)およびGAP(GTPase-activating protein)により制御されている。Ras活性の時空間パターンは,このGEF,GAPの局在および活性化の時空間パターンにより制御されている(図A)。

 Rasは初め細胞質タンパク質として合成された後,ファルネシル基転移酵素によりC末端CAAX配列(C:システイン,A:脂肪族アミノ酸,X:任意のアミノ酸)のシステインにファルネシル基が付加される。更なる翻訳後修飾を受けた後,K-Ras4BはPDE6δにより細胞質で安定化されながら形質膜の非ラフト領域へ移行する。H,N-RasおよびK-Ras4AはC末端に更にパルミトイル化を受け,形質膜のラフト領域および細胞内膜へ移行する(図B)。

 Rasはそれぞれ複数のエフェクター分子と結合し,一部は重複している。Rasサブファミリーのエフェクター中でよく研究されているのはRaf,PI3KおよびRalGDSである。

Rhoファミリー 相川 あかね , 清川 悦子
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 Rhoファミリー低分子量G蛋白質群は,20の蛋白質から成るRasスーパーファミリーに属する亜群である1)。更に,八つのサブファミリーに分類される。その八つとは,①Rac1,Rac2,Rac3 RhoG,②Cdc42,TC10(RhoQ),TCL(RhoJ),③CHP(RhoV),WRCH1(RhoU),④RhoH,⑤RhoBTB1,RhoBTB2,⑥RhoA,RhoB,RhoC,⑦RND1,RND2,RND3(RhoE),⑧RIF(RhoF),RhoDであるが,一般的にRhoファミリーと称される場合,RhoA,Rac1,Cdc42を示すことが多い。これらは順にアクチンの重合,葉状突起,糸状突起形成を促し,細胞の移動・浸潤に寄与すると考えられている。近年,RhoAやRac1の分子群の活性化型変異が癌細胞で見つかっており,更に注目を集めている。また,ヒトES細胞が分散培養によって陥るアポトーシスの際には,RhoAの活性化(およびRac1の不活性化)とRhoA下流のROCKの活性化が起こることからも,再生医療においても注目されている。

 RhoファミリーはRasと同様にGTPかGDPに会合しており,GTPに会合しているときのみ下流分子を活性化することができる分子スイッチである。自身が持つGTPの水解反応,それを活性化する因子(GAP)が負の制御因子として,GDPやGTPの解離を促進するグアニンヌクレオチド交換因子が正の制御因子としてある。Rasと異なるのは,負の制御因子としてRhoGDIという蛋白質群があることで,Rhoファミリーに結合し,その局在を細胞質にとどめることで不活性化している。

 RhoA,Rac1,Cdc42の制御因子は複数あり,特性も分子によって異なる2)。活性化因子はDblファミリーとDOCKファミリーに分類されるが,共にイノシトールリン脂質によって形質膜に局在させる領域と,グアニンヌクレオチド交換を担う領域を持っている。GAPの場合も特異性は各分子で異なっているが,脂質はDAGなどの場合もあり,脂質結合領域を持たないものもある。

Rab/Arf 申 惠媛 , 中山 和久
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 RabやArf(ADPリボシル化因子)ファミリーは,Rasスーパーファミリーに属する低分子量 GTPaseである。哺乳類ではRabファミリーは60種類以上,Arfファミリーは約30種類(Arf-like;Arl,Sar1を含む)から成り,細胞内のメンブレントラフィックの調節にとって必須のタンパク質群である1,2)。Rabは主に輸送小胞の運搬や膜融合の過程に,Arfは主にコートタンパク質の集合による輸送小胞の形成過程に寄与する。RabやArfは,GDP/GTP交換因子(GEF)の作用によって不活性なGDP結合型から活性を有するGTP結合型へと変換される(図)。一方,結合しているGTPは,GTPase活性化タンパク質(GAP)によって加水分解が促進され,不活性なGDP結合型に戻って再利用される。RabやArfは,GTPが結合するとコンホメーション変化を引き起こし,特定のエフェクタータンパク質との結合が可能になる(図)。したがって,RabやArfは,GDP結合型とGTP結合型の間をサイクルすることによって,メンブレントラフィック調節の分子スイッチとして機能する。

Ras-related nuclear protein(Ran) 吉村 成弘
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 Ran(ras-related nuclear protein)は低分子量Gタンパク質ファミリーの一つであり,GTP結合型とGDP結合型との間の変換によって,様々な細胞内反応を制御するスイッチとして機能する。他の低分子量Gタンパク質と同様,グアニンヌクレオチドの変換サイクルは,特異的なguanine nucleotide exchange factor(GEF)とGTPase activating protein(GAP)により行われる(図1)。最も重要な機能としては,細胞質-核質間のタンパク質輸送の制御が挙げられるが,ほかにも分裂期における紡錘体集合,微小管構築,核膜形成の制御などにも関与していることが知られている1)。核-細胞質間輸送では,カリオフェリンを初めとする輸送担体による能動輸送に必須な因子として重要な役割を果たしている2,3)。RanのGTP型とGDP型では細胞内局在に大きな違いがみられる。RanGEFであるRCC1はクロマチンに結合しているため,間期核では核内のRanGTP濃度が細胞質に比べて高い。一方,細胞質ではRanGAPが局在しているため,GDP型が主要となる。このように,核膜を隔てたRanGTP-GDPの濃度勾配が,カリオフェリンを介した能動輸送の間接的なエネルギー源となっていると考えられる(図2)。分裂期では,染色体に結合しているRCC1により染色体周辺でRanGTPの蓄積がみられ,染色体から遠ざかるに従って濃度が減少する。このRanGTPにより,染色体周辺ではスピンドル形成因子群がimportinなどの輸送担体から解離し,紡錘糸の正常な伸長,結合,維持などを制御している4,5)

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 Gタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor;GPCR)は7回膜貫通型の構造的特徴を持つ膜タンパク質の総称で,哺乳類では約800種類から成るスーパーファミリーを形成している。GPCRはホルモンや神経伝達物質などの内因性リガンドのほか,光や匂いなどの外来刺激にも反応し,多くの病態にも関与して創薬の主要な標的となっている。

 GPCRの高次構造については,全体の約8割を占めるロドプシン型受容体ファミリー/クラスA(分類と構造の詳細は他の文献を参照)を中心に結晶解析が進んでいる。その構造は,7本のαヘリックスが環状に並ぶ膜貫通部分をコアとし,細胞外側に作るポケットがN末端とループ部分の細胞外ドメインと共にリガンド結合部位を形成する。リガンドの結合によりコンホメーション変化が生じ,細胞内ドメインに結合する三量体Gタンパク質を介して下流シグナルが活性化される。一方,GPCRの活性化後にはGPCRキナーゼ(GRK)によって細胞内ドメインがリン酸化され,その結果Gタンパク質との結合が解除されてアレスチンが結合し,エンドサイトーシスによりエンドソームとして細胞内に取り込まれるとされている。この後GPCRはライソゾームにより分解されるか,リサイクリング機構によって再び細胞膜に運ばれ,受容体機能を再開する。更に最近,エンドソーム内のGPCRの再活性化や,アレスチンを介するGタンパク質非依存性のシグナル機構の存在も注目されている(図)。

 GPCRは不活性型と活性型の2状態だけでなく,様々なコンホメーションの間でゆらいでおり,その平衡状態がリガンドの有無や修飾状態,結合タンパク質の存在などによって遷移する。この多状態モデルにおいて,ある活性化状態へと平衡をシフトさせる薬物がアゴニスト,不活性状態へとシフトさせる薬物がインバースアゴニストと定義される。アンタゴニストはそれ自体平衡状態に影響を与えず,内因性リガンドやアゴニストによる活性化状態へのシフトを阻害する薬物と理解される。

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 ケモカインは,特定の白血球を炎症局所に動員する因子の探索の中で,30年ほど前に初めてIL-8,MCP-1/CCL2が同定された。ケモカインは8-14kDa,100個ほどのアミノ酸から成る小さなタンパク質で,N末に保存されたシステイン残基のパターンによりCC,CXC,C,CX3Cの四つのファミリーに分類される。ケモカインの受容体はおよそ20種類に及び,GPCRファミリーの一つ,ロドプシン様受容体ファミリーの中でも最も大きなファミリーに位置付けられる。CXCR7,DARC,D6のような,ケモカインを結合するがGタンパク質と共役しない非定型ケモカイン受容体も,ケモカイン濃度勾配の形成など役割を担う。ケモカインは約40種類存在し,ケモカイン受容体との結合関係は互いに重複性を持つのが特徴である。

 ケモカインは細胞遊走を介して発生,自然免疫,獲得免疫を含む免疫応答全般,がんの増生,転移,炎症性疾患などに関与し,その働きは多岐にわたる1)。また,細胞遊走にかかわるのみならず,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus;HIV)の共受容体として働くなど,微生物との接点としても重要である。

Ⅰ.分子からみたシグナル操作法 3.キナーゼ

古典的MAPキナーゼ経路 青木 一洋
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 古典的MAPキナーゼ経路(mitogen-activating protein kinase pathway;MAP kinase pathway)は,古典的MAPキナーゼであるERK1/2(extracellular signal-regulated kinase 1/2)を活性化する一連のシグナル伝達経路を指す。

 増殖因子などにより低分子量Gタンパク質RasがGTP結合型になり活性化されると,MAPKKK(MAP kinase kinase kinase)であるRafと結合し活性化する。活性化したRafはMAPKK(MAP kinase kinase)であるMEK(MAPK/ERK kinase)をリン酸化し,活性化する。活性化MEKはERKの活性化ループに位置するチロシンとスレオニンを二重リン酸化することでERKを活性化する。活性化したERKは,転写因子や他のキナーゼをリン酸化することで細胞増殖や分化といった表現型を誘導する。この経路を調整する制御因子(足場タンパク質など)やフィードバック制御の関与も報告されている。

 古典的MAPキナーゼ経路を構成する分子の多くは,それらの活性化状態に応じて細胞内局在が変化する。不活性化状態のRafは閉じた構造をとって細胞質に局在しているが,主に形質膜に局在するRasと結合することで形質膜へと移行し,更に開いた構造へと変化する。そこにMEKが結合することでMEKへのリン酸化を誘導する。ERKは不活性化状態ではMEKなど細胞質に局在する分子と結合することで細胞質に局在するが,活性化されると核内へと速やかに移行する。

 KRas遺伝子やBRaf遺伝子といった古典的MAPキナーゼを構成する遺伝子の活性化型変異がヒトの悪性腫瘍において高頻度に見いだされており,既に幾つかの悪性腫瘍において古典的MAPキナーゼ経路を特異的に抑制する分子標的薬が抗癌剤として利用されている。

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 Mitogen-activated protein(MAP)キナーゼ経路はMAP3K,MAP2K,MAPKから構成される3段階のリン酸化カスケードであり,真核生物に普遍的に存在する。この経路ではMAP3KがMAP2Kをリン酸化して活性化し,活性化されたMAP2KがMAPKをリン酸化して活性化することでシグナルが伝達される。MAPKのうち,c-Jun N-terminal kinase(JNK)およびp38は紫外線,酸化ストレス,熱ショック,DNA損傷,高浸透圧,小胞体ストレスなどのストレスに応答して活性化されることから,ストレス応答性MAPキナーゼと呼ばれる。これらMAPKの活性化に至る経路がストレス応答性MAPキナーゼ経路である。また,ストレス応答性MAPキナーゼはtumor necrosis factor(TNF),interleukin-1(IL-1)などの炎症性サイトカインやlipopolysaccharide(LPS)などの微生物由来物質によっても活性化される。古典的MAPキナーゼ経路は主に増殖因子などに応答して細胞の増殖や分化に関与するのに対し,ストレス応答性MAPキナーゼ経路は主に環境ストレスに応答してアポトーシスや細胞周期の停止,炎症に関与している。

 ストレス応答性MAPキナーゼ経路を構成するキナーゼについて,JNKの上流に位置するMAP2KはMKK4,MKK7であり,p38上流のMAP2KはMKK3,MKK6である。更にその上流には,MAP3KとしてMEKK1-MEKK4,MLK1-MLK3,ASK1-ASK3,TAK1など多数存在する。

 これらストレス応答性MAPキナーゼの個体レベルでの機能に関しても数多く報告されている。例えば,JNKはアポトーシスを誘導することで前脳や後脳の発生に,p38は心血管の発生に必要な転写因子の活性化を介して血管新生にかかわっている。更に免疫系における機能としてToll様受容体(Toll-like receptor;TLR)を介した自然免疫応答,サイトカインの放出,T細胞の分化や成熟,活性化などにも関与している1,2)

PI3キナーゼ-Akt経路 樋口 麻衣子
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 PI3キナーゼ-Akt経路(以下PI3K-Akt経路)は,細胞外からのシグナルを細胞内に伝える主要な経路の一つである。PI3K-Akt経路は,EGF(epidermal growth factor)やPDGF(platelet-derived growth factor)などの増殖因子やインテグリンを介した細胞接着など,様々な刺激により活性化され,細胞の生存促進,細胞増殖・大きさの制御,細胞運動,代謝,個体の寿命の制御など,実に様々な生命現象に関与することが知られている。

 増殖因子などの刺激により細胞膜上に移行し活性化したPI3Kは,細胞膜の構成成分であるイノシトールリン脂質のイノシトール環の3位をリン酸化してPI(3,4)P2,あるいはPI(3,4,5)P3を産生する。すると,AktのPHドメインが主にPI(3,4,5)P3に結合することによってAktは細胞膜へ移行する。そして,細胞膜近傍でAktはPDK1およびmTORC2(rictor-mTOR複合体)によりそれぞれThr308とSer473の二つの部位をリン酸化されて活性化し,下流の様々な基質のリン酸化を介して細胞の生存,増殖などの生命現象を制御する(図)。

 Aktには三つのアイソフォーム(Akt1,Akt2およびAkt3)があり,アミノ酸相同性は非常に高い。これら三つのアイソフォームは,重複した機能と異なる機能を持つことが報告されている。様々な機能を持つAktが,それぞれのコンテクストによりどのように機能を使い分けているのかは非常に興味深い問題であるが,Aktの機能を選択的に制御するスキャフォールド分子の存在や,アイソフォーム特異的な機能制御メカニズムについて明らかにされつつある。

Jak-STAT経路 野阪 哲哉
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 Jak(Janus kinase)は,キナーゼ活性を持たないタイプのサイトカイン受容体におけるシグナル伝達に必須のチロシンリン酸化酵素であり,リガンド刺激後,Jakの活性化によって細胞内情報伝達が開始される。哺乳類ではJak1,Jak2,Jak3,Tyk2の4種のJakがある。Jakはサイトカイン受容体とSTAT(signal transuducer and activator of transcription)のチロシンをリン酸化する。STATは,哺乳類ではSTAT1からSTAT6まで(STAT5のみA,Bが存在)6種7個の分子が存在する。チロシンがリン酸化されたSTATはホモ二量体(場合によってはヘテロ二量体)を形成した後,核内に入り,DNAに結合することによって標的遺伝子の転写を活性化する1)。例えばJak2の活性化は,リガンド刺激によるJak2同士の会合によって,キナーゼドメイン内の活性化ループのY1007,Y1008が自己リン酸化(正確には会合した相手によってトランスリン酸化)されることによって起こる(図)。Jak-STATシグナルの負のフィードバック機構としては,フォスファターゼ以外にSOCS(suppressor of cytokine signaling,SOCS1-7,CIS1から成る)とPIAS(protein inhibitor of activated STAT,PIAS1-4から成る)が知られている。ヒトJak2のV617Fは偽キナーゼドメイン内にみられる体細胞変異であり,真性多血症などの骨髄増殖性疾患の原因となる。その分子機構は,キナーゼ活性の負の調節がかからず,恒常的に活性化されることによる。ほかに,STAT3のDNA結合領域とSH2領域における優勢抑制変異・欠失は1型高IgE症候群,Tyk2の欠損は2型高IgE症候群,Jak3の欠損は重症複合免疫不全症を起こす。Jak-STAT経路の活性化を簡便に検出する方法は幾つかあり,キットも市販されている。Jak,STATの阻害剤も開発されており,がんや関節リウマチなどの治療に用いられている。

TNF/NF-κB経路 井上 純一郎
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 TNF(tumor necrosis factor,腫瘍壊死因子)は,TNFα,TNFβ(lymphotoxin(LT)-α)およびLT-βの3種類から成るが,通常TNFはTNFαのみを指すことが多い。TNFαは当初,固形がんの出血性壊死を誘導させるサイトカインとして発見された。具体的な生理活性として転写因子NF-κB(nuclear factor-κB)の活性化が主な役割を果たす炎症性メディエーター,細胞接着分子やアポトーシス抑制因子の発現誘導に加えて,主にCaspase-8/Caspase-3経路の活性化が担うアポトーシスの誘導が挙げられる。したがって,TNFαの過剰産生は過度の炎症反応を誘導し,クローン病や関節リウマチなどの疾患発症や悪化に関与している。TNFαは25kDaの膜結合型の前駆体タンパク質として,主にマクロファージで産生される。その後,TNFα変換酵素(TACE)により切断を受けて17kDaの可溶性タンパク質となる。可溶性TNFαはホモ三量体として2種類の受容体TNF receptor(TNFR)1およびTNFR2に結合して,下流のシグナルを活性化する。TNFRもTNFと同様に三量体を形成しており,両者の結合が受容体の構造変化を誘導し,細胞質側に存在するシグナル伝達因子の受容体への結合を促すと考えられている。TNFR1は全身組織に常に発現しているのに対して,TNFR2は誘導型の受容体であり,TNFの多くの機能がTNFR1で説明可能であることから,ここではTNFR1について記載する。NF-κBはp50,p52,Rel,RelA,RelBの五つのsubunitで構成されるが,TNFαによって活性化されるのは主にp50/RelAのヘテロ二量体である。NF-κBは核移行シグナルを持っているが,通常抑制タンパク質IκBαと結合することで核移行シグナルがマスクされ,細胞質に係留されている。TNFα刺激依存的にIκB kinase(IKK)複合体が活性化されIκBαがリン酸化されると,それに続いてIκBαがLys48型のポリユビキチン化を受けプロテアソームで分解される。NF-κBはIκBαから解放され核移行し,標的遺伝子の転写を誘導する。IKK複合体は,TNFα刺激依存的に受容体近辺に幾つかのタンパク質が,TNFR1のdeath domainを介して集合し,安定したシグナル複合体が形成されることで活性化されるが,それには刺激依存的に集合したタンパク質の中のcIAP1/2が合成したLys63型ポリユビキチン鎖と,HOIL-1/HOIP/SHARPIN複合体が合成した直鎖状ポリユビキチン鎖が多くのタンパク質と相互作用することが必要である(図)。一方,シグナル複合体は更に別のタンパク質と作用することでCaspase-8を活性化し,アポトーシスのシグナルを活性化する。

TGF-β/Smad経路 今村 健志 , 大嶋 佑介
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 Transforming growth factor(TGF)-βは,骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)やアクチビンなどの因子とスーパーファミリーを形成し,細胞増殖・分化からアポトーシスまで多くの生命現象において重要な働きを担い,がんから免疫病まで多くの病態に関与している。TGF-βは,多くの場合,潜在型として産生され,活性化を受けた後,成熟型の二量体タンパク質として作用する。TGF-βは,細胞表面の2種類のセリン/スレオニンキナーゼ型レセプターと結合し,主に細胞内のSmadタンパク質を介して,そのシグナルを伝達する1)。Samdには,特異的なシグナルを伝えるR-Smad(receptor-regulated Smad),すべての経路で共通に用いられるCo-Smad(common-mediator Smad)とシグナルに抑制的に作用するinhibitory Smad(I-Smad)の3種類がある。具体的には,TGF-βがⅡ型TGF-βレセプター(TβR-Ⅱ)と結合するとⅠ型TGF-βレセプター(TβR-Ⅰ)がリクルートされ,2種類のセリン/スレオニンキナーゼ型レセプターの四量体形成が起こり,TβR-Ⅰのキナーゼが活性化される。すると,TGF-β特異的Smad2/3がTβR-Ⅰによってリン酸化を受け,Co-SmadであるSmad4と複合体を形成して核内に移行する。核内移行したSmad複合体は,様々な転写因子,転写のコアクチベーターやコレプレッサーなどの転写共役因子と結合して,標的遺伝子のプロモーターに結合してその活性を制御する。抑制型Smad7は,TGF-βによって発現が誘導され,Smad経路を抑制し,ネガティブフィードバックループを形成する1)(図)。また,TGF-β/Smad経路は,E3ユビキチンリガーゼSmurfなどによるユビキチン化を初め,様々な翻訳後修飾によって制御されている2)。一方,Smad非依存的(non-Smad)経路も存在し,ある状況下では,TGF-βによってMAPK経路などが活性化される。

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 細胞増殖因子(growth factor)は細胞表面に存在する特異的受容体に結合し,その増殖作用を発揮する。細胞増殖因子受容体には様々な種類があるが,代表的なファミリーは細胞内にチロシンキナーゼドメインを有する受容体型チロシンキナーゼ群である。ヒトゲノムによって約60種類の受容体型チロシンキナーゼがコードされるが1),受容体型チロシンキナーゼの結合リガンドが明らかになったものはそのほとんどが細胞増殖因子である。このことからもチロシン残基のリン酸化を介するシグナルが,真核生物の増殖において中心的な役割を果たしていることがわかる。

 受容体型チロシンキナーゼの多くは,1回膜貫通型受容体であり,細胞外でリガンドと結合し,細胞内に酵素活性領域がある(図)。例外はインスリン受容体ファミリーで,例えばインスリン受容体は単一ペプチドとして翻訳された後に,分解されてα鎖とβ鎖に分かれ,S-S結合でつながる。

 受容体型チロシンキナーゼは,リガンド依存性に二量体化(あるいは多量体化)し,酵素活性が上昇する。リガンドが結合して二量体化した受容体型キナーゼは互いのキナーゼをリン酸化し合い(自己リン酸化と呼ばれる),酵素領域がATPと結合可能になってキナーゼ活性がオンになる2)。一般に自己リン酸化されるチロシン残基以外のチロシンも複数リン酸化され,セカンドメッセンジャータンパク質群のSH2ドメインのドッキング部位になる。受容体型チロシンキナーゼから発せられる増殖シグナル経路は,RAS-MAPK経路,PI3-kinase経路,phospholipase C経路などがある。

 受容体型チロシンキナーゼの恒常的活性型変異はしばしばがんの原因となる。例えば上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)は,酵素活性領域内の点突然変異・内部欠失が後天的に生じ,肺がんの原因となる3)。同様にALKキナーゼ(anaplastic lymphoma kinase)は染色体転座inv(2)(p21p23)の結果,EML4(echinoderm microtubule-associated protein-like 4)と融合してEML4-ALKとなって肺がんを生じ4),HER2(ERBB2)キナーゼは遺伝子増幅によって乳がんの原因となる。いずれも特異的な分子標的薬が臨床の場で用いられている。

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 チロシンキナーゼのうち膜貫通領域を持たないものを非受容体型チロシンキナーゼと言い,ヒトには32種が存在する。膜貫通領域を有する受容体型チロシンキナーゼが細胞膜に局在するのに対し,非受容体型の多くは細胞質に存在する。SrcファミリーチロシンキナーゼはN末端側にミリストイル化あるいはパルミトイル化される配列を有しており,これらの脂肪酸結合により細胞膜直下に局在する。

 非受容体型チロシンキナーゼであるSrcは最初に発見されたチロシンキナーゼであり,Hunterらが癌遺伝子産物v-Srcおよび癌原遺伝子産物c-Srcがチロシンリン酸化活性を有することを報告した1)。以後,多くのチロシンキナーゼが同定されている。キナーゼドメイン中には自己リン酸化部位およびATP結合部位を含み,自己リン酸化によりキナーゼ活性を調節している点は受容体型と同様であるが,非受容体型チロシンキナーゼには直接リガンドに結合する細胞外領域がないため,その制御因子は細胞膜上あるいは細胞質に存在する他のタンパク質により担われている。Srcを例にその活性制御機構をみると,同じく非受容体型チロシンキナーゼであるc-terminal Src kinase(Csk)によりC末端にある527番目のチロシンがリン酸化されている。この部位にSrc自身のSrc homology 2(SH2)ドメインが結合することで,不活性化型の構造をとる。細胞外からの刺激などによりこのリン酸化チロシンが脱リン酸化し開いた構造(プライミング状態)となること,これに伴い自己リン酸化部位(Y416)がリン酸化されることにより活性化し,基質タンパク質をリン酸化して細胞応答を引き出すと考えられている(図)。

 Srcがニワトリに腫瘍を引き起こすラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus)から発見された経緯を考えれば容易に想像できるように,多くの悪性腫瘍においてSrc,Syk,BTKファミリーなどの非受容体型チロシンキナーゼの発現亢進や異常活性化が認められる。慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia;CML)では,9番と22番染色体相互転座によりフィラデルフィア染色体が形成され,その切断点に存在するAblBCRという遺伝子と融合する。これによる産物BCR-ABLが恒常的活性化を示し,CMLのドライバージーンとして機能する。非受容体型チロシンキナーゼは正常細胞内でも様々な生理機能を担っていると考えられるが,Srcの発現が特に神経細胞,血小板,破骨細胞など分裂しない終末分化した細胞での発現レベルが高いことは,がんでの機能と対比して興味深い。

Protein kinase C(PKC) 吉川 潮
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 プロテインキナーゼC(protein kinase C;PKC)はセカンドメッセンジャー依存性セリン/トレオニンプロテインキナーゼであり,哺乳類では10種類のサブタイプから成るファミリーとして存在する。当初はCa2+依存性プロテアーゼによる切断から生じる活性フラグメントの前駆体として見いだされ,次いでタンパク質分解反応ではなくリン脂質に依存して活性化を受けることからCa2+-activated, phospholipid-dependent protein kinaseと命名された。省略名としてCa2+の頭文字Cからprotein kinase Cが用いられ,簡略にPKCとも呼ばれている。更に,有効な脂質の解析からジアシルグリセロールがPKCの活性化に必要なCa2+とリン脂質への親和性を高めることが示され,受容体刺激により細胞膜ホスファチジルイノシトール-4,5二リン酸の加水分解により生成されるジアシルグリセロールがセカンドメッセンジャーとしてPKCを活性化し,他方の分解産物であるイノシトール-三リン酸が細胞内Ca2+濃度を上昇させることにより,細胞応答を誘導するシグナル機構の存在が明らかとなった(図)。また,PKCは発がんプロモーターであるホルボールエステルによりジアシルグリセロールと同様の機構で活性化を受けることから,ホルボールエステルの標的としても作用すると考えられる。

 PKCサブタイプはアミノ末端側に調節ドメイン,カルボキシル末端側に触媒ドメインを持ち,前者の構造モチーフから3群に分類されている(図)1)。cPKC(c;classicalあるいはconventional)群はPKCの発見以来,生化学的検討が進められてきた酵素に相当する。調節ドメインにはこの群の間で相同性を示す領域が2か所存在し,それぞれC1領域,C2領域(ConservedまたはCommon)と命名された。C1領域はZnフィンガー様モチーフの2回繰り返し構造を含むジアシルグリセロールおよびホルボールエステルの結合部位,C2領域はCa2+を介したリン脂質結合部位であり,両領域ともPKC以外のタンパク質にも構造モチーフとして存在する。nPKC(n;novelあるいはnew)群はその酵素活性にCa2+を必要とはしないものの,ジアシルグリセロールにより活性化されホルボールエステルの結合能を有する。調節ドメインにはC1領域が存在し,アミノ末端にC2領域に類似したリン脂質結合領域が存在する。aPKC(a;atypical)はZnフィンガー様モチーフを持つもののジアシルグリセロールにより活性化されないが,発見の経緯と構造の特徴からこの名称が用いられている。一方,触媒ドメイン内とカルボキシ末端領域には活性化ループ,ターンモチーフおよび疎水性モチーフと呼ばれるリン酸化部位が存在する。これらの部位は構成的にリン酸化を受けており,その変動が酵素活性の制御にかかわるというよりは触媒活性の発揮に必要な修飾反応である。なお,PKCファミリーは基質特異性が広く試験管内では多くのタンパク質をリン酸化する。また,PKCはサブタイプごとに組織発現,生化学的性質,結合タンパク質,細胞内局在・挙動に差異がみられることから,それぞれが特異的なシグナルの伝達に対応している可能性が高く,様々な観点から各PKCサブタイプがかかわる細胞内シグナル機構の解析が行われている。

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 プロテインホスファターゼはリン酸化されたセリン/スレオニン残基やチロシン残基からリン酸基を脱離(脱リン酸化)する酵素であり,リン酸化を担うプロテインキナーゼとは相反する生化学反応を担うことで,細胞内タンパク質によるリン酸化シグナルを厳密に制御している。

 現在,ヒトでは約140種類のプロテインホスファターゼ遺伝子が存在するとされており,基質となるリン酸化アミノ酸残基の特異性からセリン/スレオニンホスファターゼとチロシンホスファターゼの2群に大別されている。ほとんどのセリン/スレオニンホスファターゼは多量体で存在し,調節サブユニットが触媒サブユニットと結合することによってホスファターゼの機能が制御されているのに対し,チロシンホスファターゼは単量体であるという特徴を持つ。また,この2群のプロテインホスファターゼは構造上の違いや酵素学的特性により更に細かく分類される。一方で,一つのホスファターゼドメインによりリン酸化セリン/スレオニンおよびチロシン残基を脱リン酸化することのできる二重特異性ホスファターゼや,既知のファミリーに収まらない新たなアティピカルホスファターゼの存在も明らかとされている(図)。

 近年の遺伝子改変マウスの利用や疾患遺伝子の解析から,予想もされなかったプロテインホスファターゼの新たな生理機能や疾患とのかかわりが明らかにされつつあり,プロテインホスファターゼやその関連分子は創薬・治療法開発の対象としても現在注目されている。

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 AMP-activated protein kinase(AMPK)は,α,β,γのサブユニットで三量体を形成する。ほとんどの真核生物に保存されていて,細胞内のAMP濃度が上昇すると活性が上昇し,エネルギー欠乏状況を感知するセンサーの役割を果たしている。それぞれのサブユニットにα1とα2,β1,β2,γ1,γ2,γ3とアイソフォームがある1)。αサブユニットのN端にセリン・スレオニンキナーゼ活性を有する。βサブユニットがアダプターとなってγサブユニットと三量体を形成している。γサブユニットにはCBSモチーフがあり,細胞内AMP濃度が上昇しCBSモチーフに結合すると,三量体の立体構造が変化し,αサブユニット(ヒトでは172スレオニン)が上流のキナーゼであるLKB1によってリン酸化を受けて活性型となる2)。ADP濃度が上昇し,CBSモチーフに結合することでもAMPKが活性型になることも明らかとなっている。また,細胞内Ca2+濃度が上昇すると,calcium/calmodulin-dependent protein kinase kinase-β(CaMKK-β)によってもリン酸化を受けて活性型になる。AMPKの生理的な脱リン酸化酵素はまだ確定していないが,PP1,PP2A,PP2Cなどにより脱リン酸化される。

 AMPKは,図に示すように,細胞内のエネルギー欠乏状況を感知すると活性型になり,下流の様々なタンパク質をリン酸化して,糖脂質代謝,タンパク質代謝,ミトコンドリア生合成などを調節することで,同化を抑制し異化を促進しエネルギー状況を改善する3)。図以外にもオートファジーの促進やSirt1との相互作用,細胞周期の制御,炎症の調整なども報告されている4)

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 mTOR(mammalian target of rapamycin)は,免疫抑制剤ラパマイシンの細胞内標的分子として同定されたセリン・スレオニン特異的タンパク質キナーゼで,2種の複合体mTOR complex 1(mTORC1)とmTOR complex 2(mTORC2)を形成し,様々な細胞内基質をリン酸化により制御する。近年,mTORの機能が癌,糖尿病,肥満,老化に関連することが明らかになるにつれ,mTORは創薬,疾患予防,アンチエイジングのターゲットとして注目されるようになった1)

 mTORC1は触媒サブユニットmTORに加え,Raptor,mLST8,PRAS40,DEPTORを含み,成長因子や栄養に応答して活性化し,細胞の成長や増殖を正に制御する。mTORC1の代表的な標的基質として,タンパク質合成を調節するp70-S6Kと4E-BP,オートファジーにかかわるULK1などが挙げられる。一方,mTORC2はRictor,mSIN1,mLST8,PRR5/5L,DEPTORを含み,インスリンや成長因子刺激,あるいはストレス下で細胞の生存,糖の取り込み,細胞形態を制御する。Akt,SGK,PKCαといったAGCファミリーに属するキナーゼがmTORC2の標的として知られている。

 mTOR複合体の活性は厳密かつ複雑に制御されており,その分子メカニズムの全貌はいまだに不明である。主要なmTORC1制御因子として,低分子量GTPaseであるRagとRhebが同定されている。RagとRhebはそれぞれアミノ酸と成長因子による刺激に応じて結合ヌクレオチド(GTP/GDP)をスイッチし,mTORC1活性を正負に制御する。他方,mTORC2の活性制御に関する知見は乏しく,分裂酵母を用いた解析から,やはり低分子量GTPaseが制御に関与する可能性が示唆されている2)

Ⅰ.分子からみたシグナル操作法 4.その他

Wntシグナル 今城 正道 , 松田 道行
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 古典的Wnt経路は,胚発生や成体組織の恒常性の維持に重要な役割を果たすシグナル伝達経路である。近年,様々な組織においてWnt経路の活性化が幹細胞の維持や組織再生に必要であり,一方で恒常的な活性化は腫瘍形成の原因となることが報告されている。したがって,Wnt経路の理解とその活性の操作法の開発は,再生医療や癌治療の観点からも重要な課題となっている1)

 Wnt経路において,中心的な役割を果たすエフェクターはβ-cateninである1)。Wntリガンドがないときは,β-cateninはAPCやAxin,GSK3などから成る複合体中でリン酸化とユビキチン化を受け,分解される(図A)。同時に細胞膜上では,Wnt受容体のFrizzledがZNRF3やRNF43によるユビキチン化を受け,分解される。細胞膜上でR-spondinがLgr4/5/6に結合すると,このユビキチン化が抑制され,Frizzledが安定化する(図B)。安定化したFrizzledとLrp5/6にWntタンパク質が結合すると,下流へのシグナル伝達が開始される。このとき,AxinとLrp5/6の結合が増強され,AxinやGSK3が細胞膜上に移行して,β-cateninから解離する。それにより,β-cateninが蓄積し,核内へと移行するようになる。核内でβ-cateninがTCF/LEFファミリーの転写因子を介して標的遺伝子の発現を促進することで,Wntシグナルの生理的な機能が発現する。また最近では,癌遺伝子産物であるYAPもβ-cateninを分解する複合体の構成因子であり,Wntシグナルによって複合体から解離して,シグナルを伝達することが報告されている2)(図B)。このYAPを介した経路も幾つかの生命現象において重要な役割を果たすことが報告されており2),今後その生理的な意義の解明が進むと考えられる。

Notchシグナル 溝口 貴正 , 伊藤 素行
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 Notchシグナル伝達経路は,多細胞生物において種々の組織の細胞増殖・死,分化,生理機能に関与する。Notchは細胞膜貫通型受容体であり,隣接細胞で発現するDelta,Jaggedといった膜結合型リガンドとの結合で細胞間情報伝達を行う(図)。Notch受容体は,Golgi体でのFurinによるS1切断,Fringeなど糖転移酵素による糖鎖修飾の後,膜表面上に到達する。Mib1ユビキチンリガーゼは,リガンドタンパク質をユビキチン化し,Notch受容体の細胞外ドメインをリガンド細胞側へトランスエンドサイトーシスさせる。引き続き,ADAM17によりNotch受容体S2切断が,γ-secretase複合体によりS3切断が起こり,細胞膜から乖離されたNICD(Notch intracellular domain)が核へ移行する。NICDは核内でDNA結合タンパク質CSL(CBF1/Su(H)/Lag-1)およびMAM(Mastermind)と転写活性化複合体を形成し,HESファミリー遺伝子などの下流標的遺伝子の転写を促進する。種々の組織では,異なったシグナル調節機構や下流標的遺伝子発現が行われることで,異なる生理機能が発揮されると考えられている。Notchシグナルの異常は,白血病などのがんやAlagille,CADASILなどの遺伝病の原因となる。

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 ヘッジホッグ(HH;Hedgehog)シグナルは胎児期の細胞増殖因子,形態形成因子として知られている。加えて,成体でのホメオスタシスや組織再生,組織幹細胞の制御にも機能し得ることが示されている。胎児期のHHシグナルの異常は,全前脳症などの先天性疾患の原因となり,成体でのHHシグナルの持続的活性は皮膚基底細胞癌や髄芽細胞腫を含む様々な癌に関連すると言われている。

 哺乳類では3種類のHHリガンド(SHH;Sonic hedgehog, IHH;Indian hedgehog, DHH;Desert hedgehog)が知られており,ショウジョウバエのセグメントポラリティ因子hhのホモログとして同定された。これらのリガンドは様々な翻訳後修飾を受け,N末端側(HH-N)が膜タンパク質DISP(Dispatched),分泌糖タンパク質SCUBE2(Signal peptide, CUB domain, EGF-like 2)の作用により産生細胞から放出される。HHリガンドの標的細胞への到達には,可溶なHHリガンド複合体の形成,リポタンパク質粒子や分泌小胞の形成,特殊な糸状仮足(cytoneme)を経由する方式など,幾つかのモデルが提唱されている。HHリガンドが標的細胞に到達すると,7回膜貫通タンパク質SMO(Smoothened)や12回膜貫通タンパク質PTC(Patched;PTC1とPTC2が存在する)などから成る受容体複合体によりシグナルが伝達される。HHリガンドの非存在下では,PTCはSMOの活性化を阻害し,HHリガンド存在下ではその阻害が解除される。近年,HHリガンドはPTCに加え,GAS(Growth arrest specific),CDO(Cell adhesion molecule-related/downregulated by oncogenes),BOC(Brother of CDO)といった共役受容体タンパク質とも相互作用することが知られてきている。SMOの下流ではHHシグナルはGLI(GLI-Kruppel family member)転写因子によって伝達される。GLI2,GLI3タンパク質は,N末端側に転写リプレッサードメイン,C末端側に転写アクティベータードメインを持ち,全長のタンパク質の状態で転写活性化因子(GLI2/3A)として,種々のプロセッシングを受けて転写抑制因子(GLI2/3R)として機能し得る。GLI3タンパク質の多くが効率良くプロセッシングを受けてリプレッサーフォームをとるのに対し,GLI2では,その一部のみがプロセッシングを受け,かつ全長のGLI2タンパク質は速やかに分解されるため,ごく一部がリプレッサーフォームとして存在する。GLI2,GLI3分子間のプロテアソーム上での分解の違いは,C末端側に存在する200残基程度のアミノ酸配列の差異によるものである。これに対し,GLI1はN末端側に転写リプレッサードメインを持たない。また,Gli1遺伝子のプロモーター領域にはGLI結合配列が存在し,これはGli1遺伝子の発現誘導に重要である。Ptc1遺伝子もHHシグナルの標的遺伝子としてHHシグナルに応答して発現が誘導され,ネガティブフィードバックループを形成している。

 以上がHHシグナルの基本的伝達様式(図)であるが,近年,PTC1の細胞内ドメインが独立に機能し得る点や,SMOがGタンパク質共役受容体(GPCR;G protein-coupled receptor)としてCa2+などのセカンドメッセンジャーを介して機能し得る点など,非古典的なHHシグナル経路の存在も注目されつつある。

Hippoシグナル 清水 尊仁 , 畑 裕
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 ショウジョウバエのHippo,Warts,Salvador,Mats,Yorkieの変異体はいずれも細胞の異常な増殖を示す。HippoとWartsは蛋白質リン酸化酵素で,前者は後者をリン酸化し活性化する。SalvadorとMatsは両者をつなぐアダプターとして働く。この四分子から成る蛋白質リン酸化酵素カセットがHippoシグナルと命名された。Wartsは,転写因子Scallopedと共役して細胞増殖,細胞死に関連する遺伝子の転写を制御するYorkieをリン酸化する。リン酸化されたYorkieは細胞質にトラップされ蛋白質分解される(図)。Hippoシグナルの上流因子としては,平面内細胞極性や頂端側底極性にかかわる細胞接着分子,細胞膜裏打ち蛋白質が同定されている1)。ショウジョウバエのHippoシグナル構成因子は哺乳動物でも保存されているが,Hippoにmammalian Ste20-like kinase(MST)1/2,Wartsにlarge tumor suppressor kinase(LATS1/2),YorkieにYes-associated protein(YAP)1とWW domain containing transcription regulator 1(WWTR1)(TAZという呼び名のほうが一般的であるが,TAZという遺伝子認証番号は心筋,骨格筋に発現するtaffazinに対応するので注意されたい),ScallopedにTEA domain family member(TEAD)1-4と複数のアイソフォームが対応する。Hippoシグナルは,細胞密度が高まり細胞接着が成熟するときや,細胞に種々のストレスがかかると活性化する。Hippoシグナルが働かないと接触抑制が起こらずチェックポイントが働かない。ヒトがんではHippoシグナルの不全によるYAP1,TAZの活性上昇がしばしば認められる。YAP1,TAZの遺伝子増幅もみられる。YAP1,TAZの活性が亢進すると,がん細胞は上皮間葉転移を示し薬剤抵抗性を獲得し悪性化する。そこでYAP1,TAZの抑制剤はがん治療に有効と期待されている。YAP1の活性は心筋梗塞後の心筋損傷を抑え,腸管,皮膚,肝臓の再生に必須であり,神経幹細胞の維持にも重要である。TAZは,間葉組織幹細胞の骨・筋細胞への分化を促進し,脂肪細胞分化を抑制する。YAP1,TAZの活性化はiPS化の効率を上げる可能性もある。したがって再生医学的にはYAP1,TAZの活性を高めることが有利かもしれない。なお,例外的に多発性骨髄腫ではYAP1が腫瘍抑制的に働く可能性が示されている。

 Hippoを代表者として命名されたHippoシグナルだが,研究の進展に伴いYAP1とTAZの重みが増し,HippoホモログMST1/2によらないYAP1,TAZの制御がHippoシグナル研究の主要なテーマになっている。YAP1とTAZは機械刺激のセンサーとして働き,細胞の伸展で活性化するが,この機構にMST1/2は関与しない2)。G蛋白質共役受容体もMST1/2を介さずにYAP1,TAZの活性を制御する3,4)。YAP1,TAZの担う細胞生物学的機能も広がりを見せている。YAP1はmicroRNA生合成,細胞老化,オートファジーに関係する。YAP1やTAZは蛋白質レベルでWntシグナルにかかわる分子やp53と関係が深いASPP1/2の制御に関係する。グルカゴン受容体やエピネフリン受容体によりYAP1,TAZが抑制され,細胞伸展でYAP1,TAZが活性化されることは,血糖値や交感神経刺激,筋運動でもYAP1,TAZの活性が変化することを示唆する。Hippoシグナルの生理機能について今後,新しい展開が予測される。本稿では,哺乳動物のHippoシグナル研究にかかわる操作について述べる。

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 平面内細胞極性(planar cell polarity;PCP)は,シート状に並んだ上皮細胞がシート内の一方向に沿って発達させる細胞極性であり,主にショウジョウバエの翅毛をモデルとした研究(図A,B)によってPCP形成に必須な分子群(PCP因子)が同定された。近年の研究によって,これらの分子が多くの動物種において,内耳有毛細胞や毛根の配向などの様々な器官形成で重要な役割を果たすことがわかってきた。上皮平面に限らず,初期胚における集団的細胞移動や,神経管形成などの立体的な器官形成においても,PCP因子が働くことが明らかになっており,今後も新規の機能が明かされることが期待される。

 “core group”と呼ばれるPCP因子(core PCP因子)は,細胞膜の特定のドメインにのみ局在する(図C,D)。7回膜貫通型カドヘリンであるFlamingoは,このような局在が報告された最初のcore PCP因子であり,翅表皮細胞の近位側と遠位側の細胞境界のみに局在する1)。core PCP因子複合体を介して隣接する細胞が極性の情報を伝え合う。このcore PCP因子の働きに加えて,組織内の特定の細胞群から分泌されるタンパク質の濃度勾配や,体軸あるいは組織・器官の軸に沿った遺伝子発現の勾配により,各細胞が極性情報を受け取る仕組みが共存するらしい。これらの仕組みが協調して,極性情報を全細胞でより正確に解読し,巧妙な器官形成を達成していると思われる。

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 睡眠,覚醒,血圧,体温,ホルモン分泌のリズムなど,様々な生理現象が約24時間周期(概ね1日;サーカディアン)の規則的な変動を示す。これらのサーカディアンリズムは生物が地球環境の24時間サイクルに適応して獲得した生理機能であり,その分子発振システムは概日時計と呼ばれる。シフトワーカーなどを対象とした疫学調査や臨床・基礎研究の成果から,概日時計は前立腺がんや乳がん,老化,睡眠障害,メタボリックシンドロームなど,広範な生命現象や病態に関与していることがわかってきた。

 哺乳類において,個体レベルでみられる生理現象のリズム発現には,視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus;SCNと略)が必須の役割を果たしている。一方,個体から切り離して分散培養した細胞レベルにおいても,遺伝子の転写・翻訳リズムが継続することから,個々の細胞も自律振動する時計機能を備えていることがわかる。各組織における固有の生理的リズムの発現には,組織内の多くの細胞時計の同調が重要であり,その同調シグナリングはVIP(vasoactive intestinal peptide),グルココルチコイド,交感神経ネットワークなどが担っている。

 概日時計の分子基盤は,時計遺伝子の転写・翻訳を介したフィードバックループで構成されている。哺乳類においては,bHLH-PAS型転写因子であるCLOCKとBMAL1がヘテロ二量体を形成し,DNA上の時計シスエレメントE-box(CACGTGタイプ)にリズミックに結合して多様な遺伝子の転写活性を促進する(図A)。その中にはPerCryなどの負の転写制御遺伝子が含まれており,これらの翻訳産物がCLOCK-BMAL1複合体(図ではCLK・B1と略記)に結合して自らの転写活性促進を抑制する1)。CLOCK-BMAL1によるE-boxを介した転写は昼の時刻に発現のピークを迎えるリズムを生み出すが,一方で,転写抑制因子REV-ERBが制御するシスエレメントRREは夜の時刻にピークを持つ転写リズムを生み,ClockBmal1はRREの支配下でリズミックに発現することが知られている(図A)。このように,E-boxとRREが支配する二つのフィードバックループは互いに共役して安定な転写リズムを生み出す。これと同時に,一群の時計タンパク質のリン酸化やユビキチン化といった多彩な翻訳後修飾が,概日時計の安定した振動の維持に必須である2)

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 細胞は,外部から入力される力学刺激を細胞内の生化学シグナルに変換する過程─メカノトランスダクション─を通じ,周囲の力学的環境に応じて細胞運動の方向性や細胞極性を決定する1)。発生期の形態形成や創傷治癒などの多細胞レベルの活動においても,細胞間で伝達される力の大きさに応じて個々の細胞内の生化学シグナルが調節されることにより,力学的な情報伝達が行われる。本稿では,メカノトランスダクションの最上流において,力を起点として生じるメカノセンサーシグナルに焦点を当てる。メカノセンサーシグナルは,外力の作用下で生化学シグナルを直接調整するメカノセンサー分子により活性化され,下流の生化学シグナル経路に伝達される。

 メカノセンサー分子は,細胞内でメカノセンサーシグナルが活性化される領域により,①細胞間張力に応じて接着結合をリモデリングする細胞間接着メカノセンサー(αカテニンなど),②細胞-細胞外基質間の張力に応じて接着斑をリモデリングする足場接着メカノセンサー(タリンなど),③細胞膜張力に応じてイオン流入を制御する細胞膜メカノセンサー(イオンチャネルなど),④細胞内張力・圧縮力に応じ自ら重合・解体する細胞骨格メカノセンサー(アクチンフィラメントなど),の主な4種類に分類できる(図)。

 これらのメカノセンサー分子は,すべて力に対して分子レベルで構造を変化させ,生化学シグナルの結合部位を露出・遮蔽,あるいは,シグナル通過部位を拡大・縮小することで,メカノセンサーシグナル経路を直接制御する。例えば,細胞間の接着結合においてメカノセンサー分子として機能するαカテニンは,アクチン細胞骨格に由来した細胞間張力のもとで,閉じた自己抑制構造(鍋と蓋の関係)を開いた構造に変化させ,最終的に,生化学シグナルであるビンキュリンの結合部位を露出する2)

 これまで,メカノセンサー分子の活性を評価するために,分子を機能ドメインごと(鍋と蓋)に切り分けてシグナル分子結合の有無を調べる生化学的分子実験などが行われてきた。本稿では,このような生化学的実験にとどまらず,直接メカノセンサー分子を操作する技術を含む最新の研究手法を概説する。

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 蛋白質中のアミノ酸はペプチド結合でつながっており,この結合は,ほとんどの場合トランス型になっている。例外的に,プロリンとそのN端側のアミノ酸間のペプチド結合に関しては,シス型とトランス型の両方をとることができる。このシス・トランス構造の変化(プロリン異性化)を引き起こすのに必要な活性化エネルギーは20kcal/molと比較的高いため,触媒する酵素が必要となる。プロリン異性化酵素(peptidylprolyl isomerase;PPIase)は文字どおり,この異性化を触媒する酵素である。プロリン異性化酵素は古くは,免疫抑制剤タクロリムス,シクロスポリンの結合蛋白質として同定されたFK506 binding protein(FKBP)とシクロフィリンが著明である。しかし,FKBPとシクロフィリン以外のPPIaseとしてPin1が存在し,近年,病態との関係および創薬のターゲットとして注目されている。

 Pin1は他のPPIaseと異なり,プロリン前のアミノ酸がセリンまたはスレオニンであり,かつリン酸化されている必要がある。すなわちPin1は標的蛋白質のリン酸化状態に依存して結合するという特徴を持つ1)

 Pin1の標的蛋白質として現在までに多数の蛋白質が報告されており,代表的なものとしてTauと細胞周期関連因子(CyclinD1など)が挙げられる。そのため,Pin1と癌,アルツハイマー病との関連を検討した報告が多いが,近年では,糖尿病,非アルコール性脂肪性肝炎,骨粗鬆症など,幅広い疾患との関係が報告されている2,3)

 Pin1が結合することで標的蛋白質の機能が変化するが,最も多いのが,蛋白質安定性の変動であり,ほかに局在性や活性の変化などが認められる標的蛋白質もある。機能変化には,イソメラーゼ活性を必要とするものが大部分であるが,一部の標的蛋白質はPPIase活性非依存的に機能が変化する。

 本稿では,Pin1に焦点を当てて解説する。

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 Nicotinamide adenine dinucleotide(NAD)は,生物界で広く使用されている電子伝達体である。酸化型(NAD)と還元型(NADH)の二つの状態をとり,脱水素酵素の補酵素として機能する。NADは酸化還元反応の補酵素としての役割のほかに,二つの重要な酵素,サーチュインとポリ(ADP-リボース)合成酵素(Poly(ADP-ribose)polymerase;PARP)の基質として働く(図)。

 サーチュインはバクテリアからヒトまで種を超えて保存され,NAD依存的なリジン脱アセチル化酵素活性を有する。サーチュインは,NADのリボース部位にアセチル基を転移することにより基質タンパク質を脱アセチル化するが,その過程でニコチンアミドとO-アセチル-ADP-リボースが生産される(図)。ヒトにおいて7種類のアイソフォーム(SIRT1-7)が存在し,細胞内代謝状態のセンサーから老化,癌化,DNA損傷に至るまで多くの生命機能に関与すると考えられている。サーチュインは脱アセチル化酵素活性に加えて,脱アシル化酵素活性を有することが最近明らかになり,その生理的役割は更に広がることが予想される。また,サーチュインは癌だけでなく,神経変性疾患,代謝疾患など様々な疾患と密接に関与しており,疾患治療薬の標的分子としても着目されている。

 PARPはNADを基質として,NAD分子中のADP-リボースをアクセプタータンパク質に連鎖付加させる酵素であり(図),ヒトでは17種類以上のPARPファミリー分子が存在する。PARPによるポリADPリボシル化は真核生物に特異的な翻訳後修飾であり,DNA修復,転写制御,細胞死など,多くの細胞機能において重要な役割を果たしている。代表的なメンバーであるPARP1はDNA損傷に伴い活性化され,DNA損傷修復に寄与することが知られている。近年,癌抑制遺伝子であるBRCA1/2変異癌において,PARP1の阻害は合成致死を引き起こすことが明らかになり,BRCA1/2変異を有する乳癌や卵巣癌などの分子標的治療薬として,PARP1/2阻害剤の開発が活発に行われている。また,PARPメンバーの一つであるタンキラーゼは,テロメア伸長の維持,β-カテニン経路に関与し,新しい癌治療の分子標的因子として注目されている。

p53 田中 信之
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 p53は多くのがん細胞で遺伝子変異が検出されている代表的ながん抑制遺伝子であり,p53遺伝子欠損マウスには極めて高い頻度で腫瘍発生がみられる。更に,若年性に高頻度にがんを発症するLi-Fraumeni症候群の責任遺伝子である。p53は通常はユビキチンリガーゼMDM2と結合してユビキチン化され,プロテアソームで分解されている。しかし,DNA損傷や様々なストレスによってリン酸化,アセチル化,メチル化などの修飾を受け,MDM2との結合阻害と転写活性化能の増強によって,核内に集積して様々な遺伝子の発現を誘導する。p53は細胞周期の停止,アポトーシスの誘導,DNA修復,エネルギー代謝を初めとする様々な代謝経路の改変などを行っている。このことから,p53はDNA損傷時に働いて,細胞周期を止めてDNA修復を促すことでDNAの変異を抑制する,更には修復しきれない細胞をアポトーシスにより排除することで,遺伝子に変異が入った細胞が残ることを防いでおり,このことからゲノムの守護神と呼ばれている。更に,がん遺伝子が発現した細胞では異常なDNA合成が起こり,このDNA複製ストレスがp53を活性化してその細胞を排除することで,がん化を抑制している。このほかにも,p53は細胞内代謝の調節などの様々な作用でがん化を抑制していると考えられている1)

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 Toll-like receptor(以下TLR)は自然免疫系において,病原体認識を行う受容体の一群である。自然免疫系の受容体はパターン認識受容体とも呼ばれ,細菌やウイルスなどに共通する構造(pathogen associated molecular patterns;PAMPs)を認識することで自己と非自己を認識して免疫応答を開始する。また,組織障害や細胞死に伴って生じた自己由来の構造も自然免疫応答を開始することが知られ,damage associated molecular patterns(DAMPs)と総称されている。

 TLRは細胞膜1回貫通型の膜タンパク質であり,細胞膜や細胞内のエンドゾームに発現する。現在ヒトでは10種類,マウスでは13種類のTLRファミリーが同定されている。このうち,核酸をリガンドとして認識するTLR3,TLR7,TLR8,TLR9,TLR13はエンドゾームに局在することが知られている。

 TLRにリガンドが結合すると,TLRに共通する細胞内ドメインであるToll/IL-1 receptorドメイン(TIRドメイン)を介して細胞内シグナル伝達経路が活性化する。TLRのシグナル伝達の経路は,TIRドメインにリクルートされるアダプター分子の種類によってMyD88依存性の経路とTRIF依存性の経路に分けることができる。最終的にはNF-κBやAP-1,IRF3/7などの転写因子の活性化をもたらし,IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカイン,1型インターフェロンの産生を介して炎症反応が惹起される1)

 TLRは抗原提示細胞に多く発現し,病原体に対する免疫応答の初期に重要な役割を果たしている。

核内受容体 堀江 公仁子 , 井上 聡
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 核内受容体はステロイドホルモンやレチノイン酸などの脂溶性低分子の刺激により,リガンド依存性にその標的遺伝子の転写を制御する転写因子蛋白質である。ヒトでは48種類が同定されており,基本構造の類似性から,共通の祖先遺伝子から進化を遂げて発展した核内受容体スーパーファミリーに属している。核内受容体によるシグナル伝達では,①リガンド分子が細胞内へ取り込まれ,核内の受容体蛋白質のリガンド結合ドメイン(ligand binding domain;LBD)に結合し,②次いで受容体蛋白質のDNA結合ドメイン(DNA binding domain;DBD)が標的となる遺伝子の転写調節領域における受容体応答配列に結合し,③更に受容体蛋白質の転写活性化ドメイン(AF-1とAF-2)が共役する因子や基本転写因子群と相互作用を起こし,標的遺伝子の転写制御を行う(図)。

 核内受容体のうち,ステロイドホルモン受容体サブファミリーはホモ二量体を形成し,多くの受容体はレチノイドX受容体RXR(retinoid X receptor)とヘテロ二量体を形成し,一部は一量体のまま,DNA上の各受容体特異的な応答配列に結合する。ステロイドホルモン受容体のうち,エストロゲン受容体は独自の回文型応答配列に,それ以外の受容体については共通の回文型応答配列に結合して転写活性化を起こす。RXRとヘテロ二量体を形成する受容体サブファミリーには,レチノイン酸受容体(retinoic acid receptor;RAR),甲状腺ホルモン受容体,ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(peroxisome proliferator-activated receptor;PPAR)やビタミンD受容体(vitamin D receptor;VDR),肝X受容体(liver X receptor;LXR),ファルネソイド受容体(farnesoid X receptor;FXR)などがあり,ハーフサイトが同方向に並ぶ直列型応答配列に結合する。内因性リガンドが明らかでない核内受容体はオーファン受容体と呼ばれる。

 核内受容体は性分化や発生・再生,代謝生理的作用のみならず,癌や内分泌・代謝疾患などの病態においても重要な病理的作用をもたらしており,標的遺伝子と共に疾患における創薬の標的分子になっている。

γ-セクレターゼ 富田 泰輔 , 岩坪 威
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 γ-セクレターゼは,アルツハイマー病の原因物質アミロイドβタンパク質(amyloid-β protein;Aβ)を産生するプロテアーゼである。プレセニリン(presenilin;PS)を酵素サブユニットとし,ニカストリン,Aph-1,Pen-2を構成因子とする膜タンパク質複合体がその分子実体である(図)。脂質二重膜内に存在する膜貫通領域を基質とし,まず細胞膜-細胞質境界部分においてエンドペプチダーゼ様活性によって切断した後,残された膜貫通領域をカルボキシ末端側から3ないし4アミノ酸ごとにカルボキシペプチダーゼ様活性によって切断し,最終的に基質のアミノ末端側が細胞外へと放出される1)

 PSをコードするPSEN遺伝子上に家族性アルツハイマー病患者に連鎖する遺伝子変異が多数見いだされており,カルボキシペプチダーゼ様活性の低下により,カルボキシ末端長が長く凝集性の高いAβ42の産生比率を上昇させる。また,γ-セクレターゼ活性を完全に喪失した場合には,発生・分化にかかわるNotchシグナルの抑制が認められる。これは転写因子として機能するNotchの細胞質内領域の産生にエンドペプチダーゼ様活性が必要とされるためである。更にNotch以外にも多くの基質が知られている。そのためアルツハイマー病治療薬開発においては,カルボキシペプチダーゼ様活性を亢進させることで凝集性の低いAβ産生へとシフトさせることが求められている。

Ⅱ.機能からみたシグナル操作法 1.遺伝子・ゲノム

DNA複製 神野 茂樹
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 細胞がG1期チェック機構を越えるとDNA複製期に入る(図)。DNA複製は複製起点から開始される。真核生物の染色体上には複製起点が多数存在するが,すべて細胞周期1回当たり一度しか複製は開始しない。複製開始に先立ち複製前複合体(pre-replicative complex;pre-RC)が形成される。まず,DNA上の複製起点上に結合したORC(origin recognition complex)複合体にATP分解活性を持つCdc6が結合,続いてCdt1が結合する。これにより,ORCにMcm2から7より成るMCM(minichromosome maintenance)複合体がロードされる。Cdc6およびCdt1はORCよりはずれ,その後は次の細胞周期のG1期までORC複合体に結合することはない1)。このため,この複製起点でのpre-RC形成がS期での複製の出発点となるが,一度pre-RCが形成された場所からは次の細胞周期まで二度と複製は起こらない(ライセンシング)。なお,MCM複合体はヘリカーゼ活性(二重らせんをほどく活性)を持つ。役目を終えたCdc6はリン酸化されて核外へ(異説あり),またCdt1も分解される。

 サイクリン依存性キナーゼCdk2とDbf4依存性キナーゼCdc6がpre-RCをリン酸化すると複製起点が活性化する。この結果,複製起点周辺で二重らせんがほどけ,2本の一本鎖DNAとなりプライマーが合成され伸長が始まる。DNAポリメラーゼを含む複合体である複製装置が結合し,プライマーの3’末端に相補的なデオキシヌクレオチドを付加させる。DNAポリメラーゼは親鎖の一本鎖DNA上を移動しながら相補的な塩基を付加し,娘鎖を伸長させる。同時に未複製部の二重らせんがほどかれて複製が進行する。ポリメラーゼを親鎖から離れないようにつなぎ止める役目を担うのは,クランプタンパク質PCNA(proliferating cell nuclear antigen)である2)

 DNA二重らせんは反平行であり,複製は5’から3’の方向にのみ進むため二本の鎖でその複製方向は逆である。一方はそのまま進んでいく(リーディング鎖)が,もう一方は短い単位で不連続に複製することになり(ラギング鎖),この断片(岡崎フラグメント)をつなぎ合わせる必要がある。なお,プライマー合成(α)とリーディング鎖複製(δ),ラギング鎖複製(ε)と3種のDNAポリメラーゼが利用される。

 複製中の細胞にDNA損傷を与えると,最終的にCdk2活性が阻害され複製が停止する。このことをS期チェックポイント機構という。損傷が修復されると複製は再開される。こうしたチェック機構の存在により,細胞は自分と同じコピーを増やしていくことができる。

 真核生物においてDNAは線状であり,複製は5’から3’の方向へしか進まないため複製ごとに末端が削られていく。この末端部分をテロメアといい,その短縮が細胞分裂回数に限界がある理由の一つとなる。これは,癌細胞や生殖細胞など特殊な環境以外,元の長さに戻ることはない。

DNA修復 石合 正道 , 高田 穣
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 ゲノムDNAは,放射線,紫外線などの外的要因のみならず,呼吸,代謝などの内的要因により絶えず損傷を受けている。ゲノムDNA損傷はDNA複製や遺伝子の転写を阻害するだけでなく,正しく修復されない場合には,突然変異,あるいはより広範なゲノム再編成を引き起こし,細胞老化,がんなどの疾患の原因となる。ヒトでは一細胞当り1日1万個のDNA損傷を受けるとの報告があり1),人体は60兆個の細胞から構成されることを併せて考えると,ゲノム損傷に対するDNA修復機構の重要性は明らかであろう。実際,ATR,CHK1,RAD51など,遺伝子のノックアウトが致死となるDNA損傷応答・DNA修復分子は数多い。

 生体はDNA損傷を検出し,その存在を細胞内へ信号(シグナル)として伝達し,DNA修復,細胞周期停止,アポトーシス(細胞死)などの生体反応を誘導する。DNA損傷は多様であり,その違いに対応した複数の個別のDNA修復経路が存在する。本稿では,重篤なDNA損傷であるDNA二重鎖切断(DNA double-strand break;DSB)に対する修復を中心に紹介する。DSBは放射線照射により生じるだけでなく,DNAクロスリンク(interstrand crosslink;ICL)損傷の修復中間体などにも誘導される。

 DSB修復は,非相同末端結合(non-homologous end joining;NHEJ)と相同組換え(homologous recombination;HR)の二つの主要な経路で修復される。NHEJ経路はDNA末端同士を連結する反応であり,DNA末端の配列を失うことが多いため,遺伝情報のエラーを伴うことが多い。NHEJ経路は,ヒトを含む脊椎動物では主要なDSB修復経路であり,細胞周期のいずれの時期でも起こる。加えて,免疫細胞の抗原レセプターの多様性を生み出す機構で重要な役割を担っており,事実,一部の先天性免疫不全症はNHEJ経路分子の変異が原因である。一方,HRは切断部分と同じ配列を持った鋳型DNAから遺伝情報をコピーして修復するため,エラーがない。HRは細胞周期のS期,G2期に起こる。HR経路分子の変異は,家族性乳がんや卵巣がんを初めとするがんの原因となるほか,ファンコニ貧血症などの遺伝性疾患の原因遺伝子として同定されている。

転写 木村 宏
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 遺伝子発現制御において,転写はその出発点として非常に重要な役割を果たしている。当然のことながら,転写が行われないとRNAは存在せず,そのコードするタンパク質も合成されない。RNAのプロセシングや分解などによる制御などにより,必ずしも転写量がそのままRNAの存在量を反映しない場合もあるが,一般に転写量とRNA存在量の相関は高い。真核細胞では,転写は四つのDNA依存性RNAポリメラーゼにより行われる。そのうちの三つ(RNAポリメラーゼⅠ,RNAポリメラーゼⅡ,RNAポリメラーゼⅢ)が細胞核ゲノムの転写を,一つ(mtRNAポリメラーゼ)がミトコンドリアゲノムの転写を担っている。RNAポリメラーゼⅠは,核小体に局在しリボゾーム遺伝子の転写を行う。RNAポリメラーゼⅡは,核質に局在しタンパク質コード遺伝子や非コードRNA,一部の低分子核内RNA(snRNA)などの転写を行う。RNAポリメラーゼⅢは,tRNA,5S rRNA,一部のsnRNAなど比較的短いRNAの転写を行う。

 個々の遺伝子の転写は,制御領域への転写因子の結合や遺伝子近傍のクロマチン構造に加えて,クロマチン間相互作用や細胞核内構造体との相互作用などの高次構造によっても制御される。

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 スプライシングでは,転写されたRNAにU snRNP(ウリジンに富む核内分子RNAの蛋白質複合体)が順次結合することにより巨大な複合体(スプライソソーム)が形成され,イントロンが除去されエクソン同士が連結される基本的なスプライシング過程が行われる。このスプライソソームを制御するRNA結合蛋白質因子として,SR(セリン・アルギニンに富むドメインを持つ)蛋白質やhnRNP(ヘテロ核リボヌクレオチド蛋白質)などがあり,ほかに様々な蛋白質が次々に明らかになっている。また,スプライシングを操作して変化させるスプライシング操作化合物も,スクリーニング法の進化と共に効果の強いものが見つかってきている。

 一方,化合物で特定のエクソンのスプライシングだけを特異的に操作することの難易度は高い。スプライシング反応は様々な制御配列によって複雑な制御を受けており,また,制御蛋白質が細胞や組織によって異なるためである。この難題を打開するために,ハイスループットシークエンサーなどを用いて様々な種類の細胞において化合物が作用するエクソンを網羅的に同定し,化合物ごとのスプライシング操作ルールを解明する研究が必要不可欠である。化合物によるスプライシング操作ルールの解明は,細胞におけるスプライシング制御の解明に寄与するだけでなく,スプライシング異常に起因する疾患の治療薬の開発へとつなげることができる。

RNA分解 秋光 信佳
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 RNA分解機構はRNAの量的調節ならびに異常RNAの生理的分解(RNA品質管理と呼ぶ)を担う重要な生化学反応である。RNA分解機構は,5'側からの分解(5'-exonuclease),RNA内部配列の切断(endonuclease),3'側からの分解(3'-exonuclease)に大きく分けられる(図)。5'側からのRNA分解には,decapping enzymeによる5'キャップの除去,3'側からのRNA分解にはdeadenylaseによるポリAテールの除去も含まれる。これらRNA分解の速度は,細胞内外からの様々な刺激に応答して変化する。例えば,免疫反応においてサイトカイン類やケモカイン類をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)が安定化することが知られている1)。このようなmRNAの安定化(RNA分解の抑制)は,短時間でmRNA量を増量することに役立っており,刺激に応じた遺伝子発現量の制御において重要な役割を担っている。RNA分解の制御においては,分解速度を規定するRNA配列(シスエレメントと呼ぶ)とシスエレメントに結合するRNA結合タンパク質(トランスエレメントと呼ぶ)が中心的な役割を果たしている。インターロイキン2やtumor necrosis factorなどのサイトカイン類やケモカイン類をコードするmRNAの3'非翻訳領域にはAUUUA配列を特徴とする“AU rich element”と呼ばれるシスエレメントが存在し,このAU rich elementに様々なRNA結合タンパク質(AUBP;AU rich element binding protein)が結合して,該当mRNAの分解速度を制御している。トランスエレメントであるAUBPの中には,特定のヌクレアーゼと相互作用することを通じて該当mRNAにヌクレアーゼを導入し,mRNA分解を促進する。一方,これとは逆にヌクレアーゼがmRNAに結合することを阻害するAUBPも存在する。例えば,AUBPの一つであるHuRは,MK2によるリン酸化制御を受けて標的mRNAを安定化する。また,mRNA分解速度はマイクロRNAによる制御も受けている。このように高度に制御されるmRNA分解機構が破綻した場合,タンパク質の発現量の異常を引き起こして自己免疫疾患やがんなどの原因となることが知られている。

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 エピジェネティック調節とはクロマチン構造の制御を介して遺伝子発現を調節する機構のことである。代表例として,DNAメチル化とヒストン修飾があるが,ヒストン修飾については次項を参照されたい。この項で扱うDNAメチル化は,CG配列内のシトシン(C)の六員環の5位の炭素原子にメチル基を付加し,5-メチルシトシン(5mC)を生成する反応を指す(図)。この修飾を新規に導入する酵素がDNMT3AおよびDNMT3Bで,発生過程で細胞系譜特異的なメチル化パターンを構築する1)。いったん構築されたメチル化パターンは,DNMT1とその補助因子UHRF1が維持する。DNA脱メチル化は,TETタンパク質による5mCの酸化によって生成される5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)(図)が,DNA複製の際にDNMT1/UHRF1複合体によって維持されず受動的に起こるか,塩基除去修復機構によって能動的に除かれることによって起こる。一般的に,遺伝子のプロモーター領域のメチル化は転写因子の結合を阻害したり,メチル化DNA結合ドメイン(methyl-CpG-binding domain;MBD)を持つタンパク質複合体に認識されることによって,転写抑制的な状態を作り出し,エクソン領域のメチル化は,転写が活発な遺伝子で認められる(図)。

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 ヒストンは真核生物のクロマチンを構成する主要な因子である。ヒストンには主にH2A,H2B,H3,H4のコアヒストンおよびリンカーヒストンが存在し,コアヒストンはそれぞれ二分子から成る八量体を形成する。真核生物のゲノムDNAはこのヒストン八量体におよそ1.7回転,約146塩基にわたり巻き付きヌクレオソームを形成する。ヌクレオソーム同士は更に折り重なりクロマチンとなり,ゲノムの高次構造を形作る。

 ヌクレオソーム内のヒストンはN末端がヌクレオソームから突出した構造をとっており,様々な翻訳後修飾を受ける。修飾を受けたヒストンは,直接あるいは他の分子をリクルートすることによりゲノム機能を調節する。例えば,ヒストンH3のN末端から4番目のリジン(H3K4)のメチル化は遺伝子の転写を活性化し,反対に9番目のリジン(H3K9)のメチル化は転写を抑制する。また,10番目のセリン(H3S10)のリン酸化は細胞分裂時のクロマチンに蓄積する。このようにヒストン修飾は,修飾されるヒストン残基あるいは修飾基の種類に従い固有のゲノム機能を発揮する。

 ヒストン修飾は可逆的であり,ヒストンに修飾基を書き込む修飾酵素(writer),修飾基を外す脱修飾酵素(eraser),および修飾されたヒストンを特異的に読み取るヒストンリーダー(reader)により機能制御される1)(図)。また,ヒストン修飾は修飾に用いられる基質や補因子の供給量に依存するため,細胞の栄養あるいは代謝環境によっても変動する2)

マイクロRNA 余越 萌 , 河原 行郎
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 マイクロRNAは20塩基前後の小分子RNAの一種である。ウイルスから植物,動物まで幅広く存在しており,ヒトでは約2,000種類同定されている。様々な疾患に関与しており,診断や治療の標的としても注目されている。

 マイクロRNAは,生成後に細胞質にあるArgonaute(Ago)タンパク質を中心としたRNA-induced silencing complex(RISC)へと取り込まれ,標的mRNAの3'非翻訳領域(untranslated region;UTR)へと結合する。この際マイクロRNAは,シード配列と呼ばれる5'側の7-8塩基と相補なmRNAに結合し(図),mRNAを直接分解したり翻訳を抑制する。このため,mRNAレベルよりもタンパク質レベルでの発現変動を評価したほうが標的mRNAを見逃すリスクを低減できる。また,一つのマイクロRNAが100近いmRNAを標的とすることもあり,標的の同定には多角的なアプローチが必要である。

 一般にマイクロRNAの機能はfine-tuningと称され,標的の発現量を何倍も変えるほどの効果はない。このため,その機能評価は慎重に行う必要があり,効果を増強するため,マイクロRNA結合部位を複数挿入してレポーターアッセイを行うこともある。一方,マイクロRNAと相補なRNAを合成して細胞内で結合させ,その機能を阻害したり動態を観察することもできる。

Ⅱ.機能からみたシグナル操作法 2.タンパク質の一生

タンパク質合成 服部 成介
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 タンパク質合成は,ヘムやアミノ酸欠乏条件,熱ショックや小胞体ストレス,ウイルス感染などの様々な細胞内ストレスに応答して抑制される。その制御機構として,リボソームに開始メチオニル-tRNAをGTP依存性に結合する因子eukaryotic initiation factor 2α(eIF2α)のリン酸化が知られている1)。eIF2αは,様々なストレス刺激により51番目のセリン残基がリン酸化され,リン酸化されたeIF2αはGDPに強く結合することで不活性化状態となる。タンパク質合成にはまた,細胞外の富栄養条件や成長因子刺激により促進される。翻訳制御にかかわるリボソーム40Sサブユニットの構成因子であるS6,mRNAの5'端Cap構造に結合し,翻訳開始に必須であるeIF4Bの抑制性結合因子4EBP1(eIF4B binding protein 1)のリン酸化による活性促進的な制御が知られている2-5)

 S6のリン酸化は,5'端にピリミジンに富む配列を有するmRNAの翻訳を促進するが,これらのmRNAから翻訳される因子には,リボソーム構成因子やタンパク質合成伸長反応に関与するEF-1,EF-2などの伸長因子などが存在するため,リボソーム生合成とタンパク質合成が促進される。eIF4Bは,4EBP1と結合していると不活性状態であるが,4EBP1がリン酸化されるとeIF4Eから解離し,タンパク質合成が開始する(図)。細菌のタンパク質合成阻害薬は様々な抗生物質として,医薬品として用いられているが,真核細胞を対象とした阻害薬は研究室レベルでは実験に用いられるが,臨床では使用されない。

小胞輸送 大林 典彦 , 金保 安則
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 真核細胞内には,脂質二重膜によって包まれたオルガネラ(細胞内小器官)が存在している。オルガネラには,小胞体,ゴルジ体,エンドソーム,リソソームを初めとして様々な小器官が存在し,オルガネラ間同士のみならずエンドサイトーシス・エキソサイトーシスにより細胞膜とも緊密に連絡し合っている。これを可能にしているメカニズムが小胞輸送であり,オルガネラの膜の分裂や融合により,小胞を介した物質輸送を制御している(図)。小胞輸送機構の発見は2013年のノーベル生理学・医学賞受賞にもつながっている1)

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 エクソサイトーシスとは,通常,分泌小胞の膜が細胞膜に融合することにより,小胞の内容物が細胞外に放出される現象(開口放出)を指す。一方で,細胞外分泌は行わないが,小胞膜が細胞膜に融合する点は同様である非分泌型のエクソサイトーシスが多くの組織に存在し,この二つは共通の膜融合機構を持つ現象として研究されている。

 最も詳細に分子機構がわかっているのはシナプス小胞のエクソサイトーシスであり,ドッキング,プライミング,膜融合の三つの過程から成る1)。ドッキングは小胞が細胞膜につなぎとめられるステップで,Munc18-1などのSM蛋白質,RIM,Munc13がここで働く。プライミングは小胞が膜融合する能力を獲得するステップで電気生理学的に確認できる。プライミング因子としてCAPSやcomplexinがある。膜と膜を融合させるのがSNARE複合体(soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor complex,小胞上のv-SNAREと細胞膜にあるt-SNAREの複合体)である。シナプス小胞のエクソサイトーシスでは,v-SNAREとしてVAMP2,t-SNAREとしてシンタキシン1とSNAP25が働く。この三分子それぞれが持つSNAREモチーフ(約60アミノ酸のコイルドコイル構造)が会合して複合体を形成する(図)。VAMP2とシンタキシン1は一つ,SNAP25は二つのSNAREモチーフを持ち,合わせて四つのSNAREモチーフが相互作用し捩れて,その力で小胞膜とターゲット膜を融合させる。In vitro再構成系では,生理的濃度より高いSNARE複合体だけで膜融合が起こるが,in vivoではSM蛋白質がないと膜融合は起こらない。SM蛋白質はSNARE複合体のへリックス束を会合した形で保持して触媒的にエクソサイトーシスを促進する。ほかにカルシウムセンサーであるシナプトタグミンなどのC2ドメインを持つ分子が膜融合に必要である。現在のモデルでは,Ca2+濃度上昇によりcomplexinがSNARE複合体から解離し,代わってシナプトタグミンが複合体に入ることで膜融合が起こると考えられている。

 ドッキングの前のステップとして繋留を考えて,そこに焦点を当てた研究も多い。繋留の主役はエクソシスト複合体などの繋留因子であり,RabなどのG蛋白質と結合して働く。

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 細胞は細胞膜を通して細胞外からの物質の取り込みを行うため,エンドサイトーシスと呼ばれる小胞輸送システムを備えている。エンドサイトーシスとは細胞膜を内側に陥入させて小胞を形成することにより,細胞内へと物質を取り込む現象の総称で,外来物質の取り込みのみならず,細胞膜に存在する構成要素の分解(品質管理)やシナプス小胞のリサイクリングなど,様々な生理現象に重要な役割を果たしている。このため,エンドサイトーシスの破綻は様々なヒトの疾患や病態とも密接に関連している。また,エンドサイトーシスはウイルスや細菌の侵入経路としても利用されているため,エンドサイトーシス機構はこれらの病原体に対する創薬の標的としても注目されている。

 エンドサイトーシスは取り込む物質の種類や大きさ,分子機構の違いにより,クラスリン依存性エンドサイトーシス(clathrin-mediated endocytosis;CME),カベオラ依存性エンドサイトーシス,フロチリン依存性エンドサイトーシス,マクロピノサイトーシス,ファゴサイトーシスなどのタイプに分類されている(図)。これらのエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれた物質(小胞)は,最終的にライソゾームと融合することにより分解されるか,エクソサイトーシスにより細胞膜と融合することで細胞膜へと再び運ばれる(他の項参照)。本稿では最も解析が進んでいるCMEを例に挙げ,その仕組みとアッセイ法について概説する。

 CMEの過程は次の五つのステップにより構成されている。①バードメインを含むタンパク質による核形成,②アダプタータンパク質による積み荷タンパク質の選別,③クラスリンの重合による被覆の形成,④ダイナミンによる被覆小胞の切断,そして⑤クラスリンの脱重合により完結する。これらのステップには様々な因子(タンパク質・脂質)が協調的に作用しており,そのダイナミクスはタンパク質のリン酸化・脱リン酸化,イノシトールリン脂質代謝,GTP加水分解反応などにより時空間的に厳密に制御されている。

核─細胞質間輸送 盛山 哲嗣 , 岡 正啓
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 真核生物の細胞には,遺伝情報の保存・伝達を行う細胞内小器官である細胞核(核)が,ほぼすべての細胞に存在する。核は,核膜と呼ばれる二重の脂質膜で覆われており,核膜上にある孔(核膜孔)を通して転写因子やRNAなどの様々な機能分子が核と細胞質の間を行き来している。核輸送因子として,アダプター因子であるimportin αファミリー(ヒトで7種類)と,輸送担体であるimportin βファミリー(ヒトで21種類)が同定されている。Importinファミリーは,核内外の低分子量Gタンパク質RanのGTP型(RanGTP)の濃度のグラジェントによって輸送の方向性を制御され,それぞれが基質特異性を持ち,かつ組織特異的に発現することで,何千種類もの積み荷に対して組織・発生時期に応じた輸送制御を行っている(図)。核─細胞質間輸送は,細胞分化や器官発生,がん,ウイルス感染など様々な生体現象に関与していることから,それぞれの積み荷の輸送メカニズムを知ることは,輸送をターゲットとした医療や創薬に結びつく。本稿では,核─細胞質間輸送機構を解析する手法について幾つか紹介する。

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 新しく合成されたタンパク質はフォールディングを経て,それぞれのタンパク質特有の立体構造を形成する。しかし,種々の環境変化や遺伝的変異により立体構造に異常が生じ,変性タンパク質が細胞内に蓄積すると細胞に不都合なため,細胞内には,変性タンパク質を検知し,修復もしくは分解する“タンパク質品質管理機構”が存在する(図)。この品質管理機構の主要な因子として分子シャペロンがあるが,分子シャペロンは未成熟のタンパク質,もしくは変性タンパク質の疎水性部位を認識して結合し,フォールディングや安定化を促進する。一方,変性タンパク質の分解経路としては,ユビキチン-プロテアソーム経路,もしくはリソソームやオートファジー経路が知られている1)

 分子シャペロンにはストレスタンパク質に属するHsp70/DnaK,Hsp90,Hsp60(CCT/GroEL)などが知られており,シャペロン補助因子やシャペロン調節因子も含めると膨大な数となる。タンパク質は細胞内のあらゆる場所にあるため,必然的にタンパク質の品質管理機構も細胞内のあらゆる場所,あらゆる場面で働く必要がある。細胞質同様にオルガネラにも独自の分子シャペロンが存在する。小胞体のHsp70としてBiP/Grp78,Hsp90としてGrp94,また,ミトコンドリアのHsp70としてmtHsp70/Grp75などが知られている。これらのストレスタンパク質の多くは,種々のストレス下で転写レベルでの誘導が起こりタンパク質の品質管理に貢献する。

 本稿では,特にタンパク質品質管理機構について研究が進んでいる細胞質と小胞体に注目し,細胞質のHsp70と小胞体のBiPについてふれたい(分解系については他の項を参照)。

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 小胞体ストレスとは,細胞が種々の刺激を受けることで小胞体内に折りたたみ異常タンパク質が蓄積していく現象のことである。小胞体ストレスは,アルツハイマー病を初めとした神経変性疾患や糖尿病,慢性炎症疾患,がんなど,多岐にわたる疾病の一因となることが報告され,小胞体ストレスの制御が治療ターゲットとして注目されている。細胞が小胞体ストレス状態を感知してそれに対処するために発信するシグナル応答は,小胞体ストレス応答あるいはunfolded protein response(UPR)と呼ばれ,積極的に小胞体内から異常タンパク質を排除しようとする。UPRの発動によってもストレス状態を回避できない場合,細胞は最終的にアポトーシスを引き起こし,死に至る。

 UPRを発動するのは小胞体ストレスセンサーと呼ばれるIRE1,PERK,ATF6という3種類の小胞体膜貫通型タンパク質である。これら三つのセンサーは小胞体内腔の状態を常にモニターしており,小胞体ストレス状態になると活性化し,続いてそれぞれの下流分子を活性化する。IRE1,PERK,ATF6はユビキタスに発現しているが,組織特異的に発現する小胞体ストレスセンサーとしてOASISファミリーがある。近年,小胞体ストレス応答は単に異常タンパク質の排除システムとして機能するだけでなく,細胞や組織の分化・成熟にも寄与していることが明らかになってきた。

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 ユビキチン-プロテアソーム系はエネルギー依存性タンパク質分解系であり,ユビキチン修飾系とプロテアソームの二つから構成されている。ユビキチン修飾系は分解されるべきタンパク質にユビキチンを結合させる。プロテアソームはユビキチンを認識し,結合したタンパク質を分解し,ユビキチンをタンパク質から除去する。発見の経緯もあり,ユビキチン修飾を受けたタンパク質は分解されると考えられてきた。しかし近年,細胞内には多様なユビキチンの修飾様式が存在しており,ユビキチン修飾されたタンパク質は必ずしも分解に導かれるのではないことが明確になるなど,ユビキチン-プロテアソーム系の研究は新時代を迎えている。

 ユビキチンは76アミノ酸から成る小球状のタンパク質性の翻訳後修飾因子である。ユビキチン修飾系はE1,E2,E3の3種の酵素群の働きでE3,ユビキチンリガーゼが選択的に認識する標的タンパク質にユビキチンを結合させる。多くの場合は,タンパク質に結合したユビキチンに次々とユビキチンが結合してポリユビキチン鎖が形成される。現在ではユビキチン間に8種類の結合様式があり(ユビキチンの7個のリジン残基とN末端のメチオニンを介する),ユビキチンの修飾様式によってタンパク質の制御様式が異なることが知られている。リジン(K)48,K11を介して形成されるユビキチン鎖がプロテアソームの識別シグナルとして機能することが明らかになっているが,K63鎖やN末のメチオニン1を介した直鎖状ユビキチン鎖はタンパク質を分解に導かず,シグナル伝達などに関与する(図)1)。また,近年,翻訳後修飾因子であるユビキチン自身がリン酸化,アセチル化されることも知られている。

 ユビキチン化タンパク質を分解する26Sプロテアソームはタンパク質分解酵素活性を有する20Sプロテアソームと19S調節サブユニット(regulatory particle;RP)から構成される。19SRPはユビキチン化タンパク質を認識,アンフォールドし,タンパク質分解酵素の活性中心がある20Sプロテアソームの内腔に送り込む機能,分解されるべきタンパク質からユビキチンを切断する機能を有している1)

ライソゾーム分解系 小池 正人
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 ライソゾーム(リソソーム)は真核生物に共通の細胞内小器官で,pH 5.0-5.5の酸性環境下にあることが特徴である。ライソゾームは細胞内外の不要な物質,細胞内小器官をエンドサイトーシス,オートファジーなどを介して取り込み,内包された成分を加水分解する装置である(図)。そのため,ライソゾーム内には様々な各種加水分解酵素(プロテアーゼ,スルファターゼ,リパーゼ,ホスホリパーゼ,グルコシダーゼ,ヌクレアーゼ,ホスファターゼと総称される)が存在する。興味深いことは,タンパク質を分解するためのプロテアーゼだけでも20種類以上存在することである。このように,多数存在する理由の一つは組織細胞特異的な発現であるが,カテプシンB,D,Lなどのプロテアーゼは組織細胞を問わず存在している。これまでに,ほとんどのライソゾームプロテアーゼに関する遺伝子欠損マウスが作製・解析されたが,早期に死亡するのはカテプシンD欠損マウスのみであった。そのためカテプシンDはin vivoで必須な役割を持ち,その他のプロテアーゼは互いに機能を相補していることが推察される。カテプシンDは特に神経系で重要であり,ヒトにおいても神経性セロイドリポフスチン蓄積症の原因遺伝子の一つである1)

SUMO化 魚住 直毅 , 斉藤 寿仁
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 SUMO(small ubiquitin-related(like)modifier)は酵母からヒトに至る真核生物種の間で高度に保存されている約100アミノ酸残基のタンパク質である。SUMOは細胞内でプロセッシングを受けることでC末端にグリシン(G)残基を突出させ,この末端のG残基がATPとSUMO-E1,-E2酵素により活性化されて,別のタンパク質のリジン(K)残基側鎖のεアミノ基にイソペプチド結合する。SUMO化と呼ばれるこの反応により,SUMOと別のタンパク質が架橋した融合タンパク質が生成される(図A)。基質特異性と反応効率の制御にSUMO-E3因子が関与する場合もあるが,E3を必要としない場合もある。状況によっては基質タンパク質がポリSUMO化されることもある。哺乳類の培養細胞を用いたプロテオミクス解析からは,約1,500種のタンパク質がSUMO化基質として同定されている。SUMO化基質には,核やクロマチンを構成するタンパク質が多い。

 SUMO化やポリSUMO化されたタンパク質の解析から,(V/I/L)KxEのアミノ酸配列中のK残基がSUMO化されやすいことがわかっている。また,SUMOと相互作用するタンパク質のアミノ酸配列の比較から,SUMOと親和性の高いSIM(SUMO-interacting motif)配列の存在が推定されている。SIM配列にはバリエーションがあるものの,タンパク質のβ構造中に(V/I/L/F/Y)(V/I)DLTといった配列があるとSIMとして機能する可能性が高いとされている。SUMO化されたタンパク質とSIM配列を有するタンパク質の間では,SUMO-SIM相互作用によりタンパク質相互作用ネットワークが形成される。また,SUMO化やポリSUMO化がタンパク質複合体を分散させたり,タンパク質とDNAの相互作用を変化させたり,他の翻訳後修飾(リン酸化やユビキチン化)との連携や協調関係に影響を及ぼすことも報告されている(図B)。

 一方,SUMO化やポリSUMO化されたタンパク質は,脱SUMO化酵素SENP(SUMO-specific protease)などにより,未修飾状態に変換される。SUMO化は細胞内で動的に制御される翻訳後修飾である。

カルパイン 反町 洋之
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 カルパイン(calpain,CAPN)はCa2+によって活性化されるシステインプロテアーゼの総称で,ほとんどの真核生物と一部の原核生物に存在し,スーパーファミリーを形成する。哺乳類では十数種の遺伝子にコードされ(図),各遺伝子の欠損などにより,胎生致死を初め様々な病態を引き起こすため,生体制御に必須な機能を果たすことが明らかとなっている。更に,病態解析が進んでいる筋ジストロフィーなどでは,創薬の標的ともなっている。

 カルパインはプロテアーゼでありながら,基質蛋白質をバラバラに分解するのではなく,ごく一部のペプチド結合を切断する“限定分解”により,基質機能・構造を変換するモジュレータ(調節・変換)プロテアーゼである。例えば,阻害ドメインを同一分子内に持つために不活性状態で維持されている酵素(プロテインキナーゼCなど)について,その部分を切断することで活性化する。また,不安定化モチーフの切除により安定化し(またはその逆),基質蛋白質の寿命を調節する。あるいは,細胞骨格系蛋白質を限定切断することで,細胞骨格構造を変化させ,形態や移動能を調節する。その機能は補助的な場合も多いが,その分,非常に広範な生命現象に関与するため,カルパイン不全による病態は,前述以外にも,ストレス性胃出血,2型糖尿病,筋肥大,好塩基球性食道炎,硝子体網膜症など多岐にわたる。

 カルパインはCa2+により活性化されるが,ほかにも足場蛋白質や細胞内膜系,リン脂質,局在変化などにより複雑かつ厳密に制御されている。ある生命現象に,カルパイン分子種のいずれかが関与すると考えられる場合は,生化学的手法であたりをつけてから,各カルパインのノックアウトマウスあるいはその初代培養細胞を用いて確認するのがよいと思われる。

オートファジー 斉藤 哲也 , 小松 雅明
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 オートファジーは,細胞質に出現した隔離膜が細胞質成分を取り囲みオートファゴソームが形成される過程と,オートファゴソームがリソソームと融合し細胞質成分が加水分解酵素により分解される二つの連続した過程から成る(図A)。オートファゴソーム形成は一連のオートファジー関連遺伝子(autophagy-related genes;Atgs)産物により厳密に制御されている。この分解経路は栄養飢餓により著しく誘導され,アミノ酸プールの維持を担うことにより栄養飢餓時に必要なタンパク質の合成やエネルギー供給に寄与する。また,機能消失したミトコンドリアなどの細胞毒性を発揮する構造体が細胞内に出現した場合,オートファジーはそれらを選択的,積極的に排除し,細胞の恒常性維持を担う。

Ⅱ.機能からみたシグナル操作法 3.細胞の動態

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 アクチン細胞骨格は,球状の単量体アクチン(Gアクチン)が重合したアクチン線維(Fアクチン)によって構成されており,細胞の形態制御や分裂など,様々な細胞現象で中心的な役割を果たす。細胞内ではアクチン細胞骨格は速やかに崩壊・再編成されるダイナミックな構造体であり,アクチンの再編成は,細胞外刺激に応答するシグナル伝達経路の主要なアウトプットの一つである。例えば,Gタンパク質共役型受容体,増殖因子受容体,セマフォリン受容体プレキシンが刺激されると,Rhoファミリー低分子量Gタンパク質などを介して下流でアクチン再編成が引き起こされる。

 更に,アクチン細胞骨格そのものが,シグナル伝達を仲介する仕組みがある。Gアクチン量の減少は,転写調節因子MRTF(myocardin-related transcription factor)を介して核内に伝わり,転写因子SRF(serum response factor)を活性化する1)。また,アクチン線維がメカノセンサーとして働く可能性がin vitroでの解析を中心に解明されつつある2)。すなわち,Fアクチンに“力”がかかることがFアクチンの立体構造変化をもたらし,調節分子の親和性に影響を与えると想定されている。本稿では,アクチンまたは調節分子の動態を操作する方法(作用薬物,分子操作)と,捉える方法(活性評価法,イメージング)について概説する。

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 微小管は2種類のチューブリン分子(αとβ)が重合して形成される直径25nmの中空のフィラメントである(図)。他の細胞骨格と同様,微小管はほぼすべての真核細胞に存在する。その機能は多岐に及び,例えば,中心体から放射状に広がる微小管はモータータンパク質(kinesinとdynein)のレールとして細胞内輸送に寄与している。また,細胞分裂の際には紡錘体を形成し,染色体分配で中心的な働きをする。また,鞭毛や繊毛では主要な構成要素として細胞遊泳運動にかかわる。更に,他の細胞骨格と共に細胞の形態維持や運動にも関与する。

 微小管が前述のように多様な働きができるのは,必要に応じてフィラメント構造を形成したり(重合),壊れたり(脱重合),という柔軟性を持っているからである。この重合・脱重合は,チューブリンに結合するヌクレオチド(GDPまたはGTP)状態に依存すると考えられている。すなわち,チューブリンがGTP結合型ではフィラメント構造が安定化し重合する方向に,加水分解が起こりGDP結合型になると脱重合する方向に反応が進む。また,様々な種類の微小管結合タンパク質(microtubule-associated proteins;MAPs)によっても重合・脱重合が制御されている。

 微小管の機能の多様性は,チューブリンが持つ多数のアイソフォームの存在が関係している。まず,α,βそれぞれのサブユニットに対して複数の遺伝子(isotype)があり,更にアセチル化,脱チロシン化,ポリグルタミル化などの多様な翻訳後修飾を受ける。これらのisotypeと翻訳後修飾によって,微小管は細胞内で多様な働きを行うことができると考えられる。

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 インテグリンは,1回細胞膜貫通蛋白質のαとβサブユニットから成るヘテロ二量体である。ヒトではαサブユニットは18種類,βサブユニットは8種類が知られ,その組み合わせにより24種類のインテグリンが同定されている。各インテグリンは,そのリガンド選択性によって特異的な細胞外マトリックス,蛋白質や他の細胞と直接結合する。

 インテグリンはダイナミックな構造変化を伴い活性化する(図1)1)。不活性化状態(bent form)ではαとβサブユニットの細胞内ドメインが互いに接合し,両サブユニットの脚部が折れ曲がったおじぎ型である。ケモカインなどの刺激がinside-outシグナルを開始し,talinとkindlinがインテグリンの細胞内ドメインにリクルートされ,細胞内ドメインを解離する。この解離が原動力となり脚部が伸展し,頭部が持ち上がりextended formを形成する。Ⅰドメインを有するαサブユニットでは,リガンドの結合が更なる構造変化を誘導して最終的にhigh affinityへと活性化する。

 他方,outside-inシグナルではリガンドの結合を起因として,インテグリンの構造変化とクラスタリングが誘導され,αとβサブユニットの細胞内ドメインが解離する。更にtalinやkindlinがリクルートされ,アクチン細胞骨格と連結し,細胞内骨格の再編成,細胞の遊走を制御するfocal adhesion kinase(FAK)のチロシンリン酸化とRhoファミリー低分子量G蛋白質の活性化,mitogen-activated proteinキナーゼの活性化などが起こる。このようにしてインテグリンの活性化は,細胞内に伝達されて細胞の生存,分化,運動性,遺伝子発現などに影響を与える。

細胞接着(カドヘリン) 永渕 昭良
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 カドヘリン(クラシックカドヘリン)は細胞間接着において中心的な役割を果たす1回膜貫通型膜タンパク質である。哺乳類では17種類前後遺伝子が存在してファミリーを形成し,更に細胞外領域のコンセンサス配列の特徴に従ってタイプⅠ(通常5種類),タイプⅡ(通常12種類)の二つのサブグループに分かれる。カルシウム存在下においてのみ,細胞間の強固でありながら動的な接着に寄与する1)。多くのカドヘリンは同種結合性を示し,動物の形態形成において重要な役割を果たすと考えられている。細胞質領域ではβカテニンとαカテニンを介してアクチン系細胞骨格と相互作用している。また,p120との結合がカドヘリンのリサイクリングや細胞内輸送を制御している。これらの細胞質因子との相互作用は,カドヘリンが生理的機能を発揮するために必須である。

 カドヘリンの高次構造は,細胞外領域について結晶解析が進んでいる。カドヘリンの細胞外領域には五つのカドヘリンリピートが存在し,それぞれのリピート間にそれぞれ三つ,合計で12個のカルシウムイオンが結合することにより,五つのリピートが直列に並んだ少し曲がった構造として安定する。各リピートは特徴的な7本のβストランドから成るβバレル構造をとる。1番目のリピートの最初のβストランドを隣の細胞の同じストランドと交換することにより(ストランドスワップ),安定したトランスの結合状態をとる。1番目のリピートの別の部位が同じ細胞にある隣のカドヘリン分子の2番目のリピートと相互作用することにより,緩やかなシスの分子間結合が生じる。このトランスとシスの結合は互いに直交した形で生じ,この細胞外領域をリポソーム表面に結合させると,そのリポソーム間にカドヘリンを含む接着装置に特有の鋸歯状の周期的な構造が形成される2)。細胞質領域はカドヘリン結合因子であるβカテニンと結合して安定な構造をとる。βカテニンを介してαカテニンと複合体を形成し,アクチン系細胞骨格と相互作用する。膜近傍でp120と結合し,カドヘリンの細胞内輸送やリサイクリングが調節される(図)。

細胞間接着 矢野 智樹 , 月田 早智子
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 細胞の集合体が細胞間接着により形成され,生体システムを構築することで組織や器官の機能と形態を維持し,個体の恒常性を保っている。細胞間接着とは,細胞間接着分子の直接の相互作用によって細胞と細胞とが互いに接着することを示す用語である。細胞間接着分子としては,主に免疫グロブリンスーパーファミリー,セレクチンファミリー,カドヘリンファミリーと呼ばれるタンパク質群の分子が一般的に知られている。加えてクローディンファミリーやコネキシンファミリーなどのタンパク質群も知られているが,シナプスの細胞間接着分子が不明であるなど課題も多い。

 細胞間接着分子として初めて発見されたのは免疫グロブリンスーパーファミリーの一員であるCAM(cell adhesion molecule)である。CAMは共通に免疫グロブリン様モチーフを有する。なかでもNCAMやL1は主に神経細胞に発現し,シナプス形成に重要な役割を担っている。また,VECAMやICAMなどは血管内皮細胞に発現し,血球のインテグリンと結合することで白血球と内皮細胞間の細胞間接着を担っている。

 セレクチンファミリーにはリンパ球ホーミングに重要なレセプター分子が含まれ,レクチン様ドメインを共通に持つ細胞間接着分子群である。セレクチンファミリーの一つであるELAM(endothelial leukocyte adhesion molecule)は,血球が内皮細胞の表面上に弱く接着しながらローリングする際に重要な役割を果たす細胞間接着分子として知られている。

 カドヘリンファミリーの細胞間接着分子は,高次に組織化された細胞間接着構造体を構築する。カドヘリンファミリーメンバーは,主に上皮細胞間接着装置であるアドヘレンスジャンクションとデスモソームと呼ばれる接着装置を構成するが,詳細については前項を参照されたい。上皮細胞間接着装置はそのほかに特徴的な構造および機能を有しており,ギャップジャンクションはイオン,セカンドメッセンジャー,代謝物などを行き来させることにより,隣り合う細胞同士の情報伝達を担っている。タイトジャンクションでは隣り合う上皮細胞同士が限りなく近づくことにより,細胞間バリアが構築される1)。細胞間接着機能の制御機構の解析とその操作には接着分子“全長”の分子構造の解明が重要であるが,そのような例は少ない。ギャップジャンクションとタイトジャンクションの細胞間接着分子は膜タンパク質“全長”の構造が明らかになっている稀有な例である。ギャップジャンクションの細胞間接着分子コネキシンは4回膜貫通タンパク質であり,六量体の構造体コネクソンを形成し,そのコネクソンが向かい合う細胞のコネクソンと結合し,細胞間の連絡通路を形成している。コネキシン分子全長の構造解析の結果,ファネル構造と呼ばれる特徴的な構造は,細胞間に生じる膜電位を感知しコネクソンの孔の開閉を引き起こしていると予想されている2)

 タイトジャンクションに存在する4回膜貫通タンパク質クローディンは,少なくとも27種類のファミリーを形成している。クローディン構造解析から,細胞外の二つのループは計5本のβシートを構成し,βシートが細胞間で結合してβバレルを形成し(掌モデル),細胞間バリアとチャネルを構築すると予想されている3)。接着に関与する膜タンパク質の全長の構造が明らかになることで,細胞間接着の制御機構が解明され,細胞接着をターゲットとした創薬が期待される。

細胞周期 阪上-沢野 朝子 , 宮脇 敦史
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 細胞の増殖と分化とが絡み合うことで,組織,器官,そして個体が形成される。こうした階層的“生命動態システム”において,細胞周期進行はどのような時空間パターンで起こるのか? この問いに答えるために,われわれは細胞周期をリアルタイムに可視化する蛍光プローブFucci(Fluorescent ubiquitination-based cell cycle indicator)を開発した。Fucciを恒常的に発現する生物個体を作製し,様々な発生段階における細胞周期パターンを四次元的に理解するプロジェクトを推し進めている。また,特殊な培養皿FulTrac wellを作製し,浮遊細胞や運動性の高い細胞などの動態を長時間にわたり追跡することを可能にした。本稿では,生命動態システムを細胞周期制御の観点から解析するFucci技術を紹介しながら,細胞周期研究の次世代を展望する。

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 細胞周期はDNA合成のS期と細胞(核・細胞質)分裂のM期を中心に,両者を分かつ二つのGapであるG1,G2の四つのフェーズを基本としてG1→S→G2→M→G1というように秩序だって進行する(図)。細胞周期の正常な遂行をつかさどる機構であるチェックポイントの概念は1970年代,Leland Hartwell(2001年ノーベル生理学・医学賞受賞)が出芽酵母を用いた遺伝学的解析から着想して提唱し,現在に至るまで広く受け入れられている。その提要は,細胞周期では,あるフェーズが正常に終了しないと次のフェーズに進めないというものである1)。実際,幾つかのフェーズ移行点で細胞周期進行はチェックを受けており,そこで認められた異常は細胞周期の停止の後に修復されるか,または異常が深刻な場合は細胞死の誘導による細胞自体の除去が行われる。

 チェックポイントには大きく分けてG1/S期チェックポイント,G2/M期チェックポイント,M期の中-後期移行に関与する紡錘体チェックポイントの三つが存在する(図)2)。G1/S期,G2/M期チェックポイントは,細胞周期進行の主エンジンと言えるサイクリン依存キナーゼ(cyclin-dependent kinase;Cdk)の活性化を阻害する。一方,M期中-後期移行に働く紡錘体チェックポイントは,E3ユビキチンリガーゼ複合体の後期促進複合体(anaphase promoting complex/cyclosome;APC/C)の活性化を抑制する。

 細胞周期とは親細胞の持つ遺伝情報を娘細胞に正確に複製分配する連続した過程であり,チェックポイント機能不全は癌に特徴的な異常な情報伝達(染色体不安定性)の大きな原因となる。これまでの研究によりチェックポイントをつかさどる多くの遺伝子が同定されており,この複雑な機構の理解は長足の進歩を遂げているが,チェックポイントを標的とした新規癌治療薬の開発など,課題もまだ残っている。

アポトーシス 鈴木 淳
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 アポトーシスは細胞死の一種であり,炎症を惹起する細胞死であるネクローシスとは区別される。その特徴としては,DNAの断片化,核の凝縮,小疱形成(ブレビング),細胞の収縮,リン脂質の一種ホスファチジルセリンの露出などがある。また,食細胞による貪食を促すためのシグナル,抗炎症的に働くシグナルを細胞外に放出することも知られている。アポトーシスは細胞表面のデスレセプター刺激を介した外因性シグナル1),ミトコンドリア経路の刺激を介した内因性シグナル2)によって誘導される(図)。培養細胞においては,アポトーシスを誘導後,長時間経った細胞では二次的ネクローシスが誘導されることが知られている。これは細胞の膨張後の破裂,それに伴う細胞内容物の放出などが挙げられる。本稿では,アポトーシスを誘導するための種々の刺激,その評価法などを解説する。

血管新生 福原 茂朋
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 血管新生とは,既存の血管から血管枝が発芽・伸長し,新たな血管網を構築するプロセスである(図)1)。血管新生は,胎生期における血管発生過程で活発に誘導され,全身を張り巡らす血管網の構築に寄与する。成体では通常,血管新生は子宮内膜などの限られた部位でしかみられないが,組織傷害や虚血性疾患などにより組織が虚血状態に陥ると,虚血組織から血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)が産生され,血管新生が誘導される。成熟した血管では,内皮細胞が血管内腔でシート構造を形成し,その周囲を壁細胞が取り巻くことで安定な血管構造が構築される。血管新生が誘導されると血管壁から壁細胞が脱落し,内皮細胞同士の接着が減弱することで血管構造の不安定化が引き起こされる。更に,VEGFが内皮細胞の遊走能,増殖能を亢進することで新たな血管網が構築される。

 癌や糖尿病網膜症などある種の疾患では,血管新生により脆弱で未熟な血管が形成され,これら疾患の病態を悪化させる(病的血管新生という)。このため,病的血管新生をターゲットにした,これら疾患の治療薬の開発が成されている。一方,虚血性疾患の治療を目的に,機能的な血管を再生する血管再生療法の開発研究も精力的に行われている。したがって,臨床的にも血管新生研究の意義は大きい。

免疫シナプス 横須賀 忠
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 免疫系は全身を網羅する生体防御システムであり,それを担う免疫担当細胞は常に情報交換を行っている。その際,サイトカインなどを使い広範なネットワークを形成して行われる場合と,遭遇した細胞と細胞との密な接着を介して行われる場合とがある。免疫シナプス(immunological synapse)は,後者の情報交換効率を上げる場として,T細胞と抗原提示B細胞との間の構造として同定された1)。現在では,T細胞のほか,B細胞,natural killer(NK)細胞,NKT細胞にも存在することがわかっており,抗原受容体を介する抗原認識とシグナル伝達の場として概念化されている。神経細胞のシナプスと同じ情報伝達の場という意味合いから“免疫シナプス”と呼ばれているが,受容体とリガンドとの結合以外にも,サイトカインとその受容体とがタイトな閉鎖空間でやりとりされたり,神経細胞と同じ分子が使われていたり,神経細胞との共通点は意外に多い。

 T細胞の免疫シナプスは,T細胞と抗原提示細胞との接着後5分間で形成され,受容体とリガンドおよびその下流のシグナル伝達分子が再配列した同心円状構造である(図左上)。中心部のcentral-supramolecular activation cluster(c-SMAC)は,T細胞受容体(T cell receptor;TCR)と主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex;MHC),非典型プロテインキナーゼprotein kinase C θ(PKCθ)から成り,その周囲を接着分子lymphocyte function-associated antigen-1(LFA-1)とintercellular adhesion molecule-1(ICAM-1),細胞骨格分子タリンやアクチンが取り囲みperipheral-(p-)SMACを構築する2)。この同心円ができることとT細胞の活性化の程度が相関していることから,免疫シナプスおよびSMACの形成は,十分なT細胞活性化とシグナル伝達に必須であると考えられてきた。その後,20-30個のTCRとその下流近傍のシグナル伝達分子から成るシグナルソーム“TCRマイクロクラスター(microcluster)”がSMACより先んじて形成され,免疫シナプス自体を構成していること,また,T細胞活性化の最小ユニットとして機能していることがわかった3)(図左下)。最近の超解像顕微鏡の進歩と共に,マイクロクラスター形成の前に,更に数個のTCRやシグナル伝達分子がナノクラスター(nanocluster)として凝集塊を形成していることも明らかになっている。細胞膜でのシグナル以外にも,免疫シナプスはアクチンや微小管形成中心(microtubule-organizing center;MTOC)などの細胞骨格構造にも及び,小胞輸送やエクソソーム,ミトコンドリアなどの移動の方向性を決定したり,細胞が分裂し新たなエフェクター細胞へと分化する際の不均等分裂を制御したりという新たな機能もわかってきている(図右)。

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基本情報

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生体の科学
66巻5号 (2015年10月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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